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マイクロアレイベースのNIPTは、母体血に含まれるcfDNA(セルフリーDNA)のうち、あらかじめ決めた染色体の領域だけを取り出し、その量を次世代シーケンサーではなくDNAマイクロアレイで読み取る方式です。NIPTの測定方式には、ゲノム全体の断片を数えるWGS法、SNPの型の比を見るSNP法、そして本記事で扱うマイクロアレイ法があります。羊水検査などで行う「染色体マイクロアレイ検査(CMA)」とは、名前が似ているだけで検体も目的も異なる別の検査です。この記事では、仕組み、胎児分画の測り方、ほかの方式との違い、精度と限界を順に解説します。
Q. マイクロアレイベースのNIPTとは何ですか?
A. 母体血中のcfDNAから標的領域だけを選んで増やし、その量をマイクロアレイで測って、胎児の染色体の数の変化を推定する方式です。次世代シーケンサーで断片を1本ずつ読む代わりに、アレイ上のプローブに結合した量を読み取ります。確定検査で使う染色体マイクロアレイ検査(CMA)とは別の検査です。
- ➤位置づけ → WGS法・SNP法と並ぶNIPTの測定方式のひとつで、標的型に分類される
- ➤仕組み → 標的の遺伝子座を選んで増やし、マイクロアレイで量を読み、胎児分画と合わせてリスクを計算する
- ➤精度 → 3つのトリソミーでは高い感度・特異度が報告されているが、根拠となる研究は少ない
- ➤限界 → 設計に含めた領域しか評価できない。三倍体は検出しにくい
- ➤CMAとの違い → CMAは胎児の細胞を直接調べる検査。NIPTのマイクロアレイ法は母体血を調べる非確定的検査

NIPTの基礎、検査の種類、結果の読み方を示す総論のイメージです。この記事では、そのうちマイクロアレイを用いた測定方式を解説します。
1. マイクロアレイベースのNIPTとは
マイクロアレイベースのNIPTとは、cfDNAから標的領域だけを選んで増やし、その産物の量をDNAマイクロアレイで測ることで、胎児の染色体の数の変化を推定する方式です。cfDNA(セルフリーDNA)は、血液の中を流れている細胞の外のDNA断片です。妊娠中の母体血には、母体由来の断片に胎盤由来の断片が混ざっています。NIPTはこの混合物を測り、特定の染色体に由来する断片が、期待される量より多いか少ないかを調べます。
この方式を示した原典は、2014年に発表された研究です。同じ測定系で作った産物を2つに分け、一方をマイクロアレイ、もう一方を次世代シーケンサーで定量して比べています[1]。対象は878人の妊婦の血漿で、うち187例が事前にトリソミーと分類されていました[1]。つまりマイクロアレイ法は、まったく新しい検査として登場したのではなく、すでにあった標的型の測定系の「読み取り装置」をシーケンサーからアレイに置き換えたものです。
次世代シーケンサーを使わないNIPT技術には、マイクロアレイのほかにもいくつかあります。全体像はNGS以外のNIPT技術で概観していますので、この記事ではマイクロアレイ法に絞って掘り下げます。
NIPTの3つの測定方式の中での位置づけ
NIPTの測定方式は、「何を測るか」と「何で読むか」の2つの軸で整理できます。WGS法は、cfDNAをゲノム全体にわたって読み、それぞれの断片がどの染色体に由来するかを数える方式です。多くのNIPTはこの数え上げの考え方をとっており、調べたい染色体のリード数を参照となる染色体と比べ、その比が一定の基準を超えたときにトリソミーを推定します[2]。
SNP法は、個人差のある塩基の場所(多型座位)で、アレル(対立遺伝子)の分布がどうなっているかを見る方式です。数え上げとは違い、参照となる染色体を必要としません[2]。これに対してマイクロアレイ法は、標的に決めた領域の量を、アレイで読む方式です。SNP解析、マイクロアレイ、RCA(ローリングサークル増幅)を使う方法はまとめて標的型と呼ばれ、染色体の特定の領域に絞って解析します[3]。
💡 用語解説:標的型(ターゲット型)
標的型とは、ゲノム全体を読むのではなく、調べたい染色体や領域をあらかじめ決めて、そこだけを測る方法のことです。読む量が少なくて済む一方、設計に含めなかった場所の異常は評価できません。全ゲノムを対象にするWGS法と対になる考え方です。
確定検査の「マイクロアレイ検査」とは別のもの
「マイクロアレイ」という言葉は、出生前検査の分野で2つの別の検査に使われています。ひとつがこの記事のテーマである、NIPTの測定方式としてのマイクロアレイです。もうひとつが、染色体マイクロアレイ(CMA)と呼ばれる検査です。CMAは、染色体の微細な過不足を調べる検査です。
