目次
バニシングツイン(vanishing twin)は、NIPT(新型出生前診断)の偽陽性の原因のひとつです。双子の片方が妊娠初期に亡くなって見えなくなっても、その胎児の胎盤からはしばらくDNAが母体の血液に流れ込み続けます。NIPTはこのDNAと、生きている胎児の胎盤からのDNAを区別せずに測るため、亡くなった胎児に染色体の異常があれば、生きている赤ちゃんが正常でも「陽性」と判定されることがあります。このページでは、消えた胎児のDNAが結果に残るしくみ、残る期間、性別の不一致が起こる理由、結果の読み方と確定検査までを、NIPTの検査の側から解説します。
Q. バニシングツインがあるとNIPTの結果はどうなりますか?
A. 消えた胎児の胎盤由来のDNAが血液に残っている間は、その胎児の染色体の情報も結果に混ざります。亡くなった胎児にトリソミーなどがあれば偽陽性の原因になり、男の子だった場合は性別の判定が食い違う原因になります。2023年のシステマティックレビューでは、バニシングツインのある妊娠でトリソミー21が陽性と判定されたうち、確定検査で確かめられたのは約2割でした。
- ➤しくみ → 亡くなった胎児の胎盤がしばらくDNAを出し続け、NIPTは2人分をまとめて測る
- ➤偽陽性 → 消えた胎児の染色体異常が、生きている胎児の結果として報告されることがある
- ➤残る期間 → 胎児の消失から8週ほど後まで検出された報告があり、妊娠中期まで残った例もある
- ➤陽性のとき → 超音波で消えた胎嚢を確認し、羊水検査で生きている胎児の染色体を確かめる

⏱️ 30秒でわかる要約
👶 Q. なぜバニシングツインでNIPTが陽性になるの?
NIPTが調べているのは、胎児そのものではなく胎盤から母体の血液に出てくるDNAです。亡くなった胎児の胎盤がDNAを出し続けている間は、その胎児の染色体の異常も結果に混ざります。
📅 Q. 消えてからどのくらいDNAが残るの?
消失から8週ほど後まで検出された報告があり、妊娠27週まで残っていたと考えられる例もあります。何週あければ影響がなくなるかは、まだはっきりしていません。
🌸 Q. 陽性と言われたらどうすればいい?
超音波で消えた胎嚢がないかを確かめ、羊水検査で生きている赤ちゃん自身の染色体を調べます。NIPTの結果だけで判断しないことが大切です。
1. バニシングツインとNIPT:何が問題になるのか
バニシングツインがNIPTで問題になるのは、亡くなった胎児の胎盤由来のDNAが、生きている胎児のDNAと一緒に測られてしまうからです。NIPTの判定は、母体の血液の中にあるDNAのうち、胎児側から来たDNAの染色体ごとの量を数えて行います。そこに2人分のDNAが混ざっていれば、結果も2人分が合わさったものになります。
バニシングツインとは、双子以上の多胎妊娠で、片方の胎児が妊娠初期に子宮内で亡くなり、その後の超音波検査で見えなくなる状態を指します。多くは妊娠の早い時期に起こり、亡くなった胎児は吸収されて単胎妊娠のように経過します。どのくらいの頻度で起こるのか、生き残った赤ちゃんにどんな影響があるのかといった一般的な内容は、バニシングツイン現象における染色体・遺伝子異常で詳しく解説しています。このページでは、NIPTの判定にどう影響するかに話をしぼります。
NIPTが測っているのは「胎盤のDNA」
NIPTで「胎児由来」と呼ばれるDNAは、実際には主に胎盤の絨毛の表面にある細胞(栄養膜細胞)から出てきたものです。胎盤の細胞は入れ替わる過程で壊れ、その中のDNAが細かい断片になって母体の血液に流れ込みます。これがセルフリーDNA(cfDNA)のうち胎児側の部分で、NIPTの判定に使われる材料になります。
ここで大切なのは、胎盤のDNAが胎児のDNAとほぼ同じであるという前提の上にNIPTが成り立っていることです。胎盤だけに染色体の変化がある胎盤限局性モザイクではこの前提が崩れ、偽陽性や偽陰性の原因になります。バニシングツインでは、もう一段複雑なことが起こります。血液の中に、生きている胎児の胎盤と、亡くなった胎児の胎盤という、別々の2つの胎盤のDNAが混ざるのです。
