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「出生前診断は命の選別ではないのか」「検査を受けて、もし陽性だったら中絶を選ぶのは悪いことなのか」。NIPT(新型出生前診断)が広く知られるようになり、こうした問いに向き合う方が増えています。出生前診断の倫理的問題には、誰にとっても当てはまる一つの正解がありません。だからこそ、どんな立場からどんな意見が出ているのか、日本の法律や制度がどうなっているのかを知ったうえで、ご自身の答えを考えることが大切です。この記事では、レポートや課題で論点を整理したい方にも役立つよう、賛成意見・反対意見、データ、法律、これからの課題を、臨床遺伝専門医の立場から解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧭 Q. 出生前診断の倫理的問題とは?
女性(カップル)の自己決定権、胎児の生命、障害のある人の人権という、どれも大切にされるべきものがぶつかり合う問題です。検査の結果が「産む・産まない」の判断に直結し、多くの染色体の病気には生まれる前に治す方法がないため、単純な正解がありません。
⚖️ Q. 出生前診断は「命の選別」なの?
「障害のある人の存在を否定することにつながる」と批判する意見と、「産むかどうかを決めるのは女性の権利(リプロダクティブ・ライツ)」とする意見があります。日本の母体保護法には、胎児の病気を理由にした中絶を認める規定(胎児条項)がありません。法律と実際の運用のずれも、議論が続く理由の一つです。
🌸 Q. 検査を受けるか迷ったら?
受けるかどうか、結果をどう受け止めるかを、検査の前に臨床遺伝専門医と話しておくことが大切です。ミネルバクリニックでは陽性なら確定検査まで院内で受けられ、陽性後の遺伝カウンセリングは何度でも無料です。
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まだ決めていない方はNIPTを受けるべきか迷う方への3つの判断基準へ
1. 出生前診断における倫理的問題の構造
【結論】出生前診断の倫理的問題は、単に「検査をするかしないか」という選択の問題ではありません。「胎児の生命」「女性の自己決定権」「障害のある人の人権」という、互いに尊重されるべきものが複雑にぶつかり合う構造をもっています。
出生前に赤ちゃんの染色体などを調べる検査(出生前遺伝学的検査)を受ける人は増えています。国立成育医療研究センターなどの研究グループは、全妊婦のうちこうした検査を受けた人の割合が、2011年ごろの約3%から2023年には約11.5%に増えたと報告しました[1]。日本医学会の認証を受けた施設だけでも、2024年度にNIPTを受けた妊婦さんは63,408人でした[2](認証を受けていない施設での件数は、国の報告書でも「正確な把握は困難」とされています[3])。
技術の進歩は私たちに「知る権利」をもたらしましたが、同時に「知ってしまった後の重い決断」も突きつけています。「出生前診断を受けるべきか悩んでいる」「結果が出たあと、どう考えればよいかわからない」という方は、まず問題がどのような形をしているのかを知るところから始めてください。
⚖️ 医療倫理の4原則から見たジレンマ
医療倫理の基本とされる4つの原則[4]に当てはめると、出生前診断では次のような対立が生じます。
① 自律尊重原則:妊婦さんが「知る権利」「産むかどうかを決める権利」を行使することを尊重する
② 無危害原則:胎児(将来の子ども)に害を与えない
③ 善行原則:母子や家族にとっての最善の利益を追求する
④ 正義原則:経済力や住んでいる地域によって、検査や支援を受けられるかどうかに差が出ないようにする
なぜ出生前診断は倫理的に議論されるのか
出生前診断が倫理的に問題視される最大の理由は、検査結果が「産む・産まない」という選択に直結するからです。通常の医療の検査は「病気を見つけて治療する」ことを目的としますが、出生前診断で見つかる染色体の病気の多くには、生まれる前に治す方法がありません。
さらに、日本の法律では、胎児は生まれるまでは独立した人格とは扱われません。日本医師会の『医の倫理の基礎知識』は、法律上は娩出した時点で別個の人格をもち、「胎内に居る限り母体の附属物と扱われる」と説明したうえで、医療の現場で「胎児を患者として扱う」考え方との関係を論点に挙げています[5]。法律上の扱いと、医療者や家族が胎児に向ける思いとのあいだにずれがあることも、議論を難しくしています。
