目次
検診やエコーで「卵巣が腫れている」と言われても、その多くは排卵や黄体(排卵後にできる組織)による一時的な腫れで、1〜3回の月経周期のうちに自然に小さくなります。卵巣は毎月の排卵のたびに膨らんだりしぼんだりする臓器だからです。一方で、腫瘍や茎捻転(ねじれ)のように治療が必要な腫れもあり、見分けるには大きさ、中身が液体か固形か、閉経しているかどうかが手がかりになります。ストレスで卵巣が直接腫れるという根拠は、現時点では示されていません。この記事では、卵巣が腫れる原因、症状と受診の目安、検査と経過観察の流れ、生理前・妊娠初期・更年期それぞれの考え方、妊娠への影響までを解説します。
Q. 卵巣が腫れていると言われたら、病気なのでしょうか?
A. 多くは排卵に伴う「機能性嚢胞」で、病気ではありません。閉経前の女性では、3cm以下の袋状のものは正常な卵胞として扱われます。数cmの液体だけの嚢胞も、多くは数周期で自然に消えます。ただし、固形の部分がある、閉経後に新しく見つかった、急に強い痛みが出た、という場合は詳しい検査が必要です。
- ➤いちばん多い原因 → 排卵・黄体による機能性嚢胞(1〜3周期で消えることが多い)
- ➤ストレス → 直接腫れる根拠はない。排卵の乱れを通じた間接的な関わりにとどまる
- ➤見分けるポイント → 大きさ・中身(液体か固形か)・閉経しているか
- ➤すぐ受診するサイン → 突然の激しい下腹部痛、吐き気・嘔吐、発熱
- ➤遺伝の視点 → 家族に卵巣がん・乳がんの人がいる場合は、遺伝性腫瘍の可能性も整理する
1. 卵巣が腫れるとはどういう状態?
「卵巣が腫れている」とは、エコー(超音波検査)で卵巣がふだんより大きく見える状態、または卵巣に袋状の嚢胞(のうほう)やこぶが見える状態をまとめて指す言葉です。病名ではなく、見た目の所見を表す言い方なので、その原因は生理的なものから腫瘍までさまざまです。
卵巣は子宮の左右に1つずつある親指の先ほどの臓器で、卵子を育てて排卵し、女性ホルモンをつくっています。卵子は「卵胞」という液体の入った袋の中で育ち、排卵の直前には卵胞が2cm前後まで大きくなります。排卵したあとの卵胞は「黄体」に変わり、妊娠を支えるホルモン(プロゲステロン)を出します。このように、卵巣は毎月の周期の中で膨らんだりしぼんだりしているため、検査を受けたタイミングによっては、正常でも「腫れている」と表現されることがあります。
正常な卵巣の大きさと、月経周期での変化
米国超音波放射線学会(SRU)の2019年の合意声明は、閉経前の女性で3cm以下の液体だけの袋は「正常」または「卵胞」と表現してよいとしています[1]。3cm以下の袋は、排卵に向けて育っている卵胞や、排卵後の黄体として普通に見られるもので、病気として扱う必要はありません。
生理前に「腫れている」と言われるのは、この周期の変化と関係しています。排卵のあとにできた黄体の中に液体や血液がたまり、2〜3cmを超える袋(黄体嚢胞)として見えることがあるためです。多くは次の月経が来るころに小さくなるので、時期をずらして再検査すると元に戻っていることがよくあります。
閉経後は排卵が止まるため、卵巣は小さくなり、卵胞もほとんど見られなくなります。そのため、閉経前と閉経後では「正常」とみなす大きさの基準が異なり、閉経後はより小さな嚢胞から経過を見ていく対象になります[1]。
「腫れている」と言われる大きさの目安(4cm・5cm・7cm)
液体だけの単純な嚢胞であれば、大きさだけで悪性の可能性が高くなるわけではありません。SRUは、症状がなく、ほかに異常を伴わない単純嚢胞をもつ女性のがんのリスクは、閉経の有無や嚢胞の大きさにかかわらず、嚢胞がない女性と差がないとしています[1]。大きさが問題になるのは、主に「きちんと観察できるか」「ねじれや破裂を起こしやすくならないか」という点です。
📏 閉経前の単純嚢胞(液体だけの袋)の大きさと扱いの目安
| 大きさ | 扱い | 補足 |
|---|---|---|
| 3cm以下 | 正常(卵胞) | 排卵に向けて育つ卵胞・黄体として普通に見られる |
| 3〜5cm | 記載のみで追加検査は不要とされることが多い | 4cm前後の嚢胞の多くは機能性で、数周期で消える |
| 5〜7cm | 画像評価の質に応じて経過観察を検討 | SRUでは、十分に評価された単純嚢胞では7cm超、不十分な評価では5cm超をフォローの目安とする |
| 7cm超 | 経過観察(再検査) | 十分に評価された単純嚢胞でもフォローの対象となる |
