InstagramInstagram

デジタルPCR(dPCR)・ddPCRとは?原理・qPCRとの違いを臨床遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医として、遺伝医療と出生前診断に携わる医師です。

PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、DNAを増やして調べる分子生物学の基本技術です。その第3世代にあたるのがデジタルPCR(dPCR)で、反応液を数万個の小さな区画に分け、増幅が起きたか起きなかったかを「あり/なし」で数えることで、検量線(標準曲線)を使わずに核酸のコピー数を絶対値で測るのが特徴です。その代表的な方式が、水と油のエマルジョンで作った液滴を区画に使うドロップレットデジタルPCR(ddPCR)です。この記事では、デジタルPCRとddPCRとは何か、原理とリアルタイムPCR(qPCR)との違い、メリットと欠点、そしてがんのリキッドバイオプシーや出生前診断とのつながりまでを、臨床遺伝専門医の視点で整理します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約14分
🧬 dPCR・ddPCR・絶対定量・qPCRとの違い
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. デジタルPCRとは何ですか?まず結論だけ知りたいです

A. デジタルPCR(dPCR)とは、反応液を数万個の微小な区画に分け、1区画ずつPCRを行って「増幅あり(陽性)/なし(陰性)」を数えることで、検量線を使わずに核酸のコピー数を絶対値で求める定量法です。陽性の割合からポアソン統計で本当の分子数を計算するため、標準物質やリアルタイム測定を必要としません。ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)は、水-油エマルジョンの液滴を区画に使う代表的な方式です。低濃度の標的や希少な変異を、PCR阻害物質の影響を受けにくく高精度に測れる一方、既知の標的しか測れず装置・試薬は高価という限界もあります。

  • ➤正体 → 反応液を区画化し、増幅の有無を数え、ポアソン統計で絶対定量する第3世代PCR
  • ➤dPCRとddPCRの関係 → dPCRが親概念で、ddPCR(液滴方式)はその代表。ほかにチップ型がある
  • ➤qPCRとの違い → qPCRは増幅曲線とCt/Cq値を用いて定量し、絶対定量には標準曲線を用いる。dPCRは検量線不要で絶対定量できる
  • ➤得意なこと → 希少変異・コピー数変異・低濃度の絶対定量。ctDNAやcffDNAの解析に強い
  • ➤限界 → 高コスト・ダイナミックレンジが狭い・既知の標的しか測れない(未知の探索には不向き)

🧬 デジタルPCR(dPCR/ddPCR)の基本情報

項目 内容
読み方・別名 デジタルPCR(dPCR、digital PCR)。液滴方式はドロップレットデジタルPCR(ddPCR、Droplet Digital PCR)
定義 反応液を多数の区画に分け、増幅の有無を2値(陽性/陰性)で数え、ポアソン統計で絶対定量する第3世代のPCR[1]
区画化の方式 チップ型(マイクロウェル)と液滴型(水-油エマルジョン=ddPCR)。1反応あたりおよそ1〜2万区画[2]
主な用途 希少変異・体細胞変異、コピー数変異(CNV)、遺伝子発現、ウイルス定量、ctDNA・cffDNAの解析
qPCRとの最大の違い 検量線が不要で絶対定量できる/条件によってはPCR阻害物質の影響を受けにくい[5]
医療との関わり がんのリキッドバイオプシーや出生前診断の研究などで活用(当院は装置販売・受託解析は行っていません)

※本記事は一般の方と遺伝診療に関わる方の両方に向けた用語解説です。特定の検査や製品を勧めるものではありません。

デジタルPCR(dPCR)とドロップレットデジタルPCR(ddPCR)の原理、区画化、陽性・陰性判定、ポアソン統計による絶対定量を示すインフォグラフィック

デジタルPCR(dPCR)は、試料を多数の微小区画に分けてPCRを行い、陽性・陰性区画を数えてポアソン統計で補正することで、検量線を使わず核酸を絶対定量します。ddPCRは液滴を区画として用いる代表的な方式です。