どの検査法でも起こりうる
バニシングツインの影響は、特定の検査法だけの問題ではなく、母体血のcfDNAを使うNIPTであればどの方法でも起こりえます。全ゲノムを広く読む方法、特定の染色体だけを狙って読む方法、SNP(一塩基多型)を使う方法のいずれも、血液の中の胎盤由来のDNAをまとめて分析するという点は同じだからです。
違いがあるのは、混ざっていることに気づけるかどうかです。全ゲノムの方法や狙い撃ちの方法では、DNAが誰のものかを区別せずに量だけを数えるため、2人分のDNAが混ざっていても、そのまま1人分として判定されます。SNP法では、遺伝子型の組み合わせの違いから、もう1人分のDNAが混ざっていることに気づける場合があります。この違いは、下の「5. 結果の読み方」で詳しく扱います。
💡 用語解説:セルフリーDNA(cfDNA)
セルフリーDNAとは、細胞の外に出て血液中を漂っている短いDNAの断片のことです。妊婦さんの血液では、大部分が母体自身の血液細胞などに由来し、一部が胎盤に由来します。胎盤由来の割合を胎児分画(胎児ゲノム率)と呼び、NIPTでは十分な胎児分画があることが正確な判定の条件になります。
2. 消えた胎児のDNAが偽陽性を起こすしくみ
偽陽性が起こるのは、亡くなった胎児に染色体の異常があり、その胎児の胎盤がまだDNAを出しているときです。NIPTは2つの胎盤のDNAを区別できないため、亡くなった胎児の染色体の異常を、生きている胎児の異常として報告してしまうことがあります。
胎児が亡くなっても、胎盤はすぐには消えない
胎児の心拍が止まっても、その胎盤の組織はすぐには消えず、しばらくの間DNAを血液に出し続けます。胎盤の細胞は母体の血流に直接触れているため、胎児が亡くなった後も母体側から栄養を受けて一定期間は残ります。また、組織が壊れていく過程そのものがDNAの断片を増やします。
超音波で胎嚢が見えなくなったことと、血液からその胎児のDNAが消えたことは、別のことです。「もう吸収されて見えないから影響はない」とは言えないのは、このためです。どのくらいの期間残るのかは、下の「4. 消えた胎児のDNAはいつまで残るのか」で詳しく扱います。
亡くなった胎児は、染色体異常を持っていることが少なくない
妊娠初期に胎児が亡くなる原因として最も多いのは、胎児自身の染色体の異常です。これは単胎の初期流産と同じで、バニシングツインで亡くなった胎児にも、トリソミーなどの染色体の数の異常があることが少なくないと考えられています。つまり、消えた胎児のDNAは「正常なDNAが少し混ざる」だけではなく、「異常のあるDNAが混ざる」可能性を持っているのです。
こうした妊娠でNIPTを行うと、生きている胎児が正常な染色体を持っていても、血液の中のDNA全体としては特定の染色体がわずかに多く見えることがあります。NIPTはこの「わずかな増え方」を統計的に検出する検査なので、亡くなった胎児由来のDNAが一定量あれば、陽性の判定につながります。
どのくらいの量が混ざると影響するのか
消えた胎児のDNAが判定に影響するかどうかは、血液中のDNA全体のうち、その胎児の胎盤由来のDNAがどれだけを占めるかで決まります。NIPTは、ある染色体のDNAの量が、正常な妊娠で予想される量からどれだけずれているかを統計的に評価します。ずれの大きさは、異常のあるDNAが全体に占める割合に比例します。
たとえば、トリソミー21の胎児の胎盤由来のDNAが、血液中のDNA全体の10%を占めていれば、21番染色体のDNAは正常な場合より約5%多く見えます。トリソミーでは21番染色体が3本と通常より1.5倍あるので、10%の半分の5%が上乗せされる計算です。これがもし消えた胎児のDNAだけで、全体の4%を占めていたとすると、上乗せは約2%になります。最新のNIPTはこの程度の小さなずれも検出できるように作られているため、消えた胎児のDNAが少量でも残っていれば、陽性の判定に届くことがあるのです。
