目次
「両方の親指と足の親指が生まれつき短く、あわせて尿の通り道や子宮に形の違いがある」——このような組み合わせがみられるとき、背景に手足性器症候群(てあしせいきしょうこうぐん/Hand-Foot-Genital Syndrome、略称HFGS)という、とてもまれな生まれつきの体質が隠れていることがあります。原因はHOXA13(ホックスA13)という、体の形づくりを指揮する1つの遺伝子の変化です。この記事では、HFGSがどんな症状の病気なのか、なぜ起こるのか、どう診断し、どのように遺伝するのかを、一般の方にも遺伝診療に関わる方にも役立つように、臨床遺伝学の知見にもとづいて解説します。抗がん剤の副作用で起こる「手足症候群」とはまったく別の病気ですので、その点も最初にはっきりさせておきます。
Q. 手足性器症候群(HFGS)とは、どんな病気ですか?
A. 手足性器症候群(HFGS)は、HOXA13という遺伝子の変化によって、①両方の親指・足の親指を中心とした手足の形の違いと、②尿の通り道や子宮など泌尿生殖器の形の違いが、あわせて生じるとてもまれな生まれつきの症候群です。常染色体優性(顕性)という形式で遺伝します。手足の症状はほとんどの方にみられますが、泌尿生殖器の症状が出るかどうかは人によって差があり、半分程度とされています[2]。知的発達や寿命には通常影響しません。抗がん剤治療で起こる「手足症候群(手足のしびれ・赤み)」とは、名前が似ているだけの別の病気です。
- ➤中心となる症状 → 両方の親指・足の親指の短さ(手足の形成異常)+尿路・子宮などの形の違い
- ➤原因 → HOXA13遺伝子(7番染色体)の変化。ポリアラニン伸長・ミスセンス・ナンセンス・欠失など複数のタイプ
- ➤遺伝形式 → 常染色体優性(顕性)。お子さんに受け継がれる確率は妊娠ごとに50%
- ➤診断のカギ → 手足のX線+泌尿生殖器の評価+HOXA13の遺伝学的検査。通常の検査で見逃されやすい変化に注意
- ➤大切な視点 → 女性では妊娠に関わる子宮の形を事前に把握しておくことが役立ちます
🧬 手足性器症候群(HFGS)の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方・別名 | てあしせいきしょうこうぐん/Hand-Foot-Genital Syndrome(HFGS)。かつては手足子宮症候群(hand-foot-uterus syndrome)とも呼ばれた |
| 原因遺伝子 | HOXA13(7番染色体・7p15.2)。体の形づくりを指揮する転写因子の遺伝子[1] |
| 主な症状 | 手足:両方の親指・足の親指の短さ/泌尿生殖器:尿路の異常、子宮の形の違い(女性)、尿道下裂(男性) |
| 遺伝形式 | 常染色体優性(顕性)。手足の症状はほぼ全員、泌尿生殖器の症状は約50%に出る[2] |
| 頻度 | 信頼できる有病率のデータはなく、「きわめてまれ」。文献上、少なくとも約50人の患者が報告されている[2] |
| 診断 | 手足のX線・泌尿生殖器の画像評価・HOXA13遺伝学的検査の組み合わせ |
※本記事は一般の方と遺伝診療に関わる方の両方に向けた疾患解説です。特定の検査を勧めるものではありません。
1. 手足性器症候群(HFGS)とは
手足性器症候群(HFGS)は、生まれつき手足の形と泌尿生殖器(尿の通り道や子宮など)の形に違いが生じる、まれな症候群です。おなかの中で体ができあがる時期に、手足の先のほうと、尿路・生殖器のもとになる部分の「形づくり」を調節するHOXA13遺伝子がうまく働かないことで起こります[1]。1970年にSternらが女性の子宮の形の違いに注目して「手足子宮症候群(hand-foot-uterus syndrome)」として報告したのが始まりで、その後、男性の尿道下裂や男女双方の尿路の異常も明らかになったため、より広くカバーする「手足性器症候群」という呼び名が使われるようになりました[2]。
