目次
卵巣は、へそより下の下腹部の奥、骨盤の中で子宮の左右にひとつずつある臓器です。体の表面でいえば、左右の足の付け根の少し上・内側あたりの奥が目安になります。大きさは成人で3〜4cm前後と小さく、骨盤の深いところにあるため、正常な卵巣をお腹の上から自分で触って確かめることは通常できません。この記事では、卵巣の正確な位置と子宮との位置関係、へそを起点にした目安の付け方、位置が変わる理由、卵巣のあたりが痛むときの考え方、そして卵巣の病気が見つかりにくい理由と検査の限界までを、臨床遺伝専門医の立場から解説します。
Q. 卵巣はお腹のどこにありますか?
A. へそより下、骨盤の中で子宮の左右にあります。体の表面では、左右の足の付け根の少し上・内側の奥が目安です。骨盤の側壁にある「卵巣窩(らんそうか)」というくぼみに収まり、靱帯で吊られているため、年齢や出産歴などで位置は多少変わります。正常な大きさの卵巣は、お腹の上から自分で触れることは通常できません。
- ➤位置 → 骨盤の中、子宮の左右。卵管の下にあり、骨盤の壁に近い
- ➤大きさ → 成人で3〜4cm前後。閉経後は小さくなる
- ➤へそからの目安 → へそより下、腰骨の出っ張りと恥骨の間あたりの奥
- ➤触れるか → 正常ならお腹の上からは触れない。触れるものがあれば受診の目安
- ➤検診 → 症状のない人への定期的な卵巣がん検診は、死亡を減らす効果が示されていない
1. 卵巣の位置はどこ?骨盤の中、子宮の左右にあります
卵巣は、骨盤の中で子宮をはさんだ左右にひとつずつある臓器です。子宮から左右に伸びる卵管の下にあり、骨盤の側壁(横の壁)に寄り添うように位置しています[1]。お腹を正面から見ると、へそよりかなり下、下腹部の左右の奥にあたります。
「卵巣はお腹のどこ?」と聞かれて、へその横や脇腹を思い浮かべる方は少なくありません。実際には、卵巣は腸よりもさらに奥の骨盤腔(こつばんくう:骨盤に囲まれた空間)にあり、前には膀胱、後ろには直腸があります。お腹の表面から近い臓器ではないため、位置の感覚がつかみにくいのです。
下の図は、体を正面から見たときの子宮・卵管・卵巣の並び方を模式的に示したものです。左右は「自分から見た右・左」で表しています。
※体を正面から見た並び方の模式図です。実際の卵巣は卵管のやや下・後ろにあり、大きさや位置には個人差があります。
骨盤の中、子宮の左右にある(卵巣窩)
卵巣がふだん収まっている場所は、骨盤の側壁にある「卵巣窩」というくぼみです。産婦人科の解剖学の教科書では、出産経験のない女性の卵巣は、骨盤の壁で外腸骨動静脈(足へ向かう太い血管)の下、尿管の前にある卵巣窩に位置すると説明されています[2]。
卵巣窩の周りには、前方に臍動脈索(胎児期の血管の名残)、後方に尿管と内腸骨動脈が走っています[1]。つまり卵巣は、太い血管や尿管のすぐそばに位置していることになります。卵巣の腫れや炎症で腰や足の付け根に響くような痛みを感じることがあるのは、こうした周囲の構造との近さも関係しています。
ただし、これは「典型的な位置」です。同じ教科書は、卵巣の大きさ・位置・見た目は年齢や妊娠・出産の経歴によって変わるとも述べています[2]。「卵巣は必ずここにある」と一点で決まるものではなく、骨盤の中の左右の一定の範囲にある、と理解しておくのが正確です。
💡 用語解説:卵巣窩(らんそうか)
卵巣窩は、骨盤の横の壁にある浅いくぼみで、卵巣がふだん収まっている場所です。上を外腸骨動静脈、後ろを尿管と内腸骨動脈に囲まれています。卵巣は靱帯で吊られているため、このくぼみに固定されているわけではなく、子宮の傾きや周囲の臓器の状態によって位置が多少ずれることがあります。
大きさと形:成人で3〜4cm前後、閉経後は小さくなる
成人の卵巣は、長さ3〜4cm前後の楕円形をした小さな臓器です。米国国立医学図書館の医学教科書(StatPearls)では、正常な卵巣の典型的な大きさを長さ3.5cm、幅2.0cm、厚さ1.0cmとしています[1]。産婦人科の解剖学の教科書では、成人女性の卵巣を長さ2.5〜5cm、厚さ1.5〜3cm、幅0.7〜1.5cm、重さ3〜8gと、幅をもって示しています[2]。日本では「うずらの卵くらい」とたとえられることがあります。
卵巣の大きさは年齢とともに変わります。経腟超音波で13,963人の卵巣を測った研究では、平均体積が閉経前で4.9cm³、閉経後で2.2cm³でした。年代別では30歳未満で6.6cm³、40代で4.8cm³、50代で2.6cm³、70歳以上で1.8cm³と、閉経をはさんで大きく小さくなっていました[3]。
