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NIPTの生物学的限界

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

NIPTの生物学的限界とは、解析の精度とは別に、妊娠そのものの条件によって検査結果と赤ちゃんの実際の状態がずれることを指します。NIPT(非侵襲的出生前検査)が調べているのは、お母さんの血液に流れているセルフリーDNA(cfDNA)で、その一部が胎盤に由来します。赤ちゃんの細胞を直接見ているわけではありません。胎盤と赤ちゃんの染色体が食い違う場合や、お母さん自身のDNAに変化がある場合、双子や卵子提供の妊娠では、どれほど解析が正確でも結果がずれることがあります。このページでは、ずれが起こる仕組みを、検査方式ごとの違いとあわせて説明します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約13分
🧬 モザイク・双胎・卵子提供・三倍体
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. NIPTの生物学的限界とは何ですか?

A. 検査の技術ではなく、妊娠の生物学的な条件が原因で、結果と赤ちゃんの状態が一致しないことがあるという限界です。NIPTは胎盤由来のDNAを、お母さんのDNAと混ざった状態で測ります。そのため、胎盤と赤ちゃんの染色体が違う場合、お母さんのDNAに変化がある場合、胎盤由来のDNAの取り分が小さい場合に、ずれが生じます。陽性でも陰性でも、結果は確定診断ではありません。

  • ➤モザイク → 異常の信号が胎児分画より弱くなり、偽陽性や偽陰性の背景になる
  • ➤双子の妊娠 → 二卵性では赤ちゃんごとの取り分が小さくなる
  • ➤卵子提供・三倍体 → 検査方式によって扱いと見え方が変わる
  • ➤方式の違い → 全ゲノム型と標的型で、拾えるものと拾えないものが異なる

妊婦と女性医師、DNAと染色体のアイコンを配置し、NIPTの仕組み・検査の種類・結果の読み方を紹介するNIPTの教科書の案内画像

1. NIPTの生物学的限界とは

NIPTの生物学的限界とは、検査の技術的な精度とは関係なく、妊娠そのものの生物学的な条件によって、結果が赤ちゃんの実際の染色体の状態と一致しなくなることです。NIPTで読み取っているDNAのうち、胎児由来と呼ばれる成分は主に胎盤の栄養膜細胞(えいようまくさいぼう)から出たもので、偽陽性や偽陰性が一定数生じる背景には、この由来があると指摘されています[1]。

結果が当てにならなくなる主な要因として、胎盤限局性モザイク、お母さんのコピー数の違い、バニシングツイン、お母さんのがんが挙げられています[1]。どれも解析装置の性能を上げるだけでは取り除けません。

お母さんの血液を採る
▶
血漿中のcfDNAを取り出す大半は母体由来、一部が胎盤由来
▶
配列を読み、量や型を数える母体と胎盤の区別は直接つかない
▶
統計的に判定する赤ちゃんの細胞は見ていない

技術の限界と生物学的限界の違い

技術の限界は検査の側にある弱点で、生物学的限界は調べる対象の側にある条件です。技術の限界には、読み取るDNA断片の数が足りない、採血から検査までの保管で質が落ちる、測定のばらつきが大きい、といったものがあります。

一方の生物学的限界は、検査がどれほど正確でも残ります。理由は三つあります。一つ目は、胎盤と赤ちゃんの染色体が同じとは限らないことです。二つ目は、読み取るDNAにお母さん自身のDNAが大量に混ざっていることです。三つ目は、胎盤由来のDNAの割合が小さく、妊娠の形によってはさらに分け合うことです。

この二つを分けて考えると、検査会社の説明も読みやすくなります。「精度が高い」という説明が、分析性能なのか臨床での感度・特異度なのかを確認することが必要です。臨床の精度には生物学的限界の影響も含まれ、判定保留例やモザイク例を集計に含めるかによって数字が変わります。