| 検査を受ける側の思い | 懸念される問題点 |
|---|---|
| 赤ちゃんの状態を知る権利を行使したい | 「命の選別」につながる可能性 |
| 出産に向けた心の準備や、生まれた後の医療・療育の準備をしたい | 障害のある人への差別を助長するおそれ |
| 家族の将来について計画を立てたい | 周囲や社会の圧力で、本人の意思と違う決断になるおそれ |
2. 論点整理|賛成意見・反対意見(メリット・デメリット)
【結論】出生前診断の倫理的な妥当性については、肯定的な立場と否定的な立場の両方に説得力のある主張があります。どちらかが「正解」というわけではなく、個人の価値観や状況によって判断が分かれる問題です。レポートや課題で論点を整理するときにも使えるよう、よく挙げられる意見を並べます。
📋 出生前診断への賛成意見・反対意見
| 肯定的な意見(擁護論) | 否定的な意見(懸念論) |
|---|---|
| 自己決定権の尊重:女性(カップル)には、自分の身体と家族計画について決める権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)がある | 命の選別への懸念:特定の病気や障害を理由に胎児の生存を否定することは、優生思想につながりかねない |
| 事前の準備ができる:病気が分かれば、出産する施設や生まれた直後の医療、療育の情報、心の準備を整えられる | 障害のある人への差別の助長:「障害のある子は生まれないほうがよい」という無言の圧力を社会につくり、いま生きている障害のある人の尊厳を傷つけるおそれがある |
| 母子の負担の軽減:命にかかわる重い病気の場合など、早く分かることで母体の負担を減らせることがある | 十分な説明のない決断:情報提供や遺伝カウンセリングが不十分なまま、検査結果だけで決断してしまう危険がある |
| 不安の軽減:結果が陰性であれば、不安を抱えたまま妊娠期間を過ごさずにすむ | 検査の限界と不確実性:NIPTはスクリーニング検査で、偽陽性・偽陰性がある。診断の確定には羊水検査などの確定検査が必要 |
プロ・ライフ(生命の尊重)とプロ・チョイス(選択の権利)
出生前診断と中絶をめぐっては、世界中で大きく2つの考え方が対立しています。
プロ・ライフ(pro-life)は、胎児の生命を尊重する立場です。生命の始まりを受精の時点と考え、人工妊娠中絶に強く反対します。宗教的な信念と結びついていることも多い考え方です。プロ・チョイス(pro-choice)は、女性の身体のことは女性自身が決めるべきだという立場で、産むかどうかの選択権を重視します。この2つの視点は医学の議論を超えて、宗教や政治の問題にまで広がっており、国によって法律や制度が大きく異なる背景にもなっています。
リプロダクティブ・ライツ(自己決定権)とは
「産むかどうかを決めるのは女性の権利」という考え方の土台にあるのが、リプロダクティブ・ライツです。1994年にカイロで開かれた国連の国際人口開発会議(ICPD)の行動計画は、7.3項で、すべてのカップルと個人が、子どもを何人、どのくらいの間隔で、いつ産むかを自由に、責任をもって決める権利と、そのための情報と手段を得る権利をもつことを確認しました[6]。差別や強制、暴力を受けずに、生殖に関する決定を行う権利も含まれます。
💡 用語解説:リプロダクティブ・ヘルス/ライツ
性と生殖に関する健康と権利のことです。子どもを「産むか産まないか」「いつ産むか」「何人産むか」を本人が決められること、そのための情報や医療を受けられることを指します。身体の問題を本人が主体的に決めることは、基本的人権の一つだと考えられています。
一方で、リプロダクティブ・ライツを尊重することと、障害のある人の人権を守ることは、本来対立するものではありません。英国のナフィールド生命倫理評議会は2017年の報告書で、NIPTは妊婦さんやカップルが自律的に、十分な情報にもとづいて選べる環境のもとでのみ使われるべきだとし、さらに、障害のある子どもが歓迎され、障害のない人と対等に大切にされる社会であってこそ、本当の意味で選ぶことができると述べています[7]。
💡 レポート・論文作成のポイント
