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子宮頸がんとは?初期症状・原因(HPV)・検診・治療と遺伝との関係を専門医が解説

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

子宮頸がん(しきゅうけいがん)は、子宮の入り口にあたる子宮頸部にできるがんです。原因のほとんどはHPV(ヒトパピローマウイルス)の持続感染で、初期にはほとんど症状がありません。その一方で、がんになる前の段階(異形成)を経てゆっくり進むため、検診で早い段階に見つけることができます。また、子宮頸がんの大部分は親から受け継ぐ遺伝子の変化で起こるがんではありません。この記事では、症状、原因、検診、ステージと治療、妊娠への影響、HPVワクチン、そして「子宮頸がんは遺伝するのか」を臨床遺伝専門医の立場から解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🩺 子宮頸がん・HPV・検診・遺伝
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 子宮頸がんに初期症状はありますか?

A. 初期の子宮頸がんや、がんになる前の段階では、ほとんど症状がありません。進むと、性交のときの出血、月経以外の出血、おりものの変化などが出てきます。症状が出る前に見つける方法が検診です。症状がないことは、がんがないことの証明にはなりません。

  • ➤原因 → 発がん性HPVの持続感染。感染しても多くは自然に消える
  • ➤検診 → 20歳以上は細胞診を2年ごと。30〜60歳はHPV検査単独法を5年ごとに行う自治体もある
  • ➤治療 → 円錐切除、手術、放射線治療(同時化学放射線療法)、薬物療法をステージで選ぶ
  • ➤遺伝 → 大部分は遺伝しない。例外としてポイツ・ジェガース症候群がある

1. 子宮頸がんとは?

子宮頸がんは、子宮の下の部分で腟につながる「子宮頸部」にできるがんです。日本では2023年に10,457例が新たに診断され、2024年には2,751人が亡くなっています[1]。発症は30〜40代に多く、若い世代でも見られることが特徴です[2]。

子宮頸部はどこ?子宮頸管との位置関係

子宮は、赤ちゃんが育つ袋状の「子宮体部」と、その下の筒状の「子宮頸部」に分けられます。子宮頸部の中を通る細い通り道が子宮頸管で、腟側の出口を外子宮口と呼びます。子宮頸部は腟から直接観察でき、細胞をこすり取って調べられるため、検診に向いた場所です。

子宮頸がんと子宮体がんのちがい

同じ「子宮がん」でも、子宮頸がんと子宮体がんは原因も、かかりやすい年代も異なる別の病気です。子宮頸がんの主な原因はHPV感染で、比較的若い世代に多く見られます。子宮体がん(子宮内膜がん)は子宮の内側の膜から発生し、閉経前後の世代に多いがんです。

以前は子宮がんの多くを頸がんが占めていましたが、現在は体がんのほうが多くなっています。2023年の新規診断数は、子宮体部が19,945例、子宮頸部が10,457例でした[1][3]。両者の比較や全体像は子宮がん全体の解説、体がんについては子宮体がんの記事をご覧ください。

📘 子宮頸がんと子宮体がんのちがい

項目 子宮頸がん 子宮体がん
できる場所 子宮の入り口(子宮頸部) 子宮の奥の内膜(子宮体部)
主な原因 発がん性HPVの持続感染 女性ホルモン(エストロゲン)の影響など
多い年代 30〜40代 閉経前後から
2023年の新規診断数 10,457例 19,945例
遺伝との関係 大部分は遺伝しない 一部にリンチ症候群などの遺伝性のものがある

※診断数は国立がん研究センター がん情報サービス[1][3]による。

扁平上皮癌と腺癌

子宮頸がんは、がん細胞の形(組織型)によって主に扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)と腺癌(せんがん)に分けられます。日本婦人科腫瘍学会によると、扁平上皮癌が約75%、腺癌が約23%を占め、腺癌の割合は年々高くなっています[4]。

この2つは、もとになる細胞の種類の違いです。扁平上皮癌が進行して腺癌になる、という関係ではありません。進み具合はこれとは別に「ステージ(病期)」で表します。腺癌は子宮頸管の奥にできることがあり、細胞診で見つけにくい場合があります。

何人に一人がかかる?かかりやすい年齢

1年間に新たに診断される人は約1万人、人口10万人あたりでは16.4人です[1]。30〜40代での発症が多く[2]、妊娠や出産を考える年代と重なる点が、ほかの多くのがんと異なります。

