目次
NIPTの解析は、母体の血液に浮かぶ大量のDNA断片の中から、胎盤に由来するわずかな断片の「量のずれ」を見つける作業です。このページでは代表的な方式として、ゲノム全体の断片を数える全ゲノム(WGS)ベース、個人ごとに違う塩基(SNP)の比で母と子を見分けるSNPベース、狙った領域をマイクロアレイで数えるマイクロアレイベースの3つがあります。どの方式でも、胎盤由来のDNAの割合(胎児分画)が判定の確からしさを左右します。このページでは、第3章全体の見取り図として、解析がむずかしい理由と3つの方式の考え方を、計算例とともに整理します。
Q. NIPTはどうやって採血だけで赤ちゃんの染色体を調べているのですか?
A. 母体の血液に含まれるDNA断片を大量に読み、染色体ごとの量を比べています。胎盤由来の断片は全体の一部にすぎないため、たとえば胎児分画が10%なら、21トリソミーでも21番の断片はおよそ5%しか増えません。この小さな差を、全ゲノム(WGS)、SNP、マイクロアレイのいずれかの方法で統計的に見分けます。
- ➤WGSベース → ゲノム全体の断片を数え、期待値とのずれをZスコアで判定
- ➤SNPベース → 母と子で違う塩基の比から、胎児の染色体の本数を推定
- ➤マイクロアレイベース → 狙った領域を増幅し、チップ上で速く数える
- ➤胎児分画 → どの方式でも判定の確からしさを決める鍵
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. NIPTの解析で何がむずかしい?
血液中のDNAの大半は母親のものです。胎児分画が10%なら、21トリソミーでも21番の断片は約5%しか増えません。この小さなずれを、偶然のばらつきと区別する必要があります。
🔬 Q. 解析方法はいくつある?
全ゲノム(WGS)・SNP・マイクロアレイの3つが代表的です。数えて比べるか、母と子の塩基の違いを使うか、狙った領域だけを測るかが違います。
📊 Q. どの方式でも共通する鍵は?
胎児分画です。胎児分画が低いほど信号が小さくなり、判定が難しくなります。多くの検査では胎児分画を推定して結果の信頼性を確かめますが、推定・報告方法は検査によって異なります。

1. NIPTの解析がむずかしい理由:母体DNAの中の小さな信号を拾う
NIPTの解析の出発点は、母体の血漿に含まれる無数のDNA断片のうち、胎盤に由来するものがごく一部しかないという事実です。母体の血液から胎児由来のDNAが見つかったのは1997年のことで[1]、それ以来、この「わずかな胎児の信号」をどう取り出すかが、NIPTの技術開発の中心にありました。
胎児分画:信号の大きさを決める数字
母体の血漿に浮かぶセルフリーDNA(cfDNA)は、細胞が死ぬときにヌクレオソームに巻き付いていた部分が切り出された、短い二本鎖DNAの断片が中心です。その大部分は母親自身の血球などに由来し、胎盤の栄養膜細胞から出た断片は一部にすぎません。この胎盤由来の断片の割合を胎児分画(fetal fraction)と呼びます。胎児分画は人によって大きく異なり、2013年の研究では、妊娠週数が進むほど上がり、母体の体重が重いほど下がることが示されています[2]。何をcfDNAとして測っているのかはセルフリーDNA:NIPTでは何を測るのか?で、胎児分画の詳細は胎児ゲノム率(胎児分画)で解説しています。
計算例:21トリソミーで21番の断片は何%増えるか
胎児が21トリソミーのとき、21番染色体の断片はどれだけ増えるのでしょうか。母体と胎盤の染色体にモザイクがなく、母体が21番を2本、胎盤が3本持つと仮定します。胎児分画を f とすると、母親由来の部分(割合 1−f)は21番を2本、胎盤由来の部分(割合 f)は3本持っています。21番の断片の量を、正常な妊娠を1とした相対値で表すと次のようになります。
🧮 21番の断片の相対量
相対量 = {2×(1−f)+3×f}÷2 = 1+f/2
胎児分画10%(f=0.10)なら 1.05、つまり5%の増加。胎児分画4%(f=0.04)なら 1.02、つまり2%の増加にとどまります。
