目次
卵巣エコーとは、超音波で卵巣の大きさ・形・内部の様子を画像にする検査で、婦人科では主に腟から細い器具を入れる経腟超音波検査で行います。正常な卵巣は子宮の左右に楕円形に写り、中には「黒い丸」に見える卵胞がいくつも並んでいます。黒い丸の多くは月経周期に伴う生理的な変化で、それ自体が病気を意味するわけではありません。一方で、エコーだけで良性か悪性かを確定することはできず、症状のない人が定期的にエコーを受けても卵巣がんで亡くなる人は減らないことが、大規模な試験で示されています。この記事では、卵巣の働きをふまえながら、正常な卵巣の見え方、画像の黒い丸・白い影の意味、エコーでわかる病気と検査の限界、そして遺伝性腫瘍との関係までを解説します。
Q. 卵巣エコーで何がわかりますか?
A. 卵巣の大きさと形、月経周期で変わる卵胞や黄体、嚢胞や腫瘍の有無とその内部の性状、お腹の中の液体(腹水)などがわかります。ただし、エコーは「怪しいかどうか」を見分ける検査で、良性か悪性かの最終的な判断はMRIや腫瘍マーカー、手術で取り出した組織の病理検査で行います。「エコーで異常なし」は、卵巣がんが決してないという意味ではありません。
- ➤正常な卵巣 → 閉経前の平均体積は約5cm³、閉経後は約2cm³と小さくなる
- ➤黒い丸 → 液体のしるし。多くは卵胞・黄体・機能性嚢胞
- ➤白い影 → 脂肪・石灰化・血液・充実した組織などが強く反射した像
- ➤検診の限界 → 症状のない人への卵巣がん検診は死亡率を下げなかった
- ➤遺伝の視点 → BRCA1/2の病的バリアントがある人でも、エコー頼みの検診には限界がある
1. 卵巣エコー(経腟超音波検査)とは
卵巣エコーは、超音波を体に当て、はね返ってきた反射を白黒の濃淡で画面に映し出して、卵巣の状態を調べる検査です。婦人科では、子宮・卵巣・卵管の周囲をまとめて観察するのが普通で、卵巣だけを単独で調べることはほとんどありません。そのため「子宮卵巣エコー」「経腟エコー」「婦人科の超音波検査」などとも呼ばれます。
仕組みを知っておくと、あとで説明する「黒い丸」「白い影」の意味がわかりやすくなります。超音波は、性質の違う組織の境目で反射します。水のような液体は音をほとんど反射せずに通すため、画面では黒く写ります(無エコー)。反対に、脂肪の塊、石灰化、骨、空気との境目などは音を強く反射するため白く写ります(高エコー)。筋肉や卵巣の実質のような普通の組織は、その中間の灰色です。エコー画像は、体の中を「どれだけ音をはね返すか」で塗り分けた地図だと考えると理解しやすいでしょう。
また、エコー画像は体を薄く輪切りにした断面です。プローブ(超音波を出して受け取る器具)の向きや角度を変えながら、何枚もの断面をつなぎ合わせて立体を把握します。検査後に渡される1枚の写真だけでは全体像がわからないのは、このためです。超音波は放射線を使わないため、被ばくの心配はなく、妊娠中でも受けられます。
💡 用語解説:経腟超音波検査(けいちつちょうおんぱけんさ)
細い棒状のプローブに使い捨てのカバーとゼリーをつけて腟に入れ、腟の奥から子宮や卵巣を観察する検査です。卵巣までの距離が数cmと近いため、高い周波数の超音波を使うことができ、数mmの卵胞や嚢胞の壁の細かな凹凸まで見分けられます。英語では transvaginal ultrasound(TVUS)と呼ばれます。
経腟・経腹・経直腸の違い(性交経験がない場合)
お腹の上から当てる経腹エコーでも卵巣が見えることはありますが、腸のガスや距離の影響で、経腟エコーより画像の細かさは落ちます。卵巣は骨盤の深い位置にあり、お腹の表面からは距離があります。経腹エコーでは、遠くまで届くように周波数の低い超音波を使うため、小さな卵胞や嚢胞の内部構造は見えにくくなります。
経腹エコーを行うときは、必要に応じて膀胱に尿をためて膨らませ、腸を視野の外に押しやって骨盤の中を見やすくします。反対に、経腟エコーでは膀胱は空にしておくことが望ましいとされています[1]。膀胱がいっぱいだと子宮や卵巣が押しやられ、プローブの先から遠ざかってしまうためです。
性交の経験がない人や、腟に器具を入れることに強い抵抗がある人、腟が狭い人では、経腹エコーで調べます。経腹で十分に見えない場合は、肛門から細いプローブを入れる経直腸エコーを行う施設もあります。直腸は子宮や卵巣のすぐ後ろにあるため、経腟に近い画質が得られます。どの方法で検査するかは、希望を伝えたうえで医師と相談して決めることができます。
なお、人間ドックの「腹部エコー」は、肝臓・胆のう・膵臓・腎臓など上腹部の臓器を主な対象にしていることが多く、骨盤の中の卵巣まで評価するかどうかは施設によって異なります。卵巣を調べたい場合は、婦人科の経腟エコーが含まれているかを確認するとよいでしょう。
検査の流れ・時間と痛み
経腟エコーの痛みは、多くの場合「押される感じ」や軽い違和感の程度です。プローブは細い棒状のもので、表面にゼリーを塗ったカバーをかぶせて、ゆっくり挿入します。
一般的な流れは、下着を外して内診台に座り、脚を開いた姿勢でプローブを入れる、というものです。医師はプローブの角度を変えながら子宮、左右の卵巣、ダグラス窩(子宮の後ろのくぼみ)などを順に観察し、必要な部位の大きさを測ります。観察そのものは数分から十数分ほどで終わることが多く、画面を見ながら説明を受けられる施設もあります。
