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自閉症は先天性の疾患であることが確認されていますが、遺伝子の先天性異常の検査であるNIPT(新型出生前診断)によってリスクの高さを知ることはできるのでしょうか?
このコラムでは、「NIPTで自閉症を調べることはできるのか」「発達障害の可能性を出産前に知ることはできるのか」気になっている方へ、自閉症と出生前診断との関連について解説します。
NIPT(新型出生前診断)で自閉症は分からない
結論からお伝えすると、自閉症はNIPTで検査をすることはできません。
自閉症は先天性の脳の障害(発達障害)の1つで、今では「自閉スペクトラム」と表現されています。自閉スペクトラムの中には、高機能自閉症とアスペルガー症候群なども含まれていますが、それらもNIPTによりリスクの高さを調べることはできません。
NIPTでわかること・わからないこと
では、NIPTでわかることと、わからないことをそれぞれ説明していきます。
NIPTでわかること
ダウン症候群(21トリソミー)やエドワーズ症候群(18トリソミー)などのように、特定の染色体を見て明確に判断できるものは、NIPTによって検査することができます。以下がNIPTでわかる染色体異常です。
21トリソミー(ダウン症候群)
18トリソミー(エドワーズ症候群)
13トリソミー(パトウ症候群)
性染色体の異数体の判定
クラインフェルター症候群
ターナー症候群
XXX症候群
XYY症候群
性別判定
全染色体領域部分欠乏疾患
NIPTでわからないこと
自閉症や発達障害は、出生前診断で診断することはできません。
自閉症は複数の遺伝子の微妙な変化が引き起こしていると考えられており、特定の染色体を見て明確に判断できるものではありません。このことは、アスペルガー症候群やADHDなど他の発達障害に関しても同様のことが言えます。
また、発達障害は染色体異常や形態異常ではなく、成長するにつれて徐々に症状が出てくるものです。NIPTだけではなく、一般的な出生前診断では、発達障害を診断することはできません。
そもそも出生前診断とは
NIPTは知っているけど、そもそも出生前診断自体を知らないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
出生前診断はお腹の赤ちゃんの染色体異常を調べるための検査で、NIPTは出生前診断の中の1つです。
出生前診断は「非確定的検査」に分類されるNIPT、超音波検査、コンバインド検査、母体血清マーカー検査の4つと、「確定的検査」に分類される絨毛検査、羊水検査の2種類の合計6つがあります。
非確定的検査 | 確定的検査 |
NIPT | 絨毛検査 |
超音波検査 | |
コンバインド検査 | 羊水検査 |
母体血清マーカー |
NIPTを含む非確定的検査では、陽性判定が出てもあくまで「陽性の可能性がある」という結果に過ぎず、結果を確定させるためには確定的検査を受ける必要があります。
NIPT(新型出生前診断)とは?
NIPT(新型出生前診断)とは、先天性の染色体異常を調べるためのスクリーニング検査です。妊娠9〜10週目以降(*1)の妊婦さんの血液を採取し、染色体の数などを検査することにより異常のリスクを判断します。
(*1)ミネルバクリニックでは妊娠6週から受けていただけます
基本的な検査として、21トリソミー(ダウン症候群)・18トリソミー(エドワード症候群)・13トリソミー(パトウ症候群)の検査をおこなうことができます。また、検査を受ける施設によっては、これら3項目の他に全22種類の染色体異常についての検査も可能です。
NIPTは確定的検査とは異なり、検査結果が100%ではありません。従って、NIPTの検査結果が「陽性」であったとしても、その後確定診断をすると「陰性」に結果が覆ることがあります。
それでもNIPTが利用されるのは、「陰性」結果の的中率は99・9%という検査精度の高さと妊娠早期から流産のリスクがはなく受けられるためです。
確定的検査である羊水検査や絨毛検査は、母体のお腹に針を刺すため、1%以下程度の確率ではありますが流産のリスクがあります。先にNIPTを受けてリスクが低いと分かった場合には、リスクを負って確定診断を受けなくても、遺伝子異常のリスクが低いことが確認できます。
NIPTの検査対象となるのはどんな人?