📏 卵巣の大きさの目安
※数値は文献によって幅があります。排卵前後は卵胞や黄体があるため、一時的に大きく見えることがあります。
月経周期の中でも見た目は変わります。排卵前には卵子を包む卵胞が2cm前後まで育ち、排卵後にはその跡が黄体という組織になるため、同じ人でも時期によって超音波で見える大きさが違います。健康診断などで「卵巣が少し大きい」と言われても、こうした生理的な変化のことがあるため、時期を変えて再確認されることがあります。
卵巣を支える靱帯と卵管との位置関係
卵巣は、いくつかの靱帯でゆるく吊られるようにして骨盤の中にとどまっています。主なものは、骨盤の壁と卵巣をつなぐ卵巣提索(らんそうていさく)、卵巣と子宮をつなぐ固有卵巣索(こゆうらんそうさく)、そして子宮広間膜から卵巣へ続く卵巣間膜の3つです[1]。
卵巣提索の中には卵巣へ向かう動脈・静脈と神経が通っています。一方、固有卵巣索は胎児期の導帯(生殖腺を下へ導く組織)の名残で、血管は含まれません[1]。卵巣が血管の束(卵巣提索)を軸にぶら下がっている構造のため、卵巣が腫れて重くなると、この軸ごとねじれる「卵巣茎捻転」が起こることがあります。
卵管は子宮の上の角から左右に伸び、先端は花びらのように開いて卵巣を包み込むように位置しています。卵巣と卵管は直接つながっておらず、排卵された卵子は、卵管の先端に取り込まれて子宮へ運ばれます。「子宮と卵巣は近いのか」という疑問に対しては、固有卵巣索でつながった数cmの距離にある、と答えることができます。
2. へそから見た卵巣の位置:外から当たりをつける方法
へそを基準にすると、卵巣はへそよりかなり下、左右の腰骨の出っ張りと恥骨の間あたりの奥にあります。骨盤の骨の目印を使うと、おおよその当たりをつけることができます。ただし、体の表面から卵巣の位置を正確に示す方法は確立しておらず、ここで紹介するのはあくまで目安です。
「卵巣の位置を外から知りたい」と思う場面の多くは、下腹部に痛みや違和感があるときです。その痛みが卵巣のあたりなのか、それとも腸や膀胱のあたりなのかを考える手がかりとして、体表の目印を知っておくことには意味があります。一方で、位置がわかったからといって原因がわかるわけではない点も、あわせて押さえておいてください。
へそ・腰骨・恥骨を目印にする
目印にするのは、へそ、左右の腰骨の前の出っ張り(上前腸骨棘:じょうぜんちょうこつきょく)、恥骨の3か所です。あおむけに寝て、腰の横に手を当てると、前方にとがって出っ張る骨に触れます。これが上前腸骨棘です。恥骨は、下腹部の一番下、陰毛の生えぎわのあたりで触れる硬い骨です。
卵巣は、この上前腸骨棘と恥骨を結んだ線のあたりから少し内側・上方の、下腹部の奥にあると考えると、おおよその位置がつかめます。卵巣窩が骨盤の側壁にあり、その上を足へ向かう太い血管が走っていることから、体の表面では足の付け根(鼠径部)の少し上・内側が目安になります[1][2]。
※自分のお腹を見下ろしたときの配置です(左右は自分から見た右・左)。体格や年齢、子宮の傾きによって個人差があります。
「へそから何cm下」という数字で示すことはできません。身長や体型、骨盤の形、腸の張り具合で体表との位置関係が変わるためです。インターネット上に具体的な数値が書かれていることがありますが、医学的な根拠のある数値は確認できませんでした。
手で三角形を作る方法
両手で三角形を作ってへそに当てる方法は、医学的な測定法ではありませんが、おおよその目安として広く紹介されています。手順は次のとおりです。
- あおむけに寝て、両手の親指どうし、人差し指どうしの先を合わせ、下向きの三角形を作ります。
- 親指を合わせた部分をへそに当て、三角形の頂点(人差し指の先)が下を向くように手を下腹部に置きます。
- 人差し指の先が恥骨の上あたりに来たら、そこが子宮のおおよその位置です。
- 三角形の底辺の両端から、左右の足の付け根に向かって少し外側・下方の奥が、卵巣のおおよその位置です。
手の大きさと体の大きさの比率は人によって違うため、人差し指の先がちょうど恥骨に届くとは限りません。届かない場合や行き過ぎる場合は、先に説明した腰骨の出っ張りと恥骨を目印にして補ってください。
また、この方法で当たりをつけた場所を強く押して、何か触れるかを確かめる必要はありません。後で説明するように、正常な卵巣は外からは触れず、押して痛みがあるかどうかで病気の有無を判断することもできないためです。
子宮はへそからどのくらい下?