1. デジタルPCR(dPCR)とは

デジタルPCR(dPCR)とは、反応液を数万個の微小な区画に分け、増幅が起きたかどうかを1区画ずつ「あり/なし」で数えることで、核酸のコピー数を絶対値で測るPCRの一形態です。1個ずつの分子を独立に数える発想は、1999年にVogelsteinとKinzlerが「デジタルPCR」と名づけて提唱しました[1]。増幅の有無を1か0のデジタル信号として扱うことが、この名前の由来です。土台となるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)そのものについては、別記事もあわせてご覧ください。

💡 用語解説:絶対定量と検量線

「絶対定量」とは、サンプルに標的分子が何コピー入っているかを、直接その数として求めることです。リアルタイムPCR(qPCR)で絶対定量を行う場合は、一般に濃度が既知の標準物質から「検量線(標準曲線)」を作り、それと比べて量を推定します。一方、相対定量では必ずしも標準曲線を用いるわけではありません。デジタルPCRは区画ごとの有無を数えるだけなので、この検量線を必要としません。これが最大の設計思想の違いです。

「デジタル」の意味 ─ アナログとの対比

従来のPCRは、増えていく蛍光の強さという連続的(アナログ)な信号から量を外挿します。これに対しデジタルPCRは、反応液を細かく分けたうえで、それぞれの区画が「陽性か陰性か」というとびとび(デジタル)の答えを返します。区画のうち何%が陽性だったかを数え、そこから元の分子数を逆算します。連続量の読み取り誤差に左右されにくいことが、この方式の強みです[4]。

英語表記・読み方

デジタルPCRは英語で digital PCR(略称 dPCR)と書きます。その代表的な方式である液滴デジタルPCRは droplet digital PCR(略称 ddPCR)です。日本語では「デジタルPCR」「ドロップレットデジタルPCR(液滴デジタルPCR)」と呼ばれます。dPCRが技術全体を指す親概念、ddPCRはその中の一方式、という関係を押さえておくと、以降の説明が整理しやすくなります。

2. ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)とは

ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)とは、水と油のエマルジョンで作った微小な液滴(ドロップレット)を反応区画として使うデジタルPCRです。反応液をおよそ1〜2万個の液滴に分け、1滴ずつでPCRを行い、増幅した液滴(陽性)としなかった液滴(陰性)を数えて絶対定量します。試薬やプローブは、加水分解プローブ(TaqMan)やインターカレーター色素(EvaGreenなど)といった、リアルタイムPCRとほぼ同じものを使えます[2]。

この方式を実用的な高スループット技術として確立したのが、2011年のHindsonらの報告です。彼らは、マイクロ流体技術と界面活性剤を組み合わせて安定な液滴を大量に作り、1回の実験で約200万ものPCR反応を処理できるシステムを示しました[2]。この論文では、生殖細胞系列のコピー数変異の正確な測定、希少な対立遺伝子の高感度検出に加え、母体血中のセルフリーDNAから胎児由来・母体由来のDNAを絶対定量できることまで実証され、後の臨床応用の出発点になりました[2]。

dPCRとddPCRの関係 ─ 区画化の方式で分かれる

デジタルPCRは「反応液をどう区画に分けるか」で方式が分かれます。大きく分けると、チップ上に並んだ微小なウェルを区画に使うチップ型と、水-油エマルジョンの液滴を区画に使う液滴型(=ddPCR)があります。どちらも「区画化してエンドポイントで数える」という基本原理は共通で、違いは区画の作り方にあります。

デジタルPCR
(dPCR・親概念)
▶
チップ型
(マイクロウェル)
/
液滴型=ddPCR
(水-油エマルジョン)

検索では「デジタルPCR」と「ddPCR」がほぼ同じ意味で使われがちですが、正確にはdPCRが技術の総称、ddPCRはその代表的な液滴方式です。以降で説明する原理・利点・限界の多くは両者に共通し、液滴型に固有の話(液滴の生成や合一など)はddPCR特有の論点になります。

