目次
卵巣のあたりを押して痛むとき、原因として多いのは、排卵の前後に卵巣で起こる一時的な変化です。一方で、卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)や子宮内膜症、卵管・卵巣の炎症のほか、腸や膀胱の痛みを「卵巣のあたりの痛み」と感じていることもあります。突然の強い痛み、発熱、冷や汗やふらつき、妊娠の可能性がある状態での腹痛は、その日のうちに受診が必要なサインです。この記事では、卵巣の位置と押して痛む場所の考え方、主な原因、左右や生理周期の時期による違い、受診の目安と婦人科で行う検査までを順に解説します。
Q. 卵巣のあたりを押すと痛いのは病気ですか?
A. 排卵期の痛み(排卵痛)のように病気ではないものも多い一方、卵巣嚢腫や子宮内膜症、炎症が隠れていることもあります。押して痛い場所には腸や膀胱も重なっているため、痛む場所だけでは卵巣が原因かどうかは決められません。突然の激痛、吐き気・嘔吐、発熱、ふらつき、妊娠の可能性がある場合は、様子を見ずに受診してください。
- ➤多い原因 → 排卵痛(数時間〜半日ほどで治まることが多い)
- ➤見逃したくない原因 → 卵巣嚢腫茎捻転・卵巣出血・異所性妊娠・骨盤内炎症性疾患
- ➤右と左 → 右は虫垂炎や大腸憩室炎、左は便秘や憩室炎とも見分けが必要
- ➤検査 → 婦人科での内診と経腟超音波検査が基本
1. 卵巣を押すと痛いのはなぜ?まず確認したいこと
「卵巣を押すと痛い」と感じたときに最初に知っておきたいのは、押して痛む場所がそのまま卵巣とは限らないということです。卵巣は骨盤の奥にあり、下腹部を指で押したときには、その手前にある腸や膀胱、腹壁の筋肉にも力がかかります。痛む場所の目安と、「外から触れる臓器かどうか」を先に整理しておくと、原因を考えやすくなります。
卵巣はどこにある?押して痛む場所の目安
卵巣は子宮の左右に1つずつある、親指の先ほど(通常3〜4cm程度)の臓器で、骨盤の奥に位置しています。体の表面でいえば、おへそと左右の足の付け根を結んだ線のあたりの、さらに奥です。子宮は骨盤のほぼ中央にあり、卵巣は卵管と靱帯によって子宮の両脇につながっています。
卵巣は骨盤に囲まれ、表面からは距離があるため、少し腫れた程度では外から気づきにくい臓器です。逆にいえば、下腹部の片側を押して痛む場合でも、その場所の「真下」に卵巣があるとは限りません。卵巣の位置そのものや働きについては、卵巣の位置や卵巣の役割と病気の記事で詳しく解説しています。
卵巣は外から触れる?「押して痛い=卵巣」とは限らない理由
正常な大きさの卵巣は、通常、お腹の外から触れて分かるものではありません。下腹部には、右下に盲腸と虫垂、左下にS状結腸(大腸の一部)があり、中央の下には膀胱と子宮があります。尿管も骨盤の中を通っています。下腹部を押して痛むときは、これらの臓器や腹壁の筋肉が痛みの出どころになっていることがよくあります。
卵巣が腫れているかどうかは、婦人科の内診や超音波検査で確認します。米国産科婦人科学会(ACOG)の指針では、骨盤内の腫瘤が疑われたときの画像検査として、経腟超音波検査が推奨されています[1]。痛みが卵巣から来ているのか、子宮や腸から来ているのかは、自分で押して確かめるよりも、こうした検査で判断するほうが確実です。子宮そのものの痛みについては子宮が痛いときの原因で扱っています。
💡 用語解説:付属器(ふぞくき)
付属器とは、子宮の左右にある卵巣と卵管をまとめた呼び方です。婦人科の検査結果や説明では「付属器の腫れ」「付属器の圧痛」のように使われます。卵巣と卵管は近くにあるため、画像や診察では一緒に評価されることが多く、英語では adnexa(アドネクサ)といいます。
2. すぐに受診すべき危険なサイン
卵巣のあたりの痛みのうち、次のような症状を伴うものは、様子を見ずにその日のうちに受診してください。夜間や休日で強い痛みがある場合は、救急外来の受診も考えてください。ここに挙げるのは「この症状なら必ずこの病気」という診断表ではなく、急いで診察を受けるべきかどうかを判断するための目安です。
