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卵巣腫瘍とは?良性・境界悪性・悪性の違い、症状と手術の目安、遺伝との関係を臨床遺伝専門医が解説

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

卵巣腫瘍(らんそうしゅよう)とは、卵巣にできる「できもの」の総称で、およそ9割は良性です。ただし、良性と悪性(卵巣がん)の中間にあたる「境界悪性腫瘍」や卵巣がんも同じ名前でまとめて呼ばれるため、「卵巣腫瘍」と言われただけではどれに当たるのかはわかりません。画像検査で良性か悪性かをある程度推定できますが、最終的に確定するのは手術で取り出した組織の病理検査です。この記事では、卵巣腫瘍の種類、お腹の張りなどの症状、良性と悪性の見分け方、何センチで手術になるのかという目安、そして一部の卵巣腫瘍に関わる遺伝の話を、臨床遺伝専門医の立場から解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🩺 卵巣腫瘍・良性と悪性・手術の目安・遺伝
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 卵巣腫瘍はがんですか?

A. 卵巣腫瘍の約9割は良性で、がんではありません。残りに境界悪性腫瘍と悪性腫瘍(卵巣がん)が含まれます。良性か悪性かは経腟超音波やMRI、腫瘍マーカーで推定し、最終的には手術で取り出した組織を顕微鏡で調べて確定します。手術が必要かどうかは大きさだけでは決まらず、腫瘍の中身(液体か、固い部分があるか)や年齢、症状をあわせて判断します。

  • ➤種類 → 良性・境界悪性・悪性の3段階と、発生する組織による4分類
  • ➤症状 → 小さいうちは無症状。大きくなるとお腹の張り・頻尿・便秘
  • ➤手術の目安 → 大きさだけでなく、充実部分・増大・症状・年齢で判断
  • ➤遺伝の視点 → 卵巣がんの一部はHBOCやリンチ症候群と関係する

1. 卵巣腫瘍とは?【結論】約9割は良性です

卵巣腫瘍とは、卵巣に発生した腫瘍の総称です。およそ90%は良性で、約10%が悪性とされています。日本婦人科腫瘍学会の市民向け解説では、卵巣腫瘍を良性腫瘍、境界悪性腫瘍、悪性腫瘍の3つに分けたうえで、この割合が示されています[1]。「腫瘍」という言葉から、すぐにがんを想像される方は少なくありませんが、医学でいう腫瘍は「細胞が増えてできたかたまり」のことで、良性のものも悪性のものも含みます。

一方で、卵巣がんは決してまれな病気ではありません。国立がん研究センターの統計では、日本で卵巣がんと診断された人は2023年に12,926例、卵巣がんによる死亡は2024年に5,116人でした[3]。9割が良性という数字は安心材料になりますが、あくまで卵巣腫瘍全体をまとめた集団のデータです。目の前の腫瘍が良性である確率を示すものではなく、年齢や腫瘍の見た目によって悪性の可能性は変わります。一般に、閉経後に見つかった腫瘍では悪性の割合が高くなるため、検査の進め方も年齢によって異なります。

卵巣は子宮の両側に1つずつある、親指の頭ほどの大きさの臓器です。卵子を育てて排卵させる働きと、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンをつくる働きを担っています。卵子のもとになる細胞、ホルモンをつくる細胞、表面を覆う細胞、それらを支える間質の細胞と、性質の違う細胞が集まっているため、体の中でも多くの種類の腫瘍が発生する臓器です[2]。

卵巣腫瘍・卵巣嚢腫・卵巣嚢胞の違い

「卵巣腫瘍」は卵巣にできるできもの全体を指す言葉で、そのうち中に液体がたまった袋状のものを「卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)」や「卵巣嚢胞(らんそうのうほう)」と呼びます。診察で「卵巣が腫れている」と言われたときには、これらのどれかを指していることがほとんどです。

ここで区別しておきたいのが、腫瘍ではない「機能性嚢胞(きのうせいのうほう)」です。卵巣では毎月、卵胞が育って排卵し、そのあとに黄体ができます。この過程で卵胞や黄体に液体がたまり、一時的に袋のようにふくらむことがあります。これは細胞が勝手に増えてできた腫瘍ではなく、月経周期に伴う生理的な変化です。閉経前の女性で見つかる5cm未満の単純な嚢胞の多くは、2〜3回の月経周期のうちに自然に消えるとされています[4]。

これに対して、腫瘍性の嚢腫(漿液性嚢腫、粘液性嚢腫、奇形腫など)やチョコレート嚢胞は、時間がたっても自然には消えません。そのため、はじめて卵巣の腫れを指摘されたときには、すぐに手術を決めるのではなく、月経周期をまたいで超音波検査を繰り返し、消えるかどうかを確かめることがよくあります。「自然に小さくなることはあるのか」という疑問には、「機能性嚢胞であれば消えることがあるが、腫瘍性のものは消えない」と答えることになります。嚢胞の種類と経過観察の考え方は卵巣嚢胞とは?自然に消えることはある?で詳しく解説しています。

💡 用語解説:機能性嚢胞(きのうせいのうほう)

排卵の前後に卵胞や黄体に液体がたまり、卵巣が一時的に袋状にふくらんだ状態です。卵胞嚢胞や黄体嚢胞がこれにあたります。細胞が増えてできた腫瘍ではないため、多くは月経周期とともに自然に小さくなります。超音波では壁が薄く、中身が均一な液体に見える「単純嚢胞」として映ることが多いのが特徴です。

