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胚盤胞の凍結融解胚移植とは|方法や他の移植治療との違いを詳細解説

近年、晩婚化がますます進行する中で「不妊症」に悩むカップルも増加傾向にあります。「不妊症」とは、健康な男女が妊娠することを望み、避妊をせずに性行為を行うものの1年以上に亘って妊娠に至らない症状を指します。時間の経過とともに不妊症に対する治療方法も進展を遂げてきており、現在ではタイミング法を治療の初期段階として、不妊症が重度である場合には体外受精や顕微授精などを利用して妊娠を図っていくということも可能となっています。

この記事では、重度の不妊症に対して行われる体外受精や顕微授精の中でも、胚盤胞の凍結融解移植に関してご紹介していきます。

紹介にあたっては、胚盤胞がどのようなものなのか、他にも選択可能な移植方法との効果の違いは何であるのか、実際の凍結・融解はどのように行われているのかに関して詳しくご説明していきます。ぜひ最後までご覧ください。

胚盤胞とは?

考え事をする女性
まず初めに「胚盤胞(はいばんほう)」についてご紹介します。胚盤胞とは、卵子と精子の受精によって作られた受精卵が細胞分裂を繰り返しながら成長を遂げていく中で、最終的に子宮内膜への着床の準備が整った状態の受精卵のことを指しています。

受精直後は丸々とした1つの受精卵ですが、受精後1日程経過すると1回目の細胞分裂が行われ、1つであった細胞は2つに分割されます。2回目の細胞分裂では4つに、3回目では8つにというように倍々で細胞の数を増加させた後、それぞれの細胞はお互いにくっつき合い、「外細胞塊(がいさいぼうかい)」と「内細胞塊(ないさいぼうかい)」という細胞群に群化していきます。

上記の成長過程の中で、分割された細胞数が8つ未満である受精卵を「初期胚(しょきはい)」、8~16のものを「桑実胚(そうじつはい)」、16以上となり細胞群の群化が見られるものを「胚盤胞」と区別しています。

初期胚移植と胚盤胞移植

比較
次に受精卵の移植方法、特に、子宮に移植する際の受精卵の成長に大きな違いのある2つの移植方法、初期胚移植と胚盤胞移植についてご説明していきます。

それぞれの移植方法は読んで字のごとくといったところではあるのですが、初期胚移植とは受精卵が初期胚であるときに子宮へと移植する方法であり、胚盤胞移植とは受精卵が胚盤胞へと成長した後に子宮へと移植する方法をさしています。

これまでの医療技術・受精卵の培養技術では受精卵を胚盤胞まで成長させることは難しかったのですが、培養液の改良など技術の発展によって、それが可能となりました。

それに伴い、これまでの体外受精において主流であった初期胚移植だけでなく、胚盤胞移植もメジャーなものへとなってきています。

それぞれの移植方法にはどのような違いがあるのか、詳しく見ていきましょう。

2つの移植の違い

初期胚移植と胚盤胞移植で違う点は,以下のものが挙げられます。

  • 自然妊娠と比較した際の受精卵の環境の違い
  • 受精卵の成長具合の違い
  • 培養期間の違い

それぞれに関して詳しく見ていきましょう。

自然妊娠と比較した際の受精卵の環境の違い

まず1つ目に、自然妊娠をした場合の受精卵の周囲の環境の違いが挙げられます。自然妊娠と比較すると、女性の子宮内であるのか、培養液の中であるのかということもあるのですが、ここでは移植のタイミングから見ていきたいと思います。

自然妊娠では受精が卵管内にて行われ、受精卵は細胞分裂を繰り返しながら徐々に子宮へと移動していきます。そして、子宮へとたどり着く頃には着床への準備が整った胚盤胞へと成長します。

それぞれの胚移植では、初期胚移植は本来あるべき子宮内の環境に早期に戻される一方で、胚盤胞へと成長する間は子宮内を漂い続けることとなるという特徴があり、胚盤胞移植は培養液の環境下で成長する期間が長いものの、着床の準備が整っている分、着床までが移植後約1日と、移植後の着床までの期間が短いという特徴があります。

受精卵の成長具合の違い

受精卵は初期胚、桑実胚、胚盤胞と成長していきますが、初期胚の時点では健康な成長を続けていたものの胚盤胞まで成長しなかった、胚盤胞まで成長したものの着床の準備が十分でないというケースが考えられ、初期胚移植の場合にはこれがリスクとなることがあります。

一方の胚盤胞移植であれば、着床の準備が十分にできている胚盤胞までしっかりと成長した受精卵を選択できるというメリットがある一方で、自然妊娠の場合も体外受精の場合も受精卵が胚盤胞へと成長する確率は約20~30%であり、移植に用いなかった受精卵の割合(キャンセル率)も高くなるという特徴があります。

培養期間の違い

初期胚移植と胚盤胞移植の違いとして培養期間も挙げられます。利用する患者さんにとっては、この期間の長さが費用に影響、直結することになるため上記の違いも鑑みたうえでの移植方法の選択が重要といえます。

新鮮胚移植と凍結融解胚移植

比較
次に,新鮮胚移植と凍結融解胚移植に関して確認していきます。

新鮮胚移植とは受精させた受精卵を子宮へと戻す際に、女性の排卵の周期に則ったタイミングで移植する方法であり、凍結融解胚移植とは受精卵を一時的に凍結させ、女性の子宮内の状態が良好である際に受精卵を融解させて移植する(排卵の周期とは異なるタイミングで移植する)方法を指しています。