🚨 その日のうちに受診したい症状
| 症状 | 考えられること(例) |
|---|---|
| 突然始まった片側の強い下腹痛+吐き気・嘔吐 | 卵巣嚢腫茎捻転(卵巣がねじれる) |
| 突然の鋭い痛みのあと痛みが続く、冷や汗・ふらつき・失神 | 卵巣出血や嚢腫の破裂によるお腹の中への出血 |
| 38℃以上の発熱、膿のようなおりもの | 骨盤内炎症性疾患(卵管・卵巣の感染) |
| 妊娠の可能性があり、腹痛や出血がある | 異所性妊娠(子宮外妊娠) |
| 痛みがどんどん強くなる、歩くと響く、お腹が急に張ってきた | お腹の中の出血や炎症が広がっている可能性 |
※痛みの強さや症状の組み合わせには個人差があります。表にない症状でも、いつもと違う強い痛みは受診の対象です。
卵巣がねじれる卵巣嚢腫茎捻転では、突然始まる腹痛が、強くなったり弱くなったりしながら続き、吐き気や嘔吐を伴うのが典型的です[2]。卵巣の付属器のねじれを扱った臨床ガイドラインでは、吐き気・嘔吐を伴うのは50〜70%とされています[3]。ねじれた状態が続くと卵巣への血流が障害されるため、速やかな評価と治療が必要です。
卵巣出血や嚢腫の破裂では、突然の鋭い痛みのあと、鈍い痛みが続くことが多いとされます[3]。出血が少なければ自然に止まることもありますが、多い場合にはお腹の中に血液がたまり、ふらつきや血圧低下を起こすことがあります[4][5]。
発熱を伴う場合は、卵管や卵巣の感染が考えられます。米国疾病予防管理センター(CDC)の指針では、卵管卵巣膿瘍がある場合、妊娠中の場合、38.5℃を超える発熱や嘔吐がある場合、外科的な病気を否定できない場合などは入院での治療が勧められています[6]。また、妊娠の可能性がある人の下腹痛では、異所性妊娠を最初に確認する必要があります[7]。
⚠️ 強い痛みは鎮痛薬だけで様子を見続けない
上の表にあてはまる症状がある場合は、鎮痛薬を使ったことで受診を先延ばしにせず、速やかに受診してください。妊娠の可能性がある場合は、市販の妊娠検査薬の結果もあわせて医師に伝えてください。
3. 卵巣のあたりが痛む主な原因
卵巣のあたりの痛み(卵巣痛)の原因は、排卵に伴う一時的なものから、手術が必要な病気まで幅があります。ここでは代表的な原因を、どんな痛み方をしやすいかとあわせて説明します。いずれも痛みの性質だけで決めることはできず、最終的には診察と検査で確かめることになります。
排卵痛:排卵期に片側が数時間〜半日ほど痛む
排卵痛は、生理と生理のほぼ中間、排卵のころに下腹部の片側が痛むもので、病気ではありません。ドイツ語で「中間の痛み」を意味するミッテルシュメルツ(mittelschmerz)とも呼ばれ、生殖年齢の女性の40%を超える人が経験し、そうした人ではほぼ毎月起こるとされています[8]。痛むのは、その周期に排卵する卵胞がある側です[8]。
痛みの程度は軽い違和感から強い痛みまでさまざまで、通常は3〜12時間ほどで治まります[8]。排卵痛の機序は完全には解明されていません。排卵痛は黄体形成ホルモン(LH)のピーク付近に起こることが知られており[8]、排卵に伴う卵巣表面の変化や、卵胞液・少量の血液による腹膜刺激などが痛みに関与すると考えられています。
排卵痛のある時期には、卵巣のあたりを押すと痛みを感じることもあります。ただし、排卵痛は右側に起こると虫垂炎とよく似た症状になり、見分けが難しいことが知られています[8]。痛みが1日以上続く、だんだん強くなる、発熱を伴うといった場合は、排卵痛とは別の原因を考えて受診してください。排卵の仕組みは排卵(月経周期)、排卵日の見当のつけ方は排卵日はいつ?で解説しています。
卵巣出血:性交後や黄体期に突然起こる
卵巣出血は、排卵のあとにできる黄体などから出血が起こり、血液がお腹の中にたまる状態です。多くは排卵後の黄体期(分泌期)に起こり、性交、運動、外傷、内診などがきっかけになることが多いと報告されています[4]。