一方で、消えた胎児のDNAがごくわずかになっていれば、ずれは判定の基準に届かず、結果には現れません。胎児が亡くなった後のDNA量は必ずしも直ちに減るわけではありませんが、胎盤組織が退縮すれば最終的には減少するため、同じバニシングツインでも、検査を受けた時期によって結果が変わることがあります。ここで示した数字は、しくみを説明するための計算例です。
二卵性と一卵性で影響が違う
偽陽性が問題になるのは、主に二卵性の双子(2つの受精卵から生じた双子)のバニシングツインです。二卵性双胎では2人の遺伝情報が別々なので、亡くなった胎児だけが染色体の異常を持っていることがあり、その場合に生きている胎児の結果と食い違います。二卵性双胎では通常、胎盤も2つ(二絨毛膜)で、くっついて1つに見えることはあっても、それぞれの胎盤が別々にDNAを出します。
一方、一卵性双胎は1つの受精卵が分かれたものなので、原則として2人は同じ染色体を持っています。亡くなった胎児のDNAが残っていても、生きている胎児と同じ情報であれば、判定が食い違う可能性は二卵性より低いと考えられます。ただし、受精卵が分かれる前後で染色体の分配に誤りが起こり、一卵性でも2人の染色体が異なる例はまれに報告されています。妊娠初期の超音波で胎盤と膜の数(絨毛膜性)を確認することは重要ですが、二絨毛膜双胎には一卵性も含まれるため、膜性だけで一卵性・二卵性を確定することはできません。
理論上は偽陰性の原因にもなりうる
逆に、亡くなった胎児が正常な染色体を持ち、その胎盤が多くのDNAを出していると、生きている胎児の異常を薄めて見えにくくする可能性があります。生きている胎児にトリソミーがあっても、正常なDNAが上乗せされることで、増え方が判定の基準に届かなくなるという考え方です。
ただし、これはあくまで理論上の可能性です。2023年のシステマティックレビューでも、バニシングツインのある妊娠でNIPTが陰性だったのに胎児に異常があった例は報告されていませんでした。ただし、追跡データが限られているため、偽陰性が起こらないことを保証する結果ではありません[1]。NIPTの偽陰性の原因として現実に多いのは、胎児分画の低さや胎盤限局性モザイクです。
3. バニシングツインと性別の不一致
消えた胎児が男の子だった場合、生きている胎児が女の子でも、NIPTでは「男の子」と判定されることがあります。NIPTの性別判定は、血液中にY染色体のDNAがあるかどうかで行うためです。通常、女児の胎盤からY染色体のDNAは出ません。ただし、母体の移植歴などにより別の由来のY染色体DNAが検出される場合もあります。そこに男の子だった胎児の胎盤からY染色体のDNAが加わると、「Y染色体あり=男の子」と判定されます。
この現象は、NIPTで性別を判定するときだけでなく、母体血を使って胎児の血液型(RhD)を調べる検査でも起こります。オランダの全国的な胎児RhD判定のプログラムで、RhD陽性と判定されたのに生まれた赤ちゃんはRhD陰性だった例を詳しく調べたところ、消えた双子の存在が食い違いの原因として浮かび上がりました[2]。消えた胎児による性別判定やRhD判定の食い違いを報告した例はほかにもあり[3]、性別の不一致はバニシングツインの影響が最も目に見えやすい形で現れたものと言えます。
逆向きの食い違い(消えた胎児が女の子で、生きている胎児が男の子)は、判定には影響しにくい点も押さえておきたいところです。生きている男の子の胎盤からY染色体のDNAが出ているので、結果は男の子のままです。性別の不一致は、バニシングツイン以外にも、胎盤限局性モザイク、性染色体の異常、母体側の要因などさまざまな原因で起こります。原因の全体像は5-6-4のページで整理しています。
4. 消えた胎児のDNAはいつまで残るのか
消えた胎児のDNAが血液に残る期間には個人差があり、胎児の消失から8週ほど後まで検出された報告があります。妊娠中期まで残っていたと考えられる例もあり、何週あければ影響がなくなるかを示す確かな基準は、まだありません。
