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「腫瘍」とひと言で言っても、その分類は多岐にわたるので、その診断が重要になります。
その中のひとつにある「卵巣奇形腫」という腫瘍は、そのネーミングからしてなんとなく怖いものを感じる方も多いと思います。
ここではその卵巣奇形腫について、できてしまうメカニズム、治療法、そして治療後の注意点など、ひと通り詳しく解説します。
卵巣奇形腫とは?
卵巣奇形腫は「成熟嚢胞性奇形腫」、「良性嚢胞性奇形腫」、「類皮嚢胞」や「皮様嚢胞腫」など、様々な呼び方があります。
そんな卵巣奇形腫が発生する卵巣は、子宮の左右両方にある2~3cm大という、親指位の小さな臓器です。
女性の身体の「出産」という機能を維持するための、複雑多様な役割を総括する能力を持つ卵巣は、その能力の高さゆえに様々な腫瘍を発生してしまうのです。
卵巣腫瘍の中でも「卵巣嚢腫」といわれる中のひとつである卵巣奇形腫について、詳しく解説します。
原因
ストレスや不摂生など、分かりやすい原因があれば対策のしようもありますが、卵巣腫瘍が発症する理由はよく分かっていないので、実際のところ、予防法は明らかになっていません。
発症する原因は、上述の通り、卵巣という臓器は能力が非常に高く、細胞分裂が盛んであるところにあります。
卵巣に卵子ができて成長し、20mmくらいの成熟卵胞となり、排卵期になると卵管に向けて排出されて受精を待ちます。
卵子はどんなものにでも成れる可能性がある細胞のため、受精していないのに卵巣の中で人の体を作ろうとしてしまい、発生してしまうのが、卵巣奇形腫です。
卵巣奇形腫の内容物は、歯や髪の毛、脂肪や爪、皮膚などの、比較的作りやすいと言われている様々な組織が含まれます。
卵巣奇形腫の悪性度
卵巣腫瘍の約90%は良性といわれており、その80~90%は卵巣嚢腫、さらにその約半数が卵巣奇形腫と言われていて、珍しい病気ではありません。
卵巣腫瘍は発生する由来によるものや、悪性かどうかなどの性格によるもの、充実性腫瘍(しこり)か嚢胞(内容物が液体)か、など、様々に分類されます。
充実性腫瘍のような、硬さのある腫瘍には、卵巣がんなどがありますが、卵巣腫瘍の中で悪性と言われるものは全体の10%程度です。
自覚症状
卵巣の腫れが小さいうちは症状がありませんが、段々大きくなってくると、以下のような症状が現れてきます。
- 頻尿
- 生理以外(性交や排便、激しい運動や仕事の後など)で出血がある
- おりものの色が濃くなってきている
- 長引く・経血が増えた・不順・腰が痛いなどの生理時の不調や不快感
卵巣は骨盤の奥に位置していて、多少腫れても見つけにくいので、症状が現れてきて自覚する頃には大分大きくなっているということになります。
罹りやすい年齢
卵巣腫瘍の中でも卵巣奇形腫は、発症する年齢層が乳児から高齢者までと、大変に幅広く、特に(6歳や16歳の症例がある)少女が卵巣嚢腫を発症した場合、その70%が卵巣奇形腫と言われていて、むしろ若年層に多い病気とされています。
また、良性と言われている卵巣奇形腫ですが、閉経後に発生したものについては悪性転化(がん化)する可能性があります。
卵巣奇形腫が合併症になる病気
免疫異常が引き起こす「対NMDA受容体脳炎」という病気に、卵巣奇形腫が合併症として発症することがあると言われています。
この脳炎の治療法として、卵巣奇形腫を摘出すると、劇的な回復が見られるという報告があります。
しかし、卵巣奇形腫が発生せずとも脳炎を発症するケースや、脳炎を発症してから卵巣奇形腫が発生するケースもあるなど、対NMDA受容体脳炎と卵巣奇形腫の因果関係は明らかになっていない処があります。
卵巣奇形腫の診断について
初期の自覚症状が乏しい卵巣奇形腫の診断は、実際にはどのように行われるのでしょうか。
婦人科の診察といえば、最終生理日などを確認する問診や、外診、内診などは外せない流れですが、卵巣奇形腫の有力な診断方法は、超音波(エコー)検査やCT・MRIです。
超音波検査は、音波を当てて跳ね返ってきた音で、臓器の状態や腫瘍の有無などを調べる検査です。
そして、それでもまだ不明確なところがある場合は、さらにMRIやCTを駆使して画像診断します。
卵巣奇形腫の治療について
それでは、卵巣奇形腫を実際に治療するとなった場合の、入院期間や費用などの具体的な詳細を見てみましょう。
手術を検討する目安
