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WGSベースのNIPT:性染色体異数性をXとYの2次元で判定する仕組み

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

WGSベースのNIPTで性染色体異数性(モノソミーX、XXX、XXY、XYYなど)を判定するときは、常染色体のように1本の染色体の量だけを見るのではなく、X染色体とY染色体の量を組み合わせた「2次元」で判定します。たとえば、X染色体が1本のモノソミーXの女児と、正常なXYの男児は、X染色体の量だけを見るとどちらも「1本」で区別できません。Y染色体の量を合わせて見ることで、初めて見分けられます。このページはNIPTの教科書シリーズ第3章の3-2-7として、X・Yの判定がなぜ13・18・21番より難しいのか、Y染色体由来の配列、母体のX染色体、母体の性染色体モザイクという3つの壁を中心に、計算例とともに臨床遺伝専門医の立場から解説します。

⏱ 30秒でわかる要約

Q. 性染色体異数性はどう判定する?

X染色体とY染色体のリードの量を2つ組み合わせて判定します。モノソミーXとXYの男児はXの量が同じでも、Yの有無で見分けられます。

Q. なぜ13・18・21番より難しい?

Y染色体はXと似た配列が多く数えにくいこと、母体自身のX染色体の変化が胎児の変化よりはるかに大きく出ること、胎児分画が低いと型どうしの差が縮むことが理由です。

Q. 陽性ならどのくらい当たる?

2023年のメタ解析では、陽性的中率は性染色体異数性全体で約49%、モノソミーXでは約32%と報告されています。陽性は必ず確定検査で確かめます。

Q. 母体の染色体の影響とは?

母体がXXXや性染色体のモザイクをもっていると、胎児の異常に見えてしまうことがあります。陽性の約9%が母体のX染色体の変化によるものだったという報告があります。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 NIPT教科書 第3章(3-2-7)
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. NIPTで性染色体異数性の判定が13・18・21トリソミーより難しいのはなぜですか?

A. 性染色体はXとYの2本を組み合わせて判定する必要があり、その両方に特有の難しさがあるからです。Y染色体は小さく、X染色体とよく似た配列や反復配列が多いため、正確に数えにくい染色体です。X染色体については、母体自身がXXXや性染色体のモザイクをもっていると、その変化が胎児の変化の何倍もの大きさで現れ、胎児の異常と取り違えられることがあります。そのため性染色体の陽性的中率は常染色体より低く、陽性は必ず確定検査で確かめる必要があります。

  • ➤2次元の判定 → Xの量とYの量を組み合わせて、XY・XXY・XYYなどを見分ける
  • ➤女児 → Yがないので、Xの量だけの1次元で45,X・XX・XXXの可能性を評価
  • ➤Y染色体の壁 → 小さく、Xと似た配列や反復配列が多い
  • ➤母体の壁 → 母体のXXXやモザイクは、胎児の変化よりはるかに大きく現れる
  • ➤陽性的中率 → 全体で約49%、モノソミーXは約32%(2023年のメタ解析)

妊婦と女性医師、DNA・染色体・結果説明のアイコンを配し、NIPTの基礎・検査の種類・結果の読み方を示すシリーズ共通画像

NIPTの教科書シリーズの共通画像です。本記事では、性染色体異数性の評価におけるX・Yのリード量と、母体・胎盤の影響を説明します。

1. 結論:性染色体異数性は「XとYの2本の物差し」で判定する

WGSベースのNIPTでは、13・18・21番のような常染色体の異数性は、その染色体由来のリード密度が増えたか減ったかという「1次元」で判定します。一方、性染色体異数性の判定には、X染色体とY染色体の2つのリード密度を組み合わせた「2次元」の解析が必要です。男女で性染色体の正常な組み合わせが違ううえに、XとYの両方の本数が同時に変わりうるからです。

