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葉酸欠乏性貧血とは?葉酸不足で起こる貧血の原因・検査値・治療とビタミンB12欠乏との違い

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医・総合内科専門医。

葉酸が足りなくなると、赤血球が大きく未熟なまま作られる「巨赤芽球性貧血(きょせきがきゅうせいひんけつ)」が起こります。これが葉酸欠乏性貧血です。ただし、葉酸を飲んで良くなるのは、葉酸不足が原因の貧血だけです。いちばん多い鉄欠乏性貧血は葉酸では治りませんし、見た目がそっくりなビタミンB12欠乏に葉酸だけを使うと、神経の障害が見逃されるおそれがあります。この記事では、葉酸不足で貧血になるしくみ、原因、症状、MCVなどの検査値、B12欠乏(悪性貧血)との違い、治療と回復の目安、そして妊娠中の注意点までを、臨床遺伝専門医が医学的根拠にもとづいて解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約14分
🩸 巨赤芽球性貧血・MCV・ビタミンB12
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 葉酸が不足すると、どんな貧血になりますか?

A. 赤血球が大きくなる「巨赤芽球性貧血(大球性貧血)」になります。葉酸はDNAの材料づくりに欠かせないため、不足すると赤血球のもとになる細胞がうまく分裂できず、大きく未熟な細胞が増えて、骨髄の中で壊れてしまいます。同じ型の貧血はビタミンB12不足でも起こるので、葉酸とB12を一緒に調べて原因を見分けることが大切です。

  • ➤しくみ → DNA合成の障害で、核だけが未熟な大きい赤芽球(巨赤芽球)ができる
  • ➤検査値 → MCV(赤血球の大きさ)が高く、血清葉酸が低い。メチルマロン酸はB12欠乏との区別に役立つ
  • ➤いちばん大切な注意 → B12欠乏を葉酸だけで治療しない(神経障害が進むおそれ)
  • ➤葉酸は貧血に効く? → 効くのは葉酸欠乏による貧血だけ。鉄欠乏性貧血には効かない

1. 葉酸と貧血の関係|葉酸不足で起こるのは「巨赤芽球性貧血」

葉酸が不足して起こる貧血は、巨赤芽球性貧血と呼ばれるタイプです。血液検査では赤血球が正常より大きく見えるため「大球性貧血」ともいいます。巨赤芽球性貧血は、葉酸だけでなくビタミンB12が不足したときにも起こります[1]。そのため、「大きい赤血球の貧血=葉酸不足」とすぐに決めつけず、どちらが足りないのかを確かめる必要があります。

葉酸は「造血のビタミン」

葉酸はビタミンB群のひとつで、ビタミンB12と協力して赤血球づくりを支えることから「造血のビタミン」とも呼ばれます。赤血球は骨髄で毎日大量に作られ、およそ4か月で入れ替わります。これだけ盛んに細胞分裂をくり返す組織は、分裂のたびに新しいDNAを必要とします。葉酸はそのDNAの材料づくりに欠かせない栄養素なので、不足の影響が最初にあらわれやすいのが血液なのです。

葉酸は体の中で、小さな炭素の単位(1炭素単位)を受け渡す役目を担っています。このしくみ全体は「1炭素代謝」と呼ばれ、DNAの材料づくりのほか、遺伝子の働きを調節するメチル化にも関わっています。

葉酸が足りないと赤血球が大きくなる理由

葉酸やビタミンB12が不足すると、DNAの材料であるチミジンが足りなくなり、細胞分裂が遅れます。一方で、RNAやタンパク質は作られ続けるため、細胞質(細胞の中身)は成熟するのに、核だけが未熟なまま取り残されます。この「核と細胞質の成熟のずれ」によって、大きく未熟な赤芽球、つまり巨赤芽球ができるのです[2][3]。

巨赤芽球の多くは、きちんとした赤血球になる前に骨髄の中で壊れてしまいます。これを無効造血といいます。骨髄では細胞が盛んに作られているのに、血液中に出てくる赤血球は少なくなり、貧血になります[2]。DNAを複製するしくみそのものについては、DNA複製の解説で詳しく紹介しています。