子宮は、骨盤の中央で膀胱の後ろ、直腸の前にあり、体の表面では恥骨のすぐ上の奥が目安です。へそからはかなり離れていて、妊娠していない状態ではお腹の上から触れる位置にはありません。卵巣は、この子宮の左右に固有卵巣索でつながっています。
子宮の多くは前に傾いた(前傾前屈)姿勢をとっていますが、後ろに傾いた後傾子宮の人もいて、その場合は子宮の位置が背中側に寄ります。子宮の傾きは卵巣の位置にも影響します。子宮そのものの場所や形、子宮の位置の異常については、それぞれ専用の記事で詳しく解説しています。
3. 卵巣は外から触れる?
正常な大きさの卵巣を、お腹の上から自分で触って確かめることは通常できません。卵巣は3〜4cm前後と小さく、腸よりも奥の骨盤の中にあるからです。医師が行う内診(双合診)では触れることがありますが、それでも体格によっては触れにくいとされています[1]。
「卵巣を触ってみたら何も感じなかったから大丈夫」とも、「押したら痛かったから卵巣が悪い」とも言えない、というのがこの章の結論です。自分で触ってわかることには限りがあり、卵巣の状態を確かめるには超音波検査などの画像検査が必要になります。
正常な卵巣はお腹の上から触れない
お腹の上から触れないのは、卵巣が小さいうえに、手前に腸や腹壁、場合によっては皮下脂肪があるためです。下腹部を押したときに感じる弾力や軽い痛みの多くは、腸や腹筋によるものです。
医師が行う内診は、腟の中に入れた指と、お腹の上に置いたもう一方の手で骨盤内の臓器をはさむようにして調べる方法です。医学教科書では、健康な卵巣はこの診察で触れうるものの、解剖の個人差や体格によっては触れにくいと説明されています[1]。内診による付属器(卵巣・卵管)の腫れの検出精度には限界があることも報告されています[4]。
そのため、現在の婦人科診療では、卵巣の大きさや腫れの有無は経腟超音波検査で確認するのが一般的です。卵巣の超音波検査で何がわかるのかについては、卵巣エコーの記事で詳しく解説しています。
💡 用語解説:内診(双合診)
双合診は、腟の中に入れた指と、お腹の上に置いたもう一方の手で、子宮や卵巣を両側からはさむようにして大きさ・硬さ・動きや痛みを調べる診察です。特別な機械を使わずにその場で行えますが、体格や臓器の位置によってわかることに限りがあるため、多くの場合は経腟超音波検査と組み合わせて評価します。
下腹部にしこりが触れるときに考えること
お腹の上から卵巣のあたりに何か触れる場合は、卵巣や子宮が大きくなっている可能性があります。正常な卵巣は外から触れないため、「触れる」こと自体が普段と違うサインになります。
卵巣が大きくなる原因には、卵巣嚢腫(のうしゅ:液体などがたまった袋)、卵巣チョコレート嚢胞、良性・悪性の卵巣腫瘍などがあります。子宮筋腫で子宮が大きくなって触れることもあります。どれにあたるかは触っただけではわからず、超音波検査などで確認する必要があります。卵巣が腫れるとどうなるかは別の記事でまとめています。
一方で、便がたまった腸や、張った膀胱が触れていることもあります。排便や排尿のあとに消えるかどうかも手がかりになりますが、しこりが続く、大きくなっている気がする、お腹が張る感じが続くといった場合は、自己判断せず婦人科で経腟超音波検査を受けてください。
🩺 院長コラム【位置を知ることと、自分で判断することは別】
卵巣の位置を知っておくことは、下腹部の症状を医師に伝えるときに役立ちます。「右の足の付け根の少し上の奥が痛い」と言えれば、診察する側も考える範囲を絞りやすくなります。
ただ、位置がわかることと、そこに異常があるかどうかを自分で判断できることは別の話です。卵巣は外から触れない臓器なので、触って確かめようとするより、気になる症状が続くときに画像検査で確認するほうが確実だと考えています。
4. 卵巣の位置は変わる?「位置がおかしい」と言われたら