※SRUの2019年合意声明[1]に基づく、症状がなく十分に評価された単純嚢胞の目安です。フォローを始める大きさは画像評価の質により5〜7cm超の範囲で設定されます。固形の部分や隔壁(仕切り)がある場合、閉経後の場合、症状が嚢胞に関連すると考えられる場合は、この表とは別に判断されます。
2. 卵巣が腫れる原因
卵巣が腫れる原因は、大きく「生理的な腫れ(機能性嚢胞)」「妊娠や不妊治療に伴う腫れ」「卵巣腫瘍」「炎症」「多嚢胞性卵巣」に分けられます。頻度がもっとも高いのは機能性嚢胞で、治療が必要になる腫れはその一部です。
🔍 卵巣が腫れる主な原因
| 原因 | 特徴 | 主な経過 |
|---|---|---|
| 機能性嚢胞 | 卵胞嚢胞・黄体嚢胞。中身は液体 | 数周期で自然に消えることが多い |
| 妊娠に伴う腫れ | 妊娠黄体、テカルテイン嚢胞 | 妊娠の経過や産後に小さくなる |
| OHSS | 排卵誘発のあとに卵巣が大きく腫れる | 月経が来ると軽くなることが多い |
| 卵巣腫瘍 | 良性・境界悪性・悪性がある | 種類と大きさにより経過観察または手術 |
| 炎症 | 骨盤内炎症性疾患、卵管卵巣膿瘍 | 抗菌薬による治療、必要に応じて処置 |
| 多嚢胞性卵巣 | 小さな卵胞が多数並ぶ | PCOSの診断基準の一部 |
生理的な腫れ:機能性嚢胞(卵胞嚢胞・黄体嚢胞)
機能性嚢胞は、排卵のしくみそのものから生じる一時的な嚢胞で、卵巣が腫れる原因としてもっとも多いものです。排卵されずに残った卵胞が大きくなると「卵胞嚢胞」、排卵後の黄体に液体や血液がたまると「黄体嚢胞」になります。どちらも腫瘍ではありません。
コクランの系統的レビューでは、機能性嚢胞の多くは治療をしなくても数周期のうちに消えており、消えずに残る嚢胞は子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)などの別の病変であることが多いと報告されています[2]。つまり、「一度で消えなかったか」「形が変わらないか」を再検査で確かめることが、機能性嚢胞とそれ以外を見分ける手段になります。嚢胞の種類ごとの特徴は、卵巣嚢胞(卵胞嚢胞・黄体嚢胞)の解説で詳しく扱っています。
💡 用語解説:機能性嚢胞(きのうせいのうほう)
排卵という卵巣の「働き(機能)」に伴ってできる、液体の入った袋のことです。卵胞がはじけずに残った卵胞嚢胞と、排卵後の黄体が袋状になった黄体嚢胞があります。多くは月経周期に合わせて自然に小さくなるため、手術ではなく時期をずらした再検査で経過を確認します。
妊娠初期の腫れ:妊娠黄体とルテイン嚢胞
妊娠すると、黄体は消えずに「妊娠黄体」として残り、胎盤ができあがるまでプロゲステロンを出し続けます。このため、妊娠初期のエコーで片側の卵巣に袋状の黄体が見え、「卵巣が腫れている」と言われることがあります。
これとは別に、胎盤から出るhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)に卵巣が強く反応してできるのが「テカルテイン嚢胞」です。テカルテイン嚢胞は両側の卵巣にできることが多く、卵巣が大きく腫れることがありますが、良性で、多くは産後数か月以内に自然に小さくなると報告されています[3]。多胎妊娠など、hCGが高くなる状況で起こりやすいとされます。
米国産婦人科学会(ACOG)の診療指針によると、妊娠中に見つかる付属器腫瘤(卵巣や卵管のこぶ)は出生数の0.05〜3.2%で、妊娠中に消えるものが51〜92%とされています[4]。
不妊治療のあとの腫れ:OHSS(卵巣過剰刺激症候群)
体外受精などで排卵誘発剤を使うと、複数の卵胞が同時に育つため、卵巣が大きく腫れることがあります。これが強く出た状態が卵巣過剰刺激症候群(OHSS)です。
米国生殖医学会(ASRM)のガイドラインは、OHSSの特徴としてお腹の張りや不快感、息苦しさ、卵巣の腫大、腹水(お腹の中にたまる水)を挙げています。中等症から重症のOHSSは体外受精の周期の約1〜5%で起こると報告されています[5]。hCGによる排卵の引き金から4〜7日後に始まる早発型は、月経が来ると軽くなることが多い一方、妊娠が成立してhCGが上がることで起こる晩発型は重くなりやすく、経過も長引くとされています[5]。採卵後にお腹が急に膨らむ、尿が減る、息苦しいといった症状があれば、治療を受けている施設に連絡してください。