🧬 ずれが生じる4つの出どころ

出どころ 具体例 起こりうること
胎盤と赤ちゃんの違い 胎盤限局性モザイク、真性胎児モザイク 偽陽性、偽陰性
お母さんのDNA コピー数の違い、腫瘍由来のDNA 赤ちゃんと無関係な異常の信号
妊娠の形 二卵性の双子、バニシングツイン、卵子提供 取り分の不足、別の赤ちゃんの信号の混入
ゲノム全体の変化 三倍体 方式によっては見えない

※主な要因の整理は文献[1][2]をもとに作成。

この章で扱う範囲

このページは「NIPTの教科書」第3章の締めくくりで、解析の仕組みが、典型的でない妊娠でどう振る舞うかを扱います。第3章ではこれまで、全ゲノム型(WGS)、SNP型、マイクロアレイ型という三つの方式と、胎児ゲノム率(胎児分画)の考え方を説明してきました。ここでは、それらが前提としている条件が崩れたときに何が起こるかを見ていきます。

偽陽性や偽陰性が実際にどのくらい起こるか、陽性のあとに何をするかといった臨床の話は、第5章で扱っています。双子の妊娠は第6章、全ゲノム型で見つかるまれなトリソミーは第7章で詳しく取り上げます。このページでは仕組みに絞り、詳細は各章へつなぎます。先にここで全体の見取り図をつかんでおくと、各章の話がどの限界に当たるのかを整理しながら読み進められます。

2. モザイクがあると信号が弱くなる

モザイクとは、染色体の構成が異なる細胞が一つの個体や胎盤の中に混ざっている状態で、NIPTの信号を弱めたり、赤ちゃんの状態と食い違わせたりします。絨毛(じゅうもう)検査では、モザイクは約1〜2%に見つかるとされています[2]。14年間に60,347件の絨毛検体を調べた報告では、1,317件(2.18%)がモザイクで、そのうち1,001件が羊水検査で追跡されました[3]。

一方、羊水検査でモザイクが見つかる頻度は0.1〜0.3%とされています[2]。絨毛と羊水でこれだけ差があるのは、絨毛で見つかるモザイクの多くが胎盤にとどまり、赤ちゃんには及んでいないためです。NIPTが読んでいるのは胎盤側のDNAですから、この差がそのまま検査の限界につながります。なお、これらの頻度はそれぞれ絨毛検査・羊水検査を受けた方の集団での値で、妊娠全体での頻度ではありません。

💡 用語解説:胎盤限局性モザイク(たいばんげんきょくせいモザイク、CPM)

胎盤にだけ染色体の異常な細胞があり、赤ちゃん自身の染色体は正常な状態です。受精卵が分裂を重ねて胎盤と赤ちゃんに分かれていく途中で、片方にだけ異常が残ることで生じます。逆に、赤ちゃんに異常があるモザイクは真性胎児モザイクと呼ばれます。

異常の取り分は胎児分画より小さくなる

モザイクでは、異常のある細胞から出るDNAの割合が、胎盤由来DNA全体の割合(胎児分画)よりも小さくなります。NIPTは、ある染色体に由来するDNA断片が、想定よりどれだけ多いか少ないかを見て判定します。その差の大きさは、胎児分画に比例します。

たとえば胎児分画が10%で、胎盤由来DNAがすべてトリソミーの細胞から出るなら、異常を持つ由来成分は血漿cfDNA全体の10%です。単純化した染色体カウントモデルでは、対象染色体の相対的な過剰量は約5%になります。ところが胎盤由来DNAの半分だけがトリソミーの細胞から出るなら、異常を持つ由来成分は全体の5%となり、対象染色体の過剰量は約2.5%にとどまります。胎児分画そのものは十分でも、異常の取り分が判定に必要な水準を下回ることがあるわけです。この数字は仕組みを説明するための例で、実際の割合は妊娠ごとに異なります。

さらに、モザイクの細胞は胎盤の中で均一に広がっているとは限りません。場所によって割合が違うと、血液に出てくるDNAの比率も読みにくくなります。このため、モザイクはどの方式にとっても扱いが難しい条件です。胎児分画と異常の信号の大きさが釣り合わないことは、モザイクを疑う手がかりの一つになります。