強い痛みを感じる場合は、我慢せずに伝えてください。子宮内膜症や癒着、骨盤内の炎症があると押されて痛むことがあり、痛む場所そのものが診断の手がかりになります。ゆっくり息を吐いてお腹の力を抜くと楽になります。
受ける前の準備:経腟は排尿後、経腹は膀胱を満たして
経腟エコーは検査の直前にトイレを済ませてから、経腹エコーは指示に従って尿をためてから受けます。「エコーの前は尿をためておく」とよくいわれますが、これは経腹エコーの準備です。経腟エコーでは膀胱は空のほうが望ましく[1]、尿がたまっていると画像が見にくくなるうえ、プローブで膀胱が圧迫されて不快に感じやすくなります。
経腹エコーでは、検査の1時間ほど前から水分をとって排尿を控えるよう指示されることがあります。どちらの方法で行うか事前にわからない場合は、受付で確認しておくとよいでしょう。服装は、下半身だけ脱ぎ着しやすいスカートや、上下が分かれた服が便利です。
月経周期のどの時期に受けるか
卵巣の見え方は月経周期で変わるため、検査の目的によって適した時期が異なります。後で詳しく述べるように、卵巣の中では周期ごとに卵胞が育ち、排卵後は黄体に変わります。そのため、ある時期に見つかった数cmの袋状の構造が、次の周期には消えていることも珍しくありません。
全体を確認する目的なら、時期を厳密に選ばなくても検査できます。一方、嚢胞の経過を見る場合は、生理的な変化かどうかを確かめるため、数週間後や次の月経が終わった頃に再検査をすることがあります。不妊治療の「卵胞チェック」は、周期の決められた日に行います。
2. 正常な卵巣はエコーでどう見える?
正常な卵巣は、子宮の左右に見える灰色の楕円形の構造で、中に小さな黒い丸(卵胞)がいくつも並んで見えます。閉経前の平均体積は約4.9cm³、閉経後は約2.2cm³です[2]。卵胞が液体で満たされた袋であるため黒く写り、その周りの卵巣の組織は灰色に写ります。この「灰色の楕円の中に黒い粒が散らばる」像が、生殖年齢の正常な卵巣の典型です。
米国で13,963人の女性の卵巣を経腟エコーで延べ58,673回測定した研究では、卵巣の体積は年齢とともに小さくなり、閉経前と閉経後で明らかな差がありました[2]。同じ研究では、正常の上限の目安として、閉経前は20cm³、閉経後は10cm³が示されています。
正常な卵巣の大きさと形
卵巣の大きさは、縦・横・厚さの3方向を測り、そこから体積を計算して評価します。体積は「縦×横×厚さ×0.523」という楕円体の近似式で求めることが多く、たとえば3cm×2cm×1.5cmの卵巣なら約4.7cm³になります。閉経前の平均的な卵巣は、おおよそこのくらいの大きさです。
📏 経腟エコーで測った卵巣体積の目安
| 区分 | 平均体積 | 正常の上限の目安 | 見え方の特徴 |
|---|---|---|---|
| 閉経前 | 約4.9cm³ | 20cm³ | 卵胞が並び、周期で大きさが変わる |
| 閉経後 | 約2.2cm³ | 10cm³ | 卵胞がほぼなく、小さく均一な灰色 |
※数値は13,963人・延べ58,673回の測定に基づく報告[2]。体格や測定方法、月経周期の時期によって変わります。
ただし、この数値はあくまで集団の目安です。卵巣は周期の中で大きさが変わり、排卵前に卵胞が大きく育っている時期や、排卵後に黄体ができている時期には、一時的に大きく測定されます。左右で大きさが違うことも普通です。1回の測定値だけで「大きい」「小さい」と判断するのではなく、内部に何が見えるか、前回と比べてどう変わったかを合わせて評価します。
月経周期で変わる見え方:卵胞が育ち、排卵し、黄体になる
閉経前の卵巣は、1回の月経周期の中で「小さな卵胞がたくさん」→「1つの卵胞が大きく育つ」→「排卵して黄体になる」と姿を変えます。月経が終わった頃の卵巣には、直径数mmほどの小さな卵胞(胞状卵胞)が複数見えます。この中から1つが選ばれて大きく育ち(主席卵胞)、排卵が近づくと他の卵胞よりはっきり大きな黒い丸として写ります。
排卵すると、卵胞は黄体に変わります。黄体は、排卵後の卵胞の壁から作られ、妊娠を支えるホルモン(プロゲステロン)を分泌する組織です。エコーでは壁がやや厚い袋状に見え、内部に血液を含んで網目状やもやもやした模様に見えることもあります。妊娠しなければ黄体は小さくなり、次の周期に備えます。
米国放射線学会の卵巣・付属器の画像評価の枠組み(O-RADS US)では、閉経前の女性で見られる3cm以下の卵胞と黄体は、生理的な正常所見(O-RADS 1)に分類されます[3]。つまり、「卵巣に黒い丸がある」「袋のようなものがある」と言われても、それが3cm以下の卵胞や黄体であれば、正常な卵巣の働きそのものを見ていることになります。
月経が始まった頃に数える胞状卵胞の数(AFC)は、卵巣に残っている卵子の量のおおまかな目安として、不妊治療で使われます。この考え方は卵巣予備能の解説で詳しく扱っています。
💡 用語解説:卵胞(らんぽう)と黄体(おうたい)
卵胞は、卵子を包んでいる袋状の構造で、中は卵胞液という液体で満たされています。卵子そのものは直径約0.1mmと小さく、エコーでは見えないため、エコーで見ているのは卵子ではなく卵胞です。黄体は、排卵後の卵胞が変化してできる組織で、プロゲステロンを分泌して子宮内膜を妊娠に適した状態に整えます。