卵巣出血は右側に多いことが知られています。左の卵巣はS状結腸(直腸につながる大腸)に守られているため、と説明されており[3][4]、出血性黄体の26例を検討した報告では20例(76.9%)が右側でした[4]。小規模なデータではありますが、「左に多い」とする説明は正確ではありません。
出血量が中等度までであれば、安静や経過観察などの保存的な治療で済むことが多く、出血が多い場合やお腹の中の出血が続く場合には手術で止血します[4]。血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬)を使っている人は、出血が多くなりやすいとされています[4]。原因や経過の詳細は卵巣出血の記事で解説しています。
💡 用語解説:黄体(おうたい)
黄体は、排卵で卵子が出たあとの卵胞が変化してできる組織で、妊娠を支える黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌します。血管が豊富なため、ここから出血すると卵巣出血になります。妊娠しなければ約2週間で小さくなり、妊娠が成立すると妊娠初期のあいだ働き続けます。
卵巣嚢腫(卵巣のう腫)と破裂
卵巣嚢腫は、卵巣に液体や脂肪などがたまって袋状に腫れたもので、その大半は良性です。ACOGの指針も、卵巣や卵管のあたりにできる腫瘤(付属器腫瘤)の多くは良性であり、評価の主な目的は悪性を除外することだとしています[1]。排卵のたびにできる卵胞や黄体が一時的に大きくなった「機能性嚢胞」は、数周期のうちに自然に小さくなることもあります。
小さな嚢腫はほとんど症状がなく、検診で偶然見つかることが多いものです。大きくなると、下腹部の圧迫感や張り、頻尿などが出ることがあります。嚢腫の袋が破れると、中身や血液がお腹の中に出て、突然強い痛みが起こります。嚢腫の種類によっては、脂肪や毛髪などを含む卵巣奇形腫(皮様嚢腫)のように、ねじれやすいものもあります。嚢胞の種類や経過観察の考え方は卵巣嚢胞とは、腫瘍が破れた場合については卵巣破裂で解説しています。
卵巣嚢腫茎捻転:突然の強い痛みは緊急評価が必要
卵巣嚢腫茎捻転は、腫れて重くなった卵巣が、根元の部分でねじれてしまう状態です。5cmを超える卵巣の腫瘤があることが大きな危険因子とされ、右側に多いと報告されています[3]。ただし、思春期の付属器捻転では、腫瘤や嚢腫を伴わないものが約46%を占めるとされ[2]、「嚢腫がないからねじれない」とはいえません。
ねじれると卵巣への血流が妨げられ、放置すると卵巣が壊死することがあります。超音波のドップラー検査で血流が確認できても捻転を否定できないため、ACOGの意見書は、血流の所見だけで判断しないよう求めています[2]。治療は手術で、ねじれを戻して、見た目にかかわらずできるだけ卵巣を残す方針が勧められています[2]。詳しくは卵巣茎捻転で扱っています。
子宮内膜症・卵巣チョコレート嚢胞:生理のたびに強くなる痛み
子宮内膜症は、子宮の内側にあるはずの内膜に似た組織が、卵巣や腹膜など子宮の外で増える病気で、生理のたびに痛みが強くなるのが特徴です。欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)のガイドラインでは、有病率は一般女性の2〜10%、不妊の女性では最大50%と推定されていますが、正確な値は分かっていません[9]。
同ガイドラインは、強い月経痛、性交時の深い部分の痛み、排便時や排尿時の痛み、周期的に繰り返す痛み、疲労感、不妊などがある場合に子宮内膜症を考えるよう示しています[9]。卵巣にできると、古い血液がたまった卵巣チョコレート嚢胞になります。診断には超音波やMRIが用いられますが、画像で異常が見つからなくても、腹膜の表面の小さな病変までは否定できません[9]。長く続くと、卵巣と腸などが癒着して、慢性的な痛みの原因になることもあります。
病気の全体像は子宮内膜症、卵巣の病変については卵巣チョコレート嚢胞、癒着については卵巣と腸の癒着の記事をご覧ください。
骨盤内炎症性疾患(卵管炎・卵巣炎):発熱やおりものの異常を伴う
