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女性の社会進出に伴い晩婚化や妊活をはじめる年齢が高くなり、昔に比べて高齢出産になるケースが増えています。しかし高齢出産では、産まれてくる赤ちゃんにさまざまな影響が出るイメージがあるため、妊娠した喜びも束の間、無事健康な赤ちゃんが産まれてくるかと不安になってしまうママも多いようです。たしかに高齢出産はさまざまなリスクを伴います。具体的には、流産や先天性異常、母体へのダメージが大きいことや難産になる恐れなどがありそれらのリスクの中で最も知られているのがダウン症です。
ダウン症は染色体の突然変異によって起こる先天性異常です。一般的にダウン症児の出産リスクは女性の加齢とともに上がるとされていますが、実際のところダウン症と高齢出産にはどのような関係があるのでしょうか。
この記事では、高齢出産とダウン症の関係とダウン症のリスクを下げる3つの方法をご紹介します。
高齢出産とは
医学上の高齢出産とは、35歳をすぎて赤ちゃんを産むことです。なぜ一定の年齢以上での妊娠出産を高齢出産として分けるのかというと、一般的に30歳を超えた頃からの妊娠出産は、それに伴うリスクが徐々に高くなるからです。
また、出産時にとくにリスクが高まるのは40歳以上であるとされています。ただ、リスクといっても個人差があり、高齢出産の範囲であっても母子ともに健康な出産をされる方も非常に多いですが、20代など若い頃の出産に比べて体力が衰えたりトラブルが多いことは事実です。
高齢出産のリスク
実際には、どのようなリスクがあるのでしょうか。以下は高齢出産の主なリスクです。
- 流産が増え、子どもが無事に産まれる確率が下がる
- 加齢により卵子が老化し受精卵の染色体異常の可能性が増加する
- 早産や死産の確率が上がる
- 妊娠高血圧症候群や前置胎盤、胎盤早期剥離などの合併症の発生頻度が上がる
- 赤ちゃんの発育に影響が出る
- 難産になりやすい
このように高齢出産では母体への健康だけではなく、出産するときにも弊害が出てきます。40歳を超えると流産や死産の確率も高くなるので子どもが欲しくてもできない可能性が高くなります。他にも染色体の先天性疾患といった産まれてくる赤ちゃんの染色体異常として現れる場合があります。代表的な疾患はダウン症です。そしてダウン症と同じく、染色体の異常には心臓の奇形や口唇口蓋裂などがありますが、これらの障害が発生するのにママの年齢は関係ありません。
高齢出産でダウン症が起こる確率
ダウン症は染色体の異常で起こる先天性の疾患です。35歳をすぎると、染色体の異常が発生する確率はグッと高くなります。
以下は母体の年齢とダウン症児が発生する頻度です。
母体年齢 | ダウン症児が発生する頻度 |
20歳 | 1/1450 |
25歳 | 1/1350 |
30歳 | 1/940 |
35歳 | 1/350 |
37歳 | 1/200 |
39歳 | 1/110 |
41歳 | 1/70 |
43歳 | 1/45 |
45歳 | 1/35 |
ダウン症児を出産するリスクは女性の年齢とともに増加する傾向にあることはよく知られていますが、実際は約8割が35歳以下のママから産まれています。ただ、これはもともと35歳以下での妊娠が多いことが要因です。
一般的にダウン症児の出生頻度は民族間や社会的、経済的クラス間に差はなく、近年の日本の統計によると出生頻度はおよそ1000人に1人程度となっています。
高齢出産と障害(ダウン症)との関連性
ダウン症などの染色体の疾患は、受精した際の卵子がどのような状態であったのかが関係しています。そのため、ママの年齢と関連性があるといえるのです。
女性が一生のうちに作り出す卵子は、産まれたときからすでに卵巣の中にあり、月に1回卵子が放出されています。
卵子が卵巣の中にある期間が長くなるほど、卵子が老化して遺伝子情報を作り出す染色体やDNAなどがダメージを受けます。さらに細胞が分裂する力も落ちるため、染色体異常の出現率が高くなるのです。
また、流産は高齢出産でない場合でも約1割程度発生します。しかしその原因は染色体異常によるものがほとんどです。ママの年齢が上がるごとに染色体異常も起こりやすくなるため、高齢出産では流産の確率も自然と高まることになります。
ほかにも、染色体異常による先天性疾患にはエドワーズ症候群やパトー症候群などがあります。発生の頻度は3000〜5000分の1と低いですが、高齢出産の場合はダウン症と同様にリスクが高まることも知っておきましょう。
男性が高齢でもダウン症児が生まれてくるリスクは高くなるのか?