この期間を調べる方法のひとつが、SNP(一塩基多型)を使うNIPTです。SNP法では、母体血中の多数のSNPの遺伝子型と比率を分析し、胎児側に追加のハプロタイプ(同じ染色体上で受け継がれる遺伝的な組み合わせ)があるかを推定します。生きている胎児と亡くなった胎児は、二卵性であれば父親と母親から受け継いだ組み合わせが異なるため、血液の中に「3つ目のハプロタイプ」が見えれば、もう1人分のDNAが混ざっていると分かります。2015年のCurnowらの報告では、この方法で、胎児の消失が推定された時期から最大で8週ほど後まで、消えた胎児のDNAが検出されました[4]。
さらに長く残る例もあります。先ほど触れたオランダの胎児RhD判定の解析では、妊娠27週の時点で胎児がRhD陽性と判定されたのに、生まれた赤ちゃんはRhD陰性でした。消えた双子のDNAが妊娠中期まで残っていたことが、最も考えやすい原因とされています[2]。
📅 消えた胎児のDNAが残る期間に関する主な報告
※いずれも「この期間をあければ必ず影響がなくなる」ことを示したものではありません。
残る期間に幅があるのはなぜか
消えた胎児のDNAが残る期間に幅があるのは、胎児が亡くなった時期や、その時点での胎盤の大きさが一人ひとり違うためと考えられます。ごく早い時期に亡くなった場合は胎盤の組織も小さく、出てくるDNAの量も少なくなります。反対に、ある程度育ってから亡くなった場合は、胎盤の組織が大きいぶん、DNAを出す期間も長くなりやすいと考えられます。
もうひとつの理由は、胎児がいつ亡くなったのかを正確に知るのが難しいことです。超音波で「見えなくなった」と気づいた日は、実際に亡くなった日より後であることが多く、報告されている「消失から何週」という数字にも幅が含まれています。さらに、検査法によって検出できるDNAの量の下限が異なるため、同じ妊婦さんでも、どの方法で調べるかによって「残っている」と判断される期間が変わりえます。こうした理由から、一律の待機期間を決めることは難しいのが現状です。
検査を受ける時期の考え方
バニシングツインがあった場合、NIPTを受けられるかは検査施設・検査法によって異なります。結果が不正確になるリスクを説明し、羊水検査などの診断検査も選択肢として検討することが必要です。2023年のシステマティックレビューは、バニシングツインのある妊娠でもNIPTは主なトリソミーを検出できる一方、偽陽性の割合は高くなると結論づけ、最適な検査時期は今後の課題としています[1]。
実際の対応としては、まず検査を申し込む時点で、双子と言われたことがある、胎嚢が2つ見えていた、片方が見えなくなった、といった経過を必ず伝えることが大切です。検査会社によっては、バニシングツインのある妊娠では判定の方法を変えたり、結果の報告に注意書きを付けたりします。胎児が消えてからの期間が短いほど影響は残りやすいと考えられますが、何週あければ安全という線引きはできないため、時期を遅らせたとしても、陽性のときには確定検査で確かめるという流れは変わりません。この状況での検査の限界については、ACOGの出生前染色体検査に関する指針でも説明されています。
5. 結果の読み方:消えた胎児を疑う手がかり
NIPTの結果の中には、消えた胎児のDNAが混ざっていることを疑わせる手がかりがあります。検査法によって見え方は違いますが、どれも「生きている胎児1人分としては説明しにくい数字」に注目する点は同じです。
SNP法:3つ目のハプロタイプ
SNP法のNIPTでは、単胎妊娠で想定する遺伝子型の組み合わせに加えて、追加の胎児ハプロタイプが検出されることが、もう1人分のDNAが混ざっている手がかりになります。単胎妊娠では、母親の血液の中に見える胎児側の遺伝子型は1人分です。二卵性のバニシングツインでは、父親から受け継いだ部分が2人で異なるため、血液の中に父親由来の組み合わせが2種類見えることがあります[4]。ただし、追加の胎児ハプロタイプは、未認識の双胎や父親由来の染色体が1組多い三倍体でも検出されるため、バニシングツインと断定する所見ではありません。SNP法の原理については、第3章で解説しています。
全ゲノム法:胎児分画と異常の割合のずれ