葉酸・B12が不足DNAの材料が足りない
▶
核の成熟が遅れる細胞質は成熟する
▶
巨赤芽球ができる骨髄の中で壊れる
▶
大球性の貧血白血球・血小板も減ることがある

この影響は赤血球だけにとどまりません。白血球や血小板のもとになる細胞も同じように分裂が妨げられるため、重くなると赤血球・白血球・血小板のすべてが減る「汎血球減少」になることがあります[1]。

💡 用語解説:巨赤芽球と無効造血

巨赤芽球は、核の成熟が遅れたまま大きく育ってしまった赤血球のもと(赤芽球)です。無効造血とは、骨髄で血液の細胞が作られているにもかかわらず、その多くが成熟する前に骨髄の中で壊れてしまい、血液中に十分に出てこない状態を指します。

2. 葉酸欠乏性貧血の原因

葉酸欠乏の原因は、「食事から足りない」「必要な量が増える」「吸収できない」「薬の影響」の4つに整理できます。葉酸の体内の貯蔵はおよそ5〜30mgと少なく、数年分がたくわえられるビタミンB12(3〜5mg)と比べて、ずっと早く底をつきます[2]。

どのくらいで不足するかは、もともとの貯蔵量によって大きく変わります。1962年に研究者が自らの体で行った実験では、葉酸をほとんど含まない食事を続けたところ、血清の葉酸は21日で低下し、126日で大球性の貧血があらわれました[4][5]。一方、2014年に報告された同様の自己実験では、貧血があらわれるまでに469日かかっています。葉酸を強化した食品が普及した時代で、実験前の貯蔵が多かったためと考えられています[5]。「数か月で欠乏しうるが、時間には大きな個人差がある」と理解しておくのが正確です。

食事からの不足(偏食・アルコール多飲)

野菜や果物をほとんど食べない偏った食事が続くと、葉酸は不足しやすくなります。慢性的な飲酒も大きな原因で、アルコールは腸での葉酸の吸収、肝臓での貯蔵、体内での利用のすべてを妨げます[6]。食事量そのものが少ない高齢の方や、極端な食事制限をしている方も注意が必要です。

必要量が増える場合(妊娠・授乳・溶血性貧血・透析)

食事量が変わらなくても、体が必要とする葉酸の量が増えれば、相対的に不足します。代表的なのが妊娠と授乳で、胎児や胎盤の細胞分裂が盛んになるため需要が増えます[6]。

赤血球が壊れやすく、骨髄が赤血球を作り続けなければならない慢性の溶血性貧血でも、葉酸の需要が高まります[6]。溶血性貧血には、サラセミアや遺伝性球状赤血球症のように生まれつきの原因によるものもあります。また、血液透析では葉酸が透析液へ失われます[6]。

吸収の障害と薬剤

小腸の病気で栄養の吸収が落ちている場合も、葉酸は不足します。見落とされやすいのが薬の影響です。関節リウマチなどに使われるメトトレキサート、抗てんかん薬のフェニトイン、炎症性腸疾患に使われるスルファサラジン、抗菌薬のトリメトプリム(ST合剤に含まれる)は、葉酸の働きを妨げたり分解を早めたりします[6]。また、フルオロウラシルやゲムシタビンなどの抗がん剤やアザチオプリンは、DNAの材料づくりそのものを妨げるため、葉酸が足りていても巨赤芽球性の変化を起こすことがあります[2]。

これらの薬は、必要があって処方されているものです。自己判断で中止せず、気になる場合は処方した医師に相談してください。

まれな遺伝性の原因

ごくまれに、生まれつき腸から葉酸を吸収できない病気があります。遺伝性葉酸吸収不全症(先天性葉酸吸収不全症)で、腸で葉酸を取り込む輸送体(PCFT)の設計図であるSLC46A1遺伝子の変化によって起こります。この遺伝子が原因と突き止められたのは2006年のことです[7]。

