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流産や死産で赤ちゃんを亡くした経験のある女性は、次の妊娠に対しても大きな不安を抱えています。
2度、3度と流産を繰り返して不育症と診断される方もおり、出産を諦めてしまう方もなかにはいます。
ですが、不育症にはリスク因子に応じた治療法もあり、実際に治療を受けた患者さんが無事に元気な赤ちゃんを産んだ報告もたくさんあります。
そこでこの記事では、不育症の予備知識を入れておきたい方に向けて、不育症の治療に関する基礎知識や保険適用範囲などの役立つ情報をご紹介していきます。
不育症という病気について
不育症は、赤ちゃんや夫婦の染色体異常や、胎盤に血栓ができやすくなる凝固因子異常などで流産・死産を繰り返してしまう病気です。
反復流産と習慣流産を括って不育症と考えられ、化学流産を除く流産、もしくは死産を2回以上繰り返すと不育症と診断されます。
反復流産と習慣流産になる頻度
日本では、100人に10人〜15人の妊婦さんが流産を経験するといわれています。
早期流産の原因で大きな割合を占める染色体異常は、現在の医療をもっても根本的な治療ができないため、全ての妊娠に流産のリスクが伴います。
流産・死産を2回繰り返す反復流産の頻度は妊娠全体の約4%で、3回以上にわたって流産・死産を繰り返す習慣流産は妊娠全体の1%〜2%とされています。
反復流産と習慣流産を含めた不育症は妊娠全体の約4.2%で発生し、今や日本で100万人以上の女性が不育症で悩んでいるといわれています。
不育症の治療法に関する基礎知識
妊娠はするのに子どもをなかなか得られない不育症ですが、「どんな治療が待っているのか」「そもそも不育症は治るのか」と気になっている方は多いと思います。
ここからは、不育症の治療に関する基礎知識をご説明していきます。
不育治療で出産率の改善が可能
不育症になる原因の半数以上は、偶然発生した胎児の染色体異常によって流産を繰り返す偶発的流産といわれています。
染色体異常を持っている可能性を染色体検査で調べることはできますが、残念ながら治療することはできません。
しかし、不育症の全てが偶発的流産ではないため、原因となるリスク因子を不育症検査で特定できれば、それに応じた治療を受けることができます。
不育症外来にかかって治療を受けた場合、リスク因子によっては約80%まで出産率が改善されます。
ですから、不育症になっても赤ちゃんをその手で抱く日がくることを諦める必要はありません。
不育症のリスク因子
不育症と診断された時に、今後の治療で重要になるのがリスク因子の特定です。
不育症検査で特定できるリスク因子がこちらとなります。
凝固因子異常 | 血液を固めて血を止める役割のある凝固因子に異常が発生し、血栓がつくられやすくなる。その結果、胎児に栄養素や酸素が運ばれず、流産や死産の原因になる。抗リン脂質抗体症候群が凝固因子異常の代表に挙げられる。 |
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子宮形態異常 | 子宮形態異常は、着床や子宮内の胎児の発育に直接悪影響を及ぼします。内視鏡手術が推奨される中隔子宮の他に、双角子宮、単角子宮、子宮筋腫などの疾患が挙げられます。また、子宮形態異常は不妊症の原因にもなります。 |
内分泌異常 | ホルモンバランスが乱れることで、卵巣機能や免疫細胞を制御する機能が低下し、流産に繋がります。甲状腺疾患や糖尿病が内分泌異常の代表に挙げられます。 |
染色体異常 | 夫婦のどちらかが染色体異常を持っている場合、胎児も染色体異常を持つ可能性があります。染色体異常は、流産の原因で大きな割合を占めています。 |
不育症のリスク因子は、不育症外来で化学的根拠のある検査を受けてることで特定ができます。リスク因子を特定できた後は、産婦人科の先生から今後の治療の説明などを受ける流れとなります。
不育症検査を受けた後、異常が見つからなかった場合には不育治療が適応されないケースもあることを覚えておきましょう。
不育症検査の保険適用範囲
妊娠は、妊娠健診から分娩まで多額の費用が発生するため、保険適用範囲が気になる方は多いと思います。
不育症検査の費用ですが、子宮形態異常検査などの一次検査と、プロテインS欠乏などを対象にした選択検査があり、検査項目次第で2万円〜10万円くらいの負担が発生します。
不育症の検査の保険適用範囲ですが、染色体検査の一部などは公的医療保険の適用外となってしまいます。
子宮形態検査と内分泌検査は、医療施設によって保険が適用される場合もありますので、かかりつけの産婦人科に確認することをオススメします。
不育症の治療の保険適用範囲
不育症の治療に関しても、種類によって保険が適用されるものとされないものがあります。
不育症の検査や治療の多くは保険が適用されますが、有効性・安全性などに化学的根拠がないものについては保険が適用されません。
