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子宮がんとは?子宮頸がんと子宮体がんの違い・症状・検診と遺伝との関係

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

子宮がんとは、子宮にできるがんの総称で、入口側にできる「子宮頸がん」と、奥の内膜にできる「子宮体がん」の2種類に大きく分かれます。同じ子宮のがんでも、原因、かかりやすい年代、出血の出方、検診、予防の方法はまったく異なります。自治体の「子宮がん検診」で調べているのは基本的に子宮頸がんで、HPVワクチンで予防できるのも子宮頸がんです。この記事では、2つのがんの違いを比較表で整理し、症状、検診、治療、予防、そして子宮体がんの一部に関わるリンチ症候群という遺伝の話までを、臨床遺伝専門医の立場から解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約14分
🩺 子宮頸がん・子宮体がん・リンチ症候群
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 子宮がんとは?子宮頸がんと子宮体がんは何が違うのですか?

A. 子宮頸がんは子宮の入口(頸部)にでき、主な原因はHPV(ヒトパピローマウイルス)の持続感染で、30〜40代に多いがんです。子宮体がんは子宮の奥の内膜にでき、エストロゲン(女性ホルモン)の影響を長く受けることなどが関係し、閉経前後から増えるがんです。自治体の子宮がん検診とHPVワクチンが対象としているのは子宮頸がんで、子宮体がんは検診ではなく、不正出血などの症状があるときに受診して調べるのが基本です。

  • ➤2種類の違い → 部位・原因・年代・症状・検診・予防を比較表で整理
  • ➤症状 → 性交後の出血は子宮頸がん、閉経後の出血は子宮体がんで特に注意
  • ➤検診 → 子宮頸がん検診は20歳から2年に1度(細胞診)、HPV検査単独法は5年に1度
  • ➤遺伝 → 子宮体がんの約3%はリンチ症候群に関連

1. 子宮がんとは?子宮頸がんと子宮体がんの2種類

「子宮がん」は1つの病気の名前ではなく、子宮頸がんと子宮体がんをまとめた呼び方です。できる場所が違うだけでなく、がんになる仕組みそのものが異なるため、医療の現場ではほとんどの場合、2つを別々の病気として扱います。

日本の統計では、2023年に新たに診断された子宮頸がん(子宮頸部のがん)は10,457例[1]、子宮体がん(子宮体部のがん)は19,945例でした[2]。以前は子宮がんといえば頸がんが大半を占めていましたが、現在は体がんのほうが多く診断されています。2024年の死亡数は子宮頸がんが2,751人、子宮体がんが3,136人です[1][2]。

子宮頸部と子宮体部はどこにある?

子宮は洋ナシを逆さにしたような形の臓器で、下の細くなった部分を子宮頸部、上のふくらんだ部分を子宮体部と呼びます。子宮頸部は腟とつながる入口にあたり、分娩のときには産道の一部になります。子宮体部は妊娠したときに赤ちゃんが育つ部屋で、その内側は子宮内膜という粘膜でおおわれています。

子宮内膜は月経周期に合わせて厚くなり、妊娠が成立しなければはがれ落ちて月経血になります。この「厚くなってははがれる」をくり返す組織から発生するのが子宮体がんで、子宮内膜がんとも呼ばれます。一方、子宮頸がんは、頸部の表面をおおう上皮、特に2種類の上皮が接する境目のあたりから発生することが多いがんです。

子宮体部奥のふくらんだ部分・内側に子宮内膜→ 子宮体がん
▶
子宮頸部入口の細い部分・腟とつながる→ 子宮頸がん
▶
腟検診の細胞は頸部の表面から採る

子宮頸がんと子宮体がんの違い【比較表】

子宮頸がんは「ウイルス感染が主な原因で、若い世代にも多く、検診とワクチンで予防できるがん」、子宮体がんは「ホルモンの影響が大きく、閉経前後から増え、症状から見つかることの多いがん」です。違いを表にまとめます。

