目次
NIPTに必要なのは、母体血中のcfDNAの断片が「ゲノムのどこから来たか」を大量に数えることで、次世代シークエンサー(NGS)はそのための手段の1つにすぎません。実際に、断片の配列を読まずに数えるマイクロアレイ法や、1分子ずつ画像で数えるローリングサークル増幅の方式、PCRで数える方式が臨床で使われ、研究されてきました。方式が違えば、調べられる範囲、胎児分画の測り方、結果が出るまでの時間も変わります。このページでは、NGS以外のNIPT技術の仕組みと特徴を整理します。
Q. NIPTはすべて次世代シークエンサーで調べているのですか?
A. いいえ。多くはNGSを使いますが、マイクロアレイで数える方式や、ローリングサークル増幅で1分子ずつ数える方式も臨床で使われています。どの方式でも、調べたい染色体に由来する断片がどれだけ多いかを測るという原理は共通です。13・18・21番のトリソミーについては、どの方式も高い検出率が報告されていますが、調べられる範囲や胎児分画の測り方は方式によって異なります。
- ➤マイクロアレイ法 → 狙った領域の断片をハイブリダイゼーションで数える。SNPで胎児分画も測れる
- ➤ローリングサークル増幅 → PCRもシークエンスも使わず、増幅産物を1分子ずつ画像で数える
- ➤PCRで数える方式 → 速く安価だが、調べられる範囲が限られる
- ➤ナノポア → 長い配列を読む技術を、短いcfDNAに応用する研究が進んでいる
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. NGS以外でNIPTができるのはなぜ?
NIPTは、21番などの染色体に由来するDNA断片が「少しだけ多い」ことを見つける検査です。断片の配列をすべて読まなくても、どの染色体から来たかを区別して数えられれば、同じ判定ができるからです。
📊 Q. マイクロアレイ法の精度は?
5研究・3,074検体のメタ解析で、21トリソミーの感度99.5%・特異度100%、18トリソミーは97.7%・99.97%、13トリソミーは100%・99.97%でした。ただし研究数が少なく、偏りのリスクも指摘されています。
🔬 Q. 方式で何が変わる?
狙った領域だけを数える方式は、13・18・21番と性染色体が中心です。全染色体や微細な欠失・重複まで調べたい場合は、ゲノム全体を読むNGS法が必要になります。

1. NIPTに必要なのは「断片を数えること」:NGSは手段の1つ
NIPTの本質は、母体血中のDNA断片を染色体ごとに数え、ある染色体の断片がわずかに多い、あるいは少ないことを統計的に見つけることです。母体血漿に含まれるセルフリーDNA(cfDNA)は、主に細胞死に伴って血中へ放出される短いDNA断片で、ヌクレオソームに関連した約150〜170塩基前後の断片が多くみられます。そのうち胎盤に由来するものは1〜2割ほどで、残りは母親自身のDNAです。
胎児が21トリソミーの場合、21番染色体に由来する断片は、胎盤由来の分だけわずかに多くなります。胎児分画が10%なら、21番由来の断片の増え方はおよそ5%です。この小さな差を偶然のばらつきと区別するには、数十万から数百万個の断片を数える必要があります。言いかえると、NIPTの技術に求められるのは、①断片がどの染色体から来たかを区別できること、②それを大量に、速く、安く数えられること、の2つです。この条件を満たせば、シークエンスでなくてもNIPTは成り立ちます。
ほとんどのNIPTがIlluminaのNGSを使う理由
現在、シークエンスを使うNIPTのほとんどは、Illumina社の装置による「合成しながら読む(sequencing by synthesis)」方式の次世代シークエンサーで行われています。読み取った短い配列をヒトの参照ゲノムに照らし合わせ、どの染色体のどこに由来するかを決めたうえで数えます。この工程はNGSの仕組みとデマルチプレックスとアライメントで説明しています。