出生前診断の倫理的問題をレポートで扱うときは、一方の立場だけを取り上げず、両方の視点を公平に検討することが大切です。「命の選別」という言葉を使う場合は定義を明確にし、感情ではなく論理で検討してください。一次資料としては、日本医師会『医の倫理の基礎知識』の「母体保護法とその問題点」「出生前診断」[5][8]、国の「NIPT等の出生前検査に関する専門委員会報告書」(2021年)[3]、英国ナフィールド生命倫理評議会の報告書[7]が参考になります。
3. 具体的な問題点|中絶をめぐる現実と日本の法律
【結論】出生前診断で病気が確定した場合、中絶を選ぶ人が多いことは日本でも海外でも報告されています。その背景には「命の選別」という倫理観の問題だけでなく、社会的な支援の不足や経済的な不安、法律と運用のずれが影響しています。
中絶を選ぶ人の割合をどう読むか
日本の国の専門委員会の報告書(2021年)は、陽性が確定した場合に「相当の高い割合で妊娠中断の判断がなされている」と記しています[3]。具体的な割合と、その数字の出どころはNIPT陽性後の中絶率は約9割|いつまで可能?で詳しく解説しています。
海外の数字も、調べ方によって大きく変わります。米国の研究をまとめた系統的レビュー(1995〜2011年)では、出生前にダウン症候群と診断されたあとに中絶を選んだ割合は、地域の集団を対象にした研究で平均67%(研究により61〜93%)、病院単位の研究で85%、超音波で異常が見つかった妊娠を対象にした研究で50%でした[9]。この割合は近年下がる傾向にあり、母親の年齢、妊娠週数、人種などによっても差がありました[9]。「◯割が中絶」という数字は、どんな人を対象にした数字なのかを確かめてから読む必要があります。
もう一つ大切なのは、「陽性」と「確定」は違うということです。2024年度の認証施設の集計では、NIPTで陽性となり確定検査で診断が確定した割合(陽性的中率)は、21トリソミー(ダウン症候群)で96.1%、18トリソミー(エドワーズ症候群)で88.4%、13トリソミーで44.6%でした[2]。NIPTの結果だけで決断せず、陽性なら羊水検査などの確定検査で確かめることが、倫理的にも医学的にも欠かせません。精度の考え方はNIPTの精度と的中率で解説しています。
日本の法律から見た問題点:胎児条項がない
日本の刑法には今も堕胎罪の規定があり、人工妊娠中絶は母体保護法の条件を満たす場合に限って認められています。母体保護法は中絶を「胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期」に行うものと定め、中絶できるのは、妊娠の継続や分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがある場合と、暴行や脅迫によって妊娠した場合です[10]。時期は、厚生事務次官通知で「通常妊娠満22週未満」とされています[8]。
ここで問題になるのが、胎児の病気や障害を理由とする中絶を認める規定(胎児条項)が法律にないことです。出生前診断のあとの中絶も、法律上は母体の健康や経済的理由の条項にもとづいて行われており、検査の現実と法律の言葉が一致していません。また、母体保護法は中絶に本人と配偶者の同意を求めています[10]。夫婦の意見が分かれたときに、決定権が実質的に誰にあるのかという問題にもつながります。中絶できる時期の詳細はNIPT陽性時の中絶はいつまで?法律と期間、人工妊娠中絶の基礎知識は人工妊娠中絶とはで解説しています。
優生保護法の歴史と、「命の選別」という言葉の重み
日本では1948年に優生保護法が制定され、経済的理由による中絶が広く認められました。人工妊娠中絶の件数は1955年に1,170,143件と最多になり、2023年には126,734件でした[11]。同じ法律のもとで、障害などを理由にした不妊手術も行われていました。優生保護法は1996年に母体保護法へと改められましたが、2024年7月3日、最高裁判所大法廷は、旧優生保護法の不妊手術に関する規定が憲法13条と14条1項に違反すると判断しています[12]。
出生前診断をめぐって「命の選別」「優生思想」という言葉が強い意味をもつのは、こうした歴史があるからです。一方で、国が個人に手術を強いたことと、十分な情報を得た個人が自分で決めることは、同じではありません。決めるのは国や医療者ではなく本人であること、そしてその決断が周囲の圧力から自由であることが、議論の分かれ目になります。