📋 子宮頸がんと子宮体がんの比較

項目 子宮頸がん 子宮体がん(子宮内膜がん)
できる場所 子宮の入口(頸部) 子宮の奥の内膜(体部)
主な原因 HPVの持続感染 エストロゲンの長期的な影響など
多い年代 30〜40代がピーク 子宮頸がんより高い年代(閉経前後から)
典型的な症状 初期は無症状。進むと性交時の出血・おりものの異常 不正出血、とくに閉経後の出血
検診 自治体の子宮がん検診の対象(細胞診・HPV検査) 自治体検診の対象外。症状があれば保険診療で検査
予防 HPVワクチン+定期検診 ワクチンはない。体重管理、月経不順を放置しない
遺伝との関係 遺伝ではなく感染が主な原因 一部(約3%)がリンチ症候群に関連
5年相対生存率 73.1%(2018年診断例) 81.1%(2018年診断例)

※統計は国立がん研究センターがん情報サービス[1][2]、原因・年代・症状は日本産科婦人科学会[3][4]、検診は国立がん研究センター[7]、リンチ症候群の割合はRyanら[12]による。

それぞれのがんの詳しい症状、検査、治療は、子宮頸がんと子宮体がんの個別記事で解説しています。この記事では、2つを見分けるための違いに絞って説明します。

子宮肉腫はまれな別のタイプ

子宮にできる悪性腫瘍には、頸がんと体がんのほかに子宮肉腫があります。がん(癌腫)が粘膜などの上皮から発生するのに対し、肉腫は子宮の壁をつくる筋肉(子宮筋層)や結合組織から発生する点が異なります。頻度は頸がん・体がんに比べてまれです。

子宮肉腫は、筋層にできる良性の腫瘍である子宮筋腫と画像検査で見分けにくいことがあります。「筋腫と言われていたが急に大きくなってきた」といった経過があれば、婦人科で改めて評価を受けることが勧められます。

💡 用語解説:子宮肉腫(しきゅうにくしゅ)

子宮の筋肉や結合組織から発生する悪性腫瘍です。上皮から発生する「がん(癌腫)」とは発生の元になる細胞が違うため、検診の細胞診では見つけにくく、治療の考え方も異なります。子宮平滑筋肉腫、子宮内膜間質肉腫などの種類があります。

2. 子宮がんの症状:出血のしかたに違いがある

子宮がんの症状で最も多いのは不正出血ですが、どのような場面で出血するかに頸がんと体がんの違いが現れます。一方で、どちらのがんも早い段階では症状が出ないことがあり、症状の有無だけでがんを否定することはできません。

初期は症状がほとんどない

日本産科婦人科学会は、初期の子宮頸がんでは自覚症状がほとんどないと説明しています[3]。子宮頸がんは、がんになる前の段階(前がん病変)を数年かけて経ることが多く、この時期には痛みも出血もありません。症状のない時期に異常を見つけるために検診があり、「症状がないから検診は不要」とはならないのはこのためです。

子宮体がんは頸がんに比べると早い時期から出血が出やすいがんですが、出血が少量だったり、月経不順と区別がつかなかったりして、見過ごされることがあります。

子宮頸がんに多い症状:性交後の出血・おりものの変化

性交のあとの出血は、子宮頸がんを考えるきっかけになる代表的な症状です。子宮頸がんは子宮の入口にできるため、病変が性交時の刺激で出血しやすくなります。進行すると、おりもの(帯下)の異常、月経以外の不正出血、下腹部の痛みなどが現れます[3]。

ただし、性交後の出血は子宮頸管ポリープや腟の炎症、子宮頸部のびらんなど、がん以外の原因でも起こります。原因を確かめるには、婦人科で頸部を直接見て、必要に応じて細胞を調べる必要があります。

子宮体がんに多い症状:閉経後の出血・月経以外の出血

閉経後の出血は、量が少なくても子宮体がんを確認すべきサインです。日本産科婦人科学会は、子宮体がんの最も多い自覚症状は不正な性器出血で、特に更年期や閉経後の不正出血に注意が必要だとしています[4]。

40,000人以上を対象とした研究をまとめたメタ解析では、子宮体がんと診断された女性の約90%に、診断前の閉経後出血がありました。一方、閉経後出血で受診した女性のうち、実際に子宮体がんと診断されたのは約9%でした[5]。出血があっても多くはがん以外の原因ですが、子宮体がんの人のほとんどに出血がみられるため、閉経後の出血は見逃さずに調べる価値があります。進行すると、下腹部の痛み、性交時の痛み、腰の痛み、足のむくみなどが出ることもあります。