2. 原因はHPVの持続感染

子宮頸がんのほぼすべては、発がん性のHPV(ヒトパピローマウイルス)が長く感染し続けることで起こります。米国国立がん研究所(NCI)は、発がん性HPVの持続感染がほぼすべての子宮頸がんの原因であり、HPV16型と18型が世界の子宮頸がんの約70%を占めると説明しています[5]。

HPVとは:ハイリスク型(16型・18型など)

💡 用語解説:HPV(ヒトパピローマウイルス)

皮膚や粘膜に感染するありふれたウイルスで、200種類以上の型があります。そのうち、がんの原因になる型を「ハイリスク型(高リスク型)」と呼びます。NCIは、16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59型の12種類をハイリスク型としています[6]。いぼ(尖圭コンジローマ)の原因になる6型・11型などは、がんとの関係が低い型です。

HPVは性交渉を含む皮膚や粘膜どうしの密接な接触でうつります[6]。性交渉の経験がある人の多くが一生のうちに一度は感染するとされ、特別な人がかかるウイルスではありません[2]。

感染してもほとんどは自然に消える

HPVに感染しても、多くは1〜2年のうちに体の免疫の働きで排除されます[6]。日本産科婦人科学会は、感染が長く続く(持続感染になる)のは約10%であると説明しています[2]。つまり、HPVに感染したことがあるというだけで、がんになるわけではありません。

持続感染から異形成(CIN)、がんへ

ハイリスク型HPVの持続感染が続くと、子宮頸部の細胞に「異形成(いけいせい)」と呼ばれる前がん病変が生じることがあります。異形成は軽度・中等度・高度と段階が進み、数年かけて一部が浸潤がん(周りの組織に入り込むがん)になります[2]。軽度の異形成は自然に消えることも多く、すべてが進行するわけではありません。

HPV感染多くは1〜2年で排除
▶
持続感染感染した人の一部
▶
異形成(CIN)前がん病変・自然に消えることも
▶
子宮頸がん数年以上かけて進む

💡 用語解説:CIN(子宮頸部上皮内腫瘍)

CIN(シン)は、子宮頸部の表面の細胞に起こる前がん病変を表す分類で、異形成の程度によってCIN1(軽度)、CIN2(中等度)、CIN3(高度異形成と上皮内癌)に分けられます。がん細胞が表面の上皮の中にとどまっている状態で、まだ浸潤がんではありません。

異形成の段階ごとの経過観察や治療の考え方は、子宮頸部異形成(CIN)の記事で詳しく解説しています。

HPVががんを起こす仕組み(E6・E7とp53・RB)

ハイリスク型HPVは、E6とE7という2つのタンパク質で、細胞の「ブレーキ役」の働きを止めてしまいます。E6はp53というタンパク質の分解を進め、E7はRBタンパク質の働きを妨げます[7]。p53とRBは、どちらもDNAが傷ついた細胞の分裂を止めるがん抑制遺伝子から作られるタンパク質です。RBタンパク質のもとになるのはRB1遺伝子です。

ブレーキが外れた細胞は分裂を続けやすくなり、その過程でさらに遺伝子の変化が積み重なって、がんへ進むと考えられています[7]。ここで起こる遺伝子の変化は、感染した子宮頸部の細胞の中だけで生じるもので、生まれつき持っている遺伝子の変化とは異なります。この違いは第9章で説明します。

リスク要因(喫煙・免疫低下など)

HPVの持続感染が前提ですが、そのうえで子宮頸がんになりやすくする要因も知られています。NCIは、喫煙や受動喫煙、HIV感染や免疫を抑える薬の使用による免疫の低下、経口避妊薬(ピル)の使用、出産回数の多さ、18歳未満での性交渉の開始や複数のパートナーを挙げています[5]。喫煙と免疫の低下は、HPV感染が長引く要因としても示されています[6]。

これらは集団で見たときにリスクが高くなる傾向であり、当てはまる人が必ず子宮頸がんになるという意味ではありません。

性交渉が原因?パートナーの責任?性交渉の経験がなくてもなる?

