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妊娠をした際の一番の望みは、母子ともに健康な状態で出産をすることですよね。しかし、分娩をする際に子宮体部が裂けたり破けたりすることがあることをご存知でしょうか。これを「子宮破裂」と言います。
子宮破裂を発症すると、胎児や母体の生命にもかかわってくる非常に重い病気です。名前からしても、不安を感じる病気ですよね。
本記事では、子宮破裂の詳細や対処方法を解説します。これから妊娠を控えている方や既に妊娠中の方、そういったご家族をお持ちの方はぜひ最後まで読んでみてください。
子宮破裂とは
冒頭でも簡単に説明しましたが、子宮破裂とは胎児を育てる子宮体部が破裂する病気です。基本的には分娩中に発症しますが、稀に妊娠後期に発症することもあります。
子宮破裂の発生率は、特にリスクの無い出産では0.05%程度とごくわずかですが、若干増加してきています。また、妊娠回数が多いほど発症しやすく、経産婦は初産婦と比較して約9倍発生する可能性が高まります。
子宮破裂は、3つの種類に分けられます。
①子宮瘢痕破裂
過去に帝王切開手術をしたことがあったり、子宮筋腫を取り除く手術(子宮筋腫核出術)や子宮が本来の形状と異なっている状態(子宮奇形)を治す手術をしたことがあったり、子宮に瘢痕部がある場合に発症しやすいのが「子宮瘢痕破裂」です。
中には症状が出る前に見られる前駆症状が出ないまま、妊娠中や分娩中に突然症状が認められる場合もあります。また、妊娠回数が多い方は子宮筋層に細かく小さい裂傷が形成されたことが原因で子宮破裂をすることがあります。
②自然子宮破裂
手術などと人による操作が無い状態で自然と起こるのが自然子宮破裂です。自然子宮破裂を発症する原因としては、出生体重が4,000g以上とされる巨大児や双子、三つ子などの多胎、胎位異常、回旋異常、児頭骨盤不均衡などがあります。
これらは分娩の進行を妨げることがあり、過剰な負荷がかかってしまうことから自然子宮破裂へと繋がります。
③外傷性子宮破裂
急速に分娩が進行したり、陣痛が強いあまり胎児に負荷がかかったり、吸引分娩や鉗子分娩を行ったり、交通事故の外傷などによって引き起こされるのが外傷性子宮破裂です。
子宮破裂の特徴
3つの種類をご紹介しましたが、どれにも共通していることは「突発的におこる」ということです。どれもスピーディーで且つ適切な対処が必要であるにもかかわらず、現時点ではいまだに早期発見がしづらい病気です。
子宮破裂のリスクが高まるのは下記のような原因が挙げられます。
- 過去に帝王切開の経験がある
- 自然に陣痛が起こったのではなく、陣痛が薬などによって人工的に開始された場合
- 過去に子宮に関してなんらかの手術をした経験がある
- 羊水量が多すぎる場合や多胎妊娠など、子宮が過度に拡張している
- 分娩時に胎児の姿勢に異常があり、胎児を回転させなければならない場合
また、子宮破裂の際には激しい腹痛、性器出血、顔面蒼白、血圧低下、胎児心拍の異常といったさまざまな症状を伴うことがあります。
症状の重さは、子宮の内側だけが破裂する不全子宮破裂と、子宮の外側まで破裂する完全子宮破裂に分けられます。
子宮が破裂することでお腹に大量の出血が起こったり、分娩が止まったり、胎盤の血流が途絶えることにより胎児が危険な状態に陥ったります。また、出血量が多いと播種性血管内凝固症候群や出血性ショックを引き起こすこともあります。
播種性血管内凝固症候群とは、通称DICと呼ばれており全身の血管に血栓ができたり、出血しやすくなったりした状態のことを指します。出血性ショックは、大量の出血により全身に十分な酸素がいきわたらない状態を指します。
子宮破裂の発生率
先述した通り、特にリスクの無い出産の場合の発症率は0.05%程度ですが、帝王切開を経験したことのある経腟分娩では0.2〜0.7%程度になります。リスクの無い出産に比べて5〜10倍に膨れ上がります。
しかし、最近では帝王切開後経腟分娩も減っているので、子宮破裂が発生するのは年間で数件程度です。実際に産科医の先生でも、10年に2〜3回経験をしたくらいの頻度です。
また、その中でも完全子宮破裂のように緊急手術が必要になるほど重症になることもごく稀であることから、「出産する時に子宮破裂をしたらどうしよう」と過度な心配をする必要はないと言えます。
