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卵巣がその役目をじっくりと時間をかけて終わらせていき、完全に月経を停止した状態のことを「閉経」といいます。
月経が来なくなって12ヶ月以上続くと、その1年前に遡った時点を閉経としますが、その平均年齢は個人差があり、40歳前半~50歳代後半辺りといわれています。
しかし、この閉経とは別に、卵巣の機能が知らないうちに年齢不相応に低下して閉経したり、不妊の原因になったりするケースがあることをご存じですか?
卵巣の機能低下について、原因や症状、診断方法や治療など、早期発見に繋げるための情報を紹介します。
そもそも卵巣の機能とは?
卵巣は、女性ホルモンを分泌し、女性らしい身体づくりや出産を担う生殖器官であり、繊細な働きで女性の体調を整える内分泌器官です。
女性ホルモンにはエストロゲンとプロゲステロンの2種類あり、妊娠・出産のためにそれを絶妙に調節しながら行われるのが「排卵」と「性ホルモンの分泌」です。
卵巣は子宮の両側にひとつずつある親指大の器官で、その細胞はさまざまな組織に分化する能力があり、細胞分裂も盛んなため、能力が高い半面、腫瘍ができやすい器官でもあります。
女性が初潮を迎える平均年齢は12~13歳で、脳がそろそろ妊娠の準備を始めてもいいと判断すると、卵巣ホルモンが分泌されて、月経が始まるという仕組みになっています。
対して閉経は、原卵細胞(卵子のもと)の数が1000個以下になることですが、閉経しても卵巣は、その量を減らしながらも女性ホルモンを分泌し、体調を整える働きを続けることになります。
卵巣の機能低下とは?
卵巣の主要の仕事である排卵は、視床下部(脳)から脳下垂体、そして卵巣へと、女性ホルモンの分泌を連携して繋げていくことで成り立っています。
その中のどこかの機能が低下することで引き起こされる卵巣の機能低下は「卵巣機能低下症」または「卵巣機能不全」、「卵巣機能障害」とも呼ばれています。
自覚症状
卵巣が機能低下すると、さまざまな更年期症状が現われてきます。
- 月経不順・無月経
- 骨粗しょう症・高脂血症
- ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり・発汗)
- うつ病・イライラなどの精神不安
- 冷え・頭痛・めまい
月経不順などの場合は、それに伴って経血の量の増減が見られます。
また、発症した年齢が初潮を迎えるような思春期の場合、月経が始まらない原発性無月経や、乳房や陰毛などの第二次性徴が見られないなどの、実際には発症に気付きにくい症状になります。
そして、妊娠を考えているような年齢の人は、一年以上性交渉をしているにも関わらず妊娠が認められない不妊症や、妊娠しても流産や死産を繰り返してしまう不育症の原因に繋がる場合があります。
月経が不順でもある程度定期的に月経がある場合は問題ありませんが、徐々に月経周期が伸びていくような場合は、早めに治療を始める為にも、早期発見が必要です。
原因と予防
エストロゲンの量が減り、ホルモンバランスが崩れることが卵巣の機能低下の原因ですが、他に関連が考えられているのは以下です。
- 加齢
- 無理なダイエット
- 過食・拒食、偏った食生活
- アスリートや学生の部活動などの、激しい運動
- 痩せすぎ・太り過ぎ
- 過剰なストレスや、疲労・睡眠不足
- 過度な飲酒・喫煙
- 病気(卵巣がんなど)やがん治療(放射線治療や手術、抗がん剤など)
先天性の染色体異常がある人や、膠原病などの自己免疫疾患をもつ人が罹りやすいとも言われていますが、実は卵巣機能低下症を発症する明確な原因は未だ明らかになっていません。
気になってはいてもまだ卵巣機能低下症と診断されていない人で、上記のような心当たりがある場合は、生活習慣を見直すことで、予防できるかもしれません。
卵巣の機能低下で行われる検査
婦人科受診で一般的に行われる問診や内診、外診などの他に、卵巣の機能低下を判断するために行われる諸々の検査を紹介します。
月経が来ない、月経周期の異常などでの受診の場合、妊娠していないことを確認してから検査を行います。
ホルモン検査
血液検査で調べることができるホルモンは以下の通りです。
- 脳下垂体から分泌されるゴナドトロピン類(性腺刺激ホルモン)
- 卵胞刺激ホルモン(FSH)
- 黄体形成ホルモン(LH)
- 卵巣から分泌される女性ホルモン
- 卵胞ホルモン(エストロゲン)
- 黄体ホルモン(プロゲステロン)
- 卵子予備能を評価する抗ミューラー管ホルモン(AMH)
性腺刺激ホルモンである卵巣刺激ホルモン・黄体形成ホルモンの上昇と、エストロゲンの減少が見られる場合は、2つの性腺刺激ホルモンが、エストロゲンの分泌を命令しているにも関わらず、エストロゲンが思うように分泌されないという状態を意味しています。
