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出生前診断の賛否両論|中絶は悪?倫理的な課題と命の選択

出生前診断の賛否両論|中絶は悪?倫理的な課題と命の選択

出生前診断の賛否両論|中絶は悪?倫理的な課題と命の選択

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

「出生前診断や中絶は、倫理的に悪いことなのでしょうか」
これは、NIPT(新型出生前診断)や羊水検査を検討する多くのご夫婦が直面し、深く思い悩むテーマです。命の選択という重い決断に対して、正解は一つではありません。だからこそ、女性の権利(自己決定権)や歴史的背景を知り、ご夫婦が納得して進めるための正しい知識をお伝えします。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 倫理・中絶・リプロダクティブライツ
臨床遺伝専門医監修

Q. 検査で陽性となり、中絶を選ぶことは「悪」なのでしょうか?

A. 決して「悪」と断じることはできません。
障害のあるお子さんを育てるのはご家族であり、その社会的・心理的障壁は計り知れません。どんな決断であっても、ご夫婦が真剣に考え抜いて出した答えであれば、それは尊重されるべき「自己決定」です。

  • 倫理のジレンマ → 「産む・産まない」をめぐるプロ・ライフとプロ・チョイスの対立
  • 自己決定権 → 女性が自分の身体を主体的に決める権利(リプロダクティブ・ライツ)
  • 歴史的背景 → なぜ日本で「中絶は悪」という心理的烙印(スティグマ)が生まれたのか
  • 専門医の役割 → 医師の価値観を押し付けず、ご家族の決断に最後まで伴走する姿勢

1. 出生前診断と中絶における倫理的な課題と賛否両論

一部の小児医療専門病院では、「羊水検査はするが、たとえそれで異常があっても中絶はしない。産むと決めたら診療するが、中絶する場合は他の医療機関に行くように」とはっきり告げられることがあります。こども病院は「子どものための病院」だから、中絶するなら診療できないという立場です。

以前、私のクリニックの患者さんで、赤ちゃんの成長が悪く大きな病院を紹介された方がいました。そこで上記のようなことを言われ、混乱状態のまま何の判断もできず、「そんなに言うんだったら産んでみようか」と出産に至りました。
結果として、お子さんには小脳の低形成などさまざまな異常があり、なかでも喉頭軟化症が非常に問題で、人工呼吸を行うための挿管もうまくいかず、わずか2日で亡くなってしまいました

「中絶はとんでもない話だ」という医師の強い主張に従い、結果的に2日で亡くなるお子さんを見送ることで、深く傷ついたのは患者さんご一家でした。果たして、この医師の対応は倫理的に正しかったのでしょうか。

プロ・ライフ(命の尊重)とプロ・チョイス(選択の権利)

出生前診断や中絶をめぐっては、世界中で二つの対立する考え方があります。

  • プロ・ライフ(pro-life):胎児の生命を尊重する立場で、生命の誕生を受精の瞬間と捉えます。人工妊娠中絶は殺人とみなし、強く反対します。キリスト教のカトリック保守派などで強く支持されています。
  • プロ・チョイス(pro-choice):胎児の生命よりも「母体の選択権」を優先する立場です。女性の身体のことは女性自身が決めるべきだという考えに基づいています。

この二つの視点は、純粋な医学的議論を超え、宗教的禁忌や政治問題にまで広がっており、賛否両論の根深い対立を生んでいます。

2. 命の選択と自己決定権(リプロダクティブ・ライツ)とは

1990年代になり、世界では女性の権利として、「自分の身体は自分で決める」というリプロダクティブ・ライツの概念が湧き上がってきました。1994年の国連・国際人口・開発会議で提唱されたこの概念は、「万人が保証されるべき性と生殖に関する健康と権利」と定義されています。

💡 用語解説:リプロダクティブ・ヘルス/ライツ

女性が自分の性や子どもを「産むか産まないか」「いつ産むか」「何人産むか」を決める自由を持ち、社会からも本人の意思が尊重され、自分らしく生きられることを目指す権利のことです。身体を所有する本人自身が、身体の問題を主体的に決めるのは基本的人権の一つだと考えられています。

女性を擁護するフェミニズムの視点からは、「中絶の禁止は女性に対する出産の強制にほかならず、自己決定権を奪う構造的な差別である」という主張も存在します。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【誰かの心を軽くできる魔女でありたい】