つまり、NIPTが見つけなければならないのは「数%の増加」です。しかも、断片の数え方には偶然のばらつきがあり、DNAの塩基組成(GC含量)による読み取りやすさの偏りもあります。仮に、正常な妊娠での21番の相対量のばらつき(標準偏差)が1%だとすると、胎児分画10%の5%の増加は標準偏差の5倍に当たりますが、胎児分画4%の2%の増加は2倍にしかならず、偶然のばらつきと区別しにくくなります。この「ずれの大きさを、ばらつきの何倍か」で表したものがZスコアで、WGSベースの判定の中心になります。
🧮 Zスコアの考え方
Zスコア =(検体の21番の割合 − 正常妊娠の集団の平均)÷ 正常妊娠の集団の標準偏差
多くの検査では、Zスコアがおよそ3を超えると「陽性(高リスク)」と判定します。正常範囲と境界域の扱いは検査によって異なり、詳しくはZスコアとはで解説しています。
ここから分かるのは、NIPTの解析には2つの課題があるということです。1つは、信号そのもの(胎児分画)が小さく、人によって大きく違うこと。もう1つは、数え方のばらつきや偏りを、信号よりずっと小さく抑えなければならないことです。第3章で扱う技術とバイオインフォマティクス(情報解析)は、すべてこの2つの課題への答えとして作られています。
2. 3つのアプローチの全体像:数える・見分ける・狙って数える
NIPTの代表的な解析方法として、全ゲノム(WGS)ベース、SNPベース、マイクロアレイベースの3つを取り上げます。標的領域の量を数えるシークエンス方式もあり、この3つは網羅的で互いに排他的な分類ではありません。違いは、胎児の染色体の本数を「何を手がかりに」推定するかにあります。
🔬 NIPTの3つの解析方法の比較
| 方式 | 手がかり | 判定の考え方 | 胎児分画の推定 | 調べられる範囲 |
|---|---|---|---|---|
| WGSベース | ゲノム全体の断片の数 | 染色体ごとの量を期待値と比べ、Zスコアで判定 | Y染色体の量、断片の長さや分布などから推定 | 全染色体、比較的大きな欠失・重複まで |
| SNPベース | 個人ごとに違う塩基(SNP)の比 | 母と子のアレルの比のパターンから本数を推定 | 母親にないアレルの量から直接測定 | 設計した染色体(13・18・21・X・Yなど) |
| マイクロアレイベース | 狙った領域の断片の量 | チップ上の蛍光で量を測り、染色体ごとに比べる | SNPの部位を加えて直接測定 | 13・18・21番と性染色体が中心 |
※WGSベースはChiu 2008[3]、SNPベースはZimmermann 2012[4]、マイクロアレイベースはJuneau 2014[5]などで確立された方式。個々の検査の仕様は検査会社によって異なります。
どの方式も、シークエンサーやマイクロアレイで得た生のデータを、そのままでは判定に使えません。読み取った断片をゲノムのどこに由来するかに当てはめ、偏りを補正し、統計的に判定するまでのバイオインフォマティクスの工程こそが、NIPTの精度を支えています。3つの方式は、どれが優れているかというより、何を調べたいかで使い分けられています。13・18・21番のトリソミーを調べる方式にはマイクロアレイベースやSNPベース、WGSベースがあり、費用や所要時間は個々の検査で異なります。全染色体や大きな欠失・重複まで範囲を広げる場合にはWGSベースが用いられ、SNPベースでは三倍体やバニシングツインを疑う手がかりが得られる場合があります。検査を受ける側にとっては、方式の名前そのものより「どの範囲を、どの方法で胎児分画を確かめながら調べているか」が大切です。シークエンスそのものの仕組みは第2章のNGSの仕組みとデマルチプレックスとアライメントで扱っています。
3. WGSベース:ゲノム全体を浅く読み、数えて比べる
WGSベースのNIPTは、cfDNAの断片を無作為に浅く読み、染色体ごとの断片の数を数えて、期待される量からのずれを統計的に判定する方式です。2008年に、母体血漿のDNAを大量に並列でシークエンスし、21番の断片の割合のわずかな増加から胎児の21トリソミーを見分けられることが報告され[3]、現在のNIPTの多くがこの考え方を土台にしています。
この流れは、第3章のWGSベースの各ページに対応しています。まず、読み取った断片(リード)をゲノムに当てはめ、どの領域にどれだけ集まったかを測ります(リードの密度)。次に、ゲノムを一定の長さの区画(ビン)に区切って数えます。ビンを小さくすれば細かい変化を見られますが、1つのビンに入るリードが減ってばらつきが大きくなるため、適切な大きさの設定が必要です(ビンの最適サイズ)。
