InstagramInstagram

2人目の妊娠が怖い…出産トラウマの正体

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

「妊娠は嬉しいはずなのに、心がついてこない」「出産を思い出すと息が苦しくなる」「二人目が欲しいけれど、怖い」。前の出産がつらい体験だった方が、2人目の妊娠や出産を怖いと感じるのは、めずらしいことではありません。出産のあとに心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断基準を満たす方は一般の妊産婦さんで約4%いると報告されており[1]、妊娠や出産への強い恐怖には「トコフォビア(出産恐怖症)」という名前もあります。怖いのは、あなたが弱いからではありません。怖さは気合いで消すものではなく、中身を分けて、支えを先に用意するものです。この記事では、出産トラウマの正体、産後うつとの関係と再発の考え方、妊娠の前後に整理しておきたいこと、出生前診断の位置づけを順に解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約12分
🩺 妊娠・出産の不安と出生前診断
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤2人目の妊娠・出産が怖い気持ちの正体(体・医療体験・孤独の3つの怖さ)
  • ➤出産トラウマ(出産後のPTSD)とトコフォビアの意味と、どのくらいの人に起こるか
  • ➤産後うつは2人目でも繰り返すのか、研究で報告されている割合
  • ➤帝王切開・無痛分娩など分娩方法の希望の伝え方と、つらいときの相談先
  • ➤出生前診断(NIPT・羊水検査)でわかること・わからないこと

⏱️ 30秒でわかる要約

🌸 Q. 出産がトラウマで、2人目の妊娠・出産が怖いのは私だけ?

いいえ。出産のあとにPTSDの診断基準を満たす方は、一般の妊産婦さんで約4%と報告されています。診断には至らない強い症状がある方は、さらに多くいます。痛みの強さだけでなく、説明がなかったこと、ひとりだったことも引き金になります。

🩺 Q. トコフォビア(出産恐怖症)とは? 妊娠が怖いのは病気?

妊娠や出産への強い恐怖のことで、「出産恐怖症」「妊娠恐怖症」とも呼ばれます。つらい出産のあとに起こるものは二次性トコフォビアといいます。世界の研究をまとめると、妊婦さんの約14%に強い出産恐怖がみられます。妊娠の計画や生活に支障が出ているなら、産婦人科・精神科・心療内科に相談してください。

📊 Q. 産後うつは、2人目でも繰り返す?

必ず繰り返すわけではありません。デンマークの約45万人の研究では、初めての出産後に産後うつで治療を受けた方のうち、次の出産後に再び治療が必要になったのは15〜21%でした。多くの方は繰り返していませんが、経験のない方よりは高いため、妊娠中から支えを用意しておくことが大切です。

2人目の妊娠が怖い…その気持ちの正体

2人目の妊娠や出産が怖い気持ちの中心にあるのは、「また同じ苦しさが起きるかもしれない」という予期不安です。怖さそのものは異常ではなく、つらい体験から自分を守ろうとするサインでもあります。

「2人目の妊娠は不安しかない」「もう二度と出産したくない」と感じるほどの怖さは、気合いで消えるものではありません。まずは、どこが怖いのかを細かく分けていきます。怖さは大きく3つに分かれます。この3つを順番に並べることが、次に何を整理するかを決める出発点になります。

📌 まず整理したい3つの怖さ

怖さの種類 中身の例
身体の怖さ 痛み、出血、失神、極度の疲労
医療体験の怖さ 説明がない、急かされる、納得できないまま処置が進む
孤独の怖さ 夫や家族がそばにいない、相談先がない、ひとりで抱える

出産の記憶がよみがえるときに起きやすい反応

出産の体験が強いストレスになっている場合、妊娠をきっかけに過去の記憶がよみがえり、動悸、息苦しさ、涙が出る、眠れないなどの反応が出ることがあります。ここで大切なのは、症状を我慢することではなく、支援につなぐことです。

出産トラウマとは何か

出産トラウマは、命に関わる出来事を経験した心と体が、その後も危険信号を出し続ける状態です。出産の場面がくり返し頭に浮かぶ、出産を思い出させるものを避ける、眠れない、気持ちが張りつめるといった症状が続き、生活に支障が出るほどになると、出産後のPTSDと診断されることがあります。