卵巣の位置は、人によって、また同じ人でも状況によって、ある程度変わります。卵巣は靱帯でゆるく吊られた臓器で、骨にしっかり固定されているわけではないためです[1]。超音波検査で「卵巣が少し高い位置にある」「子宮の後ろに寄っている」と言われても、それだけで病気を意味するわけではありません。
一方で、病気によって卵巣の位置が変わっていることもあります。代表的なのが子宮内膜症による癒着と、卵巣の腫れです。ここでは、位置が変わる理由を「生理的なもの」と「病気によるもの」に分けて整理します。
卵巣はある程度動く臓器
卵巣が動くのは、卵巣提索・固有卵巣索・卵巣間膜という柔らかい組織で吊られているからです。産婦人科の解剖学の教科書は、卵巣の大きさ・位置・見た目が年齢や妊娠・出産の経歴によって変わると述べています[2]。出産を経験すると、妊娠中に大きくなった子宮に引っぱられた靱帯がゆるみ、卵巣の位置がずれることがあります。
また、卵巣の周りの膀胱や腸は、中身の量によって大きさが変わります。そのため、超音波検査のたびに卵巣の見える位置が少しずつ違うことは珍しくありません。左右の卵巣が同じ高さにあるとは限らず、片側だけ見えにくいこともあります。
妊娠中は、大きくなる子宮とともに卵巣の位置も変わっていきます。妊娠中の卵巣の腫れや痛みは、妊娠していないときと考える病気や検査の選び方が異なるため、妊婦健診を受けている医療機関で相談してください。
位置が変わる原因(子宮の傾き・癒着・腫れ)
病気によって卵巣の位置が変わる代表的な原因は、子宮の傾き、子宮内膜症などによる癒着、卵巣自体の腫れの3つです。
子宮が後ろに傾いている(後傾)場合、卵巣も子宮とともに背中側に寄りやすくなります。後傾子宮の多くは体質的なもので、それ自体は治療を必要としないことが多いものの、子宮内膜症の癒着によって後傾になっている場合もあります。
子宮内膜症では、炎症によって卵巣が子宮の後ろや腸にくっつく(癒着する)ことがあります。左右の卵巣が子宮の後ろで互いにくっついて離れない状態は、超音波で「kissing ovaries(キッシング・オーバリーズ)」と呼ばれます。この所見を調べた研究では、対象の4.4%に見られ、この所見がある人では付属器とS状結腸(大腸の一部)の強い癒着が92.6%にあったのに対し、ない人では35.1%でした[5]。癒着が強いほど、卵巣は本来の位置から動かなくなります。
卵巣が腫れて大きくなると、重みで位置が変わり、ねじれやすくなります。4cmを超える卵巣の腫れ(特に良性腫瘍)は、卵巣茎捻転のリスク因子とされています[6]。
💡 用語解説:癒着(ゆちゃく)
癒着とは、本来は離れて動いている臓器や組織どうしが、炎症や手術の跡によってくっついてしまう状態です。骨盤の中では、子宮内膜症や骨盤内の感染症、過去の手術のあとに起こりやすく、卵巣が子宮や腸にくっつくと位置が固定され、月経痛や性交痛、排便時の痛みの原因になることがあります。
採卵で「卵巣の位置が悪い」と言われたとき
体外受精の採卵で「卵巣の位置が悪い」と言われるのは、多くの場合、腟から針を刺す通常の方法では卵巣に届きにくい、という意味です。採卵は、経腟超音波で卵巣を見ながら腟の壁越しに針を刺して卵胞液を吸い取る方法が標準です。卵巣が高い位置にあったり、子宮の後ろに隠れていたりすると、針の通り道を確保しにくくなります。
米国の不妊治療施設の報告では、子宮筋腫や子宮腺筋症で子宮が大きい、骨盤内の癒着がある、以前に卵巣を移動させる手術を受けた、高度の肥満がある、生まれつき生殖器の形に違いがある、といった理由で、腟からではなくお腹側から採卵した例がありました。その頻度は採卵全体の0.4%で、お腹側からの採卵でも、成熟した卵子の数、受精率、胚の質、妊娠率に通常の方法との有意な差はありませんでした[7]。
「位置が悪い」と言われても、それだけで妊娠できないということにはなりません。背景に子宮内膜症の癒着などがある場合は、その病気への対応が必要かどうかを、治療を受けている医療機関で確認してください。
5. 卵巣の働き