出血の色や量でがんかどうかは判断できない

「子宮がんの出血は何色か」という質問は多いのですが、出血の色や量だけでがんかどうかを見分けることはできません。鮮やかな赤い出血も、茶色や黒っぽいおりものも、時間がたった血液が混ざっているかどうかの違いで、がんに特有の色はありません。

判断の手がかりになるのは、色よりも「いつ出血したか」です。閉経後の出血、性交のたびの出血、月経と関係のない出血がくり返す場合は、色や量にかかわらず婦人科を受診してください。茶色いおりものや悪臭のあるおりものが続く場合も、感染症などを含めて確認が必要です。

すぐに受診したほうがよいサイン

次のような場合は、次回の検診を待たずに婦人科を受診してください。国立がん研究センターも、不正出血がある場合は子宮体がんの可能性もあるため、検診ではなく保険診療ですぐに医療機関を受診するよう案内しています[7]。

⚠️ 検診を待たずに受診したいサイン

・閉経後に出血があった(少量・1回だけでも)
・性交のあとに出血することが続く
・月経と関係のない出血をくり返す
・茶色や悪臭のあるおりものが続く
・下腹部の痛みや張りが続く

どのくらい出血が続いたら受診すべきかの目安は、不正出血の受診の目安で詳しく解説しています。

3. 子宮がんの原因とリスク因子

子宮頸がんの原因はウイルス、子宮体がんの原因はホルモンの影響が中心で、リスクを高める要因もまったく異なります。原因がわかっているからこそ、それぞれに合った予防の方法があります。

子宮頸がん:HPVの持続感染と、がんの手前の段階(異形成)

ほとんどの子宮頸がんは、HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が原因です。HPVは性交渉で感染するありふれたウイルスで、性交経験のある女性の大半が一生に一度は感染するといわれています。多くは検査上陰性化しますが、高リスクHPVの持続感染が続くと、そのうちの約10%に軽度異形成などの細胞異常が生じ、その一部が子宮頸部異形成を経て、長い年月をかけて子宮頸がんへ進行します[3]。

HPV感染多くは自然に排除
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持続感染長く続くと異形成のリスク
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子宮頸部異形成前がん病変・検診で発見できる
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子宮頸がん数年以上かけて進行

感染してからがんになるまでに長い時間がかかり、途中に異形成という段階をはさむことが、子宮頸がんが検診で見つけやすいがんである理由です。異形成の段階で見つければ、がんになる前に治療できます。異形成の程度(CIN分類)や治療については、子宮頸部異形成の記事で解説しています。

💡 用語解説:HPV(ヒトパピローマウイルス)

皮膚や粘膜に感染するウイルスで、200種類以上の型があります。そのうち子宮頸がんの原因になりやすい型を「高リスク型」と呼び、16型・18型が代表です。HPVに感染しても多くは自然に消えるため、感染=がんではありません。問題になるのは、高リスク型の感染が長く続く「持続感染」です。

子宮体がん:エストロゲンの長期的な刺激

子宮体がんの多くは、子宮内膜を厚くする女性ホルモン(エストロゲン)の刺激を長く受け続けることと関係しています。日本産科婦人科学会は、出産したことがない、肥満、月経不順がある、エストロゲン製剤(卵胞ホルモン製剤)だけを使い続けている、といった人でリスクが高いとしています[4]。

仕組みを説明します。通常の月経周期では、排卵のあとに黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌され、厚くなった内膜を成熟させ、月経として一度リセットします。排卵が起こりにくい状態が長く続くと、この黄体ホルモンによるブレーキがかからず、エストロゲンだけが内膜を厚くし続けます。脂肪組織でもエストロゲンがつくられるため、肥満も同じ方向に働きます。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のように排卵が起こりにくい状態が続く場合に、月経不順を放置しないことが大切なのはこのためです。

一方で、エストロゲンとの関係が薄いタイプの子宮体がんもあります。同学会は、高齢の方では遺伝子の異常が原因となるタイプもあり、高血圧や糖尿病がある方、近親者に乳がんや大腸がんの患者さんがいる方もリスクが高いとしています[4]。家族のがんとの関係については、第7章の「遺伝の視点」で詳しく扱います。

