目次
前期破水(ぜんきはすい)とは、陣痛が始まる前に、赤ちゃんを包む卵膜(らんまく)が破れて羊水が流れ出ることです。妊娠37週以降の正期産では珍しいことではなく、多くはそのままお産に進みます。一方、妊娠37週未満で起こった場合は早産や感染と関わるため、妊娠週数によって対応が大きく変わります。この記事では、前期破水の定義、早期破水・適時破水との違い、原因、受診の目安、週数別の対応、赤ちゃんへの影響を順に解説します。
⚠️ いま「破水かもしれない」と感じている方へ
この記事を読み進める前に、かかりつけの産院へ電話してください。破水かどうかは自分では判断できず、夜間や休日でも連絡してよい症状です。妊娠週数、気づいた時刻、流れ出た量と色を伝えると、その後の指示が受けやすくなります。
Q. 前期破水とは何ですか?早期破水とはどう違いますか?
A. 前期破水は、陣痛が始まる前に起こる破水です。早期破水は、陣痛が始まった後、子宮口が開ききる前に起こる破水で、違いは「陣痛の前か後か」です。妊娠37週以降の前期破水は多くがそのままお産に進みます。妊娠37週未満の前期破水は早産につながるため、入院して感染に注意しながら管理します。
- ➤破水の種類 → 時期で前期・早期・適時・遅延、位置で低位・高位に分かれる
- ➤頻度 → 米国の指針で正期産の約8%、妊娠37週未満で約2〜3%
- ➤原因 → 感染・炎症が代表的。原因がわからないことも多い
- ➤対応 → 37週以降はお産へ、34週未満は妊娠の継続をめざす
- ➤受診 → 破水を疑ったら、夜間・休日でも産院へ連絡する
前期破水とは?陣痛が始まる前に起こる破水
前期破水は、陣痛(規則的な子宮の収縮)が始まる前に卵膜が破れ、羊水が腟から流れ出た状態を指します。卵膜は赤ちゃんと羊水を包んでいる薄い膜で、腟の細菌が子宮の中へ入るのを防ぐ壁の役割も担っています。ふつうはお産が進み、子宮口が開ききるころに破れますが、この順番が入れ替わり、陣痛より先に破水が起こるのが前期破水です。
💡 用語解説:卵膜(らんまく)
卵膜とは、赤ちゃんと羊水を包む膜の総称です。内側から羊膜(ようまく)、絨毛膜(じゅうもうまく)、脱落膜(だつらくまく)の3層でできています。このうち羊膜と絨毛膜は受精卵から作られる赤ちゃん側の組織で、脱落膜はお母さんの子宮内膜が変化したものです。破水とは、この膜が破れて中の羊水が外へ出ることをいいます。
定義と起こる頻度
前期破水は、妊娠全体でみるとまれな出来事ではありません。米国産科婦人科学会(ACOG)の指針によると、妊娠37週以降の正期産で起こる前期破水は妊娠の約8%、妊娠37週未満で起こるものは約2〜3%です[1]。カナダ産科婦人科学会(SOGC)の指針も、妊娠37週未満の前期破水は妊娠の約3%にみられ、自然に始まる早産の約3分の1の原因になっているとしています[2]。
資料によって「前期破水は約10%」「2〜3%」と数字が食い違って見えるのは、正期産の破水を含めて数えているか、妊娠37週未満に限って数えているかの違いによるものです。数字を見るときは、どの週数の破水を分母にしているかを確かめる必要があります。なお、日本国内の頻度をまとめた公的な統計は確認できていないため、ここでは海外の指針の数字を示しています。
英語では PROM(prelabor rupture of membranes)と呼ばれます。prelabor は「陣痛の前」という意味です。日本語の「前期」も妊娠の前半という意味ではなく、「陣痛の前」を指している点を押さえておくと、次の章で説明する早期破水との違いがわかりやすくなります。
妊娠37週未満の前期破水(早産期前期破水)
妊娠37週未満で起こる前期破水は、早産期前期破水(preterm PROM)と呼ばれ、妊娠37週以降の前期破水とは分けて考えます。分ける理由は2つあります。1つは、赤ちゃんの体がまだ成熟しきっていない時期のお産、つまり早産につながることです。もう1つは、破水から出産までの時間が長くなりやすく、その間に子宮の中へ細菌が入る機会が増えることです。
破水から出産までの期間は、破水した週数が早いほど長くなる傾向があります[2]。妊娠32〜34週の前期破水では、この期間の平均は約4日とされています[3]。期間が長いほど赤ちゃんは成熟する時間を得られますが、感染のリスクも続くため、入院して両方のバランスを見ながら管理することになります。