💡 まず整理:抗がん剤の「手足症候群」とは別の病気です
「手足症候群」という言葉は、抗がん剤や分子標的薬の副作用で手のひら・足の裏が赤くなったり痛んだりする状態(手足症候群、PPE)を指すこともあります。この記事で解説する手足性器症候群(HFGS)は、生まれつきの遺伝的な形成異常であり、薬の副作用とはまったく別のものです。名前が似ているため混同されがちですが、原因も内容も異なります。
HFGSはとてもまれな病気です。人口あたりの正確な頻度を示すデータはなく、専門家の資料でも「きわめてまれ」と表現されています。2025年に国際的な遺伝子・疾患の評価を行うClinGenがまとめた時点でも、文献上で確認できる患者さんは少なくとも約50人にとどまります[2]。ただし、親指・足の親指がわずかに短いだけで泌尿生殖器の症状がない軽い方は、診断されないまま過ごしている可能性も考えられます。これは推測ですが、症状の出方に幅があること、報告数が少ないことから、十分にありうることです。
💡 用語解説:HOX遺伝子と「体の設計図の目次」
HOX遺伝子(ホックス遺伝子)は、おなかの中で体ができるとき、「頭からおしりまでのどの位置に何をつくるか」という位置情報を細胞に伝える遺伝子のグループです。この位置情報を読み取るための共通のしくみをホメオボックスといいます。HOXA13は、このグループの中でも「いちばん先のほう(手足の先・尿路や生殖器の下側)」の形づくりを担当しています。
2. 手足の症状 ─ 親指・足の親指の短さがカギ
HFGSでもっとも特徴的なのが、両方の親指と足の親指(母指・母趾)の短さです。これは、指の先の骨(末節骨)や、手のひら・足の甲の中にある第1中手骨・第1中足骨が短くなることで起こります[2]。程度は軽いものから目立つものまでさまざまですが、この手足の症状はほとんどすべての患者さんにみられるのが特徴です。長い骨(腕やすねの骨)は通常は正常で、体の「いちばん先のほう」に症状が集中する点が、HOXA13の役割とよく一致しています。
具体的には、短い親指、小さな親指の先の骨、親指を他の指と向かい合わせる動き(対立)のしにくさ、小指が内側に曲がる弯指(わんし)、短い足、足の親指の爪の小ささ、足の指のあいだが広く空くサンダルギャップなどが報告されています[1]。X線では、手首の骨(手根骨)や足首の骨(足根骨)どうしがくっつく癒合、骨の成熟の遅れなども診断の手がかりになります。1997年に原因遺伝子を突きとめた研究でも、短い第1中手骨、親指の先の骨の低形成、小指の中節骨の短さ、手根骨の癒合や骨化の遅れ、短い第1中足骨と先のとがった足の親指の骨、という古典的な組み合わせが整理されています[1]。
🩺 院長コラム【「手足のわずかな違い」が診断の入口になる】
HFGSのように症例数が世界的にも限られる疾患では、家族内で共通する親指・足の親指の短さなど、見過ごされやすい遠位四肢所見が診断の手がかりになります。同じHOXA13の病的バリアントでも、泌尿生殖器所見の有無や重症度には個人差があります。HFGSでは、手足のX線所見と泌尿生殖器の評価、遺伝学的検査を組み合わせて診断します。手足の形態差が生活機能へ与える影響が軽い場合でも、尿路・生殖器の評価につなげる所見として重要です。
3. 泌尿生殖器の症状 ─ 男女で現れ方が異なる
HFGSのもう一つの柱が、泌尿生殖器(尿の通り道・生殖器)の形の違いです。手足の症状とは異なり、こちらは出るかどうかに個人差が大きく、GeneReviewsやClinGenの整理では、およそ半分程度の方にみられるとされています[2]。同じ家系の中でも、同じ遺伝子の変化を持ちながら泌尿生殖器の症状の重さがかなり異なることが知られています。
女性の場合