HPVは性交渉でうつるため、性交渉は感染のきっかけになります。ただし、誰から、いつ感染したかを特定することはほぼできません。性交渉の経験がある人の多くが一度は感染するありふれたウイルスで[2]、感染からがんになるまでには長い年月がかかります。子宮頸がんと診断されても、今のパートナーから感染したとは限りません。

HPVは挿入を伴わない性的な接触でもうつることがあります[6]。一方で、性的な接触をまったく経験していない人がHPV関連の子宮頸がんになる可能性は非常に低いと考えられています。例外として、HPVと関係なく発生する種類の子宮頸がん(第9章の胃型腺癌など)もあります。

3. 症状:初期はほとんど無症状

がんになる前の段階や、浸潤を始めたばかりの初期の子宮頸がんには、自覚症状がないことがほとんどです。日本婦人科腫瘍学会は、この時期に見られるのは性交渉に伴う出血(接触出血)程度であると説明しています[4]。

進むと出る症状:性交後の出血・不正出血・おりもの

がんが進むと、次のような症状が出てきます[4][2]。

  • 性交のときや性交後の出血(接触出血)
  • 月経以外の時期の出血(不正出血)、閉経後の出血
  • おりものの増加や、茶色・血の混じったおりもの、においの変化
  • 下腹部や腰の痛み

これらの症状は、子宮頸部のびらん(ただれ)、ポリープ、感染症など、がん以外の原因でも起こります。症状だけで子宮頸がんかどうかを判断することはできません。

進行したときの症状

がんが子宮の外へ広がると、腰痛や、膀胱や直腸への広がりによる血尿・血便が出ることがあります[4]。骨盤のリンパ節や神経に広がると、脚のむくみや痛みが出る場合もあります。このような症状は進行したがんで見られるもので、初期の段階で現れることはほとんどありません。

受診の目安チェックリスト

⚠️ 婦人科の受診を考えたい症状

・性交のあとに出血がある
・月経以外の時期に出血が続く、または繰り返す
・閉経後に出血がある
・おりものに血が混じる、色やにおいが変わった状態が続く
・以前の検診結果で「要精密検査」と言われたのに受診していない

上のような症状がある場合は、検診を待たずに婦人科を受診します。症状があるときの受診は「検診」ではなく「診療」として扱われ、症状に合わせた検査が行われます。

4. 検診で「がんになる前」に見つける

子宮頸がん検診の目的は、症状が出る前に、がんやがんになる前の病変(異形成)を見つけることです。異形成の段階で見つかれば、子宮を残す小さな治療で済むことが多くなります。

対象と間隔:細胞診は2年ごと、HPV検査単独法は5年ごと

市町村が行う子宮頸がん検診は、20歳以上の女性を対象とする2年に1回の細胞診が基本です。2024年4月からは、厚生労働省の指針に「HPV検査単独法」が加わり、長期の追跡ができる体制などの要件を満たした市町村では、30歳から60歳までの女性に5年ごとの検査を行えるようになりました[8]。

🔬 市町村の子宮頸がん検診(2026年時点の指針)

方法 対象 間隔 陽性・異常のとき
細胞診 20歳以上 2年に1回 精密検査(コルポスコピー・組織診)
HPV検査単独法 30〜60歳(導入した市町村) 5年に1回 同じ検体で細胞診(トリアージ)を行い、結果により精密検査または1年後の追跡検査

※厚生労働省の資料[8]による。お住まいの市町村がどちらの方法を採用しているかは自治体の案内で確認してください。

HPV検査は、子宮頸部の細胞にハイリスク型HPVがいるかどうかを調べる検査です。陽性でもがんがあるという意味ではなく、「将来、異形成やがんになる可能性があるため、しばらく経過を見る必要がある状態」を示します。

検診の流れと痛み

検診では、問診のあと内診台で腟に器具(腟鏡)を入れ、ブラシやヘラで子宮頸部の表面を軽くこすって細胞を採ります。器具が入るときの違和感はありますが、細胞を採ること自体に強い痛みが出ることは多くありません。採取後に少量の出血が出ることがあります。

月経中は検体に血液が混じって正確な判定が難しくなるため、月経の時期を避けて受けるのが一般的です。

結果の見方と「要精密検査」の意味

「要精密検査」は、「がんです」という意味ではありません。細胞診の結果は、異常なし(NILM)のほか、ASC-US(意義不明な異型扁平上皮細胞)、LSIL(軽度扁平上皮内病変)、HSIL(高度扁平上皮内病変)などの区分で報告されます。異常のある区分では、多くが異形成の段階であり、がんではないこともあります。