シークエンスにはGC含量による読み取りやすさの偏りがあるため、ビンごとの値を補正してから平均します(平均ビン値とGC補正)。母親自身が持つ欠失や重複は、胎児の異常と見分けて取り除く必要があります(母親のコピー数変化)。そのうえで、正常な妊娠の集団から求めた期待値と比べ(リード密度の期待値)、ずれをZスコアで判定します(Zスコア)。性染色体は、母親がX染色体を2本持ち、Y染色体由来の配列が特殊であるため、別の扱いが必要です(性染色体の異数性)。
WGSベースの強みは、ゲノム全体を数えるので、13・18・21番以外の染色体や、比較的大きな欠失・重複まで調べる範囲を広げられることです。全染色体を調べるNIPTは、この方式の延長にあります。一方、母と子のDNAを直接見分けているわけではないため、胎児分画は別の手がかりから推定する必要があります。
ゲノム全体を数えるといっても、1人分の検体でゲノムを何十回も重ねて読むわけではありません。NIPTで知りたいのは断片が「どの染色体のどこから来たか」だけなので、1本の断片について読むのは先頭の短い部分で足ります。読み取りを浅くする代わりに、多くの妊婦の検体に目印(インデックス)を付けてまとめて流し、1人あたりの費用を抑えています。こうして得た数百万単位の断片を数えることで、21番のように全体の約1.5%を占める染色体でも、その量を高い精度で測ることができます。
🩺 院長コラム【「陽性」の裏には計算がある】
NIPTの結果は「陽性」「陰性」の一言で返ってきます。けれども、その一言の裏には、数百万の断片を数え、偏りを補正し、集団の基準と比べるという何段階もの計算があります。本文の計算例では、21番の断片が5%増え、数え方のばらつきが標準偏差1%なら、Zスコアは約5になります。必要なばらつきの水準は、胎児分画や判定基準によって異なります。
結果の意味を正しく受け取るには、この計算の中身を知っておくことが大切です。たとえば胎児分画が低いと、同じトリソミーでもZスコアは小さくなります。計算の仕組みが分かれば、「判定保留」や「境界域」という結果がなぜ出るのかも理解できます。
4. SNPベース:母と子で違う塩基の比から本数を読む
SNPベースのNIPTは、人によって塩基が異なる部位(SNP)を多数調べ、母親と胎児の遺伝子型の違いから、胎児の染色体の本数を推定する方式です。2012年に、13・18・21番とX・Y染色体の多数のSNPを狙ってシークエンスし、異数性を判定する方法が報告されました[4]。
考え方はこうです。あるSNP(一塩基多型)で母親の遺伝子型がAA、胎児がABだとすると、血漿中にBアレルが現れるのは胎盤由来の断片だけです。胎児分画を f とすると、Bアレルの割合はおよそ f/2 になります。胎児がその染色体を3本持っていれば、アレルの比のパターンが変わります。多数のSNPでこのパターンを調べ、「胎児がその染色体を2本持つ場合」と「3本持つ場合」のどちらがデータをよく説明するかを、確率(尤度)で比べて判定します。
この方式の強みは、母親にないアレルの量から胎児分画を直接測れることと、三倍体(69本)や、双胎の一方の発育が停止したバニシングツインを疑う追加のアレルパターンを検出できる場合があることです。追加パターンだけで両者を確定的に区別できるわけではなく、母由来の染色体セットが余分な三倍体では胎児分画が低く、判定できない場合もあります。一方、狙ったSNPの数と範囲に依存するため、調べられる染色体は設計した範囲に限られます。具体的な数字で確かめてみます。胎児分画10%を二倍体ゲノム相当の混合比とする単純化したモデルで、母親がAAのSNPにおけるBアレルの割合を計算すると、胎児の遺伝子型ごとに次のようになります。
🧮 母親AA・胎児分画10%のときのBアレルの割合
| 胎児の遺伝子型 | 計算 | Bアレルの割合 |
|---|---|---|
| AB(2本・正常) | 0.10×1 ÷ {2×0.90+2×0.10} | 5.0% |
| ABB(3本・Bが2コピー) | 0.10×2 ÷ {2×0.90+3×0.10} | 約9.5% |
| AAB(3本・Aが2コピー) | 0.10×1 ÷ {2×0.90+3×0.10} | 約4.8% |
