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DNAの中には、「CACACACA…」のように、ごく短い文字の並びが何度もくり返されている場所がたくさんあります。これがマイクロサテライト(microsatellite)で、STR(ショートタンデムリピート)とも呼ばれます。くり返しの回数が人によって違うため、DNA型鑑定や親子鑑定、遺伝学の研究に欠かせない「目印」として使われてきました。一方で、くり返しが異常に伸びたり、がん細胞で回数がそろわなくなったりすると、病気の原因や手がかりにもなります。この記事では、定義と別名、似た用語との違い、回数が変わる仕組み、分析でわかること、病気との関係を、臨床遺伝専門医の立場から解説します。
Q. マイクロサテライトとは何ですか?簡単に教えてください
A. マイクロサテライト(STR)とは、DNA上で1〜6塩基ほどの短い配列が、数回から数十回くり返し並んでいる領域のことです。くり返しの回数に個人差があるため、DNA型鑑定・親子鑑定・遺伝学研究の目印(遺伝マーカー)として使われます。ヒトのゲノムには100万か所以上あるとされます。定義上の塩基数は文献によって揺れがあり、2〜6塩基とする研究もあります。
- ➤別名 → STR(ショートタンデムリピート)、SSR(単純反復配列)、縦列型反復配列、タンデムリピート
- ➤なぜ人によって違う? → 複製のときに「ずれ」が起こりやすく、一般的な塩基の変化よりずっと変わりやすいから
- ➤分析でわかること → 個人識別・親子や血縁の判定・羊水検査の母体細胞混入の確認・連鎖解析など
- ➤病気との関係 → 異常な伸長はハンチントン病や脆弱X症候群などのリピート伸長病の原因。がんでは「マイクロサテライト不安定性(MSI)」として現れる
- ➤遺伝する? → 回数はメンデルの法則に従って親から子へ伝わる。ただし、がんのMSIは主に腫瘍の中で後から起こる変化で、区別が必要
🧬 マイクロサテライトの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方・英語 | マイクロサテライト(microsatellite)。略称STR(short tandem repeat)、SSR(simple sequence repeat) |
| 定義 | 1〜6塩基程度の短い配列(モチーフ)が、隣り合って数回〜数十回くり返されるDNA領域[1] |
| ヒトゲノム中の数 | 100万か所以上(150万以上とする報告もある)。縦列反復配列全体ではゲノムの3%超[1][2] |
| 主な特徴 | くり返し回数に個人差(多型)があり、変化しやすい |
| 主な用途 | DNA型鑑定、親子・血縁関係の判定、母体細胞混入の確認、連鎖解析、集団遺伝学 |
| 病気との関係 | リピート伸長病(トリプレットリピート病など)、がんのマイクロサテライト不安定性(MSI) |
※本記事は用語解説です。特定の検査や鑑定を勧めるものではありません。
1. マイクロサテライト(STR)とは
マイクロサテライトとは、ごく短いDNA配列が「縦に」くり返し並んだ領域です。ここでいう「縦に」とは、同じ配列がすき間なく隣り合って連なっている(タンデムに並ぶ)という意味です。DNAはヒトゲノム全体で約30億文字の長い文章のようなものですが、その中に「CACACACACA」「GATAGATAGATA」のような、同じ単語を何度も言い直したような部分が散らばっています。その一つひとつがマイクロサテライトです。
総説では、STRは1〜6塩基対のモチーフのくり返しと定義され、ヒトゲノムには150万か所以上あると報告されています[1]。100万か所を超える縦列反復配列の多くは多型的、つまり人によってくり返しの回数が違います[2]。この「人によって違う」という性質こそが、マイクロサテライトを医学や法科学で重要なものにしています。
繰り返しの具体例と、単位の呼び方
くり返しの単位(モチーフ)の長さによって、次のように呼び分けます。
| 単位の長さ | 呼び方 | 配列の例 |
