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検査結果を受け取られた方へのメッセージ
NIPTでトリソミー13陽性という結果を受け取られて、驚きやショックを感じられることは、とても自然なことです。しかし、この検査結果はあくまでスクリーニングであり、確定診断ではないことをまずご理解ください。
トリソミー13の場合は特に、モザイクの可能性やその他の要因によって偽陽性となるケースが少なくありません。実際に、NIPTでトリソミー13が検出されても、羊水検査で低頻度モザイクであることが判明し、健康なお子さんが生まれるケースも報告されています。
この記事では、トリソミー13のNIPT陽性結果に対して確定検査が特に重要である理由を、最新の科学的知見に基づいて解説します。どうぞ一人で不安を抱え込まず、専門医にご相談ください。
あなたは一人ではありません。これからの決断においても、専門家がしっかりとサポートいたします。
トリソミー13とモザイク現象について
最近、川崎希さんの件があって有名になったトリソミー13偽陽性について、解説してみたいと思います。
トリソミー13(パトー症候群)は、13番染色体が3本存在する染色体異常です。一般的に重度の先天異常を引き起こし、多くの場合は妊娠初期に流産となるか、出生後の生存率が低いとされています。しかし、すべての細胞ではなく一部の細胞だけに異常が見られる「モザイク」の場合は、症状が軽減されることがあります。
特に注目すべき点として、トリソミー13はモザイク例が多いという特徴があります。これは染色体自体の特性や発生メカニズムに関連していると考えられています。
モザイクとは?
モザイクとは、体の一部の細胞だけに染色体異常があり、残りの細胞は正常である状態を指します。これにより、完全なトリソミーと比較して症状が軽減されたり、表現型(身体的特徴)が異なったりする場合があります。
トリソミー13の場合、特にモザイク例が多いことが研究によって示されています。これが、NIPT検査の結果解釈において重要な意味を持ちます。
胎盤限局性モザイク(CPM)と胎児モザイク
胎盤と胎児の染色体構成が異なる現象として「胎盤限局性モザイク(Confined Placental Mosaicism: CPM)」が知られています。これは胎児の発生過程で起こる染色体不分離によって、胎盤の細胞のみに染色体異常が存在し、胎児自体は正常染色体を持つ状態です。
胎盤モザイクで頻度の高い染色体
研究データによると、染色体の種類によって胎盤モザイクの発生頻度に差があります。
- 主要な染色体:2、3、7、8、16番
- 次いで多い染色体:9、13、15、18、20、22番
13番染色体は「次いで多い染色体」としてCPMに関与することが報告されています。つまり、NIPTでトリソミー13陽性と判定される場合、それが実際には胎盤のみの異常で、胎児は正常である可能性が比較的高いのです。
CPMの存在は、NIPTの結果解釈において特に重要です。NIPTは母体血液中に存在する胎盤由来のDNA断片を分析する検査であるため、胎盤に限局した染色体異常があると、検査結果は陽性となりますが、胎児自体は正常である可能性があります。
NIPTでのトリソミー13検出とモザイク率のデータ
実際の研究から、以下のようなデータが報告されています。
- 絨毛採取(CVS)でのトリソミー13モザイク率:8.3%~22.0%
- 羊水検査でのモザイク率:4.0%~7.7%
- NIPT偽陽性例の81.58%が胎盤限局性モザイク(CPM)に起因
Zスコアとモザイクの関係
NIPTの統計的指標である「Zスコア」が非常に高い(≥10)場合でさえ、トリソミー13が実際に胎児のモザイクである確率は15.38%程度にとどまるという報告があります。これは他の染色体異常(例:トリソミー21や18)と比較して低い陽性的中率を示しています。
