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Townes-Brocks症候群(タウンズ・ブロックス症候群)とは|原因遺伝子SALL1・三徴・腎障害・遺伝を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医・総合内科専門医。30年にわたる臨床のなかで、のべ10万人以上のご家族の切実な意思決定に伴走してきました。世界基準の遺伝子診断と遺伝カウンセリングを、終始責任をもって提供します。

📍 クイックナビゲーション

「生まれたときに肛門の形が普通と違うと言われた」「耳の形が少し変わっていて、聞こえも気になる」「親指が2本あるように見える」——これらが同じ一人のお子さんに重なったとき、その背景にTownes-Brocks症候群(タウンズ・ブロックス症候群、TBS)という、ひとつの遺伝子の変化で説明できる病気が隠れていることがあります。原因はSALL1という遺伝子のたった片方のコピーの変化です。

この記事では、TBSがどんな病気なのか、なぜ「肛門・耳・親指」という一見バラバラの場所に同時に症状が出るのか、そして見逃されやすい腎臓の障害が長期的な見通しを大きく左右すること、さらに近年明らかになってきた一次繊毛機能との関係までを解説します。なお、本稿で中心に扱うのはSALL1関連Townes-Brocks症候群(TBS1)です。まれにDACT1の病的バリアントによるTownes-Brocks症候群2型(TBS2)も報告されています[1]

この記事でわかること
📖 読了時間:約16〜18分
🧬 SALL1・常染色体顕性遺伝
臨床遺伝専門医監修

  • TBSの3つの中心症状(直腸肛門・耳・親指)と、その現れ方の幅
  • 長期的な見通しに重要な「腎臓の障害」と生涯の経過観察
  • 原因遺伝子SALL1のしくみと「ドミナントネガティブ効果」
  • TBSと一次繊毛機能の関係を示す研究
  • よく似た病気(BOR症候群・Okihiro症候群など)との見分け方と遺伝の伝わり方
⏱️ 30秒でわかる要約

🧬Q. Townes-Brocks症候群とはどんな病気ですか?

SALL1遺伝子の変化によって、生まれつき直腸肛門・耳(耳介と聞こえ)・親指を中心に複数の場所に形の違いが起こる、まれな遺伝性の病気です。片方の遺伝子コピーの変化だけで発症する「常染色体顕性(優性)遺伝」の形をとります。

🩺Q. いちばん気をつけることは何ですか?

腎臓の機能です。生まれたときに腎臓の形が正常に見えても、年齢とともに機能が落ちて末期腎不全に至ることがあり、TBSの長期的な見通しを大きく左右します。診断がついたら生涯にわたる定期的な腎機能チェックが欠かせません。

🌸Q. 子どもに遺伝しますか?

原因の変化を持つ方から、各妊娠につき50%の確率で伝わります。一方で、患者さんの約半数は親から受け継いだのではなく、その人で初めて起きた新生突然変異(新規の変化)が原因です。

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Townes-Brocks症候群とは——3つの場所に同時に現れる病気

「肛門・耳・親指」の三徴で知られる多発奇形症候群

Townes-Brocks症候群(TBS、OMIM #107480)は、生まれつき体のいくつかの場所に形の違いが同時に起こる、まれな多発先天奇形症候群のひとつです[1]。1972年に医師のTownesとBrocksが、鎖肛(さこう=肛門が塞がっている状態)や親指の形の違い、耳の変形と難聴をあわせ持つ父親と、その7人の子どものうち5人という家系を報告したことから、この名前がつきました[2]。以来、TBSは直腸肛門の奇形・耳介(じかい=耳の外側)の変形・親指の奇形を「三徴(さんちょう=3つの主要な特徴)」とする病気として知られてきました。

