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婦人科を受診したことのある方の中に「あなたは子宮後屈ですね」と言われたことがある方がいらっしゃるかと思います。
しかし、そう言われただけで、特に治療を勧められたり何か症状に困ったりしている訳ではないので、気になっていてもどうしたらいいのか分からず悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
ここでは、子宮後屈について、原因や対処法、そして、子宮後屈に隠された病気についてご紹介します。
子宮後屈とは
子宮には前屈と後屈がありますが、実はこれは病気ではありません。
子宮後屈は、子宮後転症または子宮後傾後屈症とも言いますが、ではどうしてそういった症例があるのか、原因や自覚症状などを解説します。
子宮前屈と子宮後屈
子宮は正常な場合「可動性」と言って、骨盤腹膜に包まれ、靭帯によって骨盤に繋がり、ある程度動かせるような状態で支えられていて、前後左右の様々な方向に傾きやすくなっています。
そして子宮は、子宮頸部と子宮体部に分けられ、膣から子宮頸部を通って子宮体部へと繋がっています。
子宮頸部と子宮体部の境目で折れ曲がり、前(お腹側)と後ろ(背中側)のどちらかに子宮体部が傾いた状態が通常で、前に傾いているのが子宮前屈、後ろに鋭角に傾いているのが子宮後屈です。
全体から見た割合は、子宮前屈が70~80%、残りの20~30%が子宮後屈であり、前屈の方が正常と言われています。
しかし、後屈だからと言って病気という訳ではないので、必ずしも何か症状があるという訳でもありません。
子宮後屈の原因
では、全体の20%という少数の症例である子宮後屈は、どのようなことが原因でなるのでしょうか?
子宮後屈の原因は3つあります。
- 遺伝などの先天的なもの
- 出産での靭帯や筋肉の緩み
- 骨盤内の炎症
生まれつきの子宮後屈であれば、病気ではないので治療の必要は特にありません。
しかし、上記にもある通り、子宮後屈になった原因に別の病気や症例が隠れていて、更に他にも不快な症状を発症しているようであれば、それは放置するべきではありません。
子宮後屈の症状
子宮後屈は、ほとんどの場合無症状ですが、まれに以下のような症状があります。
- 便秘・排尿障害
- 腰痛
- 月経困難
- 性交痛
子宮後屈は膣に対して折れ曲がる角度が鋭く、異常な位置になるので、後屈の程度が強いと子宮に経血が溜まりやすくなったり、骨盤内の血管を圧迫し血流が妨げられたりして、生理痛や腰痛などの月経困難症と同様の症状が多くなることがあります。
ちなみに子宮後屈の月経痛が強いのは、溜まりやすい経血を外に押し出す圧力が子宮にかかるためであり、うつ伏せに寝ると多少楽になると言われています。
他にも、腸を圧迫して便秘になる、膀胱の出口を押し潰してしまい排尿障害を起こすなどがあります。
また、性交痛については、正常位での挿入の角度や深さによっては通常と違う箇所にあたって痛みを伴うというケースがあります。
しかし、それよりも心配なのは、子宮後屈の原因が病気だった場合ですが、それについては後述します。
子宮後屈の診断方法
実際、子宮後屈だけで言えば、内診や超音波検査(エコー)で判明するので、婦人科の他の病気のように、血液検査や細胞診などは必要ないことになります。
しかし子宮後屈は、一般的にはほとんど問題症状がないので、子宮後屈自体に気付いて受診というのはあまり考えられません。
妊娠による受診で見つかることも多いですが、何か身体の不調があっての受診などで見つかるということは、他の治療しなければならない病気に罹患している確率が高いということになります。
子宮後屈を引き起こす病気と治療方法
子宮後屈の原因には「可動性」と「癒着性」があります。
子宮は膀胱と直腸に挟まれているため、子宮は便や尿の状態で動くことがあり、可動性の場合はその状態に合わせて後屈することもあり、また、元にも戻ることができます。
先天性の場合も、癒着などが認められず可動性があり、問題のある症状がないのであれば、特に治療の必要はありません。
問題は癒着性で、病気が原因で直腸や骨盤腹膜など周りの臓器と癒着して、後ろに引っ張られて後屈を引き起こす場合です。
では子宮後屈を引き起こす病気には、どんなものがあるのかをご紹介します。
子宮内膜症
