女性の生殖器の一つである「卵巣」は、命のもととなる卵子が入っている場所です。うずらの卵くらいの大きさをしており、子宮の両側に1つずつあります。
卵巣嚢胞とは、卵巣にできる袋のような形をした卵巣病変の総称です。多くの場合が良性で、20代〜30代の若い女性に多く見られます。しかし、悪性の可能性もあるため注意が必要です。
「沈黙の臓器」と聞くと肝臓を思い浮かべる方が多いかも知れませんが、卵巣も肝臓と同じく沈黙の臓器と呼ばれています。病気を早期発見できるよう、定期的な検診を受けることが大切です。
この記事では、卵巣嚢胞とはどのようなものか、症状、検査方法、治療法などについて詳しく解説します。卵巣嚢胞について気になる方、詳しく知りたい方はぜひ記事を最後まで読んでみてください。
卵巣嚢胞とは
卵子を作り、女性ホルモンを分泌する卵巣は、さまざまな腫瘍ができやすい臓器です。女性の全生涯でみると5〜7%の確率で卵巣に腫瘍が発生するといわれており、臓器の中でも多種多様な腫瘍ができます。
卵巣嚢胞とは、卵巣にできる嚢胞性(袋状)の病変の総称です。卵巣嚢胞は卵巣の内部や表面にでき、液体で満たされた袋のような形をしています。読み方は「らんそうのうほう」です。
卵巣嚢胞は、妊婦健診の経腟超音波検査によって発見されることが多い疾患です。卵巣嚢胞は発生頻度の高い婦人科腫瘍の一つであり、20代〜30代の若い女性に多く見られることが特徴です。
卵巣嚢胞の多くは良性でありがんではなく、ほとんどの場合、自然に消失します。ただし中には悪性の卵巣嚢胞もあり、40歳以上の女性に多く見られます。
検査によって見つかった卵巣の病変が「機能性嚢胞」なのか、それとも「良性腫瘍」や「悪性腫瘍」なのかを診断し、適切な治療方針を決定することが重要です。
機能性嚢胞
卵巣嚢胞の多くは、月経後に自然に縮小し数日から数週間で自然に消失する「機能性嚢胞」です。機能性嚢胞は、月経のある女性のおよそ三分の一に見られ、閉経後に発生することはまれです。
閉経後に見つかった場合は機能性嚢胞ではないため、自然に縮小することはなく、定期的な検診を受けて経過を観察する必要があります。
機能性嚢胞は、卵巣内の卵胞(液体で満たされた空洞)から生じます。卵胞1つにつき卵子が1つ入っており、通常の場合であれば、1回の月経周期に1つの卵胞から卵子が放出されます。卵子を放出した卵胞は、その後、消えていきます。
しかし、排卵が起こらないと卵胞が大きな嚢胞となることがあります。多くの場合で1.5cm未満ですが、非常にまれなケースでは15cmに達するものもあります。しかし、通常は8cmを超えるものはほぼありません。
機能性嚢胞には、卵胞内で卵子が成長する過程で生じる「卵胞嚢胞」と、卵胞が卵子を放出した後に作られる組織から生じる「黄体嚢胞」の2つがあります。
卵胞嚢胞
卵胞嚢胞(らんぽうのうほう)は、卵子が入っている卵胞由来の嚢胞です。
卵胞は排卵直前に2〜3cmほどになり、これが破裂することで排卵が起こりますが、なんらかの原因によって卵胞が破裂しないままになると、内部に無色透明もしくは黄色みがかった透明の液体が溜まります。
卵胞嚢胞の発生原因は卵胞細胞やホルモンの異常が原因であると考えられているものの、はっきりした理由はわかっていません。
卵胞嚢胞のほとんどは自然に消失し、通常症状はありません。しかし、卵胞嚢胞が大きくなると、卵巣自体が捻れる卵巣茎捻転(らんそうけいねんてん)を引き起こすことがあります。
卵巣茎捻転は、重たくなった卵巣が血管や周囲の組織を巻き込んで捻れることで血流が悪くなり、下腹部に激しい痛みを生じたり、周囲の組織が徐々に壊死してしまうこともある救急疾患です。
卵胞嚢胞は良性腫瘍や出血性黄体嚢胞と似ているため、正しく診断することが大切です。
黄体嚢胞
黄体嚢胞(おうたいのうほう)は、排卵時に作られる黄体の中に液体が溜まり、腫れているように見える状態のことです。内部に血が溜まっていることもあり、この場合は出血性黄体嚢胞と呼ばれます。
黄体嚢胞に自覚症状はほぼなく、数週間ほどで小さくなったり、消えたりすることが多いです。しかし、黄体嚢胞が破裂すると、中にあった液体が腹腔内に漏れ、強い痛みが起きる場合があります。
なお、黄体嚢胞は卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)との判別が難しいことが少なくありません。
