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頭痛、吐き気、腰痛など、妊娠中の身体を苛むさまざまな不調のことを「マイナートラブル」といいます。
大きな危険に繋がる訳ではなく、妊娠中の身体の必要な変化によるものがほとんどですが、出産を控えた妊婦さんにとっては不安を煽る不快な症状ばかりです。
その中でも、心臓の病気を思わせる「動悸」は、妊婦さんにとって恐らく一番怖いマイナートラブルであると思われます。
今回は妊娠中期の動悸について、原因や対処法を詳しく解説しますので、妊娠中の不安解消の一助として頂きたいと思います。
妊娠期は3区分に分かれる
妊娠期はよく知られている通り、全部で10ヶ月間ですが、その成長過程や症状の移り変わりは3つの区分に分けて考えられています。
妊娠初期
1~4ヶ月(~16周未満)あたりは妊娠初期といい、つわりが始まるのはこの時期の、大体5~6週あたりですが、症状自体は無い人も中にはいます。
比較的誰にでも現われる症状は、基礎体温が高くなることで、なんとなく疲れやすい、だるい、眠いなどの症状があった上で、生理が来なかったり、不正出血があったりして妊娠に気が付く、という人も多いです。
妊娠中期
5~7ヶ月(16~28週未満)は妊娠中期といい、胎盤が完成して流産の危険性が低下する安定期に入ります。
20週くらいになると、だんだんとつわりも収まってくるので、少しホッとする時期といえますが、それと同時に、少しずつお腹が出てきて乳房が張ってくる時期でもあります。
少しずつ大きくなるお腹に圧迫されて便秘になったり、胎児に送るため血液量が増えるために動悸や息切れが起こり、貧血にもなりやすく立ちくらみを起こす人も出てきます。
妊娠後期
8ヶ月(28週)以降を妊娠後期といい、胎動がしっかりと感じられるようになります。
お腹がさらに大きくなり、仰向けに寝ると苦しいのでお腹を圧迫しないようにするなど、寝方ひとつとっても難しくなってきます。
みぞおち辺りまで子宮が大きくなり、胃が圧迫されてくることで、再びつわりのような症状が出てくる場合もあります。
妊娠中期の動悸の原因とは?
では、妊娠中期に起こる動悸の原因を詳しく見てみましょう。
ホルモンの変化
妊娠中期は、妊娠を維持する働きを持つプロゲステロンと、妊娠の準備をする働きを持つエストロゲンが増えて、バランスが急激に変化します。
そのホルモンの分泌と、自律神経のコントロールの、この2つを制御する脳の部位が近いため、どちらかが乱れるともう片方も不調になる、という関係性にあります。
そして、自律神経は拍動や呼吸をコントロールしているために、不調になると動悸や息切れを起こしてしまいます。
ホルモンバランスが乱れると動悸がするのは、そういったメカニズムが背景にあります。
ストレス
妊婦さんは出産に対して、身体的にも精神的にも、そして金銭的にも不安や緊張を抱えているものです。
不安はいつしかストレスとなり、それが過剰になると、動悸や息切れのように体調に影響を及ぼすことも少なくありません。
ストレスとは、溜まると妊娠中でなくても情緒不安定になり、鬱など心の病気に繋がる可能性がある厄介なもので、妊娠中に至っては早産や流産のリスクが高くなると言われています。
臓器や静脈が圧迫される
妊娠は人一人が身体の中で成長していくので、それに伴い臓器の位置や形の変化を余儀なくされます。
成長していく胎児を守る子宮が大きくなると、横隔膜が押し上げられて肺を圧迫し、同様に心臓も圧迫します。
そしてその圧迫は臓器だけでなく、腹腔内の静脈も圧迫して血液循環を妨げます。
胎児の成長が進むにつれて受けるさまざまな圧迫が、動悸や息切れを引き起こす一因となっています。
血流が多くなり、貧血に
妊娠中は、通常の人に比べ血液量が1.5倍に増えます。胎児に送る分と、出産時の出血に備えて血を増やすのです。
しかし、血液量は増えますが、赤血球の数はそれほど増えてはいないので、実際は薄い血になり「鉄欠乏性貧血」という、貧血を引き起こしやすくなります。
加えて、1.5倍に増えた大量の血液を送り出すには、ポンプの役割である心臓に相当の負担がかかります。
そんな「貧血」と「胎児への血液のポンプ作業」が、妊娠中期の動悸に繋がっています。
動悸がする時の対処法
それでは、妊娠中期に動悸に襲われたとき、どのような対処方法があるかを詳しくみてみます。
とにかく休む
動悸を感じたら、まず休むことが一番です。横になる時は心臓を下にしてみてください。