遺伝の形は常染色体潜性(劣性)遺伝で、両親から1つずつ変化を受け継いだときに発症します。多くは生後数か月以内に、哺乳不良、下痢、口内炎、貧血や汎血球減少、感染症にかかりやすい免疫不全、けいれんなどで気づかれます。非常にまれな疾患で、診断には血清・髄液葉酸の評価やSLC46A1の分子遺伝学的検査などが用いられます[8]。

⚠️ 遺伝性葉酸吸収不全症では、ふつうの葉酸(folic acid)は避ける

この病気では、高用量の5-ホルミルテトラヒドロ葉酸(folinic acid/ロイコボリン)またはその活性異性体を用いて、血液だけでなく髄液中の葉酸濃度も十分に保つことが重要です。筋肉内投与が推奨されますが、状況によっては経口投与も用いられます。専門的な診療指針のGeneReviewsは、一般的な葉酸(folic acid)は脳へ葉酸を運ぶ受容体に強く結合し、かえって脳への葉酸の輸送を妨げるおそれがあるため、「可能なら避ける」としています[8]。大人が食事の不足で起こす葉酸欠乏性貧血とは、治療の考え方がまったく異なります。

3. 葉酸欠乏性貧血の症状

葉酸欠乏性貧血の症状は、ほかの貧血とほぼ同じで、動悸、息切れ、疲れやすさ、全身のだるさ、顔色の悪さなどです。貧血はゆっくり進むことが多いため、体が慣れてしまい、かなり進むまで自覚しにくいこともあります。

貧血の症状

赤血球が減ると、体のすみずみへ酸素を運ぶ力が落ちます。そのため、階段や坂道での息切れ、少し動いただけでの動悸、疲れがとれない、集中できない、立ちくらみといった症状があらわれます。これらは貧血一般に共通する症状で、症状だけから葉酸不足かどうかを判断することはできません。

舌炎・食欲低下・下痢

口の中や消化管の粘膜も細胞の入れ替わりが盛んなため、葉酸が不足すると影響を受けます。舌が赤く平らになってヒリヒリ痛む舌炎、口内炎、食欲低下、下痢などがみられることがあります。

しびれ・ふらつきがあればビタミンB12欠乏を疑う

手足のしびれ、歩きにくさ、ふらつき、位置の感覚の鈍さ、物忘れなどの神経症状は、主にビタミンB12欠乏でみられるサインです。B12が不足すると、脊髄の神経が障害される亜急性連合性脊髄変性症などが起こることがあります。しかもB12欠乏では、貧血がなくても神経症状が先に出ることがあります[9]。「貧血は軽いから大丈夫」と考えず、神経の症状があるときは早めに受診してください。

4. 葉酸欠乏性貧血の検査値と診断

葉酸欠乏性貧血の診断では、まず血算でMCV(平均赤血球容積)が高い「大球性貧血」をとらえ、そのうえで血清葉酸とビタミンB12を一緒に測って原因を見分けます。英国血液学会(BSH)の診療ガイドラインは、葉酸とB12は代謝が密接に関わっているため同時に測定するよう推奨しています[10]。

血算:MCV高値・汎血球減少・過分葉好中球

MCVは赤血球1個あたりの平均の大きさを示す値で、巨赤芽球性貧血ではおおむね100fLを超えて高くなります[6]。顕微鏡で血液を見ると、核がいくつにも分かれた好中球(過分葉好中球)がみられ、6つ以上に分かれた好中球が1%を超えることは巨赤芽球性貧血に特徴的とされます[2]。重い場合は白血球や血小板も減ります。

血清葉酸・赤血球葉酸・ビタミンB12

血清葉酸が低ければ葉酸欠乏を示します。BSHのガイドラインは、多くの場合は血清葉酸だけで判断でき、赤血球葉酸の測定はふだんは必要ないとしています[10]。なお、低値と判定する基準は測定法によって異なるため、結果は検査を受けた医療機関の基準値で確認します。

妊娠中は血清ビタミンB12が生理的に下がるため、B12が本当に足りないのかを判断しにくくなる点に注意が必要です[10]。

ホモシステインとメチルマロン酸で葉酸とB12を区別する

葉酸欠乏とB12欠乏を見分ける手がかりになるのが、メチルマロン酸(MMA)です。メチルマロン酸はB12欠乏では上がりますが、葉酸欠乏では上がらず、B12欠乏にかなり特異的な指標とされています。一方、ホモシステインは葉酸欠乏でもB12欠乏でも上がり、腎機能の低下などでも高くなるため、それだけでは区別できません[9]。

