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NIPT陽性、羊水検査陰性、NIPTの偽陽性はなぜ起こる?

NIPT(新型出生前診断)陽性結果と羊水検査陰性結果の間に生じる矛盾について、偽陽性の原因が何であるかを理解することは極めて重要です。この記事では、NIPTの偽陽性が発生する理由とその背後にある科学的なメカニズムに焦点を当て、なぜNIPTと羊水検査の結果に食い違いが生じることがあるのかについて詳しく説明します。

NIPT検査の基本

NIPT(新型出生前診断)の概要

NIPTは非侵襲的な出生前検査で、母体の血液から胎児の染色体異常や遺伝的な疾患のリスクを評価します。この検査はDNA解析を使用し、非常に高い精度で情報を提供します。

NIPTの受診時期と重要性

NIPTは通常、妊娠10週目以降から受けられますが、適切なタイミングが重要です。早すぎる受診では偽陽性や偽陰性のリスクが高まります。適切な時期に受診することで、妊娠中のリスクをより正確に評価できます。

最近では、胎児DNA率が低めでも正確な検査結果を出せる検査会社もありますが、NIPTを受けるのが早すぎると起こる問題点については、別の記事をご覧ください。

参考記事:NIPTの早すぎる検査タイミング起こる問題点とは

NIPT検査の種類

NIPTにはさまざまな提供業者があり、それぞれ独自の検査パネルを提供しています。主な用途はダウン症やトリソミー21、トリソミー18、トリソミー13のスクリーニングですが、他にも多くの遺伝的な疾患を検出できるオプションもあります。患者は自身のニーズと医師のアドバイスに基づいて検査を選択します。

NIPT検査の精度

NIPTの正確性と精度について

NIPTはその高い正確性で知られています。一般的に、主要な染色体異常や遺伝的な疾患に関する情報を非侵襲的に提供します。その精度は99.9%以上で、偽陽性と偽陰性のリスクが非常に低いです。

NIPTの陽性、陰性、偽陽性、偽陰性の違い

  • 陽性結果:NIPTが特定の染色体異常や遺伝的な疾患の存在を示す場合、陽性とされます。これは患者にリスクの高さを示すものです。
  • 陰性結果:NIPTが特定の染色体異常や遺伝的な疾患の存在を示さない場合、陰性とされます。これは患者にリスクの低さを示すものです。
  • 偽陽性:NIPTが陽性結果を示すが、実際には染色体異常や遺伝的な疾患が存在しない場合、偽陽性とされます。
  • 偽陰性:NIPTが陰性結果を示すが、実際には染色体異常や遺伝的な疾患が存在する場合、偽陰性とされます。

NIPTの利点と限界

NIPTの利点は以下の通りです。

  • 非侵襲的な検査で、母体や胎児へのリスクが少ない。
  • 高い精度で染色体異常や遺伝的な疾患のスクリーニングが可能。
  • 早期にリスクを評価でき、妊娠中の親に精神的な安心感を提供。

一方、限界も存在します。

  • 陽性結果が確定診断ではないため、追加の検査(例:羊水検査)が必要。
  • すべての遺伝的な疾患をスクリーニングできない。
  • 偽陽性や偽陰性のリスクがゼロではない。

偽陽性結果とは

偽陽性結果は、NIPTが陽性結果を示すが、実際には染色体異常や遺伝的な疾患が存在しない場合に発生します。これはNIPTの検出方法が確定診断ではないため、確認のための追加の検査が必要となります。偽陽性結果の主な原因は次の通りです。

母体のDNA混合
NIPTは母体の血液中に胎児のDNAを検出しますが、時には母体自身のDNA断片が胎児断片と混ざり、誤った結果をもたらすことがあります。
母親のモザイク
セルフリー胎児DNA検査法(NIPT)は母親の核型が正常であることを前提としているのですが、必ずしもそうとは限りません。例えば、年齢が高くなるにつれて、X染色体を失った体細胞を持つ妊娠者の割合が増加し、性染色体異数性を報告する検査施設では、これらが偽陽性のNIPT結果をもたらすことがあります。このような表現型的に正常な女性では、NIPT検査でX染色体のシグナルが低い場合、胎児に起因すると判定され、胎児性ターナー症候群として報告されるでしょう。フォローアップの羊水検査により、倍数体(正常核型)胎児とわかり、偽陽性だったのだなということになります。これまで同定されていなかった母体のターナー症候群モザイクは、末梢血リンパ球の核型分析によって診断することができます