NIPTの検査対象となる人は、検査を受ける施設によって異なります。
NIPTを受けられる施設には「認証施設」と「非認証施設」があり、認証施設では原則として、以下の方がNIPTの対象となっています。
・高年齢の妊婦
・母体血清マーカー検査で、胎児に染色体数的異常を有する可能性が示唆された妊婦
・染色体数的異常を有する児を妊娠した既往のある妊婦
・両親のいずれかが均衡型転座やロバートソン型転座を有していて、胎児が13トリソミーまたは21トリソミーとなる可能性が示唆される妊婦
・胎児超音波検査で、胎児が染色体数的異常を有する可能性が示唆された妊婦
施設によっては上記に当てはまらなくても受けることができるので、事前によく調べておく必要があります。
NIPTの認証施設と非認証施設の違い
認証施設は、出生前検査認証制度等運営委員会が認証した施設です。
この委員会は、厚生労働省の専門委員会「NIPT等の出生前検査に関する専門委員会」の報告書に基づき、日本医学会の中に作られた組織です。認証施設として承認されるためにはさまざまな条件をクリアしなければなりません。
認証施設では、検査前と結果開示の際に遺伝カウンセリングが必須となります。
これは臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーだけが実施できるもので、NIPTに関する患者さんの不安や相談を専門家ならではの視点で聞き、カウンセリングするものです。
陽性判定が出た場合、両親は精神的に非常に不安定な状態になります。この時に専門家に今後について相談できるかどうかは、非常に重要です。
非認証施設は、出生前検査認証精度等運営委員会に認証されていない施設です。ただし、認証されてないからといって違法ということではありません。検査精度については認証施設と同等です。
非認証施設でNIPTを受ける際の懸念点として、美容外科や皮膚科など遺伝カウンセリングのできる医師が不在にも関わらず検査を実施している施設もあるという点です。
非認証施設で検査を受けて陽性判定が出た場合、結果を渡すだけで相談先がないこともあります。患者さんは不安定な精神状態で、自身で確定的検査を受けるための病院を探したり、遺伝カウンセリングができる病院を探さなければならなくなるケースもあるため、注意が必要です。
自閉症の症状
では実際に、自閉症の症状にはどのようなものがあるのでしょうか。自閉症者は社会関係の構築を苦手としていて、言葉の使い方に異常が見られたり、強迫的・儀式的な行動が見られたりする傾向があります。
自閉症の症状は人それぞれで、程度の差もマチマチですが、特徴を表すと次のようになります。
・コミュニケーション…とても困難
・言葉の遅れ…ある
・知的障害…ある
・こだわり…とても強い
自閉症者は、他者とのコミュニケーションが苦手なことから、精神疾患などの二次的な障害が発症しやすい傾向もあります。
妊娠中に赤ちゃんの自閉症の予兆はある?
通常、自閉症などの発達障害は妊娠中には特定できないとされており、確かな予兆というのも明らかにされていません。発達障害は成長と共に徐々に現れる場合が多く、形態的な異常が見られないこともあります。そのため、出生前診断では確認できないことが多いようです。
ただし、特定の医療機関では大脳皮質の形成に関連する異常を詳細に診断できる場合もあります。しかし、兆候が見つかったとしても、必ずしもお子さんが発達障害を持っているとは限りません。
自閉症は一般的にいつ診断されるの?
