【症例】上の子が遺伝病で二人目が不安…
NIPTと保因者スクリーニングで「本当の再発率」を整理できた事例
Q. 上の子が「常染色体劣性の遺伝病」と言われました。二人目は必ず1/4(25%)で同じ病気になりますか?
A. 25%は「両親がどちらも保因者」のときの基本形で、家族ごとに答えが変わります。
実際には新生突然変異や性腺モザイクが関与すると、再発率の見立ては変わります。本症例では、NIPTと保因者スクリーニングの併用で「本当のリスク」を整理できました。
Q. 将来自立できないほど重い障害が心配です。検査でわかりますか?
A. 「将来社会的に自立できるかどうか」までを判定できる検査は存在しません。
NIPTで分かるのは染色体や一部の遺伝子の変化に起因する疾患の「可能性」です。ただし、出生前診断の対象は、医学的・倫理的議論のもとで重篤な疾患が中心になってきた、という現実があります。検査の限界と目的を整理すると、不安が少し軽くなることがあります。
Q. NIPTの費用は医療費控除の対象になりますか?
A. 基本は対象外ですが、陽性から確定検査・医療行為へ進んだ場合は「遡って」対象となることがあります。
NIPTは多くの場合「検診(スクリーニング)」として扱われます。一方で、NIPTを起点に確定検査や医療行為へつながった場合、一連が治療とみなされ、NIPT費用も含めて申請できるケースがあります。
【相談内容】第一子が常染色体劣性遺伝性疾患。第二子への遺伝リスクを知りたい
【結論】 Aさんご夫婦の不安の中心は「高齢妊娠だからNIPTを受けたい」ではなく、第一子と同じ病気が二人目にも起こるのかでした。ここを整理できないまま妊娠が進むと、毎日が不安で埋まってしまいます。
第一子は、重い運動機能障害を伴う遺伝性疾患とされ、日常生活に介助が必要な状態でした。お子さんが大きくなるにつれ、介助の負担は増え、親御さんの体力も年齢とともに変化します。「もう一人同じ状態の子を育てられるのだろうか」という不安は、決して弱さではなく、現実的な心配です。
Aさんは複数の医療機関に相談しましたが、「次の妊娠でどう考えるべきか」の整理がつかず、結論が持てない状態が続きました。そこで、遺伝の専門家に相談して、検査で“家族ごとの答え”を出したいという思いで、当院にご連絡くださいました。
⚠️ 大切なお知らせ:「常染色体劣性=次は必ず25%」という“式”だけで結論を出すのは危険です。まずは、両親が本当に保因者なのか、第一子の結果と整合するのか、を確認する必要があります。
【検査結果】NIPTと保因者スクリーニングの併用で判明した「新生突然変異」
【結論】 本症例では、妊娠中のNIPTと、両親の遺伝性疾患保因者スクリーニングを併用した結果、「両親がそろって保因者」という形ではなく、第一子の発症は新生突然変異が主として疑われる状況が見えてきました。その結果、第二子の再発リスクの見立てが大きく変わりました。
実施した検査
| 検査 | 目的 | 位置づけ |
|---|---|---|
| NIPT | 妊娠中の染色体異常などのスクリーニング | スクリーニング(確定ではない) |
| 遺伝性疾患保因者スクリーニング | 両親が保因者かどうかの確認(再発率の整理) | 家族計画の基礎情報 |
| 第一子の遺伝子検査の再評価 | 「なぜ発症したのか」の整合性確認 | セカンドオピニオン的な再解釈 |
結果の要点
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NIPT:大きな異常所見は認めない結果(スクリーニングとして)
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保因者スクリーニング:両親のうち片方が「病的変異を持たない」所見があり、典型的な「両親保因者(25%)」の形と合わない可能性
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第一子の検査結果と整合性を再評価すると、新生突然変異(または性腺モザイク)が強く疑われる状況が見えてきた
💡 ポイント:なぜ「再発率が下がる」方向の整理になるのか
常染色体劣性疾患で再発率が25%になるのは、両親がともに同じ遺伝子の保因者である場合です。ところが本症例ではその前提が崩れる可能性があり、第一子の発症は新生突然変異(または性腺モザイク)が関与していると考えられました。性腺モザイクは証明が難しいため「ゼロ」とは言い切れませんが、25%という見立てからは大きく変わることが一般的です。
【院長の視点】国立Sセンターの遺伝子解析の不整合を見抜けた理由
【結論】 本症例では、国立Sセンターで実施された第一子の遺伝子検査報告書について、結果の解釈(アノテーション)と臨床像の間に不整合がありました。当院で海外の標準的な情報源も含めて再評価し、「どちらの解釈が妥当か」を医学的根拠に基づいて整理できたことが、ご家族の不安を解く鍵になりました。
ここはとても大事な点ですので、誤解のないよう丁寧に書きます。遺伝子検査の世界では、同じ変化(バリアント)でも、情報の更新や解釈の枠組みの違いで結論が変わり得ます。つまり「検査をした=自動的に正しい」ではありません。だからこそ、検査結果は臨床遺伝の専門家が、症状・家系・最新の根拠を合わせて解釈する必要があります。