4. 子宮がん検診でわかること・わからないこと

自治体が行う「子宮がん検診」は、基本的に子宮頸がんの検診です。子宮体がんは自治体の検診の対象ではありません。名前に「子宮がん」とついているため、子宮全体を調べていると思われがちですが、細胞を採っているのは子宮の入口(頸部)です。

自治体の「子宮がん検診」は子宮頸がん検診

国の指針にもとづく子宮頸がん検診には、2つの方法があります。1つは従来の細胞診で、20歳以上の女性が2年に1度受けるものです[6]。もう1つが、2024年4月から自治体が選んで導入できるようになったHPV検査単独法で、ガイドラインでは30歳から60歳の女性を対象とし、HPV検査が陰性であれば5年に1度の受診となります[6][7]。

HPV検査単独法では、頸部の細胞に高リスク型HPVがいるかを調べます。陽性だった場合は、同じ検体で細胞診(トリアージ検査)を行い、その結果によって精密検査(コルポスコープ・組織診)に進むか、1年後に追跡の検査を受けます[6]。どちらの方法で検診を行っているかは自治体によって異なるため、お住まいの自治体の案内を確認してください。

💡 用語解説:細胞診とHPV検査

細胞診は、子宮頸部の表面をブラシなどでこすって細胞を採り、顕微鏡で形の異常を調べる検査です。HPV検査は、同じように採った検体に、子宮頸がんの原因となる高リスク型HPVがいるかを調べます。細胞の変化が起こる前の段階からリスクを把握できるため、陰性であれば受診の間隔をあけることができます。

子宮体がんの検査は症状がある人が対象

子宮体がんには、症状のない人全員に勧められる検診の方法が確立していません。そのため、不正出血などの症状がある人が、保険診療で検査を受けるのが基本です[7]。検査では、子宮の奥まで細い器具を入れて内膜の細胞を採る子宮内膜細胞診や、組織を採る子宮内膜組織診が一般的で、経腟超音波検査で内膜の厚さを見ることも役立ちます[4]。

つまり、子宮頸がん検診で「異常なし」と言われていても、子宮体がんがないことまでは示していません。閉経後の出血など、第2章で挙げたサインがあれば、検診の結果にかかわらず受診してください。

検診で「異常あり」と言われたら

子宮頸がん検診で精密検査が必要と判定されても、がんと決まったわけではありません。多くは異形成などのがんの手前の変化や、一時的なHPV感染による変化です。精密検査では、コルポスコープ(腟拡大鏡)で頸部を拡大して観察し、疑わしい部分から組織を採って診断します。

検診の目的は、症状が出る前の段階で異常を見つけることにあります。精密検査の通知を受けたら、先延ばしにせずに受けることが、検診を受けた意味を生かすことにつながります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「子宮がん検診」という名前について】

「子宮がん検診を毎年受けているから大丈夫」という言葉には、注意が必要だと考えています。自治体の子宮がん検診で調べているのは子宮頸がんで、子宮体がんは対象に入っていないからです。検診の名前が、対象を実際より広く見せてしまっている面があります。

子宮頸がんは検診とワクチンで防ぐがん、子宮体がんは症状に気づいて早く調べるがんです。2つのがんで守り方が違うことを知っておくと、閉経後の出血のようなサインを「検診で異常がなかったから」と見過ごさずにすみます。

5. 子宮がんの治療と妊娠への影響(概要)

子宮がんの治療は、手術、放射線治療、薬物療法を、がんの種類と広がり(ステージ)に応じて組み合わせます。妊娠を希望する人では、子宮を残せるかどうかが大きな問題になりますが、その条件も頸がんと体がんで異なります。ここでは概要を示し、詳しい治療は個別の記事に譲ります。

子宮頸がん:早期なら円錐切除で子宮を残せる場合がある

がんになる直前の高度な異形成(CIN3)や上皮内腺がん(AIS)、ごく早期のがん(IA1期)では、子宮頸部の一部を円錐状に切り取る円錐切除術が行われます[8]。子宮そのものは残るため、その後の妊娠も可能です。

前がん病変からIB1期までで将来の出産を希望する場合には、子宮を残す治療が選択肢となることがありますが、再発のリスクを考慮する必要があり、流産・早産のリスクが高くなることも報告されています[8]。より進んだがんでは、子宮を広く切除する手術(広汎子宮全摘出術など)や、抗がん剤と放射線治療を組み合わせた化学放射線療法が検討されます[8]。