骨盤内炎症性疾患は、腟から入った細菌が子宮、卵管、卵巣へと広がって炎症を起こす病気の総称です。卵管炎や卵巣炎はこの中に含まれます。CDCの指針では、下腹部や骨盤の痛みがあり、診察で子宮頸部を動かしたときの痛み、子宮の圧痛、付属器(卵巣・卵管)の圧痛のいずれかがあれば、治療を始めるべきとされています[6]。38.3℃を超える発熱や膿のようなおりものは、診断をより確かにする所見です[6]。
原因菌としては淋菌やクラミジアが代表的で、患者の約半数でいずれかが陽性になると報告されています[6]。症状が軽い場合や自覚症状がほとんどない場合でも、不妊、異所性妊娠、慢性的な骨盤痛の原因になりうるため[6]、パートナーを含めた治療が大切になります。
💡 用語解説:骨盤内炎症性疾患(PID)
骨盤内炎症性疾患(こつばんないえんしょうせいしっかん)は、英語の pelvic inflammatory disease の頭文字から PID とも呼ばれます。子宮内膜炎、卵管炎、卵巣炎、卵管卵巣膿瘍(膿がたまった状態)、骨盤腹膜炎などをまとめた呼び方で、性感染症がきっかけになることが多い病気です。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS):排卵誘発の治療中の腫れと痛み
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)は、不妊治療で排卵を促す薬を使ったときに、卵巣が大きく腫れ、お腹に水がたまるなどの症状が出る状態です。卵巣が腫れるため、お腹の張りや下腹部の痛み、押したときの痛みが出ることがあります。
吐き気、急な体重増加、尿の量が減る、息苦しさなどを伴う場合は、治療を受けている施設にすぐ連絡してください。米国生殖医学会(ASRM)は、中等症から重症のOHSSを防ぐための指針を示しています[10]。重症度の分け方や、妊娠が成立した場合の経過については卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の用語解説で詳しく扱っています。
卵巣がん:痛みよりも「お腹の張り」が手がかり
卵巣がんは、早い段階では症状が乏しく、「押すと痛い」ことが最初のきっかけになるとは限りません。症状と卵巣がんの関係を調べた研究では、腹部の張り、お腹が大きくなる感じ、骨盤や腹部の痛み、食事がすぐにお腹いっぱいになる、尿が近いといった症状が、新しく出てきて頻繁に続くことが手がかりになると報告されています[11]。
チクチクする痛みがあるから卵巣がんではない、あるいは卵巣がんである、とはいえません。血液検査の腫瘍マーカーCA125は、早期の上皮性卵巣がんでは約半数でしか上がらず、子宮筋腫や子宮内膜症、骨盤内炎症性疾患などでも上昇します[1]。そのため、痛みやマーカーの値だけで判断せず、超音波検査などとあわせて評価します。腫瘍の種類は卵巣腫瘍、がんについては卵巣がんの記事で解説しています。
🩺 院長コラム【痛みの「場所」より「起こり方」を見る】
卵巣のあたりの痛みで検索すると、たくさんの病名が並びます。けれども、痛む場所だけで原因を絞り込むのは、専門家でも難しいものです。手がかりになるのは、突然始まったのか、だんだん強くなっているのか、発熱や吐き気、出血を伴うのか、生理周期と関係しているのか、という「起こり方」のほうだと考えています。
排卵期に半日ほどで治まる片側の痛みを毎月くり返しているのであれば、排卵痛の可能性が高いでしょう。一方で、いつもと違う強さの痛みや、治まらずに悪化していく痛みは、原因を確かめるべき痛みです。この2つを分けて考えるだけでも、受診のタイミングは判断しやすくなります。
4. 左右・時期・痛み方で考えられる原因
痛む側や生理周期のどの時期に痛むかは、原因を考えるうえでのヒントになりますが、それだけで診断が決まるわけではありません。ここでは、左右別・時期別に考えられる原因と、痛み方から分かること・分からないことを整理します。
右側が痛いとき:虫垂炎や大腸憩室炎との見分け