これらの違いに関しても見ていきましょう。

2つの移植の違い

新鮮胚移植と凍結融解胚移植で見られる違いは以下のものが挙げられます。

  • 女性の排卵の周期に合わせているか否か
  • 良好な余剰胚の取扱い
  • 他の治療による副作用の重症化の防止

それぞれに関して見ていきましょう。

女性の排卵の周期に合わせているか否か

新鮮胚移植であれば、採卵した卵子と採精した精子の受精によって生まれた受精卵を、女性の排卵の周期に合わせて子宮へと戻すこととなるため、治療全体のスケジュールで見てみると、新鮮胚移植は女性の排卵1周期で治療が行われることになります。

しかしながら、受精卵が無事に着床するためには受精卵の質だけでなく、子宮の内膜の状態も非常に大切です(子宮内膜が厚くなりふかふかな状態にあるかどうか)。不妊症の方には子宮内膜の状態が良好である期間が短いために着床に至らないという方もおり、凍結融解胚移植であれば、子宮内膜の状態を鑑みつつ移植できるという特徴があります。

良好な余剰胚の取扱い

もし仮に採卵の際に複数の卵子がとれ、受精卵も複数用意することができたとなると、十分な成長をしている受精卵が余分に出てしまう可能性もあります。

そのような際には、凍結融解胚移植を利用することによって良好な余剰胚を凍結保存させることができます。良好な受精卵のうちのひとつを移植した(新鮮胚移植)後に、残りを凍結保存させるなど掛け合わせることが有効的かと思います。

他の治療による副作用の重症化の防止

体外受精のための治療では排卵を誘発する過程から治療が行われますが、排卵誘発が高刺激であった場合には卵巣過剰刺激症候群が生じる可能性があります。

このような状態のまま、子宮への移植、着床、妊娠と至ると症状が悪化する危険性が高まるため、中程度以上の卵巣過剰刺激症候群が発症している方には凍結融解胚移植を用いることが一般的になっています。

凍結・融解の方法

ステップアップのイメージ
最後に、凍結融解胚移植における実際の凍結と融解の方法に関してご紹介します。

現在の凍結方法には、「緩慢凍結法」と「超急速ガラス化法」があり、後者の方が主流となってきています。凍結時に細胞内に氷の結晶が発生してしまうと、細胞が破壊されてしまうため、細胞を凍結する際には凍結保護材を使用しています。

それでは、それぞれの方法に関して見ていきましょう。

緩慢凍結法

緩慢凍結法は字に表されているように、特定の器械を用いて温度を少しずつ下げていくことで受精卵を凍結させます。

手順としては、

  1. 胚を凍結保護剤に平衡化するまで浸ける
  2. 胚の温度を、特定の器械を用いて徐々に低下させ、-7℃付近で植氷(強制的に細胞の外側を覆うように氷晶形成させること)を行う
  3. 更に胚の温度を徐々に低下させていき、-30℃ほどまで低下させた後に、-196℃の液体窒素に浸けて凍結する

という方法が採られています。

このように凍結された胚を移植する(融解する)際には、30℃ほどのお湯で急速に融解し、平衡化させていた凍結保護材を薄める作業が行われます。

超急速ガラス化法

超急速ガラス化法は、受精卵をガラス化(液体のまま流動性を失った状態)させて急速に凍結させる方法です。

手順としては、

  1. 胚を凍結保護剤に浸透させて平衡化させる
  2. 凍結保護剤が浸透した後に、胚をガラス化液に入れて細胞内の水を抜く(このような状態となった胚は凍結したとしても細胞内に氷晶が形成されることはありません)
  3. 細胞内の水が抜かれた胚を-196℃の液体窒素に直接投入して胚を瞬時に凍結させる。

という流れになっています。

急速な凍結を実現することによって、胚に対するダメージを軽減することができます。融解の際には、胚を液体窒素から取り上げ、融解液に浸けるという作業を通じて融解します。

まとめ

幸せなカップルのイメージ
ここまで、胚盤胞の概要から始まり、体外受精の治療方法である初期胚移植、胚盤胞移植、新鮮胚移植、凍結融解胚移植のご紹介とそれぞれの違い、凍結融解胚移植をする際の実際の凍結と融解方法に関してご説明してきましたがご理解いただけたでしょうか?

さまざまな治療方法が確立される一方で、患者さん自身の各治療方法に対する理解や、理解を通じたどの方法を選択したいのかが、妊娠に向けた治療を行う上では重要となってきます。それぞれのメリットや利用するうえで考えるべきリスクを知ることは、理解のための第一歩となるかと思います。

この記事が実際に体外受精を行う際の一助となってくれれば幸いです。

東京の「ミネルバクリニック」は臨床遺伝専門医が在籍するNIPT実施施設であり、たくさんの妊婦さんの悩みや不安と真摯に向き合い、笑顔になれる出産に導いてきました。ミネルバクリニックでは、妊娠9週から受けられる赤ちゃんの健康診断である「NIPT」を業界最新の技術と業界随一の対象疾患の広さで行っております。遺伝のエキスパートである臨床遺伝専門医が出生前診断を提供しておりますので、是非、お気軽にご相談ください。妊娠初期からの出生前診断を受ける医療機関にお悩みの方は、知識・経験・実績とも「第三者から認証されている」臨床遺伝専門医が診療している「ミネルバクリニック」まで是非、ご相談ください。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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