※分母は血漿中のその部位のアレルの総数(母体2本×(1−f)+胎児の本数×f)に比例する値。
この例では、ABBならBアレルの割合がはっきり上がります。一方、AABでは、このSNP1か所だけでは正常との差がごくわずかです。ABBのBは母親AAにはないため父親由来ですが、AABの余分なAの親由来は、このSNP1か所だけでは確定できません。そのため実際には、母親がヘテロ接合(AB)の部位を含む数千か所のSNPを同時に使い、アレルの比の分布全体が「2本の場合」と「3本の場合」のどちらに近いかを比べます。1か所では見えない差も、多数の部位を合わせることで統計的に浮かび上がるわけです。仕組みの詳細はSNPベースのNIPT①とSNPベースのNIPT②:異数性の可能性の定量化で扱います。
5. マイクロアレイベース:狙った領域を、チップの上で速く数える
マイクロアレイベースのNIPTは、調べたい染色体の特定の領域だけを狙って増幅し、その量をマイクロアレイの蛍光で測る方式です。シークエンスで1本ずつ読む代わりに、相補的なプローブとのハイブリダイゼーションで量を測ります。
2014年の研究では、同じ狙った領域の増幅産物を、マイクロアレイと次世代シークエンサーで測り比べています。非多型アッセイの検体間の変動係数の中央値はマイクロアレイのほうが小さく(0.051対0.099)、データ取得工程もマイクロアレイの7.5時間に対してシークエンスは56時間でした[5]。これは当時の装置・条件での比較で、現在の検査全般の所要時間や優劣を示す値ではありません。SNPの部位も同時に測ることで、胎児分画を直接推定できます。2020年のメタ解析では、マイクロアレイを使うNIPTの13・18・21トリソミーに対する高い感度・特異度が示唆されていますが、研究数や研究の質に限界があり、他方式と精度が同等だと断定することはできません[6]。
狙った領域だけを測るため、速く、データ量が少なく済む一方で、調べられるのは設計した13・18・21番と性染色体が中心になり、全染色体を網羅的に調べる方式ではありません。ただし、設計した特定の微小欠失を対象にできる検査もあり、対象範囲は個々の検査仕様で確認する必要があります[7]。詳しくはマイクロアレイベースのNIPTで、シークエンスを使わないほかの技術はNGS以外のNIPT技術で解説しています。
6. どの方式でも欠かせない、胎児分画の推定
胎児分画は、どの方式でも判定の確からしさを決める鍵です。そのため、NIPTの品質管理では胎児分画の評価が重要です。ただし、すべての検査が独立した胎児分画値を推定・報告するわけではなく、別の品質指標を用いる方式もあります。
1節の計算例のとおり、胎児分画が半分になればトリソミーによる信号も半分になります。胎児分画が十分でないまま「陰性」と判定すると、見逃し(偽陰性)の危険が高まります。そのため多くの検査では、胎児分画が一定の基準を下回ると結果を出さず、再採血や判定保留とします。推定の方法は方式によって異なります。WGSベースで最も単純なのは、男児の妊娠でY染色体に当てはまる断片の量から計算する方法ですが、これは胎児が男の子の場合にしか使えません。そのため、女の子でも使える方法として、胎盤由来の断片が母体由来の断片より短い傾向があることや、ゲノム上の分布のわずかな違いを利用する方法が開発されてきました。WGSベースではこうした手がかりを組み合わせ、SNPベースとマイクロアレイベースでは母親にないアレルの量から直接測ります。3つの推定方法と、胎児分画が低いときの考え方(基準値、体重・妊娠週数との関係、再検査)は胎児ゲノム率(胎児分画)で詳しく扱います。胎児分画が低い場合の結果の扱いは胎児分画が低いとどうなる?もご覧ください。
💡 用語解説:異数性と倍数性
異数性は、特定の染色体だけが1本多い(トリソミー)、少ない(モノソミー)状態です。倍数性は、染色体数が基本の組(23本)の整数倍であることを表します。その異常には三倍体(69本)などがあります。NIPTが主に調べているのは異数性で、WGSベースでは三倍体のように全体が均等に増える変化は数の比からは見分けにくい点に注意が必要です。詳しくは染色体の数的異常をご覧ください。
7. 微細欠失の検出と、技術では越えられない限界
解析技術の進歩で、NIPTは染色体の数だけでなく、より小さな欠失や重複も対象にできるようになってきました。しかし、どれほど精密に数えても越えられない限界があります。