卵巣腫瘍:良性・境界悪性・悪性
卵巣腫瘍は、卵巣の細胞が増えてできる「こぶ」で、大部分は良性です。良性の代表は、液体がたまる漿液性嚢腫、髪の毛や脂肪を含む成熟嚢胞性奇形腫などです。子宮内膜症が卵巣にできて古い血液がたまるチョコレート嚢胞も、卵巣が腫れる原因になります。
良性と悪性の間には「境界悪性」という中間の性質をもつ腫瘍があり、悪性のものが卵巣がんです。固形の部分が多い腫瘍では悪性の可能性を考えて詳しく調べますが、固形の腫瘍でも良性のものはあり、「固形だから悪性」とは言えません。腫瘍の種類と見分け方の全体像は、卵巣腫瘍の解説にまとめています。
炎症による腫れ:骨盤内炎症性疾患・卵管卵巣膿瘍
クラミジアや淋菌などの感染が子宮から卵管・卵巣へと広がると、骨盤内炎症性疾患(PID)と呼ばれる状態になります。米国疾病予防管理センター(CDC)の治療指針では、PIDは子宮内膜炎、卵管炎、卵管卵巣膿瘍、骨盤腹膜炎などを含む上部生殖器の炎症として扱われています[7]。卵管と卵巣が炎症で一塊になり膿がたまった卵管卵巣膿瘍では、エコーで卵巣が腫れているように見えます。下腹部痛、発熱、性交時の痛み、おりものの変化を伴うことが多く、抗菌薬による治療が基本です。
💡 用語解説:骨盤内炎症性疾患(PID)
腟や子宮頸部の細菌が子宮の奥、卵管、卵巣、骨盤の腹膜へと広がって起こる炎症の総称です。治療が遅れると卵管がふさがったり周囲と癒着したりして、不妊や子宮外妊娠の原因になることがあります。性交渉のパートナーの検査・治療もあわせて行われます。
多嚢胞性卵巣(PCOS)
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では、排卵がうまく起こらず、小さな卵胞が卵巣の中にたくさん並んで、卵巣全体が大きく見えることがあります。2023年の国際ガイドラインは、成人で片方の卵巣に卵胞が20個以上見える場合を多嚢胞性卵巣の形態とし、機器の制約で卵胞を数えにくいときは卵巣の容積10mL以上を目安にできるとしています[8]。ここでの「腫れ」は腫瘍ではなく、排卵障害の表れです。診断と治療は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の解説をご覧ください。
3. ストレスで卵巣は腫れる?
ストレスによって卵巣が直接腫れる、あるいは卵巣嚢腫や卵巣腫瘍ができるという根拠は、現時点では示されていません。「疲れがたまって卵巣が腫れた」と感じる方は多いのですが、医学的に確かめられた因果関係はありません。
一方で、ストレスが排卵のしくみに影響することは分かっています。排卵は、脳の視床下部から出る性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)が下垂体を刺激し、下垂体から出るホルモンが卵巣に届くという流れで調節されています。米国内分泌学会のガイドラインは、心理的なストレス、過度の運動、体重減少などがこの視床下部の働きを抑え、月経が止まる「機能性視床下部性無月経」の原因になるとしています[9]。
つまり、ストレスが関わるとすれば「排卵が乱れる」という方向の変化です。排卵のリズムが崩れると、卵胞が排卵されずに残って卵胞嚢胞になる、といった形で間接的に影響する可能性は考えられますが、ストレスが卵巣を大きくする主な原因だとは言えません。腫れの原因をストレスと決めつけて様子を見るのではなく、再検査で大きさや形を確認することが大切です。
🩺 院長コラム【「ストレスのせい」で片づけないために】
卵巣の腫れとストレスを結びつける説明は、インターネット上でよく見かけます。ストレスが月経や排卵のリズムに影響するのは事実ですが、それは「腫れの原因がストレスだと分かった」ということとは別の話です。
原因をストレスに求めて安心してしまうと、再検査の予定がうやむやになりかねません。大切なのは、腫れが消えたのか、残っているのか、形が変わったのかを画像で確かめることだと考えています。
4. 卵巣が腫れたときの症状
卵巣の腫れは、小さいうちはほとんど症状がありません。健康診断や別の目的のエコーで、たまたま見つかることが多いのはこのためです。症状が出るのは、腫れが大きくなって周りを押すようになったとき、または捻転・破裂・出血のような急な変化が起きたときです。
小さいうちは症状が出にくい理由
