悪阻(つわり)バンドってご存知ですか?つわりに効くかもということでミネルバクリニックにご来院の妊婦さんでもつけている方を散見します。
赤ちゃんを授かった喜びも束の間、症状に個人差はあれど妊婦さんには”つわり”がやってきます。つわりは妊婦さんの50%~80%が経験するものであり、ほとんど症状が現れないという方もいれば、1日中吐き気を催してしまう方もいます。
「つわりがあるのは赤ちゃんが元気である証拠」といわれることもありますが、症状があまりにも重い場合にはそのようなこともいっていられません。
この記事では、つわりの中でも特に症状の重い「妊娠悪租(にんしんおそ)」に関して、妊娠悪阻がどのような原因で生じ、どのような症状が見られるのか、妊娠悪阻をどのように軽減できるのか、巷で注目されているつわりバンドが妊娠悪阻にも効果があるのかをご説明していきます。ぜひ最後までご覧になってください。
※『悪租』は”つわり”とも”おそ”とも読むことができますが、この記事では一般的な”つわり”にはかな表記を用いて、妊娠悪租と区別をつけて説明していきます。
妊娠悪租とは
妊娠悪阻とは、妊婦さんに特有の”つわり”が重症化したもので、頻繁な嘔吐と著しい食欲の減退が生じることで、脱水や栄養代謝障害を引き起こし、妊娠前よりも5%以上の体重低下が見られる症状のことを表しています。
”つわり”そのものは妊娠に伴った急激なホルモンバランスの変化が原因となって生じており、この変化に女性の体が追い付いていない妊娠初期(妊娠5~8週目)頃に現れることが多くみられます。冒頭にて説明したように、妊婦さんの半数以上はつわりを経験するとされていますが、妊娠12~16週頃にはつわりの症状が自然と改善していくことが多いため、治療が必要となることは稀です。
しかしながら、つわりが重症化した妊娠悪租は妊婦さんのおよそ0.5%が発症するとされており、適切な治療を受けないと重篤な合併症が生じてしまうこともあります。
ここから更に、妊娠悪阻がどのような原因で生じているのか、妊娠悪阻の場合にどのような症状が見られるのかに関して詳しく見ていきましょう。
妊娠悪租の原因
妊娠悪租は”つわり”が重症化したものですが、そもそもの”つわり”がどのようなメカニズムによって生じているのかは十分に解明されていません。妊娠に伴ったエストロゲン(女性ホルモンの一種で「卵胞ホルモン」とも呼ばれます)や、着床(受精卵が子宮内膜に潜り込むこと)によって分泌が開始されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)ホルモンの分泌量が急激に上昇することが原因のひとつと考えられています。
更に、”つわり”が重症化した妊娠悪租がどのようにして生じているのかも十分に解明されていません。初めての妊娠・多胎妊娠・母体の肥満・摂食障害の既往などが発症のリスク要因になると考えられており、加えて、妊娠に対する不安感などの精神的な要因によって引き起こされるともいわれています。また、母親や姉妹など近親者の中に妊娠悪租の経験がある方がいる場合にも、妊娠悪租の発症率が高まるという報告もあり、遺伝的な要因も妊娠悪租の原因として考えられています。
妊娠悪租の症状
妊娠悪阻は”つわり”が頻繁に見られる妊娠5~8週頃に度重なる吐き気や嘔吐が生じることで体内から水分や電解質が失われ、身体機能を維持するために必要となるエネルギーや栄養素を補うことができなくなる症状を指します。
妊娠悪阻は重症の程度によって①第1期、②第2期、③第3期の3段階に分けられており、それぞれの段階で区分される症状が以下の通りです。
第1期
吐き気・嘔吐が1日の中で頻繁に生じ、飲食をすることが困難になる状態を指します。
飲食の困難に伴った、体重の低下、脱水・栄養不足によって、めまいや倦怠感、頭痛などの症状が現れることもあります。これによって、日常生活に支障をきたすようになることもあります。
第2期