LDH・間接ビリルビン・網赤血球

骨髄の中で巨赤芽球が壊れる(無効造血)ため、LDH(乳酸脱水素酵素)や間接ビリルビンが上がり、ハプトグロビンが下がります。ただし、血管の中で赤血球が壊れる病気とは違い、破砕赤血球はみられません[2]。赤血球は作られても骨髄から出てこないため、若い赤血球の数を示す網赤血球は増えません。

🩸 葉酸欠乏とビタミンB12欠乏の検査値の比較

検査項目 葉酸欠乏 ビタミンB12欠乏
MCV(赤血球の大きさ) 高値(おおむね100fL超) 高値(おおむね100fL超)
過分葉好中球 みられる みられる
LDH・間接ビリルビン 上昇 上昇
血清葉酸 低値 正常〜高値
血清ビタミンB12 正常 低値(妊娠中は判断しにくい)
ホモシステイン 上昇 上昇
メチルマロン酸(MMA) 正常 上昇

※Socha 2020[2]、Stabler 2013[9]、BSHガイドライン[10]、StatPearls[6]をもとに作成。基準値は測定法・医療機関によって異なります。ホモシステインやメチルマロン酸は、どの医療機関でも一般的に測れるとは限りません。

MCVが高くなる原因は、葉酸やB12の不足だけではありません。飲酒、肝臓の病気、甲状腺機能低下症、薬の影響、骨髄異形成症候群などの血液の病気でも大球性の変化が起こります[2]。葉酸やB12が正常なのにMCVが高い場合は、ほかの原因を調べる必要があります。

遺伝性の貧血や、妊娠中の不安を専門医に相談したい方へ

貧血の治療そのものは内科・血液内科で行います。ご家族に同じ貧血の方がいる、生まれつきの原因が気になる、妊娠を考えていて不安がある、といった遺伝に関わるご相談は臨床遺伝専門医がお受けします。

5. ビタミンB12欠乏・悪性貧血との違い

葉酸欠乏とビタミンB12欠乏は、血液検査の見た目ではほとんど区別できません。しかし、B12欠乏では葉酸欠乏と異なり、末梢神経障害や脊髄障害などの特徴的な神経症状を起こし得ます。治療が遅れると神経障害が残ることがあるため、両者を区別することが重要です。

悪性貧血とは

悪性貧血は、胃の壁細胞が自己免疫によって壊される自己免疫性胃炎のため、ビタミンB12の吸収に必要な「内因子」が作られなくなって起こる病気です[9]。食べ物からB12をとっていても吸収できないため、B12欠乏による巨赤芽球性貧血になります。葉酸が不足しても悪性貧血にはなりません。「悪性貧血=葉酸欠乏」という誤解はよくあるので注意してください。

B12欠乏の原因には、悪性貧血のほかに、胃の全摘出、萎縮性胃炎、動物性食品をとらない厳格な菜食などがあります。B12は体に数年分たくわえられているため、原因が生じてから貧血になるまで時間がかかるのも特徴です[2]。

ごくまれに、B12の吸収や運搬に関わる遺伝子の変化による生まれつきのB12欠乏もあります。代表的なのが、腸でB12を取り込む受容体の遺伝子(CUBNやAMN)が原因のイマースルンド・グレスベック症候群、先天性内因子欠損症、トランスコバラミンII欠損症です[1]。こうした遺伝性の原因は、コバラミン・ホモシステイン・メチオニン代謝異常症遺伝子検査で関連する遺伝子をまとめて調べることができます。

B12欠乏を葉酸だけで治療してはいけない理由

B12欠乏の人に葉酸だけを使うと、血液の数値は良くなっても、神経の障害は止まらず、進むおそれがあります。貧血が改善して見えるためにB12欠乏が見逃され、その間に神経の障害が進んでしまうのです。これが「悪性貧血に葉酸単独は禁忌」といわれる理由です[6][9]。

