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「子どもが欲しい」と思って妊活に取り組んでいても、中々授からないと「不妊症かも?」と心配になるかもしれません。特に女性の場合、「35歳の壁」という言葉もあるように年を取ると卵子の質と卵巣機能低下によって妊娠しにくくなるため焦る気持ちも出てくるでしょう。
国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」の結果によると日本で不妊を心配したことのあるカップルは、3組に1組にも及びます。そして、5.5組に1組の夫婦が不妊の検査や治療を受けているという結果もあります。
晩婚化や高齢出産が当たり前になった現在、不妊について悩みを抱える夫婦は増えているのが現状です。当院に来られる患者さんの中にもご相談される方がいらっしゃいます。こうした患者さんのお悩みに少しでもお応えするべく今回の記事では妊娠しにくい原因や理由についてまとめています。
不妊症の原因とは?
まずは不妊の定義からご説明します。不妊は日本産婦人科学会によると「妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないもの」を指します。一定期間とは、以前は2年でしたけど、現在は1年間となっています。
妊娠をするためには「卵子があること」「精子があること」「卵管が詰まっていないこと」が条件です。三つの目の「卵管」とは、卵子と精子が出会う場になります。この場が通りにくければ卵子と精子が着床することはできませんので妊娠できなくなるのです。
ただし、1978年からはじまった体外受精治療では排卵できない人でも卵子を採取できるようになったので卵管が詰まっていても妊娠は可能です。精子がない、あるいは非常に少ない場合は、1992年からはじまった顕微授精(ICSI)を受診することで妊娠できるようになっています。
いずれにせよ、多くの要因があるので検査を受けて原因を見つけて治療をする必要があります。
女性が妊娠しにくいのにはいくつかの要因がある
女性の場合は主に5つの要因が考えられます。
- ・排卵しにくい
- ・卵管がふさがっている
- ・子宮に疾患がある
- ・精子と出会いづらい、出会いを妨げられる
- ・原因不明
排卵できないと精子と出会えないので妊娠できません。女性の体は数種類のホルモンが分泌され、リズムによって排卵や月経が起こります。しかし、極度のストレスや過度なダイエットによってホルモンバランスが崩れて生理が遅れたり、一時的にストップしたりします。他にも排卵しにくくなる病気(例えば多嚢胞性卵巣症候群、たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)もありますので検査で原因を特定しましょう。
卵管が塞がる卵管閉塞(らんかんへいそく)は、クラミジアという性感染症による卵管炎(らんかんえん)の可能性が考えられます。自分には関係ないと思いがちですが、クラミジアは、普通の人の集団の5%の人に感染している非常に頻度の高い病気です。しかも、すぐに発症することなく数年たってから、腹痛、性器出血、水様性帯下等の症状が出てきます。仮に覚えがなかったとしても検査を受けておくのがおすすめです。
次に子宮の状態がととのっていないと、受精卵の着床がうまくいかないこともあります。着床を妨げるポリープなどが原因です。
女性の体に精子が入ると精子に対する免疫反応として抗体ができる場合があります。これは卵子を守るために精子を異物として認識してしまうからです。普段から性交渉が少ないと起きやすくなるので排卵日以外にも行為をするようにしましょう。また、排卵期には子宮の入り口である頸管(けいかん)から分泌される粘液の量が増えます。この量が少ないと精子と卵子が出会う確率が低くなります。ご自分の粘液量が多いか少ないかチェックする方法は、生理時期のおりもの量である程度見分けができますので確認してみてください。
後は、検査を受けて「問題ない」という結果が出たにもかかわらず妊娠しないケースです。 原因不明の不妊といわれるもののうちの約40%は、卵管の外側の癒着によるものです。しかし、それでもなお原因のわからない不妊もあります。それは現在の医療で原因がわからないというだけで妊娠できないわけではありません。ご夫婦で婦人科の医師に相談してみてください。
男性側の妊娠しにくい原因は?