この状態は「早期前期破水」と書かれることもあります。ただし、言葉がよく似ている「早期破水」とは別のものです。早産期前期破水は「妊娠37週未満に起こった前期破水」、早期破水は「陣痛が始まった後の破水」で、分類の軸が違います。
前期破水は「異常」なのか
妊娠37週以降の前期破水は、それだけで重い異常というわけではありません。この時期の赤ちゃんは生まれる準備ができており、破水をきっかけにお産が始まることが多いためです。ただし、破水した後は時間がたつほど感染の機会が増えます。英国の国立医療技術評価機構(NICE)の指針は、正期産の前期破水では重い新生児感染症のリスクが1%で、卵膜が破れていない場合の0.5%より高くなると説明しています[4]。
つまり、大半は問題なく経過するものの、破水していない場合と同じではなく、感染のサインを見ながらお産まで管理する必要がある状態です。一方、妊娠37週未満の前期破水は、早産と感染の両方に対応が必要な合併症として扱われます。同じ「前期破水」という言葉でも、週数によって意味が大きく違います。産院に電話するとき、最初に妊娠週数を伝えるのはこのためです。
破水の種類と違い
破水は、「いつ破れたか(時期)」と「どこが破れたか(位置)」という2つの軸で分類されます。前期破水・早期破水・適時破水は時期による分類、低位破水・高位破水は位置による分類です。2つの軸は別のものなので、「陣痛の前に起こった高位破水」のように重なって使われます。まず時期の分類を、お産の進み方に沿って並べると次のようになります。
時期による分類(比較表)
時期による分類は、陣痛が始まっているか、子宮口がどこまで開いているかで決まります。同じ量の羊水が流れても、陣痛の前なら前期破水、陣痛の途中なら早期破水と呼び方が変わります。呼び方が変わるのは、その後の経過と注意点が違うためです。
📋 破水の時期による分類
| 名称 | 破水が起こる時期 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 前期破水 | 陣痛が始まる前 | 37週以降は多くがそのままお産へ。37週未満は早産と感染に注意が必要 |
| 早期破水 | 陣痛が始まった後、子宮口が開ききる前 | お産の途中の破水。経過への影響は小さいことが多い |
| 適時破水 | 子宮口が開ききるころ | お産の流れのなかで起こる、もっとも一般的な破水 |
| 遅延破水 | 子宮口が開ききっても破れない | 必要に応じて人工的に卵膜を破ることがある |
※早期破水の定義は日本産科婦人科学会の報告[5]による。
表のうち、自宅で突然起こって受診のきっかけになるのは、ほとんどが前期破水です。早期破水と適時破水は陣痛が始まった後に起こるため、多くは入院後に経験します。破水の種類を知っておく意味は、名前を覚えることよりも、「陣痛がないのに水が出た」ときは前期破水の可能性があり、連絡が必要だと判断できる点にあります。
早期破水とは?違いは「陣痛の前か後か」
早期破水(そうきはすい)とは、陣痛が始まった後、子宮口が全開大(約10cm)になる前に起こる破水です。前期破水との違いは、破水が陣痛の前か後かという1点にあります。日本産科婦人科学会の報告は、早期破水を「分娩開始後、子宮口が全開大に至る前の破水」と定義し、子宮口が約5cm開いた後の早期破水は経過にあまり影響しないとしています[5]。
定義からわかるとおり、前期破水と早期破水が重なることはありません。陣痛より先に破水すれば前期破水、陣痛が始まってから破水すれば早期破水で、どちらか一方になります。早期破水はお産がすでに始まっている段階の破水なので、多くはそのまま分娩が進みます。
「早期」という字から、妊娠の早い時期に起こる破水と受け取られることがありますが、それは前の章で説明した早産期前期破水のほうです。前期は「陣痛の前」、早期は「適時(子宮口が開ききるころ)より早い」と覚えると区別しやすくなります。
適時破水・遅延破水とは
適時破水(てきじはすい)は、子宮口が開ききるころに起こる破水で、お産の流れのなかで自然に起こるものです。陣痛が強くなると子宮の中の圧力が上がり、赤ちゃんの頭が下がってきます。その先にある卵膜が押し広げられて破れるのが適時破水で、破水の後は赤ちゃんの頭が直接子宮口を押すようになり、お産が進みやすくなります。
遅延破水は、子宮口が開ききっても卵膜が破れない状態を指し、資料によっては遅滞破水と書かれています。この場合は、医師や助産師がお産の進み具合を見て、人工的に卵膜を破る処置(人工破膜)を行うことがあります。適時破水と遅延破水はどちらも分娩室で起こる出来事で、妊婦さんが自宅で判断を迫られる場面は通常ありません。自宅で気づく破水の多くが前期破水にあたるのは、このためです。