日本特有の「12週問題」
妊娠12週以降の中絶は、統計上「人工死産」として扱われ、死産の届出の対象になります[13]。また、健康保険の出産育児一時金は、死産・流産・人工妊娠中絶を含めた妊娠4か月以降の分娩を対象にしています[14]。手続きの過程で、誰にも知られたくないつらい経験を、勤務先などに知られてしまうことを心配する方もいます。
悲しみや罪悪感を抱えるなかで、こうした手続きの重さに苦しむ方がいることを、「命を大切に」とだけ説く議論は見落としがちです。検査を受けるかどうかを考える段階で、陽性だった場合に何週までに何を決める必要があるのかを知っておくことも、自分を守ることにつながります。
⚠️ 中絶を選ぶ人が多い背景にある課題
情報提供の不足:検査の限界(偽陽性など)を理解しないまま受け、結果に動揺してしまう。
社会的支援の不足:「どんな子でも育てたい」と思っても、経済的・社会的な壁が厚いと感じる。
医療へのアクセスの差:NIPTは自費の検査で、費用や住んでいる地域によって選択肢が変わる(当院の費用はNIPTの費用・料金のページに掲載しています)。
中絶を選ぶ人が多いという事実は、「障害のある子はいらない」という意思表示だと単純に読むことはできません。「育てていける自信がない」「支援が十分とは思えない」「周囲の理解が得られない」という社会の側の要因が、決断に大きく影響していると考えられます。
🩺 院長コラム【「中絶を選ぶ人が多い」という数字の裏側】
「多くの人が中絶を選ぶ」という数字だけを見ると、出生前診断が「命の選別」を後押ししているように感じるかもしれません。けれども、決断した方の多くは「障害があるから要らない」と考えたのではなく、「この子を幸せにできる自信がない」「社会の支えが足りない」という苦しみの中で答えを出しているのだと、私は考えています。
私が問題だと考えているのは、十分な情報提供と心理的な支えがないまま検査が行われることです。検査を受ける前に「陽性だったら、自分はどうしたいか」を一度考えておくこと。答えがすぐに出なくても構いません。その問いを持たないまま検査を受けることが、結果が出たあとの混乱や後悔につながると考えています。
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4. 実際の事例から見る当事者の課題と葛藤
【結論】倫理的な議論は机の上だけのものではなく、実際の家族の中で起きています。夫婦の価値観の違い、家族からの圧力、経済的な不安、そして医療者の価値観の押しつけ。当事者はこうした葛藤の中で決断を迫られます。
よくある葛藤の形
夫婦の価値観の違い:出生前診断は、「胎児の状態を知る」だけでなく、夫婦の価値観の違いを浮き彫りにします。妻は産みたい、夫は育てる自信がない、あるいはその逆、ということも起こります。母体保護法が中絶に配偶者の同意を求めていることもあり、「産む・産まない」を実質的に誰が決めるのかというジェンダーの問題も含んでいます。
家族や周囲からの圧力:親や義理の親、職場など、夫婦以外の人の意見が決断に影響することがあります。本人たちの意思よりも周囲の目が優先されると、自律的な決定とはいえなくなります。夫婦で意見が分かれたときの考え方は出生前診断を巡る夫婦間の対立を解消するために、夫が検査に反対する場合は夫がNIPTに反対する本当の理由と対処法で解説しています。
医療者の価値観が決断をゆがめた例
ここでは、実際にあった例を、個人が特定されないよう細部を変えてご紹介します。
赤ちゃんの発育に心配があり、大きな病院を紹介された方がいました。小児医療を専門とする病院では、「検査はするが、異常があっても中絶はしない。産むと決めたら診療するが、中絶するなら他の医療機関へ行くように」と告げられることがあります。この方は混乱したまま判断ができず、「そこまで言われるなら」と出産に至りました。生まれたお子さんには重い合併症があり、生後まもなく亡くなりました。深く傷ついたのは、ご家族でした。
別の方は、NIPTで陽性となり、羊水検査で診断が確定したあと、担当の医師から中絶を強く非難されました。この方は医師から逃れるように、遠く離れた別の地域の病院を探して手術を受けることになりました。日本医学会の認証を受けた施設であっても、こうしたことは起こりえます。
