目次
羊水検査の検査項目一覧
染色体・遺伝子でわかることと適応基準
Q. 羊水検査では遺伝子まで全部わかるのですか?
A. 通常は「染色体の形と数(Gバンド法)」のみを調べます。
遺伝子や全ゲノムを調べることは技術的には可能ですが、通常は行いません。胎児超音波検査で異常が見つかった場合など、医学的な理由がある場合に限り、マイクロアレイや遺伝子検査が行われます。
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➤通常の検査 → 染色体核型検査(Gバンド法)。ダウン症などの数の異常や大きな形の異常を調べます。
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➤詳細な検査 → マイクロアレイ。超音波で異常がある場合などに推奨されます。
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➤特殊な検査 → 遺伝子検査・全ゲノム解析。特定の遺伝疾患が疑われる場合や、マイクロアレイでも原因不明の重篤な場合に検討されます。
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➤ミネルバの体制 → 臨床遺伝専門医が常駐。適切な検査の選択から院内での確定検査(2025年6月〜)まで、一貫してサポートします。
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➤重要な結論 → いきなり羊水検査を受けてもGバンド法だけでは検出範囲が限定的。拡大型NIPT(ダイヤモンドプラン)でスクリーニング→陽性項目を羊水検査で確定という流れのほうが、より多くの異常を検出できます。
「羊水検査を受ければ、赤ちゃんのことはすべてわかるの?」
そう思われる妊婦様もいらっしゃいますが、実際には検査手法によって「わかること」の範囲は明確に異なります。
一般的に「羊水検査」という場合、それは染色体核型検査(Gバンド法)を指すことがほとんどです。よほどの医学的な理由がない限り、遺伝子やゲノムレベルまで詳細に調べることはありません。
ミネルバクリニックは、臨床遺伝専門医が遺伝子検査を行うために開業した日本初のクリニックです。単に検査を行うだけでなく、国際的なガイドラインに基づいた適正な検査の選択と、結果に対する正確な解釈を提供することを重視しています。
この記事では、臨床遺伝専門医の視点から、羊水検査の検査項目と、どのような場合に詳細な遺伝子検査が行われるのか(適応基準)について解説します。
1. 羊水検査の検査項目(3つのレベル)
【結論】 技術的には遺伝子まで調べることが可能ですが、通常行われるのは「染色体核型検査(Gバンド法)」のみです。より詳しい検査(マイクロアレイや遺伝子解析)は、胎児に超音波異常がある場合など、医学的な必要性が認められた場合に検討されます。
羊水検査で調べる内容は、大きく3つのレベルに分類されます。
Level 1:染色体核型検査(Gバンド法)
【通常の羊水検査】
染色体の「数」や「大きな構造の変化」を調べます。
NIPTで陽性が出た場合や、高齢妊娠を理由に受ける場合の標準的な検査です。
Level 2:CMA(マイクロアレイ検査)
【詳細な検査】
Gバンド法の約100倍の解像度で、微細な欠失や重複を調べます。
主に胎児超音波検査で異常(奇形など)が見られた場合に推奨されます。
Level 3:遺伝子検査・全ゲノム解析
【特殊な検査】
特定の遺伝子配列を調べます。
家族歴がある場合や、超音波異常があるがマイクロアレイでも原因が特定できない場合に行われます。
2. 通常の羊水検査:染色体核型検査(Gバンド法)
最も一般的な羊水検査です。採取した羊水中の細胞を培養し、顕微鏡で染色体の縞模様(バンド)を確認します。
NIPT(新型出生前診断)で陽性となった場合の確定診断としても、まずこの検査が行われます。
わかること(検査項目)
- •
染色体数の異常(異数性)
ダウン症候群(21トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)、パトウ症候群(13トリソミー)など、染色体の本数の増減がわかります。 - •
性染色体の異常
ターナー症候群(45,X)やクラインフェルター症候群(47,XXY)など、性染色体の数の異常がわかります。 - •
大きな構造異常
顕微鏡で確認できるレベル(5〜10Mb以上)の大きな「転座(入れ替わり)」や「欠失(欠ける)」がわかります。
⚠️ この検査の限界:顕微鏡で見えないレベルの「微細な欠失」や「遺伝子の変異」は、この検査では「正常」と判定されてしまいます。
3. 詳細な検査:染色体マイクロアレイ検査(CMA)
ガラス基板上に敷き詰められたDNA断片(プローブ)を用いて、染色体全体の微細な欠失(マイクロデリーション)や重複(マイクロデュプリケーション)を検出する検査です。