59の研究(約2万4千人)をまとめた解析では、出産後にPTSDの診断基準を満たす方は、一般の妊産婦さんで4.0%、リスクの高い集団(妊娠や出産に合併症があった方など)では18.5%でした[1]。別の総説では、診断には至らないものの生活に影響する強い症状がある方は、最大で16.8%と報告されています[2]。出産トラウマは、ごく一部の人だけに起こる特別なことではありません。

引き金になるのは、痛みの強さだけではありません。50の研究をまとめた解析では、出産後のPTSDと最も強く関係していたのは「出産の体験を本人がどう感じたか」で、次いで鉗子・吸引分娩や帝王切開などの手術的な出産、出産中に支えがなかったことでした[3]。長い分娩で疲れ切っているのに、理由の説明がないまま処置が進む。そうした体験が、あとまで心に残ります。次に整理したいのは、「何がつらかったのか」を言葉にして、医療者に伝えられる形にすることです。

💡 用語解説:迷走神経反射(めいそうしんけいはんしゃ)

強い不安や痛み、長く立っていることなどをきっかけに、血圧が下がって脈が遅くなり、気が遠くなったり失神したりする反応です。出産や産後の処置の場面でも起こることがあります。

🔍 出産トラウマの「きっかけ」になりやすいこと

きっかけ 具体的な場面
説明がないまま進む医療 なぜ必要かが分からない処置が続く。休みたいのに動くよう強く促される。恐怖と不信が残りやすい
極度の疲労と孤独 出産が長時間に及ぶ。夫や家族がそばにいない。「助けて」と言えない雰囲気がある
心身の急変 失神、息苦しさ、出血、緊急の処置。「怖かったのに止められなかった」という感覚が残りやすい
自分を責めてしまう連鎖 赤ちゃんを可愛いと思えない罪悪感。「母親失格」と感じてしまう。産後うつにつながることもある

トコフォビア(出産恐怖症・妊娠恐怖症)とは

妊娠や出産に対する強い恐怖を、トコフォビア(tokophobia)と呼びます。日本語では「出産恐怖症」「妊娠恐怖症」と呼ばれることもあります。この言葉を広めた英国の報告では、出産の経験がないうちから続く一次性、つらい出産のあとに起こる二次性、妊娠中のうつ病の症状として現れるものの3つに分けられています[4]。前の出産がトラウマになって2人目が怖いという状態は、この二次性トコフォビアにあたります。

18か国・約85万人の妊婦さんのデータをまとめた解析では、強い出産恐怖がある方は約14%でした[5]。ただし、定義は研究によって異なり、報告された割合には3.7%から43%まで幅があります[5]。世界共通の診断基準はまだ定まっていないため、「診断名がつくかどうか」よりも、妊娠の計画や日常生活に支障が出ているかどうかが受診の目安になります。

支援の効果も調べられています。強い出産恐怖がある妊婦さん1,357人を対象にした7つの試験をまとめた解析では、心理教育や認知行動療法などの支援を受けたグループで、帝王切開になった方が少なかった(28%対40%)と報告されています[6]。恐怖の強さそのものの下がり方は小さく、根拠の確かさも十分とはいえませんが[6]、怖さを誰かに話し、出産の見通しを一緒に立てることには意味があると考えられます。

「動け」と言われる背景も、知っておいてほしいこと

出産後に早く起き上がって歩くこと(早期離床)を促されるのは、足の静脈に血のかたまりができる病気(深部静脈血栓症など)を防ぐ目的があるためです。医学的には大切なことでも、説明がないままの介入は、心に傷を残すことがあります。次の出産では、「処置の前に理由を説明してほしい」「休みたいときは伝えたい」といった希望を、あらかじめ伝えておける仕組みを用意しておきましょう。

産後うつとの関係|「またなるのでは」と思う理由

産後うつを経験した方が、次の妊娠で怖さを感じるのは自然なことです。その怖さには、「再発するかもしれない」という不安だけでなく、「また孤独になったらどうしよう」という不安も含まれています。

日本の女性を対象にした123の研究をまとめた解析では、出産後1か月の時点で産後うつがみられた方は14.3%でした[7]。およそ7人に1人です。同じ解析では、初めての出産のほうが産後うつは多く、初産婦さんは経産婦さんの1.76倍と報告されています[7]。