出生前診断という選択肢を提供しながら、病気が分かった途端に中絶を「悪」と決めつけ、患者さんを追い詰めることは、あってはならないことです。施設を選ぶときに大切なのは、認証の有無だけでなく、目の前の医師が、ご夫婦の決断を尊重してくれるかどうかです。認証施設と認証外施設で何が違うのかはNIPTどこまでわかる?認証・非認証の違い、陽性のときに丸投げされない施設の選び方はNIPT陽性で後悔しない施設選びで解説しています。
🩺 院長コラム【不安に押しつぶされそうな人の味方でありたい】
医師が自分の考える「正しさ」を患者さんに押しつける態度を、パターナリズム(父権主義)と呼びます。中絶を悪だと非難しても、実際にお子さんを育てるのはご家族であり、医師が代わりに育てるわけではありません。
私自身、初めての妊娠で一卵性双生児の一人を子宮内胎児死亡で失った経験があります。あの日、私に寄り添ってくれた医師はいませんでした。子を失う苦しみを抱えた母親を責めることは、医療とは呼べないと考えています。不安に押しつぶされそうな女性の権利を、最後まで支える存在でありたいと願っています。
5. これからの課題:より良い未来のために
【結論】倫理的問題を解決する特効薬はありませんが、「産む・産まない」のどちらを選んでも支えられる社会と医療が必要です。そのために、質の高い遺伝カウンセリングが重要な役割を果たします。
日本医師会の『医の倫理の基礎知識』は、正常な変異と判断される所見でも、情報の伝え方によっては異常と受け取られ、妊娠を続ける意思が揺らぐことがしばしば起こっていると指摘しています[5]。検査の結果を正しく伝えることは、それ自体が倫理の問題です。
| 分野 | 求められること |
|---|---|
| 🏛️ 社会制度 | 障害のある子どもを育てる家庭への経済的支援、療育・特別支援教育の充実、障害のある人が暮らしやすい社会(インクルーシブな社会)の実現 |
| 🩺 医療体制 | 遺伝カウンセリングの普及と質の向上、検査の前後の心理的な支え、価値観を押しつけない(非指示的な)遺伝カウンセリング |
| 📚 情報提供 | 障害のある人やその家族の暮らしを知る機会、福祉制度・支援の情報を、検査の前から届けること |
障害のある人自身の声を知ることも大切です。米国で12歳以上のダウン症候群のある284人に尋ねた調査では、ほぼ全員が自分の人生に満足し、自分のことが好きだと答えていました[15]。検査を受けるかどうかを考えるとき、病気の医学的な情報だけでなく、その病気とともに生きる人の姿も判断材料になります。
🎯 遺伝カウンセリングの役割
✓ 価値観を押しつけずに話を聴き、意思決定を支える
✓ 検査の限界と不確実性を正確に説明する
✓ 「産む」「産まない」どちらの選択肢も公平に示す
✓ 結果が出たあとの心理的な支えと継続的なフォロー
検査の前に「受けるかどうか」から考えられる環境を
倫理的な葛藤を小さくするいちばんの方法は、検査を受ける前に、何が分かり、何が分からないのか、陽性だったら何が起こるのかを知っておくことです。ミネルバクリニックのNIPTでは、臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングが検査の料金に含まれており、90分の受診枠の中で行います。陽性だった場合は、2025年6月から併設した産婦人科で羊水検査・絨毛検査を院内で受けられ、結果は主要な項目が3日以内、マイクロアレイ検査は2週間ほどで出ます。陽性後の遺伝カウンセリングは何度でも無料で、NIPTを受ける方が全員加入する羊水検査互助会(カトレア会、1回のNIPTにつき8,000円)が確定検査の費用を上限なく補助します。費用の内訳はNIPTの検査費用以外にかかる費用と保証制度で確認できます。
調べる範囲もプランによって異なります。13・18・21トリソミーと性染色体、微小欠失6種類7疾患を調べるスタンダードプランから、15・16・22トリソミーと微小欠失12種類13疾患を加えたプレミアムプラン、さらに新しく起こる単一遺伝子の変化(56遺伝子)まで調べるダイヤモンドプラン、全常染色体の数の異常と92種類の微小欠失・重複を調べる双子マックスプラン・インペリアルプランまであります。「どこまで知りたいか」も、検査の前に考えておきたい大切な問いです。
6. 専門医の視点とミネルバクリニックの姿勢