いつ行われるのか?(医学的適応)
米国産婦人科学会(ACOG)や母体胎児医学会(SMFM)のガイドラインでは、以下の場合にGバンド法ではなくマイクロアレイ検査を「第一選択」として推奨しています。
- •
胎児超音波検査で1つ以上の構造的異常(奇形など)が認められた場合
超音波で異常が見られる場合、Gバンド法では原因が特定できないケースでも、マイクロアレイを行うことで約6%に追加で診断がつくと報告されています。
また、超音波異常がない場合でも、患者様がより詳細な情報を希望される場合には、遺伝カウンセリングを行った上で実施することが可能です。
当院のNIPTのダイヤモンドプランの確定検査などでも活用しています。
わかること(検査項目)
Gバンド法では検出できない「微細欠失症候群」などがわかります。
| 疾患名 | 特徴 |
|---|---|
| 22q11.2欠失症候群 | 心疾患、口蓋裂、免疫低下などが特徴。約4,000人に1人と頻度が高い。 |
| 1p36欠失症候群 | 重度の知的障害、成長障害などを伴う。 |
4. 特殊な検査:単一遺伝子検査と全ゲノム解析
染色体(本)レベルではなく、遺伝子(文字)レベルの検査です。
これらはルーチンで行われることはなく、厳密な適応基準があります。
① 単一遺伝子疾患検査(ターゲットシーケンス)
特定の遺伝子を狙って調べる検査です。
- •
両親のどちらかに、特定の遺伝性疾患(例:軟骨無形成症、マルファン症候群など)がある場合
- •
上の子が遺伝性疾患である場合
また、当院のNIPTのダイヤモンドプランでは、父親の精子の突然変異によって起こる56種類の単一遺伝子疾患(骨系統疾患や症候性自閉症の原因となる遺伝子など)をスクリーニング可能です。
もしNIPTでこれらの遺伝子変異が疑われた場合は、羊水を用いてその遺伝子をピンポイントで確認する確定検査を行います。
② 全ゲノム解析・全エクソーム解析
遺伝子全体を網羅的に調べる検査ですが、国際出生前診断学会(ISPD)などは、「念のため」のスクリーニングとしての使用は推奨していません。
全ゲノム解析(トリオ解析)が推奨されるケース
最新の知見では、以下の場合に考慮されます。
- •
胎児超音波検査で複数の異常が見られるにもかかわらず、Gバンド法やマイクロアレイ検査では「陰性(正常)」であった場合
この場合、胎児だけでなく両親の血液も同時に調べる「トリオ解析(Trio analysis)」を行うことで、診断率が大幅に向上します。
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医がこうした高度な判断を行い、必要な検査を提供できる体制を整えています。
5. 羊水検査の方法・時期とリスク
羊水検査は「確定診断」が得られる一方で、母体と胎児にわずかながらリスク(侵襲)を伴う検査です。
羊水検査の時期(いつ受けられる?)
羊水検査は一般的に妊娠15〜18週頃に行われます。
これは、この時期になると羊水の量が十分になり、検査に必要な細胞も確保しやすくなるためです。15週より前に行うと流産リスクが高まるとされています。
羊水検査の具体的な手順
- ①
エコー(超音波検査)で、赤ちゃんの位置や胎盤の場所、羊水の量を確認します。
- ②
お腹を消毒し、超音波ガイド下で安全な位置を確認しながら、細い穿刺針(せんししん)をお腹に刺します。
- ③
注射器で羊水を約20mlほど吸引して採取します。
- ④
採取した羊水を検査機関へ送り、目的に応じて培養や遺伝子解析を行います。
検査のリスク(流産・破水など)
お腹に針を刺すため、約0.3%(300人に1人)の確率で流産や破水などのリスクがあるとされています。
ミネルバクリニックの「トリプルリスクヘッジ」
💰 1. 金銭的リスクヘッジ(互助会)
当院独自の互助会制度(加入料8,000円)により、NIPTで陽性となった場合の羊水検査費用を全額補助(上限なし)します。
⏱️ 2. 時間的リスクヘッジ(院内完結)
2025年6月より、院内で羊水・絨毛検査が可能な体制を整えました。確定検査のために他院を探す時間をなくし、迅速に対応します。
💙 3. 心理的リスクヘッジ(転院不要)
陽性判定後に他院へ紹介状を持っていくストレスや、新しい医師と一から関係を築く負担をなくします。臨床遺伝専門医が最初から最後まで一貫して担当します。
6. 羊水検査でも「わからないこと」検査の限界
たとえ詳細な検査を行っても、すべての病気がわかるわけではありません。
発達障害や精神疾患
自閉症スペクトラム(ASD)やADHD(注意欠如・多動症)などは、複数の遺伝子と環境要因が複雑に関わっているため、通常の羊水検査では診断できません。
ただし、当院で検査可能な特定の遺伝子変異(56遺伝子)や微細欠失の中には、症候性(重度)の自閉症の原因となるものが含まれています。
