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卵巣とは
卵巣とは、卵子を生成し、成熟させ、排卵を行う楕円形の生殖器官です。子宮の両側にひとつずつ存在しています。また同時に、エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンを分泌する重要な内分泌器官でもあります。
そのため、閉経していない女性の卵巣に腫瘍ができた場合、出来るだけ腫瘍の部分のみを摘出する方法が検討されます。しかし、悪性の疑いがあるものや腫瘍の大きさによっては、やむを得ず卵巣を全摘出することも。
卵巣の疾患は、自覚症状に乏しく進行してから発見されるケースも少なくないため、突然手術で卵巣を摘出するといわれてしまうと、驚いてしまうことでしょう。
「卵巣を摘出したら更年期障害に苦しむって本当?」「見た目が老けるって聞いたことがある」など、卵巣を摘出することによって起こる身体の変化に不安を感じている方も多いようです。
卵巣を摘出するデメリット
卵巣の疾患は、ほとんど自覚症状がないまま進行していくことから、膵臓と同様に「沈黙の臓器(サイレントキラー)」と呼ばれています。しかも細胞分裂が盛んなため、体の中でもっとも腫瘍ができやすい臓器でもあるのです。
以下は、卵巣を摘出することによって起こりうるデメリットとなります。
- 卵巣欠落症状が出る可能性
- 心血管系疾患の発症リスクが増加
- 冠動脈疾患の発症リスクが増加
卵巣摘出のデメリットとしてもっとも大きいのが、卵巣欠落症状が出る可能性が高いことでしょう。
卵巣欠落症状とは、両側の卵巣摘出や放射線治療を行った結果、卵巣機能が低下もしくは喪失することで起こる合併症です。卵巣を失うことで女性ホルモンが減少し、それによって更年期障害に似た症状が現れます。
具体的な症状としては、ほてりやのぼせ、頭痛、肩こり、骨粗鬆症、抑うつ症状などが挙げられます。卵巣を摘出すると、人工的に閉経を作り出すのと同じ状態になり、生活の質を低下させる要因にもなるのです。
しかも、45歳未満で卵巣を両方摘出した場合、冠動脈疾患の発症リスクが増加することや、50歳未満では心血管系疾患の発症リスクが高まることもわかっています。
さらに、卵巣を摘出するとすべての原因による死亡率も高まるとの報告もあるため、45歳未満の若年者が卵巣を予防的に摘出することのメリットは、ほとんどないといえるでしょう。
摘出手術後の生活
卵巣がんや子宮がんなどの疾患により、卵巣摘出後にありがちなのが「腸閉塞」です。
なぜなら、卵巣摘出後はお腹の中で空洞となったスペースを埋めるために、近くにある直腸や小腸などの位置が移動し、他の臓器と癒着する可能性があるからです。数年以上経過した後に腸閉塞が発生する可能性もあるため、適切な食生活を継続するようにしましょう。
また、卵巣を摘出した後は、骨粗鬆症を予防するためにカルシウムやビタミンDが豊富な食材を積極的に摂取するほか、海藻やきのこ、ごぼうなどの食物繊維が多く消化されにくい食品は出来るだけ控えることをおすすめします。
そして、卵巣摘出後の気になる性生活については、慣れるまで違和感を覚える可能性もありますが、大きな影響はありません。潤い不足による痛みを感じる際は、潤滑剤を使用するなどの対策を行うとよいでしょう。
卵巣を摘出する可能性のある疾患
もし卵巣に腫瘍ができた場合、すべてのケースで摘出手術を受けなければならないのでしょうか。ここでは、卵巣摘出に至る可能性のある疾患についてご紹介します。
卵巣嚢腫
卵巣嚢腫は、らんそうのうしゅと読み、卵巣にできる良性腫瘍のひとつです。一般的に腫瘍と聞くと、中高年の方が罹患するというイメージですが、卵巣嚢腫は若い女性でも多く発症する疾患です。
卵巣嚢腫は、以下の4つに分けられます。
- 漿液性(しょうえきせい)嚢腫:卵巣から分泌される漿液というサラッとした液体が溜まってできる。
- 粘液性(ねんえきせい)嚢腫:卵巣内に粘液性の高い卵白のような液体が溜まってできる。
- 皮様(ひよう)嚢腫、類皮(るいひ)嚢腫:毛髪や歯、脂肪などが含まれるドロドロした塊が溜まってできる。
- 卵巣チョコレート嚢腫、卵巣子宮内膜症:本来子宮内にのみ存在するはずの子宮内膜が、卵巣に発生し増殖を繰り返すことでできる。
卵巣嚢腫は卵巣が腫れて赤ちゃんの頭くらいの大きさになると、下腹部の張りやしこりを感じるようになりますが、そうなるまで自覚症状がほとんどなく、気づいたときにはかなり進行していることも少なくありません。