何らかの発達障害を持つ人は、10~20人に1人と言われています。症状の程度の違いこそあれ、発達障害は非常に身近な疾患であると言えます。では、自閉症がどのように診断されるかというと、基本的には症状から判断されます。
自閉症の場合、主にご家族がお子様の遊んでいる様子や他者との関わり方などを見て診察すべきかどうかを判断し、医師が実際にコミュニケーションのテストなどをおこなったうえで診断します。
以下に診断基準を明示しておきますが、明確な基準があるわけではないのですが、自閉症者における傾向や特性などから診断されます。高機能自閉症・アスペルガー症候群・ADHD・LDなどについても同様です。軽度の場合には、ご家族やご本人にも自覚がなく、大人になってから診断されるケースも最近増えています。
DSM-5における自閉症スペクトラム(ASD:Autism Spectrum Disorder)の診断基準
以下のA、B、C、Dを満たしていること。
A:社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害
①社会的・情緒的な相互関係の構築障害。
②他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーションの障害。
③年齢相応の対人関係性の発達や維持をすることができない。
B:限定された反復する様式の行動、興味、活動(以下の2点以上の特徴で示される)
①常同的で反復的な運動動作、話し方。
②同一性へのこだわり、日常動作への融通の効かない執着、言語・非言語上の儀式的な行動パターン。
③集中度・焦点づけが異常に強くて限定的であり、興味が固定されている。
④感覚入力に対する鋭敏あるいは鈍麻、感覚を生じる環境に対する普通以上の関心。
C:症状は発達早期の段階で必ず出現するが、成長とともに明らかになるものもある。
D:症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こすものである。
自閉症の治療
自閉症の治療は、本人が生活しやすい環境を整えることをメインとすることが多いです。特に、学校や会社などの社会生活については、本人が思い通りにコミュニケーションが取れず周囲から誤解を受けてしまったり、本人がイライラや発作的な症状を起こしてしまったりすることがあります。
こうした状況が継続すると、うつなどの精神疾患を始めとした二次的な障害が生じてしまうこともあるため、周囲が本人の状況を理解して生活しやすい環境を整えることが重要視されるということです。
症状や状況によっては、薬の投与がおこなわれることもあります。
ミネルバクリニックでは自閉症の遺伝子検査を取り扱っています
上述の通り、自閉症の原因は明確になっているわけではありません。また、先天的な脳機能の障害ではあるものの、100%遺伝するものでもないことが知られています。こうした状況から、これまでは検査や診断が非常に難しいとされてきました。
そのため、「胎児の自閉症リスクを検査する方法はありません…」とこれまでは断言していましたが、最近はほんの少しずつ風向きが変わってきました。ごくわずかではありますが、自閉症のリスクについて相談に乗ってくれるクリニックが登場しています。
検査方法としては、妊婦さんとパートナーの方の遺伝子検査をおこない、それぞれの遺伝子エラーを調べます。赤ちゃんの遺伝子情報はそれらの遺伝子の組み合わせによって決まるため、エラーが生じる確率を計算するというものです。
とても専門的な内容にはなりますが、ミネルバクリニックでは遺伝子検査の専門家として自閉症検査も提供していますので、赤ちゃんの自閉症について心配だと感じている方はご相談下さい。
自閉症遺伝子検査|本人の診断・両親のリスク・次子の再発リスクを評価
まとめ
自閉症に関する知名度や認識度は高まってきましたが、まだ世間の理解が深まったとは言えない状況です。そして、自閉症を含む発達障害を持つ人の割合が10~20人に1人とも言われる中、妊娠中の赤ちゃんが自閉症を持っていないかと心配に思う妊婦さんが増えるのは、自然な流れです。
残念ながら、NIPT(新型出生前診断)で自閉症を検査することはできません。自閉症は、先天的な疾患であるとはいえ、さまざまなエラーが複雑に絡み合って生じるエラーだからです。どうしても心配な方は、記事内でご紹介した赤ちゃんの自閉症に関する検査・相談を検討するのも方法の1つです。
ミネルバクリニックは新型出生前診断に関する最新技術や豊富な経験、知識が全て備わった遺伝子専門のクリニックです。臨床遺伝専門医の院長が自ら診療いたしますので、出産に対する悩みの相談先に困っている妊婦さんは、この機会にぜひご相談ください。
この記事の著者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニックでは、以下のNIPT検査を提供しています。少子化の時代、より健康なお子さんを持ちたいという思いが高まるのは当然のことと考えています。そのため、当院では世界の先進的特許技術に支えられた高精度な検査を提供してくれる検査会社を遺伝専門医の目で選りすぐりご提供しています。
わかりやすく動画で紹介
【自閉症、実は遺伝子検査でも分かるって本当?】現役医師がこっそり教えます