3. デジタルPCRの原理としくみ

デジタルPCRの原理は、「区画化 → エンドポイントでの増幅判定 → ポアソン統計による補正」の3段階で成り立っています。反応液を、多くの区画が0〜1分子しか含まないくらいの濃度に薄めて分割し、それぞれで最後(エンドポイント)まで増幅させ、陽性・陰性を数えて元の濃度を計算します。

①区画化
0〜1分子に分配
▶
②エンドポイントPCR
各区画で増幅
▶
③陽性/陰性を計数
蛍光の有無
▶
④ポアソン補正
絶対濃度を算出

区画化と0〜1分子への分配

まず反応液を、標的分子が各区画にランダムに散らばるように分割します。理想的には多くの区画が0個か1個の分子しか含まないよう希釈しますが、確率的に2個以上入る区画も必ず生じます。この「入る/入らない」がランダムに決まるという性質が、次のポアソン統計の前提になります[1]。

エンドポイントPCRと陽性・陰性の判定

各区画でPCRを最後まで回し、増幅産物があれば蛍光が出て陽性、なければ陰性と判定します。ここで重要なのは、qPCRのように「何サイクル目で増えたか」を測るのではなく、終わった後に有無だけを見る点です。そのため、区画内の増幅効率が多少低下しても、最終的に閾値を超えて光れば陽性と数えられ、PCR阻害物質の影響を受けにくいという堅牢さが生まれます[5]。

ポアソン統計による絶対定量

陽性区画をそのまま数えるだけでは、2分子以上入った区画を1個と数えてしまい、真の分子数を過小評価します。そこで、ランダムな分配を表すポアソン分布を使って補正します。区画1個あたりの平均分子数をλとすると、陰性区画の割合から λ を逆算でき、これに総区画数を掛け、反応液量で割ると、検量線なしで絶対濃度(copies/µL)が求まります[2][7]。

💡 用語解説:ポアソン分布

ポアソン分布は、まれな出来事がランダムに起こるときの個数の分布を表す確率モデルです。デジタルPCRでは「ある区画に標的分子が何個入るか」がこれに従うと考えます。陰性(0分子)の区画の割合がわかれば、平均何分子入っていたか(λ)が数学的に決まる、という関係を利用します[7]。

この補正が正しく働くためには、陽性区画の割合が高すぎても低すぎてもいけません。ほぼ全部が陽性になると陰性区画がわずかしか残らず計算が不安定になり、逆に陽性がごく少ないとサンプリング誤差が大きくなります。陰性区画が2割前後残るあたりで測定精度が最も高くなるとされ、必要に応じてサンプルを希釈して調整します[7][4]。

4. リアルタイムPCR(qPCR)との違い

最大の違いは、デジタルPCRが検量線を使わずに絶対定量できる点です。qPCRは増幅の途中経過(何サイクル目で一定量に達したか=Ct/Cq値)を測定し、絶対定量を行う場合は標準曲線と比較して量を推定します。相対定量ではΔΔCt法などが用いられます。デジタルPCRは反応後に陽性・陰性区画を数え、ポアソン補正によってコピー数濃度を求めます[5]。

🔬 リアルタイムPCR(qPCR)とデジタルPCR(dPCR/ddPCR)の比較

比較項目 リアルタイムPCR(qPCR) デジタルPCR(dPCR/ddPCR)
定量原理 Ct/Cq値を用いた相対定量または絶対定量 ポアソン統計に基づく絶対定量
測るタイミング 増幅の途中(Ct/Cq値) 増幅の終了後(エンドポイントの有無)
外部標準物質 絶対定量では標準曲線が必要。相対定量では必須ではない 不要
ダイナミックレンジ 広い(高濃度側に強い) 中程度(区画数で上限が決まる)
低濃度・希少標的 Ct値のばらつきで不確かさが増す 高精度・高感度
PCR阻害物質 影響を受けやすい 条件によっては影響を受けにくい