また、卵巣嚢腫の大きさが5〜6cm以上になると、卵巣の根元がねじれてひどい腹痛を起こすことも。そのまま放置してしまうと、炎症がお腹の中に広がってしまううえに、正常な卵巣組織まで壊死してしまうため、緊急手術が必要になるでしょう。
妊娠を望まれている方は、出来るだけどちらかの卵巣を残す形での治療が望ましいです。しかし嚢腫の大きさや卵巣の正常な部分の様子、患者さんの年齢などによっては卵巣を両方摘出しなければならない可能性もあるため、早期発見が重要となります。
卵巣がん
卵巣がんは、欧米では婦人科がんの中でもっとも死亡率が高いことで知られている疾患です。近年、日本でも増加傾向にあり罹患率、死亡率ともに年々増加しています。
主な症状は、腹満感や腫瘤感、下腹部痛、排尿排便障害などです。卵巣がんは、卵巣嚢腫と同様に初期の段階では自覚症状がありません。
これらの症状が出る頃には、腫瘍が赤ちゃんの頭くらいの大きさになっていることもあるので、少しでもおかしいと思ったらすぐに病院を受診するようにしましょう。
腫瘍が悪性かどうかは、大体の場合は超音波検査で判別がつきます。良性と悪性の境界にある「境界悪性腫瘍」が疑われる場合は、血液中の腫瘍マーカーやMRI検査などでさらに診断を絞り込んでいくことになるでしょう。
しかし、最終的に卵巣がんであるかどうかは、腫瘍を摘出して病理検査をしなければ診断を確定できません。そのため、卵巣がんが疑われる場合は、早いうちに卵巣を摘出する必要があります。
子宮がん
卵巣を摘出する可能性があるのは、卵巣の疾患だけではありません。
子宮がんもそのひとつで、初期の段階で発見できれば子宮の組織または子宮のみを取り除く手術で済みますが、周辺の組織にまでがんが広がっているケースでは、卵巣をはじめとする卵管や膣の一部まで切除する必要があるでしょう。
また、他にも子宮内膜症や子宮筋腫などの比較的身近な子宮の疾患でも、卵巣を摘出する可能性があります。なぜなら、将来的に起こりうる卵巣がんの予防になるからです。
しかし、子宮の付属器を切除することによるデメリットも大きいので、患者さん自身が何を優先したいのかをよく考えてから選択するようにしましょう。
卵巣摘出手術後の治療の選択肢ついて
冒頭でもご紹介したように、卵巣は女性ホルモンを分泌するなど、女性にとって重要な役割を担っている臓器ですが、やむを得ず摘出しなければならない場合もあります。
卵巣摘出後は、エストロゲンなどの女性ホルモンの濃度が低下することによって、更年期のような症状が現れたり、膣からの分泌物が減少したりすることも。
これらの症状は、女性のQOLを著しく低下させる要因となるため、担当の医師に相談して適切な治療を受けるようにしましょう。
ここでは、卵巣摘出後の治療の選択肢と手術後の生活についてご紹介します。
卵巣摘出後の治療の選択肢
以下は、卵巣摘出後の治療の選択肢です。
- ホルモン補充療法
- 漢方治療
ホルモン補充療法(HRT)とは、卵巣を摘出したことで不足している女性ホルモンを投与する治療です。エストロゲンを単独で投与する「 ET」という治療と、エストロゲンとプロゲステロンを併用して投与する「EPT」という治療があります。
卵巣とともに子宮を摘出している場合にはET、子宮がある場合にはEPTが用いられることになるでしょう。
また、漢方も卵巣摘出後によく用いられる方法です。とくに「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」や「加味逍遙散(かみしょうようさん)」、「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」は、婦人科における漢方の三大処方といわれています。
患者さんの体力や体質などから総合的に判断し、最適なものが処方されます。漢方は徐々に効果を発揮するため、安心して服用できるのが特徴です。しかし、当然ながら副作用もありますので、医師の指示に従って正しく服用するようにしましょう。
まとめ
卵巣を摘出する可能性のある疾患と卵巣を摘出するデメリット、卵巣摘出後の治療の選択肢と日常生活について解説しました。
卵巣の疾患は、急性の卵巣炎などでない限り、自覚症状がないことがほとんどです。そのため、症状を自覚する頃には腫瘍がかなり大きくなっており、摘出せざるを得ないケースも。
そのような事態を避けるためにも、卵巣に腫れがないかどうか、腹水が溜まっていないかどうかなど、1年に1回は婦人科健診を受けることをおすすめします。
また、近年では遺伝性のがんも注目されています。卵巣がんになったご家族がいる、とくに比較的若い年齢で発症した場合は、その旨を医師に伝えるようにしてください。そして、万が一卵巣になんらかの疾患が見つかった際は、早急に適切な治療を受けるようにしましょう。