医師が自分の考える「正しさ」を患者さんに押し付ける態度を「パターナリズム(父権主義)」と呼びます。中絶を悪だと非難しても、実際に障害のあるお子さんを育てるのは親御さんであり、医師が代わって育ててくれるわけではありません。

私自身、初めての妊娠で一卵性双生児の一人を子宮内胎児死亡で失った経験があります。あの日、私に寄り添ってくれた医師はいませんでした。子を失う苦痛を抱えた母親を犯罪者のように責め立てるのは、医療ではなく患者虐待です。私は、不安に押しつぶされそうな女性の権利を、最後の最後までサポートする存在でありたいと心から願っています。

3. 賛成意見・反対意見の背景にある歴史と社会のあり方

日本では1907年から刑法に「堕胎罪」が存在しますが、戦後の1948年に制定された「優生保護法」によって、実質的に幅広い人工妊娠中絶が合法化されました。当時は食糧危機の中での人口爆発を防ぐ目的もあり、非常に幅広い「経済的事由」によって年間100万件を超える中絶が行われていた時期がありました。

その後、人口減少が予測されるようになると、1970年代に突如として「水子供養」という概念がオカルトブームと共に広まりました。これにより、「中絶は悪いことだ」という心理的烙印(スティグマ)が社会に刷り込まれていったのです。戦中は「産めよ増やせよ」、戦後は「人口抑制」、そして人口減の時代には「中絶へのスティグマ」。日本の女性たちは常に国の方針に翻弄されてきました。

日本特有の「12週問題」による女性への重圧

日本では妊娠12週を過ぎてからの中絶(中期中絶)は、死産届の提出や埋葬が必要になります。さらに、健康保険から出産一時金が出る関係で、勤務先を通じて手続きを行う必要が生じ、他人に知られたくない辛い経験を職場に報告しなければならないという非常に重い負担が存在します。

ただでさえ罪悪感や悲しみを抱える中で、社会的な手続きの壁に苦しむ女性がどれほど多いか。この問題を放置したまま、「命を大切に」とだけ説くのは、あまりにも現場の痛みに寄り添えていないと言わざるを得ません。

4. 検査後の決断:スクリーニング検査と確定診断、そして中絶の現実

NIPTはあくまで可能性を調べる「スクリーニング検査(非確定検査)」です。もし結果が陽性であった場合、必ず羊水検査などの「確定診断」を経て、本当にお腹の赤ちゃんに疾患があるのかを確かめてから、その先を考える必要があります。

「認定施設だから安心」という誤解と、隠れたリスク

「NIPTは日本医学会の認定施設で受けるべきだ、無認可施設はリスクがある」とよく言われます。しかし、実際には認定施設であっても、患者さんが深く傷つくケースが存在します。

先日当院にいらした患者さんは、ある認定施設でNIPTを受け陽性となり、羊水検査で確定診断も受けました。しかし、そこの産婦人科の遺伝専門医から「中絶は悪いことだ」と強く非難されてしまったのです。結果としてその方は、自分を責める医師から逃れるように、300キロ以上も離れた別の地域の病院を探し、そこでようやく手術を受けることになりました。

出生前診断という選択肢を提供しておきながら、いざ障害が判明した途端に中絶を「悪」と決めつけ、患者さんを心理的に追い詰めることは、医師として絶対にあってはならないことです。本当のリスクとは、施設の認可・非認可という枠組みではなく、目の前の医師が「ご夫婦の決断(自己決定権)」を尊重してくれるかどうかにあります。

5. 臨床遺伝専門医としてお伝えしたい「ご夫婦の決断」の尊重

私は、社会はもっと障害のあるお子さんの誕生を歓迎し、サポートを充実させるべきだと考えています。実際には、障害のあるお子さんのいる生活は、社会的な障壁や経済的・マンパワー的な負担が大きくのしかかるのが現実です。
だからこそ、希望する親御さんには、可能性を事前に知るためのより正確な技術的手段を提供することが、医療の務めだと信じています。

より正確な情報が、後悔のない決断を生む:当院のNIPT

当院は非認証施設ではありますが、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングから検査、陽性時の羊水検査(2025年6月より院内実施)までを一貫して提供する極めて稀有な医療機関です。