日本の葉酸製剤(フォリアミン)の添付文書にも、「悪性貧血の患者に投与すると、血液状態は改善するが、神経症状に効果がないので、ビタミンB12製剤と併用すること」と明記されています[11]。そのため、葉酸を補充する前には、B12が足りているかを必ず確認します[9]。

サプリメントで大量の葉酸を長く飲み続けることの注意点は、葉酸のとりすぎによる副作用の記事で詳しく解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「数値が良くなった」は、治ったとは限らない】

葉酸とビタミンB12は、どちらが足りなくても同じ形の貧血を起こします。ところが、B12欠乏では葉酸欠乏と異なり、末梢神経障害や脊髄障害などの神経症状を伴うことがあります。葉酸だけを補うと血液所見が改善しても、B12欠乏による神経障害は改善せず、診断が遅れるおそれがあります。

大球性貧血を認めた場合は、葉酸欠乏とB12欠乏の両方を評価し、必要に応じてMMAなども用いて原因を確認します。原因を確認しないまま葉酸だけを補充すると、B12欠乏の診断が遅れる可能性があるため注意が必要です。

6. 葉酸欠乏性貧血の治療と回復の目安

葉酸欠乏性貧血の治療は、ビタミンB12欠乏がないことを確かめたうえで葉酸を補い、同時に不足の原因に対処することが基本です。

葉酸の補充

医療機関では、葉酸を内服で補うのが一般的です。日本の葉酸製剤の添付文書では、成人は1日5〜20mgを2〜3回に分けて服用するとされています[11]。英国のBSHガイドラインは、食事の不足や妊娠による葉酸欠乏の貧血には1日5mgを4か月(妊娠中は出産まで)続ける方法を示しています[10]。

量や期間は、原因や体の状態に合わせて医師が決めます。ここに挙げた量は医療機関での治療の例で、自己判断で服用する目安ではありません。

良くなるまでの目安

葉酸の補充を始めると、若い赤血球(網赤血球)が3〜4日目ごろから増え始め、ヘモグロビンは1〜2週間で上がり始めます。貧血そのものは、おおむね4〜8週間で改善するとされています[6]。

反応が思わしくない場合は、隠れていた鉄欠乏がある、ほかにも貧血の原因がある、といった可能性を考えて調べ直します[10]。回復の早さには個人差があり、ここで示した期間はあくまで目安です。

原因への対処と再発予防

葉酸を補っても、原因がそのままでは再び不足します。偏食が原因なら食事の見直し、飲酒が原因なら節酒、薬が原因なら処方した医師と相談しながらの調整、というように、原因ごとの対策が欠かせません。葉酸を多く含む食品や、とり方の工夫は葉酸を多く含む食べ物の記事で紹介しています。

7. 葉酸は貧血に効く?鉄欠乏性貧血との違い

葉酸で良くなるのは、葉酸不足が原因の貧血だけです。「貧血には葉酸」というイメージがありますが、貧血には原因によってさまざまな種類があり、葉酸はそのうちの一部にしか効きません。

貧血で最も多いのは鉄欠乏性貧血

鉄欠乏性貧血は、世界的に最も一般的な貧血の原因の一つです。月経のある女性や妊婦さんに多くみられます。鉄欠乏性貧血では、ヘモグロビンの材料である鉄が足りないため、赤血球が小さく色の薄い「小球性貧血」になります。葉酸欠乏で赤血球が大きくなるのとは、ちょうど反対です。

鉄と葉酸、どちらが必要かは検査で決まる

鉄が足りない貧血に葉酸を飲んでも、貧血は治りません。逆に、葉酸が足りない貧血に鉄だけを飲んでも同じです。どちらが必要かは、MCV、フェリチン(体内の鉄の貯蔵を示す値)、血清葉酸、ビタミンB12などの検査で判断します。