CMAで調べるのは、羊水中の胎児由来の細胞、絨毛の胎盤細胞、あるいは出生後の本人の血液などから取り出したDNAです。一方、NIPTのマイクロアレイ法で調べるのは母体血のcfDNAで、母体のDNAと胎盤由来のDNAが混ざった状態のまま測ります。NIPTは、母体血中のDNA断片の量の比から染色体の数的異常の可能性が高いことを示す非確定的検査で、診断を確定させるには羊水検査などによる染色体分析が必要です[4]。
共通しているのは、「アレイに並べたプローブに結合させて量を読む」という技術の部分だけです。違いは第7章で表にまとめます。
🩺 院長コラム【同じ「マイクロアレイ」でも、指しているものが違います】
「NIPT」と「マイクロアレイ」を一緒に調べると、確定検査のCMAの説明と、NIPTの測定方式の説明が混ざって出てきます。同じ単語なので無理もないのですが、片方は羊水や絨毛などの細胞のDNAを直接調べる検査、もう片方は母体血を調べるスクリーニングで、結果の意味がまったく違います。
検査の説明では、まず「何を採って調べる検査か」を確認することが大切です。母体血のcfDNAを調べるNIPTは非確定的検査で、羊水や絨毛の細胞を調べる染色体検査は確定的検査に位置づけられます。ただし、絨毛は胎盤の組織なので、胎盤限局性モザイクが疑われる場合には羊水検査による確認が必要になることがあります。
2. 仕組み:シーケンサーを使わずにcfDNAを数える
マイクロアレイ法の測定は、cfDNAの抽出、標的領域の選択と増幅、アレイでの読み取り、リスクの計算という4つの段階で進みます。WGS法やSNP法では、最後の読み取りに次世代シーケンサー(NGS)を使い、DNA断片の塩基配列を1本ずつ読んで数えます。マイクロアレイ法ではこの読み取りの段階がアレイに置き換わっており、塩基配列を読む工程がありません。
調べる場所を先に決めて増やす
最初の段階では、調べたい遺伝子座(染色体上の特定の位置)だけを選んで増やします。標的には2種類あります。ひとつは、人による違いがない場所(非多型座位)で、13番、18番、21番といった染色体の量を測るために使います。もうひとつは、人によって塩基が異なる場所(多型座位、SNP)で、胎児分画を測るために使います。この測定系は、多型のない座位と多型のある座位を1つの反応で同時に調べ、染色体の比率と胎児分画の両方を推定できるように設計されています[5]。
選び出す方法には、ライゲーション(DNAの断片同士をつなぐ反応)を使います。標的の配列に合わせて作った短いDNA(オリゴヌクレオチド)を、cfDNA上の隣り合う位置に結合させ、酵素でつなぎ合わせます。標的の配列がそこにあるときだけ、つながった産物ができます。その産物を、共通の配列を足がかりにPCRで増やします。
マイクロアレイ版の測定では、非多型座位は13番、18番、21番染色体に、多型座位は1番から12番の染色体に設定されています[6]。標的でない断片は増えないので、その後の解析の対象は標的領域に限られます。測る量が少なくて済む代わりに、設計に含めなかった染色体や領域の情報は得られません(第6章)。
マイクロアレイで量を読み取る
増やした産物は、マイクロアレイの表面に並んだプローブに結合させ、結合した量を信号の強さとして読み取ります。ここで使われているのがハイブリダイゼーションです。DNAは、互いに対になる配列(相補的な配列)同士が出会うと結合する性質を持っています。アレイの上には、標的の産物それぞれに対応するプローブが決まった位置に固定されているので、どの位置にどれだけ結合したかを見れば、どの標的がどれだけあったかがわかります。
💡 用語解説:プローブ
プローブとは、調べたいDNA配列と対になるように作った短いDNAのことです。相手の配列があれば結合するので、目印として使えます。マイクロアレイは、多数のプローブを基板の上に規則正しく並べたもので、たくさんの標的を一度に測ることができます。
シーケンスとの違いは、数え方にあります。シーケンスは断片を1本ずつ読み、標的ごとに何本あったかを数えます。アレイは、産物をまとめて結合させ、標的ごとの信号の強さを読みます。原典の研究では、マイクロアレイを使ったほうがシーケンスよりも速く、より正確にcfDNAを測れたと報告されています。解析にかかった時間は、マイクロアレイが7.5時間、シーケンスが56時間でした[1]。
ここで示されている時間は、測定工程そのものにかかる時間です。採血から結果が届くまでの日数とは別のものなので、「この方式なら結果が早く出る」と読み替えることはできません。また、この比較研究は検査を開発した企業が資金を出して実施したもので、検体をどう選んだかが明記されていない点が、のちの系統的レビューで指摘されています[7]。
