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妊娠初期に仕事をしてよいか迷っている方も多くいるのではないでしょうか?
結論から言うと、 妊娠初期でも仕事はできます。ただし、無理をして働いていると流産のリスクが高まるため注意しましょう。
実際、日本産科婦人科学会のデータでも、流産件数の約80%は安定期になる前(妊娠12週)までであるとわかっています。
そこでこの記事では、妊娠初期の妊婦の仕事について、以下の内容をお伝えします。
- ・妊娠初期の体の変化と仕事で気をつけること
- ・妊娠報告のタイミングと注意点
- ・妊婦を守るための法律や制度
仕事が忙しくてなかなか休めないという方へも、法律の観点から妊婦を守る制度や実際の方法について解説しているので、参考にしていただけると幸いです。
妊娠初期の体の変化と仕事で気をつけること
妊娠初期とは妊娠4ヶ月目、つまり妊娠15週6日目までを示します。
妊娠期については、NIPT Japanの以下の表が参考になります。
(NIPT Japan/妊娠週数別!胎児の成長とママの体の変化より画像引用)
妊娠初期症状が強く現れる時期であり仕事との両立が辛いと感じる方も多い時期です。
そこでこの章では、妊娠初期に関する以下の3つを解説します。
- ・妊娠初期の体の変化
- ・妊娠初期の方が仕事で気をつけること
- ・妊娠初期に無理に仕事をするリスク
「妊娠初期症状がしんどいけど、仕事は休めない」と悩んでいる妊婦さんに知っていてもらいたい内容なので、ぜひ最後までご覧ください。
参考資料:NIPT Japan/妊娠週数別!胎児の成長とママの体の変化
妊娠初期の体の変化
妊娠初期の体の変化には、以下の3つのホルモンの分泌が影響しています。
- ・エストロゲン(卵胞ホルモン)
- ・プロゲステロン(黄体ホルモン)
- ・hCGホルモン(ヒト絨毛生ゴナドトロピン)
ホルモンの分泌時期については、厚生労働省の図解が参考になります。
(厚生労働省研修班監修/ヘルスケアラボより画像引用)
排卵前から受精後まで分泌量が増えるエストロゲンは排卵を促し、女性らしい体作りをします。 受精後から妊娠期にかけて分泌が増えるプロゲステロンは、受精卵が無事成長し妊娠継続をするための環境調整の働きがあります。
例えば、受精卵が着床しやすいように子宮内膜を厚くしたり、成熟しやすいように基礎体温を高めたりするなどです。
この2つのホルモンの働きにより無事妊娠が成立すると、妊娠サインとしてhCGホルモンが大量に分泌されます。非妊娠期と比べて妊娠すると大量かつ持続的に分泌されるため、妊娠初期はホルモンバランスが崩れ、妊娠初期症状が現れるのです。
具体的な妊娠初期症状については「【チェックリスト】妊娠超初期症状20選と生理前症状との違い・注意点を解説」の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
参考資料:厚生労働省研修班監修/ヘルスケアラボ
妊娠初期の方が仕事で気をつけること
妊娠初期の方が仕事で気をつける具体例として、以下があげられます。
- ・長時間の「立ち・座り仕事」は避ける
- ・重たい荷物を持つ時は手伝ってもらう
- ・ハイヒールは履かない
- ・満員電車での通勤は避ける
- ・小まめな休憩を取らせてもらう
- ・しんどい時は無理をせず、休ませてもらう
長時間の「立ち・座り仕事」は血流低下をまねき、「妊婦浮腫(むくみ)」や「妊婦貧血」の症状の原因になります。重たい荷物は過度な腹圧がかかり、子宮収縮を誘発するリスクがあります。
これらの負担が繰り返されると「切迫流産」や「切迫早産」になる可能性もあるため、注意が必要です。
また、妊娠初期はニオイに敏感になる傾向にあります。様々なニオイが入り混じる満員電車はつわりなどの妊娠初期症状を助長しかねません。そのため、満員電車を避けられる就業時間に変更してもらったり、ニオイの伴う業務を代わってもらうことも必要でしょう。
しんどい時は赤ちゃんを守るためにも、小まめな休憩を取らせてもらい、無理はしないようにすることが重要です。
妊娠初期に無理に仕事をするリスク
妊娠初期に無理して働くと、以下のリスクがあるため注意しましょう。
- ・流産・切迫流産
- ・早産・切迫早産
- ・死産
- ・妊娠初期症状の悪化
特に妊娠初期は流産が最も起こりやすい時期と言われており、日本産科婦人科学会によると妊娠した人の「約40%」は流産していることもわかります。また、流産したうちの「約80%」が妊娠12週未満、つまり妊娠初期なのです。
流産や死産などの最悪な状況にならなかったとしても、妊娠初期症状の悪化は、体調不良や過度なストレスの原因になります。
このことより、仕事をしながら妊娠初期を過ごすことが、どれほど負担になるかがわかったのではないでしょうか?