女性では、尿が膀胱から尿管へ逆流する膀胱尿管逆流(VUR)、尿管の出口の位置の異常、尿もれ、狭い処女膜の開口部、そしてミュラー管(子宮・卵管・腟の上部のもと)の癒合不全による子宮の形の違いなどがみられます[2]。子宮の形の違いには、真ん中に仕切りができる中隔子宮、上部が2つに分かれる双角子宮、子宮が2つある重複子宮、腟に縦の仕切りができる縦腟中隔など、さまざまなタイプがあります。
男性の場合
男性では、尿の出口が本来より手前側に開く尿道下裂が代表的で、陰茎が下向きに曲がる索状物(chordee)を伴うこともあります[2]。膀胱尿管逆流などの尿路の異常も起こりえます。男性の妊よう性(子どもをもつ力)は一般に保たれるとされますが、膀胱の出口や尿道の構造の違いに関連して、逆行性射精が報告されたこともあります。
泌尿生殖器の症状で臨床的に重要なのは、膀胱尿管逆流や尿路の異常が、くり返す尿路感染や、腎臓の慢性的な炎症(慢性腎盂腎炎)につながりうる点です[2]。手足の症状が軽くても全身的に軽いとは限らず、まれに腎機能が大きく損なわれる例も文献にはあります。「手足が軽症だから安心」と決めつけず、診断がついた時点で尿路・生殖器の状態をていねいに調べておくことが大切です。
4. 原因遺伝子HOXA13 ─ 体の形づくりを指揮する遺伝子
HFGSの原因は、7番染色体(7p15.2)にあるHOXA13遺伝子の変化です。HOXA13は、DNAの特定の場所にくっついて他の遺伝子の働きを調節する「転写因子」というタンパク質の設計図で、おなかの中で手足の先・尿路・生殖器・後腸などがつくられるときに働きます[1]。1997年、MortlockとInnisは、典型的なHFGSの家系で、HOXA13のホメオドメイン(DNAに結合する大切な部分)にある保存されたアミノ酸を終止コドン(タンパク質づくりの停止信号)に変えるナンセンス変異を見つけ、HFGSがHOX遺伝子の変化で起こる2番目のヒトの病気であることを示しました[1]。
その後、HOXA13の変化には複数のタイプがあることがわかってきました。2000年、Goodmanらは6つの家系を調べ、ナンセンス変異、ポリアラニン伸長、ホメオドメインのミスセンス変異など、いくつもの変化のタイプがHFGSを起こすこと、そしてホメオドメインのミスセンス変異では従来考えられていたよりも重い手足の症状が出うることを示しました[3]。GeneReviewsによれば、わかっている変化のうち約50〜60%がポリアラニン伸長、約35%がそれ以外の配列の変化とされています。遺伝子内の欠失・重複については検出割合が十分に定まっていません[2]。
💡 用語解説:3つの変異タイプ
ナンセンス変異:タンパク質づくりを途中で止める「停止信号」ができ、タンパク質が短く切れてしまう変化です。詳しくはこちら。
ミスセンス変異:アミノ酸が1つ別のものに置き換わる変化です。詳しくはこちら。
ポリアラニン伸長:「アラニン」というアミノ酸が数珠つなぎに並んだ部分(ポリアラニントラクト)が、通常より長く伸びてしまう変化です。HFGSでとくに特徴的なタイプです。
5. 分子メカニズム ─ なぜ症状が起こるのか
HFGSの中心的なしくみは、HOXA13の働きの低下です。多くの変化は、HOXA13というタンパク質が本来の量・機能を保てなくなること(機能喪失)につながります。とくにポリアラニン伸長のしくみは、動物実験でよく調べられてきました。2004年、Innisらは、アラニンを10個追加したノックインマウスをつくったところ、RNAの量やつくられ方はほぼ正常なのにHOXA13タンパク質の量が減り、HOXA13が完全にない状態とほとんど区別できない症状になることを示しました[4]。これは、伸びたタンパク質が体の中で不安定になり、分解されてしまうことを強く示す結果です。

