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日本医学会のNIPT認証施設では、13トリソミー、18トリソミー、21トリソミーの3つしか検査できませんし、性別も教えてくれません。どうしてか不思議に思われるカップルも多いと思います。そこで、この記事では、NIPTで性別を決定することや、胎児の性染色体異数性による疾患を特定することにより生じる問題点を考えてみましょう。
NIPTで赤ちゃんの性別を知ることができる
非侵襲的出生前検査(NIPT)は、妊娠の初期段階で胎児の染色体性別を判定するために用いることができます。胎児の性別判定にNIPTを用いることは、特定の性別の子どもを望む将来の親による選択的妊娠中絶の可能性について懸念が出てきます。例えば、母親がデュシャンヌ型筋ジストロフィーのキャリア(保因者)で、男の子の胎児だとデュシャンヌ型筋ジストロフィーとなりますので、こうした性別により生じる遺伝性疾患があるなどという理由、つまり、医学的な理由による性選択は一般的に受け入れられています。しかし、非医学的性選択は、かなりの論争があります。
したがって、非医学的性選択につながる可能性のある生殖遺伝学的検査技術をめぐっては、実は世界各国で規制があります。
NIPTでの性別決定に対する規制
NIPTへのアクセス(NIPTの受けやすさ)は国や州によって大きく異なっています。
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ベルギー、オランダは希望する全員に対して、イギリス、フランス、ドイツなどでは超音波などの初期スクリーニング検査でハイリスクが疑われる妊婦に対して公的医療制度においてNIPTの導入が始まっています。ただし、これらの国では一般的に3つの最も一般的なトリソミー(21、13、18トリソミー)を対象としており、フランスではトリソミー21だけが対象となっており、性別判定は含まれていません。
遺伝的疾患のスクリーニングに加えて、NIPTは胎児の性別判定にも用いることができ、これは妊娠中絶により非医学的性選択につながる可能性があります。
NIPTは妊娠6週目から胎児の染色体性別をより高い精度で判定することができますが、NIPTは通常主にトリソミー21やダウン症のスクリーニングに使用されるため、一般的には妊娠10~12週の間に実施されます。生命倫理の団体は、性選択的妊娠中絶を促進するためにNIPTが使用される可能性について懸念を表明しています。
NIPTへのアクセス(NIPTの受けやすさ)と規制
世界保健機関(WHO)などの国際機関は、出生前スクリーニングの目的は「(将来の親が)十分な情報を得た上で選択できるようにすること」であると述べています。
NIPTを採用する根拠は、「インフォームド・チョイス(説明を受けた上で選択する)」の強化や生殖の自律性といった概念に主眼が置かれています。
NIPTが公的資金で賄われている場合、様々な異なるモデルがあります。大体は、以下の二つに大別されます。
- 1. 一次検査モデル
- NIPTを異数性の事前確率に関係なく、すべての人が利用できる一次スクリーニング検査として提供します。NIPTは、ベルギーでは一次検査として全額助成され、オランダでは一部助成されます。
- 2. 偶発モデル
- 偶発的またはコンバインドテストのような方法によって異数性の確率が高いと特定された人のみが利用できる二次スクリーニング検査として提供する。
- 偶発モデルはより一般的であり、フランスやイギリスなどの国で使用されている。偶発モデルの正当性は、主に費用対効果分析に基づいている。
- イギリスでは、NIPTはトリソミー21の確率が150分の1であれば誰でも受けることができるのに対し、フランスでは、トリソミー21の確率が1,000分の1が閾値となっています。ドイツはユニークなモデルを導入しており、NIPTは個々のケースバイケースで提供されます。
NIPTが公的資金で実施される場合、性染色体に関する情報(胎児の性決定または性染色体異数性(SCA)に関する情報)は一般的に提供されません。これは、性選択的な妊娠中絶に対する懸念、または特に低事前確率集団における性染色体異数性Aに対するNIPTの低い陽性適中率に基づいています。