|---|---|---|
| 1塩基 | モノヌクレオチドリピート | AAAAAAAAAA |
| 2塩基 | ジヌクレオチドリピート | CACACACACA(CAリピート) |
| 3塩基 | トリヌクレオチドリピート(3塩基反復) | CAGCAGCAGCAG |
| 4塩基 | テトラヌクレオチドリピート | GATAGATAGATA |
| 5〜6塩基 | ペンタ・ヘキサヌクレオチドリピート | AAAGAAAAGAAAAG など |
このうち、3塩基のくり返しは、タンパク質をつくる遺伝子の中にあると1つのアミノ酸に対応するため、病気との関係で特に重要です。たとえばCAGはグルタミンというアミノ酸を指定するため、CAGのくり返しが伸びるとタンパク質の中のグルタミンの連なりが長くなります(詳しくは6章)。
別名:STR・SSR・縦列型反復配列・タンデムリピート
マイクロサテライトは、STR(short tandem repeat:ショートタンデムリピート)やSSR(simple sequence repeat:単純反復配列)とも呼ばれます。一方、縦列型反復配列・タンデムリピートは、ミニサテライトなども含む広い概念です。
法医学や臨床検査では「STR」、育種や生態学では「SSR」、集団遺伝学では「マイクロサテライト」がよく使われます。なお「タンデムリピート」はミニサテライトなど長い反復も含む広い言葉なので、文脈によって意味がやや広くなります。
なぜ「サテライト」と呼ぶのか
「サテライト(衛星)」という名前は、20世紀半ばの実験に由来します。ゲノムDNAを密度勾配遠心法という方法で分けると、大部分のDNAがつくる太い帯(メインバンド)とは別に、少し離れた位置に小さな帯が現れました。この「本体のそばを回る衛星のような帯」に含まれていたのが反復配列だったため、サテライトDNAと名付けられました。その後、同じ仲間でも単位がずっと短いものが見つかり、「小さな(マイクロ)サテライト」と呼ばれるようになりました。
2. ミニサテライト・サテライトDNAとの違い【用語整理表】
マイクロサテライトとミニサテライトの違いは、主にくり返しの単位の長さです。1〜6塩基程度の短い単位ならマイクロサテライト、それより長い単位(おおむね7塩基以上〜数十塩基)ならミニサテライトと呼ぶのが一般的です。ただし、この境界は文献によって揺れているため、下の表の数値は「目安」として読んでください。
🧬 縦列反復配列の用語整理(目安)
| 用語 | くり返し単位 | 主な特徴・場所 | 主な用途・関連 |
|---|---|---|---|
| マイクロサテライト(STR・SSR) | 1〜6塩基程度(2〜6塩基とする定義もある) | ゲノム全体に散在。回数の個人差が大きい | DNA型鑑定、親子鑑定、連鎖解析、リピート伸長病、MSI |
| ミニサテライト(VNTRの一種) | おおむね7塩基以上〜数十塩基 | 染色体の末端近くに多いものがある | かつてのDNAフィンガープリント法 |
| サテライトDNA(狭い意味) | 数十〜数百塩基の単位が大量に連なる | セントロメアなどに大きな塊として存在(αサテライトなど) | 染色体の構造(セントロメア・ヘテロクロマチン) |
| テロメア反復 | TTAGGG(6塩基) | 染色体の末端に特化した反復 | 染色体末端の保護(独立した分類として扱う) |
※境界の数値は研究者・分野によって異なり、確立した単一の定義はありません。VNTR(variable number of tandem repeats)はマイクロサテライトより長い反復を指すことが多いものの、両方を含めて使われることもあります。
反復単位の長さで分ける ─ 定義の揺れも知っておく
検索すると、マイクロサテライトを「1〜6塩基」とする説明、「2〜5塩基」とする説明、「5塩基以下」とする説明が混在しています。これはどれかが間違っているのではなく、研究の目的や解析方法によって線の引き方が違うためです。たとえば、ゲノム全体のSTRと遺伝子発現の関係を調べた研究では、2〜6塩基のくり返しをSTRとして扱っています[4]。検査や論文を読むときは、「その文脈で何塩基までをマイクロサテライトと呼んでいるか」を確認するのが確実です。詳しいミニサテライトの解説はミニサテライトの記事をご覧ください。