胎盤だけ・胎児だけに異常がある場合

胎盤にだけ異常があれば偽陽性に、赤ちゃんにだけ異常があって胎盤の栄養膜細胞が正常であれば偽陰性につながります。絨毛でのモザイクは、異常が栄養膜細胞にあるか、その内側の間葉系の組織にあるか、羊水で確認されるかによって分類されています[2]。

胎盤限局性モザイクでは、NIPTが胎盤の異常を拾って陽性になることがありますが、赤ちゃん自身にはその染色体異常が確認されません。これが偽陽性の代表的な仕組みで、詳しくはモザイクと偽陽性・偽陰性で説明しています。胎盤限局性モザイクと羊水検査の関係は限局性胎盤モザイクと羊水検査の役割をご覧ください。

反対に、栄養膜細胞が正常で赤ちゃんに異常がある場合、NIPTが陰性になることがあります。陰性だったのに13トリソミーの赤ちゃんが生まれ、胎盤内のモザイクと胎児との染色体構成の違いが原因と考えられた例が報告されています[4]。偽陰性は偽陽性よりずっと少ないとされますが[4]、影響が大きい偽陰性の主な原因は胎盤のモザイクだと指摘されています[5]。偽陰性の全体像はNIPTの偽陰性にまとめています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【NIPTは胎盤由来のDNAを見る検査です】

NIPTの説明では、まず「これは胎盤由来のDNAを見る検査です」という前提を確認することが重要です。赤ちゃんの検査だと受け取ったまま結果を見ると、陽性のときも陰性のときも、意味を取り違えやすいからです。

胎盤と赤ちゃんは同じ受精卵から生まれますが、途中で道が分かれます。その分かれ道で生じた食い違いを、採血の検査で見分けることはできません。陽性のあとに羊水検査などの確定検査が必要になるのは、スクリーニングには偽陽性があり、さらに見ている場所が赤ちゃん自身とは異なるためです。

3. 双子の妊娠で難しくなる理由

双子の妊娠では、胎盤由来のDNAが二人分混ざるため、一人ひとりの取り分が単胎より小さくなることがあります。とくに問題になるのは、二人の染色体が別々である二卵性の場合です。片方にだけ異常があると、その信号は全体の一部にしかなりません。

推奨は近年変わっています。国際出生前診断学会(ISPD)は2021年に、多胎妊娠でのcfDNAスクリーニングについての見解を公表しました[6]。米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は2023年のガイドラインで、単胎でも双胎でも、21・18・13トリソミーについて従来のスクリーニングよりNIPTを強く推奨しています[7]。双子だから受けられない、という時代ではなくなりましたが、仕組みの上での難しさは残っています。

一卵性は単胎と同じように扱える

一卵性の双子は同じ受精卵から生まれるため、原則として二人の染色体の構成は同じで、解析の上では単胎とほぼ同じように扱えます。二人の胎盤から出るDNAは同じ配列を持っているので、合わせて一つの信号として読み取れます。二人に同じ染色体異常があれば信号が重なり、二卵性双胎のように一人ごとの取り分を分けて評価する必要は通常ありません。ただし、一卵性でも染色体異常が一致しないまれな例や胎盤モザイク、低胎児分画による限界は残ります。

SNP型の検証研究では、一卵性の双子43組の胎児分画の平均は13.0%でした[8]。この研究では、胎児のゲノムが一組分だけ見つかるか二組分見つかるかによって、一卵性か二卵性かも判定しています[8]。

ただし、一卵性かどうかは妊娠初期の超音波だけでは決めきれないことがあります。胎盤が一つ(一絨毛膜)であれば一卵性と考えられますが、胎盤が二つの場合は一卵性と二卵性のどちらもありえます。検査方式によっては卵性を判定できないため、結果を読むときは、超音波での膜性の情報とあわせて考えます。卵性と膜性の関係は第6章で詳しく扱います。