位置による分類:低位破水と高位破水
卵膜の破れた場所が子宮口の近くなら低位破水、子宮口から離れた高い位置なら高位破水と呼びます。低位破水は完全破水とも呼ばれ、破れた場所が出口に近いため、羊水がまとまって流れ出やすいのが特徴です。高位破水は、破れた場所と出口の間に赤ちゃんの体や卵膜があるため、羊水が少しずつしか出てきません。
位置の分類は、時期の分類とは別の軸です。「完全破水」は位置を表す言葉であり、時期を表す「適時破水」と同じ意味ではありません。高位破水は量が少ないぶん、尿漏れやおりものと区別がつきにくく、破水に気づくのが遅れやすい点が問題になります。原因や量、止まることがあるのかといった詳しい内容は、高位破水とはで解説しています。
前期破水の原因と、なりやすい人
前期破水の原因は一つではなく、はっきりした原因が見つからないことも少なくありません。考え方としては、卵膜そのものが弱くなる要因と、卵膜にかかる力が大きくなる要因の2つに分けると整理しやすくなります。卵膜の修復を扱った総説では、妊娠37週未満の前期破水の約30%に羊水の中の感染が関わり、残りは喫煙ややせ、子宮内の出血、子宮への処置など感染以外の要因が関係するとまとめられています[6]。
卵膜が弱くなる:腟からの感染
もっともよく知られている要因は、腟から子宮へ広がる感染と炎症です。腟の中にはふだん乳酸菌が多く、ほかの細菌が増えにくい環境が保たれています。このバランスが崩れると(細菌性腟症)、増えた細菌が子宮の出口である子宮頸管を通り、卵膜まで達することがあります。卵膜に炎症が起こると膜を支えているコラーゲンが分解され、膜がもろくなって破れやすくなると考えられています。
💡 用語解説:絨毛膜羊膜炎(じゅうもうまくようまくえん)
絨毛膜羊膜炎とは、卵膜(絨毛膜と羊膜)や羊水に細菌が感染して炎症が起こった状態です。前期破水の原因になるだけでなく、破水した後に細菌が入って起こる場合もあり、原因と結果の両方になりえます。症状や対応は「前期破水と感染」の章で説明します。
感染は自覚症状がないまま進むことがあります。おりものの量やにおいの変化、かゆみ、下腹部の張りなどがあるときに、健診を待たずに受診する意味はここにあります。ただし、感染があれば全員が前期破水になるわけではなく、感染がなくても前期破水は起こります。
子宮の内圧が上がる:羊水過多・多胎妊娠
卵膜にかかる力が大きくなる状態も、前期破水の要因として挙げられています。代表的なものが、羊水が通常より多い羊水過多と、双子などの多胎妊娠です。どちらも子宮が大きく引き伸ばされるため、卵膜にかかる張力が増し、破れやすくなると説明されています。羊水の量や赤ちゃんの数は妊婦健診の超音波検査でわかるので、該当する場合は健診の間隔や注意点について主治医から説明があります。
これらは妊婦さん本人の行動で変えられるものではありません。一方、「くしゃみや咳、重い物を持つといった日常の動作で破水する」という説明もよく見かけますが、それを裏づける確かなデータは、今回調べた範囲では確認できませんでした。日常の動作を過度に制限する根拠は乏しいといえます。
そのほかのリスク因子
前回の妊娠での前期破水、喫煙、やせ、妊娠中の出血、子宮への処置などが、リスクを上げる因子として報告されています。カナダの指針によると、妊娠37週未満の前期破水を経験した人が次の妊娠でも繰り返す割合は、報告によって10〜32%です[2]。喫煙ややせ、子宮内の出血も関連する因子として挙げられており[6]、妊娠中の喫煙は本人が変えられる数少ない因子です。早産と関係の深い子宮頸管の状態については、子宮頚管と早産の関係で解説しています。
子宮への処置としては、羊水検査(羊水穿刺)があります。国際超音波産婦人科学会(ISUOG)の指針は、羊水穿刺の後に卵膜が破れる頻度を1〜2%とし、自然に起こった前期破水より経過がよい可能性があるとしています[7]。羊水検査後の破水を調べた研究でも、自然に起こった破水に比べて破水から出産までの期間が長く、より遅い週数で出産していました[8]。詳しくは羊水検査のリスクをご覧ください。
なお、NIPT(新型出生前診断)はお母さんの採血で行う検査で、子宮に針を刺さないため、検査そのものが破水の原因になることはありません。ただしNIPTは確定検査ではなく、陽性の場合は羊水検査などの確定検査が必要になります。
🧬 遺伝の視点:卵膜は赤ちゃん側の組織
