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凍結胚移植と新鮮胚移植の妊娠率の違いは?染色体異常や障害児リスクを解説

凍結胚移植と新鮮胚移植の妊娠率の違いは?染色体異常や障害児リスクを解説

凍結胚移植と新鮮胚移植の妊娠率の違いは?染色体異常や障害児リスクを遺伝専門医が解説

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
📊 約10,000文字

凍結すると障害児になる?
医学的結論は「NO」です。むしろ凍結に耐えた「強い胚」だけが残るため、先天異常リスクは新鮮胚より低い傾向があります(ヘルシー・サバイバー効果)。

凍結胚移植の意外なリスク
染色体とは別に、母体の「妊娠高血圧症候群」や「巨大児」のリスクが上昇します。原因は「黄体がないこと」と「培養液の影響(エピジェネティクス)」にありました。

ダウン症や自閉症の不安解消法
凍結胚でも加齢による染色体リスクは消えません。臨床遺伝専門医が推奨するNIPT(新型出生前診断)でのリスクヘッジ戦略を解説します。

1. 凍結胚移植と新鮮胚移植の違い:妊娠率はどっちが高い?

不妊治療(生殖補助医療:ART)において、体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)で得られた受精卵(胚)を子宮に戻す方法には、採卵した周期にすぐ戻す「新鮮胚移植」と、一度凍結保存して別の周期に融解して戻す「凍結胚移植」があります。近年、日本を含む世界中のクリニックで、全胚凍結(Freeze-all)を選択するケースが急増しています。

結論から言うと、「妊娠率(着床率)」においては、多くの場合で凍結胚移植に軍配が上がります。子宮内膜の状態を整えてから移植できるためです。


新鮮胚移植の流れ図解:採卵から体外培養、移植までの工程とスケジュール

(図1:新鮮胚移植の流れ。採卵と同じ周期内に移植を行います)


凍結胚移植の流れ図解:採卵、凍結保存、ホルモン補充から移植までの6段階プロセスとスケジュール

(図2:凍結胚移植の流れ。一度凍結し、別周期に子宮環境を整えてから移植します)

比較項目 凍結胚移植 (FET) 新鮮胚移植 (Fresh ET)
妊娠率・着床率 高い ◎ やや低い傾向 △
子宮内膜の状態 採卵のダメージから回復し、着床に適した時期を狙える。 採卵誘発剤の影響でホルモンバランスが崩れている場合がある。
OHSSリスク 低い(回避可能)◎ 卵巣過剰刺激症候群のリスク
費用・期間 凍結費用がかかり、移植まで1〜2ヶ月空く。 追加費用が少なく、最短で妊娠判定が可能。

2. 「凍結すると障害児になる?」医学的エビデンスによる回答

患者様から最も多く寄せられる不安が、「一度凍らせるというプロセスが、赤ちゃんのDNAを傷つけ、障害やダウン症の原因になるのではないか?」というものです。

臨床遺伝専門医としての結論をお伝えします。凍結操作そのものが、染色体異常(ダウン症など)や先天異常のリスクを増やすという医学的根拠はありません。むしろ、最新の研究では逆の結果も出ています。

💡 用語解説:染色体異常と凍結の関係

ダウン症(21トリソミー)などの染色体数異常は、主に「受精前の卵子の段階」で決まります。受精後に凍結保存(融解)したからといって、染色体の本数が変わることは通常ありません。

驚きの事実:「ヘルシー・サバイバー効果」とは

世界中の大規模な研究データ(メタアナリシス)において、凍結胚移植で生まれた赤ちゃんは、新鮮胚移植で生まれた赤ちゃんと比較して、先天異常(奇形など)のリスクが増加しない、あるいはむしろ低いという結果が報告されています。日本産科婦人科学会の2022年のデータ等でも、凍結胚移植の安全性は確認されています。