HOXA13は胎児期に手足の先端部と泌尿生殖器の形成を調節する転写因子です。HOXA13の機能が障害されると、母指・母趾を中心とする遠位四肢の形成異常と、尿道下裂やミュラー管由来臓器の形成異常などが生じ、手足性器症候群(HFGS)の特徴的な症状につながります。
2007年のUtschらの細胞実験では、ポリアラニンの伸びが長いほどHOXA13が細胞の中で凝集体(かたまり)に移りやすくなり、異常なタンパク質が分解されること、さらに正常なHOXA13やHOXD13までもがそのかたまりに巻き込まれうることが示されました[5]。これは、単純にタンパク質の量が半分になる(ハプロ不全)だけでなく、正常なタンパク質を道連れにする作用も一部あることを示唆します。ただ、ヒトの症状と動物モデルを合わせて考えると、主なしくみはやはりHOXA13の機能低下と理解するのが最も無理がありません。
ミスセンス変異については、2017年にCaoらが中国人の家系でHOXA13のp.V375Fという変化を見つけ、分子モデリングと転写活性を測る実験によって、標的の遺伝子を調節する力が下がることを示しました[8]。ホメオドメインの変化がDNAへの結合や標的遺伝子の調節を直接さまたげうる、ということです。変化のタイプと症状の重さの関係は完全には整理されておらず、とくに泌尿生殖器の症状は同じ家系内でも大きく変わるため、遺伝子の変化から症状を正確に予測できるほど強い対応関係はまだ確立していません[3]。実際、2014年にImagawaらは、爪の欠如や複数の指趾の骨の欠損などをともなう重い症状の新規HOXA13変異例を報告しており、HFGSの症状の幅の広さが示されています[10]。
変化
働きが低下
調節が乱れる
生殖器の症状
6. 診断と検査 ─ 見逃されやすい変化に注意
HFGSには、点数式の国際的な「診断基準」はありません。実際には、典型的な両方の手足の症状・手足のX線所見・泌尿生殖器の形の違い・家族歴・HOXA13の遺伝学的検査を総合して診断します[2]。手足の症状がはっきりしていれば、泌尿生殖器の症状がまだわからなくてもHFGSを疑うべきですし、逆に、単独の尿道下裂や単独の子宮の形の違いだけではHFGSの可能性は高くありません。
骨格の評価では、両手・両足のX線がもっとも実用的です。第1中手骨・第1中足骨、親指・足の親指の骨、手根骨・足根骨の癒合、骨の成熟具合を確認します。尿路の評価では、腎臓・膀胱の超音波を基本に、膀胱尿管逆流が疑われるときは排尿時膀胱尿道造影(VCUG)などを行います。女性では、月経が始まる前や妊娠を計画する前に婦人科の評価を行い、超音波を第一選択として、必要に応じてMRIや子宮卵管造影、子宮鏡などで子宮の形を確認します[2]。
⚠️ 大切なポイント:通常の遺伝子検査で「見逃される」ことがある
HFGSでもっとも特徴的なポリアラニン伸長は、GC(グアニン・シトシン)に富んだ配列で起こるため、通常の次世代シーケンサー(NGS)や標準的なエクソーム解析だけでは伸長を拾い損ねることがあります[2]。そのため、症状が典型的なのに通常の検査が陰性だった場合は、ポリアラニン伸長を直接調べられる検査(専用のPCRなど)が行われたかを確認することが重要です。「通常の検査が陰性=HFGSではない」とは限りません。 ポリアラニン伸長を検出できる手法が含まれているかを確認することが重要です。
2023年には、この見逃しに関わる新しいタイプの変化も報告されています。GengらはHOXA13のGCに富んだ領域に生じた重複バリアントによるHFGSを報告しており[12]、この領域の解析の難しさをあらためて示しています。また、知的発達の遅れや特徴的な顔つき、複数の臓器の形の違いなどをともなう非典型的な場合には、HOXA13を含むより広い7p15の欠失や、別の遺伝子の変化が重なっている可能性を考え、染色体マイクロアレイやゲノム解析を追加することも重要です[9]。
7. 鑑別が必要な疾患
HFGSと似た症状を示す病気はいくつかあり、区別が大切です。手足や泌尿生殖器の症状が重なる病気として、次のようなものが挙げられます[2]。