エーラス・ダンロス症候群(体を支える結合組織がもろくなる遺伝性疾患)と前期破水の関係を調べたオランダの研究では、お母さんがこの疾患で赤ちゃんが該当しない場合の早産は12.5%でしたが、お母さんは該当せず赤ちゃんがこの疾患の場合は40%で、多くは破水が先行していました[9]。卵膜のうち羊膜と絨毛膜は赤ちゃん側の組織なので、赤ちゃんの体質が膜の強さに関わるという解釈です。一方、血管型については、それ自体は早産のリスク因子とは見えないとする系統的レビューもあります[10]。前期破水の大多数はこうした遺伝性疾患とは関係なく起こります。疾患の詳細はエーラス・ダンロス症候群で解説しています。
原因がわからないことも多い
ここまでに挙げた要因がどれも当てはまらないのに前期破水が起こることは、珍しくありません。前期破水の後、「歩きすぎた」「仕事を続けた」「上の子を抱っこした」と直前の行動を振り返る方は多いのですが、こうした日常の行動が原因だとするデータは確認できていません。カナダの指針は、妊娠37週未満の前期破水の管理について、ベッド上で安静にすることに利益はなく、母体に不利益があるとしています[2]。
原因が特定できない場合でも、その後の方針は変わりません。確認するのは、いまの妊娠週数、感染のサインの有無、赤ちゃんの状態の3つです。破水しやすい人の特徴や、気をつけたい行動についての考え方は、破水しやすい人の特徴でくわしく扱っています。
🩺 院長コラム【「自分のせい」と考える前に】
前期破水が起こると、直前の行動に原因を探してしまうものです。けれども、医学的に関連が報告されているのは感染や子宮の状態、喫煙などで、家事や仕事、歩いたことを原因とするデータはありません。
臨床遺伝専門医の立場から付け加えると、卵膜の多くは赤ちゃん側の組織で、膜の強さには体質も関わります。原因を一つに決められないほうがふつうです。過去の行動よりも、いまの週数と感染の有無という事実が、次の判断の材料になります。
前期破水かもしれないときの症状と受診の目安
前期破水かどうかを、自分で見分けきることはできません。破水かもしれないと思った時点で、かかりつけの産院に連絡してください。破水の感じ方は人によって大きく違い、典型的な症状がそろわないことも多いためです。
症状:一気に出る場合と少しずつ出る場合
羊水の出方には、まとまって流れ出る場合と、少量が続く場合の両方があります。子宮口の近くで卵膜が破れると、温かい水が流れ出る感覚があり、下着や衣服が濡れるほどの量になることがあります。尿と違って、力を入れても自分の意思では止められません。これに対し、高い位置で破れた場合は、体を動かしたときや立ち上がったときに少し出る程度で、尿漏れや水っぽいおりものと区別がつかないことがあります。
「一気に出なければ破水ではない」とは言えません。量が少なくても、止まったように見えても、破水の可能性は残ります。少量の破水に気づかないまま時間がたってしまった場合の考え方は、高位破水に気づかないまま時間がたったときで解説しています。においや色による見分け方は破水のにおい・色、おりものとの違いは破水とおりものの違いを参考にしてください。ただし、見分け方はあくまで目安で、最終的な判断は診察で行います。
受診までにすること・してはいけないこと
まず産院に電話し、指示に従って移動します。電話では、妊娠週数、破水に気づいた時刻、流れ出た量と色、陣痛や出血の有無、赤ちゃんの動きを伝えます。羊水が緑がかっている、赤い、においが強いといった点も大事な情報です。電話の後は、清潔なナプキンやタオルを当てて移動します。これは羊水を止めるためではなく、衣服や座席を濡らさないためのもので、当てたナプキンは色や量の確認にも役立ちます。
移動は、自分で運転せず、家族の車かタクシーを使います。破水や陣痛のときに利用できる事前登録制のタクシーがある地域もあるので、妊娠後期に入ったら確認しておくと慌てずにすみます。
⚠️ 受診までに避けること
湯船につかる入浴、腟の中を洗うこと、性交渉、タンポンの使用は避けてください。破水すると腟と子宮の中がつながり、細菌が入りやすくなるためです。シャワーを浴びてよいかどうかは施設によって指示が異なるので、電話の際に確認してください。
救急車を呼ぶサイン
通常の破水では救急車は必要ありませんが、次のような場合は産院への連絡と並行して救急要請を考えます。量の多い出血がある、腟からひものようなものが出ている・触れる、強い腹痛が続いてお腹が硬いままになっている、赤ちゃんの動きを感じない、といった場合です。