二卵性は胎児分画を分け合う

二卵性の双子では、二人がそれぞれ別の量のDNAを出すため、片方の取り分が判定に必要な水準を下回ることがあります。先ほどの検証研究では、二卵性の双子79組について、取り分が少ない側の平均が6.5%、多い側の平均が8.1%でした[8]。二人の取り分は等しいとは限りません。

全体の胎児分画が十分に見えても、異常のある赤ちゃんの取り分が小さければ、信号は埋もれます。これはモザイクのときと同じ構造です。このため、双子では判定に必要な胎児分画を高めに設定している検査施設があります。ある報告では、双子で8%、三つ子で12%を求めていました[9]。この数字は施設ごとの運用で、共通の基準ではありません。

量を数える方式は、二人分を合わせた全体しか見えません。SNP型は、二人それぞれの取り分を推定できる点が特徴です[8]。また、陽性になっても、どちらの赤ちゃんに異常があるかは採血の検査ではわかりません。双子での技術的な難しさは双子でNIPTが難しくなる理由で詳しく説明しています。

バニシングツインが残す信号

バニシングツインとは、双子のうち一人が妊娠初期に亡くなって吸収される現象で、亡くなった側の胎盤から出たDNAがしばらく血液に残ることがあります。亡くなった赤ちゃんに染色体の異常があった場合、その信号が混ざり、生きている赤ちゃんが正常でも陽性になることがあります。バニシングツインは、結果がずれる生物学的な原因の一つに挙げられています[5]。

信号がいつまで残るかは、はっきり決まっていません。ある検査施設は、バニシングツインの妊娠では胎児分画4%以上を条件とし、亡くなってから8週間あけることを目安にしていました[9]。これは一施設の運用上の目安で、8週間たてば影響が消えるという意味ではありません。

SNP型は、想定より一組多いハプロタイプ(親から受け継いだ配列のまとまり)を見つけることで、バニシングツインや三倍体の可能性を示せます。量を数える方式では、これらは見逃されることがあります[10]。亡くなった赤ちゃんが男の子だった場合は、性別の判定が食い違う原因にもなります。詳しくはバニシングツインと胎児の性別の不一致をご覧ください。

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4. 卵子提供の妊娠と検査方式

卵子提供の妊娠では、赤ちゃんは妊娠している方と遺伝的なつながりがないため、検査方式によっては計算の前提が変わります。通常の妊娠では、赤ちゃんの染色体の半分はお母さんから受け継がれます。卵子提供ではこの関係が成り立ちません。妊娠している方自身の卵子を用いない妊娠代理の場合も同じです。

この点について、査読を経た論文で方式ごとの成績を直接比べたデータは、現時点では限られています。以下は原理からの説明です。実際に検査を受けられるか、結果がどう扱われるかは検査会社と検査の版によって異なりますので、卵子提供の妊娠であることを申込みの時点で伝え、対応を確認してください。卵子提供の基礎知識もあわせてご覧ください。

全ゲノム型・マイクロアレイ型の場合

染色体ごとのDNAの量を数える方式は、赤ちゃんとお母さんの遺伝的な関係を計算に使わないため、原理の上では卵子提供の影響を受けにくいと考えられます。全ゲノム型は、読み取った断片がどの染色体に由来するかを数え、特定の染色体が多いか少ないかを見ます。断片が誰のものか、どちらの親から来たかは区別していません。

マイクロアレイ型も、染色体ごとの量を比べるという点では同じ考え方です。21番染色体由来の断片が想定より多ければ、それがお母さんと似た配列でも似ていない配列でも、同じように「多い」と数えられます。このため、卵子提供だからといって計算の枠組みを変える必要はありません。

ただし、方式の原理と、検査会社が実際に受け付けるかどうかは別の話です。検査会社は自社の検証データに基づいて対象を決めています。卵子提供の妊娠を検証の対象に含めていない場合は、原理の上で問題がなくても受け付けないことがあります。申込みの時点で確認しておくと確実です。