卵巣は骨盤の奥にあり、周りに腸などが動けるすき間があるため、数cm程度の腫れでは周囲を圧迫しにくい構造になっています。また、片方の卵巣が腫れていても、もう片方がホルモンをつくり続けるため、月経の変化として現れにくいこともあります。症状がないことは「問題がない」ことを意味しませんが、同時に、症状がないまま自然に消えていく機能性嚢胞がとても多いのも事実です[2]。
お腹が出る・見た目でわかる? 便秘・頻尿との関係
数cmの嚢胞で、お腹が見た目にふくらむことはまずありません。見た目で分かるほどお腹が出てくるのは、腫瘍がこぶし大を超えるほど大きくなった場合や、お腹に腹水がたまった場合です。卵巣がんでは腹水が出ることがあるため、急にお腹だけが張ってきた、ズボンがきつくなった、という変化が続くときは受診してください。
大きくなった腫れが膀胱を押せば頻尿に、直腸を押せば便秘や排便時の違和感につながることがあります。ただ、便秘や頻尿はほかの原因で起こることのほうがずっと多い症状なので、これだけで卵巣の腫れを疑う必要はありません。お腹の張りや下腹部の違和感が数週間続く、食欲が落ちてすぐ満腹になる、といった症状が重なる場合は、エコーで確認するきっかけになります。
すぐ受診すべきサイン:茎捻転・破裂・出血
腫れた卵巣は重みで根元からねじれることがあり、これを卵巣茎捻転といいます。ねじれると卵巣への血流が止まるため、突然の強い下腹部痛と吐き気・嘔吐が起こります。早くねじれを戻す手術が行われれば、90%以上で卵巣の働きが保たれたと報告されています[4]。
嚢胞が破れる卵巣破裂や、黄体から出血する卵巣出血でも、急な腹痛が起こります。出血が多い場合は、ふらつきや冷や汗を伴うこともあります。
⚠️ 夜間・休日でも受診を考えるサイン
・突然始まった強い下腹部痛で、動けない
・下腹部痛と一緒に吐き気・嘔吐がある
・38℃以上の発熱と下腹部痛がある
・ふらつき、冷や汗、顔色が悪いなど、出血を思わせる症状がある
・妊娠の可能性があり、下腹部痛や出血がある
5. 「卵巣が腫れている」と言われたら:検査と経過観察の流れ
卵巣の腫れを評価する中心は経腟エコーで、そこで見える中身の性状によって、再検査で様子を見るか、MRIや血液検査で詳しく調べるかが決まります。ACOGの診療指針も、付属器腫瘤の評価の主な目的は悪性を見逃さないことだとしたうえで、画像による評価を基本にしています[4]。日本の産婦人科診療ガイドラインでも、良性と考えられる卵巣嚢胞の鑑別診断と管理が項目として取り上げられています[10]。
エコーで見ていること(中身が液体か固形か)
エコーでは、腫れの大きさだけでなく、壁が薄くなめらかか、内部に仕切り(隔壁)や固形の部分があるか、固形部分に血流があるかを見ています。液体だけで壁が薄い「単純嚢胞」は良性の可能性がきわめて高く、固形部分や血流が多いほど詳しい検査の対象になります。検査の具体的な手順は卵巣エコーの解説で紹介しています。
米国放射線専門医会(ACR)の「O-RADS」という分類では、エコー所見から悪性のリスクを段階的に分けます。ほぼ確実に良性(O-RADS 2)の悪性リスクは1%未満、低リスク(O-RADS 3)は1%以上10%未満、中間リスク(O-RADS 4)は10%以上50%未満、高リスク(O-RADS 5)は50%以上とされています[6]。10cm以下の単純嚢胞の多くは O-RADS 2 に入ります[6]。
MRI・腫瘍マーカー(CA125)
エコーで性状がはっきりしないときや、腫れが大きくて全体が見えにくいときは、MRIで中身の成分(脂肪、血液、固形組織など)を調べます。成熟嚢胞性奇形腫の脂肪や、チョコレート嚢胞の古い血液は、MRIで特徴的に写ります。
血液検査では、腫瘍マーカーのCA125を測ることがあります。ただし、CA125は万能ではありません。ACOGによると、CA125は上皮性卵巣がん全体の80%で上昇しますが、早期(I期)では50%でしか上がりません[4]。また、子宮筋腫、子宮内膜症、骨盤内炎症性疾患、腹水など、がん以外の多くの状態でも上がるため、閉経前の女性では特に結果の解釈に注意が必要です[4]。「CA125が正常だからがんではない」「高いからがんだ」とは言えず、画像所見と合わせて判断します。
💡 用語解説:腫瘍マーカー(CA125)
がん細胞などがつくる物質を血液で測り、診断の補助に使う検査です。CA125は卵巣がんで上がりやすいマーカーですが、月経、子宮内膜症、妊娠、炎症などでも上がります。単独で診断を決めるものではなく、エコーやMRIの結果と組み合わせて評価します。
経過観察の期間と再検査のタイミング