なお、鉄と葉酸の両方が不足していることもあります。「なんとなく貧血っぽいから葉酸サプリ」と自己判断するより、まず血液検査で原因を確かめることが近道です。

8. 妊娠中の貧血と葉酸

妊娠中は葉酸の需要が増えるため、摂取不足や吸収障害などがあると葉酸欠乏が生じやすくなります。一方、妊娠中の貧血では鉄欠乏が重要な原因であり、鉄欠乏と葉酸欠乏が併存することもあります。

妊娠中に葉酸が不足しやすい理由

妊娠中は、赤ちゃんの成長や胎盤の形成のために細胞分裂がとても盛んになり、葉酸の需要が増えます[6]。つわりで食事がとりにくい時期が重なると、さらに不足しやすくなります。

鉄欠乏と重なるとMCVが正常に見えることがある

葉酸欠乏では赤血球が大きくなり、鉄欠乏では小さくなります。両方が同時に起こると、大きい赤血球と小さい赤血球が混ざり、平均値であるMCVが正常範囲におさまってしまうことがあります。このとき、赤血球の大きさのばらつきを示すRDWは高くなります[12]。

つまり、MCVが正常だからといって、葉酸不足がないとは言い切れません。また、妊娠中は血清ビタミンB12も生理的に下がるため、数値の読み方には注意が必要です[10]。気になる症状があるときは、妊婦健診で相談してください。

妊娠前からの葉酸摂取は胎児のため

妊娠を考えている時期からの葉酸摂取がすすめられるのは、主に赤ちゃんの二分脊椎などの神経管閉鎖障害のリスクを下げるためです。いつから、どのくらいとればよいかは、葉酸サプリはいつからいつまで?で詳しく解説しています。葉酸で予防が期待できることと、できないことについては、葉酸でダウン症や二分脊椎は防げる?もあわせてご覧ください。

9. 受診の目安

次のような場合は、内科や血液内科、妊娠中であればかかりつけの産婦人科に相談しましょう。

🏥 受診を考えたいサイン

こんなとき 考えられること
動悸・息切れ・だるさが続く 貧血が進んでいる可能性があります
健診でMCV高値・貧血を指摘された 葉酸・B12の不足や、ほかの原因を調べる必要があります
手足のしびれ・ふらつき・物忘れがある ビタミンB12欠乏の可能性があり、早めの受診が必要です
メトトレキサートなどを服用中 薬の影響による葉酸不足の可能性があります(自己判断で中止しない)
妊娠中・授乳中 必要量が増え、鉄欠乏と重なることもあります
家族に同じ貧血の人がいる まれに生まれつきの原因が関わることがあります

ご家族に同じような貧血の方がいる場合や、生まれつきの原因が疑われる場合には、遺伝学的評価が検討されることがあります。遺伝カウンセリングでは、検査を受けるかどうかも含めて、ご本人とご家族が納得して選べるよう情報を整理します。

生まれつきの原因が気になる方へ

遺伝性葉酸吸収不全症やB12の吸収に関わる病気など、遺伝が関わる貧血についてのご相談は、臨床遺伝専門医がお受けします。オンラインでのご相談も可能です。

10. よくある誤解

葉酸と貧血については、誤解されやすい点がいくつかあります。代表的なものを整理します。

❌ 葉酸サプリを飲めば、貧血はすべて防げる

⭕ 葉酸で防げるのは葉酸不足による貧血だけです。いちばん多い鉄欠乏性貧血や、B12欠乏による貧血は葉酸では防げません。

❌ 葉酸が不足すると悪性貧血になる

⭕ 悪性貧血は、自己免疫性胃炎でビタミンB12を吸収できなくなる病気です。葉酸不足で起こるのは「葉酸欠乏性貧血」で、別の病気です[9]。

❌ 貧血が改善すれば、B12の心配はない

⭕ B12欠乏に葉酸だけを使うと、血液の数値が良くなっても神経の障害は進むおそれがあります。原因の確認が先です[9]。

❌ MTHFR遺伝子の検査で、葉酸不足や貧血がわかる

⭕ 米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は、MTHFR多型の検査に臨床的な有用性を示す根拠は乏しいとし、一般には勧めていません[13][14]。葉酸が足りているかは血液検査で確かめます。

MTHFRはよく話題になる遺伝子ですが、C677Tなどの多型は多くの人が持っているありふれた違いで、それだけで病気や貧血が決まるわけではありません。詳しくはMTHFR遺伝子の解説をご覧ください。

11. よくある質問(FAQ)

Q1. 葉酸は貧血に効きますか?