一般集団での正確な有病率は不明ですが、古い推計ではおよそ25万人に1人と報告されています[3]。ただし、これはあくまで典型的に診断された数からの推計です。近年、腎臓の病気を疑って遺伝子検査を受けた患者さんの集団を調べると、その中では1,592人に1人という、想定よりずっと高い割合でSALL1の変化が見つかったという報告があります[4]。症状が軽い方や、典型的な三徴がそろわない方は見逃されやすいため、本当の患者数はもっと多い可能性が考えられています。

✓ ここがポイント

TBSは「肛門・耳・親指」の三徴で語られますが、すべての患者さんに3つが必ずそろうわけではありません。とくに腎臓だけが前面に出て、骨や肛門の症状がほとんどない「非典型例」があり、これが診断をむずかしくしています。

🔬 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝

ヒトは同じ遺伝子を父由来・母由来の2本ずつ持っています。常染色体顕性(優性)遺伝とは、そのうち片方の1本に変化があるだけで症状が現れる伝わり方のことです。TBSはこのタイプで、男女の区別なく世代を超えて伝わります。「顕性」は以前「優性」と呼ばれていた言葉で、現在は両方が併記されます。遺伝の伝わり方全体については遺伝形式のページでくわしく解説しています。

症状——三徴と、見通しを左右する腎障害

TBSの症状はとても幅が広いことが大きな特徴です。同じ家系の中で、まったく同じSALL1の変化を持つ血縁者どうしでも、出る症状の種類や重さが大きく違うことがあります[5]。まず、主要な特徴(主要徴候)と、それ以外の特徴(副次徴候)に分けて、どのくらいの頻度で見られるかを見てみましょう。

図1:TBSの主な症状と、おおよその発現頻度

親指の奇形
76%
耳介の異形成
87%
直腸肛門の奇形
70%
難聴
62%
足の奇形
43%
腎・尿路の異常
40%
生殖器の奇形
22%
先天性心疾患
15%

※頻度は2025年改訂のGeneReviewsに掲載されたSALL1病的バリアント保有者165例の集計をもとにしています。報告集団や診断基準によって頻度は変動します[1]

主要徴候①:直腸肛門の奇形

もっとも典型的なのは鎖肛(無孔肛門)——肛門が開いていない状態です。ほかにも肛門が狭い(肛門狭窄)、位置が前方にずれている(前方偏位)、直腸と膣や尿道の間に異常な通り道ができる(瘻孔=ろうこう)などがあります。構造そのものに異常がなくても、腸の動きの問題から重い慢性の便秘を起こすことがあります[5]。鎖肛は生後すぐに小児外科での対応が必要になるため、この所見がTBS発見のきっかけになることも多いです。

主要徴候②:耳介の異形成と難聴

耳の外側(耳介)の形の違いも高い頻度で見られます。耳の上のふち(耳輪)が過度に折り返っている、耳の前に小さな穴(耳前瘻孔)や皮膚のでっぱり(副耳)がある、といった特徴が代表的です[5]。聞こえの問題(難聴)は感音性・伝音性・混合性のいずれもあり、生まれつきのこともあれば、成長とともに進むこともあります。進行することがあるため、定期的な聴力検査が大切です。症候性難聴の遺伝子パネル検査のように、難聴を伴う症候群を幅広く調べる検査も選択肢になります。

🔬 用語解説:感音性・伝音性の難聴

感音性難聴は、音を電気信号に変える内耳や神経の問題で起こる聞こえにくさです。一方伝音性難聴は、外耳や中耳で音がうまく伝わらないことで起こります。両方が混ざったものを混合性難聴と呼びます。TBSではこのいずれもが起こりえます。

主要徴候③:親指の奇形(橈骨は保たれる)

親指の側に余分な指ができる軸前性多指症や、親指の中の骨(指骨)が通常2本のところ3本ある三指節母指(さんしせつぼし)が代表的です。まれに親指が小さい(低形成)こともあります。ここで重要な見分けポイントがあります。TBSでは、前腕の橈骨(とうこつ=親指側の骨)はふつう保たれているという点です[5]。橈骨まで小さかったり欠けたりしている場合は、後で述べる別の病気を考える手がかりになります。