SNP型の場合

SNP型は、お母さんと赤ちゃんの配列の違いを手がかりにするため、卵子提供では計算の前提を置き換える必要があります。SNP(スニップ、一塩基多型)とは、人によって一文字だけ異なるDNAの場所です。SNP型は多数のSNPについて、どの型の断片がどの割合で出てくるかを調べ、赤ちゃんの染色体の数を推定します。

通常の計算は、「赤ちゃんはお母さんの型の半分を受け継いでいる」という関係を前提にしています。卵子提供では、赤ちゃんの型はお母さんと無関係です。同じ前提のまま計算すると、想定と合わない組み合わせが現れ、判定保留や誤った解釈につながる可能性があります。卵子提供に対応するには、この関係を仮定しない別の計算が必要です。

対応しているかどうかは、検査会社と検査の版によって異なります。対応している場合でも、考慮すべき組み合わせが増える分、胎児分画が低いときの判定が難しくなる可能性があります。受ける前に、対応の有無と、判定保留になりやすいかどうかを確認しておくことをおすすめします。

5. 三倍体は方式によって見え方が違う

三倍体(さんばいたい)とは、染色体のセットが三組、合計69本ある状態で、量を数える方式では見つけにくく、SNP型では手がかりが得られることがあります。通常は22種類の常染色体を2本ずつと、性染色体2本(通常はXXまたはXY)を合わせ、合計46本持っています。21トリソミーは21番だけが3本ですが、三倍体は染色体のセットが三組あり、性染色体はXXX、XXY、XYYなどになります。

量を数える方式は、ある染色体の量を他の染色体と比べて判定します。三倍体ではすべての染色体が同じ割合で増えているため、比べても差が出ません。このため、三倍体は量を数える方式では見逃されることがあります[10]。

SNP型は染色体の総量比だけでなく、配列の型の組み合わせと各型の比率を見ます。三倍体では親から受け継いだ配列のまとまりが一組多いため、通常の妊娠では現れない型の比率が全体にわたって観察されます。SNP型で追加のハプロタイプが見つかった場合、三倍体か、気づかれていない双子が疑われます[11]。

💡 用語解説:ハプロタイプ

一本の染色体の上に並んでいる配列の型のまとまりで、親から子へひとかたまりで受け継がれます。通常の単胎妊娠では、血液中に見つかるのはお母さんの二組と、赤ちゃんがお父さんから受け継いだ一組です。それより多く見つかれば、双胎やバニシングツインの別の胎児由来成分、三倍体の追加の染色体セットなどが考えられます。追加の型だけで原因を確定することはできません。

ただし、追加のハプロタイプは三倍体の確定ではありません。追加のハプロタイプが見つかった773妊娠を追跡した報告では、確定例と疑い例を合わせた三倍体の割合は11%でした[11]。残りの多くは双子やバニシングツインなどです。また、母親由来の染色体セットが増える母性三倍体では胎盤が小さく胎児分画が低くなりやすいため、SNP型でも見逃しや判定保留が起こりえます。この所見が出たときは、まず超音波で赤ちゃんの数と発育を確認し、必要に応じて確定検査に進みます。

6. 全ゲノム型と標的型の得手不得手

全ゲノム型はすべての染色体を広く読むため想定外の場所の変化を拾えますが、標的型はあらかじめ決めた領域だけを調べるため、対象外の変化は見えません。標的型にはSNP型とマイクロアレイ型が含まれます。どちらが優れているということではなく、拾えるものの種類が違います。

🔬 条件ごとの方式の違い(原理からの整理)

条件 量を数える方式(全ゲノム型など) SNP型
モザイク 信号が弱くなる 信号が弱くなる
二卵性の双子 二人分を合わせた全体を見る 一人ずつの取り分を推定できる
バニシングツイン 気づきにくい 追加のハプロタイプが手がかりになる
卵子提供 原理上は影響を受けにくい 計算の前提を置き換える必要がある
三倍体 見つけにくい 追加のハプロタイプが手がかりになる
想定外の染色体の変化 全ゲノム型で対象・分解能の条件を満たせば拾える 対象の領域の外は見えない