🛡️ 凍結が「選別」の役割を果たす

凍結・融解のプロセスは、胚にとって一種の「ストレステスト」になります。染色体異常があったり、生命力が弱い胚は、このプロセスに耐えられず、移植前に成長が止まります(淘汰されます)。
結果として、凍結に耐えて無事に子宮に戻された胚は、「選ばれし強い胚(Healthy Survivor)」である確率が高いため、結果的に先天異常のリスクが低くなると考えられているのです。

3. 要注意:凍結胚移植における「母体へのリスク」

胎児への染色体リスクは心配ありませんが、一方で「凍結胚移植特有のリスク」も存在します。それは胎児の遺伝子ではなく、胎盤や母体の環境に関わるものです。

⚠️ 妊娠高血圧症候群のリスク増

ホルモン補充周期での凍結胚移植では、自然妊娠と比較して妊娠高血圧症候群のリスクが約2〜6倍高くなるという報告があります。

⚠️ 巨大児(LGA)のリスク

新鮮胚移植では低出生体重児になりやすい一方、凍結胚移植では出生体重が大きくなる(巨大児)傾向があります。これは培養液やエピジェネティックな変化の影響が示唆されています。

なぜ高血圧になりやすい?「黄体欠如」のメカニズム

この原因として有力視されているのが「黄体(おうたい)の欠如」です。

通常、排卵後の卵巣には「黄体」ができ、そこから血管を広げる物質(リラキシンなど)が出ます。しかし、薬でコントロールする「ホルモン補充周期」では排卵させないため、黄体ができません。その結果、血管が広がりにくくなり、高血圧のリスクが上がると考えられています。

培養環境による「エピジェネティクス」への影響

実は、凍結そのものよりも、胚を体外で長時間育てる「培養」の過程(培養液の影響)が、遺伝子のスイッチ(エピジェネティクス)に影響を与える可能性が指摘されています。

💡 用語解説:エピジェネティクス

DNAの配列(AGCTの文字)そのものは変わらなくても、遺伝子の「スイッチのオン・オフ(修飾)」が後天的に変化する仕組みのこと。培養液などの環境ストレスによって、このスイッチ調節に微細な変化が起き、巨大児などの体質に影響する可能性があります。

特に胚盤胞まで5~6日間培養する場合、人工的な培養液の中にいる時間が長くなります。これが巨大児リスクの一因とも考えられていますが、一方で「胚盤胞まで育つ=生命力が強い」という選別メリットの方が圧倒的に大きいため、現在では胚盤胞移植が主流となっています。

4. リスクの「逆転現象」まとめ

新鮮胚と凍結胚、どちらも一長一短があります。この「リスクの逆転(Obstetric Switch)」を理解しておくことが重要です。

リスクの種類 新鮮胚移植 凍結胚移植
早産・低出生体重 なりやすい
高リスク
なりにくい
低リスク
巨大児・高血圧 なりにくい
低リスク
なりやすい
高リスク
染色体異常(ダウン症等) 母体年齢に依存 母体年齢に依存
(※選別効果によりわずかに低い可能性あり)

5. 凍結胚でも「NIPT」を受けるべき理由

「凍結胚は強い胚が残る」と言いましたが、それは35歳や40歳を超えた場合の加齢による染色体異常のリスクがゼロになる」という意味ではありません。
35歳以上の方や、貴重な凍結胚を移植された方こそ、妊娠成立後にNIPT(新型出生前診断)で状態を確認することが、安心した妊娠期間を過ごすために不可欠です。

⚠️「PGT-A正常胚だから100%安心」の落とし穴

「着床前診断(PGT-A)でA判定だったから、NIPTは不要」と考える方が多いですが、それは危険な誤解です。PGT-Aには以下の技術的な限界があるため、遺伝専門医としてはNIPTでのダブルチェックを強く推奨します。

解像度の違い:
PGT-Aは「染色体の本数(本の冊数)」を数える検査です。NIPT(特にダイヤモンドプラン)は「染色体の微細な欠け(ページの破れ)」まで見る検査です。微小欠失症候群のリスクは残ります。

サンプリング誤差:
PGT-Aは胎盤になる細胞を数個とって調べるだけです。一方、NIPTは胎盤全体から血中に流れ出たDNAを解析するため、スクリーニングとしての網羅性が異なります。