産後うつは、ホルモンの変化だけで起こるものではありません。過去の心の不調、周囲の支えの不足、強いストレスになる出来事などが関係するとされています[8]。出産がつらい体験だったことも、その一つになりえます。次に整理したいのは、自分がつらくなりやすい条件を先に知り、先回りして支えを作ることです。

💡 用語解説:産後うつ

出産のあとに、気分の落ち込み、強い不安、涙が出る、眠れない、食欲がないといった状態が2週間以上続き、日常生活がつらくなる状態です。産後数日で自然におさまる一時的な気分の揺れ(マタニティブルーズ)とは区別されます。症状の強さや経過には個人差があります。

⚖️ 怖さが強まりやすい条件と、回復を支える要素

怖さが強まりやすい条件 回復を支える要素
睡眠が取れない見通し 「ひとりにしない」体制
夫や家族のサポートが薄い 薬や心理療法など、必要なときの治療
「我慢が美徳」になりやすい 「責めない」言葉がけ
仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「弱いから」ではなく「守ろうとしている」】

産後うつを経験した方が、次の妊娠を怖いと感じるのは当然のことだと考えています。その怖さは「弱さ」ではありません。同じ苦しさを二度と繰り返さないために、心が出しているサインです。

「怖い」と言葉にできることは、回復の入り口です。怖さの中身が言葉になれば、支えを先に用意することができます。そうすれば、妊娠は少しずつ「今のあなたに合う形」に近づけられます。

再発リスクは「数字」だけで決まりません

産後うつが次の出産で繰り返すかどうかは、一律には決まりません。睡眠・支え・孤立といった環境と、そのときの体調で大きく変わります。「必ず再発する」とも「絶対にしない」とも言い切れないものです。

目安になる数字はあります。デンマークで、それまで心の病気の治療歴がなかった初産婦さん約45万7千人を追跡した研究では、初めての出産のあとに産後うつで治療を受けた方のうち、次の出産後に再び治療が必要になったのは、薬で治療した方で15%、病院を受診した方で21%でした[9]。産後うつの経験がない方に比べると約27〜46倍にあたりますが[9]、見方を変えれば、経験した方の約8割は、次の出産では繰り返していません。

この数字は海外の、治療歴のない方に限った集団の平均で、一人ひとりの確率をそのまま表すものではありません。大切なのは、怖さを数字に押し込めることではなく、再発しやすい条件を避ける準備をすることです。「夫が不在になりがち」「実家が遠い」「夜間の支えがない」など、条件が分かれば対策が立ちます。

⚖️ 再発を左右しやすい要素

要素 考え方
睡眠 睡眠が削られる見通しが強いほど、気分は崩れやすい
孤立 「相談できない」状態が長いほど、つらくなる
医療体験 説明が足りないと、怖さが大きくなりやすい
早めの相談 妊娠中の準備が、産後の安定につながりやすい

「再発が怖い」人ほど、計画が助けになります

怖さが強い方ほど、計画は「逃げ道」ではなく「守り」になります。出産後の支えだけでなく、妊娠中のうちに、言葉にして相談できる先を作っておくことが大切です。前回の産後うつの経過は、妊婦健診で早めに伝えてください。産後の健診や自治体の支援につなげやすくなります。

妊娠前後に整理しておきたい3つのこと

整理の順番は、「体(体力・休息)→ 心(怖さを言葉にする)→ 支援(夫・家族・医療)」が基本です。順番が逆になると、頑張りが空回りしやすくなります。「何から考えればいいか分からない」状態そのものが、つらさを増やします。今日からできる具体的なことに落としていきましょう。

① 体休息と睡眠の見通しを立てる
▶
② 心何が怖いのかを言葉にする
▶
③ 支援家族・医療・自治体の役割を決める

今日からできる「準備」

📝 整理する領域と、次にすること

整理する領域 例 次に何をするか
体 休息の確保、家事を減らす、産後の睡眠の計画 「夜をどう守るか」を家族で決める
心 怖さの中身(痛み・説明不足・孤独)を言葉にする 「何が一番つらかったか」をメモにする
支援 夫・実家・地域・医療の役割分担 相談先を「事前に」作る