卵巣が「沈黙の臓器」と呼ばれる理由

卵巣は、腫瘍ができてもかなり大きくなるまで症状が出にくいため、「沈黙の臓器」と呼ばれます。卵巣は骨盤の奥にあり、周囲には腸や膀胱が収まる空間があります。腫瘍が大きくなっても、はじめのうちは周りの臓器を少し押しのけるだけで済み、痛みを感じる神経も刺激されにくいのです。

そのため、卵巣腫瘍の多くは、子宮がん検診や妊娠の確認、ほかの病気で受けたCTなど、別の目的の検査で偶然見つかります。お腹の張りや頻尿といった症状が出るのは、腫瘍がこぶし大ほどに育ってからのことが少なくありません。卵巣がんが早い段階で見つかりにくい理由も、この位置と構造にあります。卵巣が骨盤のどのあたりにあるのかは、卵巣の位置の記事で図とあわせて確認できます。

逆にいえば、症状がないことは「腫瘍がない」ことや「良性である」ことの証明にはなりません。定期的な婦人科の受診で経腟超音波を受けておくと、症状が出る前の小さな段階で卵巣の変化に気づくきっかけになります。

2. 卵巣腫瘍の種類

卵巣腫瘍は、「性質(良性・境界悪性・悪性)」と「どの細胞から発生したか(組織の種類)」という2つの軸で分類されます。診断名は、この2つを組み合わせて「良性の漿液性嚢胞腺腫」「境界悪性の粘液性腫瘍」のように表されます。どちらの軸で話しているのかを分けて考えると、医師の説明や検査結果が理解しやすくなります。

良性・境界悪性・悪性の3段階

良性腫瘍は周りの組織に入り込まず転移もしない腫瘍、悪性腫瘍(卵巣がん)は周りに入り込み転移しうる腫瘍、境界悪性腫瘍はその中間の性質をもつ腫瘍です。日本婦人科腫瘍学会も、卵巣腫瘍をこの3つに分けて説明しています[1]。

では、境界悪性腫瘍はがんなのでしょうか。境界悪性腫瘍では、良性腫瘍よりも上皮の細胞がよく増え、形のばらつき(異型)も見られますが、がんの特徴である「間質への浸潤」、つまり細胞が周囲の組織に入り込んでいく性質がありません[5]。浸潤がないという点でがんとは区別されますが、再発することがあるため、手術後も長く経過を見ていく必要があります。

境界悪性腫瘍は、上皮性の卵巣悪性腫瘍のおよそ15%を占め、3分の1以上が40歳未満の女性に起こります。78〜82%はI期(卵巣にとどまった段階)で見つかり、5年生存率は90%を超えると報告されています[5]。比較的若い人に多く予後もよいため、妊娠の希望がある場合には、子宮や片側の卵巣を残す手術が検討されます。

💡 用語解説:浸潤(しんじゅん)

腫瘍の細胞が、もともとの場所の境界を越えて周囲の組織(間質)に入り込んでいくことです。浸潤があると、細胞が血管やリンパ管に入り、離れた場所に転移する可能性が出てきます。浸潤と転移は別の現象で、浸潤は「周りに入り込むこと」、転移は「離れた場所に移って増えること」を指します。境界悪性腫瘍は、この浸潤がない点でがんと区別されます。

発生する組織による4分類

卵巣腫瘍は、どの細胞から発生したかによって、上皮性腫瘍、胚細胞腫瘍、性索間質性腫瘍、転移性腫瘍の4つに大きく分けられます。このうち最も多いのは卵巣の表面や卵管に由来する細胞から発生する上皮性腫瘍で、卵巣がんの多くもこのグループに入ります[2]。

胚細胞腫瘍は、卵子のもとになる細胞(胚細胞)から発生する腫瘍で、若い女性に多いのが特徴です。代表的なのが良性の成熟嚢胞性奇形腫で、悪性の胚細胞腫瘍も若い年代に起こることがあります。性索間質性腫瘍は、卵子を包んでホルモンをつくる顆粒膜細胞や、それを支える間質の細胞から発生し、女性ホルモンや男性ホルモンをつくる腫瘍が含まれます。転移性腫瘍は、胃や大腸、乳房など卵巣以外のがんが卵巣に転移したものです。

🔬 発生する組織による卵巣腫瘍の分類

分類 発生する細胞 代表的な腫瘍 特徴
上皮性腫瘍 卵巣の表面・卵管に由来する上皮細胞 漿液性・粘液性の嚢胞腺腫、境界悪性腫瘍、卵巣がん(漿液性・類内膜・明細胞・粘液性) 最も多いグループ。卵巣がんの多くがここに入る
胚細胞腫瘍 卵子のもとになる胚細胞 成熟嚢胞性奇形腫、未分化胚細胞腫など 若い女性に多い。良性の奇形腫が大部分
性索間質性腫瘍 顆粒膜細胞・莢膜細胞・間質細胞など 線維腫、顆粒膜細胞腫、セルトリ・ライディッヒ細胞腫 ホルモンをつくる腫瘍を含む。遺伝性症候群と関連するものがある
転移性腫瘍 卵巣以外の臓器のがん細胞 胃がん・大腸がん・乳がんなどの卵巣転移 もとのがんの治療が中心になる

※分類の大枠は日本産科婦人科学会の解説[2]に基づく。個々の腫瘍の頻度は年齢層によって大きく異なります。

性索間質性腫瘍のうち、成人に多い成人型顆粒膜細胞腫は、エストロゲンをつくることで不正出血や子宮内膜の肥厚を起こすことがあります。このグループには、第7章で触れるように、生まれつきの遺伝子の変化と関係するものが含まれています。

よく見つかる代表的な卵巣腫瘍

実際によく見つかる卵巣腫瘍は、漿液性・粘液性の嚢腫、成熟嚢胞性奇形腫、チョコレート嚢胞、そして卵巣がんです。それぞれ性質も治療も違うため、診断名がわかったら、その病気について個別に調べるのが近道です。