妊娠は女性だけが原因ではなく男性が理由の場合もあります。主に以下の3つです。
- ・精子が作れない、またはたくさん作れない
- ・精子が通れない、でてこない
- ・性交渉ができない(射精できない、勃起できない)
上の二つは自覚症状がないケースがほとんどです。精液検査をうけてもらうのがいいでしょう。
射精した精液中に精子が全く見当たらない状態を無精子症(むせいししょう、100人に一人の割合と言われています)といいます。原因はさまざまです。以下の記事に詳しくまとめていますのでご確認ください。
勃起できないケースは、ED(勃起不全)の可能性、パートナーからのプレッシャーや極度のストレスが主な理由です。パートナーとよく話し合って医師の診察が必要ならば泌尿器科などに相談をしましょう。
また、マスターベーションでは射精できるのに、性交のときに膣内に射精できない膣内射精障害(ちつないしゃせいしょうがい)、射精感があっても精液が出ずに膀胱内に逆流して排出される逆行性射精(ぎゃっこうせいしゃせい)も医師による診断が必要です。
もしかして不妊症かも?13のチェックリスト
「もしかしたら不妊症かも?」と心配な方にチェックリストを作りました。一つでも当てはまるならば、自然に改善されることはないのですぐに婦人科の医師に相談をしてみてください。
- ・生理通がひどい
- ・月経血の量が多かったり、少なすぎたりする(目安は月経血の量が150ml以上・期間が1週間以上だと過多月経。量が30ml以下や1~2日以内だと過小月経)
- ・生理の周期が20日以内や40日以上、あるいはバラバラ
- ・初潮が18歳以上で、ときどきしか生理がない
- ・30歳を過ぎてから、いままで順調だった生理がときどきになってしまった
- ・不正出血がある
- ・おりものに異変がある
- ・過去に性感染症や腹膜炎を起したことがある
- ・拒食症や過食症になったことがあり、生理不順がある
- ・下腹部にこぶのようなものが触れる
- ・乳汁が出たことがある
- ・セックスができない(精神的な問題の場合は心療内科へ相談)
- ・性交痛がある
不妊の原因はさまざまです。一人で悩まずにパートナーや医師と相談しながら妊活をしていきましょう。
妊娠しにくい年代の40代女性が心がけること
40代になると生理周期あたりの自然妊娠率は10%未満です。20代が25〜30%となりますので大きな差が出てきます。
参考記事:米国産科婦人科学会ウェブサイト:How does age affect fertility?(外部サイト)
そのため早めに医師による治療を受けるのがいいでしょう。日本産科婦人科学会が毎年全国で集計している生殖補助医療の成績(2016年)によると、20代後半〜30代前半で体外受精・胚移植や顕微授精、凍結胚・融解移植といった生殖補助医療を受けた女性の妊娠率はおよそ40〜45%でした一方、40歳の女性だと26%、45歳までに6.4%へと急激に低下します。46歳以降の妊娠率はわずか5%未満です。妊娠できる確率がかなり下がってくるため短期決戦になると心得てください。
しかも妊娠できたとしても加齢による卵子の老化で染色体異常が起こりやすいため流産する可能性が高くなります。その点も踏まえて妊活をしましょう。
生理周期が35日だと妊娠しにくくなるのか?
女性の生理は28日周期でやってくることが多いため34日になると長すぎるのではないかと不安になるかもしれません。しかし、生理周期は25〜38日間隔である人が最も多く、この範囲内に収まっていれば正常です。
生理周期は元々個人差が大きく、生活習慣や体調によっても変化しやすいものです。同じ女性でも常に一定のタイミングで生理がくるわけではありません。だからこそ周りを気にしないようにしましょう。
生理開始予定日から1週間以上も遅れている場合は注意が必要です。もし周期が39日を超えた場合は「稀発月経」と呼ばれ、卵巣機能が不十分であったりホルモン分泌に異常をきたしている可能性があります。また、「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」や「高プロラクチン血症」などの疾患が原因で稀発月経を引き起こしているケースもあるので婦人科で受診をしてください。
子宮筋腫があると言われたけど……