1) 「不整合」はどこで起こりやすいのか
- ①
解釈基準の違い:病的かどうかの判定は、ACMGなどの基準と、その運用で差が出ることがあります[4]。
- ②
データベース更新のタイムラグ:海外で臨床的に確立した解釈が、国内の報告書に反映されるまで時間差が生じることがあります。
- ③
「片側しか見つからない」問題:常染色体劣性疾患で“1つしか病的変異が見つからない”場合、もう片方に検出しづらい変化(深いイントロン、構造変異、CNVなど)が隠れることがあります。
- ④
症状(表現型)との照合不足:遺伝子名だけで判断すると、臨床像とズレることがあります。症状と遺伝子の整合が最重要です。
2) ミネルバで何をしたのか
当院では、提示された報告書の記載をそのまま受け取るのではなく、「なぜそう結論づけたのか」を再点検します。具体的には、以下のような観点で再評価しました。
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海外の主要データベース・査読論文(PubMed)を含め、同じ変化の既報・臨床解釈を確認
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ACMG等の枠組みで、根拠の強さを整理(「なぜ病的と言える/言えないのか」)
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第一子の症状・経過と、遺伝子変化の説明力(整合性)を照合
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ご家族にとって一番重要な「再発率の見立て」に結びつく形で説明
💚 ここが本質です
大切なのは「誰が偉いか」ではなく、患者さんの人生に責任を持てる解釈になっているかどうかです。遺伝子検査は、結果の紙切れだけでは終わりません。陽性でも陰性でも、そこで止まらず、不安の時間を最小化し、必要な医療に確実につなぐことが医療機関の役割です。
ミネルバクリニックは、臨床遺伝専門医が遺伝子検査のために開業したクリニックとして、検査前の整理から判定、結果後のフォローまでを一貫して行う体制を整えています。英語文献・海外情報源へのアクセスと、国内外の検査機関との実務連携は、「正確性を優先する」という医療哲学を支える土台です。
Aさん一家のその後とミネルバクリニックの想い
【結論】 ご家族は、検査結果を踏まえて遺伝学的リスクを理解し、第二子を迎える決意をされました。その後、無事に出産されたご報告をいただいています。「知って、備えて、選べる」ことが、家族の安心につながります。
遺伝の問題は、家族計画の問題です。少子高齢化の時代に、こうしたご夫婦が「恐怖だけで諦める」のではなく、正しい情報を得たうえで自信をもって新しい命を迎えられるよう支えることは、医療の重要な役割だと私たちは考えています。
💡 「ネットに疲れたら、一度だけでも」
情報が多すぎる時代に、妊娠中の不安は増えやすくなっています。専門医の言葉で整理すると、同じ情報でも「受け止め方」が変わることがあります。遠方の方はオンラインNIPTもご利用いただけます。
NIPTと医療費控除について
【結論】 NIPTは基本的に「検診」扱いのため医療費控除の対象外ですが、陽性→確定検査→医療行為へ進んだ場合は、遡ってNIPT費用も医療費控除の対象となることがあります。
NIPTで陽性となり、羊水検査や絨毛検査などの確定検査、さらに医療行為へと進んだ場合、一連の流れが治療とみなされ、最初のNIPT費用も含めて医療費控除の対象となることがあります。
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NIPT費用
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確定検査(羊水検査・絨毛検査)費用
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医療行為に関連する費用(入院費用など)
※税務上の最終判断は税務署・税理士にご確認ください。
🏥 一人で悩まないでください
「二人目が怖い」
「遺伝子検査の結果が信じられない」
その気持ちのまま、抱え込まないでください。専門医が整理のお手伝いをします。
よくある質問(FAQ)
参考文献
- [1] ACOG. Screening for Fetal Chromosomal Abnormalities. [公式サイト]
- [2] ISPD. Position Statements. [公式サイト]
- [4] ACMG. Standards and Guidelines(遺伝子変化の解釈に関する資料). [公式サイト]
- [5] NIH / MedlinePlus Genetics. [公式サイト]
- [6] GeneReviews(NCBI Bookshelf). [NCBI Bookshelf]
- [7] Kong A, et al. Rate of de novo mutations and the importance of father’s age. Nature. 2012. [PubMed]