頻繁な嘔吐、極端な飲食量の低下が続くことで脱水症状が見られるようになります。脱水症状に陥っている判断材料として、尿量の減少や皮膚の乾燥、喉の渇きが生じていないか確認しましょう。また、脱水症状に伴って血圧の低下や頻脈、発熱が生じるようにもなります。
第3期
脱水症状、栄養失調が続くことで、身体の各器官に影響を及ぼすようになります。
妊娠悪阻の重篤な合併症のひとつには「ウェルニッケ脳症」というものがあります。これはビタミンB1の不足によって引き起こされるもので、記憶や運動機能に異常をきたすようになります。また、「ウェルニッケ脳症」によって、「コルサコフ症候群」と呼ばれる後遺症が残るともされています。後遺症によって過去のことを思い出せない、新たなことを覚えられない、作り話をするようになるといった症状が見られることもあります。
治療が遅れてしまう、治療がうまくいかなかったなどの最悪の場合には、胎児死亡や多臓器不全による母体死亡に至ってしまう危険性もあります。
つわり・妊娠悪租の軽減方法
ここでは、つわり・妊娠悪租の軽減方法に関してご説明していきます。主なアプローチの方法には①症状の仕組みに働きかける方法、②飲食における工夫が挙げられます。それぞれに関して詳しく見ていきましょう。
症状の仕組みに働きかける
症状の仕組みに働きかける場合、更に①消化管の働きを調整する方法、②代謝を調整する方法、③薬剤を用いて調整する方法とに分けることができます。それぞれ見ていきましょう。
消化管の働きを調整する方法
1つ目におすすめする方法は、生姜の摂取です。生姜の辛み成分であるジンゲロールや生姜オール、香り成分であるジンギベレンには消化管の働きを調整し、つわりの軽減に寄与する効果があるとされています。1日の摂取量の目安としては、生姜1000mgとなっています。生姜チューブをティースプーンに1杯程取った量であるため、普段の食事の中に加えてみたり、睡眠前にはちみつ・生姜・牛乳を煮詰めたホットミルクなどで召し上がってみてください。
2つ目におすすめするのは、アロマオイルの利用です。特に、ミントのアロマオイルには消化管の働きの調整効果があるため、つわりに効果があります。ミント以外にも、アロマオイルには気持ちを安らげる効果(香り)があるため、リラックスした気持ちになりたいときなどに使ってみてはいかがでしょうか?お部屋で利用する際には水の上に落として焚くかと思いますが、ハンカチに1・2滴落とせば外出の際にも持ち歩きやすいのでおすすめです。
一方でバジルやカモミール、ラベンダー、ローズ、ローズマリーなどのアロマオイルには通経作用(子宮からの出血を促す作用)を持つものもあるため、定期妊婦健診などの際に利用してもいいものであるかをお医者さんに尋ねられてみてください。
代謝を調整する
代謝の調整として、おすすめするのは葉酸の摂取です。葉酸を摂ることで体内のホモシステイン(必須アミノ酸のひとつであるメチオニンを代謝する際に生成される物質で、重要アミノ酸としての働きを持つ一方で、動脈硬化など血管の老化を引き起こすリスクも持っている)が減少します。これによって妊娠高血圧のリスクを低減するとともに、血流が良好になることでホルモンバランスも安定し、つわりが軽減するとされています。葉酸の1日の摂取量の目安は妊婦さんの場合、480μg(1mg=1000μg)です。食事での摂取はもちろん、不足していると感じられる場合にはサプリメントの利用もご検討ください。
薬剤を用いた調整
上記の方法で妊娠悪阻・つわりの軽減が図れるに越したことはありませんが、妊娠悪阻が原因となって、最悪の場合、命を落とすこともあります。症状が悪化している場合には無理をせずに医療機関での薬剤を用いた治療を受けられるようになさってください。
飲食物の工夫
ここでは、つわりと上手く付き合うための飲食の工夫に関してご紹介します。つわりの際の味覚の変化などは人によってそれぞれであるため、紹介する工夫のすべてが正解ということはないかも知れませんがご自分にあった方法を取り入れてみて下さい。