※比較の一般的傾向です。実際の性能はアッセイ設計やサンプルの状態によって変わります[3][5]。

アナログとデジタル、そして使い分け

両者は「アナログのラジオ(qPCR)」と「デジタルのカウント(dPCR)」にたとえられます。qPCRは広い濃度範囲を手早く測るのに向き、日常の遺伝子発現解析やスクリーニングで今も主力です。デジタルPCRは低濃度・わずかな差・希少変異を正確に測るのに向きます。低濃度・低量の標的や、化学物質・タンパク質による汚染があるサンプルでは、デジタルPCRの方が信頼できるデータを出しやすいことが示されています[5]。どちらが優れているというより、目的に応じて使い分ける関係です。

💡 用語解説:「ddPCR」と「ΔΔCt法(ddCt)」は別物です

検索で紛らわしいのが「ΔΔCt法(デルタデルタCt法、ddCt)」です。これはリアルタイムPCR(qPCR)で遺伝子発現を相対的に比べるための計算方法(2のマイナスΔΔCt乗で発現比を出す)であり、区画化して絶対定量するddPCR(ドロップレットデジタルPCR)とはまったく別の概念です。名前が似ていますが、混同しないよう注意してください。

5. デジタルPCRのメリットと欠点・限界

デジタルPCRの強みは「検量線なしの絶対定量」「低濃度での高感度・高精度」「阻害物質への強さ」に集約されます。一方で、万能ではなく、コスト・ダイナミックレンジ・適用範囲に明確な限界があります。両面を正しく理解することが、適切な使いどころの判断につながります。

主なメリット

第一に、標準曲線を作らずにコピー数を直接得られるため、実験ごとの標準物質のばらつきに左右されません。第二に、区画化によって多量のバックグラウンドの中の少数の標的を分離できるため、希少変異の検出やわずかなコピー数の差の測定に優れます。第三に、増幅効率のばらつきに起因するバイアスを受けにくく、阻害物質を含む難しいサンプルでも堅牢です[3][5]。

⚠️ 欠点・限界(正直に知っておきたい点)

①コストが高い:専用の装置・試薬・消耗品が必要で、qPCRよりランニングコストがかさみます。②ダイナミックレンジが狭い:区画数に上限があるため、極端に高濃度のサンプルはそのままでは測れず、希釈が要ります。③既知の標的しか測れない:あらかじめ設計したプライマー・プローブに対してのみ働くため、未知の変異を網羅的に探す「探索」には向きません。④前処理・解析に習熟が必要:後述の「レイン」など、データ解釈に専門的な判断を要する場面があります。

③の点は、次世代シークエンシング(NGS)との役割分担につながります。未知の変異を広く探すのはNGS、特定の既知の標的を高精度に数え上げるのはデジタルPCR、という補完関係で使われることが多く、両者を組み合わせる運用も広がっています[4]。

6. デジタルPCRでできること・主な用途

デジタルPCRは、「少数を正確に数える」ことが決め手になる場面で力を発揮します。代表的なのが、希少変異の検出、コピー数変異の定量、遺伝子発現の絶対定量、そしてウイルスなどの定量です[4][6]。

希少変異・体細胞変異の検出(がん研究)

大量の正常(野生型)DNAの中に、ごくわずかに混じる変異を拾い上げるのは、デジタルPCRが最も得意とするところです。がんの分野では、点突然変異や体細胞変異を高感度に検出できることが、後述のリキッドバイオプシーの基盤になっています[6]。

コピー数変異(CNV)の定量

遺伝子が何コピーあるかというわずかな差(コピー数変異・CNV)を、絶対定量の精度で見分けられます。1コピーと2コピーのような小さな差を信頼して測れることは、qPCRに対する大きな利点です[2]。

遺伝子発現の絶対定量

逆転写と組み合わせることで、mRNAなどの遺伝子発現を絶対量として測れます。発現量が低い標的や、サンプル間で丁寧に比べたい場合に、検量線に依存しないデジタルPCRが選ばれることがあります[5]。