閉経後の卵巣と「エコーで卵巣が見えない」理由
エコーで卵巣が見えないのは、閉経後で卵巣が小さくなっている、腸のガスに隠れている、位置が高いなどの理由によることが多く、それだけで異常を意味するわけではありません。閉経後は卵胞がほとんどなくなり、卵巣の平均体積は約2.2cm³まで小さくなります[2]。黒い丸という目印がなくなるうえ、周りの腸と同じような灰色に見えるため、見つけにくくなります。
閉経前でも、卵巣が子宮の後ろや骨盤の高い位置にある場合、腸のガスが超音波をさえぎる場合、大きな子宮筋腫に隠れる場合には、片方または両方が描出できないことがあります。手術で卵巣を取っている場合も当然写りません。痛みや腫れなどの症状がなく、見えなかった理由が説明できる場合は、次回の検査で改めて確認することが一般的です。
閉経後に小さな嚢胞が見つかることもあります。O-RADS USでは、閉経後の女性の3cm以下の単純な嚢胞(壁が薄く中が均一に黒いもの)は、追加の経過観察を必要としないとされています[3]。3cmを超える単純な嚢胞では、大きさが変わらないか、小さくなっていくかを少なくとも1年間確認することが推奨されています。
3. エコー画像の「黒い丸」「白い影」は何?
黒い丸は「中身が液体の袋」、白い影は「音を強くはね返すもの(脂肪・石灰化・血液の塊・充実した組織など)」を表しています。第1章で説明したとおり、エコーの白黒は、その場所がどれだけ音を反射するかで決まります。色だけで病名が決まるわけではありませんが、白黒のパターンは、中身が何かを推定する大きな手がかりになります。
🔍 エコー画像の見え方と主な正体
| 見え方 | 主な正体 | 一般的な対応 |
|---|---|---|
| 小さな黒い丸がいくつか | 卵胞(正常) | 生理的な所見 |
| 3cm以下の黒い丸・壁の厚い袋 | 主席卵胞・黄体(正常) | 生理的な所見 |
| 壁が薄く中が均一に黒い大きめの袋 | 機能性嚢胞・単純な嚢胞 | 大きさや年齢に応じて経過観察 |
| 黒い丸が非常にたくさん | 多嚢胞性卵巣(PCOM) | 月経やホルモンの状態と合わせて評価 |
| 中が均一にすりガラス状 | 子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞) | 症状や大きさに応じて検討 |
| 強く白い部分と後ろの影 | 皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫) | 大きさや症状に応じて検討 |
| 袋の中の不整な白い塊・血流 | 充実部分のある腫瘍 | MRIなどで詳しく評価 |
※一般的な傾向をまとめたもので、個々の画像の判断は検査を行った医療機関で確認してください。所見の分類はO-RADS US[3]などに基づきます。
黒い丸は液体:卵胞・黄体・機能性嚢胞がほとんど
卵巣の中の黒い丸は液体がたまった袋を表しており、その多くは卵胞・黄体、あるいは排卵の過程で一時的にできる機能性嚢胞です。黒く見えるのは、液体が超音波をほとんど反射しないためです。卵胞液で満たされた卵胞は、まさにこの典型です。
排卵がうまくいかずに卵胞がそのまま大きくなった「卵胞嚢胞」や、黄体の中に液体や血液がたまった「黄体嚢胞」は、機能性嚢胞と呼ばれます。ホルモンの変化に伴って生じたものなので、多くは数週間から数か月のうちに自然に小さくなります。壁が薄く、中が均一に黒く、仕切りや盛り上がりのない単純な嚢胞は、O-RADS USでは悪性の可能性が1%未満の「ほぼ確実に良性」に分類されます[3]。
一方で、同じ黒い袋でも、壁の一部が不整に盛り上がっている、仕切りが厚い、内部に血流のある白い部分がある、といった特徴があれば、単純な嚢胞とは別に評価します。機能性嚢胞の種類や経過は卵巣嚢胞(機能性嚢胞)の解説で詳しく扱っています。
黒い丸がたくさん見える:多嚢胞性卵巣の所見
小さな黒い丸が非常にたくさん見える状態は「多嚢胞性卵巣(PCOM)」と呼ばれ、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断項目の1つです。ただし、この所見だけでPCOSと診断されるわけではありません。
2023年の国際ガイドラインでは、成人で、高い周波数の経腟エコーを使って片方の卵巣に直径2〜9mmの卵胞が20個以上ある場合を、多嚢胞性卵巣の基準としています[4]。画像の質が十分でない場合などは、卵巣の体積10mL以上を代わりの目安にできます。成人では、血液検査の抗ミュラー管ホルモン(AMH)を卵巣所見の代わりに使うこともできますが、AMHだけでPCOSと診断してはいけないとされています。思春期では多嚢胞性卵巣の形態が生理的変化と重なりやすいため、超音波所見やAMHをPCOSの診断に用いることは推奨されていません。PCOSの特徴があるものの診断基準を満たさない場合は「リスクが高い状態」として、初経から8年後までの生殖成熟期に再評価することが推奨されています[4]。
PCOSは、排卵が起こりにくい(月経不順・無月経)、男性ホルモンが多い(にきびや多毛、血液検査での高値)、多嚢胞性卵巣、の3つのうち2つ以上があり、ほかの病気が除外されたときに診断されます[4]。月経が順調で、ホルモンの異常もない人のエコーで卵胞が多く見えても、それだけで病気とはいえません。症状や診断基準、治療については多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の解説をご覧ください。