ここでいう性染色体異数性とは、性染色体の本数が正常(女性はXX、男性はXY)と異なる状態のことです。NIPTで対象になる代表的なものは、X染色体が1本しかないモノソミーX(45,X、ターナー症候群)、Xが3本のXXX(トリプルX症候群)、Xが2本とYが1本のXXY(クラインフェルター症候群)、Yが2本のXYY症候群です。それぞれの病気の症状や経過はNIPT性染色体異常のページで解説しています。染色体の数の異常そのものの考え方は異数性の用語ページ、性染色体の基本は性染色体とはをご覧ください。

モノソミーXとXYの男児はXだけでは見分けられない

2次元の解析が必要な理由は、具体例で考えると分かりやすくなります。母体が46,XXであると仮定すると、母体由来のcfDNAにはX染色体が2本分含まれます。ここでいう胎児由来のcfDNAは主に胎盤に由来し、以下の計算では胎児と胎盤の核型が一致すると仮定します。胎児がモノソミーX(45,X)の女児なら、胎児由来の部分にはXが1本分しかないため、血漿全体で見るとX染色体のリード密度がわずかに下がります。ところが、胎児が正常なXYの男児の場合も、胎児由来の部分のXは1本分です。X染色体の密度だけを見ると、モノソミーXの女児と正常な男児はまったく同じ「Xが1本」の状態に見えるのです。

この2つを見分けるのがY染色体です。モノソミーXの検体ではY染色体由来のリードはほぼゼロですが、XYの男児の検体では、Xの減少と同時にYのリードが現れます。Xの減り方とYの増え方を組み合わせて見ることで、初めて両者を区別できます。常染色体では起こらないこの状況が、性染色体の判定を特別なものにしています。

症状が目立たないまま過ごす人が多い

性染色体異数性は、13・18・21トリソミーとは性質がかなり異なります。とくにXXX、XXY、XYYは、生まれたときに目立った特徴がないことが多く、本人も家族も気づかないまま大人になる人が少なくありません。不妊の検査などをきっかけに、成人してから初めて分かることもあります。このことは、NIPTの解析にとって2つの意味をもちます。1つは、胎児の性染色体異数性が見つかったときに、その意味をどう伝えるかという臨床的な問題です。もう1つは、母体自身が気づかないままXXXなどの性染色体の変化をもっている可能性があり、それが解析の結果を左右するという技術的な問題です。後者については3.で詳しく見ていきます。

2. XとYの量はどう変わるか:計算で確かめる

母体が46,XXで、胎児と胎盤の核型が一致すると仮定し、胎児分画をfとすると、常染色体を基準にしたXの相対量は約「2×(1−f)+胎児のX本数×f」です。正常XXのXの量を1とする密度は、この値を2で割ったものになります。母体由来のYがない場合、Yの量は胎児のY本数とfに比例します。この式に胎児の核型を当てはめると、どの核型がどのような組み合わせになるかが計算できます。リードの密度の考え方は3-2-1で説明しています。

📊 胎児の核型とX・Yのリード密度(胎児分画10%の計算例)

胎児の核型 Xの密度(正常XXの女性=1) Yの密度(胎児分画10%・Y1本=1) 判定のしかた
46,XX(正常女児) 1.00 0 基準
45,X(モノソミーX) 0.95 0 Xだけで判定(1次元)
47,XXX 1.05 0 Xだけで判定(1次元)
46,XY(正常男児) 0.95 1 XとYで判定(2次元)
47,XXY 1.00 1 XとYで判定(2次元)
47,XYY 0.95 2 XとYで判定(2次元)

※Xの密度は、正常女性のX 2本分を1としたときの血漿全体の相対値です。Yの密度は、胎児分画10%でYが1本の場合を1とした相対値です。母体は46,XX、胎児と胎盤の核型は一致し、常染色体で正規化する近似モデルです。実際の値はマッピングの偏りなどで変わります。

表を見ると、モノソミーXと正常男児とXYYはXの密度がどれも0.95で、Yの密度だけが0、1、2と違います。一方、XXYは正常女児と同じXの密度1.00ですが、Yが1本分あります。XとYのどちらか一方だけを見ても判定できず、胎児分画と2つの値の組み合わせから核型の可能性を推定することが分かります。