漿液性嚢腫(しょうえきせいのうしゅ)は中にさらさらした液体がたまった嚢腫、粘液性嚢腫(ねんえきせいのうしゅ)はねばりのある液体がたまった嚢腫で、どちらも上皮性の良性腫瘍です。粘液性嚢腫は大きくなりやすく、ときに腹部全体をふくらませるほどに育つことがあります。

成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫)は、中に髪の毛や脂肪、歯などが含まれることで知られる胚細胞腫瘍で、若い女性に見つかる卵巣腫瘍の代表です。チョコレート嚢胞は、子宮内膜症が卵巣にできて古い血液がたまったもので、厳密には腫瘍ではありませんが、卵巣の腫れとして同じように扱われます。卵巣がんは悪性の卵巣腫瘍で、多くは上皮性です。卵巣がんの初期症状や進行、治療の詳細は、それぞれの記事にまとめています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「腫瘍」という言葉に引きずられないために】

「卵巣腫瘍」と聞くと、それだけでがんを宣告されたように受け止めてしまう方は多いと思います。けれども医学の「腫瘍」は良性のものを広く含む言葉で、卵巣腫瘍の大部分は良性です。まず確かめたいのは、それが良性・境界悪性・悪性のどれにあたりそうか、そしてどの組織から発生したものか、という2点です。

がん薬物療法専門医と臨床遺伝専門医の資格をもつ立場から見ても、卵巣の腫瘍は「名前は同じでも中身がまったく違う病気の集まり」だと考えています。診断名を一つずつ確かめ、その病気に合った情報を探すことが大切です。

3. 卵巣腫瘍の症状|お腹の出方と受診の目安

卵巣腫瘍は小さいうちはほとんど症状がなく、大きくなってから、お腹の張りやぽっこりした出方、頻尿、便秘などが現れます。一方で、腫瘍がねじれたり破れたりしたときには、急に激しい腹痛が起こります。ゆっくり進む症状と急に起こる症状とでは、受診の急ぎ方がまったく違います。

小さいうちは無症状のことが多い

卵巣腫瘍は、小さいうちは無症状のことが多く、月経や妊娠にも影響しないことがほとんどです。日本婦人科腫瘍学会も、腫瘍が小さい場合は症状がないことが多いと説明しています[1]。このため、卵巣腫瘍は検診や別の病気の検査で偶然見つかるケースが目立ちます。

月経痛が強くなった、月経の量が増えたといった変化は、卵巣腫瘍そのものよりも、子宮筋腫やチョコレート嚢胞(子宮内膜症)など別の病気で起こることが多い症状です。また、閉経後の出血は子宮体がんなど子宮の病気を考えるべき症状です。こうした症状がある場合も婦人科の受診は必要ですが、「卵巣腫瘍の症状」とひとまとめにせず、原因を一つずつ確かめていくことになります。

大きくなると出る症状(お腹の張り・頻尿・便秘)

腫瘍が大きくなると、膀胱や腸を圧迫して頻尿や便秘が起こり、血管やリンパ管が圧迫されると脚のむくみが出ることがあります。腹水がたまることもあります[1]。日本産科婦人科学会も、卵巣がんが進行したときの症状として、お腹が張って苦しい、下腹部が痛い、尿が近くなる、を挙げています[2]。

卵巣腫瘍でお腹がぽっこり出ることはあります。腫瘍がこぶし大を超えると、下腹部が片側あるいは中央からふくらんで見えることがあり、太ったと思ってしまう方が少なくありません。体重はあまり変わらないのに下腹部だけが出てきた、スカートのウエストがきつくなった、あおむけで下腹部に固いものが触れる、といった変化は受診のきっかけになります。

ただし、お腹の出方で良性か悪性かを見分けることはできません。良性の粘液性嚢腫でも大きく育つことがあり、逆に卵巣がんでも腹水がたまって初めてお腹が張ることがあります。お腹の変化は「卵巣に何かあるかもしれない」というサインであって、診断は画像検査で行います。

急な激しい痛みは茎捻転・破裂のサイン

急に下腹部が激しく痛み、吐き気や冷や汗を伴うときは、卵巣腫瘍の茎捻転(けいねんてん)や破裂が考えられ、緊急の手術が必要になることがあります。日本婦人科腫瘍学会も、茎捻転や破裂の際には激しい下腹部痛が起こり、緊急手術が必要になると説明しています[1]。

茎捻転とは、腫瘍で重くなった卵巣が、根元の靱帯や血管を軸にしてねじれてしまう状態です。血液の流れが止まると卵巣が傷んでしまうため、早く手術でねじれを戻す必要があります。一般に、腫瘍が大きいほどねじれやすくなると考えられています。米国産科婦人科学会(ACOG)の診療指針では、茎捻転の手術ではねじれを戻して卵巣を残すことを優先し、血流が悪くなった所見があっても、術後3か月の時点で約90%の例で卵巣の働きが保たれていたとしています[6]。ねじれの仕組みや手術の詳細は卵巣茎捻転の記事で解説しています。

腫瘍の壁が破れて中身がお腹の中に漏れ出す卵巣破裂でも、強い痛みが起こります。「卵巣腫瘍を放置するとどうなるか」という疑問には、良性でも茎捻転や破裂を起こしうること、そして悪性であれば進行することがある、と答えることになります。

⚠️ すぐに受診してほしい症状

急に始まった強い下腹部痛、痛みで動けない、吐き気や嘔吐を伴う、冷や汗が出る、といった場合は、茎捻転や破裂の可能性があります。夜間や休日でも、救急外来のある医療機関を受診してください。卵巣腫瘍があるとすでにわかっている方は、そのことを医療機関に伝えてください。

4. 卵巣腫瘍の原因となりやすい人

卵巣腫瘍の多くは、はっきりした原因がわからないまま発生します。一方で、卵巣がんについては、子宮内膜症や年齢、家族歴など、なりやすさに関わる要因が知られています。ここでは、よく寄せられる「ストレスが原因か」という疑問と、わかっているリスク因子を整理します。

卵巣腫瘍の原因はストレス?