低胎児DNA率(胎児分画)
妊娠初期では、胎児のDNAが母体のDNAに比べて割合が低いことがあり、これが偽陽性の原因となることがあります。
胎盤モザイク
胎盤モザイク(Placental Mosaicism)は、妊娠中の胎盤において、異なる染色体組成を持つ細胞が混在する状態を指します。通常、正確な染色体数を持つ細胞が胎盤全体で均等に存在しますが、胎盤モザイクでは一部の細胞が異なる染色体数を持つことがあります。この状態は、胎盤は染色体異常があるけれど、胎児の染色体状態とは異なることがあるということです。
母体血液循環中のセルフリー胎児DNAの主な供給源は胎盤細胞、つまり合胞体栄養膜細胞です。これは、胎児の栄養膜(trophoblast)のうち、母体血と接触する外側の細胞層で胎盤の絨毛を子宮内膜につなぎとめている部分です。このため、NIPT検査は胎盤に関連した結果なのですが、胎盤と胎児組織が不一致である可能性があります。このような場合、NIPT検査結果は分析的には正しいが、臨床的には正しくないということになります。絨毛膜絨毛サンプリング(絨毛検査)から得られた経験によると、胎盤モザイクは妊娠の1~2%で起こる可能性があり、21トリソミーや18トリソミーよりも、モノソミーX(ターナー症候群)や13トリソミーで起こりやすくなっています。このことが、モノソミーXと13トリソミーの陽性的中率が21トリソミーや18トリソミーよりも低いことにつながっています。胎盤モザイクが多いため、モノソミーXと13トリソミーの場合には、絨毛検査よりも羊水検査の方が確定検査としては望ましいものになります。
亡くなった双子(バニシングツイン)
バニシングツイン(Vanishing Twin)は、双胎妊娠の一つで、最初に双子として確認された妊娠がその後、胎児の一方が自然に消失する現象を指します。通常、妊娠初期の超音波検査で複数の胎児が確認された後、後の検査で一方の胎児の存在が見当たらなくなることがあります。この現象はバニシングツインとして知られており、胎児の吸収や吸収されないで胎児が死亡することなどが考えられています。しかし、最初の超音波検査の前にすでにバニシングツインになっている場合もあります。亡くなった胎児にトリソミーやモノソミーがあった場合、NIPTの偽陽性の原因となることがあります。ある研究によると、双生児妊娠を示したのは0.42%の症例で認められ、臨床的確認がなされた42.1%がバニシングツイン、48.7%が生存双生児でした。胎児死亡の日付の確認できているバニシングツインのうち、死亡の100%は妊娠第1期に発生していました。死亡した胎児DNAは8週間確認されました。これは、死亡した双子の胎盤(これも異数体である可能性が高い)が検査時にまだ存在し、死亡後数週間経ってもDNAを排出し続けるからです。妊娠超初期に死亡した場合、単胎妊娠ではなく双胎妊娠であることが認識されなかった可能性があり、そのため “vanishing twin “と呼ばれています。妊娠初期の胎児死亡が認められた症例では、死亡した胎児からのセルフリーDNAが死亡後8~13週にわたって検出されており、妊娠中期胎児死亡では16週にわたって検出されています
母体の非モザイク性染色体異常
まれではありますが、母体の非モザイク性染色体異常(例えば、47,XXX、いわゆるトリプルX)を有し、正常な表現型を有するように見える患者もいます。この場合は、母親のX染色体が1本余分にあるので、NIPTの結果に利教を与え、トリプルXの偽陽性結果につながります。
母体の腫瘍性疾患
悪性腫瘍を有する妊婦は、測定可能な量の細胞を含まない腫瘍DNAを循環中に排出することがあります。このような患者では、セルフリー胎児DNA、セルフリー母体DNA、セルフリー腫瘍DNAが総セルフリーDNAに関係します。このような場合には、異常な異数性(例えば、モノソミーとトリソミーの同時発生)や複数の染色体上の染色体増多や染色体欠損が生じることがあります。このため、NIPTにおいてもこうした染色体の増加や欠損が陽性結果として認められることがあります。これは、母体側の問題なので、胎児には異常はありません。したがって、NIPT陽性、羊水検査陰性という偽陽性結果になります。生殖年齢の女性に最も多い悪性腫瘍は、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん、大腸がん、白血病、ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫、甲状腺がん、および黒色腫となっています。
母親のコピー数変異
セルフリーDNA解析の方法論は、全ての人がある染色体上に同じ割合の遺伝物質を持つことを前提としているが、染色体は、遺伝性またはde novo(親にはないが生殖細胞ができるときの突然変異)のコピー数変異(ゲノム領域の欠失や重複)により、個人間でわずかに異なります。このような個体では、セルフリーDNAシークエンシングにより、母方の重複のサイズが比較的大きく、それが目的の染色体(例えば21番)上に生じた場合に、陽性結果が得られる可能性があります。研究では、調査した7例中6例において、18番染色体上の母親の重複が18トリソミー偽陽性の原因であった可能性が高いと報告されています。浅い塩基配列決定(例えば、塩基配列を決定する断片の数が少なく、参照する染色体の数が限定されている)では、このような形態の偽陽性の可能性が高くなります。ショットガン法では、全ての常染色体を用いて対象染色体からのカウントを正規化すれば、1つの染色体上のコピー数変異の影響を受けにくくなります。
移植レシピエント
移植された組織(骨髄または臓器)が男性ドナーから得られたものである場合、cfDNA検査では、ドナー臓器から母体循環中に男性cfDNAが放出されるため、女性胎児が男性であると誤って同定される可能性があります。
最近の輸血
cfDNAのための採血の4週間前までに行われた男性ドナーからの母体輸血により、女性胎児が男性であると誤って判定される可能性があります。
技術の限界
NIPTは高度な技術を使用しており、その正確性は非常に高いですが、100%確実ではないため、技術の限界が偽陽性結果を生むことがあります。