女児(Yがない検体)では1次元で判定できる

十分な胎児分画があり、Yのシグナルが背景と区別されない検体では、胎児がYをもたないと仮定して、Xの量を中心にした1次元の評価ができます。低胎児分画のXYを除外できない場合は、Yが検出されないだけで女児と判断することはできません。Xの密度が正常女児の値(1.00)から下がっていればモノソミーX、上がっていればXXXを疑います。胎児分画10%なら変化は±5%、胎児分画5%なら±2.5%で、常染色体のトリソミーやモノソミーと同じ大きさです。ここまではZスコアによる判定の考え方をそのまま当てはめられます。

3-2-1で示した式(期待される信号が標準偏差の3倍になる解析用総リード数 ≧ 36 ÷(その染色体の割合 × 胎児分画²))をX染色体に当てはめると、Xはゲノムの約5%を占めるため、胎児分画4%で約45万本、2%でも約180万本のリードがあれば、理想的な計数統計では期待される変化が標準偏差の3倍になる計算です。ただし、判定閾値も3標準偏差なら陽性検体の平均が閾値に重なるため、高い検出率を保証する本数ではありません。21番では同じ目安が約150万本と約600万本なので、Xは数えやすい染色体だといえます。それでも女児のモノソミーXやXXXの判定が難しいのは、このあと3.で見るように、ゆらぎとは別の、母体側の要因による変化が大きいからです。

男児(Yがある検体)ではXとYの2次元で判定する

Y染色体由来のリードがある検体では、Xの減少量(1−Xの密度)を横軸、背景を補正したYの量を縦軸にとった平面の上で、検体がどこに位置するかで判定します。多数の正常なXYの男児の検体を並べると、胎児分画が高いほどXは下がり、Yは上がるので、検体は原点から伸びる1本の直線(XYの線)の上に並びます。XXYの検体はXが下がらずにYだけが上がるので、別の向きの線の上に並びます。XYYの検体は、同じXの下がり方に対してYがXYの2倍になるので、XYの線の傾きを2倍にした線の上に並びます。核型が胎児と胎盤で一致する理想モデルでは、この線への近さを胎児分画やばらつきと合わせて評価し、XY・XXY・XYYの可能性を判定します。実際のアルゴリズムは検査法によって異なります[1]。

📊 図:男児の検体で胎児分画が上がると、XとYはどう動くか

胎児分画 XY(X/Y) XXY(X/Y) XYY(X/Y)
2% 0.99/0.2 1.00/0.2 0.99/0.4
10% 0.95/1.0 1.00/1.0 0.95/2.0
20% 0.90/2.0 1.00/2.0 0.90/4.0

Yの値は胎児分画10%のXY男児を1とした相対値です。胎児分画20%では3つの型の差がはっきり開きますが、2%ではXもYもほとんど差がなくなります。

2つのZスコアを組み合わせる

判定方法の一例では、XとYそれぞれについて、正常な検体の集団から期待される値と観察された値の差をZスコアのような統計量で表し、その2つの組み合わせで判断します。たとえば、Yのシグナルが背景と区別できない検体では、Xの統計量が大きく負ならモノソミーX、大きく正ならXXXを疑います。Yのシグナルがはっきりある検体では、Xの減り方とYの増え方の比が、XY・XXY・XYYのどの線に最も近いかを評価します。常染色体では「1本の物差しの上で、基準からどれだけ離れたか」を見ればよかったのに対し、性染色体では「平面の上で、どの線に最も近いか」を見る問題になるのです。

この平面上の判定では、正常な男児の検体がつくるXYの線そのものを、精度よく決めておく必要があります。XYの線の傾き、つまり胎児分画が上がったときにXが下がる量とYが上がる量の比は、Y染色体のうちどの領域をどう数えるかによって変わるため、多数の男児の検体から経験的に決めます。XYYの線は、このXYの線の傾きを2倍にしたものとして引くことができます。