血栓塞栓症予防で用いられるヘパリン療法については、2012年から注射を打つ手法であれば保険が適用されるようになりましたが、不育症の治療でよく用いられる低用量アスピリン療法は、現在も保険が利かないため自費となることを覚えておきましょう。
不育症の代表的な治療法
不育症はリスク因子に応じた治療が行われますが、代表的な3種類の治療法についてここでは解説していきます。
低用量アスピリン療法
血液をサラサラにする抗血小板作用がある低用量アスピリン療法は、血中に抗リン脂質抗体という自己抗体が発生し、血栓症が引き起こされる抗リン脂質抗体症候群や、血液凝固機能異常などの治療で用いられます。
排卵後の高温期からアスピリン81mg錠の服用を始め、治療期間は妊娠28週〜35週までとされています。
低用量アスピリン療法の費用相場は大体14万円前後になり、保険適用外となりますので注意しましょう。
アスピリン喘息の既往歴などがある場合は治療を受けられないため、医師としっかり相談して治療プランを決めましょう。
ヘパリン療法
ヘパリン療法も抗リン脂質抗体症候群の治療に用いられる手法で、アスピリンよりも強力な抗凝固作用を利用して、血栓症を予防します。
妊娠が正式に確認できた後、1日2回、ヘパリンカルシウム皮下注 5千単位/0.2mLシリンジ「モチダ」を自分で注射により投与して経過を観察します。治療期間は長くても妊娠36週頃までとされています。
ヘパリンを在宅で自己注射する場合は保険適用範囲となり、1ヶ月分で大体1万5千円くらいの治療費がかかります。自費診療をする場合は、1ヶ月で大体3万5千円の治療費がかかり、倍以上の負担になることを想定しておきましょう。
ヘパリン療法は、分娩時や流産時に出血が多くなる副作用や、極稀に血小板の減少によって脳梗塞や肺梗塞などを起こす可能性があるため、リスクを十分に理解した上で治療を受けるかどうかを決めましょう。
内視鏡的治療・手術療法
不育症のリスク因子が子宮形態異常だった場合、状態に応じて内視鏡的治療や手術療法を用いて治療が行われます。
子宮形態異常は、先天的なものと後天的なものに分けられます。
先天的な子宮形態異常 | ・中隔子宮 ・重複子宮 ・双角子宮 ・単角子宮 |
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後天的な子宮形態異常 | ・子宮粘膜下筋腫 ・子宮腺筋症 ・アッシャーマン症候群 |
流産を引き起こす可能性が最も高いのが中隔子宮です。子宮内に中隔ができて、中隔自体に着床はしますが、着床不全を起こしやすい厄介な疾患です。
不育症のリスク因子が中隔子宮と診断された場合は、子宮鏡下中隔切除術が行われます。子宮内へ子宮鏡を挿入して、子宮内腔の状態を見ながら電子メスで慎重に中隔を切除し、術後は、子宮内避妊用具やホルモン療法を用いて癒着予防を行うケースもあります。
内視鏡的治療を経た患者さんは、出産率が約80%まで改善されるといわれており、非常に高い効果を持つ子宮形態異常の治療法となっています。
Tender Loving Care
不育症の治療で欠かせないのが、Tender Loving Care(テンダーラビングケア)です。
Tender Loving Careは、「優しく愛情をもって患者に接する」という意味があり、なかなか赤ちゃんを得られない不育症の患者さんに対して、メンタルケアを行う治療法とされています。
不育症は全てのメカニズムが解明されているわけではありませんが、患者さんの精神的なストレスの解消によって赤ちゃんの獲得率が上昇するといわれています。
家族やパートナー、周囲の人が、頑張ってママになろうとしている患者さんを優しくサポートすることが大前提となりますが、それだけでは十分なメンタルケアに至らない場合もあります。
そこで活用したいのが、これまでたくさんの不育症患者さんを診てきた産婦人科の先生や、専門の研修を受けたピアカウンセラーによる不育症カウンセリングです。
不育症カウンセリングは、流産や死産を繰り返して精神的に落ち込んでいる患者さんと真剣に向き合い、抱えている不安と悩みを一つずつ解消しながら、妊娠・出産に前向きな気持ちになれるようなアドバイスが行われます。
不育症カウンセリングで、不育症の検査や治療に関する専門的な情報も得られますので、積極的に受けることをオススメします。
まとめ
不育症の治療に関して知っておきたい基礎知識と保険適用範囲などをご紹介しました。
流産を繰り返してきた患者さんは、「もう赤ちゃんを得られないかもしれない」とネガティブになってしまいがちですが、不育症の治療を経て、元気な赤ちゃんを得られた女性もたくさんいます。
不育症の治療は、リスク因子に応じて低用量アスピリン療法やヘパリン療法、内視鏡的検査、手術療法などが行われます。
適切な治療を受けた後に出産率が80%以上に改善された患者さんも多く、不育症でも子どもを得られるという希望を持って、検査や治療を受けるようにしましょう。
自治体では、不育症の治療に対する助成制度を設けていますので、そちらも合わせてチェックしてみましょう。
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