ただし、要精密検査と言われたら、そのままにせず精密検査を受けることが大切です。各区分の意味やその後の流れは、子宮頸部異形成の記事で詳しく解説しています。

精密検査:コルポスコピー・組織診

精密検査では、コルポスコピー(腟拡大鏡)で子宮頸部を拡大して観察し、異常が疑われる部分から小さく組織を採って(組織診)、顕微鏡で診断を確定します[4]。組織を採る際に少し痛みを感じることや、数日ほど少量の出血が続くことがあるため、ナプキンを用意しておくとよいでしょう。

💡 用語解説:コルポスコピー

子宮頸部に酢酸を塗り、拡大鏡で表面の色や血管の変化を観察する検査です。異形成やがんのある部分は酢酸で白く変化しやすく、どこから組織を採るかを決めるのに役立ちます。がんと診断された場合は、MRIやCTで広がりを調べます[4]。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「症状がないから大丈夫」は通用しないがん】

子宮頸がんは、がんになる前の段階が長く、その間ほとんど症状が出ません。このため、体調がよいことを理由に検診を後回しにすると、見つける機会を逃すことになります。反対に、この長い前段階こそが、検診で拾い上げられる理由でもあります。

臨床遺伝専門医として遺伝性腫瘍に向き合うときも、がんの多くは発症前に長い準備期間があると考えています。子宮頸がんは、その期間を検診で確実にとらえやすいがんの一つだと考えています。

5. ステージと生存率

子宮頸がんの進み具合は、国際産科婦人科連合(FIGO)の分類でI期からIV期に分けられ、早い段階で見つかるほど生存率は高くなります。

ステージ分類(FIGO 2018)

FIGOの分類は2018年に改訂され、画像検査や病理の結果もステージの判定に使えるようになりました。また、骨盤や大動脈周りのリンパ節への転移があればIIIC期とする区分が新たに設けられました[9]。

📊 子宮頸がんのステージ(FIGO 2018の概要)

ステージ がんの広がり
I期 がんが子宮頸部にとどまる。IA期は顕微鏡でしか分からない浸潤の浅いもの(深さ5mm以下)、IB期はそれより大きいもの
II期 子宮頸部を越えて広がるが、腟の下3分の1や骨盤の壁には達していない
III期 腟の下3分の1や骨盤の壁に達する、腎臓からの尿の流れを妨げる、または骨盤・大動脈周りのリンパ節に転移がある(IIIC期)
IV期 膀胱や直腸の粘膜に広がる(IVA期)、または肺など離れた臓器に転移がある(IVB期)

※FIGO 2018改訂版[9]をもとに要約。細かな区分(IA1・IB1など)は省略しています。

💡 用語解説:FIGO(フィーゴ)分類

国際産科婦人科連合(International Federation of Gynecology and Obstetrics)が定める、婦人科のがんの進行度の国際的な分類です。日本の治療ガイドラインもこの分類に基づいて治療法を示しています。

ステージ別の5年生存率

子宮頸がん全体の5年生存率(ネット・サバイバル)は約72〜73%で、がんが子宮頸部にとどまる「限局」の段階では約90%です。2016年に診断された人の全国集計では、全体で71.8%、限局89.7%、領域(近くのリンパ節や臓器への広がり)66.9%、遠隔転移21.0%でした[10]。2018年診断例の全体の値は73.1%と報告されています[1]。

📈 子宮頸がんの広がり別5年生存率(2016年診断)

がんの広がり 5年ネット・サバイバル
限局(子宮頸部にとどまる) 89.7%
領域(近くのリンパ節・臓器に広がる) 66.9%
遠隔(離れた臓器に転移) 21.0%
全体 71.8%

※厚生労働省「平成28年 全国がん登録 5年生存率報告」[10]による。「限局・領域・遠隔」はFIGOのステージとは別の区分です。

生存率は、過去に診断された多くの人のデータをまとめた集団の数字です。治療はその後も進歩しており、一人ひとりの見通しは、ステージ、組織型、年齢、治療への反応などによって異なります。

6. 治療法

子宮頸がんの治療は、ステージ、組織型、年齢、妊娠を希望するかどうかをもとに、手術、放射線治療、薬物療法を選び、組み合わせます。日本では日本婦人科腫瘍学会の「子宮頸癌治療ガイドライン2022年版」が治療の標準を示しています[11]。

ごく早期:円錐切除術

高度異形成や上皮内癌、ごく浅い浸潤がん(IA1期の一部)では、子宮頸部を円錐形に切り取る「円錐切除術」が行われます。切り取った組織を詳しく調べることで、診断を確定する検査の役割も兼ねています。子宮を残せるため、妊娠を希望する人の選択肢になります[2]。