機能性嚢胞が疑われるときは、2〜3周期ほど待ってから再検査するのが一般的です。コクランのレビューも、機能性嚢胞に対しては2〜3周期の経過観察が適切だと結論づけています[2]。月経のあとの時期にエコーを受けると、排卵前後の卵胞や黄体の影響を受けにくくなります。
消えずに残る嚢胞や、良性と考えられる腫瘍で固形部分がないものは、半年から1年ごとの経過観察になることが多くあります。ACOGは、経過観察中に最終的に悪性と分かった腫瘤は、いずれも7か月以内に大きくなっていたという報告を紹介しており、変化のない腫瘤では観察の間隔を1年程度に広げることも示しています[4]。観察の間隔は、年齢、嚢胞の種類、症状によって個別に決められます。
手術を考える目安
手術を考えるのは、悪性が疑われる場合、症状がある場合、ねじれや破裂のおそれが高い場合、経過観察で消えずに大きくなる場合です。「5cmを超えたら必ず手術」という決まりはありません。ACOGは、経験のある検査者による経腟エコーで10cmまでの単純嚢胞は良性の可能性が高く、閉経後の女性であっても、手術をせずに画像で経過を見てよいとしています[4]。閉経後の女性2,763人を追跡した研究では、単純嚢胞の3分の2以上が自然に消え、平均6.3年の観察でがんは見つからなかったと紹介されています[4]。
手術が必要になった場合も、良性であれば卵巣を残して嚢胞だけを取り除く方法が選ばれることが多く、腹腔鏡手術が広く行われています。卵巣を取る手術の影響は卵巣摘出のデメリットで解説しています。
6. 卵巣の腫れは自然に治る? 治す方法はある?
機能性嚢胞は多くが自然に消えますが、卵巣腫瘍やチョコレート嚢胞は自然には消えません。自分で腫れを治す方法はなく、どちらの種類かを見極めることが先になります。
自然に消えるのは、卵胞嚢胞、黄体嚢胞、妊娠黄体、テカルテイン嚢胞、OHSSのように、ホルモンの働きによって一時的に生じた腫れです。これらは周期が進む、妊娠が進む、出産する、といった変化に合わせて小さくなります[2][3][5]。一方、漿液性嚢腫、成熟嚢胞性奇形腫、チョコレート嚢胞などは、組織そのものが変化した病変なので、時間がたっても消えることは通常ありません。
「卵巣の腫れを治す方法」として、食事やサプリメント、体を温めるといった方法が紹介されることがありますが、卵巣の腫れを小さくする効果が確かめられたものはありません。低用量ピル(経口避妊薬)についても、コクランのレビューは、機能性嚢胞の消失を早める効果は認められなかったと結論づけています[2]。ピルは排卵を止めるため、新しい機能性嚢胞ができるのを防ぐ目的や、チョコレート嚢胞の治療として使われることはありますが、「今ある腫れを消す薬」ではありません。
治療が必要な腫れの場合、その方法は原因によって決まります。骨盤内炎症性疾患には抗菌薬[7]、チョコレート嚢胞にはホルモン療法や手術、腫瘍には経過観察または手術、というように、腫れの正体に合わせて選ばれます。
7. 時期・年代別の考え方
同じ「卵巣が腫れている」という指摘でも、生理前か、妊娠中か、閉経後かによって、考えられる原因と次に取るべき対応が変わります。
🗓️ 時期別に考えられる主な原因
| 時期 | 考えられる主な原因 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 生理前・排卵期 | 黄体嚢胞・卵胞嚢胞 | 月経後に再検査 |
| 妊娠初期・妊娠中 | 妊娠黄体、テカルテイン嚢胞、もともとあった腫瘍 | 妊婦健診で経過を確認 |
| 不妊治療中 | 排卵誘発による腫大、OHSS | 治療施設で経過を確認 |
| 更年期・閉経後 | 残った嚢胞、良性腫瘍、まれに悪性腫瘍 | 性状によって経過観察または精密検査 |
生理前・排卵期に言われた
生理前は、排卵後の黄体がもっとも大きくなる時期です。黄体の中に液体や血液がたまって黄体嚢胞になると、エコーでは卵巣が腫れているように見えます。排卵期には、排卵直前の卵胞が2cm前後まで育っています。いずれも卵巣が正常に働いている証拠であり、SRUも閉経前の3cm以下の袋は正常として扱うとしています[1]。
生理前に指摘された腫れが液体だけのものであれば、月経が終わったあとに再検査すると小さくなっていることが多いでしょう。次の周期でも同じ場所に同じ大きさの袋が残っている場合は、機能性嚢胞以外の可能性を考えて経過を見ていきます[2]。
妊娠初期・妊娠中に言われた:安静は必要? 流産と関係ある?