前期破水の合併症として、へその緒が赤ちゃんより先に出てしまう臍帯脱出(さいたいだつしゅつ)や、胎盤が先にはがれる常位胎盤早期剥離が知られています[11]。臍帯脱出では、へその緒が圧迫されて赤ちゃんに酸素が届きにくくなるため、急いでお産にする必要があります。赤ちゃんの頭が下にない逆子の場合は、破水のときに起こりやすいとされています。出血と強い腹痛が同時にある場合は常位胎盤早期剥離の可能性があり、こちらも一刻を争います。
病院で行う検査と診断
破水かどうかは、腟鏡(ちつきょう)を使った診察と、いくつかの検査を組み合わせて判断します。最初に行うのは、腟鏡という器具で腟の奥を直接見る診察です。子宮口から羊水が流れ出ている様子や、腟の奥に羊水がたまっている様子が確認できれば、破水と診断できます。
見ただけでははっきりしない場合に使うのが、pH(酸性・アルカリ性の度合い)を調べる試験紙です。腟の中はふだん酸性ですが、羊水は弱アルカリ性なので、羊水が混じっていると試験紙の色が変わります[3]。ただし、血液や精液が混じっている場合や一部の感染でもアルカリ性に傾くため、この検査だけで確定はできません。
もう1つが、羊水に多く含まれるたんぱく質を検出する検査キットです。破水かどうかがはっきりしない例を集めたメタ解析では、検出するたんぱく質の種類によって精度に差があることが示されています[12]。どの検査にも、破水していないのに陽性になる偽陽性と、破水しているのに陰性になる偽陰性があるため、1つの結果で決めずに、診察所見や超音波検査での羊水量とあわせて総合的に判断します。
破水と診断された後は、感染と赤ちゃんの状態を調べます。体温と脈拍の測定、血液検査(白血球数やCRPという炎症の指標)、胎児心拍モニタリングが基本です。内診は細菌を押し込むおそれがあるため、必要なときに限って行われます。検査の種類や流れは、破水かどうかを調べる検査で詳しく解説しています。
前期破水後の対応は妊娠週数で変わる
前期破水後の方針は、「妊娠何週か」と「感染や赤ちゃんの異常のサインがあるか」の2点で決まります。感染や赤ちゃんの状態の悪化が疑われるときは、週数にかかわらずお産にするのが基本です。サインがなければ、週数によって「お産に進む」か「妊娠を続ける」かが分かれます。日本でも産婦人科診療ガイドライン産科編に前期破水の取り扱いの項目が設けられています[13]。実際の方針は、新生児集中治療室(NICU)の有無など施設の体制によっても変わるため、以下は考え方の目安としてお読みください。
🗓 妊娠週数別の基本的な考え方(感染や赤ちゃんの異常がない場合)
| 破水した時期 | 基本的な考え方 | 主な対応 |
|---|---|---|
| 妊娠37週以降 | お産に進む | 陣痛を待つ、または分娩誘発 |
| 妊娠34〜36週 | 待つか分娩するかを個別に判断 | 感染と赤ちゃんの状態を見ながら管理 |
| 妊娠34週未満 | 妊娠の継続をめざす | 入院、抗菌薬、ステロイド、NICUのある施設での管理 |
| 妊娠中期 | 週数ごとに個別の相談が必要 | 周産期センターで方針を相談 |
※感染や赤ちゃんの異常が疑われる場合は、週数にかかわらず分娩が検討されます。
妊娠37週以降
妊娠37週以降の前期破水では、陣痛が自然に始まるのを待つ方法と、薬で陣痛を起こす方法(分娩誘発)のどちらも選択肢になります。破水後24時間以内に陣痛が始まる人の割合は、英国の指針では60%[4]、ほかの資料では90%を超える[3]とされ、数字に幅があります。対象とした集団や数え方の違いによるもので、「多くは1日以内に陣痛が来るが、来ない人も一定数いる」と理解するのが実際に近いといえます。
待つ方法と誘発する方法を比べた5,041人の臨床試験では、新生児の感染と帝王切開の割合は同じ程度で、オキシトシンによる誘発ではお母さんの感染が少なくなりました[14]。複数の試験をまとめたコクランレビューも、早めにお産を計画したほうがお母さんの感染が少なく、帝王切開は増えないとしていますが、根拠の質は低いと評価しています[15]。英国の指針は、24時間まで待つか早めに誘発するかを選べるようにし、約24時間で陣痛が始まらなければ誘発を提案するとしています[4]。
陣痛を待つ間の過ごし方や出産までの時間は破水後の陣痛待ち、陣痛がなかなか始まらない場合の考え方は破水したのに陣痛がこないときで解説しています。
妊娠34〜36週