ストレスが卵巣腫瘍の原因になるという医学的な根拠は、現時点では確認されていません。卵巣腫瘍が見つかると、「仕事が忙しかったから」「無理をしたから」と考えてしまうかもしれませんが、卵巣腫瘍の発生と日常のストレスを結びつけるデータは示されていません。

ストレスで月経周期が乱れることはあり、その結果として排卵や黄体の形成が不規則になり、機能性嚢胞ができやすくなる可能性は考えられます。しかし、これは一時的な嚢胞の話で、細胞が増えてできる腫瘍の原因とは別のものです。「ストレスを減らせば腫瘍が消える」「気持ちの持ちようで予防できる」とは言えません。

卵巣腫瘍の多くは、卵巣の細胞に後から起きた遺伝子の変化が積み重なって発生すると考えられています。その中で一部の卵巣腫瘍は、生まれつき持っている遺伝子の変化と関係しています。この点は第7章で詳しく説明します。

卵巣腫瘍・卵巣がんのリスク因子

卵巣がんのリスクに関わる要因として、年齢、子宮内膜症、家族歴がよく知られています。卵巣がんは年齢とともに増え、閉経前後から高齢の世代に多くなります。

子宮内膜症、特に卵巣のチョコレート嚢胞がある人では、卵巣がんのうち明細胞がんや類内膜がんなどのリスクが高くなることが、複数の症例対照研究をまとめた解析で示されています[7]。ただし、これは集団でのリスクの上昇であり、チョコレート嚢胞があれば多くの人ががんになるという意味ではありません。定期的に超音波で経過を見ていくことが基本です。

もう一つの重要な要因が家族歴です。母親や姉妹、祖母、おばなどの血縁者に卵巣がんや乳がん、あるいは大腸がんや子宮体がんの方が複数いる場合、生まれつきの遺伝子の変化が関わっている可能性があります。家族歴は、ご本人が変えられない要因である一方、わかっていれば検査や予防の選択肢を事前に検討できる情報でもあります。どの遺伝子がどの程度リスクに関わるかは、第7章で整理します。

5. 良性か悪性かの見分け方|検査と診断

卵巣腫瘍が良性か悪性かは、経腟超音波、MRI・CT、腫瘍マーカーを組み合わせて推定し、最終的には手術で取り出した組織の病理検査で確定します。日本婦人科腫瘍学会・日本産科婦人科学会ともに、この流れで診断を進めると説明しています[1][2]。どの検査も単独では良性・悪性を確定できないため、結果を重ね合わせて判断します。

問診・内診月経歴・症状・家族歴
▶
経腟超音波液体か・充実部分か
▶
MRI・腫瘍マーカー悪性の可能性を評価
▶
手術・病理診断良性・悪性を確定

経腟超音波検査でわかること

経腟超音波(経腟エコー)は、卵巣腫瘍の評価の出発点になる検査で、腫瘍の大きさと、中身が液体だけか、固い部分(充実部分)があるかを調べます。細い器具を腟に入れて、すぐそばから卵巣を観察するため、お腹の上から当てる超音波よりも細かい構造がよく見えます。

壁が薄く中身が均一な液体だけの「単純嚢胞」は、良性の可能性が高いと判断されます。一方、壁の一部が盛り上がっている(乳頭状の突起)、固い部分が多い、中が不規則な仕切りで区切られている、周りに腹水がある、といった所見は、悪性を疑う手がかりになります。国際卵巣腫瘍解析グループ(IOTA)が考案した「シンプルルール」は、良性を示す5つの所見と悪性を示す5つの所見で腫瘍を判定する方法で、開発時の検証では感度93%、特異度90%と報告されています。ただし、判定できたのは76%で、残りは良性とも悪性とも判定できない「判定不能」になりました[8]。

このように、経腟超音波は多くの腫瘍を良性か悪性かに振り分けられる一方で、判断がつかない腫瘍も一定の割合で残ります。そうした場合に次のMRIや腫瘍マーカーが加わります。経腟超音波の方法や受ける間隔は卵巣エコーの記事で解説しています。

MRI・CTで調べること

MRIは、超音波で判断がつかない卵巣腫瘍の中身をより詳しく調べる検査で、脂肪や古い血液、線維成分などを見分けるのに役立ちます。たとえば成熟嚢胞性奇形腫に含まれる脂肪や、チョコレート嚢胞の古い血液は、MRIで特徴的に映ります。充実部分の血流の多さを造影剤で評価し、悪性の可能性を推定することもできます。

CTは、悪性が疑われる場合に、腹部全体やリンパ節、肝臓、肺などへの広がりを確認するために用いられます。卵巣がんと診断されたあとの病期の確認や、再発の評価にはPET/CTが使われることもあります。いずれも「腫瘍の性質を推定する」ための検査で、画像だけで良性・悪性を確定することはできません。

腫瘍マーカー(CA125など)でわかること・わからないこと

腫瘍マーカーは、がん細胞がつくりやすい物質を血液で測る検査で、卵巣腫瘍ではCA125がよく用いられますが、これだけで卵巣がんを見つけたり否定したりすることはできません。ACOGの診療指針によると、CA125はI期の上皮性卵巣がんでは約50%でしか上昇しません。また、胚細胞腫瘍や間質性の腫瘍、粘液性のがんでは上がりにくいとされています[6]。