卵巣には、卵子を育てて排卵する働きと、女性ホルモンを分泌する働きの2つがあります。卵巣は生殖器官であると同時に、ホルモンを出す内分泌器官でもあります[1]。
卵巣の中には、卵子のもとになる細胞を包んだ小さな袋(卵胞)がたくさんあります。月経周期ごとにいくつかの卵胞が育ち始め、通常はそのうちの1つが成熟して卵子を放出します。これが排卵です。排卵された卵子は卵管の先端に取り込まれ、卵管の中で精子と出会えば受精します。
ホルモンの面では、育っている卵胞が主にエストロゲンを分泌し、排卵後の黄体が主にプロゲステロンを分泌します。エストロゲンは子宮内膜を厚くするほか、骨や血管、皮膚などにも作用しています。プロゲステロンは子宮内膜を受精卵が着床しやすい状態に整え、基礎体温を上げる働きがあります。
閉経が近づくと卵胞の数が減り、卵巣のホルモン分泌も低下します。先に紹介した閉経後の卵巣の縮小[3]は、この変化を反映したものです。卵巣の役割や、卵巣に起こる病気の全体像については、卵巣の役割の記事で詳しく解説しています。
6. 卵巣のあたりが痛いとき:位置と痛みの関係
卵巣のあたりが痛いからといって、原因が卵巣にあるとは限りません。下腹部の左右には、卵巣のほかに卵管、腸、尿管などがあり、どれが原因でも似た場所が痛むためです。卵巣の位置を知っていることは、痛みの場所を医師に正確に伝える助けにはなりますが、原因の特定には診察と検査が必要です。
排卵のころに片側の下腹部が軽く痛む排卵痛のように、病気ではない痛みもあります。一方で、急いで対応が必要な痛みもあるため、痛みの強さ、続き方、ほかの症状をあわせて判断することが大切です。卵巣を押すと痛むときに考えられる病気については、卵巣を押すと痛いの記事で詳しくまとめています。
右と左で考える病気の違い
右下腹部の痛みでは、卵巣の病気に加えて虫垂炎(いわゆる盲腸)を必ず考えます。虫垂は右下腹部にあり、卵巣のあたりと痛む場所が重なるためです。虫垂炎では、みぞおちやへその周りから痛みが始まり、時間とともに右下腹部へ移っていくことがよくあります。
左右どちらでも考える病気には、卵巣出血、卵巣茎捻転、子宮外妊娠、卵巣嚢腫の破裂、骨盤内の感染症、尿管結石などがあります。尿管結石は、背中から脇腹、下腹部へと移る強い痛みや血尿を伴うことがあります。左下腹部では、大腸の病気も考える対象になります。
🔎 卵巣のあたりが痛むときに考える主な病気
| 痛む場所 | 卵巣・婦人科の病気 | 婦人科以外の病気 |
|---|---|---|
| 右下腹部 | 卵巣出血、卵巣茎捻転、卵巣嚢腫、子宮外妊娠 | 虫垂炎、尿管結石、腸の病気 |
| 左下腹部 | 卵巣出血、卵巣茎捻転、卵巣嚢腫、子宮外妊娠 | 尿管結石、大腸の病気 |
| 下腹部の中央 | 月経痛、子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症 | 膀胱炎、便秘 |
※痛む場所だけで原因は決まりません。表は考える対象の一例で、診断には診察と検査が必要です。
痛む側だけで原因を絞り込むことはできません。痛みの始まり方(突然か、徐々にか)、月経周期との関係、妊娠の可能性、発熱や吐き気の有無などを医師に伝えると、考える範囲を絞りやすくなります。
すぐ受診すべき痛み
突然の激しい下腹部痛、吐き気や嘔吐を伴う痛み、妊娠の可能性がある腹痛や出血は、夜間や休日でもすぐに受診してください。
卵巣茎捻転は、突然の強い骨盤の痛みに、多くの場合吐き気や嘔吐を伴います。ねじれる前に断続的な痛みが続くこともあります。婦人科の救急疾患で、できるだけ早く腹腔鏡などでねじれを戻し、卵巣と卵管を残すことが目指されます[6]。時間がたつと卵巣への血流が途絶えて組織が傷むため、早い対応が大切です。
妊娠の可能性がある場合の腹痛や不正出血では、子宮の外で妊娠が進む子宮外妊娠を考える必要があります。米国産婦人科学会の診療指針は、卵管での子宮外妊娠の診断と治療の方針を示しています[8]。卵管が破裂するとお腹の中に大量に出血することがあるため、妊娠検査が陽性で下腹部痛がある場合は、早めに産婦人科を受診してください。