💡 用語解説:円錐切除術(えんすいせつじょじゅつ)

子宮頸部の病変がある部分を、円錐の形に切り取る手術です。病変を取り除く治療であると同時に、切り取った組織を詳しく調べて、がんがどこまで広がっているかを確かめる検査の役割もあります。子宮頸部が短くなるため、その後の妊娠では早産などに注意して経過をみます。

子宮体がん:標準は子宮の摘出、条件がそろえば黄体ホルモン療法

子宮体がんでは、子宮と両側の付属器(卵巣・卵管)を取り除く手術が基本です[9]。手術の方法や術後の生活については、子宮の摘出の記事でも解説しています。

妊娠を希望する場合、子宮内膜異型増殖症(子宮体がんの前がん病変)か、がんが子宮内膜にとどまっている悪性度の低いタイプ(グレード1の類内膜がん)であれば、黄体ホルモン療法で子宮と卵巣・卵管を残す方法が選択肢になります[9]。これは、第3章で説明したエストロゲンによる内膜の増殖に、黄体ホルモンでブレーキをかける考え方にもとづく治療です。ただし再発などのリスクや、脳梗塞・心筋梗塞・肺塞栓症といった重い血栓症の副作用について十分に理解したうえで判断する必要があります[9]。

混同されやすい点ですが、子宮を残す治療に使うのはエストロゲンではなく黄体ホルモンです。エストロゲンは内膜を増やす側のホルモンであり、体がんの治療には用いません。

ステージと生存率の目安

がんの広がりは、子宮の中にとどまるI期から、ほかの臓器に広がるIV期までのステージで表します。国立がん研究センターの統計では、2018年に診断された人の5年相対生存率は、子宮頸がんが73.1%[1]、子宮体がんが81.1%でした[2]。

5年相対生存率は、同じ性別・年齢の人全体と比べてどのくらい生存しているかを示す、集団の統計です。ステージが早いほど高く、進むほど低くなりますが、個人の見通しは、がんの組織型や広がり、治療への反応などによって異なります。数字を自分にあてはめる前に、主治医からご自身の状況に即した説明を受けてください。

6. 子宮がんの予防

子宮頸がんはワクチンと検診という2つの確立した予防法があるがんで、子宮体がんは生活習慣とホルモンの状態に目を向けることが予防につながるがんです。予防の方法が違うのは、原因が違うからです。

HPVワクチンで防げるのは子宮頸がん

HPVワクチンが予防するのはHPVの感染であり、対象となるのは子宮頸がんです。子宮体がんはHPVが原因ではないため、HPVワクチンでは予防できません。

日本では、小学校6年から高校1年相当の女子が定期接種の対象で、2023年4月からは9価ワクチン(シルガード9)も公費で受けられるようになりました。9価ワクチンは、子宮頸がんの原因の80〜90%を占める7種類のHPV(16・18・31・33・45・52・58型)の感染を予防します。15歳の誕生日の前日までに1回目を受けた場合は、2回の接種で完了します[10]。

定期接種の機会を逃した世代(1997年4月2日〜2009年4月1日生まれ)を対象としたキャッチアップ接種も行われ、延長措置を経て2026年3月31日で終了しました[11]。ワクチンはすでに感染しているHPVを排除するものではなく、すべての高リスク型を防ぐわけでもないため、接種した人も20歳からの子宮頸がん検診は必要です。

子宮体がんは体重管理と、月経不順を放置しないこと

子宮体がんには、ワクチンのような確実な予防法はありません。第3章で説明した仕組みから考えると、適正体重を保つことや、排卵が長く止まった状態を放置せず適切な診療を受けることは、子宮体がんのリスク因子に対処するうえで重要です。月経不順が続く場合は、婦人科で原因を確かめ、必要に応じてホルモン治療で定期的に内膜をリセットする方法もあります。

「コーヒーや緑茶を毎日飲む」「野菜や豆類を多くとる」といった食品による予防は、確かな効果が示されているとはいえません。特定の食品に期待するよりも、体重と月経の状態に目を向け、閉経後の出血などのサインがあれば早く受診することが、現実的な対策です。

7. 遺伝の視点:子宮がんは遺伝する?