男児の胎児分画はX染色体から推定できる

この関係を逆に使うと、母体が46,XXで、胎児と胎盤が46,XYの理想条件では、補正・正規化したX染色体の密度から胎児分画を推定できます。XYの男児では胎児由来の部分のXが1本分なので、Xの密度は「1−胎児分画÷2」になります。これを変形すると、胎児分画 = 2 ×(1 − Xの密度)です。たとえばXの密度が正常女性の基準の95%なら、胎児分画は2×0.05で10%と求まります。Y染色体の密度からも、同じように胎児分画を推定できます。男児の検体でXとYから求めた胎児分画が一致することは、検体の判定が正しいかを確かめる手がかりにもなります。胎児分画を推定するほかの方法は胎児ゲノム率のページで扱います。

ただし、この式をそのまま使えるのは、胎児と胎盤が46,XYで、母体のXのコピー数変化などがないと仮定できる場合です。XXYの男児ではXが下がらないので、Xから計算すると胎児分画は0%になってしまいます。そのため、胎児分画は、検査法に応じて常染色体の断片の特徴やSNPなど性染色体以外の情報も使って推定し、XやYから推定した値と比較できます。常染色体から推定した胎児分画と、XやYから推定した胎児分画が食い違うこと自体が、性染色体の異常、母体側の要因、推定誤差などを検討する手がかりになるのです。

3. 性染色体の判定が13・18・21番より難しい理由

性染色体異数性の判定が常染色体より難しい理由は、大きく分けて、次のような要因があります。Y染色体が数えにくいこと、母体自身のX染色体の変化が大きく現れること、胎児分画が低いと型どうしの差が小さくなること、そして胎盤のモザイクが起こりやすいことです。

X染色体そのものは数えにくくない

誤解のないように付け加えると、染色体全長と理想的な計数統計だけを見れば、X染色体は21番より有利です。X染色体は約1億5,600万塩基対とゲノム全体の約5%を占める大きな染色体で、21番の3倍以上のリードが集まります。数えるときのゆらぎという点だけを見れば、21番よりむしろ有利です。ただし、XにもマッピングやGC含量などの偏りがあり、長さだけで実際の精度は決まりません。さらにYの数えにくさと、母体という大きな「別の持ち主」のXが同じ血漿に混ざっていることが、判定を難しくします。

壁①:Y染色体は小さく、Xと似た配列が多い

GRCh38のY染色体は約5,700万塩基対とヒトの染色体の中でも小さいうえに、その大部分が反復配列で占められています。さらに、Yの両端にはX染色体と同じ配列をもつ偽常染色体領域があり、この部分に由来するリードはXから来たのかYから来たのか区別できません。偽常染色体領域の外にも、X染色体とよく似た配列をもつ部分があります。そのため、Yとして数えられるのは、Y染色体にしかない配列に一意に当てはまったリードだけになります。

この性質のため、胎児が女児の検体でも、X染色体由来のリードがわずかにYに誤って当てはまり、Yのリードが完全なゼロにはなりません。女児の検体で生じるこの「背景のYのリード」と、胎児分画の低い男児の検体のわずかなYのリードを見分けなければならないのです。胎児分画が低い男児の検体では、Yのシグナルが背景に近づき、性別の判定そのものが難しくなることがあります。Y染色体の構造はY染色体のページで説明しています。

壁②:母体自身のX染色体の変化は桁違いに大きく現れる

性染色体の判定で最も大きな落とし穴が、母体自身のX染色体です。血漿中のcfDNAの大部分は母体に由来するため、母体のX染色体の本数が変わっていると、モザイクの割合などに応じて、その影響が胎児の変化より大きく現れることがあります。計算してみましょう。胎児分画10%で、胎児がXXXの場合、Xの密度の増加は0.1÷2で5%です。一方、母体自身がXXXだった場合は、母体由来の90%の部分でXが1.5倍になるので、Xの密度は約45%も増えます。母体の変化は胎児の変化の約9倍の大きさで現れるのです。