偽陽性は、統計的な偶然の結果である可能性もあります。従って、1,000人中1~2人の倍数体胎児が偶然に偽陽性を持つ可能性があり、仮に10万人の検査が行われた場合、推定100人の偽陽性が予想される。

NIPTの特定の疾患での偽陽性率

NIPTの偽陽性率は一般的に非常に低いですが、特定の染色体異常や疾患によって異なります。例えば、ダウン症候群(21トリソミー)における偽陽性率は通常1%未満です。しかし、他の染色体異常や遺伝的な疾患に関しては、偽陽性率が異なることがあります。偽陽性率は検査の精度や技術の向上に伴い徐々に低下しています。確定診断のためには、偽陽性結果の可能性に備えて追加の検査が行われます。

偽陽性結果の理解

NIPTの偽陽性結果は、陽性と判定されたにもかかわらず、実際には胎児に問題がない場合を指します。このような偽陽性結果は、NIPT検査が確率に基づいて異常の可能性を評価するために起こり得ます。つまり、NIPTは高感度を持つ一方、偽陽性率が低いことが期待されていますが、完璧ではないため、誤った陽性結果が出る可能性がゼロではありません。

偽陽性結果が発生すると、患者とその医師に多くの影響を及ぼす可能性があります。まず、不安と心配を引き起こし、患者や家族に精神的ストレスをもたらすことがあります。さらに、追加の検査や検査のリピートが必要になり、これによって費用がかかったり、不必要な不安やストレスが増大したりする可能性があります。

偽陽性結果の理解と対処は非常に重要です。医師との適切なコミュニケーションが必要であり、追加の検査や専門家の意見を受けることが適切かもしれません。また、NIPTの結果は確定診断ではなく、慎重に考慮されるべきです。

医師や専門家の役割

NIPT(新型出生前診断)において、医師や専門家は重要な役割を果たします。

医師や専門家の役割

  • NIPT検査の提供と説明:医師は患者にNIPT検査の提供とそのプロセスについて詳しく説明します。患者が検査の利点と制約を理解できるようにします。
  • 検査の受診時期の選択:医師は患者の妊娠週数やリスク要因に基づいてNIPTの最適な受診時期を決定するのに役立ちます。
  • 検査結果の解釈:NIPTの結果を適切に解釈し、患者に説明します。偽陽性や偽陰性の可能性についても説明し、適切なアドバイスを提供します。
  • 陽性結果への対処:陽性結果が出た場合、医師は患者に対して確定診断のための追加の検査オプションを提供し、次のステップについての情報を提供します。

