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これまで認定施設でNIPTを受けるためには、母親の年齢が35歳以上であるという制限がありました。しかし、2022年2月に日本医学会の指針により、一部条件つきで年齢制限が撤廃されました。現在も一部施設では年齢制限を行なっている場合もありますが、基本的には年齢制限はなく、年齢制限を行なっている施設でも順次廃止になる方針です。
この記事ではNIPTの検査でわかることや、年齢制限が撤廃された背景について解説します。
NIPT(新型出生前診断)とは?
NIPT(胎児染色体検査)は母体の血液検査を行うことで、胎児の染色体疾患が非確定的にわかる検査をいいます。採血検査をしてから1〜2週間程度で結果がわかり、料金は認可施設だと約20〜25万円、無認可施設の場合は5万円〜20万円ほどです。
確定検査よりも流産の可能性が低く、妊婦さんにも赤ちゃんにも負担が少なく検査ができるのが特徴です。
また、NIPTは妊娠10週以降(ミネルバクリニックなら妊娠9週以降)という、早い時期に検査を受けることができる特徴もあります。そのため、NIPTの検査を受けることで、生まれてくる赤ちゃんに対して必要な医療について調べたり、情報収集をしたりと、万全な準備を整えられるメリットがあります。
産まれてくる赤ちゃんに必要な情報や、必要な環境が整えられていると、妊婦さんと赤ちゃんの双方にとって安心です。
NIPTを受けることで何がわかるの?
NIPTでは、主に赤ちゃんの染色体数に異常があるかどうかを調べ、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの3つの病気の可能性を判断します。他にも性染色体、染色体の微小な変化、性別の判定をしている施設もありますが、認定施設では3つの病気に限定して検査を行なっています。NIPTでは、性染色体の数の変化で起こる病気で代表的なクラインフェルター症候群や、ターナー症候群は、3つの病気の検査に比べて精度が低くなるといわれているからです。
また、性別についても早く知りたいと考えている方は多いですが、確定的ではないことや、性別の選択を招く可能性があるため調べられていません。
基本的に調べられる疾患は3つのトリソミーですが、ミネルバクリニックではそれ以外にも性染色体などの検査をしています。その他の疾患についても調べたい方はご相談ください。
NIPTの対象となる条件
公益社団法人日本産科婦人科学会倫理委員会が策定した認定施設でのNIPTの検査対象となる条件は以下のとおりです。
1.胎児超音波検査で、胎児が染色体数的異常を有する可能性が示唆された者。 2.母体血清マーカー検査で、胎児が染色体数的異常を有する可能性が示唆された者。 3.染色体数的異常を有する児を妊娠した既往のある者。 4.高年齢の妊婦。 5.両親のいずれかが均衡型ロバートソン転座を有していて、胎児が 13 トリソミーまたは 21 トリソミーとなる可能性が示唆される者。 |
参照:母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針(公益社団法人日本産科婦人科学会倫理委員会)
上述した条件に当てはまらなくても、非認定施設であれば妊娠10週以降で、胎児の数が1人〜2人であればNIPTを受検することができます。
NIPTを受検できないケース
非認定施設でも、下記に当てはまる方は母体血液中のDNA検出パターンに影響を及ぼす可能性があることなどから、判定不能になるケースがあります。
NIPTの受検ができない | 正確な結果が出ない可能性がある |
・トリソミー患者の方 ・異数性が見られる方 ・胎児が三つ子よりも多い場合 |
・がん患者の方 ・自己免疫疾患のある方 ・過去1年間で輸血をした方 ・幹細胞治療 / 免疫療法 / 臓器移植を受けた方 |
このほか二卵性(双子)の場合は検査の種類によってはNIPTの受検ができないケースもあります。
母体の状態によっては、NIPTを希望しても受検できないこともあると留意しておきましょう。クリニックで医師のカウンセリングを受けてから、最適な検査方法を判断するのも選択肢の1つです。
NIPTの認証施設と非認証施設の違い
NIPTの検査を行う施設は認証施設と非認証施設の2種類あります。認証施設と非認証施設の違いをご紹介します。
認証施設
認証施設は日本医学会、日本産婦人科学会が示した基準に従い、認証を受けている医療機関のことです。
認証施設の中でも基幹施設と連携施設の2種類があり、連携施設は基幹施設と連携をとりながら、対応が難しい場合は、基幹施設が責任を持って対応することとなっています。
非認証施設
非認証施設は日本医学会、日本産婦人科学会の認証を受けていない施設です。費用が比較的安いことや、3つのトリソミー以外にも調べられるメリットがありますが、仮にNIPTで陽性判定が出た場合、確定検査を受けることができない施設もあります。その場合、確定検査を受けるための施設を自分で調べる必要があります。
また、陽性判定が出た場合には医師の適切なカウンセリングで今後の方針を決めたほうが安心ですが、避妊症施設ではカウンセリングなどのフォローアップが受けられない場合もあります。
ミネルバクリニックは非認証施設ですが、内科専門医、がん薬物療法専門医、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを実施します。「遺伝検査は大病院でしかできない」と思われがちですが、当院では遺伝検査をより身近で、誰でも受けやすいものとして、皆さんにご提供します。安心してご相談ください。
「35歳以上」しかNITPを受けられなかった理由
それでは、なぜNIPTを受けられる年齢は35歳で区切られていたのでしょうか?