「サテライトDNA」の広い意味と狭い意味
混乱しやすいのが「サテライトDNA」という言葉です。この言葉には2つの使われ方があります。広い意味では、縦に並んだ反復配列の総称として、マイクロサテライトやミニサテライトも含めて「サテライトDNA」と呼びます。一方、狭い意味では、セントロメア(染色体のくびれ)などに大きな塊として存在する、長い単位の反復配列(αサテライトなど)だけを指します。
「サテライトDNA」と検索する人の多くは、後者のセントロメアの反復配列について調べています。セントロメアを形づくる反復配列についてはサテライトDNAの記事で詳しく解説しています。
散在反復配列(LINE・Alu)やテロメアとの関係
ゲノムの反復配列には、マイクロサテライトのように同じ配列が隣り合って並ぶ「縦列型」のほかに、同じような配列がゲノムのあちこちに離れて散らばる「散在型」があります。散在型の代表がLINE(長鎖散在反復配列)やAlu配列で、ゲノム内を移動してきた因子の名残であり、マイクロサテライトとは成り立ちが異なります。
また、染色体の末端にあるテロメアはTTAGGGという6塩基のくり返しでできています。単位の長さだけを見るとマイクロサテライトの範囲に入りますが、テロメアは染色体末端を守るという特別な役割と専用の維持機構を持つため、一般的なマイクロサテライトとは別に扱われます。
3. ゲノムのどこに、どれくらいあるのか
マイクロサテライトはゲノム全体に広く散らばっており、その多くはタンパク質の設計図ではない領域にあります。ただし、一部は遺伝子の中や、遺伝子のスイッチを調節する領域にも存在し、そうしたものは体の働きに影響することがあります。
多くは非コード領域(遺伝子間・イントロン)
ヒトゲノムのうち、タンパク質のアミノ酸配列を直接指定している部分(エクソンのコード領域)はごく一部で、大部分は非コードDNAです。マイクロサテライトの多くは、この非コード領域、つまり遺伝子と遺伝子のあいだや、遺伝子の中でもタンパク質をつくる前に切り取られるイントロンにあります。
こうした場所の回数の違いは体の働きにほとんど影響しないため、自然選択でふるい落とされずに多様なバリエーションが集団に蓄積してきました。これが個人識別の目印として使える理由の一つです。
遺伝子の中や調節領域にあるものも
一方で、マイクロサテライトは「役に立たない配列」とは言い切れません。ゲノム全体を対象にした研究では、近くの遺伝子の発現量と回数が関連するSTR(expression STR:eSTR)が2,060個見つかりました。これらのeSTRは、進化的に保存された領域に多く、プロモーターなどの調節エレメントと重なり、ヒストン修飾を調節している可能性も示されています[4]。
同じ研究では、ありふれた遺伝的変異全体が説明する「遺伝子発現の個人差のうち、その遺伝子の近くの変異によるもの(cis遺伝率)」のうち、10〜15%をeSTRが担っていると推定されました[4]。マイクロサテライトの回数は、遺伝子の働きの強さを少しずつ変える「調整つまみ」のような役割を持つことがある、ということです。ただし、これは集団での関連を解析した結果であり、個々の体質や病気の原因を一つのSTRで説明できるという意味ではありません。
4. なぜ人によって繰り返し回数が違うのか
マイクロサテライトの回数が人によって違うのは、DNAがコピーされるときに、くり返し部分で「数え間違い」が起こりやすいからです。その結果、マイクロサテライトはゲノムの一般的な部分よりはるかに変わりやすく、世代を重ねるうちに多様な回数が生まれてきました[3]。
複製スリッページ
回数が変わる主な仕組みと考えられているのが、複製スリッページ(replication slippage)です。細胞が分裂する前には、DNAポリメラーゼという酵素がDNAを1文字ずつコピーします。同じ配列がくり返されている場所では、コピーの途中で2本の鎖が一時的に離れ、再びくっつくときに「1単位ずれた位置」で結合してしまうことがあります。