右下腹部の痛みでは、卵巣の病気に加えて、虫垂炎(いわゆる盲腸)や右側の大腸憩室炎との見分けが必要です。前に述べたように、右側の排卵痛は虫垂炎とよく似ることがあります[8]。また、卵巣出血や茎捻転は右側に多いと報告されています[3][4]。
見落とされやすいのが大腸憩室炎です。憩室は大腸の壁が外側に袋状に飛び出したもので、そこに炎症が起こると腹痛や発熱が出ます。日本消化器病学会のガイドラインによると、日本人では50歳未満の人の大腸憩室の75%が右側の大腸にあり、欧米の人に多いS状結腸(左側)とは分布が異なります[12]。若い女性の右下腹部痛でも、憩室炎は選択肢の一つになります。発熱を伴う右下腹部痛や、押したときより手を離したときに強く響く痛みがあれば、早めに受診してください。
左側が痛いとき:便秘や憩室炎との見分け
左下腹部の痛みでは、排卵痛や卵巣嚢腫のほか、便秘やガスのたまり、S状結腸の憩室炎が原因になっていることがあります。左下腹部にはS状結腸が通っているため、便やガスがたまると、押したときの痛みやチクチクした痛みとして感じられることがあります。
大腸憩室の分布は年齢とともに変わり、日本人でも70歳以上では60%の人で左側に憩室があると報告されています[12]。年齢が上がるほど、左下腹部の痛みで憩室炎を考える必要が出てきます。排便の状況と痛みが関係しているか、発熱や血便がないかも、受診の際に伝えてください。
生理前・生理中・生理後・排卵期の痛み
痛みが生理周期のどの時期に出るかは、原因を考えるときに役立つ情報です。下の表は、時期ごとに考えられる主な原因をまとめたものです。あくまで目安であり、同じ時期に複数の原因が重なることもあります。
📅 生理周期の時期と考えられる主な原因
| 痛む時期 | 考えられる主な原因 | ポイント |
|---|---|---|
| 排卵期(生理と生理の中間) | 排卵痛、卵胞の破裂 | 片側が数時間〜半日ほど痛むことが多い |
| 黄体期・生理前 | 卵巣出血(黄体からの出血)、黄体嚢胞 | 性交や運動のあとに突然痛むことがある |
| 生理中 | 月経痛、子宮内膜症、チョコレート嚢胞 | 年々強くなる月経痛は内膜症を考える |
| 生理後 | 骨盤内炎症性疾患、内膜症 | 発熱やおりものの変化があれば感染を考える |
| 周期と関係ない | 卵巣嚢腫、茎捻転、腸・膀胱の病気 | 突然の激痛は時期を問わず受診 |
※妊娠の可能性がある場合は、時期にかかわらず異所性妊娠を先に確認します。
チクチク・ズキズキ・ギューッ:痛み方で分かること・分からないこと
「チクチク」「ズキズキ」「ギューッと締めつける」といった痛み方の違いだけで、原因を決めることはできません。排卵痛はチクチク、引きつれる、突っ張るといった表現をされることが多い一方、同じ排卵痛でも強い痛みになることがあります[8]。卵巣がんについても、特定の痛み方がある、あるいはない、とはいえません。
痛み方よりも手がかりになるのは、始まり方と経過です。突然始まったのか、少しずつ強くなっているのか、波があるのか、何日続いているのか、ほかにどんな症状があるのか、といった点を記録しておくと、受診したときに医師が原因を絞り込む助けになります。
更年期・閉経後の卵巣のあたりのチクチク
閉経後は排卵が起こらないため、卵巣のあたりの痛みを排卵痛で説明することはできません。更年期に卵巣のあたりがチクチクするという相談の中には、腸や膀胱の不調によるもの、腹壁の筋肉の痛みなども含まれます。
閉経後に卵巣が腫れているかどうかは、経腟超音波検査で確認します。ACOGの指針では、経験のある検査者が経腟超音波で確認した10cm以下の単純な嚢胞(中が均一な液体だけの袋)は良性の可能性が高く、閉経後の人でも手術をせずに画像で経過を見てよいとされています[1]。反対に、中に固い部分がある、腹水を伴うといった所見があれば、詳しい検査が必要になります。
5. 妊娠中・妊娠の可能性があるときの卵巣の痛み