参考資料:公益社団法人 日本産科婦人科学会/流産・切迫流産
妊娠報告のタイミングと注意点
妊娠したことを嬉しく思う反面、妊娠報告のタイミングで頭を悩ませている方もいるのではないでしょうか?
そこでこの章では、家族と職場に分けて妊娠報告をするタイミングとその際の注意点について解説します。
最後まで読むことで、妊娠報告について悩むことはなくなります。
家族への報告
パートナーへの妊娠報告は、妊娠検査薬や産婦人科の妊娠検査で陽性を確認したあとが良いでしょう。つまり「妊娠6〜10週目」がベストです。
この時期になるとhCGホルモン(ヒト絨毛生ゴナドトロピン)が分泌のピークを迎え、産婦人科の妊娠検査で確定診断を出してもらえるからです。また、早ければ妊娠5週目から胎児心拍を確認できるため、妊娠に対する実感も持てます。
安定期に入るまでは、つわりや貧血などの妊娠初期症状があるため、最も身近なパートナーにはサポートしてもらうためにも早めに報告しておいて損はないでしょう。
一方、ご両親や親戚への報告はもう少し遅くてもOKです。
例えば、妊娠12週を超えて安定期に入ってからが一般的と言われています。この時期になると妊娠初期症状が落ち着いてくるため、実家に帰省して直接伝えることもできるでしょう。
あなたやパートナーに負担が少ない時期を選び、報告できると良いですね。
職場への報告
職場への妊娠報告のタイミングには賛否両論がありますが、おすすめの時期は「妊娠の各確定診断がでた時点」です。
安定期(妊娠12週目)に入ってから妊娠報告をするのが良いという意見もありますが、妊娠初期症状のある最も伝い時期に職場でサポートをしてもらえないこと、妊娠12週までの流産率は「約80%」というデータがあるからです。
これらの理由から職場への報告は妊娠の確定診断を受けたあとが望ましいと考えられます。
また、職場に妊娠報告をする際の注意点は、以下の通りです。
- ・上司や目上の人から順位に伝える
- ・産休や復帰、退職など今後の予定について話し合う
- ・仕事の引継ぎスケジュールについて伝える
特に上司や同僚は妊娠することで今後のスケジュールや仕事量の変化を気にします。これらについて事前に伝えておくことが、職場に対する最低限の配慮と言えます。
参考資料:公益社団法人 日本産科婦人科学会/流産・切迫流産
妊婦を守るための法律や制度【休めず悩んでいるあなたへ】
仕事が忙しく休ませて欲しいと言い出せずに悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
しかし、無理をしながら仕事を続けあなたや胎児の命が危険に晒されるのは、本末転倒です。
そこでこの章では、妊婦を守るための法律や制度について以下の3つを紹介します。
- ・労働基準法
- ・男女雇用機会均等法
- ・母性健康管理指導事項連絡カード
国の定める法律や制度であるため、妊婦に保障された権利であり、確実な方法なので、ぜひご活用ください。
労働基準法
労働基準法は、妊婦の適正な労働環境を整備するための法律です。
例えば、労働基準法第64〜66条では「妊婦の労働形態」が保障されています。
(厚生労働省/働きながらお母さんになるあなたへ P5-7より画像引用)
特に夜勤や不規則な勤務形態の仕事だと体調を崩しやすく、妊娠と仕事の両立が難しいと感じます。夜勤や時間外勤務の免除申請をしたり、重たいもの・危険物を取り扱う業務を代わってもらうなどの相談をしましょう。
これらは法律で保障された妊婦の権利です。不当や不利益な扱いをされているなら、法律や制度によって適正な対応をしてもらうようにしましょう。
また、妊娠中の労働形態に加えて、労働基準法第19・65条で「産前・産後の休業」や「解雇制限」についても規定しています。
(厚生労働省/働きながらお母さんになるあなたへ P5-7より画像引用)
法律の観点から見ても妊婦の「休業」や「不当な雇・勧告」は防止されているので、ご安心ください。
参考資料:厚生労働省/働きながらお母さんになるあなたへ P5-7
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法では、妊娠中または出産後の女性従業員に関する事業主の義務として以下の内容を求めています。
男女雇用機会均等法第12条は以下のように定めています。
事業主は、女性従業員が妊産婦のための保健指導又は健康診査を受診するための必要な時間を確保するようにしなければなりません。
また、男女雇用機会均等法第13条は以下のように定めています。
妊娠中及び出産後の女性従業員が、健康診査等を受け、医師等から指導を受けた場合は、その女性従業員が、受けた指導事故を守ることができるようにするために、事業主は、勤務時間の変更や勤務の軽減等の措置を講じなければなりません。