💡 用語解説:円錐切除術

子宮頸部の入り口を中心に、病変を含む組織を円錐形に切除する手術です。レーザーや電気メスを使い、腟から行います。切除した組織の端にがんが残っていないかを確認し、追加の治療が必要かを判断します。

手術:広汎子宮全摘術・広汎子宮頸部摘出術

I期からII期の一部では、子宮とその周りの組織、腟の一部、骨盤のリンパ節を広く取り除く「広汎子宮全摘術」が標準的な手術です[11]。子宮の摘出の方法や術後の生活については子宮摘出の記事もご覧ください。

この手術では、骨盤の神経の影響による排尿の障害や、リンパ節を取ったことによる脚のむくみ(リンパ浮腫)が起こることがあります。早期で妊娠を強く希望する場合には、子宮体部を残して子宮頸部とその周りを取り除く「広汎子宮頸部摘出術」が選ばれることもあります[2]。

放射線治療・同時化学放射線療法

手術が難しい場合や、がんが大きい・周りに広がっている場合(局所進行がん)には、放射線治療が中心になります。放射線治療と抗がん剤(主にシスプラチン)を同時に行う「同時化学放射線療法」が標準的な方法です[11]。

💡 用語解説:同時化学放射線療法(CCRT)

放射線治療の期間中に抗がん剤を一緒に使う治療法です。抗がん剤が放射線の効果を高める働きをします。体の外から当てる外部照射と、腟から子宮の中に線源を入れる腔内照射を組み合わせるのが一般的です。

放射線治療では、下痢や膀胱炎のような症状が治療中に出るほか、治療後しばらくたってから腸や膀胱に症状が出ることがあります。卵巣に放射線が当たると卵巣の働きが失われ、閉経と同じ状態になります。

進行・再発したときの薬物療法

離れた臓器への転移がある場合や再発した場合には、抗がん剤を中心とする薬物療法が行われます。近年は、免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブを抗がん剤に加えることで、進行・再発の子宮頸がんの生存期間が延びたことが国際共同試験(KEYNOTE-826)で示されました[12]。どの薬を使うかは、がんの性質や体の状態によって決まります。

治療後の性生活・再発と経過観察

治療後に性交渉をいつから再開できるかは、手術の方法や放射線治療の有無によって異なります。担当医から時期の目安を確認してください。腟の短縮や乾燥によって性交時に痛みが出ることもあり、潤滑剤の使用などで対処できる場合があります。

子宮頸がんは治療後に再発することがあるため、治療が終わってからも数年間は定期的な診察と検査で経過を確認します。再発は治療後早い時期に多いとされますが、それ以降に見つかる場合もあります。

7. 妊娠・出産への影響

子宮頸がんは妊娠を考える年代に多いため、治療法によっては将来の妊娠・出産に影響が出ることがあります。

円錐切除後の妊娠と早産リスク

円錐切除などで子宮頸部の一部を切り取ると、その後の妊娠で早産のリスクが高くなることが分かっています。複数の研究をまとめた解析では、治療を受けた人の早産(妊娠37週未満)の割合は10.7%で、治療を受けていない人の5.4%に比べて高く、相対リスクは1.78でした。切除した深さが深いほど、また治療を繰り返すほど、リスクが高くなる傾向が見られています[13]。

円錐切除後に妊娠した場合は、妊婦健診で子宮頸管の長さを測るなど、早産の兆候に注意して経過をみます。円錐切除を受けたことを、妊婦健診を担当する医療機関に伝えておくことが大切です。

子宮を残す治療と妊孕性

がんの治療では、子宮や卵巣を取る手術や骨盤への放射線治療によって、妊娠する力(妊孕性)が失われることがあります。早期のがんでは、円錐切除術や広汎子宮頸部摘出術で子宮を残せる場合がありますが、子宮頸部の狭窄や早産のリスクが伴います[2]。子宮を残す治療を選べるかどうかは、がんの大きさや組織型、ステージによって決まります。

妊娠中に見つかったら

妊娠初期の妊婦健診では、子宮頸部の細胞診が行われることが多く、ここで異常が見つかることがあります。異形成の段階であれば、多くは妊娠中は経過観察とし、出産後にあらためて評価します。浸潤がんが見つかった場合は、ステージ、妊娠週数、妊娠を続けたいかどうかを踏まえ、産科と婦人科腫瘍の専門医が一緒に治療方針を検討します。