反対に、CA125は子宮内膜症や子宮筋腫、骨盤内の炎症、腹水など、がんではない状態でも上がります[6]。特に閉経前の女性では、月経や子宮内膜症によって数値が変動しやすいため、単独の数値で判断せず、超音波やMRIの所見とあわせて解釈します。胚細胞腫瘍が疑われる若い女性では、AFPやhCGなど別の腫瘍マーカーを測ることもあります。

💡 用語解説:腫瘍マーカー

がん細胞が多くつくる物質を、血液検査で測定するものです。卵巣がんではCA125、胚細胞腫瘍ではAFPやhCGなどが使われます。がんでも上がらないことがあり(偽陰性)、がんでなくても上がることがある(偽陽性)ため、がんの有無を決める検査ではなく、画像検査と組み合わせて悪性の可能性を評価したり、治療の効果や再発を追いかけたりするために使われます。

確定診断は手術で取り出した組織の病理検査

卵巣腫瘍の良性・境界悪性・悪性を確定するのは、手術で取り出した組織を顕微鏡で調べる病理検査です。卵巣は体の奥にあり、がんが疑われる腫瘍に針を刺して組織を取ると、がん細胞をお腹の中に広げてしまうおそれがあります。そのため、胃や乳房のように手術前に組織をとって確かめる方法は、卵巣腫瘍では原則として行われません。

手術中に組織の一部をすぐに凍らせて調べる「術中迅速病理診断」を行い、その結果をもとに切除する範囲を決めることもあります。ただし、術中迅速病理診断は卵巣腫瘍全体では高い診断精度が報告されていますが、境界悪性腫瘍、特に粘液性腫瘍では最終病理診断と一致しないことがあります。最終的な診断は、摘出した組織を時間をかけて標本にする病理検査で確定します[20]。手術前に「おそらく良性」と説明されていても、最終結果で境界悪性とわかることがあるのは、このためです。

6. 卵巣腫瘍の治療|何センチで手術になる?

卵巣腫瘍で手術が必要かどうかは、大きさだけでは決まりません。腫瘍の中身が液体だけか固い部分があるか、大きくなっているか、症状があるか、年齢や閉経しているかをあわせて判断します。「5cmを超えたら手術」という説明を目にすることがありますが、現在の診療指針では、超音波で単純嚢胞と判断された腫瘍は、それより大きくても経過を見ることがあります。

経過観察になるケース

経験のある検査者による経腟超音波で単純嚢胞と判断された腫瘍は、直径10cmまでであれば、閉経後の女性でも手術をせずに画像検査で経過を見ることができるとされています。ACOGの診療指針は、この大きさの単純嚢胞は良性の可能性が高いとしています[6]。

米国超音波放射線学会の合意に基づく目安では、閉経前の女性の単純嚢胞は、5cm未満なら追加の検査は不要、5〜7cmなら年1回の超音波、7cmを超える場合は婦人科で詳しく調べる、とされています。閉経後の女性では、CA125などを参考にしながら、4〜6か月後に超音波を再検します[4]。同じ報告では、大規模な検診研究で、閉経後女性の単純嚢胞が4年の観察期間中に卵巣がんへ進んだ例はなかったとされています[4]。

経過観察は「何もしない」ことではなく、決められた間隔で超音波を受け、大きさや中身の変化を確かめる治療方針です。途中で大きくなる、固い部分が出てくる、症状が出る、といった変化があれば、手術を検討する段階に移ります。

手術を考える目安

手術を考えるのは、腫瘍に固い部分(充実部分)がある、大きくなってきている、症状がある、画像や腫瘍マーカーで悪性が疑われる、茎捻転や破裂の危険が高い、といった場合です。成熟嚢胞性奇形腫やチョコレート嚢胞など、自然には消えない腫瘍では、大きさや症状、妊娠の希望をふまえて手術の時期を決めます。ACOGの指針でも、成熟嚢胞性奇形腫を経過観察した289人のうち26%が最終的に手術を受けており、その多くは大きい、または早く大きくなる腫瘍でした[6]。

「何センチで手術になりますか」という質問に一つの数字で答えられないのは、このためです。小さくても固い部分が目立つ腫瘍は早めに手術を検討し、大きくても単純嚢胞であれば経過を見ることがあります。一般に、大きくなるほど茎捻転を起こしやすいと考えられていますが、何センチからねじれやすいかという明確な境界は示されていません。

悪性が疑われる場合、ACOGは、閉経後でCA125が高い、画像で悪性を疑う所見がある、腹水がある、転移を疑う所見がある、といった条件で、婦人科腫瘍の専門医への紹介を勧めています[6]。

良性の卵巣腫瘍の手術

良性の卵巣腫瘍の手術には、腫瘍だけを取り除いて卵巣を残す「嚢腫摘出術」と、卵巣と卵管をまとめて取る「付属器切除術」があり、多くは腹腔鏡で行われます。日本婦人科腫瘍学会は、良性腫瘍には腹腔鏡下の付属器切除術、妊娠を希望する場合には嚢腫摘出術が行われると説明しています[1]。

妊娠を希望する女性では、卵巣の組織をできるだけ残す嚢腫摘出術が選ばれることが多く、片側の卵巣が残れば排卵と女性ホルモンの分泌は続きます。「卵巣腫瘍の手術後に妊娠できるか」という疑問には、良性で卵巣を残す手術であれば妊娠できる可能性は残る、と答えることができます。ただし、チョコレート嚢胞の手術では卵巣の予備能が下がることがあるなど、腫瘍の種類によって注意点が異なります。