🔍 主な鑑別疾患
| 疾患 | HFGSとの重なり | 区別の手がかり |
|---|---|---|
| ファンコニ貧血 | 親指・橈側(親指側)の形成異常、泌尿生殖器の異常 | 骨髄の機能低下、染色体の脆さ、がんのなりやすさ |
| Holt-Oram症候群 | 親指・上肢の形成異常 | 心臓の壁の穴(ASD/VSD)や不整脈などの心臓症状 |
| SALL4関連疾患 | 親指側(橈側列)・親指の異常 | 眼球運動の異常(Duane異常)など、より典型的な橈側列の欠損 |
| Townes-Brocks症候群 | 四肢+泌尿生殖器の異常 | 肛門の形の異常、耳や聴力の異常 |
| ネイガー症候群 | 親指・橈側の形成異常 | 顔面・下あご・耳の形成異常 |
| 合多指趾症(HOXD13関連) | 手足の先の異常、ポリアラニン伸長という似たしくみ | 指の癒合・過剰な指が前面に出る。典型的なHFGS型の泌尿生殖器症状は通常目立たない |
このほか、ロスムンド・トムソン症候群なども鑑別に挙がります。指の癒合そのものについては合指症(syndactyly)の解説もあわせてご覧ください。
逆に、手足の症状がなく子宮の形の違い(子宮奇形)だけがある場合は、HFGSの可能性は高くありません。2010年のJorgensenらの研究では、HFGSの家系の3人と、HFGSの徴候をともなわない単独の子宮・腟の中隔17例を調べたところ、後者ではHOXA13の変化は見つかりませんでした[7]。このため、単独の子宮中隔だけを理由にHOXA13検査や手足のX線をルーチンで行う根拠は乏しい、と考えられています。一方で、手足・生殖器の症状に知的発達の遅れや特徴的な顔つきが加わる場合は、「HFGSの重症型」と早合点せず、より広い欠失や別の診断(二重診断)を積極的に考えることが勧められます[11]。
8. 遺伝のしかたと再発リスク
HFGSは常染色体優性(顕性)という形式で遺伝します。これは、対になっている遺伝子のうち片方に変化があると症状が出うる、という遺伝のしかたです。HFGSの方のお子さんは、妊娠ごとに50%の確率でその変化を受け継ぎます[2]。ただし、変化を受け継いでも、手足の症状はほぼ必ず出る一方、泌尿生殖器の症状が出るかどうかには個人差があります。このうち、原因となる変化を持っていても泌尿生殖器の異常が現れないことがある現象を不完全浸透といいます。症状の種類や重症度に幅があることは、表現度の差として区別して考えます。
家系の中でのポリアラニン伸長は一般に安定しており、世代を経るごとに症状が重くなる「表現促進(anticipation)」のような明確な現象は認められていません。伸長がどう生じるかについては、2013年にOwensらが2例の新生(de novo・新生突然変異)のHFGSを詳しく解析し、DNAの複製時に生じるずれ(replication slippage)を支持する結果を示しました[6]。
💡 大切なポイント:親のモザイクと再発リスク
Owensらの研究では、症状のないお父さんが伸長を体の一部の細胞にだけ持つ「体細胞モザイク」であった家系が示されました[6]。これは、お子さんの変化が一見「新しく生じた(de novo)」ように見えても、親が末梢血の検査で陰性でも、生殖細胞のモザイクの可能性が残ることを意味します。そのため、一見新生の症例でも、次のお子さんに同じことが起こる確率を完全にゼロとは言えません。家系の中の変化がわかっていれば、出生前診断や着床前遺伝学的検査(PGT-M)も技術的には可能です[2]。