妊娠の可能性がある時期の下腹部痛では、まず異所性妊娠(子宮外妊娠)ではないかを確認することが優先です。そのうえで、妊娠初期に起こりやすい卵巣の変化による痛みかどうかを考えます。
まず異所性妊娠(子宮外妊娠)を除外する
異所性妊娠は、受精卵が子宮の内側以外、多くは卵管に着床した状態で、破裂するとお腹の中に大量に出血することがあります。ACOGの診療指針は、妊娠の可能性がある女性の腹痛や性器出血では、異所性妊娠を念頭に置いて評価するよう示しています[7]。
市販の妊娠検査薬が陽性で、片側の下腹部痛や出血がある場合は、早めに産婦人科を受診してください。妊娠のごく初期は、超音波で子宮の中に胎嚢(赤ちゃんを包む袋)が見えない時期があり、その時期に痛みがあるときは、血液検査のhCG(妊娠ホルモン)の値の推移と超音波をあわせて判断します。原因や症状については子宮外妊娠の記事で解説しています。
妊娠初期に卵巣が痛む理由
妊娠初期には、妊娠を維持するために黄体が働き続け、その黄体が袋状に腫れる(黄体嚢胞)ことがあり、卵巣のあたりの痛みや張りとして感じられることがあります。痛む側は左右どちらかのこともあれば、両側のこともあります。
こうした腫れの多くは、妊娠週数が進むにつれて小さくなり、痛みも軽くなっていきます。ただし、腫れた卵巣は妊娠中でもねじれることがあり、突然の強い痛みや吐き気・嘔吐があれば、次の健診を待たずに受診してください。妊娠初期の腹痛全般については妊娠超初期の腹痛、卵巣の腫れについては卵巣が腫れるとどうなる?で扱っています。
6. 受診の目安と婦人科で行う検査
卵巣のあたりの痛みで受診する先は、原則として婦人科です。ただし、発熱を伴う右下腹部痛や、排便・排尿の異常が目立つ場合は、消化器内科や泌尿器科の病気が原因のこともあります。どこに行けばよいか迷う強い痛みの場合は、救急外来で全体を診てもらうのが確実です。
当日・数日以内・次の検診でよい痛みの目安
第2章の危険なサインがある場合は当日の受診、痛みが数日続く・くり返す場合は数日以内の受診、排卵期に半日ほどで治まる痛みだけなら次の検診で相談、というのがおおまかな目安です。生理痛が年々重くなっている、生理ではない時期にも下腹部痛がある、お腹にしこりを触れる、不正出血がある、急にお腹まわりが大きくなった、といった場合も、検診を待たずに受診してください。
問診で聞かれること
下腹部痛で婦人科を受診すると、痛みの始まり方や性質、生理周期との関係などを詳しく聞かれます。事前にメモしておくと、診察がスムーズになります。主に聞かれるのは、次のような内容です。
📝 問診でよく聞かれる内容
| 項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 始まり方 | 急に痛くなったのか、徐々に痛むようになったのか |
| 痛む範囲 | 全体が痛むのか、片側など一部が痛むのか |
| 妊娠の可能性 | 最終月経の開始日、性交の有無、妊娠検査薬の結果 |
| 生理周期との関係 | 排卵期や生理中など、決まった時期に痛むか |
| ほかの臓器との関係 | 食事、便秘、排尿と関係しているか |
| ほかの症状 | 不正出血、おりものの異常、発熱、血尿や血便の有無 |
内診・経腟超音波・血液検査・MRI
卵巣の病気が疑われるときの画像検査の中心は、腟から細い器具を入れて行う経腟超音波検査です。ACOGの指針でも、骨盤内の腫瘤が疑われる場合に推奨される画像検査とされています[1]。内診とあわせて、卵巣の大きさ、嚢腫の有無と中身、お腹の中の出血や液体の有無などを確認します。性交の経験がない人や経腟の検査に抵抗がある人には、お腹の上からの超音波(経腹超音波)や、肛門から行う経直腸超音波で対応できる施設もあるので、問診の際に相談してください。
血液検査では、妊娠反応、貧血の有無、炎症反応などを調べ、必要に応じて腫瘍マーカーを測ります。前に述べたとおり、腫瘍マーカーのCA125は良性の病気でも上がるため、単独では判断に使いません[1]。MRIは、超音波だけでは腫瘤が卵巣由来か子宮筋腫などか分かりにくい場合に役立つとされています[1]。卵巣の超音波検査で分かることは卵巣エコーで詳しく解説しています。
