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NIPTで微小欠失症候群を調べたら陽性…調べられる病気について

微小欠失症候群という疾患名をあまり聞き慣れない方も多いのではないでしょうか?出生前診断で赤ちゃんが微小欠失症候群だと診断されても、疾患についての知識がないと困惑しますよね。

微小欠失症候群には、さまざまな種類があり、それぞれ症状も異なります。今回は、微小欠失症候群についての基礎知識や検査方法について解説していきます。

微小欠失症候群とは

染色体のイメージ画像

微小欠失症候群とは、通常の染色体のサイズが500万塩基以上であるのに対し、100万~200万塩基という小さな分節内で発生する症候群です。そのため、微小少欠失症候群は、羊水検査や絨毛検査において、FISH法(蛍光in situハイブリダイゼーション)やマイクロアレイ解析での検出が必要です。

また、新型出生前診断(NIPT)でも一部の微小欠失症候群の検出が可能です。
微小欠失症候群には、下記のようなものがあります。

・1p36欠失症候群
 1番染色体短腕末端1p36領域の欠失

・4p16.3欠失症候群
 4番染色体短腕に位置する遺伝子群の欠失

・5p-症候群
 5番染色体短腕の部分欠失

・15q11.2欠失症候群(Prader-Willi症候群/Angelman症候群)
 15番染色体15q11-13領域の欠失

・22p11.2欠失症候群
 22番染色体11.2領域の欠失

・Smith-Magenis症候群(17p11.2)
 17番染色体p11.2領域中間部の欠失

・Jacobsen症候群(11q22.3-q24.2欠失症候群
 11 番染色体長腕の部分欠失

・Langer-Giedion症候群(8q21.11-q21.13症候群)
 8番染色体長腕の部分欠失

上記の症候群は、それぞれ症状が異なります。また、上記以外にも症候群は多岐にわたります。
微小欠失症候群の詳細は「微小欠失症候群|NIPTでできる微小欠失検査」をご覧ください。

微小欠失症候群が発生する確率

微小欠失症候群の発生率は、上記に挙げた症候群ごとで異なります。

・1p36欠失症候群
 発生率:4,000人~10,000人に1人

・4p16.3欠失症候群
 発生率:50,000人に1人

・5p-症候群
 発生率:15,000人~50,000人に1人

・15q11.2欠失症候群(Prader-Willi症候群)
 発生率:10,000人~25,000人に1人

・Angelman症候群
 発生率:12,000人に1人

・22p11.2欠失症候群
 発生率:2,000~4,000人に1人

・Smith-Magenis症候群(17p11.2)
 発生率: 15,000人に1人

・Jacobsen症候群(11q22.3-q24.2欠失症候群)
 発生率:100,000人に1人

・Langer-Giedion症候群(8q21.11-q21.13症候群)
 発生率:200,000人に1人

ダウン症候群の発生率が700人に1人であることと比較すると、微小欠失症候群の発生率は低いといえるでしょう。

微小欠失症候群の発症は、母体の年齢に関係がないといわれています。
また、1p36欠失症候群においては、男児より女児の発症の方が2倍多いといわれており、性別の影響を受ける症候群もあります。

微小欠失症候群の症状

微小欠失症候群は、それぞれの症候群において症状が異なります。では、それぞれの症候群の主な症状を見ていきましょう。

・1p36欠失症候群
 主症状:成長障害、難治性てんかん、重度精神発達遅延、筋緊張の低下(乳児期)

・4p16.3欠失症候群
 主症状:成長障害、難治性てんかん、重度精神発達遅延、多発形態異常、摂食障害、筋緊張の低下

・5p-症候群
 主症状:2,500g以下の低出生体重、成長障害、猫の鳴き声のような啼泣(新生児期~乳児期)