新しくつくられている鎖の側に小さなループ(はみ出し)ができると、その分だけくり返しが1単位増え、元の鋳型鎖の側にループができると1単位減ります。「CACACA…」のように同じ単語が続くと、どこまで読んだかを見失いやすい、と考えるとイメージしやすいでしょう。こうしたずれの多くは細胞のミスマッチ修復(MMR)という仕組みで直されますが、直しきれなかったものが新しい変異として残ります。

同じ配列が続く部分では、DNAの複製中に新しく合成された鎖がずれてループを作ることがあります。ずれが修復されずに残ると、反復回数が増えます。
点変異による変化
反復配列の変化には、1文字だけが入れ替わる点突然変異も関わります。くり返しの途中で1文字が変わると、きれいに続いていた反復がそこで「分断」され、以後はずれが起こりにくくなります。こうした変化は反復の連続性を断ち、複製時のずれを起こりにくくすることがあります。
なお、「短いマイクロサテライトでは、回数の変化のほとんどがスリップではなく点変異による」という説明を見かけることがありますが、ヒトとチンパンジーのゲノムを比較した研究では、1単位+1塩基という非常に短い反復でもスリップによる挿入・欠失が背景よりも多く起こり、反復が長くなるほど指数関数的に増えることが示されています[6]。短いから点変異が主、と単純に言い切ることはできません。
変異率は塩基置換より高く、男性の生殖細胞で高い
マイクロサテライトの回数が親から子へ伝わる際に変化する頻度は、1文字の置換(一塩基の変化)に比べて桁違いに高いことが知られています。古典的な家系研究では、配偶子1個・1座位あたりの変異率はおおむね10-3前後と見積もられ、4塩基単位のくり返しのほうが2塩基単位よりも変化しやすいと報告されました[7]。
アイスランドの85,289人・2,477座位を解析した大規模研究では、2,058件の新しい変異が見つかり、父親由来の変異率は母親由来の約3.3倍でした。また、父親では20歳から58歳にかけて変異率が約2倍になった一方、母親では年齢との関連が見られませんでした[5]。同じ研究では、長いアレルほど変異しやすく、短くなる方向に変化しやすい一方、短いアレルは逆に伸びる方向に変化しやすいことも示されています[5]。
ただし、反復の長さに加え、配列の途中に反復を中断する塩基があるかどうかも変わりやすさに関係します。ヒトとチンパンジーのAC反復を比較した研究では、1か所の中断がある反復の変異率は、連続した反復の約半分と推定されました[8]。前述の変異率はいずれも集団から推定された平均的な値であり、特定の親子で変異が起こる確率をそのまま示すものではありません。
マイクロサテライトは遺伝する?
はい、マイクロサテライトのくり返し回数は、メンデルの法則に従って親から子へ遺伝します。人は各染色体を2本ずつ持っているため、1つのマイクロサテライトの場所(座位)について、父親由来と母親由来の2つの回数(アレル)を持っています。検査では両方のアレルがそれぞれ区別して検出されるため、マイクロサテライトは共優性のマーカーと呼ばれます。子どもの2つのアレルのうち、1つは母親、もう1つは父親と一致するのが原則です。
ただし、前項のとおり伝わる際に一定の頻度で回数が1単位ずれることがあります。そのため親子鑑定では、1か所の不一致だけで親子関係を否定しないなど、変異を見込んだ解釈が行われます。
⚠️ 誤解しやすいポイント:「生まれつき」と「がんで後から起こる」は別物
「マイクロサテライト不安定性(MSI)が見つかった=遺伝する」ではありません。MSIは主に腫瘍細胞の中で後から起こる変化(体細胞変異)です。一方、MSIの背景にリンチ症候群がある場合は、ミスマッチ修復遺伝子の変異が生まれつき(生殖細胞系列)存在し、血縁者に受け継がれる可能性があります。両者の違いは体細胞変異と生殖細胞系列変異のちがいで詳しく解説しています。
5. マイクロサテライト分析で何がわかる?