重要:腎臓の障害は長期的な見通しに関わる

TBSの臨床管理でとくに重要なのが腎臓(じんぞう)です。腎機能の低下や末期腎不全(ESRD)、腎臓の低形成・異形成、多嚢胞性腎、馬蹄腎、膀胱から尿管への逆流(膀胱尿管逆流症)など、さまざまな形で腎・尿路に影響が出ます[1]重い腎機能障害はTBSの予後を左右する重要な合併症であり、小児期から透析や腎移植が必要になることもあります。これらの腎・尿路の異常は、医学的にはCAKUT(先天性腎尿路異常)という大きな枠組みの中で捉えられます。

こわいのは、診断時に腎臓の形がほぼ正常に見えても、後から機能が急速に悪化することがある点です。実際、腎不全を主訴に受診して、はじめてTBSと診断された患者さんの報告があります。あるトルコの家系では、20歳の女性が7歳からの夜尿症をきっかけに腎不全に至り、腎移植の適応となりましたが、典型的な直腸肛門や親指の奇形はなく、足の指のごく軽い異常だけでした[6]。遺伝子検査でSALL1の変化が同定され、同じく慢性腎臓病を持つ母と兄にも同じ変化が確認されています[6]。このように腎臓だけが前面に出る非典型例の存在が、TBSの診断をむずかしくしています。

そのほかの特徴

足では、指どうしが重なる重なり指や扁平足、指の癒合(合趾症)、第3趾の短縮などが約半数に見られます。生殖器では、男性で尿道下裂・陰嚢二分・停留精巣・外尿道口の狭窄が、女性で腟の無形成や双角子宮などが報告されています。心臓では心房中隔欠損症(ASD)や心室中隔欠損症(VSD)、まれにファロー四徴症などが起こり、特定の変化(とくにp.Arg276Ter)では心疾患の頻度が高いことが報告されています[1][7]

知的発達については多くの方が正常範囲ですが、約15%で発達の遅れや学習上の困難が報告されています。知的機能は多くの方で保たれ、知的障害を伴う場合も一般に軽度です[1]。このほか、まれに眼(虹彩コロボーマ、小眼球症、白内障、眼球運動の異常)や内分泌(成長の遅れ、甲状腺機能の低下)の症状を伴う例も報告されています。このように、TBSは「肛門・耳・親指」という核を持ちながらも、実際にはきわめて多彩な症状の組み合わせで現れる病気だといえます。1972年の最初の報告でも、鎖肛・三指節母指・中足骨の癒合・軽度の感音難聴・特徴的な耳の変形が一つの家系に重なって記載されており、当初から「複数の器官に同時に及ぶ」ことがこの病気の本質でした[2]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「見えている症状」だけで安心しないこと】

TBSでいちばんお伝えしたいのは、生まれたときに目立つ症状——肛門や親指——に治療の目が向きがちですが、本当に長い目で見守るべきは腎臓だということです。腎臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、かなり悪くなるまで自覚症状が出ません。だからこそ、症状がない時期からの定期的な血液・尿・エコーの検査が、将来を左右します。

私は成人を診る臨床遺伝専門医として、「子どものころに手術をして、それで治ったと思っていた」という成人の方が、腎機能の低下ではじめてTBSと結びついた、というケースの相談を受けることがあります。診断は一度で終わりではなく、生涯にわたって寄り添うものだと考えています。

原因遺伝子SALL1と、病気が起こるしくみ

SALL1は器官づくりを指揮する「転写因子」

TBSの根本原因は、16番染色体の長腕(16q12.1)にあるSALL1(サルワン)遺伝子の、片方のコピーの病的な変化です[1]。SALL1は、胎児期の早い時期に腎臓・神経・手足・耳・肛門などの器官づくりを、時間的・空間的に指揮する「ジンクフィンガー型の転写抑制因子」の設計図です。SALL1遺伝子そのものの働きはSALL1遺伝子のページでさらにくわしく解説しています。