後天的な変化:
受精卵の段階では正常でも、その後の細胞分裂の過程でエラー(モザイクなど)が起こる可能性があります。

ミネルバクリニックの「ダイヤモンドプラン」

当院では、米国の4大遺伝子検査会社の一角が提供する最新技術「COATE法」を採用したダイヤモンドプランを提供しています。日本初の臨床遺伝専門医が開業したクリニックとして、世界最高水準の検査をお届けします。

微細欠失の精度が「>99.9%」へ

従来の検査法では微細欠失症候群の陽性的中率は70%台でしたが、COATE法の導入により99.9%以上という画期的な精度を実現しました。12か所13疾患の微細な染色体の欠け(マイクロデリーション)を正確に検出します。

精子の遺伝子新生突然変異もカバー

凍結胚移植を受けるご夫婦(男性パートナー)の年齢が高いケースも少なくありません。男性不妊の原因ともなる精子の加齢に伴いリスクが増える「新生突然変異(デノボ変異)」による56の遺伝子疾患(症候性自閉症などを含む)もスクリーニング可能です。

💡 用語解説:新生突然変異(デノボ)
両親の遺伝子には異常がないのに、精子や卵子が作られる過程で「DNAのコピーミス」が起こり、突然発生する遺伝子変異のこと。父親が高齢になるほどリスクが高まります。
父親由来の遺伝子変異が子へ伝わるイメージ

(図:父親由来の遺伝子変異が子へ伝わるイメージ)

スーパーNIPT(第3世代)との違い

6年前に私が「スーパーNIPT」と名付けた第3世代検査(現在のライト・スタンダードプラン)も優秀ですが、ダイヤモンドプランはさらにその上を行く「次世代NIPT」です。より広く、より深く、赤ちゃんの健康状態を知ることができます。

6. ミネルバクリニック独自の「トリプルリスクヘッジ」

NIPTを受ける上で最も大切なのは、「検査結果が出た後のサポート」です。当院では、患者様が安心して検査を受けられるよう、他院にはない万全の体制を整えています。

1. 金銭的リスクヘッジ(互助会)

羊水検査互助会(会費8,000円・非課税)にご加入いただくと、万が一陽性だった場合の羊水検査費用を、当院が全額負担します(上限なし)。

また、2025年1月より「安心結果保証制度(会費6,000円)」を新設。再検査が必要と判明したのに、流産などで検体が提出できなくなった場合、検査代金を全額返金いたします。流産リスクの高い時期に寄り添う、当院だけのシステムです。

2. 時間的リスクヘッジ(院内完結)

ミネルバクリニックは非認証施設で唯一、2025年6月より産婦人科を併設し、陽性時の確定検査(羊水・絨毛検査)を自院で完結できるようにしました。他院への紹介状を待つタイムロスもありません。

さらに、ほとんどの検査で「3日以内」に結果を出せる体制を構築。「確定検査の結果を待つ不安な時間を、少しでも短くしたい」という熱意により実現したスピード対応です。(※マイクロアレイ等が必要な場合は約2週間)

3. 心理的リスクヘッジ(専門医)

臨床遺伝専門医である院長が、検査前から検査後のフォローまで一貫して担当します。オンラインNIPTでも全国対応しており、24時間体制で陽性時の不安に寄り添います。

7. まとめ

凍結胚移植は、妊娠率が高く、胎児の先天異常リスクも低い優れた治療法です。しかし、「染色体異常のリスクがゼロになる」わけではありません。また、母体の高血圧リスクなどの注意点もあります。

だからこそ、妊娠判定後の「NIPTによる遺伝的リスクの確認」「適切な周産期管理」の2つが重要になります。ミネルバクリニックは、臨床遺伝専門医として、あなたの不安を「安心」に変えるための最高精度の検査とサポートをお約束します。