マイクロサテライト分析でわかるのは、主に「そのDNAが誰のものか」「誰と誰が血縁関係にあるか」「検体に別の人のDNAが混じっていないか」、そして「病気に関わる回数の異常があるか」です。
| 分野 | 何がわかるか | 具体例 |
|---|---|---|
| 法科学 | 個人識別 | 犯罪捜査のDNA型鑑定、災害時の身元確認 |
| 親子・血縁 | 親子関係・血縁関係の推定 | 親子鑑定、出生前親子鑑定 |
| 臨床検査 | 検体の由来の確認、遺伝子の位置の追跡 | 羊水・絨毛検査の母体細胞混入の確認、連鎖解析、PGT-M、片親性ダイソミーの検出、移植後キメリズム |
| がん・遺伝性疾患 | 回数の異常 | マイクロサテライト不安定性(MSI)、リピート伸長病の診断 |
| 研究 | 集団の遺伝的構造 | 集団遺伝学、動植物の個体識別や育種 |
個人識別・DNA型鑑定のしくみ
DNA型鑑定がマイクロサテライトで個人を見分けられるのは、「1か所ごとの回数のバリエーション」×「多数の場所を同時に調べる」という掛け算の力によるものです。1つの遺伝子座だけを見ると、同じ回数のアレルを持つ人は珍しくありません。しかし、多数の座位を組み合わせ、各座位の集団頻度や座位間の関係を考慮して評価すると、無関係な他人と同じ型になる確率は極めて小さくなります。
実際の手順では、それぞれのSTRの両側に結合する蛍光標識のプライマーを使い、PCRで多数の座位を一度に増幅します。増えたDNA断片の長さをキャピラリー電気泳動で精密に測ると、その長さから回数がわかります。
日本の警察で行われているDNA型鑑定も、主にこのSTR型検査法です。警察白書(平成29年版)では、日本人で最も出現頻度が高いDNA型の組み合わせでも、約4兆7,000億人に1人という確率で個人を識別できるとしています[9]。米国のDNAデータベース(CODIS)では、長く13のコア座位が使われてきましたが、2017年1月1日から20座位に拡張されました。国際的なデータベースとの互換性を高め、識別力を上げ、偶然の一致を減らすことが目的です[10]。
ただし、識別の確率はあくまで理論値であり、実際の鑑定では検体の取り違えや他人のDNAの混入(コンタミネーション)のほうが、偶然の一致よりもはるかに現実的なリスクになります。そのため、検査室では対照サンプルを並行して調べるなど、汚染を見つけるための品質管理が行われています。
親子・血縁関係の判定
親子鑑定では、子どもの各座位の2つのアレルのうち、1つが母親と、もう1つが父親と一致するかを多数の座位で確かめます。一致しない座位が複数あれば親子関係は否定的に、すべて一致すれば肯定的に評価し、その確からしさを統計的に計算します。前述のとおり回数は伝わる際にまれに変化するため、1か所の不一致だけで結論を出さないのが原則です。
父親が確認できない場合には、男性にだけ受け継がれるY染色体上のSTR(Y-STR)を使って、祖父や兄弟など父系の男性親族と比較する方法もあります。ミネルバクリニックでは、妊娠中に母体の血液から調べる出生前親子鑑定についてもご案内しています。
医療での使われ方
マイクロサテライトは、臨床遺伝の現場でも「検査結果が正しいかどうかを確かめる道具」として重要な役割を果たしています。代表的な使われ方は次のとおりです。
① 母体細胞混入(MCC)の確認:羊水検査・絨毛検査で採取した検体には、母親の組織や血液の細胞が混じることがあります。結果を正しく解釈するには、検体が胎児由来であることの確認が欠かせません[11]。そこで、母親の血液と胎児検体について複数の情報性STRを比較し、母体由来のアレルの追加やピーク比を調べて混入を評価します。これが母体細胞混入(MCC)の検査です。ただし、ごく少量の混入は検出限界を下回ることがあり、混入の割合によって検査には限界があります。
② 連鎖解析とPGT-M:病気の原因となる遺伝子の近くにあるマイクロサテライトは、その遺伝子と一緒に受け継がれやすいため、家系内で「どの染色体が病気の遺伝子を運んでいるか」を追跡する目印になります。これが連鎖解析です。単一遺伝子疾患の着床前検査(PGT-M)で家族の検体が必要になる理由も、この仕組みにあります(PGT-Mで家族の検体が必要な理由)。
③ 片親性ダイソミーの検出:本来は父母から1本ずつ受け継ぐ染色体を、片方の親から2本とも受け継いでしまう片親性ダイソミーでは、その染色体上のアレルが一方の親に由来します。親子の複数の情報性STRを比較することは、その由来を調べる方法の一つです。
④ 移植後キメリズムの評価:造血幹細胞移植のあと、患者さんの血液が提供者由来の細胞にどの程度置き換わったかを、両者のSTR型の違いを使って調べることがあります。