染色体の数の変化をどう判定するか
判定の基本は、調べたい染色体に由来する量が、全体の中で期待より多いかどうかを見ることです。染色体の数が通常と異なる状態を異数性(いすうせい)といいます。胎児が21トリソミーの場合、胎盤由来のDNAでは21番染色体が3本分になるので、母体血全体で見ても21番由来の量がわずかに増えます。
この増え方は、胎児分画によって決まります。たとえば胎児分画が10%のとき、21番由来の量は通常の約1.05倍、つまり約5%しか増えません。胎児分画が4%なら、増加は約2%です。差がこれほど小さいので、1か所の測定では区別がつかず、同じ染色体上の多数の座位を測って平均的な傾向を取り出す必要があります。
この方式のリスク計算は、胎児分画を明示的に組み込んでトリソミーのリスクを算出するように作られています[5]。胎児分画が高いほど、トリソミーによる染色体の比率のずれは大きくなるため、胎児分画を考慮して測定値を評価する必要があります[5]。結果はリスクスコアとして出力され、上限は99%、下限は0.01%で、1%以上が高リスク、1%未満が低リスクに分類されます[6]。性染色体の数の変化を評価する考え方は、性染色体異数性のページで解説しています。
3. 胎児分画はどう測るのか
マイクロアレイ法では、母体と胎児で型が異なるSNPを利用して胎児分画を推定します。胎児分画(たいじぶんかく)とは、母体血中のcfDNA全体のうち、胎盤に由来するDNAが占める割合のことです。前の章で見たとおり、トリソミーによる量の増え方は胎児分画に比例するので、胎児分画がわからなければ、測った比率が正常の範囲なのか異常なのかを正しく判断できません。
推定の原理は次のとおりです。SNP(一塩基多型)のある座位で、母体が同じアレルを2つ持っていて、胎児が父親から別のアレルを受け継いでいる場合を考えます。このとき、母体血の中に見つかる「別のアレル」は、すべて胎盤由来です。そのアレルが全体のどれくらいを占めるかを測れば、胎児分画が計算できます。このように胎児のアレルが母体のアレルと異なっていて、胎児分画の推定に使える座位を、情報のある座位と呼びます。
どの座位が情報のある座位になるかは妊娠ごとに違うので、多数のSNPをあらかじめ測定に含めておきます。シーケンスで読む版の原著では192か所のSNPが使われ[1]、マイクロアレイ版では576か所のSNPで胎児分画を推定しています[6]。測る多型部位を増やしたことで、マイクロアレイでは胎児分画の精度が1.6倍に改善したと報告されています[1]。
この測定系の特徴は、胎児分画と染色体の比率を同じ反応の中で測ることです。同じ検体、同じ反応条件で測るので、多型座位から得た胎児分画が、染色体の比率を測る非多型座位での胎児分画をよく反映します[5]。
胎児分画が低すぎると、結果は出ません。検査が成立するには、検査系ごとの品質基準を満たすだけの胎盤由来DNAが必要です。マイクロアレイ版の臨床研究では、799例のうち8例が胎児由来DNAの不足のためにリスクスコアを得られませんでした[6]。現在の基準値は検査を行う機関によって異なります。
4. WGS法・SNP法との違い
3つの方式の違いは、測る対象、読み取りの装置、調べられる範囲の3点にまとめられます。下の表に整理します。
📊 NIPTの3つの測定方式の比較
| 項目 | WGS法 | SNP法 | マイクロアレイ法 |
|---|---|---|---|
| 測るもの | 全ゲノムの断片の数 | SNPのアレルの比 | 標的座位の量とSNP |
| 読み取り | 次世代シーケンサー | 次世代シーケンサー | マイクロアレイ |
| 調べる範囲 | ゲノム全体 | 標的にしたSNP | 標的にした座位 |
| 判定の考え方 | 調べたい染色体のリード数を参照と比べる | アレルの分布から染色体の本数を推定する | 標的染色体の比率と胎児分画からリスクを計算する |
| 三倍体 | 通常は検出できない | 父由来の三倍体を疑う所見を検出できるが、確定検査が必要 | 通常は検出できない |
WGS法の強みは、ゲノム全体を見ていることです。設計した場所以外で起きた変化にも気づける可能性があります。数え上げの原理はWGSベースのNIPTで順を追って解説しています。SNP法の強みは、母体と胎児の遺伝子型の違いを直接使えることで、SNPベースのNIPTで扱っています。