✅ 今日からできるチェックリスト

・「何が一番つらかったか」を1行で書き出す
・産後の夜間を誰がどう支えるか、家族で決める
・「説明してほしいこと」を箇条書きにする(例:処置の理由、休みたいときの伝え方)
・妊娠中から相談できる窓口を1つ決める(産婦人科・助産師・自治体の保健師)
・不安が強い日は「調べすぎない日」を作る

「頑張って乗り切る」より、「頑張らなくても回る仕組み」を作るほうが、産後の心を守りやすくなります。

分娩方法の希望は、早めに伝える(帝王切開・無痛分娩・計画分娩)

前の出産で何がつらかったかによって、次の出産で相談したいことは変わります。トコフォビアの報告では、希望した分娩方法を受け入れてもらえなかった女性は、受け入れてもらえた女性より心の不調が多かったとされています[4]。希望がすべて通るとは限りませんが、理由を聞き、話し合えること自体が支えになります。

前回が帝王切開だった場合、次の出産も予定帝王切開とする施設が多いのですが、方針は施設や前回の手術の内容によって異なります。帝王切開がトラウマになっている方は、麻酔の方法、手術中の声かけ、家族の付き添い、術後の痛み止めについて、前もって確認しておくと見通しが立ちます。痛みへの恐怖が強い方には、麻酔で痛みを和らげる無痛分娩や、日程を決めて行う計画分娩という方法もありますが、対応している施設や条件は限られます。無痛分娩の注意点は無痛分娩のデメリットとリスクを避ける方法で、分娩施設ごとの対応は全国産院なびで確認できます。

ミネルバクリニックは分娩を行っていません。分娩方法の選択は、出産する施設の医師・助産師とご相談ください。

📞 つらい気持ちが続くときの相談先

・産婦人科(妊婦健診・産後健診):前回の出産や産後うつの経過を伝えてください。産後2週間・1か月ごろの産婦健診では、心の状態も確認されます[10]。
・精神科・心療内科:眠れない、涙が止まらない、出産の場面がくり返しよみがえる状態が続くとき。妊娠中・授乳中の治療についても相談できます。
・自治体の相談窓口:市区町村のこども家庭センターや保健センターで、保健師に相談できます。出産後1年以内の方は、宿泊や日帰り、訪問で休養と育児の支援を受けられる産後ケア事業を利用できる場合があります[10]。
・今すぐ話したいとき:よりそいホットライン(0120-279-338・24時間・無料)、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)があります[11]。自分や赤ちゃんを傷つけてしまいそうなときは、迷わず救急や身近な医療機関を頼ってください。

出生前診断(NIPT・羊水検査)を「不安の整理」に使う

次の妊娠への不安の中には、「赤ちゃんは元気に育つだろうか」という心配が含まれていることもあります。出生前診断は、そうした不安の一部を整理する手段の一つです。ただし、出生前診断は安心を保証する検査ではありません。NIPTは可能性を調べるスクリーニング検査で、陽性や判定保留の場合は、羊水検査・絨毛検査で確かめます[12]。大切なのは、何を知りたいのかをはっきりさせることです。

出生前診断には、医学的な面だけでなく倫理的な面があります。「どこまで調べるか」は、ご家族の価値観に深く関わります。受けない選択も、受ける選択と同じように尊重されるものです。医療の役割は結論を出すことではなく、ご本人の意思決定を支えることだと考えています。同じ「次の妊娠が怖い」でも、赤ちゃんの病気が再び起こる確率が心配な方は次の妊娠が怖い方へ|再発率とNIPTでわかることを、上のお子さんがいるご家庭での考え方は二人目の妊娠と、上の子がいる家庭のNIPTをご覧ください。

🧭 NIPTの整理

項目 内容
わかること お母さんの血液に含まれる赤ちゃん由来のDNAを調べ、染色体の数の変化などの「可能性」を調べます。詳しくはNIPTで分かること・分からないことへ
わからないこと NIPTは確定診断ではありません。調べる範囲は決まっており、結果の解釈には限界があります
確かめる方法 陽性・判定保留の場合は、羊水検査・絨毛検査で確かめます

💡 用語解説:確定診断(かくていしんだん)