卵巣奇形腫に限らず卵巣腫瘍の場合は、6cmを超えると茎捻転の危険性が増し、大きくなると今度は破裂の危険性も出てきます。
そうなった場合、激しい下腹部痛を起こすので、緊急手術をすることになります。
茎捻転の場合は、捻じれることで血流が堰き止められ、発症してから36時間以内であれば卵巣を残すことが可能ですが、それを過ぎると壊死してしまい、卵巣摘出以外の選択ができなくなってしまいます。
そういった事態を前もって防ぐために、5cmを超える辺りになると、手術の検討を勧められます。
もちろんそれだけではなく、上記にも説明した自覚症状をもし解決したいとなった場合、上にある大きさの限りではありません。
対NMDA受容体脳炎を何割かでも避けるためにも、早期発見・早期治療法が大切ですので、早めに受診・相談しましょう。
入院期間
卵巣奇形腫の治療においての入院期間は、術式によって異なります。
卵巣奇形腫に限らず卵巣嚢腫の手術は、開腹手術と腹腔鏡手術の二通りになります。
術後に妊娠を希望するのであれば奇形腫のみを切除し、年齢によって悪性転化の可能性がある場合は卵巣摘出と、本人の希望やその後の予想される経過や腫瘍の状態によって、術式を判断されます。
悪性を疑われる、または悪性の場合は周辺臓器の摘出もあり得ますので開腹手術となります。
そうでない場合は一般的に、予後のダメージの少ない腹腔鏡手術を選択します。
入院期間については、腹腔鏡手術の場合は5日~1週間、開腹手術の場合は10日~2週間となりますが、退院後すぐに就業するのではなく、1~2週間は身体を休め、立ち仕事や力仕事の場合は4週間後を目安に様子を見ましょう。
費用
卵巣奇形腫に限らず、また、術式に限らず、卵巣嚢腫の入院治療については大体40~80万円ほどで、健康保険が適用され3割負担となります。
高額療養費制度の対象にもなりますので、結果的には限度額までの負担で済ませられますし、限度額適用認定証を使えば払い戻しの申請も不要になります。
しかし、入院期間が月をまたぐとそれぞれの月で限度額まで請求され、コスト的に不利になりますので、予約の日付を選べるようであれば、入院と退院を同じ月のうちにできるように相談してみましょう。
卵巣奇形腫の治療後
卵巣奇形腫の手術を受けることで、術後の生活がどうなってしまうのか、心配な部分があるために検査に踏み出せないこともあると思います。
ここでは、治療後の妊娠や卵巣奇形腫の再発について説明します。
妊娠しづらくなる?
卵巣奇形腫は幅広い年齢層で発症するため、これから出産を経験する年齢という方もいらっしゃると思います。
治療後に妊娠を希望する場合は、治療=手術のタイミングが重要であり、多臓器との癒着などがあったり、あまり大きくなりすぎてしまったりすると、卵巣が残せない場合があります。
早いうちに相談できれば、腫瘍部分だけを切除して卵巣を残したい、腫瘍がある卵巣が片方だけなのでもう片方が残せる、など、術後に妊娠の希望を繋げられるケースは少なくありません。
そして卵巣は、両方ある時点で卵胞が余裕を持って消費されていくので、単純に片方が無くなったら妊娠の確率が半分に落ちる、というものではなく、残された卵巣が健康であれば、妊娠の可能性は十分にあると思っていいのです。
術後の性行為は傷口の経過を見ながらになりますが、大体術後2週間後から可能です。
再発発見と定期健診
卵巣奇形腫は前述にあるとおり、卵巣の能力が高く、細胞分裂が盛んなために発生するので、卵巣が健康な状態で残っているとどうしても再発する可能性があります。
今現在で発表されている卵巣奇形腫を含める卵巣嚢腫の再発率は、2年後に20%、5年後に40~50%と言われています。
医療機関によっては、5年以内の再発が70%を超えるという報告も発表されています。
治療の手術後はもちろん、1週間後、1ヶ月後、3ヶ月後…と、段々間隔を空けながら定期的に診察を受け様子を見ることになります。
そして、再発を警戒するのであれば、治療後のみでなく、発見前の心当たりのあるうちから、少なくとも1年に1回は定期健診を受け、卵巣奇形腫に限らず、他の病気についても早期発見ができるよう、気を付けるのが最良です。
まとめ
卵巣奇形腫について、原因から手術後の生活まで、ひと通り詳しく解説しましたが、参考になりましたでしょうか?
自覚症状がないので発見が難しいことが分かれば、むしろ自分の身体に気を付けて観察するきっかけにして頂けるのではないかと思います。
この記事を読まれることで、症状を自覚するころには選択肢が狭まってしまう可能性がある卵巣奇形腫の、早期発見に繋げられれば幸いです。