妊娠34〜36週は、待つか早めにお産にするかで、専門家の間でも方針が分かれてきた時期です。赤ちゃんはかなり成熟していますが、37週以降に比べると呼吸の問題が起こりやすく、一方で待てば感染の機会が増えるためです。
この時期の1,839人を対象にした臨床試験では、新生児の敗血症(血液に細菌が入る重い感染症)はすぐにお産にした群で2%、待った群で3%と差がなく、すぐにお産にした群では赤ちゃんの呼吸障害が増えました(8%対5%)[16]。待った群ではお母さんの出血やお産のときの発熱が多かったものの、帝王切開は少なくなっています[16]。この結果から、感染や赤ちゃんの異常のサインがなければ、注意深く経過を見ながら待つ方針が支持されるようになりました。どちらを選ぶかは、感染のサイン、赤ちゃんの状態、施設の体制をふまえて個別に決められます。
妊娠34週未満
妊娠34週未満では、感染や赤ちゃんの異常がない限り、妊娠を続けて赤ちゃんの成熟を待つのが基本です。入院して、感染のサインと赤ちゃんの状態を毎日確認しながら管理します。早く生まれた赤ちゃんに対応できるよう、NICUのある施設へ搬送されることもあります。
この時期に使われる薬は主に2つです。1つは抗菌薬で、コクランレビューでは、抗菌薬を使うと絨毛膜羊膜炎が減り、48時間以内や7日以内に生まれる赤ちゃんが減ることが示されています[17]。もう1つはステロイドの注射で、近いうちに早産になる可能性が高い場合に、赤ちゃんの肺の成熟を促す目的でお母さんに投与されます[1]。子宮の収縮を抑える薬は、使用が検討されることがありますが、破水から出産までの期間を延ばしたり赤ちゃんの経過を改善したりする効果は示されていないとされています[1]。切迫早産の管理と重なる部分が多い治療です。
妊娠中期の破水
妊娠24週より前の破水は、赤ちゃんが子宮の外で生きていけるかどうかの境目にあたり、経過は破水した週数によって大きく変わります。お母さんの感染などの合併症も多い時期で[18]、妊娠を続けるかどうかを含め、周産期センターで個別に相談して方針を決めます。1つの数字で見通しを示すことはできないため、ここでは扱いません。詳しくは妊娠中期の破水をご覧ください。
前期破水と感染:絨毛膜羊膜炎と赤ちゃんへの影響
前期破水でもっとも注意するのは、子宮の中の感染(絨毛膜羊膜炎)と、早産にともなう赤ちゃんの未熟性です。赤ちゃんへの影響は「前期破水だったかどうか」だけでは決まらず、破水した週数、感染の有無、生まれた週数によって大きく違います。
絨毛膜羊膜炎とは・疑うサイン
絨毛膜羊膜炎は、卵膜や羊水に細菌が感染して炎症が起こった状態です。卵膜が破れると、腟と子宮の中がつながり、腟の細菌が子宮の中へ上がりやすくなります。破水から時間がたつほど感染が起こりやすくなるのはこのためです。
感染を疑うサインは、お母さんの発熱、お腹の痛み、量の多いおりものや悪臭のあるおりもの、赤ちゃんの心拍が速くなることです[3]。入院中に体温や脈拍をこまめに測り、血液検査と胎児心拍モニタリングを繰り返すのは、これらを早く見つけるためです。自宅で陣痛を待つ場合も、発熱やおりもののにおいの変化、お腹の痛みがあれば、すぐに産院へ連絡します。
感染が疑われた場合は、抗菌薬を使いながら、週数にかかわらずお産にする方向で管理します。子宮の中に感染がある状態で妊娠を続けると、お母さんと赤ちゃんの両方に負担がかかるためです。
赤ちゃんへの影響は週数と感染の有無で決まる
赤ちゃんへの影響は、破水した週数、生まれた週数、感染の有無の3つでほぼ決まります。妊娠37週以降の前期破水では、赤ちゃんは成熟しており、多くは問題なく経過します。注意するのは感染で、重い新生児感染症のリスクは1%と、卵膜が破れていない場合の0.5%より高くなります[4]。破水から時間がたって生まれた赤ちゃんは、生後しばらく体温や呼吸の状態を観察することがあります。
妊娠37週未満では、感染に加えて、早く生まれることそのものの影響が加わります。呼吸や体温の調節、感染への抵抗力などは週数が進むほど整うため、同じ前期破水でも、生まれた週数が遅いほど合併症は少なくなります。
妊娠24週より前に破水し、羊水が少ない状態が長く続いた場合は、赤ちゃんの肺が十分に育たなかったり、手足の関節が変形したりすることがあります[3]。羊水が少ないために起こるこうした一連の変化は、Potterシーケンスと呼ばれます。肺が育つには、子宮の中に十分な羊水があることが必要とされているためです。
「障害が残る確率」を一つの数字で言えない理由
