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18トリソミーとは先天性の染色体異常のことです。ダウン症と同様に染色体数が多く、それに伴い様々な障害や合併症を発症する難病でもあります。
この記事では、胎児が18トリソミーと診断されたご両親に向けて、以下の内容を解説します。
- ・18トリソミー(エドワーズ症候群)とは?
- ・4つの合併症
- ・診断するための検査
- ・治療方法と予後
18トリソミーに対する正しい知識を身につけて、「出産の有無」や「出産後の育児・生活のイメージ」の参考にしていただけると幸いです。
18トリソミー(エドワーズ症候群)とは?
18トリソミー(エドワーズ症候群)とは、先天性の染色体異常症のことです。遺伝情報を持った染色体の異常により偶発的に発症するものであり、妊娠の有無は誰にも予測できません。
この章では、18トリソミーについて以下の内容を解説します。
- ・18トリソミーとは?
- ・発症する原因
- ・妊娠中の方の症状
初めて18トリソミーについて調べた方でも分かりやすいように簡単に説明しているので、ぜひご覧ください。
18トリソミーとは?
18トリソミー(エドワーズ症候群)とは、先天性の染色体異常症のことです。妊娠中に流産になる可能性が高く、無事出産できたとしても生後1ヶ月以内に亡くなるケースの多い非常に予後の悪い症状になります。
出生率は「3,500〜8,500人に1人」の割合で、「男性:女性=1:3」と女性の発症が多いことも分かっています。
では次に、18トリソミーの原因と妊娠中の症状について詳しく見ていきましょう。
18トリソミーが発症する原因
18トリソミーは偶発的な発症であり、原因は解明されていません。ただし、近年の研究により、性染色体の減数分裂(性染色体の分裂方法)が発症に関係していると分かってきました。
通常、ヒトの性染色体は23対(46本)で構成されます。しかし、両親から46本ずつもらうと2倍の92本になってしまいます。そこで、性染色体に限っては半分量になる減数分裂を行い、受精にて通常の23対(46本)になる仕組みです。
この減数分裂の過程で上手く分裂できず(染色体不分離)、両親のどちらかの染色体が多くなった結果、18トリソミーになると考えられています。
同じトリソミーだと、21番目のダウン症が有名ですね。何番目の染色体に異常が起こるかで、症状や予後などが全く異なります。
参考資料:公益社団法人 日本産婦人科医会/染色体異常
18トリソミーを妊娠中の方の症状
18トリソミーを妊娠中していると、以下の症状が出現することもあります。
- ・胎動が少ない、もしくは感じられない
- ・羊水の量が正常よりも多い
ただし、18トリソミーを妊娠していても無症状であることもあり、妊婦健診や出生前検査にて初めて発覚するケースも稀ではありません。中には羊水が多くお腹が張り、呼吸困難や早期子宮収縮を誘発する方もいるので、症状は人それぞれ違います。
羊水が多くなるのは、胎児が羊水の飲む力が弱いことが原因と言われています。実は胎児はお腹の中で羊水を飲み、おしっことして排泄するのを繰り返しています。
また18トリソミーだと胎児のうちから脆弱であることが多いため、胎動が少ない可能性もあります。最悪の場合、胎動がないことが不安であるため受診した結果、お腹の中でなくなっている可能性も十分考えられるのです。
18トリソミーの4つの合併症
様々な合併症を持って生まれてくる18トリソミーですが、中には命が危険に晒されるものもあります。
そこでこの章では、18トリソミーの合併症を以下の4つに分類して解説します。
- ・身体的な合併症
- ・心臓系の合併症
- ・呼吸器系の合併症
- ・消化器系の合併症
頻度の高い合併症を中心に紹介しているので、ぜひご覧ください。
特徴①:身体的な合併症
18トリソミーの身体的な合併症(特徴)は、以下の通りです。
- ・胎動が少ない
- ・耳の位置が低い
- ・胸骨が短い