排卵後の時期に性交渉や運動をきっかけに起こる卵巣出血も、出血量が多いとめまいや冷や汗を伴い、緊急の対応が必要になることがあります。
🚨 すぐに受診してほしい症状
突然の激しい下腹部痛/痛みで動けない・冷や汗が出る/吐き気や嘔吐を伴う痛み/妊娠の可能性がある腹痛や不正出血/発熱を伴う下腹部痛/めまいやふらつきを伴う痛み。これらがある場合は、夜間・休日でも救急外来を受診してください。
7. 卵巣の病気が見つかりにくい理由と、検査でわかること
卵巣は骨盤の奥にあり、病気があってもある程度大きくなるまで症状が出にくい臓器です。そのため「定期的に検診を受ければ卵巣がんを早く見つけられる」と考えがちですが、症状のない一般の女性に対する卵巣がん検診については、大規模な研究で死亡を減らす効果が示されていません[9][10]。
この章では、卵巣の病気が見つかりにくい理由と、経腟超音波検査でわかること・わからないこと、そして一般の検診とは別に考えるべき「遺伝性」のリスクについて説明します。
骨盤の奥にあり症状が出にくい
卵巣の病気で症状が出にくいのは、卵巣が小さく、周りに広い空間があるためです。卵巣の周りには腸が自由に動ける空間があり、卵巣が数cm大きくなっても周囲を圧迫しにくく、痛みや違和感として気づかれにくいのです。
卵巣がんでは、お腹の張り、食欲の低下、すぐにお腹がいっぱいになる感じ、頻尿などの症状が出ることがありますが、いずれも胃腸の不調などとまぎらわしいものです。英国で約20万人を追跡した研究でも、検診を行わなかったグループでは多くの卵巣がんが進行した段階で見つかっていました[9]。卵巣がんについて詳しくは卵巣がんの記事を参照してください。
ただし、症状が出にくいことは「症状がまったく出ない」ことではありません。お腹の張りや下腹部の違和感が数週間以上続く場合は、年齢にかかわらず婦人科で相談してください。
経腟超音波でわかること・卵巣がん検診の限界
経腟超音波検査では、卵巣の大きさ、嚢腫や腫瘍の有無、その内部の様子を調べることができます。腟から細い超音波の器具を入れるため、卵巣に近い位置から観察でき、お腹の上からの超音波よりも詳しく見えます。症状がある人の原因を調べる検査として、婦人科診療の中心となる検査です。
一方、症状のない人に定期的に検査を行う「検診」としての効果は別の問題です。英国の大規模研究(UKCTOCS)では、202,562人を中央値16.3年追跡しました。血液検査(CA125)を組み込んだ検診群でも、超音波検診群でも、卵巣がん・卵管がんによる死亡は検診をしなかった群と比べて有意に減りませんでした。検診群では早期(I・II期)で見つかる割合が39.2%高くなりましたが、それが救命にはつながらず、研究者は一般集団への検診は推奨できないと結論しています[9]。
米国の大規模研究(PLCO)でも、CA125と経腟超音波を組み合わせた検診で死亡は減らず(相対リスク1.18)、検査で異常と判定されたががんではなかった3,285人のうち1,080人が手術を受け、その15%に重い合併症が起きていました[10]。米国予防医学専門委員会(USPSTF)は2018年、症状がなく遺伝性のリスクもない女性への卵巣がん検診を「推奨しない(グレードD)」としています[11]。日本でも、国の指針で推奨されているがん検診は胃・大腸・肺・乳・子宮頸の5つで、卵巣がんは含まれていません[12]。
📊 卵巣がん検診に関する主な研究・指針
※これらは「症状のない一般の女性への定期検診」についての結果です。症状がある場合の検査や、遺伝性の高リスクの人の管理とは分けて考えます。
これらの結果は「超音波検査に意味がない」ということではありません。症状がある人の原因を調べる検査や、子宮の病気など別の目的の検査として超音波は欠かせません。「症状のない人が卵巣がんを見つけるために定期的に受ける検診」としては、今のところ死亡を減らす根拠が示されていない、というのが正確な理解です。