2025年7月、ClinGenの専門家パネルは、症例レベルの遺伝学、家系内での遺伝、細胞・動物モデルの証拠を統合し、HOXA13とHFGSの関連を最高評価である「Definitive(確実)」と判定しました[2]。遺伝的な原因については、現在ほとんど議論の余地がありません。一方で、歴史的にHOXA13関連の別疾患として区別されてきたGuttmacher症候群は、遺伝形式や症状の連続性を根拠に、ClinGenの2025年の評価でHFGSと同じ一つの病気としてまとめられています。これは分類上の興味深い変化です。
9. 妊娠・自然経過と管理
HFGSの手足の症状は、おなかの中で体ができるときに生じる生まれつきの形の違いであり、年齢とともにHOXA13の働きそのものが進行して悪くなる、という病気ではありません[2]。ただし、二次的に生じる尿路感染、膀胱尿管逆流による腎臓の傷、尿路の閉塞、妊娠に関わる合併症は、年齢を重ねるなかで問題になりうるため、経過をみていくことが大切です。
男女とも、妊よう性そのものは一般に保たれるとされます。ただし女性では、中隔子宮・双角子宮・重複子宮などのミュラー管の癒合異常により、妊娠中期の流産・早産・死産のリスクが上がりうることが知られています[2]。このため、妊娠を希望するときには、子宮・頸管・腟の形をあらかじめ明らかにし、産婦人科と計画を立てておくことが役立ちます。孤立性のHOXA13-HFGSでは知的発達や聴力は通常保たれるため、明らかな知的障害や発達の遅れ、特徴的な顔つき、複数の臓器の異常がある場合は、より大きな欠失や別の診断が重なっている可能性を考えます[9]。
HFGSには、HOXA13の働きを回復させる薬や遺伝子治療は、2026年時点でまだありません。管理の目標は、尿路感染や腎障害の予防、尿路・生殖器の詰まりの解消、妊娠に関わるリスクの把握、手足の機能の維持です[2]。膀胱尿管逆流や尿路の異常には泌尿器科が、症状のある子宮・腟の中隔や強い処女膜の狭さには婦人科が、症状の強い手足の変形には整形外科が、それぞれ必要に応じて対応します。HFGSだけを対象にした比較試験はほとんど存在しないため、実際には一般的な小児泌尿器科や婦人科の原則を、一人ひとりの形の違いにあてはめて管理していくことになります。HFGSそのものを対象にした無作為化比較試験や薬物療法・遺伝子治療の試験は、現在のところ確認されていません[2]。
当院では、遺伝子や染色体に関わる検査の前後で、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行っています。話し合う内容は、検査で何がわかり何がわからないのか、見つかった変化がご本人やご家族にとってどういう意味を持つのか、どのような選択肢があるのか、といった点です。HFGSはまれな疾患であるため、文献にもとづいて検査結果と臨床所見を整理し、診断・家族への影響・利用可能な選択肢について中立的な判断材料を示すことが遺伝カウンセリングで重要です。
10. よくある誤解
誤解①「抗がん剤の手足症候群と同じ病気」
まったくの別物です。抗がん剤の副作用で起こる「手足症候群(PPE)」は薬による一時的な症状で、HFGSは生まれつきの遺伝的な形成異常です。名前が似ているだけです。
誤解②「手足が軽ければ全身も軽い」
手足の症状と泌尿生殖器の症状は別々に出ます。手足が軽くても、膀胱尿管逆流などで腎臓に負担がかかることがあります。診断時に尿路・生殖器を調べておくことが大切です。
誤解③「通常の遺伝子検査が陰性なら否定できる」
いちばんの落とし穴です。特徴的なポリアラニン伸長は、通常のNGSやエクソーム解析で見逃されることがあります。典型的な症状があれば、専用の検査を確認する必要があります。
誤解④「子宮の形が違えばHFGSかもしれない」
手足の症状がなく子宮の形の違いだけの場合、HFGSの可能性は高くありません。研究でも、単独の子宮中隔ではHOXA13の変化は見つかりませんでした[7]。
まとめ