・15q11.2欠失症候群(Prader-Willi症候群)
 主症状:肥満、低身長、性腺機能障害、筋緊張の低下、性格障害、異常行動

・Angelman症候群
 主症状:重度発達障害、睡眠障害、失調性歩行、小頭症

・22p11.2欠失症候群
 主症状:胸腺発達遅延、無形成による免疫低下、低カルシウム血症、口蓋裂・軟口蓋閉鎖不全

・Smith-Magenis症候群(17p11.2)
 主症状:知的障害、睡眠障害、特徴的な行動特性

・Jacobsen症候群(11q22.3-q24.2欠失症候群)
 主症状:成長遅延、精神運動遅延、三角頭症

・Langer-Giedion症候群(8q21.11-q21.13症候群)
 主症状:知的障害、けいれん、骨格異常、内分泌異常

微小欠失症候群の原因

微小欠失症候群は、染色体の一部の小さな断片が欠失することにより起こる症候群です。通常、両親から遺伝することはなく、染色体の突然変異が原因だといわれています。この突然変異は、精子や卵子ができる時に起こるものです。
まれに両親のどちらかに染色体異常がある場合、遺伝することもあります。

例えば、両親のどちらかの染色体に均衡転座がある場合、子どもは不均衡転座による1p36欠失症候群を発症する可能性があります。

転座とは染色体の配置が入れ代わっていることで、均衡転座とは、配置は入れ代わっているが遺伝情報の量は変わらない状態を指します。不均衡転座とは、染色体の配置が入れ代わっていることに加え、遺伝情報の量も不足しているため、1p36欠失症候群のような異常をきたしてしまいます。

微小欠失症候群の検査方法

検査の内容を患者に説明する医師

微小欠失症候群を検出する検査には、下記のようなものがあります。

【確定的検査:羊水検査と絨毛検査】
・FISH法(蛍光in situハイブリダイゼーション)
・マイクロアレイ解析
【非確定的検査】
・新型出生前診断(NIPT)

羊水検査や絨毛検査で採取した羊水や絨毛細胞から異常を検出する検査であるGバンド法では、微細な欠失を検出できない場合が多いため、FISH法を組み合わせて検査します。

マイクロアレイ解析は非常に優れた検査方法ですが、健康保険に収載されていないため、医療機関では実施していません。研究室レベルで行われるため、主治医に相談する必要があります。
また、一部の微小欠失症候群はNIPTで検出することが可能です。では、それぞれの検査の詳細について見ていきましょう。

FISH法(蛍光 in situ ハイブリダイゼーション)

FISH法では、染色体を分離収集し、得られた染色体のDNAを細切れにして大腸菌に入れます。そして、増幅させたDNAに蛍光色素をつけ、染色体標本の上でDNAが互いにくっつくようにします。これをハイブリダイゼーションといいます。こうすることによって、特定の染色体にのみ着色することが可能となります。

このようにして例えば黄色に着色された染色体が、例えば赤色に着色された染色体と一部入れ代わっていると、部分的に黄色と赤になった染色体が発見できるのです。この現象を相互転座といいます。
通常、このような2色の染色体は相互に染色体の一部が入れ代わっているため、2本(1対)観察されます。

FISH法は、Gバンド法で検出できない微小な欠失も検出することができます。
また、検査結果も1~2日で出る迅速な検査です。

しかし、FISH法は1p36欠失症候群であるかどうかを調べるなど、調べる領域が限られているため、まずはGバンド法による染色体検査を行うのが一般的です。

FISH法での微小欠失症候群の診断率

診断率とは、FISH検査において診断できる割合のことです。
FISH法での微小欠失症候群の診断率は、例えば

・1p36欠失症候群:95%以上
・15q11.2欠失症候群(Prader-Willi症候群):65~75%
・Angelman症候群:68%

となっています。

FISH法は、健康保険に収載されており、費用は約3万円です。

マイクロアレイ解析

マイクロアレイ解析は、数種類の遺伝子を解析するサブトラクション法を応用したものです。マイクロアレイ解析では、サンプル内のRNA(遺伝情報であるDNAから転写されてできるもの)に蛍光色素をつけ、マイクロアレイ上でプローブ(標的遺伝子と相補的な配列を持つ一本鎖DNA)と結合させます。これをハイブリダイゼーションといいます。

ハイブリダイゼーションを行うことで、サンプル中に多く存在するRNAはプローブとの結合数が増え、セルが強く光ります。RNAが少ない場合は、セルの蛍光強度が弱まります。

マイクロアレイ解析では、このようにセルごとの蛍光強度を測定することで、RNAの発現量を解析するのです。
マイクロアレイ解析では、一度に短時間で大量の遺伝子の発現を解析できます。
しかし、大量の遺伝子を扱うことで、偽陽性率が高まるというデメリットもあります。

