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妊娠中に行われる出生前検査の一つ「NIPT(非侵襲的出生前検査)」で陽性反応が出ると、大きな不安を抱えることになります。しかし、NIPTはあくまでスクリーニング検査であり、確定診断ではありません。今回は、NIPTでトリソミー22の陽性反応が出たものの、羊水検査では陰性だった実際の体験談をご紹介します。胎児発育不全から疑われた限局性胎盤モザイクという状態について知ることで、同じような状況に直面している方々の参考になれば幸いです。
エビデンスに基づく情報
研究によると、限局性胎盤モザイク(CPM)は全妊娠の約0.2-2%で発生し、絨毛採取(CVS)後に検出される染色体異常の72-87%がCPMに該当するとされています。また、CPMを伴う妊娠では在胎週数比低体重児(SGA)のリスクが3-11倍増加することが示されています。NIPTの偽陽性率は全体で約2.7%とされ、その一部はCPMに起因すると考えられています。
このような方におすすめの記事です
- NIPTで陽性結果を受け取った方
- トリソミー22について詳しく知りたい方
- 限局性胎盤モザイクについて知りたい方
- 出生前検査の精度について疑問をお持ちの方
NIPTとは – 非侵襲的出生前検査の基本
NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing:非侵襲的出生前検査)は、母体の血液から胎児のDNA断片を分析し、主にダウン症(トリソミー21)、エドワーズ症候群(トリソミー18)、パトー症候群(トリソミー13)などの染色体異常の可能性を調べる検査です。
この検査の特徴として、母体から採血するだけで行えるため、流産のリスクがない「非侵襲的」な方法であることが挙げられます。しかし、重要なのは、NIPTはあくまでスクリーニング検査であり、確定診断ではないという点です。
陽性結果が出た場合は、羊水検査や絨毛検査などの確定検査を受けることが推奨されています。当院ではNIPT検査に関する詳しい説明と丁寧なカウンセリングを行っていますので、ご不安な点がございましたらご相談ください。
NIPTでトリソミー22陽性と診断された事例
ある妊婦さんは、NIPTを受検したところ、トリソミー22の陽性結果を受け取りました。トリソミー22とは、22番染色体が3本存在する状態で、胎児の場合、多くは自然流産となるケースが多い染色体異常です。
陽性結果を受けて大きな不安を感じた妊婦さんは、より確定的な診断を得るために羊水検査を受けることを選択しました。
重要ポイント
NIPTは確定検査ではなく、偽陽性の可能性もあります。陽性結果が出た場合は、必ず確定検査を検討しましょう。特に稀な染色体異常の場合、限局性胎盤モザイクの可能性も考慮する必要があります。
羊水検査で陰性結果 – なぜ違いが生じるのか
この妊婦さんの場合、羊水検査の結果は「染色体異常なし」という陰性結果でした。なぜNIPTと羊水検査でこのような違いが生じたのでしょうか。
原因として最も考えられるのは「限局性胎盤モザイク(Confined Placental Mosaicism: CPM)」という現象です。これは、胎児自体には染色体異常がないものの、胎盤の一部の細胞に染色体異常がある状態を指します。
NIPTでは母体の血液中に浮遊している胎児由来のDNA(実際には主に胎盤由来)を調べるため、胎盤にモザイク状態の染色体異常があると陽性結果が出ることがあります。一方、羊水検査では胎児由来の細胞を直接調べるため、胎児自体に染色体異常がなければ陰性結果となります。
医学的知識
限局性胎盤モザイクは、NIPTの偽陽性の主要な原因の一つです。胎盤の発生初期に起こる染色体異常が胎盤の一部に限局して存在する現象で、胎児自体は正常な染色体を持っていることが多いです。特にトリソミー21の症例では、胎盤細胞の50-60%がモザイクを示す例が報告されています。
妊娠経過の合併症 – 発育不全と先天性心疾患
この妊婦さんの場合、28週頃から胎児の発育が鈍化し始め、胎児発育不全(FGR: Fetal Growth Restriction)の状態となりました。最終的に33週で早産となりました。
また、妊娠中のエコー検査で胎児に先天性の重度な心臓奇形があることが判明していました。複数の心臓構造に影響する複合的な心臓の異常が確認され、出生後の治療が必要な状態でした。
- 心臓の隔壁の形成異常
- 血管の狭窄
- 血流の異常
- 心筋の状態変化
限局性胎盤モザイクは胎盤機能不全を引き起こすことがあり、これが胎児発育不全の原因となった可能性があります。メタ分析によれば、CPMを伴う妊娠では在胎週数比低体重児(SGA)のリスクが3〜11倍増加することが示されています。特にトリソミー16を伴うCPMではSGAリスクが11倍に上昇します。
心臓の奇形とCPMの直接的な関連性は明確には報告されていませんが、胎盤機能不全が先天性異常の発生に間接的に影響する可能性は指摘されています。この事例では心臓の奇形は染色体異常とは無関係に発生したものと考えられました。
限局性胎盤モザイク(CPM)について詳しく
限局性胎盤モザイク(CPM)は、胎盤の細胞の一部にのみ染色体異常があり、胎児自体には染色体異常がない状態です。CPMは胎盤形成の初期段階で発生すると考えられています。
CPMは大きく3つのタイプに分類されます:
- タイプI:絨毛膜外層(細胞栄養膜)にのみ染色体異常がある
- タイプII:絨毛膜間質(中胚葉)にのみ染色体異常がある
- タイプIII:両方に染色体異常がある
研究によると、CPMは全妊娠の約0.2-2%で発生すると推定されています。特に絨毛採取(CVS)後に検出される染色体異常の約72-87%がCPMに該当し、胎児自体は正常核型を示すことが報告されています。
CPMが妊娠に与える影響は、染色体異常の種類、モザイクの程度、発生部位によって大きく異なります。最も頻繁に報告されているのはトリソミー16のCPMですが、トリソミー22を含む他の染色体のCPMも存在します。
注意点
CPMが疑われる場合は、定期的な超音波検査で胎児の発育や胎盤の状態を慎重にモニタリングすることが重要です。特に、胎児発育不全の兆候がないか注意深く観察する必要があります。
判断の難しさと選択 – 染色体異常がなくても先天異常はあり得る
この事例のように、NIPTで陽性が出ても羊水検査で染色体異常がないことが判明した場合でも、別の先天異常(この場合は重度の心臓奇形)が存在する可能性があります。
妊婦さんとそのパートナーは「染色体異常がないなら産む」という方向で妊娠を継続することを選択しました。これは非常に個人的な決断であり、それぞれの価値観や家族の状況、医療的サポートの有無などによって異なります。
このような複雑な状況に直面したとき、十分な情報と専門家のサポートを得て、自分たちにとって最適な選択をすることが重要です。当院では、出生前診断の結果についての詳しい説明と、その後の選択肢についての丁寧なカウンセリングを提供しています。
NIPTの精度と限界 – 理解しておくべきこと
NIPTは高い精度を持つスクリーニング検査ですが、完璧ではありません。特に以下のような限界があります:
- 限局性胎盤モザイクによる偽陽性(全体の偽陽性率は約2.7%とされています)
- 母体の染色体異常や健康状態による影響
- 双子妊娠の場合の解釈の複雑さ
- 低モザイク率の染色体異常の検出限界
- 稀な染色体異常の検出率の違い
トリソミー21(ダウン症)に対するNIPTの感度は99%以上と非常に高いですが、トリソミー22のような稀な染色体異常については、検出率や偽陽性率が異なる可能性があります。
特にNIPT陽性・羊水検査陰性の不一致は、主に限局性胎盤モザイクに起因します。例えば、トリソミー21の症例では、胎盤細胞の50-60%がモザイクを示し、胎児自体は正常核型であったとの報告もあります。トリソミー22のCPM症例の具体的な頻度は明確ではありませんが、CPM全体の発生率や他染色体の事例から、極めて稀ではあるものの可能性は否定できません。
そのため、NIPTの結果を正しく解釈するためには、専門的な遺伝カウンセリングを受けることが重要です。当院では、NIPT検査前後の遺伝カウンセリングを重視し、結果に関わらず妊婦さんとそのご家族をサポートしています。
同じ経験をした方々へのサポート情報
NIPTで陽性結果を受け取った方、限局性胎盤モザイクと診断された方、先天性心疾患を持つお子さんを出産された方など、同じような経験をした方々のためのサポートリソースをご紹介します。
- 遺伝カウンセリング専門機関
- 先天性心疾患の患者会や家族会
- 高リスク妊娠のサポートグループ
- 心理的サポートを提供する専門家
ミネルバクリニックでは、妊娠中から出産後まで継続的にサポートを提供しています。どのような状況であっても、一人で悩まず専門家に相談することをお勧めします。
まとめ – NIPTは確定診断ではない
この体験談から学べることは、NIPTはあくまでスクリーニング検査であり、陽性結果が出ても必ず確定検査を受けることの重要性です。限局性胎盤モザイクのような現象により、胎児自体には染色体異常がなくてもNIPTで陽性結果が出ることがあります。
また、染色体異常がなくても先天異常が存在する可能性や、胎児発育不全などの合併症が生じる可能性もあることを理解しておくことが大切です。
出生前検査の結果に関わらず、十分な情報と専門家のサポートを得て、自分たちにとって最良の決断をすることが重要です。
よくある質問
Q: NIPTの偽陽性率はどのくらいですか?
A: NIPTの偽陽性率は検査する染色体異常の種類によって異なります。一般的なトリソミー21(ダウン症)では0.1%未満と非常に低いですが、トリソミー22のような稀な染色体異常では高くなる可能性があります。
Q: 限局性胎盤モザイクと診断された場合、特別な妊婦健診が必要ですか?
A: はい、限局性胎盤モザイクが疑われる場合は、胎児発育不全や胎盤機能不全のリスクがあるため、より頻繁な超音波検査や胎児モニタリングが推奨されることがあります。
Q: 先天性心疾患の赤ちゃんはどのような治療が必要ですか?
A: 複合的な先天性心疾患は通常、生後数か月以内に外科的手術が必要です。症状の重症度や赤ちゃんの全体的な健康状態によって治療計画は異なります。専門的な小児循環器科医のチームによる継続的なケアが重要です。
Q: NIPTで検査できる染色体異常はどのようなものがありますか?
A: 基本的にはトリソミー21(ダウン症)、トリソミー18(エドワーズ症候群)、トリソミー13(パトー症候群)の3種類が主な対象ですが、検査会社によってはその他の染色体異常(性染色体異常や微小欠失症候群など)も検査可能な場合があります。詳しくは当院のNIPT検査ページをご覧ください。