手足性器症候群(HFGS)は、HOXA13という1つの遺伝子の変化によって、手足の先と泌尿生殖器の「形づくり」に生まれつきの違いが生じる、まれな症候群です。遺伝的な原因はClinGenが「Definitive(確実)」と判定するほど明確に確立している一方、頻度や自然経過、治療に関するデータはまだ乏しい、という特徴があります[2]。臨床的に見逃したくないのは、両方の小さな親指・足の親指、第1中手骨・中足骨の短さや手根骨・足根骨の癒合に、膀胱尿管逆流・尿道下裂・子宮の形の違いが加わる組み合わせです。
遺伝学的な検査では、典型的な症状があるのに通常のエクソーム解析やパネル検査が陰性でも、それだけでHFGSを否定しないことが重要です。ポリアラニン伸長が適切に調べられたかを確認し、発達の遅れや顔つきの特徴が加わればより広い欠失や第二の診断を探す、という二段構えが合理的です。女性では、妊娠に関わる子宮の形を事前に把握しておくことが、その後の計画に役立ちます。正確な診断にもとづいて、尿路・生殖器の評価、妊娠前評価、家族への遺伝学的情報提供を適切につなぐことが、HFGSの診療の土台になります。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 手足性器症候群(HFGS)とはどんな病気ですか?
HOXA13という遺伝子の変化によって、両方の親指・足の親指を中心とした手足の形の違いと、尿の通り道や子宮など泌尿生殖器の形の違いが、あわせて生じるとてもまれな生まれつきの症候群です。常染色体優性(顕性)という形式で遺伝します。手足の症状はほとんどの方にみられますが、泌尿生殖器の症状は約半分の方に出るとされています。抗がん剤治療で起こる「手足症候群」とは別の病気です。
Q2. 抗がん剤の「手足症候群」とは違うのですか?
まったく別の病気です。抗がん剤や分子標的薬の副作用で手のひら・足の裏が赤くなったり痛んだりする状態も「手足症候群(PPE)」と呼ばれますが、これは薬による一時的な症状です。この記事で解説する手足性器症候群(HFGS)は、生まれつきの遺伝的な形成異常であり、原因も内容もまったく異なります。
Q3. どのように遺伝しますか?子どもに受け継がれる確率は?
常染色体優性(顕性)という形式で遺伝し、HFGSの方のお子さんは妊娠ごとに50%の確率で原因となる変化を受け継ぎます。ただし、受け継いでも手足の症状はほぼ必ず出る一方、泌尿生殖器の症状が出るかどうかには個人差があります(不完全浸透)。一見新しく生じた(de novo)ように見えても、親のモザイクの可能性があるため、次のお子さんへの再発リスクを完全にゼロとは言えません。
Q4. 通常の遺伝子検査で診断できますか?
診断できないことがあります。HFGSで特徴的なポリアラニン伸長は、GCに富んだ配列で起こるため、通常の次世代シーケンサー(NGS)や標準的なエクソーム解析だけでは見逃されることがあります。典型的な症状があるのに通常の検査が陰性だった場合は、ポリアラニン伸長を直接調べられる専用の検査が行われたかを確認することが重要です。
Q5. 妊娠や出産への影響はありますか?
男女とも妊よう性そのものは一般に保たれるとされます。ただし女性では、中隔子宮や双角子宮などミュラー管の癒合異常により、妊娠中期の流産・早産・死産のリスクが上がりうることが知られています。妊娠を希望するときには、子宮・頸管・腟の形をあらかじめ明らかにし、産婦人科と計画を立てておくことが役立ちます。
Q6. 治療法はありますか?
2026年時点で、HOXA13の働きを回復させる薬や遺伝子治療はありません。管理は、尿路感染や腎障害の予防、尿路・生殖器の詰まりの解消、妊娠に関わるリスクの把握、手足の機能の維持を目標に、一人ひとりの形の違いに応じて、泌尿器科・婦人科・整形外科・臨床遺伝の各科が連携して行います。治療に関する判断は、必ず主治医とご相談ください。
参考文献
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