家族歴がある人は遺伝性も考える
血縁者に卵巣がんや乳がんが多い場合は、一般の検診とは別に、遺伝性のがんの可能性を考えることが大切です。卵巣がんの一部は、生まれつき持っている遺伝子の病的バリアント(病気の原因となる遺伝子の変化)が関係しています。代表的なのが、BRCA1遺伝子・BRCA2遺伝子が関係する遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)です。
国際的な共同研究では、80歳までに卵巣がんになる累積リスクは、BRCA1の病的バリアントを持つ人で44%(95%信頼区間36〜53%)、BRCA2で17%(同11〜25%)と推定されています[13]。これは多くの人の経過をまとめた集団の数値で、一人ひとりの確率をそのまま示すものではありませんが、一般の女性に比べてリスクが大きく高いことを示しています。
大腸がんや子宮体がんが家系に多いリンチ症候群でも、卵巣がんのリスクが高くなります。大規模な前向きデータベースの解析では、MLH1、MSH2、MSH6の病的バリアントを持つ女性で、40歳ごろから婦人科のがんのリスクが急に高くなることが示されています[14]。リスクの大きさは、どの遺伝子に病的バリアントがあるかによって異なります。
遺伝性のリスクが高い人では、一般の検診とは異なる管理が検討されます。日本の遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン2024年版では、BRCA1・BRCA2の病的バリアントを持つ人へのリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)や、手術を行わない場合の卵巣がんのサーベイランス(定期的な経過観察)が臨床上の課題として取り上げられています[15]。どの選択肢が合うかは、年齢、出産の希望、家族歴などによって変わります。
💡 用語解説:リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)
RRSOは、がんになっていない段階で卵巣と卵管を手術で取り除き、将来の卵巣がん・卵管がんのリスクを下げる手術です。BRCA1・BRCA2などの病的バリアントを持つ人が対象として検討されます。卵巣を取ると女性ホルモンが急に減るため、実施する時期や術後の健康管理を含めて、専門医と十分に話し合ったうえで判断します。
🩺 院長コラム【「検診を受けているから安心」の前に家族歴を】
卵巣がんは、定期的に超音波を受けていれば早く見つかるというイメージを持たれやすい病気です。けれども大規模な研究の結果を見る限り、症状のない一般の女性に対する定期検診で卵巣がんによる死亡を減らせるという根拠は、今のところ示されていません。
むしろ見落とされやすいのが家族歴です。母や姉妹、祖母、おばに卵巣がんや若くして乳がんになった人がいる場合は、遺伝性のがんの可能性を含めて考えることが、自分の卵巣を守るうえで大切だと考えています。臨床遺伝専門医として、遺伝学的な評価が必要な方には、遺伝学的検査と遺伝カウンセリングを通じて、結果に基づいた選択ができるよう支援しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 卵巣はへその高さにありますか?
いいえ。卵巣はへそよりかなり下、骨盤の中で子宮の左右にあります。体の表面では、左右の足の付け根の少し上・内側の奥が目安です。へその横や脇腹にあるわけではありません。
Q2. 右と左の卵巣で位置は違いますか?
基本的には子宮をはさんで左右対称の位置にあります。ただし卵巣は靱帯で吊られているため、左右で高さや前後の位置が多少違うことは珍しくありません。超音波検査で片側だけ見えにくいこともあり、それだけで病気を意味するわけではありません。
Q3. 子宮と卵巣は近いですか?
