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卵子凍結を検討するとき、いちばん知りたいのは「それで本当に妊娠できるのか」という一点だと思います。結論から申し上げると、妊娠率を決めるのは「凍結したときの年齢」と「使える卵子の個数」のほぼ2つだけです。この記事では、実際に凍結卵子を使った方の成績を年齢別に示し、必要な個数の目安、年齢の上限、そして費用と助成制度までを、すべて学会や自治体の一次資料に基づいて整理します。
Q. 卵子凍結をすれば、どのくらいの確率で赤ちゃんを授かれますか
A. 実際に凍結卵子を使った方の成績では、38歳未満で凍結した場合51%、38〜40歳で34%、41歳以上で23%です。これは「凍結した卵子を使い切るまでに、少なくとも1人が生まれた方の割合」です。さらに35歳以下で15個の卵子を使えれば約70%という報告もあり、年齢と個数の組み合わせで大きく変わります。
- ➤年齢別の実データ → 38歳未満51%/38〜40歳34%/41歳以上23%
- ➤必要な個数 → 35歳以下で10個なら42.8%、15個で69.85%、24個で頭打ち
- ➤数字の読み方 → 「1個あたり」と「累積」で意味がまったく違います
- ➤年齢の上限 → 学会指針は採卵40歳未満・使用45歳未満
- ➤助成は2本立て → 凍らせるときだけでなく「使うとき」にも助成があります
1. 卵子凍結の妊娠率:年齢別の実際のデータ
まず、いちばん知りたい数字からお示しします。以下は、実際に凍結した卵子を融解して使った方々の成績です[8][9]。
凍結時の年齢別にみた累積生児獲得率[8]。凍結卵子を使った患者さん全体では43%と報告されています[9]。
💡 用語解説:「妊娠率」には3つの意味があります
卵子凍結の妊娠率を調べていると、数字がバラバラで混乱します。それは何を分母にしているかが違うからです。
①融解した卵子1個あたりの妊娠率=4.5〜12%と報告されています[1]。1個ずつで見ると、この程度の数字です。
②1回の胚移植あたりの妊娠率=移植までたどり着いた回数を分母にします。
③累積生児獲得率(CLBR)=凍結した卵子を使い切るまでに、少なくとも1人の赤ちゃんが生まれた方の割合です。
この記事で示すのは主に③です。「その方が最終的にどうなったか」を表す数字なので、意思決定にはこれがいちばん役に立ちます。逆に、①の数字だけを見て「低い」と落ち込む必要はありませんし、③の数字を「1個でこの確率」と誤解する必要もありません。
2. 何個凍らせれば足りるのか
🔍 関連記事:卵巣予備能/卵子の数が減るとどうなる/卵子凍結のやり方
年齢と並んで結果を左右するのが個数です。35歳以下の女性を対象にした研究では、使った卵子の数と累積生児獲得率のあいだに、次のような関係が示されています[7]。
図1:使用した卵子の数と累積生児獲得率(35歳以下)
Human Reproduction 2018 の報告による
10個
15個
24個
10個から15個への伸びが最も大きく、24個を超えると増やしても頭打ちになります。
この曲線から読み取れることは明確です。10個ではまだ半分に届かず、15個でようやく約7割。そして24個を超えたあたりからは、それ以上増やしても大きくは変わりません。つまり「とりあえず数個」では心もとなく、かといって際限なく採ればよいわけでもない、ということです。
📌 補足:ここでいう個数は成熟した卵子(MII卵子)の数です。採卵で得られた卵子がすべて凍結できるわけではなく、採卵数が10個でも凍結できるのは7〜8個ということは珍しくありません。「採卵数」と「凍結できた数」は別ものとして確認してください。
1周期でこの数に届かない場合は、複数回の採卵が検討されます。刺激をしても卵胞が育ちにくい状態は卵巣低反応(POR)と呼ばれ、POSEIDON基準による層別化を踏まえて方針が立てられます。1周期のうちに2回採卵するDuoStimという選択肢が検討されることもあります。実際の手順や通院期間については卵子凍結のやり方をご覧ください。
3. なぜ年齢でこれほど変わるのか
🔍 関連記事:卵子の老化メカニズム/染色体異数性/卵子形成と高齢出産
年齢による差は、凍結の技術が未熟だから生じるのではありません。凍らせる前の卵子の性質そのものが年齢で違うからです。理由は大きく2つあります。
理由①:数が減っていく