🔬 用語解説:転写因子とジンクフィンガー

転写因子とは、どの遺伝子を「オン/オフ」するかを決める、いわば司令塔のタンパク質です。ジンクフィンガーは、亜鉛イオンを使って指のような構造をつくり、DNAにしっかり結合するための部品です。SALL1はこの部品を複数持ち、狙った遺伝子の働きを「抑える」役割を担っています。

これまでにTBSの患者さんから70種類以上のSALL1の変化(ナンセンス変異・フレームシフト変異・スプライシング異常など)が見つかっており、その大多数はエクソン2という領域の中の特定の「ホットスポット(変化が集中する場所)」に集まっています[1][8]。これらの変化の多くは早期終止コドンを作り、途中で切れた短いSALL1タンパク質(トランケーション型)を生み出します。

🔬 用語解説:3つの変異のちがい

ナンセンス変異:文章の途中に急に「終わり」の合図が入り、タンパク質が途中で切れてしまう変化です。

フレームシフト変異:文字が1〜2個ずれて、そこから先の読み取りが総崩れになる変化です。

ミスセンス変異:文字が1個入れ替わり、別の意味(別のアミノ酸)になる変化です。それぞれナンセンス変異フレームシフト変異ミスセンス変異のページで解説しています。

「量が半分」ではなく「じゃまをする」——ドミナントネガティブ効果

TBSがどうやって起こるのかについては、長らく2つの考え方が議論されてきました。ひとつはハプロ不全——正常なタンパク質が半分になることで足りなくなる、という考え方。もうひとつはドミナントネガティブ効果——変化したタンパク質が、残った正常なタンパク質のじゃまをする、という考え方です[9]

🔬 用語解説:ハプロ不全 と ドミナントネガティブ

ハプロ不全は、2本ある遺伝子の片方が働かなくなり、「量が半分」になることで不足が生じる状態です(ハプロ不全のページ)。

ドミナントネガティブ効果は、こわれたタンパク質が正常なタンパク質にくっついて、正常な働きまで積極的に妨げてしまう状態です(ドミナントネガティブのページ)。ドミナントネガティブ作用では、単純な遺伝子量低下よりも機能低下が大きくなる場合があります。

決め手になったのはマウスの実験でした。Sall1の片方を欠失させたヘテロ接合ノックアウトマウスはTBSの典型的な表現型を再現しませんでした[9]。ところが、ヒトのTBSでよく見られる「途中で切れたSALL1タンパク質」を作るように設計したマウスは、高音域の感音難聴・腎臓の嚢胞性低形成・直腸肛門の奇形・手足の骨の異常という、ヒトのTBSにそっくりな症状をはっきり再現しました[9]

なぜこうなるのでしょうか。多くのTBSの変化から作られる異常なmRNA(設計図のコピー)は、本来なら細胞の品質管理システム「NMD(ナンセンス依存mRNA分解)」によって壊されるはずです。ところがTBSでは、その多くがNMDをすり抜けて翻訳され、途中で切れたタンパク質として細胞内にたまってしまいます[10]。この切れたタンパク質は、正常なSALL1やそのなかまのタンパク質と強く結合し、正常な働き(DNAへの結合や遺伝子の抑制)を失わせます。その結果、本来なら抑えられているべき下流の遺伝子(NppaやShox2など)が場違いに活性化され、心臓や手足などの形づくりが乱れると考えられています[10]