微細欠失は、染色体全体に比べてはるかに小さな領域の変化なので、その領域に入るリードの数が少なく、信号はさらに弱くなります。たとえば長さ300万塩基(3Mb)の欠失は、ゲノム全体(約31億塩基)の約0.1%にすぎず、その領域に当てはまる断片もごくわずかです。胎児が片方の染色体にこの欠失を持っていても、減るのはその小さな領域の断片の f/2(胎児分画10%なら5%)だけなので、染色体全体を数えるトリソミーの判定に比べて、統計的に見分けるのがはるかに難しくなります。検出には、より深く読むことや、狙った領域を集中的に読む工夫が必要です(微細欠失(微小欠失)の同定)。一方、NIPTが測っているのは胎盤由来のDNAなので、胎盤だけに異常がある胎盤限局性モザイクや、母親自身の染色体の変化、バニシングツインなどは、解析をいくら改良しても避けられない誤判定の原因になります(NIPTの生物学的限界)。もっとも、方式ごとの特徴を生かして、限界の一部に気づける場合はあります。SNPベースでは、母と子以外のアレルのパターンが混ざることからバニシングツインを疑えることがあり、WGSベースでは、染色体の一部だけが増減しているのか、母親自身に由来する変化なのかを、ゲノム全体の分布から推測できることがあります。ただし、これらは「気づくきっかけ」であって、胎盤と赤ちゃんの染色体の食い違いそのものを解消するものではありません。こうした限界があるからこそ、NIPTは確定診断ではなくスクリーニング検査と位置づけられています。その理由は第5章のなぜcffDNAを用いたNIPTは非確定なのかで詳しく扱います。
🩺 院長コラム【技術の限界と、生物学の限界】
NIPTの誤判定の原因は、技術的な要因と生物学的な要因に分けて考えられます。1つは、数え方のばらつきや偏りによる「技術の限界」で、これは解析の改良によって小さくできます。もう1つは、胎盤と赤ちゃんの染色体が食い違うことによる「生物学の限界」で、これは解析をいくら改良しても消えません。
第3章で学ぶのは主に前者ですが、後者を忘れて技術だけを見ると、NIPTを過信することになります。両方を区別して理解することが、検査結果を正しく受け止める出発点です。
8. 第3章の読み方ガイド
第3章は、WGSベースの解析の流れを7つのページで順に追い、そのあとSNPベース、マイクロアレイベース、胎児分画、微細欠失、生物学的限界へと進みます。関心に合わせて、次の表から読み進めてください。
📚 第3章のページと扱う内容
| ページ | 扱う内容 |
|---|---|
| WGSベース①リードの密度 | 断片をゲノムに当てはめ、量を比べる出発点 |
| WGSベース②ビンの最適サイズ | 区画の大きさと、リード数・解像度のバランス |
| WGSベース③平均ビン値とGC補正 | 読み取りやすさの偏りを補正する方法 |
| WGSベース④母親のコピー数変化 | 母親の欠失・重複を見分けて除く仕組み |
| WGSベース⑤リード密度の期待値 | 比べる基準をどう作るか |
| WGSベース⑥Zスコア | 判定の基準、正常範囲と境界域 |
| WGSベース⑦性染色体の異数性 | X・Yの判定が難しい理由 |
| SNPベース①② | 母と子をSNPで見分け、異数性を定量する |
| マイクロアレイベース | 狙った領域をチップで数える |
| 胎児ゲノム率(胎児分画) | 3つの推定方法と、低いときの考え方 |
| 微細欠失の同定 | 小さな欠失・重複を見つける仕組み |
| NIPTの生物学的限界 | 技術では越えられない限界 |
よくある質問(FAQ)
Q1. NIPTはなぜ採血だけで赤ちゃんの染色体が分かるのですか?
母体の血液には、胎盤から出たDNAの断片が含まれています。この断片を大量に読み、染色体ごとの量を比べると、胎児の染色体の本数の変化がわずかな量のずれとして表れます。そのずれを統計的に見分けることで判定しています。
Q2. NIPTの解析方法にはどんな種類がありますか?
代表的なのは、ゲノム全体の断片を数える全ゲノム(WGS)ベース、母と子で違う塩基の比を使うSNPベース、狙った領域をマイクロアレイで測るマイクロアレイベースの3つです。調べられる範囲や胎児分画の測り方が異なります。
Q3. 胎児分画が低いと、なぜ判定が難しくなるのですか?
