目次
女性のQOLを低下させる原因にもなる「子宮内膜症」は、性成熟期の女性の3〜10%に発生するといわれています。比較的ポピュラーな疾患で、近年の少子化と晩婚化に伴って増加傾向にあります。
子宮内膜症とは、子宮内膜が子宮以外の場所に発生し増殖する疾患で、卵巣やダグラス窩、大腸の表面などにできることが多いです。その中でも、卵巣の内部にできる子宮内膜症のことを「卵巣チョコレート嚢胞」といいます。
卵巣チョコレート嚢胞は、年齢を重ねた方が罹患すると癌化する確率が8倍以上に高まるので、注意しなければいけない疾患です。また、卵巣チョコレート嚢胞は月経と関連しており、放置してしまうと若い方でもさまざまなトラブルを引き起こす恐れも。
この記事では、卵巣チョコレート嚢胞の原因や症状などの基本的な情報、治療と予防などについてご紹介します。
卵巣チョコレート嚢胞ってどんな病気?
卵巣チョコレート嚢胞は、卵巣子宮内膜症嚢胞とも呼ばれる疾患です。本来は子宮内にできるはずの子宮内膜が、卵巣に発生することで起こります。
内膜症が発生した卵巣においても月経時に出血が起こるため、月経のたびに経血が卵巣内にたまり、それが古くなってチョコレートのように固まることで嚢胞を形成した状態が、卵巣チョコレート嚢胞です。
では、卵巣チョコレート嚢胞はどのような原因で起こり、どのような症状があるのでしょうか。
卵巣チョコレート嚢胞の原因
実は、卵巣チョコレート嚢胞を引き起こす子宮内膜症の原因ははっきりと解明されていません。経血が腹腔内で逆流して起こるなどの説もありますが、それだけでは説明のつかないケースもあります。
卵巣においては、月経時に剥がれ落ちた子宮内膜の一部が卵管から卵巣へ逆流し、そこで増殖したという説が有力です。
そのほかにも、卵巣の上皮が内膜に変化するという説や、子宮内膜の一部がリンパや血管を通して卵巣に転移するという説、子宮内膜の幹細胞が卵巣に移動したという説などさまざまな推測がされています。
卵巣チョコレート嚢胞の症状
以下は、卵巣チョコレート嚢胞の代表的な症状です。
- 疼痛
- 周辺臓器との癒着
- 過多月経
- 過長月経
- 不妊
- 卵巣破裂
- 感染
- 癌化
卵巣チョコレート嚢胞でもっとも多い症状は疼痛と不妊です。月日を経つごとに月経痛や排便痛、性交痛、骨盤痛や腰痛などの痛みが強くなることも多く、日常生活に支障をきたすことも多いようです。
また、卵巣内の血流が滞り周囲の組織と癒着したり炎症が起きたりすることもあります。
卵胞が正常に発育せず排卵障害も起こる可能性もあるため、卵巣チョコレート嚢胞をもつ患者さんの半数に不妊の症状を認めるとの報告も。とくに嚢胞の直径が4cmを超える場合は、子宮内膜症不妊症となる確率が高くなるので注意が必要です。
さらに、卵巣破裂や感染は約5%、卵巣がんの合併も約1%の確率で起こるので、早期発見早期治療が重要となります。
卵巣チョコレート嚢胞になりやすい年齢
近年、女性のライフスタイルの多様化により、子宮内膜症は増加傾向にあるのをご存知ですか?
多くの場合20代半ば頃に発生し、35歳頃でピークに達します。月経痛が強い方や思春期以降徐々に痛みの度合いがひどくなっているという方は、すでに子宮内膜症になっているかもしれません。
ほかにも、月経時に便通の異常や肛門からの出血、喀血などの症状がある場合も、子宮内膜症が発生している恐れもあるので速やかに受診しましょう。
卵巣チョコレート嚢胞は不妊の原因になるの?