✓ ここがポイント

一方で、SALL1遺伝子まるごとの欠失などによるハプロ不全では、ホットスポットのトランケーション型バリアントより比較的軽い表現型を示す可能性が報告されています。ただし症例数は少なく、2012年のレビューでは欠失=軽症という相関を一貫して支持できないとされており、2023年の解析やGeneReviewsでは限定的な症例に基づく傾向として整理されています[1][11][12]。このため、ホットスポットの5′側トランケーションではドミナントネガティブ作用が関与し、SALL1全体の欠失などではハプロ不全が関与するというモデルが考えられています。ただし、欠失例の報告数は少なく、表現型の軽重には例外もあるため、単純な二分法で個人の重症度を予測することはできません。

TBSと一次繊毛機能——病態を広げる新しい視点

近年、TBSの理解を大きく変える発見がありました。SALL1は核の中で遺伝子を抑える司令塔として働くだけでなく、細胞質で「一次繊毛(いちじせんもう)」というアンテナの働きに直接かかわっていたのです[13]

🔬 用語解説:一次繊毛と繊毛病

一次繊毛は、ほとんどの細胞の表面から1本だけ突き出た、アンテナのような小さな器官です。外からの化学的・機械的な信号(とくにヘッジホッグ信号)を受け取り、胎児期の形づくりに重要な役割を果たします。この繊毛の異常で多指症・難聴・嚢胞性腎などが起こる病気のグループを繊毛病(シリオパチー)と呼びます。

TBSの症状(多指症・難聴・嚢胞性腎など)が、代表的な繊毛病と強く重なることは以前から謎でした。この謎を解いたのが、近接標識プロテオミクス(BioID)という最先端の技術を使った研究です[13]。TBS患者さん由来の細胞や、CRISPR/Cas9で作ったモデル細胞では、切れたSALL1タンパク質が核だけでなく細胞質にも異常に分布していました。そして細胞質で、繊毛づくりの「ブレーキ役」であるCCP110とCEP97というタンパク質を捕まえて閉じ込めてしまうことがわかったのです[13]

ブレーキが外れた結果、TBSの細胞では一次繊毛ができすぎ、しかも異常に長くなっていました。繊毛の形成頻度が上がり、長さや分解のリズムが乱れると、繊毛をアンテナとして受け取るソニック・ヘッジホッグ(SHH)シグナルの伝わり方が時間的・空間的に狂います。胎児期の器官づくりでは、このSHHシグナルが指の本数や腎臓の形を精密に決めているため、繊毛の乱れが多指症や腎臓の発生異常に直結すると考えられます[13]

つまり切れたSALL1タンパク質は、「核で遺伝子をじゃまする」ことと「細胞質で繊毛のブレーキを奪う」ことの二重の経路で、複数の場所に形の違いを引き起こしていたのです。この発見は、TBSの病態の一部に一次繊毛機能の異常が関与する可能性を強く示し、「なぜTBSの症状が繊毛病と重なるのか」を説明する重要な手がかりになりました。同時に、繊毛の形成や機能を調整する経路が、将来の研究上の治療標的になる可能性も示されています[13]。ただし、これはあくまで細胞や動物モデルでの基礎研究の段階であり、現時点で患者さんに使える治療法として確立しているわけではありません。

変化の「場所」と症状の関係(遺伝子型-表現型相関)

SALL1の変化が起こる位置と症状の重さの間には、「グルタミンに富む領域」を境にした一定の傾向があることが、207例の文献報告と49例の新規解析をあわせた大規模な研究で示されています[5]。この研究では、文献では49.7%が三徴を示したのに対し、自施設の症例では25%にとどまり、症状の幅の広さがあらためて確認されました[5]

図2:変化の位置と症状の傾向

グルタミン領域より下流(多数派・約93%)

難聴・耳の異形成・親指の奇形が増え、古典的な三徴を示しやすい。一方で重い腎不全は比較的少なめ。ドミナントネガティブ効果が強く出る領域です。

グルタミン領域より上流(少数派)

三徴がそろいにくい非典型的な像になりやすく、発達の遅れや重い腎不全(ESRD)が相対的に多い傾向。異なるしくみ(ハプロ不全に近い状態)が関わる可能性があります。

※あくまで統計的な傾向であり、個人の症状を正確に予測できるものではありません[5]