研究での使われ方
ヒト以外でも、野生動物の個体識別、集団の遺伝的多様性の評価、農作物や家畜の品種判別・親子判定など、生態学や育種の分野で重要なマーカーとして使われています。
STRとSNPの違い
STRとSNPの違いは、「何が違うか」と「1か所あたりの情報量」です。STRはくり返しの「回数」が人によって違い、1か所に多数のアレルが存在するため、1座位あたりの識別力が高いのが特徴です。一方、SNP(一塩基多型)は1文字の違いで、多くは2種類のアレルしかありませんが、ゲノム上に非常に多く存在し、世代を経ても変化しにくく、断片化したDNAからも調べやすいという利点があります。
そのため、既存のデータベースと照合する犯罪捜査ではSTRが標準的に使われる一方、母体血中の断片化した胎児DNAを調べる検査や、非常に多くの位置を一度に調べる解析ではSNPが使われることもあります。どちらが優れているかではなく、目的に応じて使い分けられていると理解するのが正確です。
6. マイクロサテライトの変化と病気
マイクロサテライトの変化が病気につながる経路は、大きく2つあります。1つは、生まれつき特定の遺伝子のくり返しが異常に長いリピート伸長病。もう1つは、がん細胞でマイクロサテライトの反復長が正常組織と異なるマイクロサテライト不安定性(MSI)です。前者は生殖細胞系列の変化、後者は主に体細胞の変化であり、遺伝の意味がまったく異なります。
リピート伸長病(トリプレットリピート病)と表現促進現象
特定の遺伝子の中や近くにあるマイクロサテライトが、正常な範囲を超えて長く伸びると病気が起こることがあります。これをリピート伸長病と呼びます。3塩基単位の反復が伸長する病気は、トリプレットリピート病とも呼ばれます。縦列反復配列、特にSTRの伸長は、ハンチントン病、各種の運動失調症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭型認知症の一部、脆弱X症候群など、数十種類のメンデル遺伝性疾患の原因となることがわかっています[2]。筋強直性ジストロフィーもその代表です。
リピート伸長病の特徴は、伸びたくり返しが不安定で、親から子へ伝わるときにさらに伸びることがある点です。そのため、世代を経るごとに発症年齢が早まったり症状が重くなったりすることがあり、これを表現促進現象と呼びます。ふつうのマイクロサテライトが「1単位ずつ少し変わる」のに対し、病的な伸長では一度に大きく伸びることがあるのが大きな違いです。
遺伝子の中・調節領域・イントロンで起こる例
くり返しが遺伝子のどこにあるかによって、病気の起こり方が変わります。代表的な例を場所別に見てみましょう。
● 遺伝子のコード領域(タンパク質の設計図の部分)
コード領域にある反復の多くは3塩基単位です。3塩基はちょうど1つのアミノ酸に対応するため、回数が変わってもその後ろの読み枠がずれず、フレームシフト変異にならないからです。その代わり、同じアミノ酸の連なりの長さが変わります。ハンチントン病などでは、CAGリピートの伸長によってタンパク質の中のグルタミンの連なり(ポリグルタミン)が長くなり、神経細胞に障害を起こします。
アラニンが連なるポリアラニントラクトの伸長も病気の原因になります。四肢の末端と泌尿生殖器に異常を生じる常染色体顕性(優性)の手足性器症候群はHOXA13遺伝子の変異で起こり、その変異の型の一つとしてポリアラニン鎖の伸長が報告されています[13][14]。なお、HOXA13のアラニンをコードする部分は完全に同じ3文字のくり返しではなく、少しずつ異なる3塩基(GCN)が並んだ不完全な反復である点で、典型的なマイクロサテライトとはやや性格が異なります。
● 遺伝子の調節領域
ユーイング肉腫は、若年者に多い骨や軟部組織のがんです。多くの腫瘍ではEWSR1とFLI1という2つの遺伝子が融合してできた異常なタンパク質(EWSR1-FLI1)が、DNA上のGGAAという配列のくり返しに結合し、近くの遺伝子のスイッチを入れます。EGR2遺伝子の近くにある生まれつきの一塩基多型(rs79965208)のリスク型では、GGAAの間に挟まっていたGGATがGGAAに変わることで、とぎれていたGGAAのくり返しがつながって長くなり、EWSR1-FLI1が結合しやすくなってEGR2の発現が高まることが示されました[15]。生まれつきの体質(多型)と、がんで生じた変異とが、マイクロサテライトを介して協調する例として知られています。
● イントロン