「前期破水で障害が残る確率は何%か」という問いに、一つの数字で答えることはできません。妊娠38週で破水して翌日に生まれた赤ちゃんと、妊娠23週で破水した赤ちゃんでは、見通しがまったく違います。週数も感染の有無も違う赤ちゃんを一緒にして計算した数字は、どちらの赤ちゃんにも当てはまりません。
感染との関係では、絨毛膜羊膜炎と脳性麻痺の関連を調べたメタ解析があり、症状のある絨毛膜羊膜炎では脳性麻痺のオッズ比が2.42、胎盤の検査でわかる絨毛膜羊膜炎では1.83でした[19]。ただし、オッズ比は集団どうしを比べた関連の強さであり、一人ひとりの赤ちゃんに障害が残る確率ではありません。もともとの頻度が低い病気では、オッズ比が2倍になっても、実際に起こるのは少数にとどまります。見通しを知りたいときは、いまの週数、感染のサインの有無、赤ちゃんの状態をふまえた説明を主治医に求めるのが確かな方法です。
🩺 院長コラム【確率の数字は「誰の数字か」を確かめる】
インターネットで見つかる確率の数字は、どの週数の、どんな状態の赤ちゃんを集めて計算したものかが書かれていないことがよくあります。分母がわからない数字を、ご自身の状況に当てはめることはできません。
遺伝医療でも、集団の数字と個人の見通しを分けて考えることを基本にしています。前期破水でも同じで、週数と感染の有無という条件を先に確かめてから数字を読むと、不必要に悲観することも、楽観しすぎることも避けられます。
破水しても羊水は作られる
破水しても、羊水がすべてなくなって作られなくなるわけではありません。妊娠中期以降の羊水は主に赤ちゃんの尿から作られており、破水した後も作られ続けます。ただし、流れ出る量が多ければ子宮の中の羊水は少ない状態になるため、入院中は超音波検査で羊水の量を繰り返し確認します。
破れた部分がふさがり、羊水の流出が止まることもあります。妊娠37週未満の前期破水208例のうち24例(11.5%)で流出が止まったという報告があります[6]。羊水検査の後に起こった破水では、自然にふさがることが多いとされています[7]。一方で、自然に起こった前期破水の多くはふさがらず、ふさがるかどうかを前もって知る方法もありません。「止まったから大丈夫」と自己判断せず、診察で確認することが必要です。
前期破水は予防できる?
前期破水を防ぐ方法は、現時点では確立していません。原因がわからない例が多く、要因がわかっている場合でも、多胎妊娠や羊水の量のように本人が変えられないものが含まれるためです。
1つめは、妊婦健診を予定どおり受けることです。健診で前期破水を予測できるわけではありませんが、感染のサイン、子宮頸管の変化、羊水の量などを確認でき、異常があれば早く対応できます。2つめは、おりものの量やにおいの変化、かゆみ、発熱があるときに、次の健診を待たずに受診することです。腟の感染は前期破水の代表的な要因だからです。3つめは禁煙で、喫煙は前期破水に関連する因子として挙げられています[6]。4つめは、前回の妊娠で前期破水や早産を経験した場合に、そのことを早めに主治医へ伝えることです。繰り返す割合は10〜32%と報告されています[2]。
一方で、安静にすること、運動を控えること、特定の食事をとること、ストレスを避けることが前期破水を防ぐという根拠は、今回調べた範囲では確認できませんでした。ベッド上での安静には利益がないとする指針もあります[2]。日常生活を必要以上に制限しても、前期破水を防げるとはいえません。破水しやすいとされる行動についての考え方は、破水しやすい人の特徴で解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 前期破水から出産までどれくらいかかりますか?
Q2. 前期破水は異常分娩ですか?健康保険は使えますか?
Q3. 前期破水で赤ちゃんが助かる確率は?
一つの数字では答えられません。妊娠37週以降の前期破水では、赤ちゃんは成熟しており、多くは問題なく経過します。妊娠37週未満では、破水した週数、生まれた週数、感染の有無によって見通しが大きく変わります。いまの週数と状態をふまえた説明を主治医に求めてください。 妊娠中期の破水については妊娠中期の破水で扱っています。
Q4. 破水しても羊水は作られますか?
作られます。妊娠中期以降の羊水は主に赤ちゃんの尿から作られており、破水した後も作られ続けます。ただし、流れ出る量が多いと子宮の中の羊水は少なくなるため、超音波検査で羊水の量を確認しながら管理します。
Q5. 前期破水に前兆はありますか?