マイクロアレイ法を含む標的型は、全ゲノムを読む方法に比べて追加の工程と複数回の増幅が必要で、作業の流れが複雑になると指摘されています[3]。一方で、読み取りにシーケンサーを使わないため、測定工程の時間は短くなります[1]。どちらの特徴も検査室の運用にかかわる話で、受検する方から見た結果の意味を変えるものではありません。
方式による精度の違いを調べた系統的レビューは、21件の研究を集めて比較し、一般的な胎児のトリソミーの検出については、感度、特異度、陰性的中率はおおむね同程度だったと結論づけています。ただし、検査ブランドから実際の測定方式を区別する際の限界があり、方式の厳密な優劣を確定した比較ではありません[3]。「どの方式がいちばん優れているか」を、方式の名前だけで決めることはできません。
5. マイクロアレイ法の精度
21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーについては、マイクロアレイ法でも高い感度と特異度が報告されています。ただし、根拠となる研究の数は多くありません。マイクロアレイで定量するcfDNA検査だけを対象にした系統的レビューとメタ解析では、次の値が示されています[7]。
📈 マイクロアレイ法の精度(メタ解析の統合値)
| 対象 | 感度(95%信頼区間) | 特異度(95%信頼区間) |
|---|---|---|
| 21トリソミー | 99.5%(96.3〜99.9%) | 100%(99.87〜100%) |
| 18トリソミー | 97.7%(87.9〜99.6%) | 99.97%(99.81〜99.99%) |
| 13トリソミー | 100%(83.2〜100%) | 99.97%(99.81〜99.99%) |
※数値は[7]による。検査が成立しなかった割合は統合値で1.1%。
このメタ解析は、マイクロアレイとシーケンスを直接比べた場合の精度は同等だったとも報告しています[7]。個別の臨床研究では、799例の検体のうち、21トリソミー108例中107例(99.1%)、18トリソミー30例中29例(96.7%)、13トリソミー12例すべてを検出しました[6]。
これらの数値を読むときには、3つの点に気をつける必要があります。1つ目は、根拠の量と質です。メタ解析の著者は、採用できた研究が少なく、偏りのリスクが高いと結論づけています[7]。信頼区間の幅が13トリソミーで83.2〜100%と広いのは、症例の数が少ないためです。
2つ目は、研究によって値が一致していないことです。方式を横断して比べた別の系統的レビューでは、マイクロアレイ群に分類された4つの報告の18トリソミー感度は、それぞれ73.33%、71.43%、100%、80%でした[3]。ただし、同じ検査ブランドでも時期によってシーケンス版とマイクロアレイ版があり、この分類には2014年の報告も含まれています。先行するメタ解析では、実際の測定方式を確認できない研究を除外しています[7]。各研究の少数例による変動に加え、測定方式の分類にも注意が必要で、これらの値をマイクロアレイ法固有の感度として一般化することはできません。
3つ目は、感度と特異度は集団についての値だということです。陽性の結果を受け取った一人ひとりにとって知りたいのは、「陽性だったときに本当に異常がある確率」、つまり陽性的中率です。陽性的中率は、同じ検査でも検査前の確率(年齢など)によって変わります。考え方は陽性的中率とはと、NIPTの精度のページで解説しています。
⚠️ 数値の読み方
ここに挙げた感度・特異度は、研究に参加した集団から得られた統合値です。ご自身の結果がどのくらいの確からしさを持つかは、妊娠週数、年齢、胎児分画、超音波所見などによって変わります。数値だけで結果を判断することはできません。
6. マイクロアレイ法の限界
マイクロアレイ法の限界は、標的型であることと、量の比で判定することの2つから生じます。以下、順に見ていきます。
載せたプローブの範囲しか見えない
標的型の検査は、設計に含めた染色体や領域以外を評価できません。マイクロアレイ法は、最初の段階で標的の座位だけを増やし、アレイ上にもその標的に対応するプローブだけを載せています。標的にしていない染色体で数の変化が起きていても、測定の対象に入っていないため、結果には現れません。マイクロアレイを使う技術は現在、一般的なトリソミー、性染色体の異数性、22q11.2の微小欠失の検出に利用できるとされています[3]。