8. 予防:HPVワクチンと検診

子宮頸がんの予防は、HPVワクチンで感染を防ぐ「一次予防」と、検診で前がん病変を見つける「二次予防」の2本立てです。

ワクチンの種類と定期接種の対象(2026年時点)

HPVワクチンは、小学6年生から高校1年生相当の女子を対象とする定期接種で、公費で受けられます。9価ワクチン(シルガード9)は、子宮頸がんの原因の80〜90%を占める7種類のハイリスク型HPV(16・18・31・33・45・52・58型)の感染を防ぎます。15歳になる前に1回目を受けた場合は2回、15歳以上で始めた場合は3回接種します[14]。

定期接種の時期に受けられなかった世代を対象とした「キャッチアップ接種」は2025年3月末で終了し、期間中に1回以上接種した人が残りを公費で受けられる経過措置も2026年3月31日で終了しました[15]。

ワクチンの効果は、スウェーデンで大規模な登録データを用いた研究で示されています。17歳未満で4価ワクチンを受けた人では、受けていない人と比べて浸潤性の子宮頸がんの発生率が約9割低く(発生率比0.12)、17〜30歳で受けた人でも約半分でした(発生率比0.47)[16]。

性交渉を経験した後・男性の接種

ワクチンの効果が最も高いのは、HPVに感染する前、つまり性交渉を経験する前の接種です。ただし、経験した後でも接種の意味がなくなるわけではありません。上のスウェーデンの研究でも、17〜30歳での接種で子宮頸がんの減少が見られています[16]。すでに感染しているHPVを排除する効果はないため、年齢が上がるほど効果は小さくなります。

男性については、2025年8月に9価ワクチンの対象が9歳以上の男性に広がり、肛門がんと尖圭コンジローマの予防の適応が加わりました[17]。男性の接種は定期接種ではなく任意接種で、費用を助成する自治体もあります。

ワクチンを打っても検診は必要

HPVワクチンを接種した人も、20歳になったら検診を受けることが勧められています[2]。ワクチンはすべての発がん性HPVを防ぐわけではなく、接種前にすでに感染していた場合にも効果は期待できないためです。ワクチンと検診は、どちらか一方ではなく組み合わせて効果を発揮します。

9. 遺伝の視点:子宮頸がんは遺伝するのか

子宮頸がんの大部分は、親から子へ受け継がれる遺伝子の変化で起こるがんではありません。原因のほとんどはHPVの持続感染であり、がんのもとになる遺伝子の変化は、感染した子宮頸部の細胞の中で後から生じたものです[5]。

ほとんどは遺伝しない:HPVが細胞に起こす後天的な変化

がんに関わる遺伝子の変化には、生まれつき全身の細胞が持っている「生殖細胞系列の変化」と、生まれた後に一部の細胞にだけ生じる「体細胞の変化」があります。子宮頸がんで起こる遺伝子の変化は、ほとんどが後者です。体細胞の変化は子どもに受け継がれません。両者の違いは体細胞変異と生殖細胞系列変異のちがいで詳しく解説しています。

一方で、家族の中に子宮頸がんの人が複数いることはあります。スウェーデンの家系を使った研究では、子宮頸部の腫瘍のなりやすさに遺伝的な要因が一部関わる可能性が示されています[18]。ただしこれは、HPVを排除する免疫の働きの個人差など、多くの要因がわずかずつ影響するもので、特定の遺伝子の変化が高い確率でがんを起こす「遺伝性腫瘍」とは性質が異なります。がん全般の遺伝との関係はがんは遺伝するのかの記事でまとめています。

例外:ポイツ・ジェガース症候群と子宮頸部の胃型腺癌

遺伝性の病気が子宮頸がんに関わる例外として、ポイツ・ジェガース症候群があります。ポイツ・ジェガース症候群は、STK11遺伝子の病的バリアントによる常染色体顕性(優性)遺伝の病気で、消化管のポリープや唇・口の中の色素斑が特徴です。消化管のがんに加えて、乳がんや婦人科のがんなど、さまざまながんのリスクが高いことが報告されています[19]。

💡 用語解説:胃型腺癌(いがたねんえきせいがん)

子宮頸部の腺癌のうち、胃の粘膜に似た粘液を作る細胞からなるタイプです。多くの子宮頸がんと異なり、HPVとは関係なく発生します。以前は「最小偏倚腺癌(さいしょうへんいせんがん)」と呼ばれていた病変もこのタイプに含まれます。子宮頸管の奥にできることが多く、通常の細胞診では見つけにくいことがあります。