出生前診断の倫理的問題に、「これが正解」というものはありません。しかし、「知らなかった」「流されて決めてしまった」と後悔することは、できるだけ避けたいと考えています。
ミネルバクリニックには臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前の遺伝カウンセリングから、結果の説明、陽性時の確定検査まで院内で対応します。「産む」「産まない」のどちらの決断も尊重し、医療者の価値観を押しつけることはしません。遠方の方は、Zoomでのカウンセリングと全国110か所の提携施設での採血によるオンラインNIPTも利用できます。臨床遺伝専門医のいる施設で受ける意味はNIPTを受けるなら臨床遺伝専門医のいる施設がいい理由で解説しています。
院長が出生前診断に携わると決めた原点は、がん専門医のわたしが臨床遺伝専門医として出生前検査をする原点症例に、遺伝性の病気の当事者として感じてきたことは遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
🩺 院長コラム【「正解のない問い」に向き合うために】
出生前診断の倫理的問題について、私は「賛成」「反対」という単純な立場をとりません。一人ひとりの状況、価値観、家族の形は異なるからです。私自身も遺伝性の病気の当事者であり、「障害のある人の存在を否定しない」ことと「産むかどうかを本人が決める」ことは、両立させなければならないと考えています。
大切にしたいのは、その方が「自分で考え、自分で決めた」と思える意思決定です。検査を受けるかどうか、結果をどう受け止めるか、その後どうするか。どの段階でも、医療者の価値観を押しつけずに、ご本人の答えにたどり着くための情報を届けたいと考えています。そして、障害があっても安心して暮らせる社会でなければ、本当の意味での「産む自由」は保障されません。一人の医療者として、社会の課題にも声を上げ続けていきます。
🏥 検査を受けるかどうかから、臨床遺伝専門医と考える
ミネルバクリニックは臨床遺伝専門医が常駐し、陽性なら羊水検査・絨毛検査まで院内で受けられます。陽性後の遺伝カウンセリングは何度でも無料です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 出生前診断は「命の選別」なのですか?
この問いに絶対的な正解はありません。病気が確定した場合に中絶を選ぶ人が多いことは事実ですが、大切なのは「誰が、どのような情報にもとづいて、どのような状況で決めたか」です。十分な情報と支えのもとで本人が決めることは、国が個人に強いた過去の優生政策とは異なる側面があります。一方で、社会の圧力が決断を左右していないかを問い続けることも必要です。
Q2. 検査を受けると中絶を迫られますか?
いいえ。出生前診断は赤ちゃんの状態を知るための検査で、中絶を強制するものではありません。結果をどう受け止め、どうするかを決めるのはご本人とご家族です。検査を受ける前の遺伝カウンセリングで、陽性だった場合に何が起こり、何を決める必要があるのかを知っておくことが大切です。
Q3. 夫婦で意見が分かれた場合はどうすればよいですか?
時間をかけて、それぞれの価値観や不安を率直に話し合うことがいちばん大切です。母体保護法は中絶に本人と配偶者の同意を求めているため、どちらか一人だけで決められる問題ではありません。臨床遺伝専門医などの第三者が入ることで、感情的にならずに整理できることもあります。
Q4. 中絶は法律違反(犯罪)なのですか?
日本の刑法には堕胎罪の規定がありますが、母体保護法の条件を満たす場合には人工妊娠中絶が認められています。条件は、妊娠の継続や分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがある場合などで、時期は通常妊娠満22週未満とされています。胎児の病気を理由とする中絶を認める規定(胎児条項)はありません。
Q5. 妊娠12週を過ぎてからの中絶は何が違うのですか?
妊娠12週以降の中絶は統計上「人工死産」として扱われ、死産の届出の対象になります。健康保険の出産育児一時金も、人工妊娠中絶を含めた妊娠4か月以降の分娩が対象です。手続きを通じて職場などに知られることを心配する方もいるため、検査を受ける前に、陽性だった場合のスケジュールを知っておくことをお勧めします。
Q6. リプロダクティブ・ライツとは何ですか?