子宮頸がんは遺伝ではなく感染が主な原因のがんですが、子宮体がんの一部は、生まれつきの遺伝子の変化によって起こりやすくなる「遺伝性腫瘍」です。その代表がリンチ症候群です。どのようながんが遺伝と関わるかの全体像は、遺伝しやすいがんの記事で解説しています。

子宮頸がんは遺伝ではなく感染が主な原因

「母が子宮頸がんだったから私も」と心配する方がいますが、子宮頸がんの主な原因はHPVの持続感染で、親から子へ遺伝する病気として考えるものではありません。家族にかかった人がいてもいなくても、HPVワクチンと子宮頸がん検診という同じ対策が有効です。

ただし、ご家族が「子宮がん」と言われていた場合、それが頸がんだったのか体がんだったのかがわからないことがよくあります。遺伝との関係を考えるうえでは、この区別が出発点になります。わかる範囲で、どちらのがんだったか、何歳で診断されたかを確認しておくと役に立ちます。

子宮体がんの一部はリンチ症候群による

リンチ症候群は、DNAの複製のときに生じる誤りを直す仕組み(ミスマッチ修復)にかかわる遺伝子に、生まれつきの病的バリアント(病気の原因となる遺伝子の変化)がある体質です。原因遺伝子はMLH1、MSH2、MSH6、PMS2、EPCAMで、常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとるため、親から子へ2分の1の確率で受け継がれます。ここでいう「生まれつきの変化」は生殖細胞系列の変化のことで、がんの組織だけに生じた変化とは区別されます。

大腸がんのリスクが高いことで知られますが、女性では子宮体がんのリスクも高く、大腸がんより先に子宮体がんが見つかることもあります。子宮体がん全体の約3%がリンチ症候群に関連すると推定されています[12]。70歳までに子宮体がんを発症する累積リスクは遺伝子によって異なり、MLH1で35%、MSH2で46%、MSH6で41%、PMS2で13%、EPCAMで12%と報告されています[13]。ただしPMS2では、大規模な前向きデータベースの解析で子宮体がんのリスクの有意な上昇が認められなかったとする報告もあり、評価が分かれています[14]。

これらは病的バリアントを持つ人の集団での数字で、1人1人の発症を予測するものではありません。診断の平均年齢は、MLH1・MSH2・PMS2で47〜50歳、MSH6で53〜55歳とされ[13]、一般の子宮体がんより若い傾向があります。

家族歴で気をつけたいパターン

リンチ症候群を疑うきっかけになるのは、家族歴のパターンです。次のような場合は、遺伝性腫瘍の可能性を考える目安になります。

🧬 リンチ症候群を考えるきっかけになる家族歴・本人歴

パターン 具体例
同じ側の血縁に関連がんが複数 母方に大腸がんと子宮体がんの人がいる、など
若い年齢での発症 50歳未満で大腸がんや子宮体がんと診断された血縁者がいる
1人に複数のがん 大腸がんと子宮体がんの両方にかかった人がいる
関連するほかのがん 卵巣がん、胃がん、小腸がん、尿路(腎盂・尿管)のがんなど

※目安であり、あてはまればリンチ症候群という意味ではありません。逆に、家族が少ない、情報がわからないなどの理由で、家族歴からは気づけない場合もあります。

リンチ症候群では卵巣がんのリスクも高くなります。家族歴だけで判断するには限界があるため、次に述べるがん組織の検査が重要な役割を果たします。

がん組織のMMR/MSI検査が遺伝に気づくきっかけになる

子宮体がんと診断されたとき、がんの組織でミスマッチ修復(MMR)のたんぱく質が失われていないか、またはマイクロサテライト不安定性(MSI)がないかを調べる検査は、リンチ症候群に気づく入口になります。欧州の婦人科腫瘍学会などの合同ガイドラインは、組織型にかかわらずすべての子宮体がんでこの検査を行うこと、リンチ症候群のリスクが高いと判断された患者さんには遺伝カウンセリングを提供することを推奨しています[15]。