逆に黄体形成ホルモンが低すぎる場合は、脳下垂体からのホルモン分泌に問題があることが分かりますが、この場合もエストロゲンが思うように分泌されません。
そして抗ミューラー管ホルモンの値からは、卵子予備能を推測することが可能です。
女性は生まれてくる時に、50~100万個の原卵卵胞(卵子のもと)を持っていて、日々を追うごとに減っていきますが、その原卵卵胞が卵巣に残っている数のことを卵子予備能といいます。
しかしこちらはあくまで推測であり、今の時点では確実に原卵卵胞の数を確実に判断できる検査はありません。
抗ミューラー管ホルモンの値も、卵子予備能をある程度推測することはできますが、卵子の質(=妊娠率)の高さまでは判断できません。
超音波検査
超音波検査では、卵巣や子宮の萎縮を調べたり、よく似た症状が現われる卵巣がんや子宮がん、子宮内膜症、子宮筋腫など、他の病気の可能性がないかを調べたりすることが重要です。
年齢による検査もある
閉経とは程遠いような、あまりに若年で卵巣の機能が低下している場合は、骨粗しょう症の検査や血中コレステロール値の測定を行う場合があります。
卵巣の機能低下の治療方法
卵巣機能低下症の治療は、症状や、患者がどのライフステージにいるか、妊娠の希望の有無などで治療の方針が変わってきます。
治療法も、ひとつだけではなく組み合わせて行うこともあります。
ホルモン補充方法
ホルモンの不足を認める症状の場合に、ピルなどを投薬してホルモンを補う治療法で、更年期障害に対する治療法と同じです。
月経の間隔が2~3ヶ月以上空いている場合に検討されます。
この方法は、骨粗しょう症にも効果を発揮する場合があり、また、かかる治療薬を併用する場合もあります。
排卵誘発剤
妊娠を希望する人は、強力な排卵誘発剤を使用して、卵巣を刺激する治療法もあります。
無月経だった期間が短い場合の治療開始であれば、比較的月経の再開も早めになりますが、あまり期間が空いてしまった場合は反応がよくないので、治療も時間がかかることが予想されるので、根気よく続ける必要があります。
排卵誘発剤は内服薬と注射があり、患者さんの状態に合わせて選択されます。
漢方薬
多くは排卵障害に効くといわれる漢方薬での治療は、それのみで行われるよりも、ほとんどはホルモン治療と平行して行われます。
患者さんの体質に応じて処方され、月経不順や月経時のさまざまな不快症状に効果のある当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)や、心身の不調に効く加味逍遥散(かみしょうようさん)など、他にも更年期障害の症状を和らげる漢方薬なども使われます。
卵巣機能低下症の治療にかかる費用は?
症状や妊娠の希望の有無など、患者さんによって条件がいろいろ違えば費用は変わってきますが、一般的な費用を紹介します。
卵巣機能低下症にかかるホルモン検査費用
検査対象 | 検査できる時期 | 保険適用 | 費用 | 結果報告 |
卵胞刺激ホルモン | 月経が始まって3~5日頃 | 適用 | 1,000~5,000円 | 早くて当日一般的には1週間程度 |
黄体形成ホルモン | ||||
卵胞ホルモン | 排卵後から次の月経開始まで(高温期中期) | |||
黄体ホルモン | ||||
抗ミューラー管ホルモン | いつでも測定可能 | 自費 | 4,000~11,000円 | 1週間程度 |
他にも詳しく検査したい場合はこの限りではありません。
ホルモン補充療法の費用
一般的にはエストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤があり、単独で使用する場合もあれば組み合わせるなど、患者に合わせていろいろなペースでの投薬間隔を設定します。
健康保険が適用になり、費用は1,000〜2,000円程度、リスクを承知の上であれば、期限等は特にないことになっています。
また、他の種類のホルモン補充方法もあり、保険適用されなかったり、費用が高額になったりする場合もあります。
まとめ
「卵巣が機能低下する」とはどういうことなのか、放置できない理由や、検査でどこまで調べられるのか、年齢によって治療法が違うことなど、詳しく解説していましたが、いかがでしたか?
卵巣の病気はご存知の通り、早期発見が大切ですが、どんな検査をするのかを知らないと、少し怖いですよね。
しかしそれは裏を返せば、婦人科を一度受診してみて、それをきっかけに定期的に通えるようになることほど、心強いことはないということです。
なんとなく気になっている症状があるけど…と、ご自身の不調を遠巻きに見ている方がこの記事を読んで、勇気を出すきっかけにして頂ければ幸いです。