白い影・すりガラス状:脂肪・石灰化・血液
卵巣の中の白い影は、脂肪・髪の毛・石灰化・血液・充実した組織など、液体より音を強く反射するものがあるしるしです。白い部分の形や並び方によって、推定できる正体が変わります。
代表的なのが皮様嚢腫(ひようのうしゅ)で、正式には成熟嚢胞性奇形腫と呼ばれます。内部に脂肪や髪の毛、歯などを含むため、強く白い部分とその後ろに伸びる影(音響陰影)、髪の毛を表す白い線や点が特徴的に見えます[3]。多くは良性で、若い女性の卵巣腫瘍として比較的よく見られます。
子宮内膜症の組織が卵巣の中で出血を繰り返してできる子宮内膜症性嚢胞(いわゆるチョコレート嚢胞)は、古い血液が溜まっているため、袋の中全体が均一に細かく白っぽい「すりガラス状」に見え、内部に血流はありません[3]。排卵後の黄体に出血した出血性嚢胞も、網目状やゼリー状の模様に見えることがあり、こちらは数週間のうちに姿を変えたり消えたりします。
注意が必要なのは、袋の壁から内側に向かって盛り上がる白い塊(乳頭状の突起)や、不整な形の白い充実部分で、カラードプラという血流を色で示す機能で内部に血流が見られる場合です。こうした所見は悪性の可能性を考えて詳しく調べる理由になります。詳しい見分け方は第5章で説明します。
🩺 院長コラム【「黒い丸がある」と言われたら、所見名と大きさを確かめる】
エコーの写真に黒い丸が写っていても、生殖年齢では卵胞などの生理的な構造であることがあります。大切なのは「黒いか白いか」だけではなく、それが卵胞なのか、嚢胞なのか、何cmなのか、中に白い部分や血流があるのか、という情報です。
検査を受けたときは、医師が何という所見名をつけたか、大きさは何cmか、次にいつ確認するのかを聞いておくと、次の検査の結果と比べることができます。エコーでは1回の画像だけでなく、必要に応じて時間をおいた変化を比較することが診断に役立ちます。
4. 卵巣エコーでわかる病気
卵巣の腫れや嚢胞、腫瘍、お腹の中の液体(腹水)など、卵巣の形の異常の多くはエコーで見つけることができます。卵巣はお腹の奥にあり、ある程度大きくなるまで症状が出にくいため、別の目的で受けたエコーで偶然見つかることもよくあります。一方で、見つかった腫れが良性か悪性かを決めるのはエコーの役割の一部にすぎず、最終的な判断には別の検査が必要です。この章では、エコーで見つかる主な病気を整理します。
卵巣嚢腫(漿液性・粘液性・皮様・チョコレート)
卵巣嚢腫は、卵巣の中に液体などがたまった袋状の良性腫瘍で、中身によっていくつかの種類に分けられます。機能性嚢胞がホルモンの変化による一時的なものであるのに対し、嚢腫は自然には消えにくい腫瘍です。代表的な種類は次のとおりです。
- 漿液性嚢腫(しょうえきせいのうしゅ):さらさらした水のような液体がたまるもの。エコーでは中が黒く均一に写ることが多い
- 粘液性嚢腫(ねんえきせいのうしゅ):卵の白身のような粘液がたまるもの。仕切りで区切られた多数の部屋(多房性)に見え、大きくなりやすい
- 皮様嚢腫(成熟嚢胞性奇形腫):脂肪・髪の毛・歯などを含むもの。強い白い部分と音響陰影が特徴
- 子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞):子宮内膜症によって古い血液がたまるもの。すりガラス状に見える
「卵巣に水が溜まっている」と説明されることが多いのは漿液性の嚢胞や嚢腫で、詳しくは漿液性嚢腫の解説で扱っています。子宮内膜症に伴う嚢胞は、月経痛や不妊との関係、まれながん化の問題などがあり、チョコレート嚢胞の記事で詳しく説明しています。嚢腫がある程度大きい場合、卵巣がねじれる茎捻転の原因になることもあります。
卵巣腫瘍:良性・境界悪性・悪性
卵巣腫瘍は、性質によって良性・境界悪性・悪性(卵巣がん)の3つに分けられ、エコーはこのうちどれに近いかを見積もる最初の手段です。卵巣腫瘍の多くは良性ですが、形だけで完全に区別することはできません。
境界悪性腫瘍は、良性と悪性の中間の性質を持つ腫瘍で、細胞には異型(形の乱れ)があるものの、周りの組織に深く入り込む力(浸潤)が乏しいものを指します。若い年齢で見つかることも多く、エコーでは乳頭状の突起を持つ嚢胞として見えることがあります。悪性腫瘍(卵巣がん)は、充実部分が多い、形が不整、血流が豊富、腹水を伴う、といった特徴を示すことがあります。
腫瘍は、卵巣のどの細胞から生じたかによっても性質が異なります。種類ごとの特徴や治療は卵巣腫瘍の種類と診断の解説をご覧ください。
急な腹痛の原因:茎捻転・卵巣出血・卵巣の腫れ
急な下腹部痛で受診したときにも、エコーは卵巣の病気を探す最初の検査として使われます。代表的なのは、卵巣の茎捻転(けいねんてん)と卵巣出血です。
卵巣茎捻転は、腫れて重くなった卵巣が、根元の靱帯や血管ごとねじれてしまう状態です。血流が途絶えると卵巣が傷むため、緊急の対応が必要になることがあります。エコーでは、腫れた卵巣や、もとになった嚢腫が見つかる手がかりになります。ただし、ねじれていても血流が残っているように見えることがあり、エコーの所見だけで捻転を否定することはできません。