47,XXXの女性の多くは目立った症状がなく、自分の核型を知らないまま妊娠しています。また、一部の細胞だけがXXXや45,Xであるモザイクの女性もいます。こうした母体の変化を胎児の変化と取り違えると、偽陽性になります。2014年の研究では、性染色体異数性で陽性となった181例のうち16例(単純計算では約8.8%;原著では8.6%と記載)が、母体のX染色体の異常(XXXや45,Xのモザイクなど)によるものでした[2]。母体の変化が胎児の変化より大きく現れる場合があるため、変化の大きさが胎児分画から予想される範囲を大きく超えているかどうかが、母体由来を疑う手がかりになります。母体由来のコピー数の変化を解析で扱う考え方は母親のコピーナンバーバリアントと共通しています。

計算:母体のわずかなモザイクが胎児のモノソミーXに見える

母体の変化がどれほど紛らわしいかを、もう1つ計算で確かめてみます。胎児分画が10%で、胎児は正常な女児(XX)だとします。母体由来のcfDNAの供給源における45,X細胞の寄与が10%で、各細胞のDNA放出が同程度と仮定すると、母体由来の90%の部分でXの量が5%減るので、血漿全体のXの密度は0.9×0.95+0.1×1で約0.955になります。この値は、胎児分画が約9%の検体で胎児がモノソミーXだった場合のXの密度とほぼ同じです。

つまり、この理想モデルでは、母体由来のcfDNAの供給源に45,X細胞が1割寄与するだけで、胎児のモノソミーXとほとんど区別できない結果になりうるのです。常染色体から推定した胎児分画が10%前後であれば、「胎児分画とつじつまの合う減り方」に見えてしまうため、変化の大きさだけでは見分けられません。このような場合に真の原因を確かめるには、羊水検査で赤ちゃんの核型を調べるとともに、必要に応じて母体自身の染色体を検査することになります。

壁③:年齢とともに起こる母体のX染色体の喪失

母体のX染色体の変化は、生まれつきのものだけではありません。女性では、年齢とともに血液細胞の一部でX染色体が1本失われることがあり、不活化されている側のXが失われやすいという報告があります[7]。母体の血液細胞の一部が45,Xになると、母体由来のcfDNAのXがわずかに減り、胎児のモノソミーXと同じ方向の変化として現れます。モノソミーXの陽性的中率がほかの性染色体異数性より低い理由の1つが、この母体側の変化です。X染色体の不活化についてはX染色体不活化で、母体のモザイクが偽陽性を生む臨床的な意味は第5章の母体側の要因で解説しています。

壁④:胎児分画が低いと3本の線が原点で重なる

2次元の判定で使うXY・XXY・XYYの3本の線は、どれも「胎児分画0%」の点から伸びています。表のX・Y密度の座標ではこの点は(1,0)であり、Xの減少量(1−Xの密度)を横軸にすると原点(0,0)になります。胎児分画が高い検体では3本の線が離れているので見分けやすいのですが、胎児分画が低い検体では3本の線が原点の近くで重なり合い、どの型なのかの区別が難しくなります。図の表で胎児分画2%のときにXもYもほとんど差がなかったのは、このためです。

このような原点に近い検体の扱いは、検査法と品質基準によって異なります。胎児分画や統計的な確かさが基準に達しなければ、判定保留や再採血の対象になります。XYが集団内で多いことを理由に、判定困難な検体を一律にXYとして報告することはできません。低胎児分画でXXYやXYYの検出感度が下がりうることは、量を比べる解析に共通する課題です。

胎盤のモザイクとモノソミーX

モノソミーXは、胎盤だけ、あるいは胎児の一部の細胞だけに起こるモザイクが多い染色体の変化です。胎盤の一部だけが45,Xであれば、NIPTは陽性になっても赤ちゃんは正常な核型ということがあります。逆に、生まれてくる45,Xの人の多くは、正常な細胞の系列をどこかに併せもつ見つかりにくいモザイクではないかという仮説も提唱されています。すべての45,X症例で隠れたモザイクが確認されているわけではありません[3]。モザイクでは異常な細胞系列に由来する胎児分画が全体の胎児分画より小さくなるので、変化は表の計算より小さく現れます。モノソミーXの陽性を確かめるときに羊水検査が優先される理由はNIPT陽性後の確定診断で、胎盤のモザイクの型はモザイクと偽陽性・偽陰性で詳しく解説しています。