偽陽性結果のリスク軽減策

  • 検査結果の解釈:NIPTの結果を適切に解釈し、患者に説明します。偽陽性や偽陰性の可能性についても説明し、適切なアドバイスを提供します。
  • 慎重な選択肢の提供:医師は患者に対して、NIPT結果に基づいて次のステップを選択する際の慎重な選択肢を提供します。これには追加の検査やカウンセリングが含まれます。
  • 検査結果の解釈:NIPTの結果を適切に解釈し、患者に説明します。偽陽性や偽陰性の可能性についても説明し、適切なアドバイスを提供します。
  • 確認テストの提案:偽陽性結果のリスクを軽減するため、医師は確定診断を行うための検査(例:羊水検査または絨毛膜検査)を提案することがあります。
  • 検査結果の解釈:NIPTの結果を適切に解釈し、患者に説明します。偽陽性や偽陰性の可能性についても説明し、適切なアドバイスを提供します。
  • カウンセリング:患者に対して、NIPT結果に関連する感情的なサポートやカウンセリングの提供を行います。

患者の選択肢と注意点

患者はNIPT結果を受けて、確定診断のための追加の検査を受けるかどうかを決定する際に慎重に検討する必要があります。
医師とのコミュニケーションが鍵となり、患者は結果とその意味について質問をすることが推奨されます。
NIPTの結果は参考情報であり、確定診断を提供するものではないことを理解することが重要です。
医師や専門家のサポートを受けつつ、患者は自身の状況に応じて適切な選択を行うことが大切です。

NIPT検査の将来展望

NIPT(新型出生前診断)の偽陽性に関する問題は、遺伝子検査技術の進歩と研究の発展により、将来的に軽減される可能性があります。以下はNIPTの偽陽性に関する将来の展望についての考察です。

技術の改善
NIPTの技術は進化し続けており、より高精度で信頼性のある検査が開発されています。これにより、偽陽性のリスクが低減する可能性があります。たとえば、13トリソミーの偽陽性率は50%程度ありましたが、現在では20%程度に下がってきています。
精度向上
NIPTの精度向上に向けた継続的な研究が行われており、特に遺伝子パネルの拡充やアルゴリズムの改良が行われています。これにより、異常の検出に関する偽陽性のリスクが低減されます。
検査アルゴリズムの最適化
NIPTの検査アルゴリズムは継続的に改善され、個別のリスク要因や臨床情報をより適切に組み込むことが期待されます。これにより、偽陽性結果のリスクが軽減され、検査の信頼性が向上します。
患者教育とカウンセリング
将来的には、患者への適切な教育と遺伝カウンセリングの提供が強化され、患者がNIPTのリスクと利点を理解し、適切な選択を行うためのサポートが提供されるでしょう。

NIPTの偽陽性に関する問題は継続的に解決策が模索され、技術と研究の進歩により改善されるでしょう。患者と医療専門家の協力により、より正確で信頼性の高い出生前診断が提供されることが期待されます。

まとめ

NIPTの陽性結果、羊水検査の陰性結果はNIPTの偽陽性結果となりますが、それはまさに医学の複雑性を示しています。NIPTは血液中の胎児DNAを解析するため、稀ながら母体DNAと混合される可能性があり、偽陽性を引き起こす場合があります。羊水検査は直接胎児の染色体を調べるため、より正確な結果が得られる傾向がありますが、侵襲的でリスクが伴います。NIPTの偽陽性は、胎児のDNAが正確に解析されない場合や、特定の遺伝的要因によって影響を受ける可能性があります。これらの結果の解釈には慎重な医師の判断と患者の状況を考慮する必要があります。最終的な診断は慎重な検討が必要であり、医師による十分な相談がうけられる施設で受けることが重要です。

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ミネルバクリニックでは、NIPT検査を提供しています。少子化の時代、より健康なお子さんを持ちたいという思いが高まるのは当然のことと考えています。そのため、当院では世界の先進的特許技術に支えられた高精度、かつ、ご希望に合わせてたくさんの疾患検査を提供してくれる確かな技術力のある検査会社を遺伝専門医の目で選りすぐりご提供しています。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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