Illuminaの方式が広く使われているのは、ほかの方式より本質的に優れているからというより、1塩基あたりの費用と時間が、臨床で求められる検査期間と価格に見合っているためです。言いかえると、より速く安く数えられる技術が現れれば、主役が入れ替わる可能性があります。NGS以外の方式が開発されてきたのも、この「数える」部分をもっと簡単に、安く、速くしたいという動機によるものです。
NIPTでNGSを使う場合も、ゲノムを詳しく読み解く用途とは使い方がかなり違います。断片がどの染色体のどこから来たかが分かれば十分なので、1本の断片について読むのは先頭の数十塩基だけで足ります。読む長さを短くすれば、1回の運転で読める断片の数を増やし、多くの妊婦の検体をまとめて流して、1人あたりの費用を下げられます。つまり、NIPTにおけるNGSは「配列を読む装置」というより「大量の断片の住所を確かめて数える装置」として使われています。この見方に立つと、住所の確かめ方さえあれば、配列を読まない方式でも同じ目的を果たせることが分かります。
合成しながら読む方式と、そのほかのシークエンス方式
シークエンスの方式は1つではありません。DNAを1塩基ずつ伸ばす反応を光で読むサンガー法から始まり、伸長反応で出る物質を光に変えて読むパイロシーケンス、短いプローブを連結させて読むライゲーション法(sequencing by ligation)などが開発されてきました。NIPTの初期には、ライゲーション法の装置で胎児の異数性を検出し、あわせて母体血中の胎児DNAが胎盤の細胞性栄養膜に由来することを示した研究も発表されています[1]。
こうした方式の多くは、費用や処理能力の点でIlluminaの方式に置き換えられていきました。ただし、NIPTにとって大事なのは「どの装置で読んだか」ではなく、「断片の由来を区別して、十分な数を、偏りなく数えられたか」です。以下では、配列を読むこと自体を省いた方式と、まったく違う原理で配列を読む方式を順に見ていきます。
💡 用語解説:胎児分画(胎児ゲノム率)
胎児分画は、母体血中のcfDNAのうち胎盤に由来するものの割合です。割合が低いほど、トリソミーによる断片の増え方が小さくなり、判定が難しくなります。そのため、どの方式のNIPTでも胎児分画をどう測るかが精度を左右します。詳しくは胎児ゲノム率(胎児分画)で解説しています。
2. マイクロアレイ法:ハイブリダイゼーションで数える
マイクロアレイ法は、断片の配列を読まずに、相補的なDNAプローブと結合させて(ハイブリダイゼーション)その量を蛍光で測る方式です。マイクロアレイは、多数のプローブを基板に並べた検査用のチップです。狙った領域の断片がどれだけあるかを、プローブに結合した蛍光の強さで数えます。仕組みの詳細はマイクロアレイベースのNIPTで扱っています。
調べる場所を絞り、マイクロアレイで数える仕組み
NGSによる全ゲノム法では、cfDNAを無作為に読み、ゲノム全体のどこに由来するかを決めてから数えます。これに対して、マイクロアレイを使うNIPTの代表的な方式は、調べたい染色体の特定の領域だけを狙って増幅し、その量をマイクロアレイで測ります。13・18・21番と性染色体に絞って、それぞれの染色体上に多数の測定点を置き、その合計で染色体ごとの量を比べます。調べる範囲を最初から絞るため、必要な読み取り量が少なく、解析も単純になります。
一方で、狙っていない領域の情報は得られません。そのため、この方式で調べられるのは、設計した染色体の数の異常が中心になり、ほかの染色体のトリソミーや、ゲノム全体の欠失・重複を探すことはできません。マイクロアレイの基本原理であるハイブリダイゼーションは、確定検査で使う染色体マイクロアレイとも共通です。
SNPで胎児分画を測る仕組みと、成績
マイクロアレイ法の利点の1つは、胎児分画を直接測れることです。個人によって塩基が異なるSNP(一塩基多型)の部位に測定点を置くと、母親が持っていないアレル(父親由来のアレル)が胎児由来の断片にだけ現れます。その量から、胎盤由来のDNAが全体の何%かを計算できます。SNPを使う考え方は、NGSを使うSNPベースのNIPTとも共通しています。