※方式の原理にもとづく整理です。実際の対応は検査会社と検査の版によって異なります。双子とSNP型は文献[8]、追加のハプロタイプは文献[10][11]による。

まれな常染色体トリソミー

まれな常染色体トリソミーとは、21・18・13番以外の常染色体が3本になる状態で、その染色体を検査対象とする方式でなければ検出されず、全ゲノム型でも解析・報告の対象に含まれる場合に限られます。約9万件の血漿検体を解析した研究では、オーストラリアの16,885検体のうち71検体(0.42%)が異常とされ、そのうち60検体がまれなトリソミーだったと報告されています[12]。もっとも多かったのは7番で、15番、16番、22番が続きました[12]。

これらのトリソミーは、赤ちゃんの全身にある場合は妊娠が続かないことが多く、検査の時期に見つかるものには胎盤にとどまっているものが含まれます。つまり、見つかっても赤ちゃんは正常ということがありえます。一方で、胎盤の働きに影響して、赤ちゃんの発育に関わることもあります。

ACMGの2023年のガイドラインは、まれな常染色体トリソミーや広範な欠失・重複のスクリーニングについて、十分な根拠がなく推奨を示していません。一方、微小欠失のうち22q11.2欠失症候群については検査の提示を条件付きで推奨しており、21・18・13トリソミーの強い推奨とは区別しています[7]。背景と結果の読み方はまれな常染色体トリソミー(RAT)とはで説明しています。

母体の腫瘍やコピー数の違い

血液中のDNAの大半はお母さん自身のものなので、お母さんのDNAに変化があると、赤ちゃんの異常のように見える信号が出ることがあります。代表的なものが、お母さんが生まれつき持っているコピー数の違いと、腫瘍から出るDNAです。お母さんのコピー数の違いは、結果がずれる主な要因の一つに挙げられています[1]。解析での扱いは母親のコピーナンバーバリアントで説明しています。

腫瘍については、症状のない妊婦さん125,426人の検体を調べた報告があります。異数性が陽性だった3,757検体の中から、お母さんのがんが10例見つかりました[13]。がんがもっとも多かったのは、複数の染色体に異数性が出た場合で、39例のうち7例(18%)でした[13]。

この割合の読み方には注意が必要です。18%は「複数の異数性というまれな結果が出た方の中での割合」で、NIPTを受けた方全体の中での割合ではありません。また、こうした複数の染色体にまたがる信号は、全ゲノム型で読んだときに気づかれやすいものです。臨床での考え方は母体側の要因とNIPTで母親のがんが見つかる仕組みをご覧ください。

想定外の場所の微細欠失

微細欠失とは染色体の一部が小さく欠ける変化で、標的型はあらかじめ決めた場所の欠失だけを調べ、全ゲノム型はそれ以外の場所の変化も拾うことがあります。標的型では、対象に入っていない場所に欠失があっても、検査にはかかりません。

全ゲノム型は染色体全体を読むため、決められた場所以外の変化も信号として現れます。ただし、欠失が小さいほど、その領域に由来する断片の数が少なくなり、信号は弱くなります。胎児分画が低いときや、胎盤にモザイクがあるときは、さらに見つけにくくなります。

広く拾えることは、判断の難しい所見が増えることでもあります。見つかった変化が赤ちゃんにあるのか、胎盤だけなのか、お母さんのものなのかは、採血の検査では区別できません。微細欠失を見つける解析の仕組みは、前のページの微細欠失(微小欠失)の同定で説明しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「たくさん調べられる」ことの裏側】

調べる項目が多い検査ほど良い検査だと考える方は少なくありません。検査の説明では、項目が増えるほど、赤ちゃんと関係のない信号も一緒に拾う可能性があることを確認する必要があります。胎盤だけの変化や、お母さん自身の変化です。