性と生殖に関する健康と権利のことです。1994年の国際人口開発会議(カイロ)の行動計画は、すべてのカップルと個人が、子どもを何人、どのくらいの間隔で、いつ産むかを自由に、責任をもって決める権利と、そのための情報と手段を得る権利をもつことを確認しました。差別や強制、暴力を受けずに生殖に関する決定を行う権利も含まれます。
Q7. NIPTで陽性だった場合、必ず病気があるのですか?
いいえ。NIPTはスクリーニング検査で、確定診断ではありません。2024年度の認証施設の集計では、陽性から診断が確定した割合は21トリソミーで96.1%、18トリソミーで88.4%、13トリソミーで44.6%でした。陽性の場合は、羊水検査や絨毛検査などの確定検査で確かめてから、その先を考えてください。
Q8. 障害のある子を育てるのは大変ですか?
病気の種類や重さ、家庭の状況によって大きく異なり、ひとくくりにはできません。通常の子育てとは異なる負担があることは事実で、療育や福祉制度などの支援を知っておくことが大切です。米国で12歳以上のダウン症候群のある284人に尋ねた調査では、ほぼ全員が自分の人生に満足していると答えていました。
Q9. 遠方ですが相談できますか?
はい。ミネルバクリニックのオンラインNIPTでは、Zoomで臨床遺伝専門医のカウンセリングを受け、全国110か所の提携施設で採血できます。陽性だった場合の確定検査は、東京・北青山の院内で受けられます。
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参考文献
- [1] 国立成育医療研究センター. プレスリリース:日本の出生前遺伝学的検査の実施状況(2003〜2023年)の全国規模の解析(掲載誌 J Hum Genet. 2026年3月2日). 2026年4月9日. [国立成育医療研究センター]
- [2] 出生前検査認証制度等運営委員会. 令和6年度(2024年度)実施状況報告. [出生前検査認証制度等運営委員会]
- [3] 厚生科学審議会科学技術部会 NIPT等の出生前検査に関する専門委員会. NIPT等の出生前検査に関する専門委員会報告書. 2021年5月. [こども家庭庁 掲載資料]
- [4] Beauchamp TL, Childress JF. Principles of Biomedical Ethics. 8th ed. Oxford University Press; 2019. [Oxford University Press]
- [5] 日本医師会. 医の倫理の基礎知識 2018年版【生殖医療】D-6. 出生前診断. [日本医師会]
- [6] United Nations. Programme of Action of the International Conference on Population and Development (Cairo, 5-13 September 1994), para. 7.3. [UNFPA]
- [7] Nuffield Council on Bioethics. Non-invasive prenatal testing: ethical issues (short guide). 2017. [Nuffield Council on Bioethics]
- [8] 日本医師会. 医の倫理の基礎知識 2018年版【生殖医療】D-5. 母体保護法とその問題点. [日本医師会]
- [9] Natoli JL, Ackerman DL, McDermott S, Edwards JG. Prenatal diagnosis of Down syndrome: a systematic review of termination rates (1995-2011). Prenat Diagn. 2012;32(2):142-153. [DOI 10.1002/pd.2910]
- [10] 母体保護法(昭和23年法律第156号)第2条第2項・第14条第1項. [e-Gov法令検索]
- [11] 国立社会保障・人口問題研究所. 人口統計資料集2025 表4-20 人工妊娠中絶数および不妊手術数:1949〜2023年(出典:厚生労働省「衛生行政報告例」). [国立社会保障・人口問題研究所]
- [12] 最高裁判所大法廷 令和6年7月3日判決(令和5年(受)第1319号 国家賠償請求事件). [裁判所]
- [13] 島根県. 保健統計書 用語の解説(死産・人工死産の定義:人口動態統計). [島根県]
- [14] 厚生労働省保険局保険課. 事務連絡「出産育児一時金等の支給申請における留意点について」. 2022年6月14日. [厚生労働省]
- [15] Skotko BG, Levine SP, Goldstein R. Self-perceptions from people with Down syndrome. Am J Med Genet A. 2011;155A(10):2360-2369. [DOI 10.1002/ajmg.a.34235]
※本記事は一般の方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。なお、ミネルバクリニックでは人工妊娠中絶の手術は行っていません。