マイクロアレイを使うNIPTの成績については、2020年に5研究・3,074検体をまとめたメタ解析があります。21トリソミーの感度は99.5%、特異度は100%、18トリソミーは97.7%と99.97%、13トリソミーは100%と99.97%でした[2]。NGS法と同じ水準の成績ですが、著者らは、研究数が少なく、偏りのリスクが大きいことも指摘しています[2]。
3. ローリングサークル増幅で1分子ずつ数える方式
ローリングサークル増幅(RCA)を使う方式は、シークエンスもマイクロアレイもPCRも使わず、狙った断片から作った増幅産物を1つずつ画像で数える方式です。2018年にVanadisという名前で報告され、その後、自動化された検査として臨床で使われています[3][4]。
仕組み:環状にしたDNAを増幅し、蛍光で数える
この方式では、21・18・13番染色体上の約3,500か所を狙う特殊なプローブを使います[3]。プローブが狙った断片と結合すると、断片が輪のようにつながった環状のDNAが作られます。この輪を鋳型にして、DNAポリメラーゼが輪の周りをぐるぐると回りながら同じ配列を何度も合成するのがローリングサークル増幅です。1つの輪から、同じ配列がつながった毛糸玉のような増幅産物(RCP)が1つできます。
増幅産物には、どの染色体に由来するかを示す色の異なる蛍光標識が付けられます。これをナノフィルターのプレートに集めて撮影し、色ごとに数を数えれば、染色体ごとの断片の量が分かります[3]。PCRのように指数関数的に増やすのではなく、1分子から1つの塊を作って数えるため、増幅の偏りが入りにくい点が特徴です。報告では、血漿検体での測定のばらつきは約0.3%と小さく、標準試料を用いた解析では分析的検出限界が胎児分画2%未満と算定されています[3]。
💡 用語解説:ローリングサークル増幅(RCA)
ローリングサークル増幅は、環状のDNAを鋳型にして、DNAポリメラーゼが輪の周りを回り続けながら同じ配列を長くつなげて合成する増幅法です。温度を上げ下げするPCRと違い、一定の温度で反応が進みます。1つの輪から1つの増幅産物ができるので、増幅産物の数がもとの分子の数を反映します。
対象が13・18・21番に限られることと、臨床での成績
2019年の臨床検証では、単胎妊娠の母体血漿1,200検体で、21トリソミーの感度100%(112/112)、18トリソミー89%(32/36)、13トリソミー100%(10/10)、特異度はそれぞれ100%、99.5%、99.9%でした。最初の検査で結果が出なかったのは0.4%で、胎児の性別の判定は99.6%で一致しました[4]。
この方式の強みは、シークエンサーのような大型の装置や高度な情報解析が要らず、検査室での手順が自動化しやすいことです。反対に、プローブを置いた13・18・21番(と性染色体)以外は調べられず、全染色体や微細な欠失・重複の検査には向きません。どの方式にも当てはまることですが、検出範囲は「どこを狙って設計したか」で決まります。
🩺 院長コラム【「何で読んだか」より「何を数えたか」】
NIPTの説明では、次世代シークエンサーという装置の名前が前に出がちです。けれども、どの方式も「胎盤由来のDNAが混じった血漿から、染色体ごとの量の差を見つける」という同じ問いに答えています。装置の違いは、その問いへの答え方の違いです。
検査を比べるときに見るべきなのは、装置の名前よりも、どの範囲を調べるように設計されているか、胎児分画をどう測っているか、という点だと考えています。そこが分かれば、陰性の意味も陽性の意味も読み違えずに済みます。
4. PCRで数える方式:qPCR・デジタルPCR
PCRを使う方式は、狙った染色体の配列をPCRで増やし、その量を比べることで異数性を判定します。装置が身近で、結果が早く出る利点がありますが、わずかな差を確実に見分けるには工夫が必要です。
PCRで数える発想と、その限界
PCRは、狙った配列を指数関数的に増やす技術です。増える速さから元の量を推定するのがqPCR(リアルタイムPCR)で、検体を多数の小さな区画に分けて、増幅が起きた区画の数を数えるのがデジタルPCR(dPCR)です。デジタルPCRは分子の数を直接数えるため、qPCRより小さな差を見分けやすくなります。