なお、特定のホットスポット変異であるp.Arg276Terは、報告例で重い症状を示しやすく、とくに先天性心疾患を合併するリスクが高いことが知られています[7]

診断と、よく似た病気との見分け方

診断の進め方

診断は、特徴的な症状の組み合わせによる臨床的な評価と、遺伝子検査を組み合わせて行います[1]。3つの主要徴候(直腸肛門・耳・橈骨を伴わない親指の奇形)がそろえばTBSが強く疑われます。主要徴候が2つだけの場合は、複数の副次徴候(難聴・腎の異常・足の奇形など)があり、かつTBSに合わない症状(重い椎骨の異常や橈骨の欠損など)がないことが臨床診断の条件になります[1]。多世代にわたって男女の区別なく発症している家族歴は強力な手がかりになりますが、全症例の約半数は新生突然変異による孤発例なので、家族歴がないことはTBSを否定する理由にはなりません[1]。逆に、腎臓の病気で受診した患者さんに耳の小さな変形や足指のわずかな異常が隠れていて、ていねいな診察と家族歴の聴取から診断にたどり着くこともあります。

遺伝子検査では、まずSALL1のシークエンス解析を行い、病的バリアントの90%以上が検出されます[1]。シークエンス解析で見つからない場合は、MLPAなどの欠失・重複解析を追加し、必要に応じて染色体マイクロアレイ(CMA)などでより大きなコピー数変化を評価します。症状が非典型的なときや、後述の似た病気との重なりが疑われるときは、SALL1・SALL4・EYA1・SIX1などをまとめて調べる多重遺伝子パネル検査が有用です[1]

⚠️ 検査上の注意

SALL1には、そっくりな「偽遺伝子(SALL1P1)」が存在します。偽遺伝子があると、キャプチャー型遺伝子パネルや全エクソーム解析(WES)ではSALL1とSALL1P1の配列を区別しにくいことがあり、解析法と確認手順に注意が必要です[1]

よく似た病気との鑑別

TBSは多くの先天奇形症候群と症状が重なるため、見分けが臨床上とても大切です。とくに次の病気とは形の特徴がよく似ています。

Okihiro(オキヒロ)症候群 / 原因遺伝子:SALL4

同じSALLファミリーの変化のため、耳・腎・肛門・親指の症状がとてもよく似ます。最大の見分けは眼球運動の障害(デュアン異常)と、橈骨の低形成・無形成を伴う点。これがあればSALL4の変化を強く疑います(Okihiro症候群のページ)。

鰓耳腎(BOR)症候群 / 原因遺伝子:EYA1・SIX1 など

耳の異形成・難聴・腎尿路の異常を共有します。BORでは首の瘻孔(頸瘻)などの第2鰓弓の異常が特徴で、TBSの主要徴候である鎖肛や親指の奇形は通常ありません。ただし、骨や直腸の異常を欠く「TBS BOR様症候群」も報告されており、遺伝子パネルでの見分けが欠かせません[14]鰓耳腎症候群のページ)。

VACTERL連合

鎖肛・腎尿路の異常・心疾患・手足の異常を共有します。ただしVACTERLに特徴的な重い椎骨異常や気管食道瘻はTBSではまれで、逆にTBSで目立つ耳の異形成・難聴はVACTERLでは主要ではありません。四肢もVACTERLは橈骨に及ぶことが多いのに対し、TBSは親指だけで橈骨は保たれます[1]VACTERL連合のページ)。

このほか、顔面の非対称が目立つGoldenhar症候群(OAVS)、虹彩コロボーマが特徴のキャットアイ症候群、合趾症と眼間開離を伴うSTAR症候群、頭蓋縫合早期癒合を伴うBaller-Gerold症候群、上肢の橈骨側列奇形と心臓の中隔欠損を示すHolt-Oram症候群なども鑑別にあがります。いずれも細かな形の違いや合併する症状の組み合わせから、パネル検査を含めて総合的に見分けます。