全ゲノムを読む方法のNIPTでは、異常を示す染色体の増え方が、胎児分画から予想されるより明らかに小さいとき、消えた胎児や胎盤限局性モザイクを疑います。生きている胎児自身にトリソミーがあれば、その染色体の増え方は胎児分画に見合った大きさになるはずです。ところが、異常が亡くなった胎児だけにあると、異常のDNAは胎児側のDNAの一部にすぎないため、増え方は胎児分画から予想されるより小さくなります。
性別が関わる場合にも、同じ考え方が使えます。Y染色体の量から計算した胎児分画と、性別に関係なく計算した胎児分画を比べると、男の子の胎盤からのDNAがどれだけを占めるかを推定できます。2つの値が大きくずれていれば、男の子のDNAは胎児側のDNAの一部にすぎず、もう1人分(消えた胎児など)が混ざっている可能性が考えられます。
データで見る:バニシングツインでは陽性的中率が下がる
バニシングツインのある妊娠では、陽性と判定されても実際に胎児に異常がある割合(陽性的中率)が大きく下がります。2023年のvan Eekhoutらのシステマティックレビューは、7つの研究、合わせて1,592件の妊娠をまとめました。トリソミー21の陽性は35件(2.2%)で、そのうち確定検査で確かめられたのは7件、陽性的中率は20%でした。トリソミー18は陽性13件で、研究ごとの結果を統合した陽性的中率の推定値は25%、トリソミー13は陽性7件のうち確かめられたものはありませんでした。それ以外の染色体の所見も、確かめられたものはありませんでした[1]。
📊 バニシングツインのある妊娠でのNIPTの成績(van Eekhoutら 2023年)
| 項目 | 陽性の割合 | 陽性的中率 |
|---|---|---|
| トリソミー21 | 35/1,592(2.2%) | 20%(35件中7件で確認) |
| トリソミー18 | 13/1,592(約0.82%) | 25% |
| トリソミー13 | 7/1,592(0.44%) | 0%(7件中0件) |
| その他の所見 | 23/767(約3.0%) | 確認された例なし |
※陽性の割合は分子・分母から再計算しました。原著抄録のトリソミー18(0.91%)およびその他の所見(2.9%)には件数との計算上の不一致があります。トリソミー18の25%は研究ごとの結果を統合した推定値で、13件の単純比ではありません。van Eekhoutら(2023年)[1]より作成。研究ごとの規模は5〜767件と小さく、解析できるデータは限られています。
比べるために、一般の妊婦さん15,841人を対象にした2015年のNEXT研究を見ると、単胎妊娠でのトリソミー21の陽性的中率は80.9%でした[5]。対象の集団や検査法が違うので単純には比べられませんが、バニシングツインがあると、陽性と言われても実際に胎児に異常がある割合は大きく下がることが分かります。この差の大部分は、亡くなった胎児由来のDNAによる偽陽性で説明できると考えられます。
🩺 院長コラム【検査の前に「双子だった」と伝えてほしい理由】
バニシングツインのある妊娠でNIPTの陽性的中率が大きく下がるという事実は、検査を受ける前の情報がどれほど大事かを示しています。同じ「トリソミー21陽性」という結果でも、単胎妊娠と、妊娠初期に胎嚢が2つ見えていた妊娠とでは、陽性である場合の解釈が異なります。
妊娠初期に一度だけ「双子かもしれない」と言われた、という程度の経過でも、結果を読む側にとっては重要な情報です。NIPTの結果は、検査会社が出した数字だけで決まるものではなく、妊娠の経過と合わせて読んで初めて正しく解釈できるというのが、臨床遺伝学の立場からの考えです。
6. 陽性と判定されたときの確定検査
バニシングツインが疑われる妊娠でNIPTが陽性になったときは、まず超音波で経過を確かめ、羊水検査で生きている胎児自身の染色体を調べることが基本です。NIPTの陽性は、血液の中のDNA全体に異常の信号があったことを示すだけで、それがどちらの胎児に由来するかまでは教えてくれません。