「可能性」ではなく、検査で診断を確定させることです。出生前の確定診断は、羊水検査や絨毛検査が中心です。

PPV(陽性的中率)をどう理解するか

同じ「NIPT」でも、検査の技術や解析の体制は一律ではありません。数字だけを単純に比べると、かえって不安が強まることがあります。「その検査がどういう前提で作られ、陽性のときに誰がどう支えるのか」まで含めて考えることが大切です。精度の数字の読み方はNIPTの精度(的中率と限界)で解説しています。NIPTに関するほかの記事はNIPT関連コラムにまとめています。

💡 用語解説:PPV(陽性的中率)・偽陽性・偽陰性

PPV(陽性的中率)は、陽性と出たときに、実際に赤ちゃんにその変化がある確率です。お母さんの年齢や、調べる項目によって変わります。偽陽性は、検査で陽性と出ても確定検査では陰性になること、偽陰性は、検査で陰性と出ても実際には変化があることをいいます。

確定診断とCMA(マイクロアレイ)を混同しない

出生前の確定診断は羊水検査・絨毛検査で行います。染色体のごく小さな欠失(微小欠失)などは、羊水検査で採った細胞をCMA(染色体マイクロアレイ検査)で調べて確かめます。生まれたあとは、採血によるCMAが確定診断の中心になることがあります。

ここは混同されやすいところです。NIPTはスクリーニング検査、確定診断は羊水や絨毛を採る検査です。さらに、顕微鏡で染色体を見るGバンド法では見えないほど小さな欠失を確かめるには、CMAが役立ちます。米国で4,406人を対象にした研究では、Gバンド法が正常だった赤ちゃんのうち、超音波検査で体のつくりに変化が見つかっていた場合は6.0%、お母さんの年齢やスクリーニング検査の結果を理由に検査を受けた場合は1.7%で、CMAによって医学的に意味のある欠失や重複が見つかりました[13]。押さえておきたいのは、「出生前」と「出生後」で検査の位置づけが違うことです。

🧬 場面ごとの検査の位置づけ

場面 主な検査 ポイント
出生前(スクリーニング) NIPT 確定診断ではないため、結果の解釈と次の手順が大切
出生前(確定診断) 羊水検査・絨毛検査 赤ちゃん由来の細胞を直接調べて、診断を確定させる検査
羊水検査+CMA 染色体マイクロアレイ検査 Gバンド法では見えない微小欠失を確かめられる。超音波検査で体のつくりに変化が見つかった場合に、とくに役立つ[13]
出生後(確定診断) 採血によるCMAなど 生まれたあとは採血で調べられ、確定診断の中心になることがある

💡 用語解説:CMA(染色体マイクロアレイ検査)

染色体のごく小さな欠失や重複(コピー数の変化)を調べる検査です。Gバンド法では見えにくい小さな変化をとらえられることがあります。

ミネルバクリニックが大切にしている支え方

最初にお伝えしておきたいのは、当院でできることと、できないことです。ミネルバクリニックは分娩を行っていません。また、産後うつや出産後のPTSDの治療は、精神科・心療内科の領域です。当院は、臨床遺伝専門医が常駐する遺伝診療のクリニックとして、出生前検査の「結果が出たあとに、誰がどう支えるか」までを含めて体制を作っています。

出生前検査は、結果が出て終わりではありません。結果を受け取ったあとの時間に、心は大きく揺れます。検査が新しい心の傷にならないようにすること。それを大切にしています。

🏥 当院の体制

項目 内容
正確さを優先した検査の選び方 結果がご家族の人生に長く関わる検査のため、早さよりも正確さを優先しています。採用している検査の精度のデータを公開しています
確定検査まで院内で対応 2025年6月から産婦人科を併設し、羊水検査・絨毛検査を院内で行っています。主要な検査項目は3日以内に、マイクロアレイ検査は2週間ほどで結果が出ます
臨床遺伝専門医が常駐 検査前の説明は、90分の受診枠の中で臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングとして行います。遺伝カウンセリングは検査の料金に含まれます。陽性だった場合のカウンセリングは、何度でも無料です
互助会による費用の支え NIPTを受ける方全員が加入する互助会(カトレア会)は、1回のNIPTにつき8,000円です。陽性だった場合の確定検査(羊水検査)の費用が、上限なく全額補助されます
仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「結果」より「心を守る設計」を大切にしています】