どの方式にも、見えるものと見えないものがあります。検査を選ぶときは、項目の数だけでなく、結果が出たあとに何を確かめる必要があるかまで含めて考えると、選びやすくなります。

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7. 限界を踏まえた結果の読み方

NIPTの結果は、陽性でも陰性でも判定保留でも、「胎盤由来のDNAをお母さんのDNAと一緒に測った結果」として読みます。ここまで見てきた限界は、結果の種類ごとに違う形で現れます。陽性では胎盤やお母さんの信号が、陰性では取り分の不足が、判定保留では胎児分画の低さが関わります。

結果がずれる原因には、技術的なものと、胎児分画の低さ、胎盤と赤ちゃんのモザイク、バニシングツインといった生物学的なものがあります[5]。

陽性のとき

陽性は「赤ちゃんに異常がある」という診断ではなく、確定検査で確かめる必要がある結果です。陽性の信号は、赤ちゃんの異常のほかに、胎盤だけの異常、亡くなった双子、お母さんのDNAの変化からも生じます。採血の検査では、これらを区別できません。

確定検査には絨毛検査と羊水検査があります。絨毛検査は胎盤の一部を調べる検査なので、胎盤限局性モザイクの影響を受けることがあります。羊水検査は赤ちゃん由来の細胞を調べるため、胎盤と赤ちゃんの食い違いを見分けるのに向いています。どちらを選ぶかは、陽性になった染色体の種類、妊娠週数、超音波の所見によって変わります。週数によっては、絨毛検査のあとに羊水検査が追加で必要になることもあります。

確定検査の結果を待たずに妊娠の継続について決めることは、医学的にはおすすめできません。陽性のあとの流れはNIPTで陽性の結果がでたときの確定診断に、検査そのものは羊水検査・絨毛検査にまとめています。

陰性のとき

陰性は、調べた染色体について赤ちゃんに異常がある可能性が低いことを示しますが、可能性がなくなったことを意味するものではありません。偽陰性は偽陽性よりずっと少ないとされています[4]。それでも、赤ちゃんに異常があって胎盤の栄養膜細胞が正常な場合や、モザイクや双子で取り分が足りない場合には、陰性になることがあります。

もう一つ押さえておきたいのは、NIPTが調べているのは染色体の数の変化など、限られた項目だということです。心臓や手足の形の違い、多くの遺伝子の病気は、対象に入っていません。陰性であっても、妊婦健診の超音波検査は別の役割を持っています。

陰性のあとに超音波で気になる所見が見つかった場合は、NIPTの結果よりも超音波の所見を優先して考えます。その時点で、羊水検査などの確定検査を検討することになります。NIPTの陰性は調べた項目についての結果であって、その後の健診で見つかる所見まで打ち消すものではないからです。

判定保留のとき

判定保留は陽性でも陰性でもなく、主に胎児分画が判定に必要な水準に届かなかったために、結果を出せなかった状態です。必要な水準は方式によって違います。SNP型の改良版を検証した研究では、判定に必要な胎児分画が2.8%まで下がり、判定保留の割合は2.3%でした[14]。双子で8%を求める施設もあります[9]。「何%以上なら大丈夫」という共通の基準はありません。

再検査で結果が出るかどうかは、最初の採血のときの胎児分画とお母さんの体重に左右され、胎児分画の影響のほうが大きかったと報告されています[14]。胎児分画は妊娠週数が進むと上がる傾向があるため、時期をあけて採血し直すことがあります。

判定保留は陽性を意味しませんが、胎児の染色体異常のリスク上昇と関連することがあります。初回の判定保留の段階から遺伝カウンセリング、詳しい超音波評価、確定検査の選択肢を提示し、妊娠週数や所見を踏まえて再採血が適切か判断します[15]。原因と対処はNIPTの結果が出ない原因と対処法で、胎児分画の考え方は胎児ゲノム率が低いときの考え方で説明しています。

⚠️ 結果を受け取ったら

陽性、陰性、判定保留のいずれであっても、NIPTだけで赤ちゃんの状態を確定することはできません。結果の意味は、妊娠週数、超音波の所見、双子かどうか、卵子提供かどうかといった条件とあわせて判断します。

よくある質問(FAQ)

Q1. NIPTで陰性でも間違いはありえますか?