全ゲノムを読む方式であれば、13番、18番、21番以外の常染色体のトリソミー(まれな常染色体トリソミー)や、染色体の一部の過不足を拾える可能性があります。ただし、拾えることと、それを日常的に調べるべきかどうかは別の問題です。米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)の指針は、3つのトリソミーについてはNIPSを強く推奨する一方、まれな常染色体トリソミーや全ゲノムのコピー数変化については、集団に対する日常的なスクリーニングとして推奨するには至っていません[10]。日本でも、国の専門委員会の報告書は、13・18・21トリソミー以外の疾患については分析的妥当性や臨床的妥当性が現時点で十分に確立されていないとしています[11]。全ゲノムNIPTで見つかる所見の扱いは、全ゲノムNIPTの章で解説しています。
微小欠失には専用の設計が必要
染色体の一部が小さく欠ける微小欠失を調べるには、その領域を狙った測定を追加する必要があります。標的型では、もともとの設計に含まれていない領域の情報は得られないからです。22q11.2欠失については、通常の測定に22q11.2用の測定を加え、1枚の専用マイクロアレイで解析する方法が臨床的に評価されています[12]。
この研究で解析対象となったのは、胎児心臓異常のある妊娠から前向きに集めた検体と保存検体を合わせた735例で、うち46例に22q11.2欠失がありました。一般の妊婦集団から無作為に集めた735例ではありません。検査は欠失のあった例の69.6%を「欠失の可能性が高い」と正しく判定し、欠失のなかった689例には偽陽性がありませんでした[12]。偽陽性が出なかった一方で、欠失のある例の約3割は検出されなかったことになります。微小欠失の検査で陰性だったとしても、欠失がないと確定するわけではありません。
💡 用語解説:22q11.2欠失
22番染色体の長腕の一部(11.2という位置)が欠けている状態です。微小欠失の中では最も頻度が高く、妊娠中の頻度は1,000人に1人とされています[12]。染色体の本数は正常なので、本数の変化を見る通常のNIPTでは検出できません。
ACMGの指針は、22q11.2欠失のスクリーニングをすべての妊婦に提示することを提案していますが、これは条件付きの推奨です。学会間で推奨は一致しておらず、2025年の米国母体胎児医学会(SMFM)の指針は、微小欠失の一般集団への日常的なスクリーニングを推奨していません。22q11.2欠失のcfDNA検査を選択する場合には適切な検査前カウンセリングが必要で、胎児のコピー数変化を詳しく知りたい場合には確定的検査を提示するとしています[16][10]。日本産科婦人科学会の指針が対象としているNIPTは13番、18番、21番の3つの染色体の数的異常を検出する検査で、染色体の微小欠失を検出するための検査は指針の対象になっていません[4]。微小欠失を検出する技術的な仕組みは、微細欠失(微小欠失)の同定で扱います。
三倍体・モザイク・双胎
量の比で判定する方式は、三倍体を通常は検出できません。三倍体とは、すべての染色体が3本ずつある状態です。数え上げを基本とする方法では、常染色体の間でDNA断片の数の比が変わらないため、三倍体を日常的に検出することはできません[8]。21番だけが増えていれば比が変わりますが、全部が同じ割合で増えると、比で見るかぎり正常と区別がつかないのです。
SNP法は、余分な1セット分のアレルの存在から三倍体を疑う所見を検出できます。ただし、余分なハプロタイプ(同じ染色体上で受け継がれるアレルの組合せ)は、消失した双胎などでも認められるため、三倍体の確定診断ではありません[8]。SNP法を用いた研究では、父親由来の染色体が余分にある三倍体では複数の父由来ハプロタイプが検出され、母親由来の染色体が余分にある三倍体では胎児分画が低く、4例中3例で母体体重と妊娠週数を補正した値が0.5パーセンタイル未満でした[9]。マイクロアレイ法も多数のSNPを測っていますが、三倍体の検出についての成績は確認できていません。
モザイクは、染色体の構成が異なる細胞が混ざっている状態です。NIPTが測っているのは主に胎盤由来のDNAなので、胎盤と胎児で染色体の構成が食い違っている場合には、結果が胎児の状態を反映しないことがあります。これは方式を問わず共通の限界です。双胎については、ACMGの指針は双胎でも従来の方法よりNIPSを推奨しており[10]、マイクロアレイ版の臨床研究にも双胎の妊娠が含まれています[6]。これらの生物学的な要因は、NIPTの生物学的限界でまとめて解説します。
7. 染色体マイクロアレイ検査(CMA)との違い
染色体マイクロアレイ検査(CMA)は、本人の細胞から取り出したDNAを直接調べて、染色体の微細な過不足を検出する検査です。NIPTのマイクロアレイ法とは、検体も目的も結果の位置づけも異なります。CMAには、DNAの量を対照と比べるCGHアレイと、SNPの型と量を調べるSNPアレイ、両者を組み合わせたアレイがあります。いずれも多数のDNAプローブを用いて染色体領域のコピー数の変化を調べます。SNPを測定できるアレイでは、コピー数が変わらないヘテロ接合性の喪失(両親から受け継いだ異なる型が見られず、同じ型が続く領域)も検出できますが、SNPを含まないCGHアレイでは検出できません[13]。