ウイルス定量・感染症モニタリング

低濃度のウイルスゲノムを、阻害物質を含むサンプルからでも堅牢に定量できるため、感染症の研究や環境中の核酸のモニタリングにも使われます。こうした応用は、遺伝子検査の網羅的な解析を担う次世代シークエンサー(NGS)とは異なり、「特定の標的を正確に数える」場面での使い分けになります[4]。

7. 遺伝診療・出生前診断における位置づけ

デジタルPCRは、血液などの体液からごく微量のDNAを高感度に数えるという特性から、がんのリキッドバイオプシーや出生前診断の研究とつながりがあります。ただし、いずれも研究・臨床開発が中心の領域であり、確立度合いには幅があります。

リキッドバイオプシー(ctDNA/cfDNA)とがん

血液中には、細胞から放出された遊離DNA(cell-free DNA、cfDNA)が漂っており、その一部はがん細胞由来の循環腫瘍DNA(ctDNA)です。ctDNAがcfDNAに占める割合は病期・腫瘍量・がん種などによって大きく異なり、特に低腫瘍量ではごく低いことがあります。デジタルPCRはこうした低い変異アレル頻度の既知変異を高感度に検出できるため、特定の変異の検出や治療経過のモニタリングの手段として研究されています[6]。

cffDNAの絶対定量と非侵襲的出生前検査(NIPT)

母体血中には、胎盤由来のセルフリー胎児DNA(cffDNA)が含まれます。デジタルPCRはこのcffDNAを絶対定量できることが早くから示されており[2]、非侵襲的出生前検査(NIPT)の分野で、特定の既知標的を高感度に測定する補完的手法として研究されています[4][6]。染色体異数性だけでなく、単一遺伝子疾患の出生前診断への応用も検討されています。なお、当院でもddPCRを用いたメチル化ベースのトリソミー21向けNIPTの概念実証研究に取り組んできました。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「絶対値で数える」ことの意味】

遺伝医学では、検査の数字を「相対的な比」ではなく「絶対的なコピー数」で捉えられることが、判断のしやすさにつながる場面があります。たとえば、わずかな変異がどれだけの割合で存在するのか、あるいは特定の配列が何コピーあるのかを、標準物質に頼らずに直接示せることは、結果の解釈を安定させます。

一方で、数字が精密であることと、その数字が臨床的に何を意味するかは別の問題です。現在の研究では、デジタルPCRは「決められた標的を正確に数える道具」であり、何を測り、その結果をどう受け止めるかは、検査の設計と結果の解釈にかかっています。技術の精度を過信せず、目的に合った使い方を選ぶことが大切だと、この技術は教えてくれます。

遺伝診療の視点から見ると、デジタルPCRは「特定の既知の標的を、精密に数える」技術です。何を測るかを事前に決めておく必要があるため、検査の目的や、結果が本人・家族にとって何を意味するのかを、あらかじめ整理しておくことが重要になります。こうした判断材料の整理は、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが担う役割です。

本記事はデジタルPCR(ddPCR)という技術の解説です。当院ではデジタルPCRの装置販売や受託解析は行っていません。出生前診断(NIPT)や遺伝性疾患・遺伝性腫瘍の遺伝子検査、そしてその結果の意味については、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングでご相談いただけます。検査を受けるかどうかを含め、中立の立場で判断材料を整理します。

8. 装置とワークフロー・関連するPCR技術

デジタルPCRの実験は、反応液の調製 → 区画化 → PCR増幅 → 蛍光の読み取り → データ解析という流れで進みます。液滴型(ddPCR)では、区画化の工程が「液滴の生成」にあたります。