フリードライヒ運動失調症は、神経系と心臓を侵す常染色体潜性(劣性)の病気です。1996年に、FXN遺伝子(旧称X25)の第1イントロンにあるGAAリピートの伸長が原因であることが明らかにされ、患者の大多数は両方のアレルにこの伸長を持っていました[12]。イントロンはタンパク質の設計図には含まれませんが、GAAリピートの伸長は遺伝子の転写を妨げ、フラタキシンというタンパク質を減らすことが報告されています[16]。「タンパク質をつくらない部分の変化でも病気は起こる」ことを示す代表例です。
がんとマイクロサテライト不安定性(MSI)
マイクロサテライト不安定性(MSI)とは、腫瘍のマイクロサテライトの反復長が、正常組織と比べて変化している状態です。マイクロサテライトそのものは誰もが持つ正常な配列ですが、4章で述べた複製時のずれを直すミスマッチ修復(MMR)の仕組みが壊れると、ずれが修正されずに蓄積していきます。その結果、腫瘍のDNAではあちこちのマイクロサテライトの回数が変わってしまいます。
MSIの検査では、同じ患者さんの腫瘍組織と正常組織のマイクロサテライトを比べます。改訂ベセスダ基準の時代に推奨された標準パネルは、BAT25・BAT26というモノヌクレオチドリピート2種と、D2S123・D5S346・D17S250というジヌクレオチドリピート3種の計5マーカーで、2つ以上で差があればMSI-High(高頻度MSI)と判定します[17]。現在はモノヌクレオチドのマーカーを中心としたパネルやミスマッチ修復タンパク質の免疫染色なども使われています。
MSI-Highのがんの一部には、ミスマッチ修復遺伝子の生まれつきの変異によるリンチ症候群が隠れていることがあり、その場合は血縁者のがんリスクにも関わります。また、がんの組織ではマイクロサテライトを目印に、片方のアレルが失われるヘテロ接合性の消失(LOH)を調べることもあります。MSI検査の対象・方法・治療との関係はマイクロサテライト不安定性(MSI)の記事で詳しく解説しています。
🩺 院長コラム【同じ「マイクロサテライト」でも、結果の意味は文脈で決まる】
マイクロサテライトという一つの言葉が、DNA型鑑定では「その人を示す指紋」、羊水検査では「検体が胎児由来かを確かめる品質管理」、がんの検査では「修復機構の破綻を示すサイン」、神経疾患では「病気の原因そのもの」と、まったく違う意味を持ちます。検査結果にマイクロサテライトやSTRという言葉が出てきたときは、まず「どの目的で、どの細胞を調べた結果なのか」を確認することが大切です。
特に、がんの検査で見つかったMSIと、生まれつきのリピート伸長やリンチ症候群とでは、ご家族への遺伝の意味が大きく異なります。遺伝医学では、この「生殖細胞系列か体細胞か」の区別が、結果を解釈するうえでの出発点になります。
7. 遺伝子検査で調べるときに知っておきたいこと
マイクロサテライトの回数、とくに病的な長い伸長は、どの遺伝子検査でもわかるわけではありません。目的に合った検査方法を選ぶことが重要です。
● NIPTではリピート伸長はわからない
NIPT(新型出生前診断)は、母体の血液中にある断片化した胎児由来のDNAから、主に染色体の数の変化などを調べる検査です。一般的な染色体異数性を対象とするNIPTでは、ハンチントン病や脆弱X症候群などのリピート伸長は調べられません。家族にリピート伸長病の方がいる場合の出生前の検査は、羊水検査・絨毛検査で胎児のリピート長を専用の方法で調べることが選択肢になります。
● 一般的なNGSパネルは長いくり返しが苦手
一般的な遺伝子パネル検査で使われる短いリードの次世代シークエンサー(NGS)は、1文字単位の変化は得意ですが、読み取る断片より長いくり返しは全体の長さを正確に測れません。そのため、リピート伸長病の確定には、PCRを工夫したリピート伸長専用の検査やサザンブロット法が用いられます。近年は、長いDNAを一続きに読めるロングリードシーケンサーの活用も進んでいます。ミネルバクリニックでは、ハンチントン病などのリピート伸長の遺伝子検査についてご案内しています。
リピート伸長病の検査や、がんのMSI検査の結果が家族にとって何を意味するかは、遺伝形式や検査の対象(生まれつきか、腫瘍か)によって大きく変わります。結果の解釈に迷う場合は、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングで整理することができます。
🏥 遺伝子検査・遺伝カウンセリングのご相談
リピート伸長病の遺伝子検査や、家族の遺伝について
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ミネルバクリニックにご相談ください。
8. よくある質問(FAQ)
Q1. STRとマイクロサテライトは同じものですか?
