目次
ダウン症とわかり中絶しました。
後悔の理由と専門医の視点
ミネルバクリニックには、日々多くの妊婦さんが相談にやってきます。
院長自身、臨床遺伝専門医として、出産・育児の経験がある女性として患者さんの話を聞いてきました。
本当はNIPT(新型出生前診断)を受けた方が幸福になってほしいのですが、現実は甘くありません。検査を受けて出した結論に後悔をしている方も大勢いるのが現実です。悲しみの中にいる患者さんを見ているのは正直つらいのですが、医師としてできる限りのサポートをしてきたつもりです。
今回は、ミネルバクリニックに来院された患者さんの中でダウン症(21トリソミー)の判定を受け、後悔する決断をした患者さんの体験談をご紹介します。
この事を知って正しい情報を知ろうというきっかけになれば幸いです。
検査の流れ・位置づけを先に整理したい方:
NIPTトップページ
⚠️ すぐに受診を検討してほしいサイン
眠れない・食べられない・過呼吸・涙が止まらない・日常が回らないが続く、または自分を傷つけたくなる考えが出てくる場合は、早めに医療へ相談してください。
今は「気持ちの整理」より「体を守ること」が最優先です。
Q. 中絶後の後悔や罪悪感が消えません。異常ですか?
A. 異常ではありません。
喪失体験と時間制約のある意思決定が重なると、後悔や罪悪感が強く出ることがあります。まずは眠る・食べる・呼吸を整えることが先です。
Q. 超音波で形態異常があり、NIPTも陽性。確定検査は必ず必要ですか?(ACOGの考え方)
A. ACOGは遺伝カウンセリングと確定検査(羊水・絨毛)を「選択肢として提案(offer)」する立場です。
一方で、受けるかどうかは妊婦さんご本人の選択で、強制ではありません。
Aさん(東京都三鷹市在住・34歳)の場合

NIPT(新型出生前診断)を受けようと思ったのは、妊婦健診で産婦人科の先生から「子どもに染色体異常があると厚くなるといわれている『NT』と呼ばれている部分が通常より厚い」と言われたからです。確か妊娠3ヶ月(11週)くらいだったと思います。
聞いた瞬間、頭が真っ白になってしまい「どうしよう」と思っていると「『はっきりしたことが知りたければ羊水中の胎児細胞を調べる羊水検査か新型出生前診断(NIPT)を受けるといい』と言われました。あとは、料金の話だけです。
あまりにも事務的な対応だったから「検査機関を紹介する」と言われても断ってしまい、自分で調べることにしました。そこでミネルバクリニックを見つけたのです。先生が女性だったから話を聞いてもらえると思い、予約をしてクリニックへと向かいました。
そうしたらすごく色々な話を聞いてくれて、私の気持ちを察してくれたのがとても助かりました。その時に、ダウン症になっている確率やNIPTは確定検査ではないという説明も受けて、NIPTを受けようと決めました。
結果は陽性だったので、絨毛検査ができる病院でも調べてもらっても同じです。
最初は、夫と「ダウン症だったら中絶しよう」と話していたのですが、結果が確定したら気持ちが揺らいでしまったのです。中絶という現実をいよいよ喉元に突きつけられ、抵抗感が生まれたのでしょう。それと、どうやって日一日と大きくなっていく、この赤ちゃんと別れられるのかわからないのに中絶を求められるのもイヤでした。夫は「絶対に育てられない」「中絶しないなら離婚しよう」とまで言ってきて毎日口論が絶えなくなったのです。
私は、どうしたらいいのかわからない状態で2つの選択肢を突きつけられたのです。
- 1つは、夫の言うとおり中絶をする。
- もう1つは、離婚して一人で子どもを育てる。
このどちらかでした。私は最終的に夫の言うとおり中絶を選んだのです。決めるとなったら早く中絶をしたいと思い、病院に予約を入れました。決めたのは妊娠20週に近づくと胎動を感じると聞いたからです。赤ちゃんが生きている実感があるのに堕胎するなんてできません。
そうしてすぐに病院に予約を入れて、入院までの僅かなひとときを三人でいた証を残そうとマタニティフォトを撮影しました。撮り終わった後、二人で泣きじゃくってしまい、どうしようもできなかった。
そして中絶の手術を受けて、子どもは荼毘に付せられ、一緒に火葬場へと行きました。
それから子どもがもういないつらさ、そして、自分が決断してそうしたのだという罪悪の念が襲ってきました。心理カウンセリングに行きたいと思ったんですが、どこに行ったらいいのかわからないんです。