妊娠中に胎児心拍は確認できたものの妊娠4ヶ月目(16週前後)以上になっても胎動が感じられなければ、産婦人科で相談しましょう。最悪の場合、お腹の中で亡くなっている死産の可能性もあります。
出生後の合併症は、以下の通りです。
- ・揺り椅子状の足底(弯曲)
- ・内反足
- ・手指の重なり
- ・特徴様顔貌(小さい顎、耳の位置が低い、口唇口蓋裂)
- ・体型が小さい(低出生体重児であることが多い)
- ・胸骨が小さい
- ・筋緊張が低い(脱力しているイメージ)
- ・手の握り方が特徴的(人差し指が中指の上に被る)
出生後に確認できる身体的な合併症も様々です。ただし、すべての症状が合併しているわけではありませんので、ご安心ください。合併症の数や程度は、赤ちゃんごとに異なります。
特徴②:心臓系の合併症
18トリソミーにおける心臓系の合併症は、以下の通りです。
- ・心室中隔欠損(VSD)
- ・心房中隔欠損(ASD)
- ・動脈管狭窄
- ・両大血管右室起始 など
これらの心臓系の合併症は発症率が「約40〜50%」と非常に高く、手術にて改善を目指すのが一般的です。ただし、心臓手術を行うことには賛否両論あります。
というのも、18トリソミーの子どもの予後は非常に不良であり、多くのケースは生後数日以内に死亡、1歳まで生きる可能性は10%未満と言われています。これほどまでに短い命に対して、苦痛を増やすだけではないかという考え方もあるということです。
倫理観も関わる非常に難しい問題になるため、実施前の医師の説明を十分理解した上で決断する必要があります。
参考資料:日本小児循環器学会雑誌/18トリソミーにおける心臓手術の現状
特徴③:呼吸器系の合併症
18トリソミーにおける呼吸器系の合併症は、以下の通りです。
- ・肺高血圧(PH)
- ・横隔膜弛緩症
- ・上気道閉塞
- ・無呼吸発作など
これらの合併症に対しては、人工呼吸器で呼吸管理を行うとともに薬剤治療で症状の緩和を行います。
特に横隔膜弛緩症のように横隔膜の動きが弱く、自発呼吸が難しい症状に対しては、長期にわたり人工呼吸器による呼吸管理が必要です。手術などの外科的な介入にて改善することもありますが、手術に耐えうるだけの体力があるかはそれぞれの児の状態により異なります。
また、人工呼吸器を装着しているからと言って安心できません。装着中も合併症が原因で命を落とすこともあります。そのことを思うと、ご両親の精神的な負担やストレスは計り知れません。
参考資料:18トリソミー症候群 概要/小児慢性特定疾病情報センター
特徴④:消化器系の合併症
18トリソミーにおける消化器系の合併症は、以下の通りです。
- ・食道閉鎖
- ・鎖肛
- ・胃食道逆流
合併症は心臓系や呼吸器系だけではありません。消化器官においても重篤な合併症が生じる可能性があります。
例えば、食道と胃が繋がっていない食道閉鎖は、閉鎖した食道に分泌物が溜まり、誤嚥のリスクが高い緊急性のある疾患です。また、口からミルクを飲んでも栄養素を吸収することもできないため、成長できません。
そのため、出生直後から持続的吸引による誤嚥性肺炎の予防と早期手術になります。
また、生まれつきお尻の穴がない鎖肛を合併していると排泄不可能であるため、人工肛門(ストーマ)の造設術が行われます。人工肛門に関しては時期を見て閉鎖して、通常通りお尻から排泄物を出せるようになりますので、ご安心ください。
どの合併症も経過観察だけで改善は見込めず、遅かれ早かれ手術を考慮しなければいけないのです。
いつ分かる?18トリソミーを診断するための検査
18トリソミーが発覚する時期について解説する前に、大前提として「出生前検査は胎児の障害を見つける目的で受けるものではない」ということをお伝えします。
出生前の早い時期から胎児の情報を知り、出産後の育児や生活のイメージを持つことが目的で行われる検査です。
この章では、18トリソミーの非確定的検査・確定的検査についてそれぞれ解説します。胎児について詳しく知りたいと感じた方は、ぜひこの章で解説する内容をご活用ください。
非確定的検査