反応液の調製
▶
液滴の生成
(約1〜2万)
▶
PCR増幅
▶
蛍光の読み取り
▶
データ解析

チップ型と液滴型の代表例

装置は、区画化の方式によってチップ型と液滴型(ddPCR)に分かれ、複数のメーカーから提供されています。ここでは技術の理解に必要な範囲にとどめ、個々の機種のスペック比較や消耗品の詳細には立ち入りません(用途や予算に応じた選定は、各メーカーの情報をご確認ください)。多重化(1回で複数の標的を同時に測る)の性能も向上しており、装置によって利用できる蛍光チャンネル数や多重化の方法が異なります。具体的な性能は機種ごとに確認する必要があります[4]。

データ解析の要点 ─ レインとスター

解析では、陽性群と陰性群の間に閾値を引いて数えます。このとき、両群の中間にばらけて現れる液滴を「レイン(rain)」と呼びます。レインは、増幅効率の低下や鋳型へのアクセスのしにくさなどによって生じることが実験的に示されており[8]、サイクル数の調整やサンプルの前処理で軽減できる場合があります[9]。また、陽性群を大きく超える極端に強い蛍光を示す液滴は「スター(stars)」と呼ばれ、ゴミや凝集などが原因のことがあります。低濃度の解析では、これらを誤って陽性に数えると偽陽性や過大評価を招くため、上下の閾値を使い分けるなどの工夫が提案されています[9]。

関連するPCR技術

デジタルPCRは、PCRファミリーの中の一員です。増幅の途中経過を測る通常のPCRのほか、出生前領域で染色体異数性の迅速判定に使われるQF-PCR(定量蛍光PCR)、微量な変異の検出に用いられるCOLD-PCR、長い領域を増やすロングレンジPCRなど、目的に応じたさまざまな派生技術が存在します。デジタルPCRは、その中で「絶対定量」と「低濃度の高感度検出」に特化した位置づけといえます。

まとめ

デジタルPCR(dPCR)は、反応液を区画化し、増幅の有無をデジタルに数えることで、検量線に頼らず核酸を絶対定量する第3世代のPCRです。その代表的な方式が、水-油エマルジョンの液滴を使うドロップレットデジタルPCR(ddPCR)で、Hindsonらの2011年の報告以降、実用的な高精度技術として広く使われるようになりました[2]。

リアルタイムPCR(qPCR)が広い濃度域を手早く測るのに向くのに対し、デジタルPCRは低濃度・希少変異・わずかなコピー数差を精密に測るのに向きます。ただし、高コスト・狭いダイナミックレンジ・既知の標的しか測れないという限界もあり、未知の変異の探索はNGSに委ねる、という補完関係で使われます[4]。がんのリキッドバイオプシーや出生前診断の研究とのつながりは、この技術の「微量を正確に数える」強みに支えられています。名前の似た「ΔΔCt法(ddCt)」はqPCRの計算方法であり、ddPCRとは別物である点にも注意してください。

よくある質問(FAQ)

Q1. デジタルPCRとリアルタイムPCR(qPCR)は何が違いますか?

最大の違いは、デジタルPCRが検量線を使わずに絶対定量できる点です。qPCRは増幅の途中経過(Ct/Cq値)を測り、相対定量または標準曲線を用いた絶対定量を行います。デジタルPCRは反応後に陽性・陰性区画を数え、ポアソン補正によってコピー数濃度を求めます。qPCRは広い濃度域を手早く測るのに向き、デジタルPCRは低濃度・希少標的を高精度に測るのに向きます。デジタルPCRはPCR阻害物質の影響も受けにくいという特徴があります。

Q2. ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)とは何ですか?

ddPCRは、水と油のエマルジョンで作った微小な液滴(ドロップレット)を反応区画として使うデジタルPCRの方式です。反応液をおよそ1〜2万個の液滴に分け、1滴ずつでPCRを行い、増幅した液滴(陽性)としなかった液滴(陰性)を数えて絶対定量します。デジタルPCR(dPCR)は技術の総称で、ddPCRはその代表的な液滴方式にあたります。ほかにチップ型の方式もあります。

Q3. デジタルPCRの欠点・限界は何ですか?