でも、朝から晩までつらくて…… 夜、ひとりで家にいると過呼吸の発作が起きてくるので、家中の窓を開け放って冷気の中で必死に息をしていました。夜も一晩中、寝ているのか寝ていないのかわからないような状態が続いて朝を迎える日々です。
食事も食べようとすると「子どもはもう何を食べられないし、それは自分のせいだと思うと自分だけが食べるなんて許されない」ような気になり、満足に食べることもできませんでした。
周りの人たちは優しくしてくれたけど、それも苦しかった。だから同じ境遇の人に会いたかった。同じ境遇の人に自分の話を聞いてもらいたいと思って藁をも掴む思いでとある集まりに行って、ようやく自分の気持ちを伝えられたのです。
今でも子どもを中絶したことを責めてしまうことがあります。夫は「気にするな」と慰めてくれますけど、やっぱり無理です。「NIPT(新型出生前診断)を受けなければ……」なんて思ったりもします。
この体験談のポイント(流し読み用)
・NT指摘で強いパニックが起こることは珍しくない
・NIPTは確定検査ではない(次の選択肢がある)
・中絶後に不眠・過呼吸などが続く場合は、まず体を守る支援が必要
AさんのようにNTを指摘されて一気に不安が強くなる方は多いです。ですが、NT肥厚=ダウン症確定ではありません。
大切なのは「確率」「確定検査(羊水・絨毛)」「相談先」をその場で整理し、一人で抱え込まない導線を確保しておくことです。
医学的補足(ACOGの考え方:形態異常+NIPT陽性と確定検査)
NIPT(cfDNA)は確定検査ではありません。
ACOGは、NIPTで陽性となった場合や、超音波で形態異常が疑われる場合には、遺伝カウンセリングと確定検査(絨毛検査/羊水検査)を「選択肢として提案(offer)」する立場です。
一方で、確定検査を受けるかどうかは強制ではなく、妊婦さんご本人の選択です。重要なのは、確定検査を含む選択肢を提示し、その意味と限界を説明したうえで、最終判断を支えることです。
Bさん(千葉県千葉市在住・32歳)の場合

きちんと調べれば良かった。今でも後悔しているんです。
私は30歳で結婚をしてすぐに妊娠をしました。新婚生活なんて気分は吹っ飛んでしまい、バタバタしながら妊婦健診を受けていたらクアトロテスト(母体血清マーカー検査)を産婦人科の先生に勧められて受けたのです。
そうしたら「ダウン症候群の確率が35%」という結果だったのでNIPT(新型出生前診断)を受けることにしました。通っていた医院ではNIPTをやっていなかったので、ネットで検索したミネルバクリニックで遺伝カウンセリングを受けてきました。説明もわかりやすくてNIPTでも子どもがダウン症だと確定したわけではないと聞いた上で検査を受けたら陽性の判定が出たのです。
事前に聞いてはいたけど、ショックで頭の中が真っ白になってしまい、なぜか「ダウン症の子どもを育てる自信がないから中絶するしかない」と思い込むようになりました。ミネルバクリニックの仲田先生は「羊水検査を受けてみましょう」と言ってくれたのですが、言うことを聞かずに中期中絶手術を選んでしまったのです。
旦那にも納得してもらって入院をして手術を受けた後、なぜか涙が止まりませんでした。やっぱりどこかで罪の意識があったのかもしれません。数日は塞ぎ込んだままでしたけど、何とか体を動かせるくらいにまで回復しました。
それから数日過ぎたある日、近所にダウン症の子どもがいる家族が引っ越してきました。
その家は外から見たら大変そうにはとても見えなくて、みんな笑顔で過ごしていたのです。買い物に行くのも笑顔だし、ダウン症のお子さんも一人で出かけて遊んでいました。
気になって改めて調べてみるとダウン症の人を受け入れる環境は昔よりも整っていて、地域によっては普通学級に通えるところもあると知りました。平均寿命も伸びてきて、60歳を超えても元気で暮らしている人もいるそうです。「ダウン症の子どもを持ったら大変だ」そんな思い込みだけで中絶を選んでしまった自分を責めてしまいました。自分の判断が間違えていたかもしれないと思うといたたまれない気持ちになり、誰かに話を聞いてもらいたくなり、ミネルバクリニックに行きました。
仲田先生は私の話を受け止めた上で「NIPT(新型出生前診断)を受けるからには、ちゃんと理解して。陽性の場合には厳しい選択を迫られるというのは、そういう事があるからだったの」を話してくれました。
幸いにして2年後に二人目の子どもが無事出産できて家族で暮らしてますが、正しい情報を知らずに安易に受けてしまったことを今でも後悔しています。