ただし、組織の検査で異常が見つかっても、そのすべてがリンチ症候群ではありません。メタ解析では、子宮体がんの約26〜27%にMMRの異常(MMR欠損またはMSI)がみられた一方、腫瘍の検査で異常があった人のうち、生まれつきの病的バリアントが確認されたのは約29%でした[12]。多くは、がん細胞の中だけでMLH1遺伝子のスイッチが切れる変化(プロモーターのメチル化)など、遺伝しない変化によるものです。組織の結果は「遺伝学的検査を検討するかどうか」を決める手がかりであり、最終的な判断には血液などを用いた遺伝学的検査が必要です。子宮体がんの分子分類や関連する遺伝子については、子宮内膜がんと関連する遺伝子で詳しく解説しています。

リンチ症候群とわかった場合には、子宮内膜や卵巣のがんの症状について知っておくこと、経腟超音波検査や子宮内膜の組織検査を1〜2年ごとに検討すること、出産を終えたあとにリスクを減らす目的で子宮と卵巣・卵管の摘出を検討できることなどが、管理の選択肢として示されています[13]。血縁者にとっては、同じ病的バリアントを持っているかを調べることで、大腸内視鏡などの検診を早くから始めるかどうかを判断できます。

💡 用語解説:MMR検査とMSI検査

MMR検査(免疫組織化学染色)は、がんの組織にミスマッチ修復のたんぱく質(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2)が残っているかを染色で調べる検査です。MSI検査は、修復の仕組みが働かないと長さが乱れる短いくり返し配列(マイクロサテライト)を調べます。どちらも「がん組織の性質」を見る検査で、生まれつきの遺伝子の変化があるかどうかは、別に遺伝学的検査で確かめます。

家族歴が気になるときの相談先

ご本人やご家族が子宮体がんや大腸がんと診断され、家族歴のパターンにあてはまる場合や、がん組織の検査でMMRの異常を指摘された場合は、遺伝学的検査の意味や血縁者への影響を、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリング・遺伝診療で整理することができます。子宮がんそのものの検査や治療は、婦人科・婦人科腫瘍の専門医療機関で受けてください。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「子宮がん」の家族歴を聞くときに】

家族歴を確認するとき、「子宮がん」とだけ伝わっていることは少なくありません。けれども、遺伝との関係を考えるうえで、頸がんか体がんかの違いはとても大きいものです。頸がんであれば主な原因は感染で、体がんであれば、若い年齢での発症や大腸がんとの重なりがリンチ症候群を考える手がかりになります。

臨床遺伝専門医として遺伝性腫瘍を考えるときには、がんの名前だけでなく、どの臓器の、何歳でのがんかを一つずつ確かめることが大切だと考えています。ご家族に尋ねられる機会があれば、「子宮のどこのがんだったか」「何歳だったか」を聞いておくと、将来の判断に役立ちます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 子宮がん検診で子宮体がんもわかりますか?

自治体の子宮がん検診は基本的に子宮頸がんの検診で、子宮体がんは対象に含まれていません。子宮頸がん検診で異常がなくても、子宮体がんがないことまでは示していません。閉経後の出血や月経と関係のない出血がある場合は、検診を待たずに婦人科を受診してください。

Q2. 子宮がんの出血は何色ですか?どのくらい続いたら受診すべき?

出血の色や量で、がんかどうかを見分けることはできません。赤い出血も茶色いおりものも、がん以外の原因で起こります。判断の手がかりは「いつ出血したか」で、閉経後の出血、性交のたびの出血、月経と関係のない出血をくり返す場合は、色や量にかかわらず受診してください。

Q3. HPVワクチンで子宮体がんも予防できますか?

予防できません。HPVワクチンが防ぐのはHPVの感染で、対象は子宮頸がんです。子宮体がんはHPVが原因ではないため、体重管理や月経不順を放置しないこと、閉経後の出血などのサインがあれば早く受診することが対策になります。

Q4. 母が子宮がんでした。私にも遺伝しますか?

お母さまのがんが頸がんか体がんかで考え方が変わります。子宮頸がんの主な原因はHPVの感染で、遺伝する病気として考えるものではありません。子宮体がんの場合、全体の約3%はリンチ症候群という遺伝性の体質に関連しており、若い年齢での発症や、血縁者に大腸がんが多い場合などは、遺伝性腫瘍の可能性を考える目安になります。

Q5. 閉経後に少量の出血がありました。様子を見てもよいですか?