それは、このグラフを見てもわかるとおり、年齢が35歳になると急にダウン症候群(21トリソミー)のお子さんを妊娠する確率が高まる、つまりダウン症候群(21トリソミー)の有病率が高まるからです。
セルフリーDNAを用いた妊婦のNIPTは、2011年にこの技術が商業的に利用可能になって以来、飛躍的に増加しています。それ以来、多くの臨床試験で高リスク集団における一般的な異数性体(トリソミー)のスクリーニングに高い感度と特異性が示されてきました。
しかし、実際に陽性になった人が陽性である確率(陽性的中率)はその人が属する集団の有病率(事前確率)が高いほど高くなります。
詳細は関連記事でご覧ください:ベイズの定理
もう1つの理由として、出生前検査がスクリーニング検査であることと関係しています。
関連記事:スクリーニング検査とは?
スクリーニング検査である以上、コストベネフィットも求められますので、有病率の高い集団にする、ということで35歳以上を対象に出生前検査が歴史的に行われてきました。
NIPTの年齢制限が廃止された背景
これまで35歳以上という年齢制限がありましたが、年齢制限が廃止された背景にはどのようなことがあるのでしょうか。
まず、産婦人科と関連のない美容系などの非認証施設での受診が増加したことも背景にあります。これまでは年齢制限があったことから、35歳以下の妊婦さんは非認定施設で受けざるをえませんでした。
認証施設と非認証施設で検査の精度に違いはありませんが、産婦人科医や認定遺伝カウンセラーなどの専門家が在籍していない場合があります。
非認証施設の場合、検査前に十分な遺伝カウンセリングが行われなかったり、カウンセリングがあっても専門のカウンセラーがいなかったり、適切なカウンセリングを実施できない場合もあります。
その結果、検査について必要な情報提供をされず検査を受け、混乱したり、不安に感じたりする妊婦さんが増えてしまうという問題がありました。
公益社団法人日本産科婦人科学会倫理委員会によれば「無認可施設で NIPT を受けた妊婦は、NIPTの結果の意義も知らされずに放置され、陽性の結果を得た妊婦がどのような行動をとっているかも明らかでない。」とあります。
検査の結果、判断が難しい事例もあり、その場合は専門家からの情報提供やこころのサポートが必要になります。
十分な情報提供がなく、その後の検査に悩む方も増えている背景から、年齢制限が廃止されました。
35歳以下でもNIPTを受けるべき人はどんな人か
NIPTは必須の検査ではなく、検査を希望する妊婦さんが受けるものです。また、妊婦さんとパートナーともに検査についてカウンセリングを受け、十分に検査について理解してから検査されます。
検査を受けるかどうかは妊婦さんとパートナーの判断によりますが、NIPTの検査を検討する方は、NIPTでわかる病気が発生する可能性の高い場合です。
遺伝的な疾患や染色体異常の家族歴を持つ人
遺伝的な疾患や染色体異常の家族歴がある場合は、3つのトリソミーの発生頻度が高くなります。
そのため、高齢出産ではなくても、検査を受けることをおすすめします。
前回の妊娠で染色体異常や遺伝的疾患のリスクが高かった人
これまでの妊娠で染色体異常や遺伝的疾患のリスクが高い場合は、お腹の中の赤ちゃんに染色体異常がみられる可能性が通常より高いと考えられています。そのため、NIPT検査を勧められることがあるでしょう。
異常な超音波検査結果がある人
胎児超音波検査で異常を指摘された場合は、NIPTの検査を受けることをおすすめされることがあります。
超音波検査でNT(胎児の首のむくみ)の値が大きくなると、染色体疾患のリスクが高くなるため、NTの値によってはNIPTを勧めることがあります。ただ、NTの測定は誤差がある場合もありますので、胎児ドッグなど、精密な検査とともにNIPT検査を勧められる場合が多いでしょう。
まとめ
NIPTは妊婦さんにも赤ちゃんにも負担が少ない検査です。年齢制限がなくなりましたが、検査を受けるかどうか決めるのはご夫婦です。
年齢やリスクに関わらず、妊婦さんとパートナーで話し合い、決めることが大切です。検査を受けるか悩む場合や、検査について詳しく知りたい場合は、遺伝カウンセリングを受けるなど、医師に相談してみましょう。