卵巣出血は、排卵や黄体から出血が起こり、お腹の中に血液がたまる状態です。エコーでは、子宮の後ろのくぼみ(ダグラス窩)などにたまった液体として写ります。ストレスやホルモンの影響も含め、卵巣が腫れる原因は幅広いため、卵巣が腫れる原因の記事もあわせて参考にしてください。
⚠️ すぐに受診が必要な症状
突然の強い下腹部痛、痛みで動けない、吐き気や嘔吐を伴う、冷や汗やふらつきがある、といった場合は、卵巣の茎捻転や出血の可能性があります。検診の予約を待たずに、早めに医療機関(夜間や休日は救急外来)を受診してください。
同時にわかる子宮の病気と腹水
卵巣エコーでは、子宮や骨盤の中の液体も同時に観察するため、子宮筋腫や子宮内膜の厚さの異常、腹水なども見つかります。経腟エコーは、子宮と卵巣をひと続きに見る検査だからです。
子宮筋腫は、子宮の筋肉からできる良性の腫瘍で、エコーでは子宮の壁の中の丸い塊として写ります。大きさや数、できている場所がわかります。子宮内膜の厚さは、特に閉経後に不正出血がある場合に重要な情報で、内膜が厚くなっていれば子宮体がんなどを調べるための追加検査が検討されます。
腹水は、排卵の前後などにごく少量見られることがあり、それだけでは異常とはいえません。一方、量が多い場合や、卵巣の腫瘍と一緒に見られる場合は、原因を詳しく調べます。液体の量や性状、同時に見つかった所見との組み合わせで意味が変わります。
5. 良性か悪性か:エコーで見るポイントと次の検査
エコーで良性か悪性かを見積もるときは、袋の中身が液体だけか、充実した部分があるか、壁や仕切りの形、血流の多さ、腹水の有無などを組み合わせて判断します。現在は、こうした所見を決まった用語で記録し、悪性の可能性の高さを段階で表す国際的な方法が使われています。
米国放射線学会が2019年に公表したO-RADS USは、卵巣・付属器の病変をO-RADS 0〜5の6段階に分け、段階ごとに悪性の可能性と推奨される対応を示しています[3]。国際卵巣腫瘍解析(IOTA)グループが作ったSimple Rulesも、世界中で使われている判定法です[5]。
📊 O-RADS USの分類と悪性の可能性
| 分類 | 意味 | 悪性の可能性 |
|---|---|---|
| O-RADS 0 | 評価不十分(見えにくいなど) | 判定できない |
| O-RADS 1 | 正常な卵巣(閉経前の卵胞・黄体など) | 生理的な所見 |
| O-RADS 2 | ほぼ確実に良性 | 1%未満 |
| O-RADS 3 | 低リスク | 1%以上10%未満 |
| O-RADS 4 | 中間リスク | 10%以上50%未満 |
| O-RADS 5 | 高リスク | 50%以上 |
※O-RADS US(米国放射線学会)[3]による。悪性の可能性は、その分類に入る病変の集団での割合で、個人の確率ではありません。
💡 用語解説:O-RADS(オーラッズ)
Ovarian-Adnexal Reporting and Data System の略で、卵巣や付属器(卵管など)の病変について、画像所見の表現と悪性の可能性の見積もりをそろえるための分類です。施設や医師によって報告の言葉がばらつくのを防ぎ、経過観察でよいのか、詳しい検査や専門施設での評価が必要なのかを判断しやすくする目的で作られました。乳がん検診のBI-RADSと同じ考え方です。
注意すべき所見:充実部分・厚い隔壁・乳頭状の突起・血流・腹水
悪性を考える手がかりになるのは、不整な形の充実部分、壁から内側への乳頭状の突起、厚い仕切り、豊富な血流、腹水などです。反対に、中が均一に黒い単純な嚢胞、皮様嚢腫に特徴的な白い部分と音響陰影、血流がないことなどは、良性を示す手がかりになります[3]。
IOTAのSimple Rulesは、良性らしい特徴5つ(Bルール)と悪性らしい特徴5つ(Mルール)のどちらに当てはまるかで判定する方法です。最初の研究では、1,066人・1,233個の手術で摘出された卵巣・付属器の腫瘤を対象に、76%の腫瘤を良性か悪性かに分類でき、そのうち悪性を見つける感度は93%、良性を正しく良性と判定する特異度は90%でした[5]。
この結果は、裏を返せば残りの約4分の1は判定できない、ということでもあります。判定できない場合は、経験豊富な検査者による評価やMRIなど、別の方法で詳しく調べます。また、感度93%というのは、手術が必要と判断された腫瘤の集団で得られた数字であり、症状のない人を検診したときに見逃しがどのくらいあるかを示すものではありません。
「異常あり」と言われたら:MRI・CA125・経過観察
エコーで異常を指摘されたときの次の一歩は、所見の種類によって、時間をおいた再検査、MRI、腫瘍マーカー(CA125など)の測定、専門施設での評価のいずれかになります。「異常あり」がすぐに「がんの疑い」を意味するわけではありません。
機能性嚢胞が疑われる場合は、数週間後や次の月経周期のあとに再検査をして、小さくなっているかを確認します。消えていれば生理的な変化だったと考えられます。皮様嚢腫やチョコレート嚢胞が疑われる場合や、エコーだけでは判断しにくい場合には、MRIで脂肪や血液の有無、充実部分の性状を詳しく調べます。MRIは組織の性質の違いを捉えるのが得意で、エコーで判断に迷う病変の評価に役立ちます。