閉経後の女性や、腫瘍が大きく卵巣の組織が残っていない場合には、付属器切除術が選ばれます。両側の卵巣を取ると、閉経前の女性では更年期と同じ変化が急に起こります。卵巣を取ることで起こる体の変化と対策は卵巣を摘出するデメリットの記事で解説しています。

境界悪性・悪性(卵巣がん)の治療

卵巣がんでは、手術でできるかぎり腫瘍を取りきることが治療の基本で、多くの場合、手術後に抗がん剤治療が行われます。日本産科婦人科学会は、悪性腫瘍では卵巣・卵管・子宮と大網(胃から垂れ下がる脂肪の膜)を切除し、ほとんどの患者さんに術後の抗がん剤治療(タキサン製剤とプラチナ製剤の組み合わせ)が勧められると説明しています[2]。進行した卵巣がんでは、分子標的薬を加えることもあります[1]。

境界悪性腫瘍では、腫瘍を切除したあと、再発に備えて長く経過を見ます[1]。妊娠の希望がある場合は、子宮や反対側の卵巣を残す手術が検討されますが、卵巣を残す手術の後の再発は11〜34%と、術式によって差があると報告されています[5]。卵巣がんの病期や治療の詳しい流れは、卵巣がんの記事にまとめています。

7. 遺伝の視点|遺伝が関わる卵巣腫瘍

卵巣腫瘍の大部分は遺伝とは関係なく発生しますが、卵巣がんの一部と、いくつかのまれな卵巣腫瘍は、生まれつき持っている遺伝子の変化と関係しています。ここでいう「生まれつきの遺伝子の変化」とは、体のすべての細胞に共通して存在し、親から子へ受け継がれうる生殖細胞系列の変化のことです。腫瘍の中だけで後から起きた変化(体細胞変異)とは区別して考えます。

生殖細胞系列の変化が見つかると、ご本人のほかのがんへのリスクや、血縁者が同じ変化を受け継いでいる可能性がわかります。治療薬の選択に関わることもあります。卵巣腫瘍を「卵巣だけの問題」として終わらせず、家族を含めた視点で考えるきっかけになるのが、遺伝の視点です。

卵巣がんと遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)

卵巣がんと最も深く関わる遺伝性の病気が、BRCA1(ビーアールシーエーワン)遺伝子やBRCA2(ビーアールシーエーツー)遺伝子の病的バリアントによる遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)です。卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの患者さんを調べた研究では、およそ5人に1人から4人に1人に生殖細胞系列の病的バリアントが見つかり、その多くがBRCA1とBRCA2でした[9][10]。割合は、対象となった患者さんの集団や調べた遺伝子の数によって異なります。

BRCA1とBRCA2は、DNAの二本鎖が切れたときに正確に修復する「相同組換え修復」に関わる遺伝子です。この仕組みがうまく働かないと、細胞に遺伝子の傷がたまりやすくなり、がんが発生しやすくなります。国際的な前向きコホート研究では、80歳までに卵巣がんを発症する累積リスクは、BRCA1の病的バリアントを持つ女性で44%、BRCA2で17%と推定されています[11]。

BRCA1・BRCA2以外にも、同じDNA修復の経路に関わるRAD51C(ラッドフィフティーワンシー)とRAD51D(ラッドフィフティーワンディー)の病的バリアントでは、80歳までの卵管卵巣がんの累積リスクがそれぞれ11%と13%と推定されています。家族に卵巣がんの方が多いほどリスクは高くなります[12]。BRIP1(ブリップワン)やPALB2(パルブツー)も、卵巣がんのリスクに関わる遺伝子として知られています。

🧬 遺伝子ごとの卵巣がんの累積リスク(推定値)

遺伝子 関連する病気 卵巣がんの累積リスク
BRCA1 HBOC 44%(80歳まで)[11]
BRCA2 HBOC 17%(80歳まで)[11]
RAD51C 卵巣がん・乳がんの中等度リスク 11%(80歳まで)[12]
RAD51D 卵巣がん・乳がんの中等度リスク 13%(80歳まで)[12]
MLH1 リンチ症候群 11.0%(75歳まで)[14]
MSH2 リンチ症候群 17.4%(75歳まで)[14]
MSH6 リンチ症候群 10.8%(75歳まで)[14]
PMS2 リンチ症候群 3.0%(75歳まで・推定の幅が大きい)[14]

※いずれも集団を対象にした推定値で、信頼区間(推定の幅)があります。家族歴やバリアントの位置によって個人のリスクは変わるため、特定の人の発症確率を示すものではありません。

日本では2020年4月から、乳がんや卵巣がんを発症した方を対象に、HBOCを診断するためのBRCA遺伝学的検査が保険診療で受けられるようになりました。HBOCと診断された乳がんの患者さんが卵巣と卵管を予防的に取る手術なども、同時に保険の対象になっています。一方、まだがんを発症していない方の検査や予防手術は、保険診療の対象外です[13]。

リンチ症候群と卵巣がん

リンチ症候群は、DNAの複製の際に生じた誤りを直す「ミスマッチ修復」に関わる遺伝子の病的バリアントによる遺伝性の病気で、大腸がんや子宮体がんに加えて卵巣がんのリスクも高くなります。原因となる遺伝子は、MLH1(エムエルエイチワン)、MSH2(エムエスエイチツー)、MSH6(エムエスエイチシックス)、PMS2(ピーエムエスツー)などです。

6,350人の保因者を追跡した前向きデータベースの解析では、75歳までに卵巣がんを発症する累積リスクは、MLH1で11.0%、MSH2で17.4%、MSH6で10.8%、PMS2で3.0%と推定されました。また、MLH1・MSH2・MSH6の病的バリアントを持つ女性では、婦人科がんのリスクが40歳ごろから急に高くなると報告されています[14]。遺伝子によってリスクの大きさがかなり違うため、「リンチ症候群なら何%」とひとまとめにはできません。