主に4つあります。①専用の装置・試薬が必要でコストが高いこと、②区画数に上限があるためダイナミックレンジが狭く高濃度サンプルは希釈が要ること、③あらかじめ設計した既知の標的しか測れず未知の変異の探索には向かないこと、④「レイン」など解析に専門的な判断を要する場面があることです。未知の変異を網羅的に探す場面では、次世代シークエンシング(NGS)が用いられます。

Q4. デジタルPCRでは何がわかりますか?

特定の既知の標的を、絶対的なコピー数として精密に数えられます。具体的には、大量の正常DNAの中のごくわずかな希少変異・体細胞変異の検出、遺伝子のコピー数変異(CNV)の定量、遺伝子発現の絶対定量、低濃度のウイルスなどの定量が代表的です。がんの循環腫瘍DNA(ctDNA)や、母体血中のセルフリー胎児DNA(cffDNA)の解析といった、微量な核酸を扱う研究でも活用されています。

Q5. デジタルPCR(ddPCR)は結果が出るまでqPCRより時間がかかりますか?

ddPCRは、液滴の生成やドロップレットの読み取りといった工程が加わるため、qPCRに比べて手順が多く、結果が出るまでの時間や作業の手間は増える傾向があります。その代わりに、検量線が不要で、低濃度の標的を高精度・高感度に絶対定量できるという利点が得られます。迅速さや広い濃度域を優先する場面ではqPCR、精度や希少標的の検出を優先する場面ではデジタルPCR、というように目的に応じて選ばれます。

参考文献

  • [1] Vogelstein B, Kinzler KW. Digital PCR. Proc Natl Acad Sci U S A. 1999;96(16):9236-9241. [DOI: 10.1073/pnas.96.16.9236]
  • [2] Hindson BJ, et al. High-throughput droplet digital PCR system for absolute quantitation of DNA copy number. Anal Chem. 2011;83(22):8604-8610. [PubMed 22035192]
  • [3] Pinheiro LB, et al. Evaluation of a droplet digital polymerase chain reaction format for DNA copy number quantification. Anal Chem. 2012;84(2):1003-1011. [DOI: 10.1021/ac202578x]
  • [4] Trouchet A, Gines G, Benhaim L, Taly V. Digital PCR: from early developments to its future application in clinics. Lab Chip. 2025;25(16):3921-3961. [PubMed 40686367]
  • [5] Taylor SC, Laperriere G, Germain H. Droplet Digital PCR versus qPCR for gene expression analysis with low abundant targets: from variable nonsense to publication quality data. Sci Rep. 2017;7(1):2409. [PubMed 28546538]
  • [6] Khan S, Kabir MF. The Clinical Utility of Droplet Digital Polymerase Chain Reaction (PCR): A Breakthrough for Cancer and Noninvasive Prenatal Genetic Disease Diagnosis. Cureus. 2026;18(3):e105766. [PMC13105223]
  • [7] Majumdar N, et al. Poisson Plus Quantification for Digital PCR Systems. Sci Rep. 2017;7:9617. [DOI: 10.1038/s41598-017-09183-4]
  • [8] Berden P, et al. Amplification Efficiency and Template Accessibility as Distinct Causes of Rain in Digital PCR: Monte Carlo Modeling and Experimental Validation. Anal Chem. 2022;94(45):15781-15789. [DOI: 10.1021/acs.analchem.2c03534]
  • [9] Porco D, et al. Getting rid of ‘rain’ and ‘stars’: Mitigating inhibition effects on ddPCR data analysis. PLoS One. 2022;17(11):e0275363. [PubMed 36383571]

関連記事

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

記事の作り方と生成AIの使い方は、編集方針をご覧ください。

お電話での受付可能
診療時間
午前 10:00~14:00
(最終受付13:30)
午後 16:00~20:00
(最終受付19:30)
休診 火曜・水曜

休診日・不定休について

クレジットカードのご利用について

publicブログバナー
 
medicalブログバナー
 
NIPTトップページへ遷移