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人工妊娠中絶手術は、さまざまな事情で選択されるものです。一般的には妊娠初期に受けるイメージが強い手術ではあるものの、場合によっては妊娠中期に中絶手術を受けることになるケースも。
「妊娠中期でも中絶手術が可能なの?」と驚かれる方もおられますが、母体保護法という法律によって妊娠22週6日までであれば可能であると定められています。
正確には、妊娠11週6日までに行う中絶手術のことを「初期中絶」、妊娠12週から妊娠21週6日までに行うものを「中期中絶」といいます。中期中絶は、初期中絶と比較すると妊婦さんへの負担や手術方法などに違いがありますが、なかなか知識を得る機会もないことからあまり知らないという方も多いことでしょう。
そこでこの記事では、妊娠中期に行う中期中絶の基礎知識と手術・分娩の流れや痛みについて解説します。中絶手術を受けるか迷われている方や、やむを得ない事情により手術を受ける必要のある方はぜひ最後まで読んでみてください。
中期中絶の基礎知識
妊娠中期とは、妊娠16週〜妊娠27週のことで、妊娠5か月〜妊娠7か月までのことです。この頃には母体と胎児が安定し、つわりも落ち着いて体調が安定するため、一般的には安定期と呼ばれています。
しかしそんな妊娠中期でも、さまざまな事情で人工妊娠中絶手術を受ける方がおられるのも事実です。ここではまず、中期中絶のリスクや必要な手続きなどの基礎知識をご紹介します。
中期中絶のリスクと初期中絶との違い
中絶手術は、妊娠12週未満に行われる初期中絶と、妊娠12週以降に行われる中期中絶があります。多くの方がイメージする人工妊娠中絶手術は、日帰りでも行われることも多い初期中絶ですが、妊娠5か月からの妊娠中期に行われるのはそれよりもリスクの高い中期中絶となります。
以下は、中期中絶のリスクの例です。
- 子宮破裂
- 子宮頸管裂傷
- 手術に伴う出血の増加
- 貧血や出血性ショック、DIC(出血が止まりにくくなる状態)
- 子宮内感染
- 子宮全摘出
- 子宮頸管無力症
- 産後うつなど
中期中絶は、初期中絶とは中絶の方法が大きく異なるため、母体への負担や費用、日数などにも違いがあります。入院も必要になることから、手術費以外に入院費が必要になるなど、費用面でも大きな差が出ます。
さらに、妊娠中期での人工妊娠中絶手術は「人工死産」という扱いです。火葬や納骨が必要となるので、いくつかの手続きが必要となります。
これらのことから、中期中絶はさまざまな合併症のリスクが高まるだけでなく精神的、経済的にも大きな負担となるため、初期中絶と比べてデメリットが多いといえるでしょう。
中期中絶後に必要な手続き
上述の通り、中期中絶は人工死産として取り扱われます。
そのため、妊娠12週以降に行われる中期中絶には、いかなる医療機関で処置を受けたとしても、法律によって死産届の提出と火葬による埋葬が義務づけられているのです。
以下は、中期中絶後に必要な手続きです。
- 死産届
- 死産証書
- 死胎火葬許可証
胎児の埋葬を行う際は、必ず役所の許可証が必要となるため、許可なく勝手に胎児を運んだり埋葬したりすることはできません。
万が一反すると死体遺棄となってしまうので、死産届と死産証書を在住する地域の役所に提出し、死胎火葬許可証の発行などの必要な手続きを行ってくれる、専門の埋葬業者さんに依頼することになるでしょう。
中絶手術で保険が適用されるケースとは
初期中絶を含む中絶手術では、以下の3つの場合に保険が適用されます。
- 胎内で赤ちゃんが亡くなってしまう稽留流産の場合
- 妊娠の継続が母体の生命をおびやかす可能性がある、中絶手術が必要だと判断された場合
- 妊娠12週以降の中期中絶では要件を満たせば「出産育児一時金」が支給される(経済的理由などによる中絶には保険が適用されない)
原則として人工妊娠中絶手術には保険が適用されません。しかし、身体的にやむを得ない事情があり、医師が中絶すべきだと判断した場合は、治療の一環としての中絶手術に保険が適用されるケースもあります。
また、健康保険に加入している方は妊娠4か月(85日)以上の出産、死産、早産、中絶の場合でも出産育児一時金が支給される場合もあるので、健康保険の加入先に問い合わせてみましょう。
日本では中絶薬の使用は不可