4. 性染色体異数性の陽性はどのくらい当たるのか

ここまでの難しさは、陽性的中率という数字にはっきり現れています。2023年に報告された94研究・約153万人のメタ解析では、性染色体異数性に対するNIPTの感度は94.1%、特異度は99.5%と高い一方で、陽性的中率は全体で49.4%にとどまりました[4]。これは、陽性後に診断検査を受けた症例のうち、胎児の性染色体異数性が確認された割合を統合した値です。約半数で胎児の異数性が確認されなかったことを示しますが、すべての検査施設や個々の妊婦に同じ確率を当てはめることはできません。

📊 性染色体異数性の種類別の陽性的中率(2023年のメタ解析)

核型 陽性的中率 95%信頼区間
45,X(モノソミーX) 32.0% 27.0〜37.3%
47,XXX 57.5% 51.7〜63.1%
47,XXY 67.6% 62.5〜72.5%
47,XYY 70.9% 63.9〜77.1%

※出典はBussolaroら(2023年)[4]です。陽性後に診断検査を受けた症例を基に算出された統合値です。施設・対象集団・追跡方法によって値は変わります。

この表は、ここまでの解析の話ときれいに対応しています。陽性的中率が最も低いのはモノソミーXで、これは母体のX染色体の喪失やモザイク、胎盤のモザイクという、Xが「減る」方向の偽陽性の原因が多いためです。一方、このメタ解析ではXXYやXYYの陽性的中率が比較的高くなっています。ただし、XXYで増えるのはXであり、同じ胎児分画のXYよりYが増えるわけではありません。XYYではYの量が増えますが、これらの陽性的中率の差は、対象集団や胎盤・母体の要因、検査法なども含めて解釈する必要があります。性染色体検査の精度についてはNIPTにおける性染色体検査の精度、陽性的中率の考え方そのものはNIPTの精度(感度・特異度・陽性的中率)で解説しています。

なお、陽性的中率は検査そのものの性能だけでなく、検査を受ける集団にその異常がどれくらいあるかによっても変わります。母体年齢との関係は核型ごとに異なり、XXXやXXYでは母体年齢との関連が報告される一方、XYYでは一貫した関連は確立していません。研究集団によって結果にも違いがあります[8]。したがって、性染色体異数性全体を一括して母体年齢から陽性的中率を判断することはできません。とくに偽陽性の原因が母体側に多いモノソミーXでは、年齢とともに母体のX染色体の喪失が増えることも考えると、陽性の結果を慎重に解釈する必要があります。

💡 陽性のときに確認したいこと

性染色体異数性で陽性になった場合は、羊水検査などの確定検査で赤ちゃんの核型を確かめます。変化の大きさが胎児分画から予想される範囲を大きく超えているときは、母体自身のX染色体の変化を疑い、必要に応じて母体の染色体検査を検討します。

5. 性別の判定とY染色体のシグナル

NIPTで胎児の性別が分かるのも、この性染色体の解析の応用です。検体品質と胎児分画が基準を満たしたうえで、Y染色体由来のリードが背景より明らかに多ければYをもつ胎児、背景と区別されなければYをもたない胎児と推定します。通常はそれぞれ男児・女児として報告されますが、外性器の性別を直接調べているわけではありません。性別の判定そのものの精度は高いものの、Yのシグナルは胎児以外からも来ることがあり、超音波や出生時の性別と食い違う場合があります。

たとえば、双子の片方が早い時期に育たなくなるバニシングツインで、育たなかった側が男児だった場合、その胎盤から出たYのDNAが残り、女児の妊娠でもYが検出されることがあります。母体が男性から臓器移植や骨髄移植を受けている場合も、母体の血漿にYのDNAが含まれます。逆に、Y染色体の一部が欠けている場合や、性分化の過程に違いがある場合には、核型と外見の性別が一致しないこともあります。こうした食い違いの原因は第5章の胎児の性別の不一致で詳しく解説しています。