💡 用語解説:腫瘍マーカー(CA125)
腫瘍マーカーは、がんがあると血液中で増えやすい物質のことで、CA125(シーエーいちにーご)は卵巣がんの評価によく使われます。ただし、がんがなくても生理中、子宮内膜症、子宮筋腫、炎症などで上がることがあり、早期のがんでは上がらないこともあります。そのため、画像検査などとあわせて総合的に判断します。
7. 受診までに自宅でできること・避けたいこと
危険なサインがなく、排卵期などに軽い痛みがある程度であれば、安静にして経過を見ながら、痛みの記録をつけておくのが現実的な対応です。痛みの記録は、受診したときに原因を考えるための大切な材料になります。
記録しておきたいのは、痛みが始まった日時、最終月経の開始日、痛む側(右・左・両側・真ん中)、痛み方、続いた時間、発熱・吐き気・出血・排便や排尿の変化の有無です。基礎体温をつけている人は、その表も参考になります。毎月同じ時期に同じ側が痛むのか、周期と関係なく痛むのかが分かると、排卵痛かどうかを判断しやすくなります。
市販の鎮痛薬は、排卵痛や月経痛の軽減に使われることがありますが、使い方は添付文書に従い、妊娠の可能性がある場合は使う前に医師や薬剤師に相談してください。お腹を温めると楽になる人もいます。一方で、強い痛みを鎮痛薬で抑え込んで様子を見続けることや、発熱や吐き気があるのに自己判断で様子を見ることは避けてください。痛みが1日以上続く、くり返す、少しずつ強くなる場合は、記録を持って受診してください。
8. 卵巣がんと遺伝:家族歴が気になる方へ
卵巣がんの多くは遺伝とは関係なく発生しますが、一部は生まれつきの遺伝子の変化(病的バリアント)が関わる遺伝性のものです。代表的なのが、BRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子の病的バリアントによる遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)です。
BRCA1・BRCA2の病的バリアントを持つ女性を追跡した大規模な研究では、80歳までに卵巣がんを発症する累積リスクは、BRCA1で44%(95%信頼区間36〜53%)、BRCA2で17%(同11〜25%)と推計されています[13]。これは病的バリアントを持つ人の集団での推計値であり、家族に卵巣がんの人がいるというだけの人の個人の確率ではありません。大腸がんや子宮体がんが家族に多いリンチ症候群でも、卵巣がんのリスクが高くなることが知られています。
大切なのは、卵巣のあたりの痛みがあることと、遺伝性かどうかは別の問題だという点です。痛みの原因は、この記事で見てきたように婦人科の診察で確かめます。一方、遺伝性のリスクを考えるきっかけになるのは、血縁者に卵巣がんの人がいる、若くして乳がんになった人がいる、乳がんと卵巣がんの両方を持つ人がいる、大腸がんや子宮体がんが続いている、といった家族歴です。こうした家族歴が気になる場合は、遺伝カウンセリングで、遺伝学的検査の対象になるかどうかを含めて評価を受ける方法があります。がんと遺伝の全体像は「がんは遺伝する」は本当?で解説しています。
🩺 院長コラム【痛みの原因探しと、遺伝のリスク評価は分けて考える】
卵巣のあたりの痛みの原因を調べることと、遺伝的に卵巣がんになりやすい体質かどうかを調べることは、目的も方法も異なります。前者は婦人科の診察と画像検査で、後者は家族歴の整理と遺伝学的検査で評価します。
家族歴からHBOCやリンチ症候群が疑われる場合、病的バリアントが分かれば、本人だけでなく血縁者の健康管理にも役立つ情報になります。臨床遺伝専門医として、痛みをきっかけに遺伝の心配が膨らんでいる場合でも、まず痛みは痛みとして婦人科で確かめ、家族歴の評価はそれとは別に正確な情報に基づいて行うのがよいと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 卵巣のあたりを押すと痛いのは病気ですか?