女性だけではなく男性が高齢でもダウン症児が生まれてくる可能性はあります。加齢によって精子の精製に異常が起きやすくなるからです。
1960年代から1970年代にノルウェーで実施された出生調査で、50代以上の男性がパートナーの場合、ダウン症のリスクが20〜30%増加すると報告されています。こうした結果も考慮すると男性が高齢でもダウン症児が生まれてくるといえるでしょう。
35歳以上の高齢出産で障がいがある子どもが生まれてくる確率
卵子の老化によって起きる先天性の障がいはダウン症だけではありません。他にも染色体異常による先天性の疾患を持つ子どもが生まれてくる可能性があります。その確率はダウン症同様年齢を重ねるごとに高くなりますのでご紹介ししておきます。
女性の年齢 | 染色体異常を持つ子どもが生まれる頻度 |
---|---|
20歳 | 1/526 |
25歳 | 1/476 |
30歳 | 1/384 |
35歳 | 1/192 |
37歳 | 1/127 |
39歳 | 1/83 |
40歳 | 1/66 |
41歳 | 1/53 |
42歳 | 1/42 |
43歳 | 1/33 |
44歳 | 1/26 |
45歳 | 1/21 |
「不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会」2013|厚生労働省より参照
染色体異常による先天性疾患以外の障がいを持つ子どもが生まれてくる確率は、35歳で1/192、39歳で1/83、41歳で1/53、42歳で1/33となっています。
35歳以上の妊娠出産能力
妊活をはじめるタイミングは人によってさまざまですが、近年女性の初産の平均年齢は上昇しており、ある統計では30.1歳との結果も報告されています。この結果からもわかるとおり、30歳を超えての出産はもう遅いとはいえなくなってきているのです。
そして表にもある通り、年齢が上がれば上がるほど胎児がダウン症を持って生まれてくる確率が高くなります。
35歳になるとホルモンの分泌量が減り、卵子の量も少なくなるため30歳のときより妊娠しづらくなっています。40歳を超えてくると、30代よりも排卵する確率が減ってくるのでますます子どもが授かりにくくなります。卵子の質も悪くなるのでせっかく受精できたとしても着床できずに流産してしまう可能性も高いです。
対象年齢で子どもの出産をご希望ならば、そうした事も踏まえて妊活をされたほうがいいでしょう。もちろん子どもが障がいを持っているとわかったらどうするかも、パートナーと相談してどうするか決めておいてください。
高齢出産だからと後悔したか?
高齢出産となると母体への負担が多いと同時に産まれた後の事も考えてしまいがちです。ダウン症児ではなかったとしても「自分が病気になったら、子どもがヤングケアラーになってしまうのではないか」といった心配が頭に浮かんでくる方も珍しくありません。
もしダウン症だとしたら自分が育てるための体力に不安が出てくるのは当然ですし、自分が亡くなった後にどうやって生活をしていくのかといった悩みも出てきます。
実際に当院の患者さんの中には「出生前診断を受けておけばこんなことにならなかったのに」という後悔の思いがより強いように感じます。特にご兄弟がいると自分が亡くなった後に負担をかけてしまうという思いから出生前診断を受ける方もいます。
できるだけ後悔しないためにもNIPT(新型出生前診断)や母体血清マーカー(クアトロテスト)といった出生前診断を受ける高齢出産に当てはまる妊婦さんがふえてきています。
妊娠中にダウン症を確認するための検査
妊娠中に胎児がダウン症かどうかを調べる方法として主に4つの検査があります。どれもご自身で医療機関へ申し込みをすれば受検が可能です。
- クアトロ(母体血清マーカー)テスト:検査精度約80%
- NIPT(新型出生前診断):検査精度約99%
- 羊水検査:検査精度ほぼ100%
- 絨毛検査:検査精度ほぼ100%
クアトロテストとNIPTは非確定的検査です。そのため、これらの検査を受けて陽性であった場合は、母体と胎児にとってリスクの高い羊水検査や絨毛検査などの確定的検査を受ける必要があります。
ダウン症のリスクを下げる3つの方法