リンチ症候群では卵巣がんだけでなく子宮体がんのリスクも高くなるため、子宮体がんとあわせて婦人科がんの管理を考える必要があるため、子宮体がんの記事もあわせて読むと、全体像がつかみやすくなります。

良性や性索間質性の腫瘍にも遺伝が関わるものがある

遺伝が関わるのは卵巣がんだけではありません。性索間質性腫瘍などのまれな卵巣腫瘍には、特定の遺伝性の症候群と結びついているものがあります。こうした腫瘍が見つかったときは、腫瘍そのものの治療に加えて、ほかの臓器の病気や血縁者のことも考えることになります。

ポイツ・ジェガース症候群は、STK11(エスティーケーイレブン)遺伝子の病的バリアントによって、消化管のポリープや口唇の色素斑が現れる遺伝性の病気です。この病気の女性には、「輪状細管を伴う性索腫瘍(SCTAT)」と呼ばれる特殊な卵巣腫瘍が見られることが知られています[15]。

セルトリ・ライディッヒ細胞腫は、男性ホルモンをつくることがある性索間質性腫瘍で、多くの例でDICER1(ダイサーワン)遺伝子の変化が見つかることが報告されています。その一部は生殖細胞系列の変化で、DICER1症候群として、肺や甲状腺、腎臓などの腫瘍とも関係します[16]。また、皮膚の基底細胞がんや顎の嚢胞を特徴とする母斑基底細胞癌症候群(ゴーリン症候群)では、PTCH1(パッチワン)遺伝子の病的バリアントを背景に、卵巣線維腫が見られることがあります[17]。

さらに、40歳未満の女性で最も多い未分化な卵巣悪性腫瘍とされる卵巣小細胞がん・高カルシウム血症型(SCCOHT)では、調べた32例中30例でSMARCA4(スマークエーフォー)遺伝子の病的な変化が見つかり、家族内で発症した家系ではいずれも生殖細胞系列の変化でした[18]。まれな腫瘍ですが、若い方に発症し、血縁者への影響も考える必要がある腫瘍です。

成熟嚢胞性奇形腫は遺伝しないが、遺伝学的には特別な腫瘍

成熟嚢胞性奇形腫は遺伝性の病気ではなく、親から子へ受け継がれるものではありません。ただ、その成り立ちは遺伝学的にとても特徴的です。

1975年の研究で、良性の卵巣奇形腫は、減数分裂の途中まで進んだ卵子のもとになる細胞が、受精しないまま分裂を始めてできる「単為発生(たんいはっせい)」によって生じることが示されました[19]。通常、体の組織は父親由来と母親由来の染色体を1組ずつ持ちますが、奇形腫の細胞は母親由来の染色体だけで成り立っています。受精卵のように体のさまざまな組織へ分化する力をもちながら、胎児としては育たないため、髪の毛や歯、脂肪といった組織がばらばらに形づくられるのです。

この性質は、ゲノムインプリンティング(父母どちらから受け継いだかで遺伝子の働きが変わる仕組み)を研究するうえでも重要な手がかりとなりました。奇形腫の遺伝学的な成り立ちは、胞状奇胎と卵巣奇形腫の用語解説で、父親由来の染色体だけでできる胞状奇胎と対比して解説しています。

家族歴があるときに考えること

血縁者に卵巣がんや乳がん、大腸がん、子宮体がんの方が複数いる場合、若くして発症した方がいる場合、ご本人が卵巣がんと診断された場合には、遺伝学的検査が選択肢になります。生殖細胞系列の病的バリアントがわかると、乳がんの検診方法や、卵巣がんを予防するための手術を検討できるようになります。

卵巣がんは早期発見のための確立した検診方法がないため、BRCA1・BRCA2などの病的バリアントを持つ方では、出産の希望が落ち着いた時期にリスク低減卵巣卵管摘出術(RRSO)が検討されます。勧められる時期は遺伝子の種類によって異なります。日本では、HBOCと診断された乳がん患者さんのRRSOが保険の対象になっています[13]。

まだがんを発症していない方や、複数の遺伝子をまとめて調べたい方は、自費診療の遺伝性がん遺伝子検査で調べる方法もあります。どのがんが遺伝と関わりやすいかの全体像は、「がんは遺伝する」は本当?で解説しています。検査を受ける前後には、結果がご本人と血縁者にとって何を意味するかを整理する遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【卵巣腫瘍を「家族の情報」として見る】

卵巣がんの一部がBRCA1・BRCA2やリンチ症候群の遺伝子と関わっていることは、ご本人の治療だけでなく、娘さんや姉妹の方の健康管理にもつながる情報です。遺伝学的検査の結果は、治療薬の選び方や、血縁者が検査を受けるかどうかの判断に使われます。

一方で、卵巣腫瘍の大部分は遺伝とは関係がありません。家族歴があるかどうか、どの組織から発生した腫瘍なのかを確かめたうえで、遺伝学的な評価が必要な方に必要な検査を届けることが、臨床遺伝専門医の役割だと考えています。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 卵巣腫瘍はがんですか?悪性の確率は?

卵巣腫瘍の約9割は良性で、がんではありません。約1割が悪性(卵巣がん)で、その中間に境界悪性腫瘍があります。ただし、これは卵巣腫瘍全体の割合で、閉経後や、画像で固い部分が目立つ腫瘍では悪性の可能性が高くなります。良性か悪性かは、画像検査で推定し、手術で取り出した組織の病理検査で確定します。

Q2. 卵巣腫瘍はお腹がぽっこり出ますか?