CA125は卵巣がんで上がることがある腫瘍マーカーですが、閉経前では子宮内膜症や月経、妊娠、腹膜の炎症などでも上がることがあり、反対に早期の卵巣がんでは正常のこともあります。そのため、CA125だけで卵巣がんを診断したり否定したりすることはできず、エコーやMRIの所見と組み合わせて判断します。
最終的に良性か悪性かが確定するのは、手術で取り出した組織を顕微鏡で調べる病理検査です。卵巣は体の奥にあり、がんの可能性がある腫瘍に針を刺して組織を取ると、がん細胞がお腹の中に広がるおそれがあるため、手術前に組織を確認することは通常行いません。
💡 用語解説:腫瘍マーカー CA125(シーエー125)
血液中で測るたんぱく質の一種で、卵巣がん、特に漿液性がんで高くなることが多い物質です。一方で、子宮内膜症、子宮筋腫、月経、妊娠、腹膜炎、胸水や腹水がたまる病気などでも上がることがあり、「高い=がん」「正常=がんではない」とはいえません。画像検査の所見と組み合わせて解釈する補助的な検査です。
6. 卵巣がんはエコーでわかる?検診の限界
卵巣がんはエコーで異常な腫瘤として見つかることがありますが、症状のない女性に定期的にエコーや腫瘍マーカーの検診を行っても、卵巣がんで亡くなる人は減らないことが大規模な試験で示されています。「見つけられること」と「命を救えること」は別の問題だという点が、卵巣がん検診を考えるうえでの出発点になります。卵巣がんそのものの症状や治療は卵巣がんの症状と治療の記事で解説しています。
症状のない女性の卵巣がん検診は死亡率を下げなかった
英国で行われた最大規模の卵巣がん検診の試験(UKCTOCS)では、エコーや腫瘍マーカーによる検診で早期のがんは増えたものの、卵巣がん・卵管がんによる死亡は減りませんでした[6]。
この試験では、閉経後の50〜74歳の女性202,562人を、CA125の推移を見て必要時にエコーを行う「多段階検診」、毎年の経腟エコーによる「エコー検診」、「検診なし」の3群に分け、中央値16.3年追跡しました[6]。多段階検診群では検診なしの群と比べて、I期・II期で見つかるがんが39.2%増え、III期・IV期のがんは10.2%減りました。それでも、卵巣がん・卵管がんによる死亡は、どちらの検診群でも有意に減りませんでした。研究チームは、一般の女性を対象とした卵巣がん検診は推奨できないと結論しています。
米国の大規模試験(PLCO)でも、55〜74歳の女性78,216人を対象にCA125と経腟エコーによる検診を行いましたが、卵巣がんによる死亡は減りませんでした(死亡率比1.18)[7]。さらにこの試験では、検診で異常とされたががんではなかった「偽陽性」が3,285人に生じ、そのうち1,080人が確認のための手術を受け、163人(手術を受けた人の15%)に少なくとも1つの重い合併症が起きました[7]。
これらの結果をふまえ、米国予防医療専門委員会(USPSTF)は、症状がなく、遺伝性のがん症候群を持つことがわかっていない女性に対する卵巣がん検診を推奨しない(D推奨)としています[8]。
📋 卵巣がん検診の主な大規模試験
※いずれも症状のない一般の女性を対象とした試験です。症状がある人の診断目的のエコーとは位置づけが異なります。
ここで区別しておきたいのは、「症状のない人を対象にした検診」と「症状がある人の診断のための検査」の違いです。お腹の張りが続く、下腹部痛、急な腹囲の増加、食欲の低下、頻尿などが続く場合に行うエコーは、原因を探すための診断の検査であり、検診の有効性の議論とは別のものです。気になる症状が続くときは、検診を待たずに婦人科を受診してください。
婦人科検診と卵巣エコーの関係:子宮頸がん検診との違い
自治体の「婦人科検診」として行われるのは主に子宮頸がん検診で、卵巣エコーは含まれていないのが一般的です。国の指針に基づく子宮頸がん検診は、20歳以上の女性に2年に1回の細胞診を行うもので、2024年4月からは、体制などの要件を満たした自治体でHPV検査単独法(5年に1回)も導入されています[9]。
子宮頸がん検診は、子宮の入り口の細胞を採って、がんになる前の変化を見つけることを目的とした検査で、卵巣の状態はわかりません。一方、卵巣がんについては、国の指針に基づく自治体のがん検診の対象に含まれていません。人間ドックや職場の健診で経腟エコーがオプションとして用意されていることはありますが、これは卵巣がんで亡くなる人を減らす効果が確かめられた検診ではない、という点を理解したうえで受けることになります。
経腟エコーは、子宮筋腫や卵巣嚢腫など良性の病気を見つけるきっかけにはなりますが、小さな所見が見つかったことで追加の検査や経過観察が必要になる面もあります。子宮頸がんとその検診については子宮頸がん検診の記事で詳しく説明しています。
7. 遺伝の視点:家族に卵巣がん・乳がんが多い人へ
卵巣がんの一部は、生まれつき持っている遺伝子の病的バリアント(病気の原因になる遺伝子の変化)が関わって起こります。こうした遺伝性のリスクが高い人でも、エコーと腫瘍マーカーによる定期検査だけで卵巣がんを早期に見つけることは難しいとされています。家族に卵巣がんや乳がんが多い場合は、エコーの結果とは別に、遺伝の視点からリスクを考えることが大切になります。
HBOC・リンチ症候群と卵巣がんのリスク