WHOでは「真空吸引法」と「中絶薬」が推奨されており、国際的には手動による真空吸引法が一般的です。
しかし日本での中絶手術は、主に「掻爬(そうは)法」「電動吸引法」「手動吸引法(MVA)」の3つの手術法が採用されています。
2022年4月現在、日本では経口中絶薬はリスクがあるとして未承認となっているため、使用することはできません。
WHOでは、「ミフェプリストン」と「ミソプロストール」の2種類の薬の併用を推奨しています。
これらの薬でそれぞれ女性ホルモンの分泌を抑制することで妊娠を継続しにくくし、子宮を収縮させて胎児を出すというメカニズムで中絶を行います。しかし日本では、出血のリスクが大きいことや中絶の確率が100%ではないことなどから、未承認となっているのです。
ミソプロストールは日本国内でも胃や十二指腸潰瘍の治療薬として認可されていますが、妊婦への使用は禁忌とされており、中絶手術に使用されることはありません。
妊娠中期の中絶手術・分娩の流れや痛みについて
上記でもご紹介したように、妊娠12週までの初期中絶とそれ以降(とくに妊娠14週以降)では、手術方法や手術の流れが大きく異なります。
なぜなら、中期中絶手術では初期中絶であまり問題とならない子宮筋腫や前回帝王切開分娩、胎盤・低地胎盤などの問題が生じるほか、子宮口を広げたり出産様式を取ったりなどの手順が加わるためです。
ここでは、具体的に妊娠中期の中絶手術・分娩の流れや痛みについてご紹介します。
妊娠中期に行う中絶手術の流れ
初期中絶では、子宮口をあらかじめ拡張した上で器械的に子宮の内容物を除去する子宮内容除去術が行われます。通常は10〜15分程度で処置が完了し、痛みや出血なども少ないため日帰りで手術が行われることも多いです。
しかし妊娠中期に行う中期中絶手術では、入院してあらかじめ子宮頸管拡張材を挿入し、手術当日に子宮収縮剤を投与して陣痛を起こす分娩様式での処置が必要です。分娩後は胎内に残った胎盤の一部を取り出す子宮内容除去手術も行われます。
妊婦さんの体への負担も大きく、数日程度入院して手術を行うのが一般的であるため、妊娠週数が進めば進むほど経済的な負担も大きくなるでしょう。したがって、妊娠中期の中絶手術を選択せざるを得ない場合は、出来るだけ早い決断が望ましいでしょう。
中期中絶手術の方法や費用の相場については、こちらの記事で詳しくご紹介しているのでぜひ参考になさってください。
妊娠中期の中絶手術の痛みについて
妊娠中期の中絶手術に伴う痛みや母体への負担は、通常の出産と変わりません。痛みや出血が少なく終えられる初期中絶手術とは、身体的な負担も比べものにならないのです。
中期中絶手術で痛みを感じるのは、手術前日から行う子宮頸管拡張材の挿入過程や子宮収縮剤投与後です。子宮頸管拡張剤の挿入から分娩終了までには最低でも2日間は痛みを感じることになります。
退院する頃には痛みも落ち着いてきていることも多いですが、痛みが強く残っている場合は退院後も安静にすることが大切です。
ただし、以下のような場合は退院後の検診日を待たずに病院を受診し、診察を受けることをおすすめします。
- 痛みが強く立ち上がることも困難
- 38度前後の発熱が継続
生理痛を大きく超えるような痛みがある場合は、子宮内感染が発生している恐れもあるため、我慢せずに受診し医師に相談してください。
これらのことから、中期中絶ではある程度の痛みを伴うこと、痛みを感じる時間が長いことを覚悟の上で手術を受けた方がよいでしょう。
まとめ
妊娠中期に行う中期中絶の基礎知識と手術・分娩の流れや痛みについて解説しました。
人工妊娠中絶手術は、初期中絶であっても多少のリスクが伴います。妊娠12週を超えた中期中絶の場合は明らかにリスクが高まりますので、妊娠12週を超えてしまったが出産できない、身体に異変があったという場合は出来るだけ早くかかりつけの産婦人科を受診し、早期に適切な処置を受けるようにしましょう。
中絶手術を受けられるのは、妊娠22週未満までです。限られた時間の中で中絶という決断をするのは勇気のいることですが、時が経つごとに手術の難易度やそれに伴うリスクもどんどん上昇しますので、出来るだけ週数が進まないように考慮する必要があります。
妊娠中期に中絶手術を受けるかどうかお悩みの方や、手術を受ける必要がある方はぜひ本記事を参考にしてみてください。