ポイツ・ジェガース症候群の人に起きた子宮頸部の胃型腺癌49例をまとめた系統的レビューでは、診断時の年齢の中央値は35歳(15〜72歳)で、経過の厳しい例が多く見られました。著者らは、18〜20歳ごろから毎年の内診と細胞診を行い、症状があれば早めに画像検査や組織検査を行うことを提案しています[20]。

家族に「子宮がん」が多いとき:体がんとリンチ症候群

家族に「子宮がん」が多い場合は、まずそれが子宮頸がんなのか子宮体がんなのかを確認します。遺伝性腫瘍との関係が深いのは子宮体がんのほうです。代表的なリンチ症候群では、大腸がんとともに子宮体がん(子宮内膜がん)のリスクが高くなりますが、子宮頸がんは代表的な関連がんに含まれていません。

家族に大腸がん、子宮体がん、卵巣がんなどが複数いる場合や、若い年齢で発症した人がいる場合は、遺伝性腫瘍の可能性を考えます。複数の遺伝性腫瘍の原因遺伝子をまとめて調べる方法として、遺伝性がんの遺伝子検査があります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「母が子宮がんだった」と聞いたときに確かめたいこと】

「母が子宮がんだったので、私も遺伝でなりやすいのでは」という心配は、子宮頸がんと子宮体がんを区別すると整理しやすくなります。子宮頸がんであれば、原因の中心はHPVで、娘さんに遺伝子の変化が受け継がれるわけではありません。娘さんにとって大切なのは、ワクチンと検診という、ご本人が取れる予防策です。

一方、子宮体がんが家系に集まっている場合や、大腸がんなどほかのがんと組み合わさっている場合は、リンチ症候群などの遺伝性腫瘍を考える意味があると考えています。どちらの「子宮がん」なのかを確かめることが、遺伝を考えるときの出発点です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 子宮頸がんの初期症状はありますか?

初期の子宮頸がんや、がんになる前の段階(異形成)では、ほとんど症状がありません。見られることがあるのは、性交のときの出血程度です。進むと、月経以外の出血やおりものの変化、下腹部や腰の痛みが出てきます。症状が出る前に見つけるために、検診があります。

Q2. 性交渉の経験がなくても子宮頸がんになりますか?

子宮頸がんの大部分はHPVの持続感染が原因で、HPVは性交渉を含む性的な接触でうつります。そのため、性的な接触をまったく経験していない人がHPVによる子宮頸がんになる可能性は非常に低いと考えられています。ただし、HPVと関係なく発生する種類の子宮頸がん(胃型腺癌など)もあります。

Q3. 子宮頸がんはパートナーのせいですか?

HPVは性交渉の経験がある人の多くが一度は感染するありふれたウイルスで、感染からがんになるまでには長い年月がかかります。誰から、いつ感染したかを特定することはほぼできず、今のパートナーから感染したとは限りません。

Q4. ワクチンを打っても子宮頸がんになりますか?

なる可能性はあります。9価ワクチンは子宮頸がんの原因の80〜90%を占めるHPVの型を防ぎますが、すべての型を防ぐわけではありません。また、接種前にすでに感染していたHPVを排除する効果はありません。そのため、ワクチンを接種した人も20歳になったら検診を受けることが勧められています。

Q5. 検診は痛いですか?生理中でも受けられますか?

器具が入るときの違和感はありますが、細胞を採ること自体で強い痛みが出ることは多くありません。採取後に少量の出血が出ることがあります。月経中は検体に血液が混じって判定が難しくなるため、月経の時期を避けて受けるのが一般的です。

Q6. 母が子宮頸がんでした。私も遺伝でなりやすいですか?

子宮頸がんの大部分はHPVの持続感染によるもので、親から子へ受け継がれる遺伝子の変化で起こるがんではありません。ご本人にとって大切なのは、HPVワクチンと定期的な検診です。例外として、ポイツ・ジェガース症候群という遺伝性の病気では、HPVと関係のない種類の子宮頸がんのリスクが高くなります。また、お母様のがんが子宮体がんだった場合は、リンチ症候群などの遺伝性腫瘍との関係を考えることがあります。

Q7. ミネルバクリニックで子宮頸がんの検診や治療はできますか?