量が少なくても、1回だけでも、婦人科を受診してください。閉経後の出血で受診した人のうち子宮体がんと診断されるのは約9%で、多くはがん以外の原因ですが、子宮体がんと診断された人の約90%には診断前に閉経後の出血がありました。

Q6. ミネルバクリニックで子宮がんの検診や治療はできますか?

いいえ、当院では子宮がん(子宮頸がん・子宮体がん)の検診・診断・治療は行っておりません。この件についてのご予約・お問い合わせもお受けしていません。検診はお住まいの自治体の子宮頸がん検診を、症状がある場合や治療については婦人科・婦人科腫瘍の専門医療機関をご利用ください。

まとめ

子宮がんは、子宮の入口にできる子宮頸がんと、奥の内膜にできる子宮体がんの総称です。子宮頸がんはHPVの持続感染が主な原因で30〜40代に多く、子宮体がんはエストロゲンの長期的な影響などが関係し、より高い年代で増えます[3][4]。現在は子宮体がんのほうが多く診断されています[1][2]。

自治体の子宮がん検診とHPVワクチンが対象としているのは子宮頸がんで、子宮体がんは閉経後の出血などの症状から見つけるがんです。子宮頸がんは遺伝ではなく感染が主な原因ですが、子宮体がんの約3%はリンチ症候群に関連しています[12]。ご家族の「子宮がん」がどちらのがんだったのかを知っておくことが、ご自身の予防と、遺伝との関係を考える出発点になります。

🏥 子宮がんの検査・治療をお考えの方へ

当院では、子宮がん(子宮頸がん・子宮体がん)の検診・診断・治療を行っておりません。
この件についてのご予約・お問い合わせはお受けしておりません。
子宮がん検診はお住まいの自治体の子宮頸がん検診を、症状がある場合や治療については婦人科・婦人科腫瘍を専門とする医療機関へご相談ください。

この記事は病気を正しく知っていただくための解説であり、当院での診療をご案内するものではありません。なお、他の診療の過程で具体的な遺伝学的評価が必要と判断された場合に限り、遺伝カウンセリングが関係することがあります。

参考文献

  • [1] 子宮頸部:[国立がん研究センター がん統計]. 国立がん研究センター がん情報サービス. [がん情報サービス]
  • [2] 子宮体部:[国立がん研究センター がん統計]. 国立がん研究センター がん情報サービス. [がん情報サービス]
  • [3] 子宮頸がん. 公益社団法人 日本産科婦人科学会. [日本産科婦人科学会]
  • [4] 子宮体がん. 公益社団法人 日本産科婦人科学会. [日本産科婦人科学会]
  • [5] Association of Endometrial Cancer Risk With Postmenopausal Bleeding in Women: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Intern Med. 2018. [PubMed 30083701]
  • [6] HPV検査単独法による子宮頸がん検診の導入. 厚生労働省. [厚生労働省]
  • [7] 子宮頸がん検診について. 国立がん研究センター がん情報サービス. [がん情報サービス]
  • [8] 子宮頸がん 治療. 国立がん研究センター がん情報サービス. [がん情報サービス]
  • [9] 子宮体がん(子宮内膜がん) 治療. 国立がん研究センター がん情報サービス. [がん情報サービス]
  • [10] 9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(シルガード9)について. 厚生労働省. [厚生労働省]
  • [11] HPVワクチン(子宮頸がん予防) キャッチアップ接種の接種期間延長措置. 神戸市. [神戸市]
  • [12] The proportion of endometrial cancers associated with Lynch syndrome: a systematic review of the literature and meta-analysis. Genet Med. 2019;21(10). [Genet Med]
  • [13] Lynch Syndrome. GeneReviews®. National Center for Biotechnology Information. [NCBI Bookshelf NBK1211]
  • [14] Cancer risks by gene, age, and gender in 6350 carriers of pathogenic mismatch repair variants: findings from the Prospective Lynch Syndrome Database. Genet Med. 2020;22:15-25. [Genet Med]
  • [15] ESGO/ESTRO/ESP Guidelines for the management of patients with endometrial carcinoma (Pocket Guidelines). European Society of Gynaecological Oncology. 2021. [ESGO]

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プロフィール
仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。

2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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