はい。卵巣は固有卵巣索という靱帯で子宮とつながり、子宮の左右数cmのところにあります。子宮から左右に伸びる卵管の先端が、卵巣を包み込むように開いています。
Q4. 卵巣がんのしこりはお腹の上から触れますか?
小さいうちは触れません。卵巣は骨盤の奥にあるため、お腹の上から触れるほどになるのは、ある程度大きくなってからです。自分で触って確かめる方法では早期発見はできないため、お腹の張りや違和感が続くときは婦人科で超音波検査を受けてください。家族に卵巣がんや乳がんが多い場合は、遺伝性の可能性も考えます。
Q5. 卵巣の位置が悪いと妊娠しにくくなりますか?
卵巣の位置そのものは病気の名前ではなく、位置がずれているだけで妊娠しにくいとは言えません。ただし、子宮内膜症の癒着などで位置が変わっている場合は、その病気が妊娠に影響することがあります。体外受精の採卵で卵巣に腟から届きにくい場合は、お腹側から採卵する方法もあり、妊娠率に大きな差はなかったと報告されています。
Q6. ミネルバクリニックで卵巣の検査や治療はできますか?
いいえ、行っていません。卵巣の痛みや腫れ、婦人科検診などについてのご予約・お問い合わせもお受けしていません。婦人科を受診してください。遺伝性乳がん卵巣がん症候群などの遺伝学的な評価が必要と判断された場合に限り、遺伝カウンセリングが関係することがあります。
まとめ
卵巣は、へそより下の骨盤の中で、子宮の左右にひとつずつある臓器です。骨盤の側壁の卵巣窩に収まり、体の表面では左右の足の付け根の少し上・内側の奥が目安になります[1][2]。大きさは成人で3〜4cm前後で、閉経後は小さくなります[3]。
卵巣は靱帯で吊られているため、年齢や出産歴、子宮の傾き、子宮内膜症の癒着、卵巣の腫れなどで位置が変わります[2][5]。正常な卵巣はお腹の上から触れず、触れるものがあれば受診の目安になります。卵巣のあたりの痛みは卵巣以外が原因のこともあり、突然の激しい痛みや妊娠の可能性がある痛みはすぐに受診してください。
症状のない一般の女性への定期的な卵巣がん検診は、大規模な研究で死亡を減らす効果が示されていません[9][10]。一方で、家族に卵巣がんや乳がんが多い人は遺伝性のリスクが高いことがあり、一般の検診とは別の管理が検討されます[13][15]。
🏥 卵巣の痛み・婦人科の検診をお考えの方へ
当院では、卵巣や子宮の病気の検査・診断・治療、婦人科検診を行っておりません。
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卵巣の痛みや腫れ、婦人科検診については、婦人科を専門とする医療機関へご相談ください。
この記事は卵巣の位置と体のしくみを正しく知っていただくための解説であり、当院での診療をご案内するものではありません。なお、家族歴などから遺伝性乳がん卵巣がん症候群などの遺伝学的評価が必要と判断された場合に限り、遺伝カウンセリングが関係することがあります。
参考文献
- [1] Gibson E, Mahdy H. Anatomy, Abdomen and Pelvis, Ovary. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; updated 2023 Jul 24. NCBI Bookshelf (NBK545187), PMID: 31424771. [NCBI Bookshelf]
- [2] Clinical Anatomy of the Uterus, Fallopian Tubes, and Ovaries. Global Library of Women’s Medicine (GLOWM). [GLOWM]
- [3] Pavlik EJ, DePriest PD, Gallion HH, et al. Ovarian volume related to age. Gynecol Oncol. 2000;77(3):410-412. doi:10.1006/gyno.2000.5783. [PubMed 10831351]
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- [6] Adnexal Torsion. MSD Manual Professional Edition. [MSD Manual]
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- [14] Dominguez-Valentin M, Sampson JR, Seppälä TT, et al. Cancer risks by gene, age, and gender in 6350 carriers of pathogenic mismatch repair variants: findings from the Prospective Lynch Syndrome Database. Genet Med. 2020;22:15-25. doi:10.1038/s41436-019-0596-9. [Genet Med]
- [15] 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 編. 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン 2024年版. 金原出版, 2024. [Mindsガイドラインライブラリ]