妊娠初期の卵巣の腫れの多くは妊娠黄体によるもので、安静にしなければいけない理由にはなりません。妊娠黄体は妊娠を維持するホルモンをつくっている組織で、胎盤がその役割を引き継ぐにつれて小さくなっていきます。卵巣の腫れそのものが流産の原因になることは通常ありません。
ACOGによると、妊娠中の付属器腫瘤の51〜92%は妊娠の経過中に消え、消えずに残る腫瘤のうち悪性だったのは1.2〜6.8%です[4]。手術が必要になった場合でも、妊娠中期の腹腔鏡手術は安全に行えるとされています[4]。ただし、腫れた卵巣は妊娠中もねじれることがあるため、突然の強い下腹部痛や嘔吐があるときは、妊婦健診を待たずに受診してください。
更年期・閉経後に言われた
閉経後は排卵がないため、機能性嚢胞は基本的にできません。そのため、閉経後に見つかった腫れは、生理前の腫れとは分けて考えます。とはいえ、閉経後に見つかる液体だけの単純嚢胞も多くは良性で、ACOGは10cmまでの単純嚢胞は閉経後でも画像による経過観察でよいとしています[4]。
一方、固形の部分がある、仕切りが厚い、血流が多い、腹水を伴う、といった所見があれば、閉経後では悪性の可能性を考えてMRIなどで詳しく調べます。閉経後の漿液性嚢腫の扱いについては、卵巣に水が溜まる病気の解説でも取り上げています。
8. 卵巣の腫れと妊娠への影響
機能性嚢胞や小さな良性の嚢胞があっても、多くの場合、妊娠は可能です。妊娠のしやすさに影響するかどうかは、腫れの原因、卵巣の残りの働き、治療の内容によって変わります。
腫れがあっても妊娠できる?
機能性嚢胞は排卵のしくみの一部として生じるもので、それ自体が妊娠を妨げることはほとんどありません。妊娠初期に見つかる腫れの多くも、妊娠黄体という妊娠を支える組織です。
妊娠に影響しやすいのは、チョコレート嚢胞のように子宮内膜症を伴う場合、PCOSのように排卵が起こりにくい場合[8]、骨盤内炎症性疾患のあとで卵管が傷ついた場合[7]です。これらは「腫れているから」ではなく、背景にある病気によって妊娠しにくくなるので、原因を確かめて対応することになります。
手術や片側摘出のあとの妊娠と卵巣予備能
卵巣は左右に1つずつあるため、片方を摘出しても、残った卵巣が正常であれば排卵は続き、妊娠は可能です。ただし、「2つあったときとまったく変わらない」とまでは言えません。卵巣に残っている卵子の数を卵巣予備能といい、片側を失えばその分は減ります。ノルウェーの住民調査では、片側の卵巣を摘出した女性は、両側の卵巣が残っている女性より閉経が約1年早かったと報告されています[11]。
嚢胞だけを取り除く手術でも、周りの正常な卵巣組織が一緒に失われ、卵巣予備能が下がることがあります。将来の妊娠を考えている場合は、手術の方法や時期を決める際に、卵巣の働きをできるだけ残す方針を主治医と確認しておくとよいでしょう。
9. 遺伝の視点:家族に卵巣がん・乳がんの人がいる場合
卵巣の腫れのほとんどは遺伝とは関係ありませんが、血縁者に卵巣がんや若い年齢での乳がんの人がいる場合は、遺伝性腫瘍の可能性もあわせて考えます。卵巣がんの一部は、生まれつき特定の遺伝子に病的バリアント(病気の原因となる遺伝子の変化)をもつことで起こりやすくなるためです。
代表的なのが遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)です。主な原因遺伝子はBRCA1とBRCA2で、常染色体顕性(優性)遺伝の形式で親から子へ2分の1の確率で受け継がれます。約1万人の保因者を追跡した前向き研究では、80歳までに卵巣がんを発症する累積リスクは、BRCA1で44%、BRCA2で17%と推定されています[12]。これは集団での推定値で、個人の発症を予言する数字ではありません。
大腸がんや子宮体がんが多い家系では、リンチ症候群も卵巣がんの背景になります。大規模な保因者データベースの解析では、卵巣がんのリスクは原因遺伝子によって差があり、MLH1やMSH2では高く、MSH6では低め、PMS2では明らかな上昇が認められなかったと報告されています[13]。