性別を判定するときにも、しきい値の問題があります。女児の検体でもXに由来するリードがわずかにYへ誤って当てはまるため、Yのリードは完全なゼロにはなりません。一方、胎児分画が非常に低い男児の検体では、Yのリードはこの背景にかなり近づきます。どこから上を「男児」とするかのしきい値を低くすれば男児の見逃しは減りますが、女児を男児と判定する誤りが増え、高くすればその逆になります。胎児分画が低すぎて性別を確実に判定できない検体では、性別を判定保留として報告するのが適切な扱いです。

解析の立場から見ると、これらはすべて「Yのリードがどこから来たのか」という問題です。NIPTはリードの量を数えるだけで、そのリードが胎児の細胞から来たのか、育たなかった双子や移植された臓器から来たのかを区別することはできません。結果の数字は正しく測れていても、その解釈には妊娠の経過や母体の病歴という、検査の外にある情報が欠かせないのです。

XとYの比較から三倍体の手がかりが得られることもある

XとYの解析は、性染色体の異常以外の手がかりにもなります。その1つが三倍体です。三倍体ではすべての染色体が3本ずつになるため、WGSベースのNIPTで常染色体どうしの密度を比べても差が出ず、通常の方法では見つけにくい異常です。69,XXYや69,XYYでは、二倍体を前提にしたX・Yの比や胎児分画推定値が整合しない場合があり、追加評価の手がかりになりえます。ただし、ずれの大きさは核型、胎児分画の定義、正規化・推定方法によって異なり、一定の数値関係で三倍体を判定することはできません。通常のリード量に基づくWGS型NIPTで三倍体を確実に検出できるという意味ではなく、疑う場合には超音波所見や診断検査を含めて評価します。

6. 性染色体の検査を受ける前に知っておきたいこと

性染色体異数性の多くは、13・18・21トリソミーと比べて症状が軽いか目立たないことが多く、陽性的中率も低いため、検査を受ける前にその意味を理解しておくことが特に大切です。日本の出生前検査の認証制度のもとで行われるNIPTは、13・18・21番の3つのトリソミーを対象としており、性染色体は対象に含まれていません[5]。一方、米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は2023年の指針で、性染色体異数性のスクリーニングとしてNIPTを選択肢として提供することを強く推奨しています[6]。国や制度によって扱いが分かれていること自体が、この検査の結果をどう受け止めるかの難しさを表しています。

性染色体の検査を受けるかどうかを考えるときには、次のような点を事前に確認しておくとよいと考えます。陽性になったときに確定検査を受けるかどうか。前述のメタ解析の診断確認例では、全体で約半数、モノソミーXでは約3分の2で胎児の異数性が確認されなかったこと。個人の陽性的中率は検査法や対象集団によって異なること。陽性の背景に母体自身のX染色体の変化が見つかる可能性があり、それが母体自身の健康や家族にも関わる情報になりうること。そして、性染色体異数性の多くは、生まれたあとに適切な支援を受けながら生活できる状態であることです。

陽性と出たあとの確かめ方

性染色体異数性で陽性となった場合、赤ちゃんの核型を確かめるには羊水検査が基本になります。モノソミーXのように胎盤のモザイクが起こりやすい変化では、超音波所見などに応じて、胎児の状態を反映しやすい羊水細胞を調べる羊水検査が優先されることがあります。絨毛検査を選択した場合、胎盤限局性モザイクのために追加の羊水検査が必要になることがあります。羊水検査の結果が正常で、NIPTでのXの変化が大きかった場合や、検査前から母体自身の性染色体に気になる点がある場合には、母体の血液で染色体を調べることも選択肢になります。母体の染色体を調べるときは、血液細胞の一部だけに変化があるモザイクを見逃さないよう、通常より多くの細胞を数える必要があることもあります。染色体検査の方法はGバンド法のページで説明しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「Xが減った」の意味を、誰のXかから考える】