しかし、NIPTが民間で利用できる場合、性染色体異数性だけでなく胎児の性別に関する情報も得られることが多くなっています。
インドと中国は、性選択的な妊娠中絶が広まる懸念があるため、胎児の性別判定を違法とする法律を制定していますが、違反が蔓延しています。NIPTの導入により、血液サンプルを胎児の性別を判定することが合法であり、現地の開業医のサービスを利用する必要がまったくない米国などの別の国に送ることができるため、これらの法律が守られにくくなっています。
ドイツでは、胎児の性別は妊娠12週目以降にのみ提供することができますが、ドイツでは妊娠中絶も一例一例許可が必要となています。
英国では、生命倫理に関するナフィールド評議会が、性選択的な妊娠終了への懸念から、NIPTによる胎児の性別判定を英国で民間も含めて禁止するよう提案しています。
性別決定以外にNIPTで性染色体からわかること
NIPTでは性別決定以外に性染色体異数性が検出可能です。
性染色体異数性は、細胞内の性染色体 (X および Y) の数が異常なことを意味しています。性染色体異数性は最も一般的な異数性の一部であり、45,X (ターナー症候群)、47,XXX (トリプル X 症候群)、47,XXY (クラインフェルター症候群)、47,XYY (ジェイコブス症候群) が含まれ、推定有病率はそれぞれ女性2000人、女性1000人、男性1/660、男性1000人に1人となっています。こうした性染色体異数性は、表現型(発現する形質、外に現れた性質・形)は正常~軽度の影響を受けた表現型に関連している可能性がありますが、生殖能力の低下、身長の異常、心臓の欠陥、その他の身体的特徴が含まれる場合もあります。SCA は IQ の軽度の低下にも関連しており (例、47,XXX は IQ の約20ポイントの低下と関連している)、知的障害や認知的および行動的影響をもたらさない可能性があります。
性染色体異数性は、生命予後に大きな影響がないため、やはり、非医療的胎児性別選択(性別により妊娠中絶する)につながる可能性のある情報の提供であるとされています。性染色体異数性のスクリーニングについて、患者や家族が自 でより主体的で自律的に意思決定を行うインフォームド・デシジョンメーキングを優先する寛容な考え方もあるのですが、一般には性染色体異数性の陽性適中率が低いこと、あるいはスクリーニング自体が非医療的胎児性別選択による妊娠中絶を目的としているのではないかという懸念に基づき、性染色体異数性スクリーニングのためのNIPTを推奨しないという考え方もあります。
例えば、全米遺伝カウンセラー協会と米国産科婦人科学会は、性染色体異数性を含む可能性のある胎児染色体異常の事前確率に関係なく、すべての女性にNIPTを提供することを推奨しています。米国医遺伝学・ゲノム学会(ACMG)も同様に、NIPTの検査前カウンセリングにおいて、性染色体異数性のスクリーニングが可能であることをすべての妊婦に伝えることを推奨しているが、臨床的に適応がある場合を除き、胎児染色体の性別を特定することのみを目的とした胎児性染色体スクリーニングを選択する患者を抑止するよう医療提供者に助言しています。
カナダ産科婦人科学会(SOGC)とカナダ医遺伝専門医学会(CCMG)の共同声明は、特に非医療的胎児性別選択の問題を取り上げており、「患者の自律性を考慮しても、胎児の性別判定のみは適応されない」と述べています。
欧州人類遺伝学会(ESHG)と米国人類遺伝学会(ASHG)による2015年の共同声明も、NIPTにおけるSCAのスクリーニングが、特定の社会文化的背景において女性胎児の堕胎に利用したいと考える人々に胎児の性別に関する情報を提供する可能性があるという懸念を提起しています。このような倫理的懸念に加え、性染色体異数性の精度が他の染色体異数性と比べて低いことから、ESHGとASHGは性染色体異数性に対するNIPTの提供を行わないよう勧告しています。
胎児の性別を理由にした非医学的(医療的な必要性に欠ける)妊娠中絶は認められるのか?