いいえ、当院では子宮頸がんの検診・精密検査・治療は行っておりません。この件についてのご予約・お問い合わせもお受けしておりません。子宮頸がん検診はお住まいの市町村の検診や婦人科で、精密検査や治療は婦人科・婦人科腫瘍を専門とする医療機関で受けてください。

まとめ

子宮頸がんは子宮の入り口にできるがんで、原因のほとんどは発がん性HPVの持続感染です[5]。HPVに感染しても多くは自然に排除され、持続感染した一部が異形成を経て、長い年月をかけてがんになります[2]。初期には症状がほとんどないため、20歳からの検診が早期発見の手段になります[8]。

治療はステージや妊娠の希望に応じて、円錐切除、手術、同時化学放射線療法、薬物療法から選ばれます[11]。予防は、感染前のHPVワクチン接種と検診の組み合わせです。また、子宮頸がんの大部分は遺伝するがんではなく、ポイツ・ジェガース症候群などの例外を除き、家族の子宮がんについて遺伝を考えるときは、まず頸がんか体がんかを確かめることが出発点になります。

🏥 子宮頸がんの検査・治療をお考えの方へ

当院では、子宮頸がんの検診・精密検査・治療を行っておりません。
この件についてのご予約・お問い合わせはお受けしておりません。
子宮頸がんの検診はお住まいの市町村の検診や婦人科で、精密検査や治療は婦人科・婦人科腫瘍を専門とする医療機関へご相談ください。

この記事は病気を正しく知っていただくための解説であり、当院での診療をご案内するものではありません。なお、ポイツ・ジェガース症候群やリンチ症候群など、遺伝性腫瘍について具体的な遺伝学的評価が必要と判断された場合に限り、遺伝カウンセリングが関係することがあります。

参考文献

  • [1] 子宮頸部 がん統計. 国立がん研究センター がん情報サービス. [がん情報サービス]
  • [2] 子宮頸がん. 日本産科婦人科学会. [日本産科婦人科学会]
  • [3] 子宮体部 がん統計. 国立がん研究センター がん情報サービス. [がん情報サービス]
  • [4] 子宮頸がん(市民の皆さまへ). 日本婦人科腫瘍学会. [日本婦人科腫瘍学会]
  • [5] Cervical Cancer Causes, Risk Factors, and Prevention. National Cancer Institute. [NCI]
  • [6] HPV and Cancer. National Cancer Institute. [NCI]
  • [7] Papillomaviruses and cancer: from basic studies to clinical application. Nat Rev Cancer. 2002;2(5):342-350. [PubMed 12044010]
  • [8] HPV検査単独法による子宮頸がん検診の導入. 厚生労働省. [厚生労働省]
  • [9] Revised FIGO staging for carcinoma of the cervix uteri. Int J Gynaecol Obstet. 2019. [Wiley]
  • [10] 平成28年 全国がん登録 5年生存率報告. 厚生労働省 健康・生活衛生局 がん・疾病対策課. [厚生労働省]
  • [11] 子宮頸癌治療ガイドライン2022年版. 日本婦人科腫瘍学会. [日本婦人科腫瘍学会]
  • [12] Pembrolizumab for Persistent, Recurrent, or Metastatic Cervical Cancer. N Engl J Med. 2021. [PubMed 34534429]
  • [13] Adverse obstetric outcomes after local treatment for cervical preinvasive and early invasive disease according to cone depth: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2016;354:i3633. [PubMed 27469988]
  • [14] 9価HPVワクチンについて. 厚生労働省. [厚生労働省]
  • [15] HPVワクチンのキャッチアップ接種の経過措置について(第60回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 参考資料1). 厚生労働省. 2025. [厚生労働省]
  • [16] HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer. N Engl J Med. 2020;383:1340-1348. [PubMed 32997908]
  • [17] 9価HPVワクチン「シルガード9水性懸濁筋注シリンジ」肛門がんの予防の適応追加と男性への接種対象拡大について承認を取得. MSD株式会社. 2025. [MSD]
  • [18] Heritability of cervical tumours. Int J Cancer. 2000;88(5):698-701. [PubMed 11072236]
  • [19] High cancer risk in Peutz-Jeghers syndrome: a systematic review and surveillance recommendations. Am J Gastroenterol. 2010;105(6). [PubMed 20051941]
  • [20] Gastric-type adenocarcinoma of the cervix in patients with Peutz-Jeghers syndrome: a systematic review of the literature with proposed screening guidelines. Int J Gynecol Cancer. 2022;32(1):79-88. [PubMed 34903560]

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プロフィール
仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。

2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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