同じものを指しています。STR(short tandem repeat:ショートタンデムリピート)はマイクロサテライトの別名で、SSR(単純反復配列)とも呼ばれます。縦列型反復配列はミニサテライトなども含む広い概念です。法医学や臨床検査では「STR」、育種や生態学では「SSR」、分子進化や集団遺伝学では「マイクロサテライト」と、分野によって呼び方が異なるだけです。
Q2. マイクロサテライトとミニサテライトの違いは何ですか?
主な違いはくり返しの単位の長さです。1〜6塩基程度の短い単位のくり返しをマイクロサテライト、おおむね7塩基以上〜数十塩基の長い単位のくり返しをミニサテライトと呼ぶのが一般的です。ただし境界の数値は文献によって異なり、確立した単一の定義はありません。
Q3. マイクロサテライトは親から遺伝しますか?
はい。くり返しの回数はメンデルの法則に従って親から子へ伝わり、父親由来と母親由来の2つのアレルが区別して検出されます(共優性)。ただし、伝わる際にまれに回数が変わることがあります。また、がんで見つかるマイクロサテライト不安定性(MSI)は主に腫瘍の中で後から起こる変化であり、生まれつきの変化とは区別が必要です。
Q4. STRとSNPはどう違いますか?
STRはくり返しの回数の違いで、1か所に多数のアレルがあるため1座位あたりの識別力が高いのが特徴です。SNP(一塩基多型)は1文字の違いで、多くは2種類のアレルですが、ゲノム上に非常に多く存在し、世代を経ても変化しにくく、断片化したDNAからも調べやすい利点があります。どちらが優れているかではなく、目的に応じて使い分けられています。
Q5. マイクロサテライトとMSI(マイクロサテライト不安定性)は同じですか?
同じではありません。マイクロサテライトは誰もが持つ正常なDNAの反復配列そのものです。MSIは、ミスマッチ修復に異常がある腫瘍などで、マイクロサテライトの反復長が正常組織と比べて変化している状態を指します。MSIの一部にはリンチ症候群が隠れていることがあります。
Q6. NIPTでリピート伸長病はわかりますか?
一般的な染色体異数性を対象とするNIPTではわかりません。NIPTは母体血中の断片化した胎児由来DNAから主に染色体の数の変化などを調べる検査で、通常はハンチントン病や脆弱X症候群などのリピート伸長を対象にしていません。家族にリピート伸長病の方がいる場合の出生前の検査では、羊水検査・絨毛検査で胎児のリピート長を専用の方法で調べることが選択肢になります。
9. まとめ
マイクロサテライト(STR)は、1〜6塩基程度の短い配列が縦にくり返されたDNA領域で、ヒトのゲノムに100万か所以上存在します。複製時のずれによって回数が変わりやすく、人ごとに異なる回数の組み合わせを持つため、DNA型鑑定や親子鑑定、羊水検査の母体細胞混入の確認、連鎖解析など、個人やDNAの由来を見分ける目印として医療と法科学の両方で使われています。
一方で、特定の遺伝子のくり返しが異常に伸びるとハンチントン病や脆弱X症候群、フリードライヒ運動失調症などのリピート伸長病が起こり、がん細胞で修復機構が壊れるとマイクロサテライト不安定性(MSI)が生じます。前者は生まれつきの変化、後者は主に腫瘍で後から起こる変化であり、家族への遺伝の意味は異なります。検査結果に「マイクロサテライト」「STR」という言葉が出てきたときは、どの目的で、どの細胞を調べたものかを確認することが、正しく理解するための第一歩です。
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