つまり「健康診査受診のための時間の確保」「医師等の指導事項に従った業務軽減措置の実施」が保障されているということになります。
夜勤業務や不規則な勤務形態の方でも定期的に妊婦健診に行き、母子ともに健康であるか確認する時間の確保をしてもらえるように保障されています。また、妊娠継続と仕事の両立が難しい時は医師の指示により休暇や休憩をとることもできます。
引用資料:厚生労働省/働く女性の母性健康管理のために
母性健康管理指導事項連絡カード
母性健康管理指導事項連絡カードとは、男女雇用機会均等法に基づき厚生労働省が定める妊婦の健康推進のための制度です。
職場での健康維持のために、医師から健康管理に関する指導内容を書いてもらい、職場での環境改善を申し込む際に活用されます。
母性健康管理指導事項連絡カードの活用の流れについては、以下の図解をご覧ください。
(厚生労働省/母性健康管理指導事項連絡カードの活用方法についてより画像引用)
また、母子カードの様式についても厚生労働省のページから確認できます。最近だと母子健康手帳に所定の様式が記載されているものもあります。
検診結果から「仕事の許容範囲」「労働時間の短縮」「休業」に関して医師から指導された内容を職場に提出できるため、比較的強制力がある方法と考えておいて間違いないでしょう。
参考資料
厚生労働省/母性健康管理指導事項連絡カードの活用方法について
厚生労働省/母性健康管理指導事項連絡カードの様式
妊娠初期|会社からの印象が良い休みの取り方【全5つ】
職場から休みをもらうのが難しい方にとって、休業申請やその相談はハードルが高いと思います。その上、申請する時の印象が悪いとその後の対応や関係性に影響しかねません。最悪のケースだと、パワハラに発展することもあります。
そこでこの章では、会社からの印象が良い休みの取り方を5つ紹介します。
- ・取り方①:時間差で出退勤させてもらう
- ・取り方②:隔日出社にしてもらう
- ・取り方③:日頃から健康状態について周りに伝えておく
- ・取り方④:休日の健康状態は小まめに報告する
- ・取り方⑤:出産後の働き方について明確にする
職場からも受け入れられ、少しでも気持ち良く休むための参考にしていただけると幸いです。
取り方①:時間差で出退勤させてもらう
最初から休業するのが難しい方には、時間差出退勤がおすすめです。
仕事への参加意欲を示せる上に、通勤によるストレスや身体的な負担を大幅に減らせるからです。
時間差出勤についても「労働基準法第66条」と「男女雇用機会均等法」の2つの法律から保障されています。
例えば、朝夕の1時間の短縮勤務にしてもらえば、満員電車での通勤を避けられます。満員電車でお腹への圧迫が加わったり、披露やストレスの蓄積を起こすと、流産や早産のリスクを高めます。
また、妊娠初期はつわりやニオイに敏感になっているため、人混みが少ない時間帯で通勤することで症状の悪化を予防できるでしょう。
体調が悪いと朝の準備に時間がかかるため、1時間遅くするだけでも自分のペースでゆっくり準備できます。
参考資料
e-Gov法令検索/労働基準法
厚生労働省/雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために
取り方②:隔日出社にしてもらう
隔日出社であれば活動と休息のバランスをとりつつ、しっかりと働いているアピールもできます。
例えば、月・水・金のフルタイム出勤にしてもらえると、仕事の次の日は必ず休みなので体調管理がしやすくなります。また、リフレッシュしたり、確実に妊婦健診に行く時間を確保したりもできるでしょう。
また、隔日で休業が難しい場合でも、週に何日かリモートワークに変更してもらうなどの相談する方法もあります。同じ仕事でも職場と自宅でするのでは精神的な負担は違います。
母子ともに健康な状態で妊娠継続ができるように職場で労働条件について話し合ってみましょう。
取り方③:日頃から健康状態について周りに伝えておく
日毎から母子の健康状態について同僚に話しておくことで、何かあった時に
助けてもらいやすくなります。
例えば看護師の方であれば「ニオイに敏感であるため「食事介助がしんどい」と話しておけば、食事の配膳や食事介助を代わってもらえるかもしれません。
また、重たい荷物を持つとお腹が張ると伝えておけば、患者の移乗や退位調整は同僚に任せて、自分ができる仕事に集中できます。
重要なのは、どんな時にしんどいのか周りに知ってもらうことです。そして、困った時はお互い様です。サポートしてもらうだけでなく、ご自身ができることを見つけ体調と相談しながら行うことで、職場での印象を良くできるでしょう。