妊婦健診で異常や気になる点を指摘された場合、最初に考える検査として非確定的検査があります。ただし、非確定的検査という名前からも分かる通り、確定診断ではないことに注意が必要です。
非確定的検査の種類は、以下の通りです。
- ・エコー検査(超音波検査)
- ・母体血清マーカー検査
- ・コンバインド検査
- ・母体血胎児染色体検査
非確定的検査のメリットは、お母さんへの負担が少ないことです。検査方法はエコー検査や採血のみで完結します。採血結果から染色体・遺伝子の解析を行い、先天性異常を見つけます。
例えば、母体血清マーカー検査(トリプルマーカー・クアトロテスト/クアトロ検査)では、血液中の胎盤由来のホルモンやタンパク質を測定して、染色体異常や開放性神経管奇形の有無を探ります。
コンバインド検査であれば、エコー検査で測った胎児の後頭部から首下までの長さ(Nuchal Translucency)と採血による血清マーカーの分析から、「18トリソミー(エドワーズ症候群)」や「21とトリソミー(ダウン症候群)」の確率が分かります。
また近年、出生前スクリーニング検査としてNIPT(新型出生前診断) が注目を集めています。お母さんの血液中に浮かぶ胎児のDNA分析から染色体異常のリスクが分かります。精度についても「99.9%」と高く、妊娠10週0日の早期から受検できるメリットもあります。
一方で検査費用が15〜20万円と高く、保険適応外であるため経済的な負担はさけられません。
参考資料:国立研究開発法人 国立生育医療研究センター /NIPT
確定的検査
染色体異常の確定診断を望むなら確定的検査を受ける必要があります。ただし非確定的検査と異なり、検査による合併症のリスクが高いことも納得した上で受けましょう。
確定的検査は以下の2種類です。
- ・絨毛検査
- ・羊水検査
絨毛検査とは胎盤の一部である絨毛を採取して、染色体・遺伝子異常がないか分析する検査です。妊娠10〜13週目に検査できるため、早い段階から胎児の確定的な情報を手に入れられるメリットがあります。
また、妊娠継続の有無や出産後の育児・生活のイメージがしやすくなるでしょう。
羊水検査とは胎児がお腹の中に浮かぶ羊水を採取して、染色体・遺伝子異常がないかを分析する検査です。妊娠15〜18週に受けられる検査であり、検査結果も10日〜2週間前後で分かります。
絨毛・羊水検査の精度は高く確定診断になる一方で、流産(300件に1件)や死産などの合併症もあります。検査の必要性や合併症について医師の説明をよく理解した上で受けるようにしましょう。
参考資料:公益社団法人 日本産科婦人科学会/「出生前に行われる検査および診断に関する見解」改定案
18トリソミーの治療方法と予後
最初に18トリソミーの根治的な治療法はありません。合併症や都度現れる症状への対処療法がメインです。
また、非常に厳しい現実ですが、予後は不良です。具体的には、妊娠できたとしても50%以上の胎児は流産します。無事出生したとしても、数日〜数ヶ月以内に多くの赤ちゃんは亡くなります。
厚生労働省のデータによると、出産後に外科手術を含めた新生児集中治療を受けたとしても、1か月生存率が「83%」、1年生存率が「25%」であることが分かっています。
加えて、18トリソミーの赤ちゃんは体力に乏しく、非常に弱い状態で生まれてくることも稀ではありません。そのため、治療と赤ちゃんの生命力を天秤にかけながら、その後の治療方針を決めることになるでしょう。
出産後もご両親の精神的・経済的な負担が大きい反面、授かった命であるため可愛いことに変わりありません。
参考資料:厚生労働省/18トリソミーの子どもと家族 P4
18トリソミーの子どもと向き合うために
18トリソミーの子どもと向き合うために大切なことが、「18トリソミーについて正しい理解をしておくこと」です。
健常児の赤ちゃんの育児に加えて、合併症や障害と上手く付き合っていく必要があるからです。
「でも具体的にどのようなことを知っておけばいいの?」と疑問に感じた方もいるのではないでしょうか?