🔬 NIPTのマイクロアレイ法と染色体マイクロアレイ検査(CMA)
| 項目 | NIPTのマイクロアレイ法 | 染色体マイクロアレイ検査(CMA) |
|---|---|---|
| 検体 | 母体血(cfDNA) | 羊水・絨毛の細胞、出生後は血液など |
| 調べるDNA | 母体由来と胎盤由来の混合 | 羊水中の胎児細胞、絨毛の胎盤細胞、出生後の本人の細胞のDNA |
| アレイの役割 | 標的座位の産物の量を読む | ゲノム全体のコピー数の変化を調べる |
| 位置づけ | 非確定的検査(スクリーニング) | 確定的な検査として用いられる |
| 公的医療保険 | 対象外 | 出生後、対象疾患を疑う場合に適用 |
日本では、CMAは2021年10月に保険適用となりました[13]。保険制度の上では、列挙された染色体微細構造異常症候群および類縁疾患を疑うときに対象となり[13]、検査実施料は8,000点です[14]。現在の対象疾患・算定条件についても、最新の検査案内で確認する必要があります[17]。実施できるのは、遺伝カウンセリング加算の施設基準を届け出ている保険医療機関に限られます[14]。保険の条件の詳細はマイクロアレイ検査の保険適用のページにまとめています。
CMAにも限界があります。均衡型の転座や逆位のように、DNAの量が変わらない構造の変化は検出できません。点変異やメチル化の異常も検出の対象外で、低い頻度のモザイクも検出が難しいとされています[14]。
NIPTで陽性の結果が出て、染色体の一部の過不足が疑われるときには、羊水や絨毛を採取し、その細胞でCMAを行って確かめるという流れになります。つまり2つの検査は対立するものではなく、スクリーニングと確定という前後の関係にあります。当院で行っているCMAについてはマイクロアレイ染色体検査(CMA)のページで案内しています。
8. 方式よりも大切なこと
測定方式が何であっても、NIPTはスクリーニング検査であり、陽性の結果だけで診断は確定しません。この点は、WGS法でもSNP法でもマイクロアレイ法でも同じです。日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会の指針は、結果ごとの説明内容を次のように定めています[15]。
結果が陽性の場合、対象の染色体トリソミーがある可能性は、事前確率と検査の感度・特異度から計算した陽性的中率に応じて高くなり、確定的検査を受ける相当の理由になります。ただし偽陽性がありうるため、この結果だけで診断を確定させることにはなりません[15]。結果が判定保留の場合は、再検査を行うか、侵襲を伴う検査を行うかが選択肢になります[15]。結果が陰性の場合は、対象のトリソミーがある可能性がきわめて低いという意味ですが、偽陰性となることもありえます[15]。
確定的検査にあたるのが羊水検査・絨毛検査です。採取した細胞の染色体を直接調べる検査ですが、母体細胞の混入を確認する必要があります。また、絨毛検査は胎盤の細胞を調べるため、胎盤限局性モザイクなどでは羊水検査による追加確認が必要になることがあります。
海外の指針も、方式を指定してはいません。ACMGは、単胎と双胎のいずれについても、21・18・13トリソミーのスクリーニングとして従来の方法よりNIPSを強く推奨していますが[10]、推奨の対象は「cfDNAを使ったスクリーニング」であって、特定の測定方式ではありません。3つのトリソミーに関するかぎり、方式の間に確かな差があることを示す根拠は乏しいというのが現状です[3]。
🩺 院長コラム【方式の名前で検査を選ぶ前に】
WGS法かSNP法かマイクロアレイ法かで、3つのトリソミーの結果の意味が変わるわけではありません。どの方式でも、陽性なら確定的検査で確かめる必要があり、陰性でも可能性がゼロになるわけではありません。
検査の説明で確認すべきなのは、その検査が何を対象にしていて、何は対象にしていないのか、そして陽性・判定保留・陰性のそれぞれで次に何をするのかです。検査結果は、測定方式の名前だけでは判断できません。検査の範囲と結果の意味を正しく理解し、必要に応じて確定的検査へつなげることが、検査前後の説明で重要になります。
9. よくある質問(FAQ)
Q1. マイクロアレイベースのNIPTは、羊水検査のマイクロアレイ検査と同じですか?