日本では、HBOCの診療ガイドラインが日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構から出されており、遺伝学的検査の対象や、リスクが高いと分かった場合の管理方法が示されています[14]。卵巣の腫れを指摘されたときに、父方・母方の両方の血縁者について、誰が、何歳で、どのがんになったかという家族歴を整理しておくと、遺伝性腫瘍を考える必要があるかどうかの判断材料になります。遺伝学的検査を受けるかどうかは、結果が本人と血縁者にもたらす意味を含めて、遺伝カウンセリングで整理したうえで決めることが勧められています。
🩺 院長コラム【卵巣の腫れと家族歴を結びつけて考える】
卵巣の腫れのほとんどは機能性嚢胞や良性の腫瘍で、遺伝とは関係がありません。それでも、家族歴を確かめる意味はあると考えています。卵巣がんは早期に見つけにくいがんで、遺伝性腫瘍が背景にある場合は、分かった時点で取れる予防や検診の選択肢が変わるためです。
がん薬物療法専門医と臨床遺伝専門医の両方の資格を持つ立場から、卵巣の画像所見と家族歴は別々の情報として扱わず、重ねて読むことが大切だと考えています。家族に卵巣がんや乳がんの人がいる場合は、その情報も主治医に伝えてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 卵巣が腫れているのはがんですか?
多くはがんではありません。もっとも多い原因は排卵に伴う機能性嚢胞で、数周期で自然に消えることが多いものです。液体だけの単純嚢胞は、大きさや閉経の有無にかかわらず、がんのリスクは嚢胞がない人と差がないとされています。固形の部分がある場合や閉経後に新しく見つかった場合は、MRIなどで詳しく調べます。
Q2. 右(または左)の卵巣だけが腫れているのはなぜですか?
排卵は通常、毎月どちらか片方の卵巣で起こるため、卵胞嚢胞や黄体嚢胞は片側に見えるのが普通です。片側だけが腫れていることは、それだけで異常を意味するものではありません。一方、妊娠中のテカルテイン嚢胞は両側にできることが多いとされています。
Q3. 卵巣の腫れは触って分かりますか?
数cmの腫れを自分で触って確かめることはできません。お腹の上から分かるのは、こぶし大を超えるほど大きくなった場合です。腫れの有無や性状は、経腟エコーで確認します。
Q4. 腫瘍マーカー(CA125)が正常なら安心してよいですか?
CA125が正常でも、がんを否定することはできません。早期の卵巣がんではCA125が上がるのは約半数とされています。反対に、子宮内膜症や月経、炎症などでも上がるため、高いからといってがんとも限りません。画像検査の結果と合わせて判断します。
Q5. 妊娠初期に卵巣が腫れていると言われました。安静にすべきですか?
妊娠初期の腫れの多くは妊娠黄体によるもので、安静が必要になる理由にはなりません。妊娠の経過とともに小さくなることが多く、妊娠中の付属器腫瘤の半数以上は妊娠中に消えると報告されています。ただし、突然の強い下腹部痛や嘔吐がある場合は、ねじれの可能性があるため早めに受診してください。
Q6. 卵巣が腫れているとき、運動や性交渉をしてもよいですか?
小さな機能性嚢胞であれば、日常生活を制限する必要は通常ありません。大きな嚢胞や腫瘍がある場合は、激しい運動がねじれや破裂のきっかけになることがあるため、主治医に確認してください。性交時に強い痛みが出る場合も、受診の際に伝えてください。
Q7. 卵巣の腫れは何科を受診すればよいですか?
婦人科(産婦人科)を受診してください。妊娠中であれば妊婦健診を受けている施設、不妊治療中であれば治療を受けている施設に相談します。突然の強い腹痛や嘔吐がある場合は、夜間・休日でも救急外来の受診を考えてください。
Q8. 卵巣の腫れの検査や治療をミネルバクリニックで受けられますか?