超音波で消えた胎嚢を確認する
陽性の結果が出たら、超音波検査の記録をさかのぼり、妊娠初期に胎嚢や胎児が2つ見えていなかったかを確認します。妊娠のごく早い時期に片方が消えた場合、本人も医師も気づいていないことがあります。現在の超音波で、子宮の中に小さく残った胎嚢や、つぶれた胎児の痕跡が見つかることもあります。消えた胎児の存在が確認できれば、偽陽性である可能性を考える大きな手がかりになりますが、それだけで生きている胎児が正常だと判断できるわけではありません。
羊水検査を選ぶ理由
確定検査には、生きている胎児自身の細胞を調べられる羊水検査が適しています。羊水の中には、生きている胎児の皮膚や尿路などから剥がれた細胞が含まれているため、その胎児の染色体を直接調べることができます。母体血中に混在する消えた胎児のcfDNAや胎盤限局性モザイクの影響を、NIPTのようには受けません。ただし、採取する羊水腔の確認や母体細胞混入への対策は必要です。
絨毛検査は、生きている胎児の胎盤の組織を調べる検査です。消えた胎児の胎盤を調べるわけではありませんが、胎盤だけに染色体の変化がある胎盤限局性モザイクの影響を受ける可能性があります。NIPTの陽性が胎盤に由来する可能性がある場面では、一般に羊水検査が勧められます。確定検査の選び方や検査法(Gバンド法、FISH法、QF-PCR法、マイクロアレイ)については、5-7のページで詳しく解説しています。
羊水検査で異常がなかったときの受け止め方
羊水検査で生きている胎児の染色体が正常と確かめられれば、NIPTの陽性は、消えた胎児や胎盤に由来する偽陽性だったと考えられます。この場合、NIPTの陽性という結果そのものが、生きている赤ちゃんの染色体の異常を示していたわけではありません。
ただし、羊水検査で分かるのは、調べた方法でとらえられる範囲の染色体の情報です。陽性の原因が消えた胎児なのか、生きている胎児の胎盤だけにある変化(胎盤限局性モザイク)なのかは、羊水検査だけでは区別できないことがあります。胎盤限局性モザイクの場合は、胎児の発育を超音波で見守ることが勧められる場合もあるため、確定検査の結果は、その後の妊娠の見守り方と合わせて説明を受けることが大切です。バニシングツインそのものが生き残った赤ちゃんの経過に与える影響については、バニシングツインのコラムで解説しています。
🩺 院長コラム【NIPTの陽性だけで決めない】
バニシングツインのある妊娠で陽性と判定された場合、確定検査で確かめられたのはトリソミー21で約2割というデータがあります。この数字は、NIPTの結果だけで妊娠の継続について判断せず、確定検査と十分な説明を経て意思決定する必要性を示しています。
NIPTはあくまでスクリーニング検査であり、陽性の意味は、妊娠の経過や超音波の所見と合わせて初めて読み解けます。生きている赤ちゃん自身の染色体を羊水検査で確かめてから次の判断をする、という順番を守ることが、医学的に重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. バニシングツインがあると、NIPTは受けられませんか?
検査施設・検査法によっては受けられますが、バニシングツインを対象外とする検査もあります。検査結果が不正確になるリスクがあるため、遺伝カウンセリングで羊水検査などの診断検査も選択肢として検討します。ただし、消えた胎児の胎盤由来のDNAが残っている間は、偽陽性や性別の判定の食い違いが起こりやすくなります。検査の申し込み時に、双子と言われたことや片方が見えなくなった経過を必ず伝え、陽性のときは確定検査で確かめることを前提に受けてください。
Q2. 胎児が消えてから何週あければ影響はなくなりますか?
確かな基準はまだありません。SNP法のNIPTで、胎児の消失から8週ほど後まで消えた胎児のDNAが検出された報告があり、妊娠27週まで影響したと考えられる例もあります。2023年のシステマティックレビューでも、最適な検査時期を決めるにはさらに研究が必要とされています。
Q3. 一卵性の双子だった場合も影響はありますか?