卵巣嚢腫には「漿液性嚢腫(嚢腫の中で最も多いタイプ)」「粘液性嚢腫(閉経後の女性に多いタイプ)」「皮様性嚢腫(20代〜30代女性に多く、嚢腫の中に髪の毛、骨、歯、脂肪が含まれているタイプ)」「チョコレート嚢腫(子宮内膜症が卵巣内にでき、経血が溜まるタイプ)」の4種類があります。
卵巣嚢腫は9割が良性ですが、自然に消失することはないため、時間を置いて何回か検査を行い、診断します。
ルテイン嚢胞
ルテイン嚢胞(るていんのうほう)は、妊娠初期や絨毛性疾患に卵巣の腫れが見られる場合に疑われます。
胎盤を作る組織である絨毛から分泌されるホルモン「絨毛性ゴナドトロピン(human
chorionic gonadotropin/HCG)」によって卵巣が過剰な刺激を受けることで引き起こされます。
ルテイン嚢胞は片方の卵巣に発生することが多く、妊娠16週までに消失することがほとんどのため、エコーなどによる経過観察は必要ですが、治療の必要はありません。
しかし、大きさが5cmを越えている場合は茎捻転や急性腹症の原因になることが考えられ、治療が推奨されることもあります。かかりつけのクリニックで医師と詳しく相談するといいでしょう。
偽嚢胞
中には、偽嚢胞(ぎのうほう)といい、卵巣ではない腹腔内の組織同士がくっついてしまう(癒着)ことによる腫れや、溜まった水が卵巣の腫れに見えていることもあります。偽嚢胞は、自然に消失する可能性があります。
卵巣嚢胞の症状
ほとんどの卵巣嚢胞には症状がありませんが、性行為の際に痛む場合や、骨盤部に痛みや重たさを感じることがあります。少量の性器出血が起こることもあります。
また、中にはホルモンを分泌することで月経に影響を及ぼす卵巣嚢胞もあり、この場合は月経時に経血量が増える、症状が重くなる、周期が不規則になるなどの症状が現れることもあります。
卵巣嚢胞は自然に消える場合もありますが、出血や破裂、卵巣が捻れる原因になることもあります。
卵巣嚢胞の検査・診断方法
卵巣は腫瘍ができやすい場所であるため、良性か悪性かを正しく診断することが重要です。まずは問診を行い、その後で外診・内診(触診)、経腟超音波検査を行います。
ここまでの検査で診断を確定できない場合や、卵巣嚢腫の疑いがある場合は、CT検査やMRI検査などの画像検査が行われることもあります。
これらの検査により、悪性腫瘍(がん)の可能性が考えられる場合は、組織を一部切除して顕微鏡で検査を行います。
良性か悪性かの判断は下せない補助的な検査にはなるものの、血液検査によって腫瘍マーカー(一部のがんがある場合に、体内で作られるようになる物質)を調べることもあります。
卵巣嚢胞は消える?治療法について
直径が5cm以下の卵巣嚢胞の場合、通常であれば治療しなくても自然に消えることがほとんどです。定期的に超音波検査などを行い、経過観察します。
徐々に卵巣嚢胞が小さくなってはいるものの5cm以上ある場合や、自然に消えない場合は、手術による切除を行うこともあります。
手術は「腹腔鏡下手術」か「開腹手術」のいずれかの方法で行われ、他の臓器への影響や腫瘍の大きさによって判断されます。
- 腹腔鏡下手術…全身麻酔をし、腹部を1カ所、もしくは複数カ所小さく切開して手術する方法。入院の必要がない場合もある。最近では、体への負担が軽い腹腔鏡下手術が選ばれることが多い
- 開腹手術…全身麻酔をし、腹部を大きく切開して手術する方法。一泊の入院が必要になる
技術的に可能であれば卵巣の温存を目指して嚢胞切除術が行われますが、卵巣を摘出しなければならないケースもあります。片方の卵巣を摘出した場合でも、妊娠は可能です。
卵巣病変が境界悪性腫瘍や悪性腫瘍であった場合は、手術によって腫瘍を可能な限り摘出することが基本となります。進行期や腫瘍の種類によっては健常な卵巣や卵管、子宮を温存できることもあるため、妊娠や出産を希望している場合は、医師とよく話し合うことが大切です。
まとめ
卵巣嚢胞は、卵巣にできる袋状の病変で、比較的よく見られ、ほとんどの場合が良性です。直径5cm以下の卵巣嚢胞の場合、通常であれば特に治療を行わなくても、自然に消えていきます。
しかし、破裂や出血の可能性もあり、5cmを超える大きなものは卵巣茎捻転を引き起こす可能性もあるため、手術が必要になる場合もあります。
卵巣はさまざまな腫瘍が発生する臓器であり、卵巣腫瘍は人体で最も多種多様であるともいわれています。早期発見のためにも、定期的な検診を受けることが大切です。