前期破水そのものを前もって知らせる決まった前兆はありません。ただし、腟の感染は前期破水の代表的な要因なので、おりものの量やにおいの変化、かゆみ、発熱、お腹の張りがあるときは、健診を待たずに受診してください。
Q6. 前期破水は次の妊娠でも繰り返しますか?
繰り返すことがあります。妊娠37週未満の前期破水を経験した方が次の妊娠でも繰り返す割合は、報告によって10〜32%です。次の妊娠がわかったら、前回の経過を早めに主治医へ伝えてください。[2]
Q7. 破水と陣痛はどちらが先に来ますか?
陣痛が先に来て、お産の途中で破水する方が多数です。破水が先に来るのが前期破水で、米国の指針では妊娠37週以降の妊娠の約8%にみられます。どちらが先でも、産院に連絡するという対応は同じです。[1] 詳しくは破水と陣痛はどちらが先かをご覧ください。
まとめ
前期破水は、陣痛が始まる前に卵膜が破れて羊水が流れ出ることです。陣痛が始まった後の早期破水、子宮口が開ききるころの適時破水とは、破水の時期で区別されます。米国の指針では、妊娠37週以降の妊娠の約8%、妊娠37週未満の約2〜3%にみられます[1]。
原因は感染や子宮の状態などさまざまで、わからないことも多く、日常の行動が原因だとする根拠は確認されていません。妊娠37週以降は多くがそのままお産に進み、妊娠34週未満では入院して妊娠の継続をめざします。赤ちゃんへの影響は、破水した週数と感染の有無で決まります。破水かもしれないと思ったら、量が少なくても、夜間や休日でも、かかりつけの産院へ連絡してください。破水全体の基礎知識は破水とはにまとめています。
🏥 当院の診療について
当院は分娩を扱う施設ではなく、破水の診察・治療は行っていません。破水が疑われるときは、かかりつけの産院へご連絡ください。
当院では、臨床遺伝専門医がNIPT(新型出生前診断)を行っています。妊娠9週以降は通常の予約で、妊娠6〜8週は臨床研究として受け付けています。NIPTを受けると決めた方は、WEBからご予約ください。
参考文献
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- [2] Guideline No. 430: Diagnosis and management of preterm prelabour rupture of membranes. J Obstet Gynaecol Can. 2022. [JOGC]
- [3] 前期破水. MSDマニュアル プロフェッショナル版. [MSDマニュアル]
- [4] Intrapartum care. NICE guideline NG235. National Institute for Health and Care Excellence. 2023. [NICE]
- [5] 早期破水の定義に関する報告. 日本産科婦人科学会. [日本産科婦人科学会]
- [6] Healing Mechanism of Ruptured Fetal Membrane. Front Physiol. 2020;11:623. [Frontiers]
- [7] ISUOG Practice Guidelines: invasive procedures for prenatal diagnosis. Ultrasound Obstet Gynecol. 2016;48:256-268. [ISUOG]
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- [9] Pregnancy and the Ehlers-Danlos syndrome: a retrospective study in a Dutch population. Acta Obstet Gynecol Scand. 2002;81(4):293-300. [Wiley]
- [10] Vascular Ehlers-Danlos syndrome and pregnancy: A systematic review. BJOG. 2024. [Wiley]
- [11] Preterm Premature Rupture of Membranes: Diagnosis and Management. Am Fam Physician. 2006. [AAFP]
- [12] The diagnosis of rupture of fetal membranes (ROM): a meta-analysis. J Perinat Med. 2013. [DOI]
- [13] 産婦人科診療ガイドライン―産科編2023(CQ303 前期破水の取り扱いは?). 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会. [Minds]
- [14] Induction of labor compared with expectant management for prelabor rupture of the membranes at term. TERMPROM Study Group. N Engl J Med. 1996;334(16):1005-1010. [PubMed 8598837]
- [15] Planned early birth versus expectant management (waiting) for prelabour rupture of membranes at term (37 weeks or more). Cochrane Database Syst Rev. 2017;1(1):CD005302. [PubMed 28050900]
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- [17] Antibiotics for preterm rupture of membranes. Cochrane Database Syst Rev. 2013;(12):CD001058. [PMC11297390]
- [18] Society for Maternal-Fetal Medicine Consult Series #71: Management of previable and periviable preterm prelabor rupture of membranes. Am J Obstet Gynecol. 2024;231:B2-B15. [AJOG]
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- [20] 無痛分娩・分娩・帝王切開などの出産費用. 国立成育医療研究センター. [国立成育医療研究センター]
- [21] 医療保険制度改正法が成立しました. 厚生労働省. [厚生労働省]