そこでこの章では、18トリソミーの子どもと向き合うために必要な以下の内容について解説します。
- ・18トリソミーの治療ができる医療機関
- ・18トリソミーに関する相談先
- ・18トリソミーを出産前に考えておくこと
これから18トリソミーの子どもの親になる決意をされた方向けの内容となっているので、ぜひ出産後の育児にご活用ください。
18トリソミーの治療ができる医療機関
18トリソミーの積極的治療は、大学病院などの総合病院で受けられます。
心臓や呼吸器・消化器など病院の専門・得意分野があるため、お子様に最善の治療ができる病院を主治医と相談しながら決めましょう。
また積極的治療を希望する場合、高額な医療費が必要になります。そこで、助成金を活用すると経済的な負担が軽減されます。
厚生労働省によると、18トリソミーも小児慢性特定疾病に含まれているため、助成金の対象です。
(厚生労働省/小児慢性特定疾病対策について P3・6より画像引用)
助成金の詳細は、厚生労働省の以下の表をご覧ください。
(厚生労働省/小児慢性特定疾病対策について P3・6より画像引用)
18トリソミーの予後が不良といっても積極的治療ができないわけではないため、希望される方は主治医に相談することから始めましょう。
参考資料:厚生労働省/小児慢性特定疾病対策について P3・6
18トリソミーに関する相談先
18トリソミーについて相談したいなら、以下の2施設が考えられます。
- ・医療機関
- ・18トリソミーの自助会
専門性を持って相談に乗ってくれるのは、医療機関です。医療機関に相談することで、医師・助産師・看護師をはじめ、臨床心理士など様々な職種に相談できるメリットがあります。
出産前であれば妊娠継続の有無や出産までに考えておかなければいけないことを明確にできます。出産後は治療の方向性や高度な治療を希望する場合の相談ができるでしょう。
一方の自助会では、実際に18トリソミーの育児経験のあるご両親に相談できます。18トリソミーの子どもの育児を通して感じた不安や悩みを聞くことができ、今後自分が育児をしていくための参考にできます。
また誰かに相談できることで救われるかもしれません。18トリソミーの育児は不安の連続です。1人で悩んでいても解決するのは難しいでしょう。
代表的な自助会として「18トリソミーの会」があります。LINEによる情報交換や在宅で感じる悩みなどを直接相談できるので、一度連絡をしてみるのも良いでしょう。
参考資料:18トリソミーの会
18トリソミーを出産前に考えておくこと
18トリソミーの赤ちゃんを出産する前は、不安でいっぱいになります。
「元気に生まれてきてくれるかな?」
「退院後に育てていくことはできるか…」
「もし状態が悪かったら、どうすれば良いの?」
そこで出産前に以下のことを考えておくと、不安を軽減できるでしょう。
- ・どこまで治療をするのか?(積極的な治療を望むか)
- ・相談相手を見つけてく
- ・出産後の生活の変化にどこまで柔軟に対応できるか
- ・経済的な負担を軽減するための精度
不安が尽きることはありません。しかし、何かあった際に相談できる人がいるだけでも随分心強いものです。大切なお子様に最良の関わりができるよう準備できることは様々にあります。
まとめ: 18トリソミーに対する正しい知識を学ぶことが重要
以上、妊娠中に胎児が18トリソミーと診断された夫婦に向けて、18トリソミーの基礎知識を解説しました。
要点を以下にまとめます。
- ・18トリソミーは18番目の染色体がトリソミーになることで発症する障害
- ・身体的な特徴に加えて、心臓や呼吸器など重篤な合併症を伴うケースが多い
- ・18トリソミーの確定診断をするなら「羊水・絨毛検査」を行う必要がある
- ・予後は不良であり、1か月生存率が「83%」、1年生存率が「25%」
- ・18トリソミーの子どもと向き合うために正しい知識を持つことが重要
予後不良であり重篤な合併症を持って生まれてくる可能性の高い18トリソミーであるため、出産には相当の覚悟が必要になります。
出産前後で18トリソミーの子どもと向き合うためには、正しい知識を学ぶことが重要です。出産後も息つく暇なく、目まぐるしい毎日になる一方で、あなたの下に生まれてきてくれたかけがえのない命に変わりはありません。
悩みや不安は1人で抱え込まず、周囲へ相談しながら乗り越えられるようにしましょう。
この記事が、18トリソミーと診断された夫婦の不安の解消に役立てば嬉しいです。