現代では、女性のライフスタイルが大きく変化しています。そのため30歳を超えてから赤ちゃんが欲しいと思いはじめる方も多く、実際に40代でも健康な赤ちゃんを授かった夫婦もたくさんいます。
高齢出産は、若い年齢での妊娠出産と比べてダウン症のリスクが高まるとご紹介しましたが、そのリスクを理解していたとしても健康な赤ちゃんの誕生を願うのは自然なことです。
高齢出産について過剰に意識する必要はないですが、自分でもできる方法を実践し、少しでもリスクを減らしていきましょう。
ここでは、ダウン症のリスクを少しでも下げるために気をつけたい3つの方法をご紹介します。
妊娠前から葉酸を摂取する
葉酸はビタミンB群のひとつで、ほうれん草から発見されたため葉酸と名付けられました。ビタミンB12とともに赤血球の形成に関わったり、DNAの正しい合成にも関係しており、細胞分裂も促進する作用があります。
葉酸は主に妊娠中に摂取が推奨されている栄養素で、赤ちゃんの先天的な異常である神経管閉鎖障害のリスクを軽減できるといわれています。そのため、ダウン症の発生も防げると思われがちですが、直接的にダウン症の予防になるとは今のところいえません。
しかし、近年の研究で神経管閉鎖障害とダウン症の発生には関連性があるのではないかという報告もあり、葉酸の摂取は神経管閉鎖障害のリスクだけではなくダウン症のリスクを軽減することにつながる可能性があるかもしれません。
以下は葉酸を多く含む主な食品の例です。
- ほうれん草
- ブロッコリー
- アスパラガス
- 枝豆
- アボカド
- いちご
- レバー
- 納豆
- 焼き海苔
葉酸は緑色の野菜全般に多く含まれる栄養素です。生のままサラダで食べるともっとも多くの葉酸を摂取できますが、それでは量を多く食べられないため、栄養素を逃さないためにもスープなどにして汁ごと食べるのがよいでしょう。
日頃の習慣を見直す
ダウン症児が産まれるリスクは、飲酒や喫煙、偏った食生活などを見直すと軽減できる可能性があります。
また、ストレスはホルモンの分泌に関わっているため、十分な睡眠や適度な運動を心がけ、血流をアップしてストレスをためないようにしておきましょう。
血流は女性も男性も生殖機能に影響するといわれています。現代では仕事をしている女性も多いですが、妊活のためにも可能であれば退職することも視野に入れてもよいかもしれません。
早めの妊娠出産を検討する
高齢出産の場合、妊娠を考えている間に月日が経ってしまうというのはよくあるパターンです。そのため、30歳を超えてから赤ちゃんが欲しいと思いはじめた方は、早ければ早いほど妊娠の確率は上がり、ダウン症発生率は低くなるという事実も覚えておきましょう。
そもそも年齢とともに妊娠する確率が低下してしまうのにはいくつか理由が考えられていて、性生活自体の減少もそのひとつです。
しかも、30歳をすぎても妊娠しないと、その後も妊娠しないだろうと体が勝手に判断し、徐々に妊娠するための身体機能が弱まってしまうといわれています。
つまり妊娠を検討している方は、性生活や自身の身体に高齢だと感じさせるサインを子宮に出さないようにすることが重要なのです。
そのためにも日頃からパートナーとのスキンシップを大切にし、子宮そのものの健康を保つために婦人科検診を定期的に行いましょう。
また、夫婦でしっかりと妊活について話し合い、妊娠出産について2人で同じ意識をもつようにすると、よいでしょう。そして、もし不妊の可能性がある場合は、不妊治療に早めに挑戦することが大切です。
まとめ
高齢出産とダウン症の関係と、ダウン症のリスクを下げる3つの方法をご紹介しましたが参考になりましたでしょうか。
近年高齢出産が増加しており、同時にダウン症の発生確率も上昇傾向にあるといわれていますが、そもそも年齢が上がればいろいろな病気にかかりやすくなります。
そのため、高齢出産の妊婦さんや高齢出産でも赤ちゃんが欲しいと思っている方は、普段から生活習慣に十分注意して生活する必要がありますし、できるだけ早い時期に妊活を行うのも非常に重要です。
また、女性だけではなく男性も40歳をすぎると染色体異常の精子が増加しはじめるといわれているため、パートナーが40歳を過ぎた場合も妊活を急いだ方がよさそうです。
高齢出産に不安を感じている方は、パートナーともよく話し合い、病院へ相談するなどリスクを十分に理解したうえで妊活をしましょう。