出生前検査は、結果が出た瞬間から、ご家族の時間が一気に変わる検査だと考えています。だからこそ、陽性のあとに誰が説明し、どこで確定検査を受けられるのかを、検査の前に決めておくことが大切です。正確さを優先するのも、結果がご家族の人生に長く関わるからです。

つらい出産を経験した方にとって、出生前検査は「受けなければならないもの」ではありません。受けない選択も含めて、ご自身が納得できる形を選んでいただきたいと考えています。ネットの情報に疲れたときは、ひとりで抱え込まず、身近な医療者に声をかけてください。

🏥 次の妊娠の不安を、ひとりで抱えないために

ミネルバクリニックには、臨床遺伝専門医が常駐しています。次の妊娠で、赤ちゃんの染色体や遺伝のことが気がかりな方は、受診の際に、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングの中でその不安をお話しいただけます。出産のつらい記憶や産後うつの治療は、産婦人科・精神科・心療内科にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 2人目が欲しいけれど妊娠・出産が怖いのは、甘えでしょうか?

甘えではありません。出産のあとにPTSDの診断基準を満たす方は一般の妊産婦さんで約4%、診断には至らなくても強い症状がある方はさらに多いと報告されています。大切なのは、怖さを無理に消そうとせず、怖さの中身(体・医療体験・孤独)を言葉にして、支援につなぐことです。

Q2. 出産トラウマは自然に治りますか?乗り越え方はありますか?

時間とともに軽くなる方もいますが、次の妊娠をきっかけに強くよみがえることもあります。強い出産恐怖がある妊婦さんを対象にした研究では、心理教育や認知行動療法などの支援を受けたグループで、帝王切開になった方が少なかった(28%対40%)と報告されています。「何がつらかったか」をメモにして、妊婦健診で出産する施設に伝えることが最初の一歩です。眠れない、出産の場面がくり返しよみがえるといった状態が続くときは、精神科・心療内科にも相談してください。

Q3. トコフォビア(出産恐怖症)とは何ですか?診断はどこで受けられますか?

妊娠や出産に対する強い恐怖のことで、妊娠恐怖症と呼ばれることもあります。出産の経験がない方に起こる一次性と、つらい出産のあとに起こる二次性があります。世界の研究をまとめた解析では、妊婦さんの約14%に強い出産恐怖がみられました。定義は研究によって異なり、世界共通の診断基準は定まっていないため、診断名がつくかどうかよりも、妊娠の計画や日常生活に支障が出ているかどうかが受診の目安になります。相談先は、産婦人科(妊婦健診)、精神科、心療内科です。

Q4. 前回の帝王切開がトラウマです。2人目も帝王切開になりますか?

前回が帝王切開だった場合、次の出産も予定帝王切開とする施設が多いのですが、方針は施設や前回の手術の内容によって異なります。予定帝王切開は、日程や麻酔の方法を前もって確認できます。前回つらかったこと(説明がなかった、痛みが強かった、ひとりだったなど)を具体的に伝えると、準備の相談がしやすくなります。ミネルバクリニックは分娩を行っていないため、具体的な方法は出産する施設でご確認ください。

Q5. 産後うつは次の妊娠で必ず再発しますか?

必ず再発するとは言えません。デンマークの約45万人の研究では、初めての出産のあとに産後うつで治療を受けた方のうち、次の出産後に再び治療が必要になったのは15〜21%でした。経験のない方より高い割合ですが、多くの方は繰り返していません。再発のしやすさは睡眠・孤立・支援の体制などで変わるため、妊娠中から「ひとりにしない」体制を作ることが大切です。

Q6. NIPTは「安心のため」に受けてもいいですか?

不安を整理するために検査を考える方は多いのですが、NIPTは確定診断ではなく、安心を保証する検査でもありません。何を知りたいのか、結果が出たらどうしたいのかまで含めて、検査の前に整理しておくことが大切です。受けない選択も尊重されるものです。NIPTで分かること・分からないことも参考にしてください。

Q7. 胎児分画が低いとどうなりますか?

胎児分画(お母さんの血液中のDNAのうち、赤ちゃん由来のものの割合)が低いと、判定が難しくなり、判定保留や再検査になることがあります。必要な胎児分画の基準は、検査の方式によって異なります。詳しくは胎児分画(FF)が低いとどうなる?をご覧ください。

Q8. 羊水検査でCMA(マイクロアレイ)まで行うのはどんなときですか?