いいえ、当院では卵巣の腫れ(卵巣嚢胞・卵巣腫瘍)の検査・治療は行っていません。この件についてのご予約・お問い合わせもお受けしていません。婦人科を受診してください。
まとめ
卵巣は排卵のたびに膨らんだりしぼんだりする臓器で、「卵巣が腫れている」と言われる原因としてもっとも多いのは、排卵や黄体に伴う機能性嚢胞です。閉経前の3cm以下の袋は正常な卵胞として扱われ[1]、機能性嚢胞の多くは2〜3周期の経過観察のうちに自然に消えます[2]。ストレスで卵巣が直接腫れるという根拠はありません。
一方で、固形の部分がある腫れ、消えずに大きくなる腫れ、閉経後に新しく見つかった腫れは、MRIなどで詳しく調べる対象になります[4][6]。突然の強い下腹部痛や嘔吐は、ねじれや破裂のサインである可能性があります。妊娠中の腫れの多くは妊娠黄体によるもので、片側の卵巣を失っても妊娠は可能ですが、卵巣予備能には影響します[11]。血縁者に卵巣がんや乳がんの人がいる場合は、家族歴も含めて主治医に伝えてください。
🏥 卵巣の腫れの検査・治療をお考えの方へ
当院では、卵巣の腫れ(卵巣嚢胞・卵巣腫瘍)の検査・診断・治療を行っておりません。
この件についてのご予約・お問い合わせはお受けしておりません。
卵巣の腫れを指摘された場合は、婦人科(産婦人科)を専門とする医療機関へご相談ください。
この記事は病気を正しく知っていただくための解説であり、当院での診療をご案内するものではありません。なお、他の診療の過程で具体的な遺伝学的評価が必要と判断された場合に限り、遺伝カウンセリングが関係することがあります。
参考文献
- [1] Levine D, Patel MD, Suh-Burgmann EJ, et al. Simple Adnexal Cysts: SRU Consensus Conference Update on Follow-up and Reporting. Radiology. 2019;293(2):359-371. doi:10.1148/radiol.2019191354. PMID:31549945 [RSNA]
- [2] Grimes DA, Jones LB, Lopez LM, Schulz KF. Oral contraceptives for functional ovarian cysts. Cochrane Database Syst Rev. 2014;(4):CD006134. doi:10.1002/14651858.CD006134.pub5 [Cochrane Library]
- [3] Kim S, Lee I, Park E, et al. Delayed postpartum regression of theca lutein cysts with maternal virilization: A case report. Clin Exp Reprod Med. 2021;48(4):380-384. doi:10.5653/cerm.2021.04546 [PMC8651767]
- [4] American College of Obstetricians and Gynecologists. Practice Bulletin No. 174: Evaluation and Management of Adnexal Masses. Obstet Gynecol. 2016;128(5):e210-e226. doi:10.1097/AOG.0000000000001768 [PubMed 27776072]
- [5] Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Prevention of moderate and severe ovarian hyperstimulation syndrome: a guideline. Fertil Steril. 2024;121(2):230-245. [ASRM]
- [6] Andreotti RF, Timmerman D, Strachowski LM, et al. O-RADS US Risk Stratification and Management System: A Consensus Guideline from the ACR Ovarian-Adnexal Reporting and Data System Committee. Radiology. 2020;294(1):168-185. doi:10.1148/radiol.2019191150. PMID:31687921 [RSNA]
- [7] Centers for Disease Control and Prevention. Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021. MMWR Recomm Rep. 2021;70(4). [CDC]
- [8] Teede HJ, Tay CT, Laven JJE, et al. Recommendations From the 2023 International Evidence-based Guideline for the Assessment and Management of Polycystic Ovary Syndrome. J Clin Endocrinol Metab. 2023;108(10):2447-2469. doi:10.1210/clinem/dgad463 [JCEM]
- [9] Functional Hypothalamic Amenorrhea: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2017;102(5). [JCEM]
- [10] 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2023. CQ219「良性腫瘍と考えられる卵巣囊胞の鑑別診断と管理は?」 [Minds]
- [11] Bjelland EK, Wilkosz P, Tanbo TG, Eskild A. Is unilateral oophorectomy associated with age at menopause? A population study (the HUNT2 Survey). Hum Reprod. 2014;29(4):835-841. doi:10.1093/humrep/deu026 [Human Reproduction]
- [12] Kuchenbaecker KB, Hopper JL, Barnes DR, et al. Risks of Breast, Ovarian, and Contralateral Breast Cancer for BRCA1 and BRCA2 Mutation Carriers. JAMA. 2017;317(23):2402-2416. doi:10.1001/jama.2017.7112 [JAMA]
- [13] Dominguez-Valentin M, Sampson JR, Seppälä TT, et al. Cancer risks by gene, age, and gender in 6350 carriers of pathogenic mismatch repair variants: findings from the Prospective Lynch Syndrome Database. Genet Med. 2020;22:15-25. doi:10.1038/s41436-019-0596-9 [Genetics in Medicine]
- [14] 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 編. 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン 2024年版. 金原出版. [Minds]