おすすめの方法は、食べやすい・飲みやすいと感じる食品を摂取することです。つわりがあると食べ物が喉を通らないということもあるかと思いますが、水分の多い果物や野菜、スープなどであれば喉に通しやすいためおすすめです。また、食べられると思うタイミングで食事をとり、食事のもちをよくする(腹もちをよくする)という意味では小麦やお米、食物繊維の多い食品の摂取がおすすめです。更に、口の中のだ液に気持ち悪さを感じる方もいるかと思います。そのような場合には、口の中に清涼感を与える炭酸飲料やタブレットガム、ゼリーやアイスクリームなどがおすすめです。
つわりバンドの効果
最後につわりバンドの効果に関してご紹介していきます。上記にてつわりを軽減する方法をご紹介しましたが、このつわりバンドは”ツボを刺激する”という軽減方法にもとづいたものになっています。
中国の伝統医学において、内関(ないかん:手のひら側の手首関節の中央から指3本分、肩側に近づいた位置)は吐き気の軽減に効果があるとされています。このツボを刺激するリストバンドが”つわりバンド”です。
バンドの一部分にボールがついており、内関にボールがあたるようにバンドを装着することで、バンドの着圧によって定常的なツボの刺激を図ることができます。吐き気の軽減を目的としているため、悪租に対してはもちろん、乗り物酔いなどに対しても効果があります。
つわりバンドのシェアは『SEA-BAND/NauseaRelief』が最も大きいかと思います。Amazonや楽天などの通販サイトにて購入することができますので、口コミも確認しながらご購入を検討されてみてはいかがでしょうか?
『スッキリバンド』として日本の方向けに商品を紹介しているページもあります。お時間のある方は以下のページもぜひご覧になってみてください。
『SEA-BAND/NauseaRelief/スッキリバンド』_商品情報
注意点として、ツボを含めた多くの軽減方法の効果には個人差も大きくあるため、ご自身に適切だと感じる方法をうまく取り入れるようになさってください。
まとめ
ここまで、妊娠悪阻がどのような原因で生じ、どのような症状が見られるのか、妊娠悪阻をどのように軽減できるのか、巷で注目されているつわりバンドがどのようなものであるのかをご説明してきましたが、ご理解いただけたでしょうか?
つわりの症状が重い場合には、生活に支障をきたすこともあり、憂鬱な気持ちとなってしまうこともありますが、お腹の中では赤ちゃんが一所懸命に大きくなろうと頑張っています。この記事がつわり・妊娠悪阻に悩まれている多くの妊婦さんのお力になれば幸いです。
また、この記事をきっかけに妊娠に関するご興味を持っていただけると嬉しい限りです。ミネルバクリニックでは妊娠に関する多くのコラムをご紹介していますので、ぜひそちらもご覧になってください。
追記:個人の感想ですが、院長のツイッターのフォロワー様がこの記事をご覧になり感想を寄せてくださいましたので合わせてごらんください。
食後には胸焼けし、その後お腹が空いてくると気持ち悪さがあり、常にムカムカしていたのでつわりバンドにはすごいお世話になってます。
— よこ (@sun1014child) July 12, 2021
東京の「ミネルバクリニック」は臨床遺伝専門医が在籍するNIPT実施施設であり、たくさんの妊婦さんの悩みや不安と真摯に向き合い、笑顔になれる出産に導いてきました。ミネルバクリニックでは、妊娠9週から受けられる赤ちゃんの健康診断である「NIPT」を業界最新の技術と業界随一の対象疾患の広さで行っております。遺伝のエキスパートである臨床遺伝専門医が出生前診断を提供しておりますので、是非、お気軽にご相談ください。妊娠初期からの出生前診断を受ける医療機関にお悩みの方は、知識・経験・実績とも「第三者から認証されている」臨床遺伝専門医が診療している「ミネルバクリニック」まで是非、ご相談ください。