形態異常の一部
心奇形や口唇口蓋裂などの形態異常は、染色体に異常がなくても発生することがあります。
これらは遺伝子検査ではなく、超音波検査(エコー)で詳しく見る必要があります。当院では4Dエコーを導入しており、赤ちゃんの様子をより詳しく観察することが可能です。
7. 【重要】いきなり羊水検査 vs 拡大型NIPT|検出範囲の違い
【結論】 「羊水検査=すべてわかる」は誤解です。いきなり羊水検査を受けても、通常はGバンド法だけ。検出できるのは染色体の数と大きな構造異常のみです。拡大型NIPTでスクリーニング→陽性項目を羊水検査で確定という流れのほうが、より多くの異常を検出できます。
「確定検査だから羊水検査のほうが優れている」と思われがちですが、それは半分正解で半分誤解です。
確かに羊水検査は「確定診断」ができます。しかし、何を確定できるかは「どの検査を行うか」で決まるのです。
「羊水検査を受ければ安心」と思って、いきなり羊水検査だけを受けるケースがあります。
しかし、通常の羊水検査(Gバンド法)で調べられるのは:
- ×
染色体の数の異常(21/18/13トリソミーなど)
- ×
大きな構造異常(5Mb以上の欠失・転座)
- ×
微細欠失・単一遺伝子疾患は調べられない
検出範囲の比較表
| 検出できる異常 | 羊水検査 (Gバンド法のみ) |
NIPTダイヤモンドプラン +陽性時の羊水検査 |
|---|---|---|
| 21/18/13トリソミー | ✓ | ✓ |
| 性染色体異常 | ✓ | ✓ |
| 全染色体異数性 | ✓ | ✓ |
| 微細欠失症候群 (22q11.2欠失など) |
✗ | ✓ |
| 単一遺伝子疾患 (56種類:骨系統疾患・症候性自閉症など) |
✗ | ✓ |
まず拡大型NIPT(ダイヤモンドプラン)でスクリーニング
↓
陽性が出た項目について羊水検査で確定診断
この流れなら、微細欠失症候群や単一遺伝子疾患も含めてより広い範囲の異常を検出できます。さらに、陰性なら羊水検査のリスク(0.3%の流産リスク)を回避できるメリットもあります。
8. ミネルバクリニックだからできる羊水検査
日本には認証施設と非認証施設がありますが、非認証施設でありながら、臨床遺伝専門医が常駐し、遺伝カウンセリングからNIPT、そして確定検査(羊水検査)までを一貫して行える医療機関は全国でも数えるほどです。
「もし羊水検査で異常が見つかったら…」
その不安は、親として当然の愛情の裏返しです。ミネルバクリニックは、ただ検査をするだけの場所ではありません。
どのような結果であっても、あなたが納得して前に進めるよう、臨床遺伝専門医である院長・仲田洋美が全力で支えます。
羊水検査の検査項目・方法に関するよくある質問(FAQ)
参考文献
- [1.1] International Society for Prenatal Diagnosis; Perinatal Quality Foundation; Society for Maternal-Fetal Medicine (2018). Joint Position Statement on the Use of Genome-Wide Sequencing for Fetal Diagnosis. [PubMed]
- [1.2] ACOG Committee Opinion No. 682: Microarrays and Next-Generation Sequencing Technology: The Use of Advanced Genetic Diagnostic Tools in Obstetrics and Gynecology. [ACOG]
- [1.4] ACOG Practice Bulletin No. 162: Prenatal Diagnostic Testing for Genetic Disorders. [ACOG]
- [3.2] Best S, et al. (2018). Promise and complexity of new technologies in prenatal diagnosis. [PMC]
- [3.4] ISPD Position Statement on the Use of Genome-Wide Sequencing for Fetal Diagnosis. [ISPD]
- [3.7] Lord J, et al. (2019). Prenatal exome sequencing analysis in fetal structural anomalies detected by ultrasonography (PAGE study): a cohort study. Lancet. [PubMed]
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