トリソミーによる断片の増え方は胎児分画のおよそ半分です。胎児分画10%なら約5%の増加ですが、4%なら約2%にとどまり、偶然のばらつきと区別しにくくなります。そのため多くの検査は、胎児分画が基準を下回ると判定を保留します。
Q4. 解析方法によって精度は違いますか?
13・18・21番のトリソミーについては、どの方式でも高い検出率が報告されています。違いが出るのは調べられる範囲で、全染色体の欠失・重複を網羅的に調べる拡張検査は主にWGSベースですが、SNPベースやマイクロアレイベースでも特定の微小欠失を対象にできる検査があります。SNPベースでは三倍体やバニシングツインを疑える場合がありますが、両者の確定的な区別やすべての三倍体の検出はできません。
Q5. 解析を改良すれば、NIPTは確定診断になりますか?
なりません。NIPTが測っているのは胎盤由来のDNAなので、胎盤だけの染色体異常や母親自身の染色体の変化による誤判定を、解析の改良だけで完全になくすことはできません。陽性の場合は羊水検査などの確定検査で確かめる必要があります。
まとめ
NIPTの解析は、母体血漿のcfDNAのうち一部にすぎない胎盤由来の断片から、染色体の量のわずかなずれを見つける作業です[1]。胎児分画を f とすると、トリソミーによる増加は f/2 にすぎず、胎児分画は妊娠週数や母体の体重によって変わります[2]。この小さな信号を拾う方法として、ゲノム全体を数えるWGSベース[3]、SNPの比で母と子を見分けるSNPベース[4]、狙った領域をチップで数えるマイクロアレイベース[5][6]が開発されてきました。
どの方式でも胎児分画の推定が欠かせず、微細欠失の検出にはさらに工夫が必要です。そして、胎盤由来のDNAを測るという性質から来る生物学的な限界は、解析の改良では越えられません。第3章の各ページでは、この全体像の一つひとつの部品を、計算と図で詳しく見ていきます。
🧬 NIPTを仕組みから理解して選びたい方へ
ミネルバクリニックでは、常駐する臨床遺伝専門医が、NIPTの方式によって何が分かり何が分からないのか、陽性だった場合の確定検査まで含めてご説明しています。陽性の場合の羊水検査・絨毛検査も院内で行っています。
参考文献
- [1] Lo YMD, Corbetta N, Chamberlain PF, et al. Presence of fetal DNA in maternal plasma and serum. Lancet. 1997;350(9076):485-487. [DOI 10.1016/S0140-6736(97)02174-0]
- [2] Wang E, Batey A, Struble C, et al. Gestational age and maternal weight effects on fetal cell-free DNA in maternal plasma. Prenat Diagn. 2013;33(7):662-666. [DOI 10.1002/pd.4119]
- [3] Chiu RWK, Chan KCA, Gao Y, et al. Noninvasive prenatal diagnosis of fetal chromosomal aneuploidy by massively parallel genomic sequencing of DNA in maternal plasma. Proc Natl Acad Sci USA. 2008;105(51):20458-20463. [DOI 10.1073/pnas.0810641105]
- [4] Zimmermann B, Hill M, Gemelos G, et al. Noninvasive prenatal aneuploidy testing of chromosomes 13, 18, 21, X, and Y, using targeted sequencing of polymorphic loci. Prenat Diagn. 2012;32(13):1233-1241. [DOI 10.1002/pd.3993]
- [5] Juneau K, Bogard PE, Huang S, et al. Microarray-based cell-free DNA analysis improves noninvasive prenatal testing. Fetal Diagn Ther. 2014;36(4):282-286. [DOI 10.1159/000367626]
- [6] Geppert J, Stinton C, Johnson S, et al. Antenatal screening for fetal trisomies using microarray-based cell-free DNA testing: a systematic review and meta-analysis. Prenat Diagn. 2020;40(4):454-462. [DOI 10.1002/pd.5621]
- [7] Schmid M, Wang E, Bogard PE, et al. Prenatal Screening for 22q11.2 Deletion Using a Targeted Microarray-Based Cell-Free DNA Test. Fetal Diagn Ther. 2018;44(4):299-304. DOI: 10.1159/000484317. PMID: 29131052. [PubMed]
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📚 NIPT教科書シリーズ 第3章 cffDNAを用いたNIPTのバイオインフォマティクスとテクノロジー