こうした鑑別の要は、「橈骨は保たれているか」「眼球運動の異常はないか」「首に瘻孔はないか」「椎骨や気管食道の異常はないか」といった、TBSに合う所見と合わない所見を一つずつ確認していくことです。同じSALLファミリーのSALL4による病気や、腎・耳の症状を共有するBOR症候群とは臨床像が特に近いため、症状だけで断定せず、多重遺伝子パネルによる分子診断で確定させることが、その後の経過観察や遺伝カウンセリングの方針を正しく立てるうえで欠かせません[1][14]

治療と、生涯にわたる経過観察

TBSには、原因そのものを治す遺伝子治療はまだ確立していません。そのため、それぞれの臓器の症状に対する多職種の連携による対症療法と、進行しうる合併症を早くつかむための長期的な経過観察(サーベイランス)が、生活の質と見通しの改善に直結します[1]

図3:臓器ごとの初期対応と経過観察

🩺 腎臓・尿路(最重要)

全例に腎エコーと血液・尿検査でベースラインを評価。初診時に正常でも毎年の腎機能チェックは必須。進行すれば透析・腎移植。腎臓に負担をかける薬は慎重に。

🔵 直腸肛門・消化器

鎖肛はすみやかに小児外科で対応。その後も便秘のコントロールを継続し、受診のたびに排便の状態を確認します。

👂 聴覚

出生時・診断時に聴力検査を。難聴があれば補聴器などで早期に言語発達を支え、進行を見逃さないよう毎年の聴力検査を続けます。

🦴 骨格・🫀 心臓・🧠 発達

親指の多指症などは機能を見て外科的な再建を検討。全例に心エコー。運動・言語・認知の発達を評価し、必要に応じて早期療育や特別支援につなげます。

※GeneReviewsの管理・サーベイランス推奨をもとに整理[1]

くり返しになりますが、腎機能の管理がTBSでとくに重要です。診断時に軽い異常しかなくても、年齢とともに急に悪化することがあるため、症状のない時期からのていねいな検査が欠かせません[1]。具体的には、血清クレアチニンや尿素窒素(BUN)、電解質といった血液検査、尿検査、そして腎エコーを定期的に行い、機能の推移を長い目で追っていきます。腎臓に負担をかけうる薬(一部の鎮痛薬や造影剤など)の使い方にも配慮が必要です。腎機能が進行した場合には、血液透析や腎移植が検討されます。

TBSは小児期に診断されることが多い一方で、仲田院長のような成人を診る臨床遺伝専門医のもとには、子どものころに肛門や指の手術を受けた方が成人してから腎機能の低下に気づく、といった経過で相談に来られることがあります。小児科から成人診療への「移行期」に検査が途切れないよう、診療科をまたいで情報をつなぐことが、この病気ではとくに大切になります。

遺伝の伝わり方と、ご家族へ

TBSは常染色体顕性(優性)遺伝の形をとります。片方のSALL1に変化があるだけで発症するため、遺伝カウンセリングでは次の点が大切になります[1]

親から受け継ぐ場合と、新生突然変異の場合

TBSと診断された方の約半数は罹患した親から変化を受け継いでいますが、残りの約半数は、その方で初めて起きた新生突然変異(新規の変化)による孤発例です[1]。「de novo」を日本語では新生突然変異と呼びます。新生突然変異のくわしい説明は新生突然変異のページをご覧ください。

⚠️ モザイクにも注意

孤発例に見えても、両親の血液検査で変化が見つからないとき、親の生殖腺や体細胞に部分的に変化が潜む「モザイク」の可能性は完全には否定できません。実際に、ごく軽い症状しか持たないモザイクの親の報告があります。そのため両親には、検査だけでなくていねいな身体の評価もすすめられます[1]モザイクの解説)。