取り方④:休日の健康状態は小まめに報告する
休日や急遽お休みをもらった際は、健康状態について小まめに報告をすることも大切です。
あなたが休んだ分の仕事は誰かが代わってくれています。そのため、あなたが休んだ理由が分からないと仕事を代わる同僚の気持ちは納得しません。
反対にきちんとした理由で休んでいると分かれば、頑張ろうという気持ちになりますよね。
また、急遽お休みをもらった場合は、後日出社する際に差し入れなどを渡すと、非常に印象が良くなります。あなたの代わりに仕事を引き受けてもらった同僚や会社の対応に、感謝の気持ちを示すことも印象を良くしてもらうためのコツなのです。
取り方⑤:出産後の働き方について明確にする
出産後の働き方を明確にしておくことも職場から印象を良くする方法です。
特に出産後の身体について明言をしていないと、これからの業務状況について会社側が見通しをつきにくく困ります。
例えば、あなたは出産後退職する予定でも会社側は復帰してもらい働いてもらえると考え、日々の業務割りを考えているかもしれません。突然退職を伝えるのは、あなたにとっても退職手続きや仕事の引き継ぎがややこしくする原因になります。
あなたと会社のお互いのためにも、出産後の働き方については早いうちから明らかにしておくことをおすすめします。
妊娠初期の仕事に関するよくある2つの質問
この章では、妊娠初期の仕事に関するよくある2つの質問にお答えします。
- ・質問①:仕事中でも休んだ方が良いお腹の張り方ってどんな感じですか?
- ・質問②:退職を勧められた時はどうすればいいですか?
実際に相談していただいた内容なので、押さえておいて損はありません。
では、1つずつ解説します。
質問①:仕事中でも休んだ方が良いお腹の張り方ってどんな感じですか?
お腹の張り方や感覚は人それぞれです。ただし、触っても硬い張り方をしている時は、すぐに休ませてもらいましょう。
子宮が硬くなり胎児に十分な酸素や栄養素が届きにくいというサインだからです。
すぐに対処できれば問題はありませんが、長時間続くと最悪の場合、切迫流産の危険性もあります。
お腹の張りが治るまでソファーなどに横にならせてもらいましょう。安静にしても「張りが治らない」「お腹が痛い」などの症状があれば、すぐに産婦人科に受診することをおすすめします。
質問②:退職を勧められた時はどうすればいいですか?
妊娠や出産を理由に会社から退職を勧めることは認められていません。
以下の2つが根拠法となります。
- ・労働基準法
- ・男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法
労働基準法で「産前産後の休業期間」「その後の30日間」で不当な解雇を禁止しています。
男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法について、厚生労働省の資料では以下のように示されています。
その雇用する女性労働者が妊娠したことその他の妊娠又は出産に関する事由であって均等則第2条の2各号で定めるもの(以下「妊娠・出産等」という。)を理由として、解雇その他不利益な取扱いをすることは、法第9条第3項(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第47条の2の規定により適用することとされる場合を含む。)により禁止されるものである。
退職を勧められた時は、以下の対応をしましょう。
- ・退職を勧める明確な理由を教えてもらう
- ・退職したくないなら「仕事は続ける」ことをはっきりと伝えておく
証拠として残すためにも全て書面でやりとりしてもらうようにしましょう。後々で言った言っていないなどの証拠不十分によるトラブルを避けられます。
参考資料
厚生労働省/「妊娠したから解雇」は違法です
福井県/職場のトラブルQ&A ~妊娠による退職勧奨~
引用資料
厚生労働省/妊娠・出産、育児休業等を理由とする不利益取扱い禁止関係法令
まとめ: 健康管理のために仕事を休むのは妊婦の権利
以上、妊娠初期の仕事について、妊婦を守る法律や制度を交えながら解説しました。
大前提として、妊娠初期の妊婦が仕事を休むことは甘えではありません。実際、妊娠初期症状がしんどくて仕事を続ける事が難しいと感じる方もいます。
しかし仕事が忙しく休める雰囲気ではないと悩んでいる方は、母性健康管理指導事項連絡カードの活用や「労働基準法」「男女雇用機会均等法」などの法律に基づいた措置をとることも検討しましょう。
妊婦が母子の健康維持のために仕事を休むのは、権利ですので何の問題もありません。
この記事が、あなたや赤ちゃんの健康を第一に考えた働き方を考える参考になれば幸いです。