Zスコアとは、観測されたDNA量が正常範囲からどれだけ逸脱しているかを標準偏差単位で表した値です。一般的に、Zスコアが3以上の場合を陽性と判断しますが、トリソミー13の場合は他の染色体異常と比較して、高いZスコアでも実際の胎児への影響が限定的である可能性が高いのです。
症例:低頻度モザイクと健全な発達
NIPTでトリソミー13が検出されたにもかかわらず、羊水検査で低頻度モザイクと判明し、無事に出産して正常に発達しているケースも報告されています。これは特にトリソミー13において、CPMや低頻度モザイクが存在する可能性を示す重要な臨床例です。
実例データ
研究報告によれば、以下のような症例が確認されています。
- 羊水検査で7.7%のモザイク(21細胞中1異常細胞)の症例で健康な出生
- 超低レベルモザイク(77細胞中1異常細胞、つまり1.3%)の症例でも正常発達
- 20細胞中4細胞異常(20%)のケースでも、超音波異常がなければ良好な予後
これらのデータは、特に低頻度モザイクの場合、予後が良好である可能性を示しています。
確定検査が特に重要な理由
これらのデータから、NIPTでトリソミー13陽性と判定された場合、以下の理由で確定検査が特に重要となります。
- 高い偽陽性率:トリソミー13のNIPT陽性例は、他の染色体異常に比べて偽陽性率が高い傾向にあります。
- モザイク可能性:完全なトリソミーではなく、モザイク例である可能性が他の染色体異常より高いです。
- 胎盤限局性の可能性:胎盤のみに染色体異常があり、胎児は正常である可能性があります。
- 予後判断:超音波検査で明らかな異常が見られない低頻度モザイク(20%未満)の場合、正常発達の可能性があります。
確定検査によって、より正確な情報を得ることができ、それに基づいて適切な妊娠管理や出生後のケア計画を立てることができます。
確定検査の選択
トリソミー13のNIPT陽性例に対する確定検査としては、主に以下の方法が考えられます。
- 羊水検査:妊娠15~18週頃に、羊水を採取して検査します。胎児由来の細胞を直接分析するため、胎児の染色体構成を正確に評価できます。
- 絨毛採取(CVS):妊娠11~13週頃に、胎盤組織を採取するため、CPMが存在する場合は注意が必要です。短期培養(STC)と長期培養(LTC)の併用が推奨されます。
重要:特にCPMの可能性が高いトリソミー13の場合、羊水検査による確定診断がより信頼性の高い結果をもたらします。絨毛採取を選択する場合は、CPMの可能性を考慮し、結果の解釈に注意が必要です。
トリソミー13の発生メカニズムとCPMの関係
トリソミー13がモザイク例や胎盤限局性モザイク(CPM)として発見されることが多い背景には、以下のような発生メカニズムがあると考えられています。
胎盤限局性モザイク(CPM)のタイプ
Type I(細胞性栄養膜限定)
- 異常部位:絨毛の表層(細胞栄養葉層)に限定
- 原因:受精後3-4日目の初期有糸分裂で発生する染色体不分離
- 胎児影響:稀(3.2%)
Type II(間葉系コア限定)
- 異常部位:絨毛の内層(間葉系コア)に限定
- 原因:受精後5-7日目の後期有糸分裂で発生する後期遅延
- 胎児影響:中等度(19%)
トリソミー13では、これらの胎盤限局性のモザイクが発生しやすい特性があり、NIPTでの検出と実際の胎児の状態に乖離が生じやすいと考えられます。
まとめ
NIPTは非侵襲的で母体へのリスクが低い優れた出生前検査ですが、特にトリソミー13の陽性結果に関しては、その解釈に慎重さが求められます。胎盤限局性モザイクや低頻度胎児モザイクの可能性を考慮し、確定検査(羊水検査)を受けることで、より正確な診断と適切な妊娠管理が可能となります。
最終的なアドバイス
トリソミー13のNIPT陽性結果を受け取った場合でも、すぐに妊娠終了を検討するのではなく、専門医と相談のうえ確定検査を受け、超音波検査などで胎児の状態を総合的に評価することが重要です。特に超音波異常を伴わないケースでは、低頻度モザイクの可能性を考慮し、慎重な判断が望まれます。
参考文献
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