卵巣がんのリスクを大きく高める代表的な遺伝性腫瘍が、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とリンチ症候群です。
HBOCは、BRCA1またはBRCA2という遺伝子の病的バリアントによって起こります。これらの遺伝子は、傷ついたDNAを正確に修復する仕組み(相同組換え修復)に関わっており、働きが失われると遺伝子の傷が蓄積して、がんが起こりやすくなります。欧米の前向きコホート研究では、80歳までに卵巣がんを発症する累積リスクは、BRCA1の病的バリアントを持つ女性で44%、BRCA2では17%と推定されました[10]。
リンチ症候群は、DNAの複製時の読み間違いを直す仕組み(ミスマッチ修復)に関わる遺伝子の病的バリアントによって起こり、大腸がんや子宮体がんのほか、卵巣がんのリスクも高まります。リスクの大きさは原因となる遺伝子によって異なります。どちらの症候群も常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとり、親から子へ2分の1の確率で受け継がれます。
血縁者に卵巣がんの人がいる、若い年齢で乳がんになった人がいる、同じ人が乳がんと卵巣がんの両方になった、大腸がんや子宮体がんの人が複数いる、といった家族歴は、遺伝性腫瘍を考える手がかりになります。どのようながんが遺伝と関係するかは、遺伝しやすいがんの解説でまとめています。
エコー+CA125だけに頼れない理由とリスク低減手術
BRCA1/2の病的バリアントを持つ人に対しても、経腟エコーとCA125による定期的な検査は、早期の卵巣がんを見つける方法として有効性が示されていません[11]。卵巣がんの多く(特に高異型度漿液性がん)は卵管の先端から発生し、短い期間で腹膜に広がることがあるため、年に1〜2回の画像検査の間隔では早期に捉えにくいと考えられています。
米国の遺伝性腫瘍の総説(GeneReviews)では、35歳頃から年1回の経腟エコーとCA125測定を検討してもよいとしつつも、その有用性は根拠に乏しく、主な予防手段とはならないとしています[11]。そのうえで中心となるのが、出産の希望が終わったあとに卵巣と卵管を予防的に摘出するリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)です。病的バリアントを持つ女性を対象にした前向きコホート研究では、この手術によって卵巣がんによる死亡が約8割減ったと報告されています[11]。
一方で、閉経前に卵巣を取ると、早い時期に閉経した状態になり、更年期症状や骨・心血管への影響が生じます。手術を受ける時期は、どの遺伝子に病的バリアントがあるか、年齢、出産の希望、乳がんの治療歴などをふまえて個別に検討されます。卵管だけを先に取り、卵巣の摘出を閉経の頃まで遅らせる方法も研究されています[11]。
つまり、遺伝的に卵巣がんのリスクが高い人にとって、「エコーで異常なし」は判断の材料として十分ではありません。遺伝学的検査で病的バリアントの有無を確認し、その結果に応じた予防策を選ぶことが、エコーに頼るより確かな対策になります。遺伝学的検査や結果の解釈は、臨床遺伝専門医による遺伝診療の中で扱われます。
💡 用語解説:リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)
Risk-Reducing Salpingo-Oophorectomy の略で、がんを発症していない段階で、両側の卵管と卵巣を予防的に摘出する手術です。BRCA1/2などの病的バリアントを持つ人の卵巣がん・卵管がんのリスクを下げる目的で行われ、多くは腹腔鏡で行います。摘出した組織は詳しく病理検査され、ごく早期のがんが見つかることもあります。
🩺 院長コラム【エコーの「異常なし」と、遺伝のリスクは別の話】
エコーは卵巣の「今の形」を映す検査で、生まれつき持っているがんのなりやすさまでは映しません。遺伝医学では、家族に卵巣がんや若年の乳がんが多い場合、エコーの結果とは別に遺伝性腫瘍の可能性を評価することが重要です。
BRCA1やBRCA2の病的バリアントがあるかどうかは、画像では決してわかりません。遺伝学的検査で原因がはっきりすれば、手術の時期や乳がんの検診方法など、具体的な選択肢を検討できるようになります。家族歴は、エコーとは別の角度から遺伝性腫瘍の可能性を評価する手がかりになります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 卵巣エコーは生理中でも受けられますか?
受けられます。経腟エコーは月経中でも検査が可能で、出血が画像の妨げになることはほとんどありません。ただし、出血が気になる場合や、卵巣の嚢胞の経過を見る目的の場合は、月経が終わってから受けることが多く、目的に応じて時期を相談するとよいでしょう。
Q2. 性交経験がなくても卵巣の検査は受けられますか?
受けられます。性交の経験がない場合は、腟にプローブを入れる経腟エコーではなく、お腹の上から当てる経腹エコーで調べるのが一般的です。経腹エコーでは膀胱に尿をためて見やすくします。十分に見えない場合は、経直腸エコーやMRIが選ばれることもあります。
Q3. 妊娠中に卵巣エコーを受けても大丈夫ですか?