この体験談のポイント(流し読み用)
・陽性直後に「中絶しかない」と視野が狭くなることがある
・NIPTは確定検査ではない(確定検査という選択肢がある)
・後から情報を知って強い後悔が出ることもある
Bさんのように、強いストレス下では思考が急に狭くなることがあります。大切なのは、確定検査を含む選択肢を提示し、意味と限界を理解したうえで判断できる状態をつくることです。
迷いが強いときほど、遺伝カウンセリングで「次の一手」を整理することが支えになります。
一人で抱え込まないでください
「後悔している」「誰にも言えない」——その気持ちがあるまま、ネットだけで答えを探すのは本当に苦しいことです。
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が検査前も検査後も、あなたの気持ちを受け止めながら、医学的に選択肢を整理します。
Cさん(埼玉県川口市在住・40歳)の場合

私には今、双子の女の子がいます。そのうち1人はダウン症です。
実はその前にNIPT(新型出生前診断)でダウン症の陽性と判定されて中絶をした過去があります。結婚したのは7年前で、お互いに子どもが欲しかったので避妊しないでいたらすぐに妊娠しました。その時に近所のクリニックで「「NT(後頚部浮腫)と呼ばれる首の後ろのむくみが厚く、年齢と掛け合わせた表で見ると、染色体異常のある可能性が8分の1ある」 と、検査を受けた方がいいと言われました。
まだ9週だったのでNIPTを受けてみることにしました。ミネルバクリニックに予約を入れて、遺伝カウンセリングを受けてから検査になりました。検査自体は採血するだけであっさりと終わったのですが、結果は陽性。ダウン症の確率が高いと言われたのです。
そこで仲田先生に「NIPTは非確定検査だからまだ決まったわけではない」と説明をされ、羊水検査も受けてみることに。そこでも陽性が出てしまい、夫と相談をした上で泣く泣く子どもを諦めました。
それから二度、妊娠したけどどちらも流産してしまい、私は「ダウン症だから中期中絶をした自分のせいだ」と思うようになりました。夫は慰めてくれたけど、その時の私は中絶をした自分を責めてしまい、後悔の気持ちしかありませんでした。
二度目の中絶から2年後、再び妊娠をしました。もうダメかと思っていたので喜びはひとしおです。でも気になったのは子どもが先天性疾患を持っていないかどうかです。最初の子を妊娠したときにNIPTを受けて中絶した苦い過去があるので、今度は受けないと思っていました。
もしダウン症の子どもだったとしても、今度は産んで育てると二人で決めていたからです。そのために色々と調べてみるとダウン症の子どもが生まれたら準備しなくてはいけないことがたくさんあるのを知りました。昔よりも社会福祉が充実していて、色々と相談できたり申し込みができるようになっていたのです。
そこでもう一度NIPTを受けようと思いました。今回はダウン症だから中期中絶という選択ではなく、産むことが前提です。もしダウン症だったら生まれてきて保育園や学校へ行くための相談や、社会保障を受けるための準備をしたいからです。場合によっては引っ越しも視野に入れていました。
結果は一人が陽性でした。羊水検査は受けていません。だって、ダウン症でも産むつもりでしたし、受けたのは生まれてくるまでに準備が必要だったからです。一度後悔したからこそできた覚悟だったと思います。
この体験談のポイント(流し読み用)
・検査は「中絶のためだけ」ではなく「準備のため」にも使われる
・一度の経験が次の妊娠に影を落とすことがある
・支援につながることで、心の負担が軽くなることがある
Cさんの体験談が示すのは、検査は「決めるため」だけでなく「備えるため」にも使えるということです。
その前提を守りながら、結果の意味を医学的に整理し、必要な支援につなげることが大切です。
まとめ
今回は、NIPTを受けてダウン症(21トリソミー)で陽性の判定を受けてしまった妊婦さんの経験談を紹介してきました。どの方も皆さんつらい決断をされてきています。日本産婦人科学会やマスコミは「命の選択につながる」と安易に批判的な論調を向けますが、誰も簡単に決断したのではないというのを知ってください。
これからもNIPTを希望される妊婦さんが出てくるでしょう。その時につらい結果が出てもサポートできる体制を作るためにも、正しい情報を患者さんに提供するのが医療の役割です。