2022年には、21・18・13番染色体のコピー数を1本のデジタルPCR反応で同時に測る方法が報告されました。283検体の盲検試験で、21トリソミーの感度100%・特異度97.28%、18トリソミーは90%・99.63%、13トリソミーは100%・98.21%で、胎児分画5%まで検出でき、PCRの工程は約3時間でした[5]。速さと費用の面では魅力がありますが、特異度はNGS法やマイクロアレイ法より低く、著者ら自身も、母体血清マーカー検査に代わる一次スクリーニングとしての位置づけを議論しています[5]。偽陽性が多い検査は、確定検査を受ける人を増やすことになるため、PCRで数える方式は、現時点では研究段階、あるいは限られた用途の方式と考えるのが妥当です。
メチル化の違いとデジタルPCRを組み合わせる試み
PCRで数える方式の弱点を補う工夫の1つが、胎盤と母体血球のDNAのメチル化の違いを利用する方法です。胎盤では特定の領域がメチル化されている(あるいはされていない)ことを利用し、胎盤由来の断片だけを選んで数えれば、母体由来のDNAに埋もれた信号をはっきりさせることができます。メチル化の違いとデジタルPCRを組み合わせて21トリソミーを調べる試みについては、トリソミー21のためのメチル化ベースのNIPT開発のための概念実証研究で紹介しています。
メチル化の違いは、NGSを使うNIPTでも、胎児分画の推定や胎盤由来の信号を強める目的で使われています。NGSの方式どうしの違いについては、NIPTの世代別比較(第1〜3世代)と最新COATE法の違いで整理しています。
5. ナノポアなど、長い配列を読む技術
ナノポアシークエンサーは、DNAが小さな穴を通るときの電気信号の変化から配列を読む技術で、本来は数万〜数十万塩基の長いDNAを読むために開発されました。これを約150塩基の短いcfDNAに応用し、NIPTを行う研究が進んでいます。
ナノポアの原理と、読み間違いが問題になりにくい理由
ナノポアシークエンサーでは、電気を通しにくい膜にタンパク質でできた小さな穴(ナノポア)を開け、膜の両側に電圧をかけます。DNAが穴を1本の鎖として通り抜けるとき、穴の中にある数塩基の組み合わせによって電流の流れ方が変わります。その変化の連続を解析して、塩基の並びを読み取ります。合成反応も光の撮影も要らず、装置を小型にでき、読み取りながらリアルタイムでデータが出るのが特徴です。
ナノポアの弱点は、1塩基ごとの読み間違いが比較的多いことでした。しかし、断片を数えるタイプのNIPTでは、1つ1つの塩基を正確に読む必要はなく、断片が参照ゲノムのどこに由来するかが分かれば足ります。そのため、読み間違いが多くても、正しい場所に当てはめられる限り、判定への影響は小さいと考えられます。一方で、ナノポアは長いDNAを読むように最適化されているため、短いcfDNAを効率よく読む工夫が必要になります。長い配列を読む技術全般についてはロングリードシーケンサーで解説しています。
短い断片をナノポアで読むNIPTと、今後の見通し
2023年には、短いcfDNAの断片をそのままナノポアで読み、胎児の異数性と性染色体の異常を調べるNIPT(nanoNIPT)が報告されました[6]。小型の装置で、検査室ごとに少数の検体を速く処理できる可能性があり、検体を集めて一度に流すことで費用を下げるIlluminaの方式とは、得意な使い方が異なります。
ただし、ナノポアを使ったNIPTは研究段階で、大規模な臨床での成績はまだ十分ではありません。日本で一般の妊婦が受けられる検査として提供されている状況でもありません。ナノポアには、DNAのメチル化をそのまま読み取れるという特徴もあり、断片の長さやメチル化といった胎盤由来の手がかりを同時に使える技術として、今後の発展が注目されています。
6. 方式の比較表
NIPTの方式は、数え方、調べられる範囲、胎児分画の測り方、必要な設備がそれぞれ異なります。13・18・21番のトリソミーについてはどの方式も高い検出率が報告されていますが、それ以外の範囲まで調べられるかどうかは方式によって大きく違います。