いいえ、別の検査です。NIPTのマイクロアレイ法は母体血のcfDNAを測る非確定的検査で、マイクロアレイは標的領域の量を読む装置として使われます。羊水検査などで行う染色体マイクロアレイ検査(CMA)は、胎児の細胞から取り出したDNAを直接調べ、染色体の微細な過不足を検出する検査です。
Q2. マイクロアレイ法はシーケンス法より精度が低いのですか?
低いとはいえません。マイクロアレイ法を対象にしたメタ解析では、21トリソミーの感度が99.5%、特異度が100%で、シーケンスとの直接比較でも精度は同等と報告されています。ただし、根拠となる研究は少なく、偏りのリスクが高いとされています。
Q3. マイクロアレイ法で全染色体や微小欠失は調べられますか?
設計に含めた領域だけを調べられます。標的型の方式なので、標的にしていない染色体や領域は評価できません。22q11.2欠失については専用の測定を追加した方法が評価されており、ある研究では欠失のある例の69.6%を検出し、偽陽性はありませんでした。
Q4. 胎児分画が低いと結果はどうなりますか?
結果が出ず、判定保留になることがあります。トリソミーによる量の増え方は胎児分画に比例するため、胎児分画が低すぎると正常と異常の区別がつきません。臨床研究では799例のうち8例が胎児由来DNAの不足で結果を得られませんでした。
Q5. 検査を選ぶとき、測定方式で選ぶべきですか?
21・18・13トリソミーに関しては、方式の間に確かな差があることを示す根拠は乏しいのが現状です。方式の名前よりも、その検査が何を対象にしているか、陽性や判定保留のときに確定的検査までどうつながるかを確認することが先になります。
Q6. マイクロアレイ検査は保険適用ですか?
染色体マイクロアレイ検査(CMA)は2021年10月に保険適用となりましたが、対象は出生後に特定の染色体微細構造異常症候群を疑う場合で、施設の条件もあります。NIPTは、測定方式にかかわらず公的医療保険の対象ではありません。
10. まとめ
マイクロアレイベースのNIPTは、cfDNAから標的の座位だけを選んで増やし、その量をマイクロアレイで読み取る標的型の方式です[1]。染色体の量を測る非多型座位と、胎児分画を測るSNPを同じ反応で調べ、両方を組み合わせてトリソミーのリスクを計算します[5]。
3つのトリソミーについては高い感度と特異度が報告されていますが、根拠となる研究は少なく、偏りのリスクが高いと評価されています[7]。標的にしていない領域は評価できず、量の比で判定するため三倍体は通常検出できません[8]。確定検査で使う染色体マイクロアレイ検査(CMA)とは別の検査であり、NIPTの陽性は確定的検査で確かめる必要があります[4]。
第3章では、このあと微細欠失(微小欠失)の同定とNIPTの生物学的限界を扱います。
🏥 NIPTの受検を検討している方へ
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が検査前後の遺伝カウンセリングを行い、検査の対象と結果の意味を説明したうえでNIPTを実施しています。当院のNIPTの検査内容はNIPT(新型出生前診断)のページで確認できます。
参考文献
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