卵子のもとである原始卵胞は、胎児期につくられたあとは新しく増えません。生涯かけて減り続けます。残っている量を卵巣予備能と呼び、その目安としてAMHが使われます。数が減れば、1回の採卵で得られる卵子も減り、第2章の曲線の右側に届きにくくなります。詳しくは卵子の数の基礎知識をご覧ください。
理由②:染色体を分ける仕組みが綻びる
💡 用語解説:卵子は「途中で止まったまま」待機しています
卵子のもとになる細胞は、胎児のうちに減数分裂を開始しますが、途中で一時停止した状態で卵巣の中に留まります。この長期の待機をディクチオテン期停止といい、排卵の直前になってはじめて分裂が再開します。
つまり38歳で採卵する卵子は、38年間ずっと途中停止していた細胞です。待機が長引くほど染色体を正確に分ける装置が傷み、染色体の数の異常を持つ卵子の割合が増えます。卵子の質という言葉は、主にこのことを指しています。
ここで押さえていただきたいのは、この2つは凍らせた時点で固定されるということです。35歳で凍らせた卵子は、45歳で使っても35歳の卵子のままです。それが卵子凍結という技術の本質的な利点であり、同時に「凍らせるのが遅ければ、その時点の状態のまま保存される」という限界でもあります。
📌 補足:一方で、子宮や全身の状態は年齢とともに変化します。卵子の時間は止められても、ご自身の体の時間は止まりません。卵子凍結が「妊娠を保証するもの」ではないのは、このためです。35歳からの妊娠力と高齢出産は何歳からもあわせてご覧ください。
4. 年齢制限と保存期間はどうなっているのか
ここは「学会の指針」と「各施設の運用」を分けて理解するのがコツです。ネット上で数字が食い違って見えるのは、この2つが混ざっているからです。
注意していただきたいのは、保存期間は「何年間」ではなく「何歳まで」で決まるという点です。「50歳まで保管できる」といった案内を見かけることがありますが、これは施設ごとの運用にすぎず、学会の指針とは別のものです。加えて、保管には毎年の更新手続きと更新料が必要になるのが一般的です。更新の連絡が届かないまま期限が過ぎてしまうことのないよう、連絡先の変更は必ず施設にお伝えください。
5. 費用と助成制度:ここは制度が動いています
まず前提として、卵子凍結は健康保険の適用になりません[1]。全額が自費です。金額は施設によって大きく異なり、しかも「採卵まで」「凍結まで」「1年目の保管を含む」など、料金に含まれる範囲も施設ごとに違います。総額を比べるには、含まれる範囲をそろえて確認する必要があります。
図2:施設に確認しておきたい6項目
① 表示金額の範囲
診察・検査・薬剤・採卵・凍結のどこまでが含まれるか
② 個数による変動
凍結する個数で加算されるか、一律か
③ 2年目以降の保管料
年額はいくらか、更新手続きはどうするか
④ 使うときの費用
融解・体外受精・胚移植にいくらかかるか
⑤ 助成の登録医療機関か
登録がないと助成を受けられません
⑥ 中止した場合の扱い
卵子が採れなかったときの費用はどうなるか
とくに⑤は見落としやすく、あとから助成が受けられないと分かるケースがあります。
東京都の助成は「凍らせるとき」と「使うとき」の2本立てです
意外と知られていないのですが、東京都の制度は2つの事業に分かれています。凍結するときだけでなく、実際に使う段階にも助成があります。
東京都福祉局の案内による[3][4]。要件は年度ごとに変わりうるため、必ず最新の案内をご確認ください。
⚠️ よくある誤解:「不妊治療の助成が使える」というのは誤りです。むしろ逆で、東京都の案内には「不妊治療を目的とした採卵に由来する治療は、自費で行うものであっても対象外」「すでに不妊症の診断を受けており、不妊治療を目的とした採卵・卵子凍結を行う方は対象外」と明記されています[4]。不妊治療そのものは2022年4月から保険適用となり、卵子凍結の助成はそれとは別建ての事業として設けられています。
がん治療などの医学的適応の場合は、全国共通の枠組みがあります。未受精卵子凍結に上限20万円で、凍結保存時に43歳未満・通算2回までが対象です[5]。こちらは社会的適応の助成とは別の制度で、両方の対象になることはありません。
さらに国レベルでも動きがあります。こども家庭庁は、プレコンセプションケア推進の一環として「卵子凍結モデル事業による環境整備」を新規事業として位置づけていることを公表しています[6]。東京都だけの話ではなくなりつつある、という段階です。具体的な対象や金額は自治体ごとに定められますので、お住まいの自治体の案内をご確認ください。