葉酸不足が原因の貧血(葉酸欠乏性貧血)には効きます。しかし、いちばん多い鉄欠乏性貧血や、ビタミンB12欠乏による貧血には効きません。どのタイプの貧血かは血液検査で確かめる必要があります。

Q2. 葉酸が不足すると、何という貧血になりますか?

巨赤芽球性貧血になります。赤血球が大きくなるため、大球性貧血とも呼ばれます。同じ型の貧血はビタミンB12不足でも起こるため、葉酸とB12を一緒に調べて原因を見分けます。

Q3. 葉酸欠乏性貧血の検査値はどうなりますか?

MCV(赤血球の大きさ)がおおむね100fLを超えて高くなり、血清葉酸が低くなります。LDHや間接ビリルビンが上がり、過分葉好中球がみられることもあります。メチルマロン酸が正常であることは、B12欠乏ではなく葉酸欠乏を考える手がかりになります。

Q4. 貧血には鉄と葉酸、どちらを飲めばよいですか?

どちらが足りないかによって異なるため、自己判断ではなく血液検査で決めます。鉄欠乏性貧血には鉄、葉酸欠乏性貧血には葉酸が必要で、両方が不足していることもあります。

Q5. 治療にはどのくらいの期間がかかりますか?

葉酸を補うと、網赤血球は数日で増え始め、貧血はおおむね4〜8週間で改善するとされます。英国のガイドラインでは、葉酸の補充を4か月続ける方法が示されています。期間は原因や体の状態によって医師が判断します。

Q6. ビタミンB12欠乏のとき、葉酸だけを飲んではいけないのはなぜですか?

葉酸だけでも血液の数値は改善することがありますが、B12欠乏による神経の障害には効かず、進むおそれがあるためです。貧血が良くなって見えることでB12欠乏が見逃されてしまう点も問題です。葉酸を補う前にB12が足りているかを確認します。

12. まとめ

葉酸が不足すると、DNAの材料が足りなくなって赤血球のもとになる細胞がうまく分裂できず、大きく未熟な巨赤芽球が増える巨赤芽球性貧血が起こります。原因は、偏食や飲酒による不足、妊娠・授乳や溶血性貧血による需要の増加、吸収の障害、薬の影響などで、ごくまれに生まれつきの原因もあります。

検査ではMCVの上昇と血清葉酸の低下が手がかりになり、ビタミンB12欠乏との区別にはメチルマロン酸が役立ちます。B12欠乏を葉酸だけで治療しないこと、そして葉酸が効くのは葉酸不足による貧血だけであることが、この記事でいちばんお伝えしたいポイントです。

貧血が気になるときは、サプリメントで様子を見る前に血液検査で原因を確かめましょう。しびれやふらつきがある場合は、早めの受診をおすすめします。

遺伝が関わる貧血や、妊娠前後の不安は臨床遺伝専門医へ

ミネルバクリニックでは、遺伝性疾患や家族歴に関する遺伝カウンセリングを臨床遺伝専門医が行っています。検査の適応や選択肢について相談できます。

参考文献

  1. 小児慢性特定疾病情報センター. 巨赤芽球性貧血 概要. [小児慢性特定疾病情報センター]
  2. Socha DS, DeSouza SI, Flagg A, Sekeres M, Rogers HJ. Severe megaloblastic anemia: Vitamin deficiency and other causes. Cleve Clin J Med. 2020;87(3):153-164. doi:10.3949/ccjm.87a.19072. [Cleveland Clinic Journal of Medicine]
  3. Green R, Datta Mitra A. Megaloblastic Anemias: Nutritional and Other Causes. Med Clin North Am. 2017;101(2):297-317. [PubMed 28189172]
  4. Herbert V. Experimental nutritional folate deficiency in man. Trans Assoc Am Physicians. 1962;75:307-320. [PubMed 13953904]
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プロフィール

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。
2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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