🔬 NIPTの主な方式の比較
| 方式 | 数え方 | 調べられる範囲 | 胎児分画 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| NGS(全ゲノム法) | 無作為に読み、参照ゲノムに当てはめて数える | 検査設計により全染色体や一定サイズ以上の欠失・重複まで対象にできる | 断片の分布や長さなどから推定 | 広い範囲を対象にできる。装置と情報解析が必要 |
| NGS(SNP法・ターゲット法) | 狙った領域やSNPを増幅して読む | 設計した染色体・領域 | SNPで直接測れる | 三倍体などの判定に強みがある方式もある |
| マイクロアレイ法 | 狙った領域をハイブリダイゼーションで数える | 13・18・21番と性染色体が中心 | SNPで直接測れる | シークエンス不要。メタ解析でNGSと同水準の成績 |
| ローリングサークル増幅 | 増幅産物を1分子ずつ画像で数える | 13・18・21番(と性染色体) | 低い胎児分画でも判定できたと報告 | PCR・シークエンス不要。自動化しやすい |
| デジタルPCR | 区画ごとの増幅の有無を数える | 13・18・21番 | 方式による | 速く安価。特異度に課題があり研究段階 |
| ナノポア | 電流の変化で読み、当てはめて数える | 研究段階 | 研究段階 | 小型・リアルタイム。メチル化も読める |
※マイクロアレイ法はGeppert 2020[2]、ローリングサークル増幅はDahl 2018[3]・Ericsson 2019[4]、デジタルPCRはDai 2022[5]、ナノポアはJørgensen 2023[6]による。個々の製品の仕様は検査会社によって異なります。
表から分かるように、狙った領域だけを数える方式は、速さや費用、自動化のしやすさで優れる一方、調べられる範囲は設計した染色体に限られます。全染色体や微細な欠失・重複まで対象にするには、その範囲を解析できるよう設計・検証されたゲノムワイドのNGS法などが必要です。また、同じNGSでも、全ゲノムを浅く読む方式、SNPを使う方式、メチル化を使う方式、狙った領域を深く読む方式などがあり、それぞれに得意な点があります。当院が採用しているNGSの方式についてはCOATE法とは?次世代NIPT検査の精度と従来法の違いで紹介しています。
方式の違いは、陰性の結果の読み方にも関わります。13・18・21番だけを調べる方式の陰性は、その3つについての低リスクを意味するだけで、ほかの染色体の異常については何も述べていません。検査を受けるときには、方式の名前よりも「どの範囲を調べる検査か」を確認することが大切です。
🩺 院長コラム【技術は入れ替わる、問いは変わらない】
NIPTの技術は、この十数年で大きく変わってきました。かつて主流だった方式が姿を消し、新しい原理の方式が加わっています。数年後には、今は研究段階のナノポアのような技術が、検査室の風景を変えているかもしれません。
それでも、胎盤由来のDNAを読んでいるというNIPTの性質は変わりません。どの方式でも、胎盤限局性モザイクや母体側の要因による偽陽性は起こりえます。技術の進歩を正しく評価しつつ、結果は確定検査で確かめるという原則を守ることが大切だと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. NIPTはすべて次世代シークエンサーで調べますか?
いいえ。多くのNIPTは次世代シークエンサー(NGS)を使いますが、マイクロアレイで数える方式や、ローリングサークル増幅で1分子ずつ数える方式も臨床で使われています。どの方式も、染色体ごとのDNA断片の量の差を測るという原理は共通です。
Q2. マイクロアレイ法とNGS法で精度は違いますか?
13・18・21番のトリソミーについては、マイクロアレイ法のメタ解析で21トリソミーの感度99.5%・特異度100%と、NGS法と同じ水準の成績が報告されています。ただし研究数が少なく、調べられる範囲は設計した染色体に限られます。
Q3. 方式によって分かる病気の範囲は違いますか?