子宮筋腫は良性の腫瘍です。人類にできる腫瘍で最も頻度が高い腫瘍ともいわれ、小さなものも含めると、30歳以上の女性の20~30%にみられます。もし「子宮筋腫がありますね」とと言われたならば、できる場所によって不妊の原因となる場合もあります。原因ははっきりとしていませんが、以下のようなことが考えられます。
- ・筋腫の圧迫により卵管の内腔が狭くなったり、つまってしまう。
- ・卵管が引き伸ばされて、精子、卵子、受精卵、胚の輸送が阻害される。
- ・排卵した卵が卵管に入りづらくなる。
- ・子宮内腔にできると胚の着床を妨げる。
- ・子宮筋腫の核が子宮を収縮しやすくするため、流産、早産の原因となる。
- ・子宮内膜が圧迫されて血の流れが悪くなり、胚の発育に影響し妊娠しづらくなる。
ただし、ほとんどの女性は子宮筋腫を持ったまま妊娠出産をしています。もしなかなか妊娠しない状況だったり、痛みや貧血などの症状がある場合は手術をするケースもありますので医師と相談しながら決断をしましょう。
貧血は不妊症の原因になるのか
何回も体外受精を繰り返しているのに、良質の受精卵ができない、胚盤胞まで育たない、受精卵を何回移植しても着床しないといった場合は鉄分不足かもしれません。鉄分が不足すると女性ホルモン(卵胞ホルモン・黄体ホルモン)の合成が滞り、ヘモグロビンの運搬ができなくなります。体内の酸素不足+分泌が滞り、子宮内膜が成熟しないかもしれません。しかも、卵細胞の成長に必要なため、不足すると育ちにくくなったり、質も悪くなったりします。
日本では、50歳未満成人女性の21.0%が鉄が不足して起こる鉄欠乏性貧血、つまり貧血の状態です。貧血を放っておいたままにしておくと上述したように妊娠しにくくなる以外にも赤ちゃんが小さく産まれたり、早産になるといったリスクが起きる可能性があるので鉄分が豊富な食材を摂取して貧血を解消していきましょう。
高血圧の女性は妊娠しにくいというのは本当?
妊娠前または妊娠20週未満で高血圧の場合、「高血圧合併妊娠」と言い、その後、妊娠後期に血圧が悪化、もしくはタンパク尿がみられた場合は「加重型妊娠高血圧腎症」と呼ばれます。正常血圧女性の妊娠と比べると早産、胎児発育遅延、常位胎盤早期剥離、帝王切開率の増加の可能性が考えられます。現在のところ、はっきりとした原因は分かっていません。いろいろな説がありますが、一番有力なのは、妊娠初期に胎盤の血管がうまく作れなかったことなのではないかと言われています。
要因としては、糖尿病や高血圧、腎臓の病気をもともと持っている、肥満、母体の年齢が40歳以上、家族に高血圧患者がいる、双子などの多胎妊娠、初産婦、以前の妊娠で妊娠高血圧症候群になったことがあるなどが挙げられます。
予防法としては、普段から高血圧を予防する生活習慣を心掛けて自分の血圧を把握することです。必要があれば専門医に相談をしましょう。
男性の肥満が原因で妊娠しにくくなる?
女性の肥満が不妊の原因というのはご存じかもしれません。一方、男性の肥満も妊娠に影響を与えます。「Reproductive BioMedicine Online」で2018年に発表された論文では、男性側が肥満(BMI25以上)の場合、体外受精後の妊娠率・生児出生率が低くなるという報告がありました。この論文では、BMIが正常値(18~25の間)男性と肥満の男性(BMI25以上)と体外受精後の妊娠率と生児出生率を比較しています。
結果は肥満男性の場合、ホルモンバランスの異常で精子形成の阻害や勃起不全(ED)が引き起こされたり、精子所見の悪化や精子DNAのダメージが上昇したりした報告がされています。また、2015年に発表されたJared M Campbellらの論文によると男性側のBMI を30以上と25以下に分けた場合、体外受精時の精液量・精子濃度・前進運動率に差はありませんが、BMI 30以上で正常形態精子の割合の低下やDNA断片化の増加が認められており、男性側が肥満の場合、生児出生率が低くなると報告されています。
つまり、女性だけではなく男性側の普段の生活習慣を改善してBMIを正常値(18~25)を維持する必要があります。
まとめ
ここまで妊娠しにくくなる原因について解説をしました。さまざま原因があってどれも自分に当てはまりそうだと心配になるかもしれません。しかし、生活習慣の改善や治療によって原因を取り除けば妊娠できる確率は可能性が高くなります。
そのためには早く専門的な知識を持つ医師に相談をすることです。特に年齢が高いと残り時間は僅かになるので夫婦で検査を受けてご自分の体状態を知っておきましょう。