日本の母体保護法では、中絶ができる条件を、以下のように定めています。
母体保護法第14条 『都道府県の区域を単位として設立された社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。』
母体保護法第14条1項1号「妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」
この「経済的事由」を幅広く解釈して、たとえ胎児の性別が不服であるという理由であっても、中絶は認められています。
NPTの日本医学会認証施設で性別を教えないのは妥当か?
非医学的性別選択を認めることの問題
非医学的性別選択を認めると、遺伝子検査の焦点が医療目的から人間の才能や能力の強化やデザイナーズベビーへとシフトすることが懸念されます。そうすると、これから親になる人は、臨床的有用性に基づいてというよりも、むしろ個人的な嗜好に基づいて胎児の遺伝的特徴を選択するようになるかもしれない。デザイナーズベビーのための遺伝子検査の使用は、特定の人間の特徴や、特定のタイプの人間を軽んじたり重んじる事や、生まれる子供を無条件に受け入れ、愛情を注ぐという親の美徳に反することから、問題があると考えられます。
非医学的性別選択はまた、男女間の不平等や差別といった社会的結果を永続させる本質的に性差別的な行為であるとも批判されている。性差別とは優れた性(通常は男性)が存在し、それによって家父長制的な社会秩序が正当化されるという思い込みです。性あるいはジェンダー選好が蔓延している場合、親は特定の性を好み、その結果、出生時の性比の不均衡によって人口動態に変化をもたらします。このような親の選好は、少なくとも1人は男児を生むという期待などによって文脈化された場合には、合理的に見えます。たとえば、一人っ子政策下の中国では、女の子は中絶されたり、うまれたら養子に出されたりして圧倒的に男子が多くなり、そのことが中国の人口動態にひずみをもたらし、今度は少子化という問題を引き起こしています。
NIPTの性別判定で非医学的性別選択が増えるのか?
NIPTによる胎児の性別判定を行う場合、妊娠中絶による性別選択が増えるのかについては議論が必要です。ミネルバクリニックでは、性別を知らせるかどうかについては自由意思で選択して頂いていますが、99.5%が「知りたい」と答えています。望まない性別であった場合には中絶すると言った妊婦は0.1%未満でした。また、たとえば男児ばかり3人いて、次は女の子が欲しいという方々のなかで、また男の子だったら中絶すると言った人はいません。現代日本では、社会的文化的圧力で胎児の性別による妊娠中絶が起こる件数は低いと言ってよいでしょう。
そのために、多数の人たちの子どもの性別を早い段階で知る権利を阻害するべきではないという考え方もあるでしょう。しかし、多数の知りたいという欲求のために、少数を犠牲にしてよいのかというとそれも違うと思います。認可施設においてはこうした議論の末に、性別を検査できるが、伝えてはならない、ということになっているのだと思います。一つの議論にはこうした奥深い問題が多々あるため、出来るものをやらないとは怠慢だというのは短絡的思考だと思っています。
こうしてみていくと、日本医学会認証施設(認定施設)が性別を検査しないのは妥当と言えるでしょう。それに不満がある場合は、無認可施設で受けることもできます。
まとめ
日本医学会のNIPT認証施設において、どうして性別がわかるのに教えないのかについて、まとめてみました。
日本では、NIPTに関する法的規制はなく、無認可施設で受けることは違法ではありませんので、受けたい内容を自ら医療機関を選んで受ける自由が認められているのは良いことだと感じています。
関連記事:NIPTの費用は医療費控除できるのか?
ミネルバクリニックでは、NIPT検査を提供しています。少子化の時代、より健康なお子さんを持ちたいという思いが高まるのは当然のことと考えています。そのため、当院では世界の先進的特許技術に支えられた高精度、かつ、ご希望に合わせてたくさんの疾患検査を提供してくれる確かな技術力のある検査会社を遺伝専門医の目で選りすぐりご提供しています。