【知っておきたい】体外受精・胚移植の用語集

不妊治療や生殖補助医療(ART)でよく使われる、重要用語をまとめました。

融解・保存(凍結)
採卵した卵子や受精卵(胚)をマイナス196℃で凍結保存し、移植する周期に合わせて溶かす(融解する)技術。凍結技術の進歩により、成績が向上しています。
初期胚・胚盤胞
受精後2〜3日目の状態を「初期胚」、5〜6日目まで培養が進んだ状態を「胚盤胞」と呼びます。胚盤胞まで育つ胚は生命力が強く、着床率が高い傾向にあります。
ART(生殖補助医療)
体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)、凍結胚移植など、医療の力で妊娠をサポートする治療の総称です。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
排卵誘発剤の影響で卵巣が腫れ、お腹に水がたまる副作用。新鮮胚移植で起こりやすく、全胚凍結することでリスクを回避できます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 凍結胚移植だとダウン症のリスクは上がりますか?

いいえ、上がりません。むしろ、凍結・融解のストレスに耐えられない染色体異常胚が淘汰されるため、新鮮胚移植と比較してリスクは同等か、わずかに低い傾向にあります。

Q2. 凍結胚移植で障害児が生まれる確率は?

日本産科婦人科学会のデータでは、先天異常の発生率は新鮮胚移植と凍結胚移植で有意な差はありません(約4〜5%程度)。自然妊娠と比べても大きな差はないとされています。

Q3. PGT-Aで正常胚(A判定)ならNIPTは不要ですか?

いいえ、受けることを強く推奨します。PGT-Aは胎盤になる細胞の一部を調べる検査であり、「胎盤性モザイク」や微細欠失を見逃す可能性があります。NIPTでダブルチェックを行うことで、より確実な安心が得られます。

Q5. NIPTはいつから受けられますか?

一般的には妊娠10週からですが、ミネルバクリニックでは「妊娠8週」での受検を推奨しています。
8週であれば、最新技術(COATE法)により十分な精度(再検査率5%程度)を確保しつつ、万が一の場合でも12週未満の初期対応が可能なため、心と体の負担を最小限に抑えられます。
また、臨床研究として妊娠6週からの早期NIPTも実施可能です。

▶︎ NIPTを受けるベストなタイミング:何週がおすすめ?

Q6. 陽性だった場合、確定検査の費用はどうなりますか?

当院の互助会にご加入いただければ、羊水検査費用を全額補助いたします(上限はありません)。2025年6月からは院内での検査も可能です。

🏥 臨床遺伝専門医へのご相談(予約・アクセス)

凍結胚移植後の遺伝的リスクやNIPTについてのご不安は、専門医が常駐するミネルバクリニックへお気軽にご相談ください。
東京・港区(外苑前駅)で、最新の遺伝医学と温かい心であなたをお迎えします。

※初診の方の診療時間やアクセス詳細は公式サイトをご確認ください。

参考文献

  • [1] Roque M, et al. Freeze-all versus fresh embryo transfer strategy during in vitro fertilisation in women with regular menstrual cycles: multicentre randomised controlled trial. BMJ. 2020. [BMJ]
  • [2] Maheshwari A, et al. Is frozen embryo transfer better for mothers and babies? Can cumulative meta-analysis provide a definitive answer? Hum Reprod Update. 2018. [Oxford Academic]
  • [3] von Versen-Höynck F, et al. Increased Preeclampsia Risk and Reduced Aortic Compliance With In Vitro Fertilization Cycles in the Absence of a Corpus Luteum. Hypertension. 2019. [AHA Journals]
  • [4] 日本産科婦人科学会 (JSOG). 生殖補助医療(ART)登録データ. [JSOG Registry]
  • [5] ESHRE Working Group on Single Embryo Transfer. Guidelines on the number of embryos to transfer. 2025.



プロフィール
仲田洋美医師

この記事の筆者:仲田 洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。特に遺伝カウンセリング分野では15年以上の経験を持ち、全国初のオンライン遺伝カウンセリングを確立して、地方在住の方々にも質の高い遺伝医療を提供しています。


仲田洋美の詳細プロフィールはこちら

   

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