一般的には、マイクロアレイ解析から多くの遺伝子情報が得られますが、その大量の遺伝子の中で異常なものはわずかしか含まれておらず、選別のために再度解析する必要もあります。
Gバンド法の異常検出率は約3~4%といわれていますが、マイクロアレイ解析は解像力が高く、コピー異常において異常検出率は約15~20%です。
異常検出率とは、検査において異常を検出できる割合のことです。

マイクロアレイ解析は、健康保険に収載されておらず、約15万円が全額自己負担となります。

NIPT(新型出生前診断)

NIPTでは、母体から血液を採取し、胎児に微小欠失症候群があるかどうかの可能性を調べます。母体から採取する血液は約10mlです。
羊水検査などの侵襲的な検査と比較し、非侵襲的であるため、流産のリスクがなく安全な検査です。
しかし、NIPTで検出できるのは一部の微小欠失症候群に限られています。

NIPTの陽性的中率

陽性的中率とは、検査において陽性と診断された場合に、本当に陽性である確率です。
偽陽性率とは、検査で誤って陽性と示される割合です。

NIPTは偽陽性率が低く、

・22q11欠失症候群の陽性的中率:90%
・他の微小欠失症候群の陽性的中率:0.5~66.7%

となっています。

NIPTの費用は、約20万円で全額自己負担となります。

微小欠失症候群の検査で陽性が出たら

胎児のイメージ画像

微小欠失症候群の検査において、陽性の結果が出た場合の選択肢として、

・赤ちゃんを産んで治療をしながら育てる
・人工妊娠中絶をする

の2つがあります。

いくら赤ちゃんに微小欠失症候群が見つかったとはいえ、尊い命であることに変わりはありません。微小欠失症候群であることで、生まれてきた赤ちゃんにはさまざまな治療が必要となり、両親には心理的・社会的・経済的にも大きな負担がかかるでしょう。しかし、どのような障害があったとしても、我が子と過ごす時間は何ものにも代えがたいでしょう。

中には陽性という検査結果を受けて、人工妊娠中絶を選択する人もいます。障害を持って生まれてくる子どもを育てる自信がない、経済的余裕がないなど、個々人でさまざまな理由があるでしょう。日本の社会的にも、障害を持つ人に対して万全の態勢が整っているとはいい難いため、やむを得ないこともあると思います。

それでも、「命の選別」という倫理的問題は忘れてはなりません。障害があるからといって人工妊娠中絶を選択しても、その後ずっと正しい選択だったのかと悩む人も少なくありません。

微細欠失症候群には、軽度の症状を持つものもあります。これらを知ることで、早期の医療介入が可能となり、子どもの発達を大幅に改善できることが示されています。

まずは、検査を受ける前に、結果の受け止め方について、妊婦さんとパートナーでしっかりと話し合うことが大切です。そして、遺伝カウンセリングなどで専門家のアドバイスを聞き、検査の目的などについて理解した上で、受検しましょう。

ミネルバクリニックのNIPT

ダウン症の発生率はおよそ1/1000です。
一方、ミネルバクリニックの検査で見つかる9つの微細欠失症候群のリスクも、約1/1000でほぼ同じです。これを多いと考えるか少ないと考えるかは個人によって異なりますが、統計的に少ない数字でも、それが当たるか当たらないかは個人にとってはゼロか1かの世界です。

微細欠失症候群は、母体血清マーカーテストや超音波検査では見つけることができません。

ミネルバクリニックのNIPTでは、流産や早産のリスクがある絨毛検査や羊水検査に対して、母体の採血だけで安全に行える微細欠失症候群の検査オプションを提供しています。
>>ミネルバクリニックのNIPT

まとめ

通常の検査では検出できない微細な染色体の欠失である微小欠失症候群。微小欠失症候群には、さまざまな種類があり、それぞれ症状も異なります。
また、検査を受けたからといって、必ずしも症候群が見つかるとは限りません。検査を受ける前に、検査で分かる疾患、疾患への正しい理解が必要不可欠でしょう。まずは、受検について主治医としっかり相談してください。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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