まれですが、あります。NIPTは胎盤由来のDNAを調べているため、赤ちゃんに異常があっても胎盤の栄養膜細胞が正常であれば陰性になることがあります。モザイクや二卵性の双子で、異常のある側のDNAの取り分が小さい場合も同じです。偽陰性は偽陽性よりずっと少ないとされますが、ゼロではありません。

Q2. なぜNIPTで偽陽性が出るのですか?

陽性の信号が、赤ちゃん以外からも生じるためです。主な原因は、胎盤にだけ異常がある胎盤限局性モザイク、妊娠初期に亡くなった双子(バニシングツイン)、お母さん自身のコピー数の違いや腫瘍由来のDNAです。採血の検査ではこれらを区別できないため、陽性のあとは確定検査で確かめます。

Q3. NIPTの結果が出ないのはなぜですか?

多くは、胎盤由来のDNAの割合(胎児分画)が判定に必要な水準に届かなかったためです。必要な水準は検査方式や施設によって異なり、共通の基準はありません。判定保留は陽性という意味ではありませんが、染色体異常のリスク上昇と関連することがあります。初回から遺伝カウンセリング、詳しい超音波評価、確定検査の選択肢を含めて方針を考え、再採血が適切か判断します。

Q4. NIPTでモザイクがあるとどうなりますか?

異常のある細胞から出るDNAの割合が小さくなるため、信号が弱くなります。胎盤にだけモザイクがあれば、赤ちゃんは正常なのに陽性になることがあります。赤ちゃんにモザイクがあって胎盤が正常であれば、陰性になることがあります。モザイクかどうかは、採血の検査だけでは判定できません。

Q5. 卵子提供の妊娠でもNIPTは受けられますか?

検査会社と検査方式によって対応が異なります。染色体の量を数える方式は、原理の上では影響を受けにくいと考えられます。お母さんと赤ちゃんの配列の関係を使うSNP型は、卵子提供に対応した計算が必要です。申込みの時点で卵子提供の妊娠であることを伝え、対応を確認してください。

Q6. 双子のNIPTは単胎と同じ精度ですか?

一卵性では単胎とほぼ同じように扱えますが、二卵性では一人ひとりのDNAの取り分が小さくなるため、判定が難しくなることがあります。米国臨床遺伝・ゲノム学会は2023年に、双胎でも21・18・13トリソミーについてNIPTを強く推奨しています。陽性になっても、どちらの赤ちゃんに異常があるかは採血の検査ではわかりません。

まとめ

NIPTの生物学的限界は、検査の技術ではなく、調べる対象の側にある条件から生じます。読み取っているのは胎盤由来のDNAで、しかもお母さんのDNAと混ざっています[1]。胎盤と赤ちゃんが食い違うモザイク、取り分を分け合う二卵性の双子、信号を残すバニシングツイン、計算の前提が変わる卵子提供、量の比では見えない三倍体は、いずれもこの構造から説明できます。

方式によって、拾えるものと拾えないものは異なります。全ゲノム型は広く読める分、胎盤だけの変化やお母さんの変化も拾います。どの方式でも、結果は確定診断ではありません。陽性のときは確定検査で確かめ、陰性のときも超音波検査の役割は変わらず、判定保留のときは胎児分画を踏まえて次の方針を考えます。臨床での詳しい話は第5章へお進みください。

🏥 NIPTをご検討の方へ

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が検査前後の遺伝カウンセリングを担当しています。双子の妊娠や卵子提供の妊娠など、条件によって結果の読み方が変わる場合も、検査方式の特性を踏まえてご説明します。陽性の結果が出た場合の確定検査(羊水検査・絨毛検査)についてもご案内しています。

参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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