超音波は放射線を使わないため被ばくの心配はなく、妊娠中でも受けられます。妊娠初期の経腟エコーでは、子宮の中の妊娠の確認とあわせて、卵巣の黄体や嚢胞の有無も観察されます。
Q4. 卵巣エコーの費用に保険は使えますか?
腹痛や不正出血などの症状があり、医師が診断のために必要と判断した検査であれば、健康保険が適用されるのが一般的です。症状のない人が検診や人間ドックの目的で受ける場合は自費になり、費用は施設によって異なります。
Q5. エコーで卵子は見えますか?
見えません。卵子は直径約0.1mmと非常に小さいため、エコーでは直接写りません。エコーで見ているのは、卵子を包んで液体で満たされた卵胞で、画面では黒い丸として写ります。
Q6. 人間ドックの腹部エコーで卵巣の病気はわかりますか?
腹部エコーは肝臓や胆のうなど上腹部の臓器を主な対象にしていることが多く、卵巣まで評価するかどうかは施設によって異なります。大きな腫瘍が偶然見つかることはありますが、卵巣を詳しく調べる場合は婦人科の経腟エコーが適しています。
Q7. 卵巣エコーで「異常なし」なら卵巣がんの心配はありませんか?
その時点で目立つ腫瘤がないことはわかりますが、卵巣がんが将来起こらないことを保証するものではありません。症状のない女性へのエコーや腫瘍マーカーの検診では、卵巣がんによる死亡が減らないことが大規模試験で示されています。お腹の張りや下腹部痛などの症状が続く場合は受診し、家族に卵巣がんや乳がんが多い場合は遺伝性腫瘍の可能性も含めて考えることが大切です。
まとめ
卵巣エコーは、超音波の反射を白黒の濃淡で映し出して、卵巣の大きさや形、内部の様子を調べる検査です。婦人科では主に経腟エコーで行い、経腟は排尿後、経腹は膀胱を満たして受けます[1]。正常な卵巣は子宮の左右に楕円形に写り、閉経前の平均体積は約4.9cm³、閉経後は約2.2cm³です[2]。
画像の黒い丸は液体の袋で、その多くは卵胞・黄体・機能性嚢胞です。白い影は脂肪や血液、充実した組織などを表し、形や血流によって意味が変わります。O-RADS USなどの分類を使うと、悪性の可能性の高さを段階で見積もることができますが[3]、良性か悪性かを最終的に確定するのは病理検査です。
そして、症状のない女性に定期的にエコーや腫瘍マーカーの検診を行っても、卵巣がんによる死亡は減らないことが示されています[6]。家族に卵巣がんや乳がんが多い場合は、エコーの結果とは別に、HBOCなどの遺伝性腫瘍の視点からリスクを考えることが大切です。
📘 この記事について
この記事は、卵巣エコー(経腟超音波検査)でわかることと限界を解説するものです。個別の画像や検査結果の判断を行うものではありません。結果の意味については、検査を受けた医療機関で説明を受けて確認してください。なお、血縁者に卵巣がんや乳がんが多いなど、遺伝性腫瘍との関係を専門医と整理する場として、遺伝カウンセリングがあります。
参考文献
- [1] AIUM Practice Parameter for the Performance of an Ultrasound Examination of the Female Pelvis. J Ultrasound Med. 2020. [PubMed 32150295]
- [2] Ovarian volume related to age. Gynecol Oncol. 2000;77(3):410-412. [PubMed 10831351]
- [3] Andreotti RF, Timmerman D, Strachowski LM, et al. O-RADS US Risk Stratification and Management System: A Consensus Guideline from the ACR Ovarian-Adnexal Reporting and Data System Committee. Radiology. 2020;294(1):168-185. [PubMed 31687921 / doi:10.1148/radiol.2019191150]
- [4] Recommendations From the 2023 International Evidence-based Guideline for the Assessment and Management of Polycystic Ovary Syndrome. J Clin Endocrinol Metab. 2023;108(10):2447-2469. [PubMed 37580314]
- [5] Timmerman D, Testa AC, Bourne T, et al. Simple ultrasound-based rules for the diagnosis of ovarian cancer. Ultrasound Obstet Gynecol. 2008;31(6):681-690. [PubMed 18504770 / doi:10.1002/uog.5365]
- [6] Ovarian cancer population screening and mortality after long-term follow-up in the UK Collaborative Trial of Ovarian Cancer Screening (UKCTOCS): a randomised controlled trial. Lancet. 2021;397(10290):2182-2193. [doi:10.1016/S0140-6736(21)00731-5]
- [7] Buys SS, Partridge E, Black A, et al. Effect of screening on ovarian cancer mortality: the Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian (PLCO) Cancer Screening Randomized Controlled Trial. JAMA. 2011;305(22):2295-2303. [PubMed 21642681 / doi:10.1001/jama.2011.766]
- [8] Screening for Ovarian Cancer: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. JAMA. 2018;319:588-594. [PubMed 29450531]
- [9] 厚生労働省. HPV検査単独法による子宮頸がん検診の導入. [厚生労働省]
- [10] Kuchenbaecker KB, Hopper JL, Barnes DR, et al. Risks of Breast, Ovarian, and Contralateral Breast Cancer for BRCA1 and BRCA2 Mutation Carriers. JAMA. 2017;317(23):2402-2416. [PubMed 28632866 / doi:10.1001/jama.2017.7112]
- [11] BRCA1- and BRCA2-Associated Hereditary Breast and Ovarian Cancer. GeneReviews. National Center for Biotechnology Information. [NCBI Bookshelf NBK1247]