次の世代への伝わり方と出生前の選択肢

変化を持つ方が子どもをもうける場合、各妊娠で変化が伝わる確率は50%です[5]。家系内でSALL1の変化がすでに分かっていれば、羊水検査や絨毛検査による出生前診断、体外受精での着床前遺伝学的検査(PGT-M)といった選択肢を提示することができます[1]。ただし、遺伝子の変化の種類から、生まれてくるお子さんの症状の重さや合併症を正確に予測することは、現状ではできません。同じ変化でも症状の幅が大きいことを、あらかじめお伝えしておくことが大切です[1]。こうした選択は情報だけで決められるものではなく、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングの中で、ご家族の価値観とあわせて整理していくことをおすすめします。

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よくある質問(FAQ)

Q1. Townes-Brocks症候群とは、どんな病気ですか?

SALL1遺伝子の変化によって、生まれつき直腸肛門・耳(耳介と聞こえ)・親指を中心に、複数の場所に形の違いが起こるまれな遺伝性疾患です。片方の遺伝子コピーの変化だけで発症する常染色体顕性(優性)遺伝の形をとります。腎臓の障害を伴うことがあり、長期的な見通しを考えるうえでとくに重要です。

Q2. 「三徴」がそろっていなくてもTBSのことがありますか?

あります。すべての患者さんに3つがそろうわけではありません。とくに腎臓の障害だけが前面に出て、肛門や親指の症状がほとんどない非典型例が知られており、腎不全をきっかけにはじめてTBSと診断される方もいます。三徴がそろわないことはTBSを否定する理由にはなりません。

Q3. いちばん注意すべき合併症は何ですか?

腎臓の障害です。腎機能障害はTBSの予後を左右する重要な合併症で、小児期から透析や腎移植が必要になる例もあります。診断時に腎臓の形が正常に見えても、年齢とともに機能が急に悪化することがあるため、症状のない時期から毎年、腎機能を確認することがとても大切です。

Q4. なぜ「量が半分」ではなく重い症状が出るのですか?

TBSの多くは、途中で切れた異常なSALL1タンパク質が作られ、それが残った正常なタンパク質にくっついて働きをじゃまする「ドミナントネガティブ効果」で起こると考えられています。マウスの実験でも、遺伝子を単に半分にしたマウスは無症状だったのに対し、切れたタンパク質を作るマウスはヒトのTBSにそっくりな症状を示しました。

Q5. TBSで「繊毛病」の視点が注目されるのはなぜですか?

近年の研究で、切れたSALL1タンパク質が細胞質で繊毛づくりのブレーキ役(CCP110・CEP97)を閉じ込め、一次繊毛ができすぎて長くなることが分かりました。繊毛の乱れは多指症・難聴・嚢胞性腎など、繊毛病と共通する症状を引き起こします。この発見から、TBSの病態を一次繊毛機能の異常という視点から捉える研究が進んでいます。

Q6. よく似た病気とはどう見分けますか?

Okihiro症候群(SALL4)は眼球運動障害と橈骨の異常が、鰓耳腎(BOR)症候群は首の瘻孔が見分けの手がかりです。VACTERL連合は重い椎骨異常や気管食道瘻を伴います。TBSは親指の奇形があっても橈骨は保たれる点が特徴です。症状が重なる場合は、複数の遺伝子をまとめて調べるパネル検査が有用です。

Q7. 子どもに遺伝しますか?重さは予測できますか?

変化を持つ方から各妊娠につき50%の確率で伝わります。家系内で変化が分かっていれば、出生前診断やPGT-Mといった選択肢もあります。ただし、遺伝子の変化の種類から症状の重さを正確に予測することは現状できません。同じ変化でも症状の幅が大きいことを踏まえ、遺伝カウンセリングでご家族と一緒に見通しを整理していきます。

参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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