違います。狙った領域だけを数える方式は13・18・21番と性染色体が中心で、全染色体や微細な欠失・重複まで対象にするには、その範囲を解析できるよう設計・検証されたゲノムワイドのNGS法などが必要です。検査を選ぶときは、どの範囲を調べる検査かを確認してください。
Q4. ナノポアのNIPTは日本でも受けられますか?
ナノポアを使ったNIPTは研究段階で、日本で一般の妊婦が受けられる検査として提供されている状況ではありません。小型の装置で速く結果が出る可能性があり、今後の発展が注目されています。
Q5. どの方式で検査しているかはどうすれば分かりますか?
検査を提供する医療機関や検査会社の説明資料に、検査方式や調べる範囲が記載されています。方式の名前だけでなく、どの染色体・どの大きさの変化まで調べるのか、胎児分画をどう扱うのかを確認すると、結果の意味を理解しやすくなります。
まとめ
NIPTに必要なのは、cfDNAの断片がどの染色体から来たかを区別して大量に数えることで、NGSはその手段の1つです。マイクロアレイ法は、狙った領域の断片をハイブリダイゼーションで数え、SNPで胎児分画も測ります[2]。ローリングサークル増幅の方式は、PCRもシークエンスも使わずに1分子ずつ画像で数えます[3][4]。デジタルPCRで数える方式や[5]、ナノポアで短い断片を読む方式も研究されています[6]。
13・18・21番のトリソミーについては、どの方式でも高い検出率が報告されていますが、調べられる範囲は「どこを狙って設計したか」で決まります。全染色体や微細な欠失・重複まで対象にするには、その範囲を解析できるよう設計・検証されたゲノムワイドのNGS法などが必要です。検査を選ぶときは、方式の名前よりも、調べる範囲と胎児分画の扱いを確かめることが大切です。
🧬 NIPTの方式と範囲を理解して選びたい方へ
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が常駐し、NIPTの方式によって何が分かり何が分からないのか、陽性だった場合の確定検査まで含めてご説明しています。当院が採用している検査の仕組みについてはCOATE法の解説をご覧ください。
参考文献
- [1] Faas BHW, de Ligt J, Janssen I, et al. Non-invasive prenatal diagnosis of fetal aneuploidies using massively parallel sequencing-by-ligation and evidence that cell-free fetal DNA in the maternal plasma originates from cytotrophoblastic cells. Expert Opin Biol Ther. 2012;12 Suppl 1:S19-S26. doi:10.1517/14712598.2012.670632. [PubMed 22500971]
- [2] Geppert J, Stinton C, Johnson SA, et al. Antenatal screening for fetal trisomies using microarray-based cell-free DNA testing: A systematic review and meta-analysis. Prenat Diagn. 2020;40(4):454-462. [DOI 10.1002/pd.5621]
- [3] Dahl F, Ericsson O, Karlberg O, et al. Imaging single DNA molecules for high precision NIPT. Sci Rep. 2018;8(1):4549. doi:10.1038/s41598-018-22606-0. [Sci Rep]
- [4] Ericsson O, Ahola T, Dahl F, et al. Clinical validation of a novel automated cell-free DNA screening assay for trisomies 21, 13, and 18 in maternal plasma. Prenat Diagn. 2019;39(11):1011-1015. doi:10.1002/pd.5528. [PMC6899636]
- [5] Dai P, Yang Y, Zhao G, et al. A dPCR-NIPT assay for detections of trisomies 21, 18 and 13 in a single-tube reaction-could it replace serum biochemical tests as a primary maternal plasma screening tool? J Transl Med. 2022;20:269. [DOI 10.1186/s12967-022-03455-y]
- [6] Jørgensen MW, Miceikaitė I, Larsen MJ, et al. nanoNIPT: Short-fragment nanopore sequencing of cell-free DNA for non-invasive prenatal testing of fetal aneuploidies and sex chromosome aberrations. Prenat Diagn. 2023;43(3):314-317. [DOI 10.1002/pd.6331]
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📚 NIPT教科書シリーズ 第2章 NIPTのためのNGSの基礎