一卵性の双子は原則として同じ染色体を持つため、消えた胎児のDNAが残っていても判定が食い違う可能性は二卵性より低いと考えられます。偽陽性が問題になるのは主に二卵性の双子です。ただし、一卵性でも2人の染色体が異なる例がまれにあるため、陽性のときは確定検査で確かめます。
Q4. バニシングツインがあってNIPTが陽性でした。どうすればよいですか?
まず、妊娠初期の超音波の記録や現在の超音波で、消えた胎嚢や胎児がないかを確認します。そのうえで、羊水検査で生きている胎児自身の染色体を調べます。2023年のシステマティックレビューでは、バニシングツインのある妊娠でトリソミー21が陽性と判定されたうち、確定検査で確かめられたのは約2割でした。
Q5. バニシングツインでNIPTが偽陰性になることはありますか?
理論上は、正常な染色体を持つ消えた胎児のDNAが多く残っていると、生きている胎児の異常が薄まって見逃される可能性があります。ただし、2023年のシステマティックレビューでは、そのような例は報告されていませんでしたが、追跡データが限られており、偽陰性が起こらないことを保証する結果ではありません。偽陰性の主な原因は、胎児分画の低さや胎盤限局性モザイクです。
まとめ
バニシングツインは、NIPTの偽陽性と性別の不一致の原因になります。NIPTが測っているのは胎盤から血液に出てくるDNAで、亡くなった胎児の胎盤も、超音波で見えなくなった後しばらくDNAを出し続けます。NIPTは2つの胎盤のDNAを区別できないため、亡くなった胎児に染色体の異常があったり、男の子だったりすると、生きている胎児の結果として報告されることがあります。
消えた胎児のDNAは、胎児の消失から8週ほど後まで検出された報告があり[4]、何週あければ影響がなくなるかの基準はまだありません。バニシングツインのある妊娠では、2023年のレビューではトリソミー21の陽性的中率は約20%と報告されていますが、対象集団・検査法・採血時期によって異なります[1]。検査の前に双子だった経過を伝えること、陽性のときは超音波で経過を確かめ、羊水検査で生きている胎児自身の染色体を調べることが大切です。
🧬 NIPTをご検討の方へ
ミネルバクリニックには臨床遺伝専門医が常駐し、NIPTの検査前後の説明を臨床遺伝専門医が行っています。妊娠初期の経過も含めて結果をどう読むか、陽性のときにどのような確定検査を選ぶかまで、根拠に基づいてご説明します。陽性の場合の確定検査についても、院内でご案内しています。
NIPTの教科書:第5章のページ
参考文献
- [1] van Eekhout JCA, Bekker MN, Bax CJ, Galjaard RJH. Non-invasive prenatal testing (NIPT) in twin pregnancies affected by early single fetal demise: A systematic review of NIPT and vanishing twins. Prenat Diagn. 2023;43(7):829-837. doi:10.1002/pd.6388. PMID:37226326. [DOI]
- [2] Thurik FF, Ait Soussan A, Bossers B, et al. Analysis of false-positive results of fetal RHD typing in a national screening program reveals vanishing twins as potential cause for discrepancy. Prenat Diagn. 2015;35(8):754-760. doi:10.1002/pd.4600. PMID:25855535. [PubMed 25855535]
- [3] Masala M, Saba L, Zoppi MA, et al. Pitfalls in noninvasive fetal RhD and sex determination due to a vanishing twin. Prenat Diagn. 2015;35(5):506-508. doi:10.1002/pd.4489. PMID:25174732. [DOI]
- [4] Curnow KJ, Wilkins-Haug L, Ryan A, et al. Detection of triploid, molar, and vanishing twin pregnancies by a single-nucleotide polymorphism-based noninvasive prenatal test. Am J Obstet Gynecol. 2015;212(1):79.e1-79.e9. doi:10.1016/j.ajog.2014.10.012. PMID:25447960. [DOI]
- [5] Norton ME, Jacobsson B, Swamy GK, et al. Cell-free DNA analysis for noninvasive examination of trisomy. N Engl J Med. 2015;372(17):1589-1597. doi:10.1056/NEJMoa1407349. PMID:25830321. [PubMed 25830321]