性染色体の結果を読むときに大切なのは、「どのXが変化したのか」を考えることだと考えています。NIPTの数字が示すのは、血漿全体のX染色体の量がわずかに変わったという事実だけです。それが赤ちゃんのXなのか、胎盤の一部のXなのか、それとも母体自身の血液細胞のXなのかは、数字だけでは分かりません。

とくにモノソミーXの陽性では、母体の年齢とともに起こるXの喪失や、母体がこれまで気づかずにいた性染色体のモザイクが背景にあることがあります。その場合、NIPTの結果は赤ちゃんの検査であると同時に、母体自身の染色体を映した結果にもなります。陽性の結果を受け取ったときには、赤ちゃんの確定検査とあわせて、母体側の可能性も含めて冷静に整理することが、正しい理解への近道だと考えています。

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よくある質問(FAQ)

Q1. NIPTで性染色体異常はわかりますか?

はい、X染色体とY染色体のリードの量を組み合わせることで、モノソミーX、XXX、XXY、XYYなどの性染色体異数性の可能性を調べられます。ただし陽性的中率は13・18・21トリソミーより低く、陽性の場合は確定検査で確かめる必要があります。

Q2. 性染色体異数性とは何ですか?

性染色体の本数が正常(女性はXX、男性はXY)と異なる状態です。代表的なものに、モノソミーX(ターナー症候群)、XXX(トリプルX症候群)、XXY(クラインフェルター症候群)、XYY症候群があります。

Q3. なぜモノソミーXの陽性的中率は低いのですか?

母体の血液細胞で年齢とともに起こるX染色体の喪失や、母体の性染色体のモザイク、胎盤だけに起こるモザイクなど、Xが減る方向の偽陽性の原因が多いためです。2023年のメタ解析では、モノソミーXの陽性的中率は約32%でした。

Q4. 母体の染色体がNIPTの結果に影響するのはなぜですか?

血漿中のcfDNAの大部分は母体に由来するため、母体自身がXXXや性染色体のモザイクをもっていると、その変化が胎児の変化よりはるかに大きく現れます。胎児分画10%なら、母体のXXXは胎児のXXXの約9倍の大きさの変化として現れます。

Q5. 胎児分画が低いと性染色体の判定はどうなりますか?

XY・XXY・XYYを見分けるための差が小さくなり、区別が難しくなります。検査法と品質基準によっては判定保留や再採血の対象になります。XXYやXYYの検出感度が下がりうるため、判定困難な検体を一律に正常XYとみなすことはできません。

Q6. 女の子なのにYが検出されることはありますか?

あります。双子の片方の男児が早い時期に育たなくなったバニシングツインや、母体が男性から臓器移植を受けている場合などに、胎児以外に由来するYのDNAが検出されることがあります。

7. まとめ

WGSベースのNIPTで性染色体異数性を判定するには、X染色体とY染色体のリードの量を組み合わせた2次元の解析が必要です。モノソミーXの女児とXYの男児はXの量が同じでもYの有無で見分けられ、男児の検体ではXY・XXY・XYYがXとYの平面上で別々の線に並びます。十分な胎児分画がありYをもたないと判断できる検体では、Xの量を中心に1次元で評価できます。

一方で、Y染色体はXと似た配列や反復配列が多く数えにくいこと、母体自身のX染色体の変化が胎児の変化よりはるかに大きく現れること、胎児分画が低いと型どうしの差が小さくなること、胎盤のモザイクが起こりやすいことから、前述の2023年のメタ解析では、性染色体異数性の陽性的中率は全体で約49%、モノソミーXでは約32%でした。これは診断確認例の統合値であり、すべての施設に共通する固定値ではありません。陽性の結果は必ず確定検査で確かめ、母体側の可能性も含めて解釈することが大切です。次のページからは、SNPを使ったNIPTの仕組みを解説します。

🧬 NIPTを検討している方へ

ミネルバクリニックでは、常駐する臨床遺伝専門医が、NIPTで分かることと分からないこと、性染色体の検査を受けるかどうかの考え方、陽性の場合の確定検査の流れを含めて検査前の遺伝カウンセリングを行い、NIPTを実施しています。

参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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