「動悸がしているのに心臓を圧迫するの?」と思われるかもしれませんが、普段は胎児に血液を送るために懸命にポンプ活動をしている心臓なので、動悸の際に下にすることで、子宮から自然に血液が流れ込み、負担が軽減され楽になる場合があります。
仕事中などで横になれない場合は、椅子に座るのも有効です。
妊娠中のマイナートラブルは、動悸以外にもさまざまな症状がそれぞれのタイミングで訪れますので、いざという時に横になれる場所や、せめて静かに座って休める場所を、普段から職場の人と相談しながら確保しておくと安心です。
食事内容や摂り方を工夫する
妊娠中期の動悸の原因のひとつである貧血を改善するには、レバーやほうれん草、赤身肉や大豆など、鉄分の多く含まれる栄養素を摂るのが有効です。
しかしレバーは摂り過ぎるとビタミンA過多になりますし(特に妊娠初期に摂り過ぎると胎児形態に異常がみられるケースがある)、鉄分の吸収をサポートする栄養素も別途必要です。
必要な栄養を身体に上手に取り込むためにはやはり、バランスの良い食事が大切です。
加えて、子宮が段々と大きくなってくる妊娠中期は、多少の内臓の圧迫が常にあるような状態であり、さらに食後に胃が膨らむと、多少なりとも心臓も圧迫されることになります。
ただでさえ食後は胃に血液が集中し、軽い酸素不足状態になりますので、動悸や息切れを引き起こす十分な原因となります。
食後の動悸を避けたい場合は、1回の食事量を減らして回数を増やし、少しずつよく噛んで食事を摂るように心がけると、上記のような急激な変化に繋がらず、動悸を予防できる可能性があります。
ストレスを軽減する
やはり、ストレスを溜めるのが何においても良くないことは、妊娠中に限った話ではありません。
妊娠は心配事が多く、マイナートラブルの他にもストレスを感じることが多いですが、日常生活でできるちょっとした改善策は、意外と少なくありません。
- 深呼吸して体を休める時間をとる
- 規則正しい生活で自立神経を整える
- 好きなことをして楽しむ時間を作る
- 体調がいい時は軽い運動をして適度に体力をつける
- スマホを見る時間を短くして、交感神経を休める
ゆったりと安心できる時間を作るようにすることが、動悸の予防にも繋がります。
妊娠中期の動悸で気を付けたいこと
妊娠中期のマイナートラブルに動悸が多いことは分かりましたが、ただ気を付けて様子を見るだけではいけない場合があります。
以下は、妊娠中の動悸で特に気を付けたい点です。
周産期心筋症
妊娠中の動悸を症状として現す「周産期心筋症」という疾患があります。
妊娠前に心臓病などではなかった人が、妊娠中に心不全を引き起こすというもので、産褥心筋症とも呼ばれています。
マイナートラブルである動悸と症状が似ていて判別が難しい病気ですが、合併症もあるので、動悸があまり長く続く場合や気になる場合は受診しましょう。
入浴
湯船に浸かってゆっくりと身体を温めることは、リラックスにも繋がりますし血流も良くなります。
身体も休まりぐっすりと眠れることで、動悸の予防になる面があります。
しかし、熱すぎたり長風呂だったりすると、かえって動悸や息切れを起こしやすくなり、ましてや貧血であれば、立ちくらみを起こして転倒する危険性もあります。
寒い時期の場合は、浴室から出たときの急激な温度差にも注意が必要です。
そういった細かい点を配慮した上で入浴するようにしましょう。
心配であれば医師に相談
頭痛や吐き気を伴う、休んでも収まらないなど、動悸にもさまざまな症状があって、そういった心配事があるとそれもまたストレスの一因になります。
例えば貧血が動悸の主な原因であれば、鉄剤を処方してもらうことも可能です。
他の病気が隠れている可能性もあるなど、発見が早い方がいい場合もありますので、胎児と共に安心して過ごすために、早めに医師に相談しましょう。
まとめ
妊娠中期の動悸について、原因や対処法を詳しく解説してみましたが、どうしても避けられない原因や、意外な解決法などが発見できたかと思います。
動悸をし始めたら、何事かと思い焦ってしまいがちですが、まずは気持ちを落ち着けて休むことが一番です。
動悸は妊婦さんの約半数が感じる症状であって、命にかかわるというものではありません。
しかし、普段から食事に気を付けるなど、できることは心がけ、長く続くようであれば受診し、そうでなければまずはリラックスした毎日を送るようにすることが、動悸を予防し出産に向けて妊娠後期を迎えるための、最適な対処法です。
この記事が、妊娠中期の動悸に悩まされている妊婦さんの、参考になれば幸いです。