腫瘍が大きくなると、下腹部がふくらんで見えたり、お腹が張ったりすることがあります。膀胱や腸が圧迫されて頻尿や便秘が起こることもあります。ただし、お腹の出方で良性か悪性かを見分けることはできません。体重が変わらないのに下腹部だけが出てきたときは、婦人科で超音波検査を受けてください。

Q3. 卵巣腫瘍は何センチで手術になりますか?

大きさだけでは決まりません。超音波で単純嚢胞と判断された腫瘍は、10cmまでなら閉経後でも経過を見ることができるとされています。一方、固い部分がある、大きくなってきている、症状がある、悪性が疑われる場合は、小さくても手術を検討します。成熟嚢胞性奇形腫など自然に消えない腫瘍では、大きさや症状、妊娠の希望をふまえて手術の時期を決めます。

Q4. 卵巣腫瘍は自然に小さくなりますか?

排卵に伴ってできる機能性嚢胞であれば、自然に小さくなることがあります。閉経前の女性の5cm未満の単純嚢胞の多くは、2〜3回の月経周期のうちに消えるとされています。一方、漿液性・粘液性の嚢腫、成熟嚢胞性奇形腫、チョコレート嚢胞など腫瘍性のものは、自然には消えません。

Q5. 卵巣腫瘍の手術後に妊娠できますか?

良性の腫瘍で、腫瘍だけを取り除いて卵巣を残す嚢腫摘出術を受けた場合は、妊娠できる可能性が残ります。片側の卵巣を取っても、反対側の卵巣が働いていれば排卵は続きます。ただし、チョコレート嚢胞の手術では卵巣の予備能が下がることがあるなど、腫瘍の種類によって注意点が異なるため、手術前に妊娠の希望を主治医に伝えてください。

Q6. 家族に卵巣がんの人がいたら遺伝しますか?

卵巣がんの一部は、BRCA1・BRCA2やリンチ症候群の遺伝子など、生まれつきの遺伝子の変化と関係しています。卵巣がんの患者さんを調べた研究では、およそ5人に1人から4人に1人に生殖細胞系列の病的バリアントが見つかっています。血縁者に卵巣がんや乳がんの方が複数いる場合は、遺伝学的検査で確かめる方法があります。ただし、家族にがんの方がいても、必ず遺伝性とは限りません。

まとめ

卵巣腫瘍は卵巣にできるできものの総称で、約9割は良性です[1]。良性・境界悪性・悪性の3段階と、上皮性・胚細胞・性索間質性・転移性の4つの組織分類があり、診断名はこの2つの組み合わせで表されます。小さいうちは症状が出にくく、大きくなるとお腹の張りや頻尿、便秘が現れ、茎捻転や破裂では急な激しい痛みが起こります。

良性か悪性かは経腟超音波、MRI、腫瘍マーカーで推定し、手術で取り出した組織の病理検査で確定します。手術が必要かどうかは大きさだけでは決まらず、単純嚢胞であれば10cmまで経過を見ることもあります[6]。卵巣がんの一部はHBOCやリンチ症候群と関係し、まれな性索間質性腫瘍にも遺伝性の症候群と結びつくものがあります。家族歴がある方は、卵巣腫瘍をきっかけに遺伝の視点からも健康管理を考えることができます。

🧬 遺伝性腫瘍の遺伝学的検査・遺伝カウンセリング

ミネルバクリニックは臨床遺伝専門医による遺伝診療の専門クリニックです。卵巣腫瘍そのものの診断・手術は行っておりませんので、卵巣の腫れを指摘された方や症状のある方は、婦人科を受診してください。
卵巣がんや乳がんの家族歴がある方、HBOCやリンチ症候群が心配な方には、BRCA1・BRCA2などを調べる遺伝学的検査と、結果がご本人と血縁者にとって何を意味するかを整理する遺伝カウンセリングを行っています。正確な診断に基づいて、次の選択を考えるための検査です。

参考文献

  • [1] 公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会. 市民の皆さまへ「卵巣腫瘍」. [JSGO]
  • [2] 公益社団法人 日本産科婦人科学会. 卵巣の腫瘍とがん. [JSOG]
  • [3] 国立がん研究センター がん情報サービス. がん統計「卵巣」. [がん情報サービス]
  • [4] How long should we follow simple ovarian cysts with pelvic ultrasonography? Cleve Clin J Med. 2018;85(10):745. [CCJM]
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  • [9] Mutations in 12 genes for inherited ovarian, fallopian tube, and peritoneal carcinoma identified by massively parallel sequencing. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011;108(44):18032. [PubMed 22006311]
  • [10] Inherited Mutations in Women With Ovarian Carcinoma. JAMA Oncol. 2016;2(4):482-490. [PubMed 26720728]
  • [11] Risks of Breast, Ovarian, and Contralateral Breast Cancer for BRCA1 and BRCA2 Mutation Carriers. JAMA. 2017;317(23):2402-2416. [doi:10.1001/jama.2017.7112]
  • [12] Ovarian and Breast Cancer Risks Associated With Pathogenic Variants in RAD51C and RAD51D. J Natl Cancer Inst. 2020;112(12):1242-1250. [doi:10.1093/jnci/djaa030]
  • [13] 公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会. 産婦人科における遺伝性乳癌卵巣癌症候群に対する保険診療についての考え方. [JSGO]
  • [14] Cancer risks by gene, age, and gender in 6350 carriers of pathogenic mismatch repair variants: findings from the Prospective Lynch Syndrome Database. Genet Med. 2020;22(1):15-25. [doi:10.1038/s41436-019-0596-9]
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プロフィール
仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。

2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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