6. 同じ年齢でも差がつく理由:遺伝的な背景
🔍 関連記事:早発卵巣不全(POI)/妊孕性とは/低AMHと遺伝子検査
ここが、遺伝診療を専門とする当院からお伝えしたい部分です。年齢別の表はあくまで平均であって、同じ32歳でも、採れる卵子の数には数倍の開きがあります。その差の一部は、遺伝的な背景で説明がつくことがあります。
40歳未満で卵巣の働きが止まる状態を早発卵巣不全(POI)といいます。その背景には、FMR1遺伝子のリピート伸長をはじめ、複数の遺伝子や染色体の要因が関わることが分かってきました。当院では女性不妊症NGS遺伝子パネル検査や不妊症遺伝子検査で、こうした背景を調べることができます。
原因が分かることの実際的な価値は、「何歳までに、何個を目標にするか」を逆算できるようになることです。卵巣予備能の低下が速いと予測されるなら、24個を目標に複数回に分けるという設計もありえます。逆に余裕があると分かれば、慌てて決める必要はありません。遺伝カウンセリングでは、検査を受けるかどうかの段階からご相談をお受けしています。詳しくは低AMHおよび早発性卵巣不全における遺伝子検査をご覧ください。
📌 補足:凍結卵子を使う段階では、融解した卵子を体外受精させ、育った胚を凍結胚移植で戻すのが一般的です。この段階の成績や注意点は体外受精の成功率、体外受精のリスク、体外受精のスケジュール、体外受精の適応と助成金で扱っています。
7. よくある誤解
誤解①「卵子凍結で妊娠率が上がる」
上がるのではなく、若い時点の卵子という選択肢を残せるのです。妊娠には子宮や全身の状態も関わるため、卵子凍結が妊娠を保証することはありません。
誤解②「不妊治療の助成が使える」
逆です。東京都の案内では不妊治療を目的とした採卵に由来する治療は対象外と明記されています[4]。卵子凍結の助成は別建ての事業です。
誤解③「質のよい卵子を選んで凍らせる」
選別できるのは成熟しているかどうか(MII卵子か)だけです。染色体の状態を見て選ぶことはできません。「質のよい卵子だけ保存」という説明は正確ではありません。
誤解④「凍結卵子の子は異常が多い」
そうした事実はありません。米国生殖医学会は染色体異常・先天異常・発育障害が増大しないことを根拠に、未受精卵子凍結を有効かつ安全な臨床技術と位置づけています[1]。
よくある質問(FAQ)
🏥 卵巣予備能と遺伝的背景のご相談
若くしてAMHが低いと言われた方や
妊孕性の低下に遺伝的な背景がないか調べたい方は
臨床遺伝専門医が運営するミネルバクリニックへご相談ください。
参考文献
- [1] 妊孕性温存 診療ガイドライン|がん診療ガイドライン. 日本癌治療学会. [日本癌治療学会]
- [2] 未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関する指針(倫理委員会報告). 一般社団法人日本生殖医学会. [日本生殖医学会]
- [3] 卵子凍結に係る費用の助成(事業の概要). 東京都福祉局. [東京都福祉局]
- [4] 凍結卵子を使用した生殖補助医療への助成(事業の概要). 東京都福祉局. [東京都福祉局]
- [5] 千葉県小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業. 千葉県. [千葉県]
- [6] 三原大臣記者会見(令和7年8月26日). こども家庭庁. [こども家庭庁]
- [7] Elective and Onco-fertility preservation: factors related to IVF outcomes. Human Reproduction. 2018;33:2222. [Hum Reprod]
- [8] Is planned oocyte cryopreservation delivering? Reproductive BioMedicine Online. [RBMO]
- [9] The effects of age, mature oocyte number, and cycle number on cumulative live birth rates after planned oocyte cryopreservation. [PMC11621243]