私たちが採用している「COATE法(SNP法とターゲット法の融合)」を用いたダイヤモンドプランでは、基本の染色体異常に加え、12領域の微細欠失(陽性的中率 >99.9%)、さらに父親由来の精子の新生突然変異に起因する56種類の単一遺伝子疾患(積算リスク1/600)までを網羅しています。※これらの中には、重度の合併症を伴う症候性(重症)自閉症の原因遺伝子も含まれています。

(父親由来の遺伝子変異が子へ伝わるイメージ)

正確な検査技術と、深い遺伝カウンセリング。そして万が一の陽性時に互助会(8,000円・強制加入)により羊水検査費用が全額補助されます。これにより、経済的にも心理的にもご夫婦を守ります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【あなたの決断を全力で守ります】

どんな決断を下すにしても、外野の無責任な言葉に傷つく必要はありません。「産む」「産まない」どちらの選択にも、計り知れない覚悟と愛があります。

私たちが目指すのは、誰もが尊重される多様性のある社会です。そして、誰かに強制されたわけでもなく、感情に流されたわけでもなく、「自分たちで考え抜いて選んだ」という納得感こそが、未来のあなた自身を救います。私たちは決してパターナリズムに陥ることなく、あなたの大切な決断に寄り添い続けます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 中絶は法律違反(犯罪)なのでしょうか?

日本の刑法には「堕胎罪」が存在しますが、母体保護法によって一定の条件下(主に経済的理由や母体の健康上の理由)において実質的に人工妊娠中絶が合法的に行われています。ただし、胎児の病気を理由とする中絶(胎児条項)は法律上明記されておらず、解釈によって運用されているのが現状です。

Q2. リプロダクティブ・ライツ(自己決定権)とは何ですか?

女性が自分の身体に関することを主体的に決める権利のことです。子どもを産むか産まないか、いつ産むかなどを自由に決定でき、健康と安全が守られるべきだという国際的な人権の概念です。

Q3. NIPTの認定施設であれば、必ずしも安心なのでしょうか?

施設の認可・非認可だけが安心の基準ではありません。認定施設であっても、陽性が確定した際に医師が個人的な価値観(中絶は悪であるという考え)を押し付け、患者さんを精神的に追い詰めてしまうケースが実際に報告されています。大切なのは、非指示的でフラットな遺伝カウンセリングを行ってくれる専門医がいるかどうかです。

Q4. 12週を過ぎてからの中期中絶は何が問題になるのですか?

日本では妊娠12週以降の中絶は「死産」扱いとなり、死産届の提出や埋葬が必要になります。また、働く女性の場合、健康保険の出産一時金申請や産後休暇の取得のために事業所を通す必要が生じ、職場に伏せておきたいプライバシーが知られてしまうという大きな精神的負担(12週問題)が存在します。

Q5. NIPTで陽性になったら、すぐに中絶の手術になるのですか?

いいえ。NIPTはあくまで可能性を調べる「スクリーニング検査」です。必ず羊水検査や絨毛検査などの「確定診断」を受けて、実際にお腹の赤ちゃんに疾患があるかを医学的に確定させてから、その後の対応をご夫婦で話し合うことになります。

Q6. 陽性になった場合の追加費用が心配です。

当院では、検査を受けられる方に互助会(8,000円)をご案内しており、これにより万が一陽性となった場合の確定検査(羊水検査)の費用が全額補助されます。費用の心配なく、正確な診断に進んでいただける体制を整えています。詳しくはNIPTの検査費用以外にかかる追加費用と保証制度をご確認ください。

🏥 不安を、ひとりで抱えないために

どんな決断を下すにせよ、それはご夫婦が真剣に考えた尊い答えです。
私たちは正確な検査フラットな遺伝カウンセリングで、あなたの意思決定に最後まで寄り添います。

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参考文献

  • [1] 厚生労働省発子 1020 第1号(母体保護法に関する通達) [PDF]
  • [2] 国連人口基金(UNFPA) リプロダクティブ・ヘルス/ライツの概念 [公式サイト]
  • [3] 日本産科婦人科学会 母体血を用いた新たな出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針 [PDF]
  • [4] ACOG (American College of Obstetricians and Gynecologists) Guidelines on Prenatal Screening and Diagnosis [ACOG]
  • [5] ACMG (American College of Medical Genetics and Genomics) Statement on Noninvasive Prenatal Screening [ACMG]


プロフィール

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。
2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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