子宮内膜症とは、本来の場所ではない場所に子宮内膜が増殖してしまう病気です。
子宮内膜症は、子宮筋層内や卵巣など様々な場所で発症しますが、子宮後壁(ダグラス窩)に発症すると、子宮と子宮の後ろにある直腸が癒着してしまい、子宮が後屈します。
ダグラス窩(か)は子宮内膜症になりやすい場所であり、直腸などの腸管は、癒着した際の痛みが特に強い場所と言われています。
さらに子宮内膜症は、その本来の場所ではない場所で月経を迎えるので、上記で説明したような、月経痛や腰痛、便秘などの月経困難症も発症してしまうのです。
ですので、この場合の子宮後屈は、先に子宮内膜症を発症しているということになります。
治療法は、症状を軽減するホルモン療法、病巣のみを摘出する保存手術と、ホルモンを分泌する卵巣と子宮を摘出する根治手術の3つがあります。
診断時には内診やエコー検査の他に、MRIや腹腔鏡検査なども行われます。
骨盤内炎症性疾患
骨盤内炎症性疾患(PID)は、上部女性性器(子宮・卵管・卵巣)の複数感染症で、感染するのは性交時、症状としては、下腹部痛やおりもの、不正出血などがあります。
酷くなると腫瘍が生じたり、長期の合併症で不妊や慢性の骨盤痛を引き起こしたりします。
急性期であれば抗生剤投与で2週間程度の安静が必要ですが、慢性だと痛くなったり収まったりを繰り返してしまい、治療のタイミングを逃してしまう場合もあります。
慢性腹膜炎の治療としては、軽度の場合は絶食と水分補給で改善が見られますが、重度の場合は開腹手術で癒着を剥がします。
しかし骨盤内炎症性疾患が悪化すると、ダグラス窩に膿が溜まったり腫瘍ができたりして癒着の原因になり、子宮後屈に繋がります。
ちなみに慢性腹膜炎は、悪性腫瘍(がん)や結核に起因するものが多いので、判明した場合はその治療が優先となります。
子宮筋腫や卵巣嚢腫
子宮筋腫や卵巣嚢腫などの、良性の腫瘍が出来た位置や大きさによって、子宮が後方に押しやられる場合があります。
このような場合、癒着に至ることで月経困難症などの症状が現われるようであれば、やはり治療にあたる症例となりますが、症状がないのであれば、様子を見ることになります。
元々が良性の筋腫であればすぐに治療が始まる訳ではないですが、生活する上で問題があるようなら、治療のタイミングを医師と相談しましょう。
子宮後屈の治療法や対策
それでは、問題のある場合の子宮後屈の治療法や、自分でもできる対策を解説します。
子宮後屈の治療法
子宮後屈自体は前述の通り病気ではありませんので、先天的であって特に困った症状がない場合、治療の必要はありませんし、可動性なので、妊娠や出産で正常な位置に改善される可能性もあります。
しかし、子宮後屈が後天的な癒着性で、激しい痛みなどの症状に悩まされているということであれば、外科手術を行って元の場所に戻せる場合もあります。
腹腔鏡手術など、小さな切開で行うことも程度によっては可能で、癒着が進み短くなってしまった靭帯を切るだけでも症状が軽減されます。
もちろん、後天的な子宮後屈の場合は、原因になった病気の治療をしっかり行うのが前提です。
子宮後屈と妊娠
子宮後屈は、昔は不妊や流産の原因とされ、手術で前屈に矯正される手術が行われていた時もありましたが、今では関連性がないとされています。
しかし、やはり精子が子宮へ進入しづらかったり、受精卵が子宮から滑り落ちて着床できなかったりする可能性があるとも考えられています。
これについては、性交後に寝る向きをうつ伏せにすることで、角度的に精子が子宮に進入しやすくなり、多少解決できると言われています。
そして特に、可動性の場合の子宮後屈の場合、妊娠して胎児が育っていく過程で子宮が膨らんでいくことで、子宮が元の位置に戻っていくので、出産についても無事に済ませられるのがほとんどです。
反対に癒着性の子宮後屈での妊娠は、切迫流産などの影響が母体や胎児にある場合が全くないとは言えないので、何らかの処置がとられる場合があります。
まとめ
子宮後屈について、原因や隠された病気、治療法などを詳しく解説してみましたが、いかがでしたか?
自分では気づきにくい子宮後屈ですが、隠された病気の症状でセルフチェックができますよね。
辛い生理痛、生理以外の腹痛や排便痛、なかなか妊娠しないなど、自分で分かる範囲で気が付いたら、早めに婦人科を受診して、子宮後屈とその原因の病気を早く発見するきっかけにしましょう。