上記でもご紹介したように、不妊も卵巣チョコレート嚢胞によって起こる問題点のひとつです。
卵巣チョコレート嚢胞は、卵巣にたまった古い血液が固まることで卵胞の発育が障害され、卵子の質が低下して受精率と妊娠率が低下します。さらに卵巣機能も低下するため、不妊の原因になってしまうのです。
子宮内膜症の患者さんの3年間の累計妊娠数は軽症でも約50%、卵巣チョコレート嚢胞で重症の場合は5%との報告もあることからも、妊娠に至る難しさがおわかりいただけるのではないでしょうか。
ただし、きちんと治療を受ければ自然妊娠が可能なケースも多いので、妊娠を希望する場合は医師とよく相談してみましょう。
卵巣チョコレート嚢胞の治療と予防について
卵巣チョコレート嚢胞は、激しい月経痛など身体に異変が起こるケースがほとんどです。月経の旅に寝込んでしまうほど痛い、薬が効きにくい、以前よりも月経痛がひどいなどの症状がある場合、我慢せずに婦人科を受診しましょう。
では、実際のところ婦人科で行われる卵巣チョコレート嚢胞の治療には、どのようなものがあるのでしょうか。
卵巣チョコレート嚢胞の診断
通常、婦人科では以下のような手順で検査を行い、その結果によって総合的に診断を行います。
- 問診
- 内診
- 超音波検査(エコー検査)
- MRI検査
- 血液検査による腫瘍マーカー測定
内診ではダグラス窩にしこりがないか、圧痛があるか、卵巣が腫れていないか調べ、その後は経膣超音波検査で病変の有無や卵巣の大きさなどを確認します。そこで子宮内膜症の疑いがあると判断された場合はMRIを撮影し、手術が必要かどうか、悪性腫瘍ではないかなどについて確認することになるでしょう。
卵巣の疾患は、実際に病変を切除して調べてみなければ診断を確定できないことも多いです。そのため、お腹に小さな穴をあけて内視鏡で直接病変を確認する「腹腔鏡検査」を行うケースも。最近では、腹腔鏡検査と同時に手術を行うことも多くなるなど、年々技術が進歩していることもうかがえます。
卵巣チョコレート嚢胞の治療は主に2種類
卵巣チョコレート嚢胞の治療では、薬物療法もしくは手術療法が行われます。治療を選択する際は、患者さんのライフスタイルや年齢、嚢胞の進行度などによって個別に判断するのが一般的です。
薬物療法は、子宮内膜症全般で行われる治療で、治療法の低用量ピルと黄体ホルモン経口剤、GnRHアゴニスト療法などの中から適切なものを選択します。ただし、多少の不正出血を伴ったり選ぶ薬の種類によっては骨量の減少などの副作用が現れたりするため、長期的に行える治療ではないことを知っておきましょう。
一方の手術療法では、腹腔鏡による卵巣摘出や嚢胞摘出、嚢胞壁焼灼、エタノール固定、吸引洗浄などが行われます。卵巣を摘出すると再発することはなくなりますが、卵巣機能が失われることにより妊娠が不可能になるので、医師や家族とよく相談して選択する必要があります。
とくに妊娠を希望する場合は、手術によって正常な卵巣部分も切除される可能性もあるため、4cm以下の嚢腫では薬物療法の選択が優先されるでしょう。
卵巣チョコレート嚢胞の予防法
卵巣チョコレート嚢胞を含む子宮内膜症は、発生原因がはっきりとわかっていないため予防法も確立されていませんが、日々の体調や月経をコントロールすることで少しでも発生確率を下げるよう努めましょう。
生活習慣が不規則な方や食生活が乱れている方は、偏食になりやすく暴飲暴食しがちです。すると月経が正常に行われず、生理不順の状態になりやすくなるため、免疫力や自然治癒力が低下してホルモンバランスも悪化、子宮内膜症が発症しやすくなる可能性もあります。
これらのことから、卵巣チョコレート嚢胞を予防するには、日頃から健康管理をきちんと行い、規則正しい生活習慣と適度な運動を心がけることが大切だといえるのではないでしょうか。
とはいえ、いくら健康に気を使っても卵巣チョコレート嚢胞を発症する可能性を0にすることはできません。完全には予防できないことを念頭におき、早期に発見できるよう定期的に婦人科検診を受けることをおすすめします。
まとめ
卵巣チョコレート嚢胞の原因や症状などの基本的な情報、治療と予防などについてご紹介しました。
卵巣チョコレート嚢胞は、本来子宮にできるはずの子宮内膜が卵巣の内部にできた状態です。はっきりとした原因はわかっていませんが、月経のリズムと連動して卵巣内で出血しているにもかかわらず、排出できないことで卵巣内に古い血液がたまってチョコレートのようになります。
治療は、主に薬物療法と手術療法の2つで行われます。しかし残念ながら、卵巣をすべて摘出しない限り再発の恐れがつきまといます。再発した場合でも同様の方法で治療が可能ですが、前回と同じ卵巣が再度チョコレート嚢胞になった場合は嚢腫のみを摘出するのが難しくなることも。
また、稀に癌化する恐れもあるため、妊娠の希望の有無や年齢によっては卵巣や卵管を摘出しておくのもひとつの方法だといえます。患者さん自身が納得して治療を受けられるように、担当の医師やご家族とよく話し合ってから治療を受けるようにしましょう。