病気とは限りません。排卵期に片側が数時間〜半日ほど痛む排卵痛は、生殖年齢の女性の40%を超える人が経験するとされています。一方で、卵巣嚢腫、子宮内膜症、骨盤内炎症性疾患、腸や膀胱の病気が原因のこともあります。突然の激痛、発熱、吐き気・嘔吐、妊娠の可能性がある場合は、その日のうちに受診してください。
Q2. 排卵痛は押すと痛いですか?どのくらい続きますか?
排卵痛のある時期には、排卵する側の卵巣のあたりを押すと痛むことがあります。痛みは通常3〜12時間ほどで治まります。1日以上続く、だんだん強くなる、発熱を伴う場合は、排卵痛以外の原因を考えて受診してください。
Q3. 卵巣がんはチクチクした痛みですか?
痛み方だけで卵巣がんかどうかは判断できません。卵巣がんは早い段階では症状が乏しく、手がかりとして報告されているのは、新しく出てきて続く腹部の張り、骨盤や腹部の痛み、食事ですぐお腹いっぱいになる、尿が近いといった症状です。気になる症状が続く場合は婦人科で超音波検査を受けてください。
Q4. 卵巣嚢腫は押すと痛いですか?
小さな卵巣嚢腫はほとんど症状がなく、押しても痛まないことが多いです。大きくなると圧迫感や張りが出ることがあり、嚢腫がねじれたり(茎捻転)、破れたりすると、突然強い痛みが起こります。
Q5. 性交のあとに卵巣のあたりが痛くなるのはなぜですか?
排卵後の黄体期には、性交がきっかけで黄体から出血する卵巣出血が起こることがあり、右側に多いと報告されています。出血が少なければ自然に止まることもありますが、痛みが続く、ふらつきや冷や汗がある場合は、すぐに受診してください。
Q6. 生理中に卵巣のあたりが痛むのはなぜですか?
生理中の痛みは月経痛のことが多いですが、年々強くなる月経痛や、排便・性交時の痛みを伴う場合は、子宮内膜症や卵巣チョコレート嚢胞が原因のことがあります。画像検査で異常がなくても内膜症を否定しきれないため、症状を医師に詳しく伝えてください。
Q7. 卵巣が痛いときは何科を受診すればよいですか?
原則として婦人科です。ただし、発熱を伴う右下腹部痛や、排便・排尿の異常が目立つ場合は、虫垂炎や大腸憩室炎、尿路の病気のこともあり、消化器内科や泌尿器科の病気が原因のこともあります。どこへ行けばよいか迷う強い痛みの場合は、救急外来を受診してください。
Q8. ミネルバクリニックで卵巣の痛みを診てもらえますか?
いいえ、当院では卵巣の痛みの診察・検査・治療は行っておらず、この件についてのご予約・お問い合わせもお受けしていません。卵巣のあたりの痛みは、婦人科を受診してください。
まとめ
卵巣のあたりを押して痛む原因として多いのは、排卵期に片側が数時間〜半日ほど痛む排卵痛です[8]。一方で、卵巣出血、卵巣嚢腫とその破裂、茎捻転、子宮内膜症、骨盤内炎症性疾患のように、治療が必要な原因もあります。押して痛い場所には腸や膀胱も重なっているため、痛む場所だけで卵巣が原因と決めることはできず、婦人科での内診と経腟超音波検査で確かめるのが基本です[1]。
突然の強い痛み、吐き気・嘔吐、発熱、冷や汗やふらつき、妊娠の可能性がある状態での腹痛や出血は、その日のうちに受診が必要なサインです。痛む側や生理周期の時期、始まり方と経過を記録しておくと、原因を絞り込む助けになります。卵巣がんの家族歴が気になる場合は、痛みの原因探しとは分けて、遺伝的なリスクの評価を受ける方法があります。
🏥 卵巣の痛みの診察・治療をお考えの方へ
当院では、卵巣の痛みの診察・検査・治療を行っておりません。この件についてのご予約・お問い合わせはお受けしておりません。卵巣のあたりの痛みがある場合は、婦人科を専門とする医療機関へご相談ください。
この記事は症状と原因を正しく知っていただくための解説であり、当院での診療をご案内するものではありません。なお、卵巣がんなどの家族歴から具体的な遺伝学的評価が必要と判断された場合に限り、遺伝カウンセリングが関係することがあります。
参考文献
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