とは言っても、子宮破裂を経験した方も「まさか自分が子宮破裂するなんて」と思ったに違いありません。ここからは、子宮破裂を防ぐ方法があるのかどうかについてや、治療方法についてご説明します。
子宮破裂の検査・診断方法
子宮破裂は触診・超音波検査・胎児心拍陣痛図で検査・診断をすることができます。
触診
触診では、収縮輪の有無を確認します。収縮輪とは、分娩が進んだときにできるもので、収縮して壁が厚くなった子宮体部と、伸展して壁が薄くなった子宮下方の間にできた輪状の溝のことです。
収縮輪自体には問題がありませんが、この境がへそ近くまで上昇すると子宮破裂の危険性が高まります。
超音波検査
超音波検査は、腹部超音波検査と経腟超音波検査の2種類があり、子宮破裂による出血や、子宮の形を調べる検査です。
腹部超音波検査は、機械をお腹にあてることによって腹部の状態を調べます。経腟超音波検査では、専用のカバーをつけた状態のプローブと呼ばれる細い棒を膣の中に入れて状態を調べます。
胎児心拍陣痛図(CTG)
胎児心拍陣痛図はCTGとも呼ばれており、X線を用いて体内の状態を画像として調べる検査です。胎児の心音が低下しているかどうかを確認します。
子宮破裂の治療方法
子宮破裂は突発性のものであるため、発症した際いかにスピーディー且つ的確に対処するかが大事であることは先に伝えました。
では、実際に発症した際はどのような治療が施されるのでしょうか。母子の安否も気になるところです。ここからは、子宮破裂が発症した際の治療方法についてご説明します。
完全子宮破裂を発症した際の治療方法
完全子宮破裂を発症した場合は、胎児の死亡率は高くなります。そのため、速やかに帝王切開を行い胎児の救命を行うことが大事になります。
母体に関しては、出血が多量になるため播種性血管内凝固症候群などの合併症を引き起こすことが多いです。そのため帝王切開をすすめながら輸血をする必要があります。また、同時に破裂した損傷部を縫い合わせる必要があります。
しかし、この損傷部の縫い合わせ時にも出血が止まらない場合は子宮を全摘出することもあります。
不全子宮破裂を発症した際の治療方法
完全子宮破裂は分娩中に対処するのに対して、不全子宮破裂の場合は分娩後に対応となることがあります。
理由としては、症状が完全子宮破裂のように明確ではなく、分娩後に診断されることがあるからです。分娩後も母子ともに健康であることも多いです。
ただし、無症状のまま出血が広がっていくこともあるため、産後は経過観察が必要となります。分娩後に出血が止まらない場合は子宮の全摘出や損傷部を縫い合わせるなど手術が必要となることもあります。
ただ、最近の医療では子宮につながる動脈を一時的に遮断することによって子宮を残したまま治療をすることができる場合もあります。
母子の命を救うためにさまざまな方法が取られますが、場合によっては救命がかなわないこともあります。
子宮破裂を防ぐ方法
子宮破裂を引き起こす原因はさまざまであり、また医師であっても子宮破裂するかどうかを事前に予測することが困難です。
ただ、病院によっては帝王切開の経験がある方に対して、経膣分娩ではなく帝王切開での出産を進めます。
一度メスを入れたところはどうしても組織が弱くなってしまうため、膨らんだ子宮に負荷がかかった際の子宮破裂を懸念します。
先述した通り、帝王切開を経験したことのある経腟分娩では子宮破裂を引き起こす可能性が0.2〜0.7%程度と高くありません。しかし、万が一子宮破裂を引き起こした際のことを考えて帝王切開を進められるのです。
子宮破裂が起こった際の母体の生存率は99〜98%ですが、胎児の生存率は20%程度まで下がります。また、たとえ生存したとしても脳性まひや精神遅延といった重篤な後遺症が残る確率が高いです。
母子の安全を第一に考え、敢えて最初から帝王切開を選択するという方法もあるのです。
まとめ
子宮破裂の知識をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。発症する可能性は低いですが、発症してしまうと母子ともに命を落とす危険性が高い恐ろしい病気なのが、子宮破裂です。
さらには、早期発見をすることが難しい病気でもあるため、事前に予防することや、自分が比較的発症しやすいのかどうかを知っておくことで回避できることもあります。
だからこそ、安心して出産ができるよう自分自身やご家族にも子宮破裂の危険性をしっかり理解してもらい、どのような形で出産をするのかきちんと話し合うことが大事なのです。