微小欠失などを確かめる目的で、羊水検査とあわせてCMAが検討されることがあります。超音波検査で赤ちゃんの体のつくりに変化が見つかった場合には、通常の染色体検査が正常でも、6.0%でCMAにより医学的に意味のある欠失や重複が見つかったと報告されており、とくにこうした場合に役立ちます。実際に行うかどうかは、妊娠の経過やご希望をふまえて個別に判断します。

関連記事

参考文献

  • [1] Yildiz PD, Ayers S, Phillips L. The prevalence of posttraumatic stress disorder in pregnancy and after birth: A systematic review and meta-analysis. J Affect Disord. 2017;208:634-645. [DOI 10.1016/j.jad.2016.10.009]
  • [2] Dekel S, Stuebe C, Dishy G. Childbirth Induced Posttraumatic Stress Syndrome: A Systematic Review of Prevalence and Risk Factors. Front Psychol. 2017;8:560. [DOI 10.3389/fpsyg.2017.00560]
  • [3] Ayers S, Bond R, Bertullies S, Wijma K. The aetiology of post-traumatic stress following childbirth: a meta-analysis and theoretical framework. Psychol Med. 2016;46(6):1121-1134. [DOI 10.1017/S0033291715002706]
  • [4] Hofberg K, Brockington I. Tokophobia: an unreasoning dread of childbirth. A series of 26 cases. Br J Psychiatry. 2000;176(1):83-85. [DOI 10.1192/bjp.176.1.83]
  • [5] O’Connell MA, Leahy-Warren P, Khashan AS, Kenny LC, O’Neill SM. Worldwide prevalence of tocophobia in pregnant women: systematic review and meta-analysis. Acta Obstet Gynecol Scand. 2017;96(8):907-920. [DOI 10.1111/aogs.13138]
  • [6] O’Connell MA, Khashan AS, Leahy-Warren P, Stewart F, O’Neill SM. Interventions for fear of childbirth including tocophobia. Cochrane Database Syst Rev. 2021;7:CD013321. [DOI 10.1002/14651858.CD013321.pub2]
  • [7] Tokumitsu K, Sugawara N, Maruo K, et al. Prevalence of perinatal depression among Japanese women: a meta-analysis. Ann Gen Psychiatry. 2020;19:41. [DOI 10.1186/s12991-020-00290-7]
  • [8] Howard LM, Molyneaux E, Dennis CL, Rochat T, Stein A, Milgrom J. Non-psychotic mental disorders in the perinatal period. Lancet. 2014;384(9956):1775-1788. [PubMed 25455248]
  • [9] Rasmussen MH, Strøm M, Wohlfahrt J, Videbech P, Melbye M. Risk, treatment duration, and recurrence risk of postpartum affective disorder in women with no prior psychiatric history: A population-based cohort study. PLoS Med. 2017;14(9):e1002392. [DOI 10.1371/journal.pmed.1002392]
  • [10] こども家庭庁成育局母子保健課. 母子保健における妊産婦等の支援の現状について(第1回 妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会 資料2-3). 2024年6月26日. [厚生労働省 掲載資料]
  • [11] 厚生労働省. まもろうよ こころ:電話相談窓口. [厚生労働省]
  • [12] Dungan JS, Klugman S, Darilek S, et al. Noninvasive prenatal screening (NIPS) for fetal chromosome abnormalities in a general-risk population: An evidence-based clinical guideline of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). Genet Med. 2023;25(2):100336. [PubMed 36524989]
  • [13] Wapner RJ, Martin CL, Levy B, et al. Chromosomal microarray versus karyotyping for prenatal diagnosis. N Engl J Med. 2012;367(23):2175-2184. [DOI 10.1056/NEJMoa1203382]

※本記事は一般の方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。つらい気持ちが続くときは、産婦人科・精神科・心療内科や、お住まいの自治体の相談窓口にご相談ください。

プロフィール
仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続け、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、検査結果の数値そのものだけでなく、「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、日本人として異文化の中で生活した経験があります。価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。この経験は現在の診療においても、「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、36週6日で一人を死産した経験があります。その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、家族の未来に関わる重要な意思決定です。年齢や統計だけで判断するのではなく、医学的根拠と心理的支援の両面から、ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

関連記事